とにかく、今回で最後です!!
「おいおい、ちっとは手加減してやれよ……いや、無理か…」
何やら剣呑な雰囲気を感じて横を向いてみれば、トイレから戻ってこようとしてた簪がどこぞのチャラ男共に絡まれてるところだった。しかも、どう見たって彼女は嫌がってるのに男共は無理やり話しかけていた風に感じられる。明らかに放置できないレベルだったので腰を上げ、早いとこ追い払ってやろうかと思ったのとほぼ同時だった…
---簪に触れてた男が、弾丸の如き速度で店の外へと吹っ飛んだのは…
それに少しビックリして視線を隣に移せば既に楯無の姿は無く、彼女は一人目の男を投げ飛ばした姿勢を保ちながら簪の目の前に立っていた。遠目で良くは見えないのだが、確実にその表情は恐ろしいものになっているだろう。しかも…
「いっぺん地獄を彷徨って来なさい…!!」
可愛い顔からはとても想像出来ないほど、ドスの効いた低い声が出てた。これは冗談抜きでマジギレしていらっしゃいますな……つーか怖ぇ…
プロの技術を全力でぶつけられた一人目は店のガラスを突き破り、そのまま大通りをゴロゴロ転がって反対側の店の壁に激突して漸く停止することが出来た。ボロ雑巾に成り下がったそいつは呻き声を上げながら身動ぎしていたが、すぐにピクリとも動かなくなった。死んでないだろうな…?
「うわあぁ佐々木さん!?」
「この女ぁ!!何しやがんだ!!」
「煩いわね…先に手を出したのは、そっちでしょう……?」
さっきの男のツレが喚き出すが、楯無は一切動じない。彼女の背後に居る簪も若干ビクついているものの、楯子(楯無)の登場によってさっきよりは落ち着いているようだ。
「お、俺たちはただ誘おうと…」
「黙りなさい。まさか、本気でそんな言い訳が通じると思ってるのかしら?だったら病院に行く事をお勧めするわよ…!!」
「こんの野郎、調子乗りやがって……おい、やっちまえ…!!」
「ん…?」
チャラ男3のその言葉と同時に、店の空気が変わった。そして少しだけ間を置いてから複数のテーブルから、人が立ち上がる気配を10人分ほど感じた。どうやらチャラ男…否、チンピラのツレはコイツらだけじゃ無かったらしい…
「ていうか、下手したら簪はコイツらと御一緒させられる羽目になってたかもしれないって事か…」
そう思うと少しばかり考えを改める。こんな集団に女の子一人放り込むとなると、簪でなくても色々と危ない。つーか絶対に碌なこと考えてなかったろ、テメェら…
「……少しだけ、痛い目に遭わすか…」
誰が何処で好き勝手やろうが知ったこっちゃ無い。代わりに俺も好き勝手やるだけだ。そんで今は、目の前のゲーム仲間と、腐れ縁の手助けでもさせて貰おうか!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「へへッ…どうだ、ビビッて声も出ねぇか?今なら泣いて謝りさえすれば許してやってもいいぜぇ!!」
「……。」
てっきり3人だけだと思っていた男達のグループは、実際12人居た。その殆どが簪の苦手とする風貌をしており、下手すれば自分はこの集団の中に入れられてた思うとゾッとする。
だが今は、さっき程怖い思いはしていない。何故なら…
「いや、良く見たらテメェも結構綺麗な顔してんじゃねぇか、いっそ俺たちとあそぐぼへッ!?」
「寝言は寝ながら言うものよ…?」
「山崎いいぃぃぃッ!?」
自分を助けてくれた黒髪の女性、楯子のハイキックが男の顔面にモロに入った。言葉を強制終了された挙句に衝撃で脳を揺らされたその男はそれ以上喋らずに崩れ落ち、そのまま沈黙してしまう…。
一応自分は日本の代表候補生であり、更識家の人間なのでそこそこ武術に精通している。故に今の一撃が如何に洗練されたものであり、どれ程強烈なのかが良く分かった。
---いや、そもそも今の動きはやっぱり…
「もう、まどろっこしいわね…うだうだ言ってないで全員掛かってきなさい!!」
「くそったれ、舐めやがって!!」
「やっちまえ!!」
きな臭い雰囲気を感じ取った他の客や店員はとっくに逃げ出しており、この状況を食い止める様な輩は一人も居なかった。故にその言葉と同時に大乱闘は滞りなく開始された。もっとも、随分と一方的な展開になったが…
「せい!!」
「ぎゃあああぁあぁぁぁぁ!?」
「次ぃ!!」
「おわあああああぁぁぁ!?」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!」
「ぐぼがばあばぼはぎょへあぎゃあああああああああ!?」
いくら腐ってようが、所詮は一般人のチンピラ共。それに対し、随分と見覚えのある動きで暴れまくる楯子の技はまさにプロのそれだった。向かってくる者達を文字通り片っ端から千切っては投げ、千切っては投げて次々とブチのめしていく。ときたま床に転がって伸びている奴に視線を移すと、腕や足が変な方向に曲がっている者もチラホラ居り、容赦の無さが窺い知れる…
「はいはい、ボーっとしない」
「ぐぼぁ!?」
「ッ!?」
後ろから語りかけるような声と、普通に呻き声を上げて何かが崩れ落ちる音が聴こえてきた。慌てて振り向くとそこには、頭に大きなタンコブを作って倒れているチンピラと何食わぬ顔で立ってるリボルが居た。どうやら、後ろから忍び寄ってきていたこのチンピラを撃退してくれたらしい…
「て、そうじゃなくて…!!」
「ん?」
「ここは危ないから、早く逃げて…!!」
楯子は見ての通り、無双状態なので大丈夫だろう。自分だってその気になれば、一般人の一人や二人はどうにかなると思う。だけど、ただの一般人である彼は駄目だ。折角仲良くなれた彼をこんな危ない目には遭わせられない…
リボルの…セイスの事を知らないが故に、簪はそう言った。その事にセイスは少しだけ驚いた様な表情を浮かべたが、少しだけ苦笑いを浮かべて口を開く。
「『逃げて』、か……気の弱いお前のことだから、てっきり『逃げよう』って言うのかと思ったよ…」
「え…?」
一瞬、言葉の意味を理解出来なくてボーっとしてしまう。だが、すぐに気づいた。基本的に弱虫を自負する自分が無意識に『“一緒に”逃げよう』では無く、『“あなたは”逃げて』と言っていた事に…
「え、あ……私は…」
「ま、そんな深く考えなさんな。それに俺って…」
―――ヒュゴアッ!!
「結構強いんだぜ…?」
振り向き様に放たれたセイスの裏拳は、これまたコッソリと彼の背後に忍び寄ってたチンピラをぶっ飛ばした。セイスを殴る為に店の椅子を振りかぶっていたそいつは、持ってた椅子ごと吹き飛ばされ壁に叩き付けられた。その勢いとスピードは楯子に投げ飛ばされた男の比では無く、その凄まじさに簪は言葉を失うしか無かった…
「うそ…」
「さてと、サツが来る前にさっさと終わらせなオワッ!?」
喋ってる最中に飛んできたチンピラに驚いて言葉を中断するも、しっかりと反応して叩き落した。ベシャリと嫌な音を立てた哀れな男は無視して視線を飛んできた方へと向けると、あちゃあ…と言った感じの表情を浮かべる楯子が居た。
「少しは周りを気にしろ、この馬鹿!!」
「ご、ごめん…!!」
「ったく、本当に今日はダメダメだな。お前なんか楯子じゃなくてダメ子だ!!」
「ひっど!?」
何て会話を続けている最中にもチンピラ共は懲りずに何度も向かって来たが、楯子はその全てを捌き続けた。そして今さっき注意したにも関わらず、その余波で何度も吹っ飛んで来る犠牲者をセイスは文句を言いながらも躊躇無く弾いていく。そんな彼の言葉を耳にし続け、楯子は段々と凹んできたみたいだが勢いは無くならない。むしろ、心なしか楽しそうだ…
「つーか、増えてないか?明らかに30人は居るだろコレ…」
「ねぇ…」
「ん?」
「二人は、知り合い…?」
---故に気になった。彼とあの人が知り合いなのか否かを…そして……
「え~っと……黙ってて悪かったけど、実はそうだ…」
「……そう…」
もの凄いバツが悪そうな表情を浮かべながら、彼はそう答えた。黙ってたことに対しては物申したいが、素直に答えてくれたことに免じて許そう。そもそも、彼なりに気を使ってくれたのかもしれないし…
「いや本当にスマン、まさかこんな形で乱入してくるとは思わず…」
「……それはもういい…」
「そ、そうか。そりゃ良かっ…」
「代わりに、どんな関係なのか教えて」
「え…?」
「…ううん、ちょっと訂正。普段はどんな人なのか教えて……」
「どんな奴…?」
自分のその疑問に対し、彼は考え込み始める。その間もチンピラが何人か突っ込んできたが、考える片手間に彼が撃退してくれた。暫くして、何やら納得のいく答えが思いついたのかポンッと手を打ちながらこっちに向き直る。そして、その口から出てきた言葉は…
「完璧で身を包んだ、ただのアホだ」
---随分と予想外なものだった…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「クソッ、クソッ!!こんなの聴いてないぞ!?」
一番最初に簪に声を掛け、楯無に容赦なく店の外へと投げ飛ばされたチャラ男の纏め役。仲間の一人に佐々木と呼ばれた男は、痛む体を引き摺りながら喧騒の場から遠くへと逃げていた。
「何があの気の弱そうな女を連れて来るだけの簡単な仕事だ!?とんでもねぇ化け物が居るじゃねぇか!!ふざけやがってッ!!」
何処からともなく自分の元へと現れた黒スーツにサングラスの…明らかに堅気では無い謎の男。そいつは自分達に、今日あの店へと現れるだろう水色の髪をした女の子を連れてくるように依頼してきた。ただのチンピラ集団に過ぎない自分たちにそいつらは、たかがそれだけの為にトランクケース一杯に入った札束を渡した。その異常さに身の危険を感じたのも確かだったが、金銭欲が勝ってしまい結局引き受けてしまったのである。結果は御覧の通りだが…
激痛に呻きながらも自分が吹っ飛ばされた店の方へと目を向けて飛び込んできたのは、自分の仲間と黒スーツの連れが黒髪の女と例のターゲットの連れにボコボコにされてるという何ともぶっ飛んだ光景だった。二人の動きは壮絶の一言に尽き、対して仲間の方は凄惨の一言に尽きており、回れ右するのに躊躇う理由なんて存在しなかった…
「もうやってられるか!!あの二人も、役立たずの馬鹿共も!!皆勝手にくたばっちまえ!!」
悪態を吐きつつフラフラしながらも、漸く自分の愛車を止めている場所へと辿り着いた。店から大分離れた場所に停めてあったそれは、簪への口説き文句に使った通りフランス車で彼の数少ない自慢である。
逆に言えば、唯一の自慢なだけあって癒しの効果は絶大だ。日本車とは微妙に違う独特のフォルムと輝きは、自身に眠る男の浪漫をほど良く擽ってくれる。こんな状態になった今でさえ、その愛車が目に入った瞬間に疲れが和らいだくらいだ。
故に、その大事な大事な愛車が自身の目の前で…
---グシャリッ!!
「……え…?」
---まるでプレス機に押し潰されたかのようにぺシャンコになった現実を、受け入れることが出来なかった…
「あ…え……俺の、車…?」
あまりの出来事に言語能力が低下しているが、そんな彼の様子にも容赦なく車のスクラップ作業は進んでいく。自分自身とその愛車以外何も無いその場所で、不可視の力によって大事な愛車がどんどん見るも無残な姿へと成り果てていく。屋根はとっくに車体と一体化してしまい、ボンネットとトラックは圧縮されてお腹と背中がくっ付いた状態に。タイヤなんてその余波で吹き飛んでしまい、その一つがギャグシーンの様に自分の足元へと転がってくる始末だ。
「わぁ、あすち~ったらすご~い!!外国の車がペッタンコ~!!あはははは~」
「俺の…俺の車が……」
そんな時だった…隣から、今日のターゲットと同年代くらいの少女の声が聴こえてきたのは。しかし、あまりにも場違いなのほほんとしたその口調でさえ、信じたくない現実の数々に直面したことにより思考が麻痺した彼の頭には届かない。
けれど、それにも構わず少女の声は続く…
「あははは~……ふぅ、少しだけスッキリしたかな…?」
「車…俺の、フランスの……」
「最近かんちゃんにちょっかい出す人が増えたのは確かだけど、君みたいな露骨な人は本当に久しぶりだったかもね…?」
記憶に新しい輩だと、例の組織の変態集団が挙げられる。もっとも、あちらは今のところ直接的な接触はしていないので限りなく黒に近いグレーと言ったところだ。今日の“あの人”みたいに、公私を立場も含めて分ける者も居るから本格的に潰すかどうか悩み所なのが本音である…
まぁどちらにせよ、隣で呆けているこの愚か者は完全に…
「黒なのでぇす!!というわけで、ヨロシクあすち~!!」
『はいよ~』
新たに周囲に響いた少年の声。それと同時に浮かび上がる、ただの鉄屑へと成り果てた自動車。それは段々と高度を上げながら移動していき、やがて未だに上の空のままなチャラ男の真上に留まった。
そして…
「俺の…車…俺の車……!!」
『改めて見ると、結構高そうな車だったね…』
「車、フランスの…車ッ!!」
『でも…ごめんね、躊躇する気にはならないや。僕はどちらかと言うと……』
---鉄オタなんだよ、この女の子の敵めッ!!
「俺の車…俺のフランス車…!!俺の…分割払い10年分がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
彼が意識を失う前に見たのは、マッハで自分を押し潰さんとばかりに飛んでくる、自分の愛車だった面影が微塵も残ってない鉄の塊であった…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……向こうが騒がしいな…」
「何かあったのかしらね…?」
店内で大立ち回りを演じた私たちは今、IS学園への帰路へと着いている。先程の乱闘の最中、漸く通報を受けた警察が来たのかサイレンの音が彼らの耳に届いた。状況的にありがたいと言えばありがたかったけどセイス君は犯罪組織に身を置く立場故に、私はこれ以上騒ぎが大きくなったら誰にどんなO☆HA☆NA☆SHIをされるか分かったもんじゃないから顔を青くし、コンマ2秒で逃げる決意を固めた。
そんな私たちにつられて簪ちゃんも一緒にあの場から逃げ出し、今は寄り道せず真っ直ぐに学園への道を歩いている。本当は私も(実はセイスもなのだが…)簪ちゃんと帰る場所は一緒なんだけど、変装している手前そうする訳にはいかない。だから先程の事もあるから、簪ちゃんを学園に送り届けるという名目で一緒に歩いている。学園に着いた後は適当に時間を潰して、少し間を空けてから帰ろうかな…
「何か、どっかの路地裏で無残な状態になった自動車と気絶した男がみつかったって…」
「マジか……って、何で知ってんだ…?」
「コレ」
「眼鏡…?」
「立体ホログラムは高いから…」
「え、つまりテレビやらネットやら見れるのかソレ…?」
「うん。本当は作業する時とかに使うんだけど…」
「いいなぁ……俺も欲しいよ、そういうの…」
「ふふ、今度同じの探しとく…」
何気なく会話に参加してきた簪ちゃん。どういうわけか先程の店での騒ぎが終わってからというもの、心なしか機嫌が良くなっていた。それに反し私は、簪ちゃんとセイス君が仲良さ気に会話しているところを目の前にして落ち着きを無くさざるを得なかった…。
自分が駄目駄目にした簪ちゃんの機嫌が良くなったのは喜ぶべきだ、讃えるべきだ。自分を援護しながら簪を守ってくれたセイス君にも心から感謝しよう……それでも、だ…
(落ち着けって言う方が無理でしょ、コレはッ!!)
大事な妹故に、簪ちゃんが喜ぶことであれば何だってするし叶えたい。大好きな男の子故に、セイス君が喜ぶことであれば何だってするし叶えたい。
だが、だがしかし!!その二人が私を無視して、互いに良い感じのムードを醸し出したこの状況は勘弁して欲しい!!
この場に居る男がセイス君で無ければ、その男を簪ちゃんから引き剥がせば良い。この場に居る女が簪ちゃんで無ければ、その女をセイス君から引き剥がせば良い。だけど自分の元に居て欲しい者同士が、私の目の前でイチャイチャし出したらどうすりゃ良いのよ!?どっちも大切なのよ!!譲りたくないのよ!!手放したくないのよ!!
「ほら見てみろあの顔、どこが完璧だ…?」
「うん、私が間違ってた」
--- イマ ナニカ キコエタ ワヨ ?
「いつも『私には死角なんて無い!!』みたいなフリしてるが…ゲームは下手糞だわ、初対面の相手には十中八九めんどくさい人間に認定されるわ、編み物は出来ないわ……欠点なんざ探せばどんどん見つかるぞ、コイツ…」
「後、家族とすぐに仲直りすることも出来ないんだっけ…?」
「そうそう」
「『そうそう』じゃ、無いわよ!!何の話してるのよ貴方達はッ!?」
何で本人の目の前で弱点リストを読み上げるような真似をしてるのよ、この二人は!?しかも凄く良い笑みを浮かべながら!!……くそぅ、悔しい筈なのに二人の笑みには癒ししか感じない…!!
「いや、何…カミカザリさんが自分の姉とお前がそっくりだって言うもんだから、ついでに色々と教えてあげたんだが?」
「色々って、まさかあの事…」
「あぁ、それは言ってない。寿司は食いに行きたいからな…」
一応『楯子=楯無』の事はバラして無いようだ。でも、それにしたって貴方は人の妹に何を教えているのかしら、セイス君!?
「何をって言われてもなぁ、とりあえず…」
「貴方の欠点は全部教えて貰った」
「……。」
---終わった…間違いなく終わった……。
この時ばかりは、まだ変装していることを忘れて本気で落ち込んだ。せめて簪ちゃんの前では完璧な姉を演じ続けようと努力してきたが、その今までの努力が全て吹き飛んだと感じて本気で凹みながら私はその場にへたり込んだ…。
そんな私の様子を見下ろすような状態で、簪ちゃんは口を開いた。彼女が紡ぐ言葉は無様な私に対する失望か、はたまた嘲笑か……私はただ、死刑宣告を待つ罪人の様な気分で言葉の続きを待った…
「だから少し、安心した…」
「……へ…?」
---だからその分、簪ちゃんが何を言ったのか理解するのに時間が掛かった…
「私には、貴方にそっくりな姉が居る……自由奔放で、完全無欠と思わざるを得ない姉が…」
「……。」
「何時の間にか私は、その人が随分と遠くの人に感じるようになった。私なんかじゃ手の届かない、とても高い場所に居るんだと……だから私は、自然とお姉ちゃんから距離を取るようになった…」
「ッ……」
自覚しているつもりはあった。自分が完璧を演じようとすればする程、自分と妹の距離がどんどん離れていくという事実には。しかし、改めて本人の口から聞かされるのとそれとでは、その重みが比べ物にならない…
「何時か、自分の存在を不要と言われる日が来るんじゃないかって思った時もあった。だから、自分なりに努力してお姉ちゃんの真似事をしたりもした…」
思い浮かべるのは学園の整備室に篭り、たった一人でISを開発しようとする彼女の姿。その姿を何度も見かけ、何度も声を掛けようと試み、何度も怖気づいて諦めた…
「でも今日、そんな人にだって自分と同じ様に短所や欠点が山ほどあるって事が…ずっと凄いと思ってたお姉ちゃんの事が、実はそうでも無いってことが分かった……」
「……。orz」
「だから、私は少し前に進める気がする。ずっと高いと思ってた壁の本当の高さを知ったから、自分が怖がってたモノが何なのか分かったから…」
「……怖がってたモノ…?」
「うん、リボル君が教えれてくれた…」
言葉と同時に簪ちゃんは意味有り気な視線を彼に向け、それにつられる様に私もそっちを向く。私たちの視線を受けたセイス君はバツが悪そうに頬をポリポリと掻きながら、彼女に返事をした…
「いや、あれは教えたの内に入るのか?人生の言い訳みたいなもんだぞ…?」
「私が思ってるから、良いの……あ、着いた…」
「え、もう学園の前…?」
言われて気付いたが、既に学園の孤島に繋がるモノレール駅の前だった。よく見れば、もう夕方の時間帯なので外出してた学園の生徒達で溢れていた…
「じゃあ、私は帰るね。今日はありがとう、ブレッドにもよろしく…」
「おう、またな」
戸惑う私を他所にサクサクと別れの挨拶を済ませる二人。そこでやっと我に返ることが出来た。このままでは肝心の部分が聞けず終いじゃない!!
「あ、ちょっと待って!!」
「やだ」
「んなッ!?」
―――まさかの即答…
私は本日何度目になるか分からない落胆モードになった。そんな折、改札を通った簪ちゃんは振り向き、また我が妹ながら愛くるしい笑みを浮かべながら…
「今度一緒に遊ぶ時は、髪染めたりなんかしなくて良いからね…!!」
――― イマ ナンテ イッタ ?
その時の簪ちゃんの表情は、悪戯が成功した時の私の表情にそっくりだった…
◇◆◇◆◇◆◇◆
―――随分と納得いかない顔してんな。でも、あいつの正体なんて実際そんなもんだ…
―――確かにアイツは見ての通り実技、勉学、料理、一部を除いた女の嗜みは一通りこなす…
―――けどよ、完璧には程遠い。完璧って言うのなら、最初のへタレっぷりは何なんだ?
―――誰かに不満や不快感を抱かせたその時点で、それは欠点と呼べると思わないか?
―――人によっては本当にしょうもない事かもしれないが、結局誰にだってそういう面はあるんだよ…
―――そもそもカミカザリさんは、本当にそんな完璧超人を肯定したいのか…?
―――さっきも言ったけどよ、誰にだって欠点はある。その誰にでもあるモノが無い人間ってのは、逆に不気味に感じるもんさ…
―――それにアイツが完璧な部分って、技術面とかそっち方面だけだから。人間性は御覧の通り残念過ぎるだろ…?
―――ま、それがアイツの可愛い部分でもあるんだけどな…
―――さて、ここで質問だカミカザリさん…
―――カミカザリさんは、アイツが“身に纏ったモノ”と“覆い隠したモノ”、どっちがアイツの本質だと思う…?
「…て、感じの事を言いました、サー!!」
「マムよ…ていうか、やっぱり私の正体教えてるじゃない!!」
「いやちゃんと濁して言ったし直接的な表現は…」
「どこが!?あんなの半分教えちゃってるようなものじゃないッ!!」
只今モノレール駅前にて、黒髪美少女によって絶賛締め上げられ中である。結局あの後、簪に正体がバレてた楯無は我に返った瞬間にこっそり逃げようとした俺を捕らえ、先程の簪の言葉の真意を問い詰めてきたのである。おもっくそ周りの注目を浴びているのだが、彼女は一切気にした様子が無い…
「と、とにかく落ち着け!!どっちみち最初から怪しまれてたんだ、バレるのも時間の問題だった…」
「確定させたのはセイス君でしょ!?あぁ、もう!!私はどうすれば…!?」
どうすればって、お前。この期に及んで何を言ってるんだ……いや、敢えて何も言うまい。このまま口を滑らしたら火に油を注ぐ結果になりかねない…
「とりあえず、そろそろ手を首から放してくれないか?何か、どんどん絞まってるんだが…」
「絞めてるのよ……ところで、その…」
「あん…?」
「………私の、そういう面っていうのが可愛くもあるって、本当……?」
若干顔を俯かせ、ボソッと呟かれたその言葉。黒いオーラを纏いながら『口を割らないと、物理的に口を割る』と言われた手前、あの時に簪に言った言葉を殆ど白状してしまった。何かさっき一瞬だけ顔が赤くなった時があったが、もしやソレか?……まぁ、実の所…
「あぁ~えっと、その……………本心です…」
「ッ!!」
―――本音だったりするんだけどね…
「本当に!?」
「お、おう。ていうか落ち着け…」
「やったぁ!!脈アリだったぁ!!」
「……脈アリって、お前なぁ…」
さっきも言ったが、ここはモノレール駅で人が溢れ返っている。そんな場所で、本当に俺より年上なのか疑いたくなるようなハシャギっぷりを見せる楯無は、完全に周囲の注目を浴びていた。本人は全く気にしてないようだが……何だろね、自分で口にしといてあれだけど、楯無に面と向かって可愛いって言うと気恥ずかしい。本音とは云え、やっぱり意識してしまう…
―――やっぱ俺も少なからず、こいつの事が好きなのかなぁ…?
「……て、うわッヤバい…!?」
「よっし、セイス君!!この素晴らしい気分に免じて、回らない寿司屋に連れて行ってあげるわ!!勿論、お代は私持ちよ!!」
「あぁ…それは大変、嬉しいんだが……今日はやめとく…」
「あら、どうしたのかしら?お姉さん、こう見えてお金持ちだから幾らでも…」
「いや、ね…テンションMAXなとこに水を差すようで悪いんだが………後ろ…」
「後ろ…?」
―――後ろを振り向けば…
「御嬢様…」
「ッ!?」
「やっと…やっと見つけました、よ……?」
「う、虚ちゃん…?」
―――何時の間にか、眼鏡を掛けた修羅が居た…
「本当に、大変でしたよ?意識を取り戻し、ゲーム機の為に犠牲になった方に謝罪とお詫びを繰り返し、あなた方が暴れまくった店の賠償、簪様を狙った犯罪者の後始末と事後処理は…」
「た、大変だったわね…ご、ごご、ご苦労様……?」
「いえいえ、その様なこと、大したことじゃありません…」
「そ、それは良かっ…」
「今日の全ての元凶が、意気揚々と、男を誘ってる場面を目撃したのと比べたら、全く、全然、微塵も大したことじゃありません!!えぇ、全くもって大した事じゃありません!!」
「ひぃ!?」
「多くの人に散々迷惑掛けといて、随分と良い御身分ですね!?今日という今日は絶対に許しません!!本家の方々は当然のこと、今回の御説教は織斑先生にも参加して頂きますッ!!」
「ちょ、それはマジで死んじゃう!?」
「どうせ殺しても死なないでしょう?ほら、さっさと行きますよ!!」
「イヤッ!!まだ死にたくない!!助けてセイス君…って、何時の間にか居ない!?」
「さぁ、諦めて下さい。既に皆様には連絡を入れておきました、既に処刑場…もとい、御説教部屋の準備は出来てます。覚悟して下さい…」
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
―――楯無の悲痛な叫びが夕方のホームに響いたが、彼女を助けようとしてくれる者は誰一人居なかった…
翌日、お偉いさんオールスターズの説教により、真っ白に燃え尽きた状態で職員室から出てきた楯無が目撃された。その後、覚束無い足でフラフラと歩きながら生徒会室に向かい、そのまま引き籠ってしまい出て来なくなったとの事である…
しかし、昼過ぎには復活した模様。それどころか、以前よりも随分元気になっていたと見た者は語る。楯無が回復する直前、彼女と同じ髪の色をした少女が生徒会室に訪れていたという目撃証言があったが、真実の程は定かではない…
因みにその翌日から、とあるネットゲームに『タテコ』というプレイヤーが現れ、最近はもっぱら『ブレッド』、『リボル・ヴァーガン』、『カミカザリ』の3人とパーティをよく組んでいるそうだが……
―――4人の仲は概ね良好のようだ…
改めて読み返してみると、今回三角関係要素が無かった!!
てなわけで、次回は有耶無耶になった寿司屋デートにマドカを乱入させて混沌を…