あと、人気投票まだ受け付けておりま~す。現在、作者の予想を裏切って奴が独走中です(汗)
詳しくは活動報告で!!
―――臨海実習当日・早朝
「な~つがき~た~な~つがき~た~ど~こ~に~きた~♪」
どこか微妙にズレた音程を口ずさみ、一定のリズムで竹箒を鳴らしながらセヴァスはいつもの様に仕事をこなしていた。今日も今日とて事務員の制服に身を包みながら、竹箒を手に学園を掃除中だ。
「こ~こにき~た高校にき~た~こ~んちくしょ~♪……ハァ…」
徐に動かしていた手が止まり、溜息が零れる。ぶっちゃけ無理も無い…今日は臨海実習の初日であり、今日を境にマドカ達とは暫く会えないのだ。寂しいったらありゃしない。
「そりゃさぁ…俺は生徒ってわけじゃないから、無理なのは分かってるけどさ……やっぱ、ねぇ…」
学年問わず学園中の生徒達にはそれなりに人気があり、結構親しくさせて貰っている。だけどやっぱり最も仲が良い三学年の皆が居ないというのはとてつもなく退屈で、限りなくつまらない……それに…
「三日以内にマドカ分が必ず枯渇するッ!!そうは思わないか、ランニング中のワンサマラヴァーズで唯一置いてきぼりな五反田蘭さん!!」
「突然に話を振らないでくれませんか!?そして改めて言わないで下さいよッ!!」
惚れた一夏を追い掛けるため…という理由でこのIS学園に来た、現在2年生の『五反田蘭』。彼女はトレーニングも兼ねた日課である朝のランニングの最中だったみたいだ。学年という鈴と簪以上のハンデを持たされている彼女は、当然ながら今回の臨界実習では悔し涙を流した…
「つーか良く考えると、五反田さんって俺よりキツイのか…」
「そうですよ!!私の場合、一夏さんが私の居ない場所でいつ何がどんな風に進展するか分かったもんじゃ無いから凄い不安ですよ!!御蔭でここ最近は碌に眠れませんッ!!」
「そりゃまた気の毒に……でも、一夏だぞ…?」
「……それもそうですけど…」
蘭が心配する理由は良く分かるが、一夏の鈍感さは呆れを通り越して安心できる領域にまで突入している。最近は、最早あいつが皆の恋心に気付く状況を想像できない…
「でも、やっぱり不安ですよ!!六道さんは良いですよね、一夏さん以外は男が居ないからマドカさんが誰かに盗られる心配も無いですし……マドカさんの場合、例え男子校に行っても平気そうですが…」
「そりゃどうも」
この前の恋人宣言以来、二人の関係は学園中の人間の知るところとなった。あるものはその話題に激しく食いつき、ある者は涙で枕を濡らし、ある者は二人のバカップルっぷりに溜息を吐いた。余談だが独身女性が殆どの教師勢は、これを機に自分達の行き遅れ具合に本気で危機を感じたとかないとか…
「どっちにせよ、会えない事に変わりは無いんだよな…」
「それは我慢しましょうよ、行く理由が…」
「無い事も無いんだな、これが…!!」
「「え…?」」
3番目の言葉はセヴァスのでも蘭の声でも無く、ましてや女子の声でも無かった。セヴァスとはまた違った若い男の声…蘭にとっては数回しか聴いた記憶が無いが、セヴァスにとっては最も聴いた回数が多い声の一つだ。
「あ、オランジュさん…!!」
「何しに来た…」
「御機嫌麗しゅう、五反田嬢!!そんで案の定不貞腐れたツラしてんな、相棒…」
かつての相棒、今は布仏家に引き取られて色々と仕事を手伝わされている筈の『オランジュ』が居た。何故か麦わら帽子を被り、アロハシャツに短パン、更にはサングラスまで装着しているという、露骨に夏真っ盛りな格好に逆にイラッとする。こっちはマドカ達の居る海に行けなくて落ち込んでるというのに…
「……ちょっと待て、今『海行く理由が無い事も無い』って言ったか…?」
「おうよ!!愛しのマドカちゃんと離れ離れになってブルーなお前を青い海原に連れて行ってやるぜ!!因みに、轡木さんの許可はとってあるぜ。」
「マジで…!?」
実質この学園のトップであり、自分の直接的な雇い主である轡木さん。こんな身分にも関わらず、この学園に籍を置かせてくれた人である。だからこっそり抜け出してマドカ達について行くって選択肢は諦めていたのだが、その心配は無いようだ…
「で、行くか…?」
「断る理由が無いッ!!」
「ようし来たぁ!!それでは先生!!」
「は~い♪」
オランジュへの返事は、何故か背後から聴こえてきた。しかも心なしか、背筋がゾッとするような殺気を一緒に感じさせながら…
「ちょっと失礼~」
「モガッ!?」
背後からの気配と声が楯無のものであると分かったのとほぼ同時に、いきなり頭に布袋が被せられて視界が真っ暗になる。しかもこの布袋、クロロホルムをたっぷり染み込ませているようで急激な眠気に襲われ始めた。更に後ろから羽交い絞めにされて身動きがとれなくなる…
「ちょ、更識先輩!?何してるんですか!?」
「大丈夫だ五反田嬢、こいつは冗談抜きで殺しても死なない」
「そうそう、だから気にしない気にしない♪……でもおかしいわね、一応普通の人なら即死する量を仕込んどいたんだけど…」
―――何か物騒な会話が聴こえてきた…
「た、てなし……てめ、なに…を……!?」
「仕方ないわね……最終手段よ…!!」
「ちょっと待て待て楯無!!流石にセヴァスでもそれはヤバい!!」
「先輩!!六道さんを殺す気ですか!?」
「大丈夫、元とは言え私は学園最強……彼を死なない程度に気絶させて殺るなんて朝飯前よ…!!」
「ニュアンス自重ッ!!」
何か楯無が自分に対して碌でも無いことをしようとしているみたいだが、生憎視界がゼロな上に意識が朦朧として来て何が何だか分からない。それでも、俺を羽交い絞めにしている楯無の声はしっかりと聴こえた……そして…
「それじゃ、いくわよ♪……積年の恨みいいいいぃぃいぃぃぃぃぃッ!!」
「ぼぐふぁ!?」
腹部に強烈な衝撃を感じた瞬間、視界だけでなく意識まで真っ黒になった…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そんで気付いたら車に乗せられてて、何時の間にかここに連れて来られたと…」
「よし、楯無は一回ブチ殺す…」
「待て待て落ち着け」
「止めなくて良いよ一夏、こういう時のお姉ちゃんは一度痛い目を見ないと止まれない…」
何故か居たセヴァスに驚いたマドカに一夏が気付き、そんな彼らに気付いたいつもの面々が二人の居た場所に集まっていた。当然ながらここに来れた理由を全員に訊ねられ、セヴァスはその経緯を話した。
そして事のあらましを聴いたマドカは取り敢えず、楯無に殺意が湧いた。潜入任務中、セヴァスは何度も楯無と遭遇しては激闘を繰り広げたと聴いたが、そんな形で恨みを晴らさなくて良いだろうに…
「よし、実の妹から許可は得た…というわけでセヴァス、奴は何処だ?」
「……あそこだ…」
「あそこって?……アレか…」
セヴァスがとある方向に指をさしたので、取り敢えず目でそれを追ったらソレはすぐに見つかった。ソレは砂浜…それも波打ち際ギリギリに生えており、興味を示したカモメやら海鳥に頭を突っつかれている……
「セヴァスく~ん、そろそろ許してええぇぇ……!!」
―――首から下を砂浜に埋められた、元学園最強が泣いていた…
「取り敢えず仕返しはしたし、何よりアイツらの御蔭で来る事が出来たから勘弁してやってくれ」
「……因みに、いつからあの状態に…?」
「二時間前から」
「もう許してやれよッ!!」
あの状態の相手にこれ以上追い討ちなんてやったら、本気で罪悪感に耐えられない。マドカはさっきのブチ殺し宣下は撤回し、いい加減に助けてやるべく皆と一緒に楯無の元へと歩き出す。
「で、何でお前はそんな恰好してるんだ?」
「皆が臨海実習の間、俺はアルバイトによる旅館の従業員って名目で居座らせてもらうことになってる。お前らが来るまで、ずっと仕事してたんだぜ?」
「ほぉ…?」
亡国機業時代、セヴァスはIS学園に潜入する前も色々な場所に潜伏した経験がある。とは言っても、年齢が若過ぎたので映画みたいに変装して潜入した事なんか一度も無い。一度だけフォレストとスコールの悪ふざけに付き合わされて執事服を着せられ、『セヴァスチャン』と呼ばれてからかわれた時があった。確か、その時から彼の事を『セヴァス』と呼び始めた気がする…
それはさておき、そういうこともあってかセヴァスが何かの制服やら正装をした姿を見た事は殆ど無い。別段特別でも無い事務員の制服であろうが、彼のその姿はマドカにとって結構新鮮なのだ。そして今回のセヴァスの姿もこれはこれで…
「アリだな」
「何が?……もしかして、この恰好が…?」
「うむ、似合ってる。何かこう…超庶民波的な雰囲気がお前にピッタリだ」
「それ褒めてんの…?」
苦笑混じりに答えるセヴァスと、微笑を浮かべるマドカ。言葉ではそう言うものの、何だかんだ言って楽しげに会話する二人である。そんなセヴァスとマドカの様子に、後ろの一夏達は何とも形容しがたい疎外感を感じてしまった…
「正直言うと、暫くあの二人のイチャつき見なくて済むと思ってたわ…」
「奇遇ですわね、私もですわ……あぁ、胸焼けが…」
「良いよなぁ、ああいうの……俺もいつかはあんな風に誰かと痛ってえええぇぇぇ!?何すんだ箒!?」
「黙れこの馬鹿!!どの口が抜かすんだ、どの口がッ!!」
いつもの如くワイワイと賑やかに振る舞う一行。IS学園の関係者達から、『渦中の7人』と陰で言われるようになったのを本人達は知っているのだろうか…?
「ちょっと二人とも…人の後頭部付近でイチャつかないでくれるかしら?」
「うっせぇ馬鹿野郎、別にISで殴ってまで気絶させる必要無かったろうが…」
セヴァスの足元から聴こえてくるのは、度の過ぎた愉快犯の不満。それを彼は一言で一蹴する…
「そ、それはアレよ!!えっと……その場の勢いと言うか、ノリ…?」
「お姉さんがあんなこと言ってますが、どう思いますか裁判長…?」
「有罪(ぎるてぃ)」
「ちょ、その声は簪ちゃん!?居るの!?後ろに居るの!?ていうかもしかして皆居るの!?」
「「「「「「お久しぶりです、楯無さん」」」」」」
「おぅふ…!?」
ある意味晒し首状態の楯無の顔は海側を向いており、反対側からやって来たセヴァス達を視界に捉える事が出来ないでいる。故に想像すら出来ていなかったようだが、今の自分の残念な状態はいつもの9人にバッチリ見られていた。それにやっと気付いた楯無は、露骨に凹んだ。そして、やけくそ気味に叫ぶ…
「終わった…何もかも……私の無様を笑いたくば笑え…!!」
「アハハ」
「ワハハ」
「オホホホ」
「キャハハ」
「フフフ」
「フハハ」
「ぷっ…」
「ヒャハハハハハハ!!」
「ザマァ(笑)」
「あなた達マジで覚えときなさいよ!?」
棒読みな笑い声7つ、ガチ嗤い2つ、悔し涙が1つ……夏の青空に轟いた…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―――青い海
―――白い砂浜
―――明るい太陽
―――そして…
「水着姿の美少女達!!これぞ南国バケーションの醍醐味!!これぞ男のパラダイス!!さぁ、共に行こうぜ桃源郷へ!!レッツ・ナンパ!!」
「マドカ待ってるから断る」
「おいオランジュ、準備運動はしっかりしとけよ?足攣ったら大変だぜ?」
「くっそ!!リア充とリア充しか居ねぇ!?メテオラーーーー!!ストーーーーン!!どこかに俺の同類は居ませんかーーーーーーーーー!?」
荷物も運び終わり、軽いミーティングも終了、待ちに待った自由時間がやって来た。この日の為に用意した水着やら遊び道具を手に、まだまだ遊び盛りなIS学園3年生の面々は持ち前の明るさと共に砂浜へと突撃した。それに混じって煩悩野郎(オランジュ)のテンションもまた、どんどん上がる…
「えぇい仕方ねぇ、こうなりゃ俺一人で行ってやるああああぁぁぁ!!」
「オランジュ、うるさい」
「あ、すんません…」
―――しかしそんな彼も、今の御主人様の手に掛かればこの通り…
「暇ならジュース買ってきて、適当に10人分くらい。お金はオランジュの財布からね?」
「はい、お嬢!!ついでに、水着似合ってますぜ!!」
「ありがと、早く行ってきて」
「承知!!」
旅館の方からトコトコとやって来た簪の一言で静まり、文句の一つも言わずにパシリの役目をこなすかつての相棒。布仏に引き取られる際、半分冗談で『徹底的に扱き使ってくれ』と言ったが……ここまでマジにやるとは思わんかった…
「彼を教育…もとい指導したのは本音と明日斗だけど……?」
「あ、そう…」
「ところで、旅館の方はいいの?」
「ん?あぁ、大丈夫。昼過ぎまでなら遊んでて平気って言われた」
有り難い事に、臨時雇いの身であるにも関わらず休憩時間はたっぷり貰えた。しかも、皆の自由時間と合わせたかのようなタイミングだ。従業員という肩書きが建前とは言われていたが、この辺は素直に楯無に感謝しよう…
「そういや、今日はその教育係と一緒じゃないんだな…?」
「うん、一夏と二人っきりになりやすくしてくれたみたい…」
「え、俺…?」
簪の発言に、隣に居た一夏が反応する。因みに今年も一昨年と同じ水着を着ており、自身も似た様なものを装着している。そんな地味な男子に対して簪は露出がやや控えめで、フリフリの飾りが着いた水着を着ていた。他のラヴァーズと比べると、やや控えめだが彼女らしいと言えば彼女らしい。
「つっても、皆と一緒の方が楽しいと思うぞ?」
「……。」
―――そして、この発言もまたコイツらしいと言えばコイツらしい…
「まぁ、良いじゃないか。皆が来るまで先に遊んで時間潰してりゃ…」
「う~ん…それもそうか。じゃ、そうしよう」
「!!……うん…」
助け舟を出したことにより、一時沈んでいた簪の表情が一転して明るいモノへと変わる。そしてチラリと此方に視線を向け、アイコンタクト…
(感謝感激)
(礼には及ばぬ)
そして簪は、相変わらず自然と躊躇う事無く女子の手を取る一夏にエスコートされ、若干顔を赤くしながら海へと向かっていった。しかし、彼女も随分と成長したもんだ……精神面限定だが…
昔は内気な性格が災いして、他のラヴァーズより積極性で負けていた。けれど去年の今頃ぐらいから、何かを切っ掛けにこんな感じに変わったらしい。怒ってもあんまり暴力で訴えない分、実質一番の有力候補と言えるのではなかろうか…?
「あいつらの事なんて、もう放っておけば良いのに…」
「ははは、そうは言ってもある意味腐れ縁だからなぁ…」
半ば呆れるような背後からの物言いに、思わず笑ってしまう。我ながら面倒くさい奴だと再認識してしまうが、今更この性格が変わるとも思えない。そう感じながら、ゆっくりと後ろを振り向いた…
「……あれ…?」
「どうした?」
「え、いや…」
セヴァスが後ろを振り向くと、予想通りマドカが立っていた。けれど、その姿は予想外だった…
「……何故に半袖半ズボン…?」
てっきり水着姿かと思っていたが、予想に反して彼女は部屋着姿であった。セヴァスの予想では、そこまで見た目にこだわらない彼女のことだから、スポーツタイプの競泳水着とかその辺を持ってくると思ってた。彼女は基本的にスタイルが良いので、それはそれで栄えると思うのだが…
「フ…聞きたいか?私がこの姿である理由を、どうしても聞きたいか?」
ニヤリと笑みを浮かべ、何やら意味深なセリフを言ってくる。そんな風に言われると、気になってしょうがないじゃないか。なので、無言で首を縦に振った…
「では教えてやろう、一度しか言わないから良く聞けぇ!!」
「……。」
その理由とやら聞くために、セヴァスは最初から最後までしっかり沈黙を保つ。その彼の様子を確認したマドカは大きく息を吸い、呼吸を整えてからゆっくりと口を開いた…
「………学園の寮に、置いてきたっぽい……グスッ…」
「……今度は気をつけような…?」
「…うん……」
海水とは違うしょっぱい雫が、彼女の目から零れ落ちた…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「皆して元気だねぇ…」
「そうっすねぇ…」
元気な若者たちで溢れる砂浜。そんな光景を、旅館のロビーから眺めている2人の人物が居た。一人は簪にパシられたオランジュであり、彼の両腕には複数の缶ジュースが抱えられている。もう一人は、こん旅館の従業員の制服を着た初老の男だった。
「ところで、セヴァスの奴には会いましたか?」
「いいや、まだだよ。そうだね……夕飯時にでも顔を見せてみるか…」
「そりゃ良い。楽しい事になりそうですねぇ…」
―――そう言って二人は笑う。この後に起こる、その楽しい事に期待して…
「おっと、そろそろ行かないと更識の嬢ちゃんに怒られるんじゃないか…?」
「む、そういやそうでした。そいじゃ、また後ほど…」
「うん、後でね」
その従業員と短いやり取りを終わらせたオランジュは、すぐさま皆が待つ砂浜へと駆け出した。そんな彼の背を見送りながら、男の従業員はもう暫く休むべく手近な椅子に腰かけた。しかし、それも長くは続かなかった…
「ちょっと森さん、いつまでサボってるんですか!?」
「あら、女将さん……」
「まったく…虎さんばかりに押し付けないで、ちゃんと任された自分の仕事をして下さい!!」
「はいはい、今から行きますよ~っと…」
男は渋々ながらも立ち上がり、これ以上怒られる前に仕事へと戻るべく足を動かす。けれど、その間際にもう一度だけチラリと砂浜に視線を向ける。その向けられた視線の先には、開き直って服が濡れるのを承知で遊ぶことに決めた一人の少女と、そんな少女と一緒に楽しそうに遊んでる一人の少年…
「……本当に、元気だねぇ…」
誰にも聴こえない程度の声量で呟かれた彼の声は、どこか嬉しげだった…
さぁて、暴風雨と秋はどうしようか…