―――12月25日深夜・IS学園にて…
年末…多くの生徒達が帰郷した夏休み以上に人の姿は減り、いまやIS学園には最低限の教員とごく僅かな生徒達しか残っていない。ましてや今日はクリスマスで深夜、あの織斑千冬でさえ仕事をほっぽり出してる位だ……いや彼女の場合、織斑千冬だからこそ仕事を放棄したのかもしれない…。
「なぁ、やめないか…?」
「おいおい、今更そりゃないぜ。折角来たんだから最後までやろうぜ?」
そんな中、今年一番の静けさを誇る学園寮を歩く二つの人影があった。一人は赤い衣装にツケ髭のサンタコスチューム、もう一人は赤鼻のトナカイの着ぐるみである。
「つーか、もっとマシなモノは無かったのかよ…?」
「アホか!!のほほんさんじゃあるまいし、他に着ぐるみなんざ持ってる訳ねぇだろ!!」
前言撤回…もう一人は、クマの着ぐるみを着ている。ただ少しでもトナカイに近づけようとしたのか、段ボールとガムテープで角を作り、ガチャポンのカプセルで赤鼻を作っていた。
「だいたい何でこんな事しなきゃなんねぇんだよ!?」
「落ち着け、今は我慢だ」
もうお分かりだと思うが、このエセサンタとトナカイ熊はオランジュとセイスである。欧米系の二人だが、クリスマスをただの祝日程度にしか思ってない冷めた奴らである。一夏達も在校組で催されたクリスマスパーティで疲れたようで、今はラヴァーズ共々各自の寮室でぐっすり眠っている。もう今夜は監視する必要も無くなり、買い出しに行った食料と酒で軽く宴会しながら過ごそうと思ったのだが…
『戻ったぞオランジュ……て、何じゃこりゃ…!?』
『おぉう…おかえり…丁度さっき着いたところだ……』
『いや、何だよこのクリスマスプレゼントの山は!?』
隠し部屋に戻って最初に目にしたのは、組織の連中…主に『IS少女ファンクラブ』が送って来たクリスマスプレゼントの山である。一緒に送られてきたメッセージ曰く…
『いつも任務御苦労様、そして日々の潤いを届けてくれる君達に心から礼を!!今日はそんな君達に感謝の意味を込めて、このクリスマスプレゼントを“ワンサマラヴァーズに届ける権利”をプレゼント致します!!その役目は是非とも我々に譲っていただきたいところですが、先程も言ったようにこれは貴方たちへの感謝の気持ちなのです!!というわけで、是非とも楽しんで下さいね!!メリークリスマス!!
追伸・プレゼントはちゃんと渡して下さいよ?
IS少女・ファンクラブ連合議長 メテオラ』
などと恩つけがましくも迷惑でウザったい事この上ない御礼を受け取り、何やら余計なお願いをされてしまったのである。正直言ってメッセージを半分読んだあたりで思わず壁を殴りつけてしまったが、仕方の無い事である。流石のオランジュもコレにはイラッと来たのか、無視を決め込むことにした。
『……あ、ちょっと待てよ。良い事思いついた…』
と、思ったのも束の間…オランジュは何やら思いついたかのような仕草を見せ、どっからともなくサンタ衣装を取り出して身に着けた。そしてセイスにトナカイの恰好をする様に強要し、仕方なしに例の熊の着ぐるみを魔改造してプレゼントの山を詰め込んだ袋を抱え、今に至るというわけだ。
「まぁまぁ聴け…彼女らの年代で、今時サンタさんを本気で信じてる奴なんざ居ないだろ?」
「ラウラはガチで信じてるぞ…?」
「……。」
この前、一夏達がクリスマスの事を話題にして談話している時、その話を聴いた彼女は特にサンタさんに対して興味津々だった。サンタを捕獲するとか意気込み、部屋中にトラップを仕掛けてシャルロットを困らせてたし…
その後『良い子にしてれば来てくれる』というシャルロットの一言で彼女は諦め、この一週間は一層に早寝早起きを心掛けている。しかも昨日、部屋を物色したらちゃんとサンタ宛の手紙が置いてあってビックリした。何だかちょっと微笑ましかったのは内緒だ…
「そういえばラウラに触発されたのか、他の奴らも面白半分でサンタ宛の手紙書いてたな……何を頼むつもりか知らないが、もうサンタでキャイキャイする年齢じゃ無いだろうに…」
「そういや、お前って俺と会った時には既にサンタの事信じてなかったな…」
「当たり前だ。俺は旦那たち以外からクリスマスプレゼント貰ったことんなんて、一度も無い」
「……何か、ゴメンな…」
生まれて初めてのクリスマスプレゼントは8歳の時、フォレストの旦那達に貰った童話集だった。因みに今も大切に保存してあり、俺にとっての宝物である。しかし後で気づいたのだが、旦那がくれた絵本の表紙…ていうか著者の名前が書いてある場所に、『アンデルセン』って書いてあったんだけど……まさか、ね…?
「っと、話の腰を折って悪かったけど、彼女達がサンタ信じてない事が何だ…?」
「精々願掛け程度のつもりだったプレゼントのお願いが、翌朝叶ってたらどうすると思う?」
「本気でサンタを信じてるラウラ以外は、不思議がる…ていうか、不審に思うな」
「そうとも…差出人不明のプレゼントなんざ、廃棄される可能性が大だろ?」
しかも彼女達は代表候補生、国の重要人物予備軍だ。こういう怪しい贈り物には一層の警戒心を抱く筈である。ましてや送り主は、ストーカーになる一歩手前のファンクラブの連中だ。碌なモノを送ってこないに決まってる…
「けど、しっかり渡した時点でファンクラブの連中への義理は果たした事になる。その後にプレゼントが捨てられようが、“誰かに拾われようが”俺達の知ったこっちゃ無い…」
「……成る程…」
互いに目を合わせ(サンタ&着ぐるみ)、同時にニヤリと笑う。彼女達が要らないものは、俺達にとっては嬉しいものかもしれない。それに使えないものだったとしても、自分達の欲望を満たすためには金を出し惜しみしないファンクラブの連中の事だ、売ればさぞかし良い値段が付くに違いない…
「よっしゃ行こうぜ、臨時収入の為に!!」
「おうよ!!目指せ麗しきIS少女達の部屋へ!!」
「お~♪」
---エセサンタ一人、着ぐるみトナカイ二匹は意気揚々と歩みを進めた…
「ん?」
「……二匹…?」
右隣を見ると、付け髭、安物コスプレセットで身を包んだオランジュが居る。左隣を見ると、自分の魔改造トナカイベアとは違い、ちゃんとした赤鼻のトナカイの着ぐるみを着た…
「ん~?どうしたの~?」
「「キェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」
---笑顔の布仏本音が居た…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さぁさぁサンタさん、早く早く~!!」
「ま、待ってくれぇ…熊トナカイさん、ソリで引っ張ってくんない?」
「良し分かった、乗れ」
「おぉうサンキュ…ってゴミ箱じゃねぇか!!」
あれから数分後…何故かのほほんさんもコレに同行することになった。潜入生活の割と序盤のうちに超危険人物へと認定された彼女と一緒に行動するというのは、何だか核ミサイルを抱えて歩いている気分で心臓に悪い。しかし…
『何を驚いてるの~?早くしないと朝になっちゃうよ~♪』
『『え…?』』
『ささ、早く早く!!プレゼント配りにいくんでしょ~?』
本気なのかふざけてるのか良く分からないが、どうやら本物サンタとトナカイとして認識されたらしい。こっちが唖然としているのにも関わらず、彼女はさっさと先に行こうとするので仕方なくついて行く事にした。本当は逃げたかったのだが、後が怖いので素直に従うしか無い。聖夜の夜に呪われるなんて笑えないにも程がある…
そんなわけで、この良く分からんサンタの真似事を、眠れるドラゴンと御一緒する羽目になった…
「と、着いたな…」
「本日一人目、篠ノ之箒の部屋か…」
目の前には世界的重要人物の妹、篠ノ之箒とそのルームメイトである鷹月静音の部屋。当然ながら、鍵はしっかりロックされている。しかしそんなもの、あって無い様なモノである。
「熊トナカイさん!!」
「あいよ!!」
シャキーン!!と針金状のピッキング用仕事道具を取り出し、鍵穴に差し込む。電子ロックといえど、リーダー部分さえ分かればこっちのもの。少しばかりイジくり回せば…
---ピッ!!……ガチャ…
「一丁あがり!!」
「おぉう、流石に手慣れてる~」
「熊トナカイさん凄~い」
ヤンヤヤンヤと拍手喝采を送られて満更でもなく、熊ヘッドの中でドヤ顔を浮かべる。しかし良く考えると、このピッキングする熊トナカイって凄いシュールな光景……また七不思議に追加されたらどうしようかな…?
「ま、良いや。とにかくお邪魔しま~す…」
「失礼しま~す」
「しののんヤッホ~」
物音を一切立てずに侵入する一人と二匹。場所が場所なので、どう見ても不審者ですありがとう御座います。それはさておき、ベッドを確認するとやっぱりちゃんと二人とも居た。現代っ子な鷹月さんはともかく、超武士娘な箒は基本的にクリスマスを祝おうとしない。精々、一夏に合わせて混ざった位である。その為か、他の生徒たちと比べて随分と早く就寝したようである。
「熊トナカイ、ターゲットの様子は?」
「……超ぐっすりだ…」
「真トナカイさんの方は?」
「こっちもOKだよ~」
「良し。そんじゃ、プレゼントを取り出しますか…」
そう言ってサンタ(オランジュ)は背負っていた袋を降ろし、中に手を突っ込んでプレゼントを探り始めた。全部箱やら小袋に詰められていたが、中に入っているモノと誰宛のプレゼントか書かれたメモ用紙が添付されていたので確認は出来た。けれど地味に数が多かったので、途中から宛先しか確認しなかったので微妙に不安である…
などと思っている内に、オランジュが一つのプレゼントを取り出した。赤い箱に白いリボンは、どことなく箒の専用機である赤椿を連想させた。
「えぇっと、こいつはドイツの『鉄(アイゼン)』からだな…」
「そういやアイツ、ファース党だったか……で、中身は…?」
ティーガーの兄貴程では無いが、真面目であることに定評のある奴だ。そんな奴があのファンクラブに入っていたという事実だけでも充分に驚きモノなのだが、果たして何を送ってきたんだか…
「メモ用紙によればFカップのブr…」
「「アウトおおおおおおおぉぉぉぉ!!」」
「じぇすたきゃのん!?」
つい反射的にボディブローをのほほんさんと一緒に繰り出してしまったが、幾ら何でもそれは駄目だろ!!いったいどうしちまったんだアイゼン君よ!?
「ぐふぅ……俺、殴られる理由なくね…?」
「でもねサンタさん、そのメモを読み上げようとした時点でどうかと思うよ…?」
「そ、そうですか……だけど箒さん宛てのプレゼント、全体の半分くらいコレなんだけど…」
「何考えてるんだあの変態共は!?」
いや、彼女が自分の胸のサイズを気にしてるのは割と知られてる話だけどさ…だからって直接的な面識の無い相手、それも女性相手に下着をプレゼントって馬鹿か?一夏でさえこんなセクハラ紛いはしねぇよ……多分…
「……今度、ちょっと御仕置きしに行こうかな…」
---隣に居るのほほんさんが不穏な台詞を呟きなすった…
「ほ、他に無いのか?まともなプレゼントは…?」
「ちょっと待ってろ、今漁ってみる…」
言うや否やゴソゴソと袋を探り、次々と箒宛のプレゼントを取り出すオランジュ。彼の言うとおり、広げられたプレゼントの大半は『ブ』で始まって『ジャー』で終わるモノばかりだった。そのどれもがビッグサイズで、間違って鈴宛のプレゼントに混ざったら色々な意味で大変な事に成りかねない。余談だが、これを送った馬鹿共は翌日、一人残らず不運な事故に遭って大怪我したそうな……くわばらくわばら…
しかし良く見ると、まともなプレゼントも結構あった。新品の竹刀や木刀、値の張りそうな着物、髪留め用のリボンなどが良い例だろう。一夏にアプローチさせる為なのか、ペア専用の御食事券もあった…
「どいつもこいつも、面白いぐらいに金掛けてるな…」
「むしろ貢いでるってレベルだろ…」
あいつら、ただでさえ俺より給料少ないのに大丈夫なのだろうか?自業自得とはいえ、ちゃんと年越せるのか本気で不安になってしまった…
おっと、そういえば…
「箒は何をサンタに頼んでる…?」
「お、枕の横にちょうど手紙があった……『クリスマスなんて外来文化なんぞ』とか言ってた癖に、相変わらず虫の良い奴め…」
「しょうがないよ、しののんって不器用だから…」
のほほんさんにまで言われてるぞ、箒よ…。何はともあれ、オランジュは置いてあった手紙を手に取り、書いてあった文字を読み上げた……
「……『一夏との時間』…」
「「……。」」
―――箒さん、サンタは流れ星じゃありません…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さてと、取りあえず箒、セシリア、鈴へのプレゼントは置いてきたのは良いが…」
「仕分け…した方が良いよな、コレ……」
「私もそう思う~」
関係ないと言ってしまえばそれまでだが、何か身内のせいで悪い気分にさせるのは気が引ける。不用意に全て置いてきて、さっきみたいな地雷風のプレゼントを置いてくるとはマジで御免蒙る。
にも関わらず、どいつもこいつも碌なモノを送ってこない。セシリア宛のプレゼントが全部料理本だったのはまだ良いが、鈴宛のプレゼントはどうも彼女に喧嘩を売っているようにしか思えなかった…
因みに、サンタ宛の手紙にセシリアは『欲しい物は自力で手に入れますわ!!』と書かれており、鈴の手紙には『幸運』の二文字が……何だかなぁ…
「誰だ、鈴へのプレゼントに豊胸グッズとパンダのぬいぐるみ入れやがったの…」
「前者はともかく、後者は何で駄目なの~?」
「アホ、小学生の頃に名前がパンダに似ているせいで苛められたって、言ってたろうが…」
「あ、だからリンリンって呼び方嫌がったんだ……今度気をつけよ…」
こんな感じで『お前ら、マジでファンとしてどうなの?』なプレゼントが思いのほか多くて唖然としたのである。まともなプレゼントもあるにはあったが、インパクトが違いすぎる…
「中華料理専用調理器具セットとか、一夏のと同じ白い腕時計はまだ良いけどさ……本当に、アイツらはよぉ…」
「……とにかく、さっさと終わらせちまおうぜ…」
オランジュのその言葉で気持ちを切り替え、視線を廊下に広げたプレゼントの山に移す。プレゼントは全てワンサマラヴァーズ宛てであり、つまるとこ残りはシャルロットとラウラ、そして簪の為のプレゼントである。ところが…
―--グシャッ!!
「え…」
「え〝…」
「ん?どうかしたの~?」
―――簪宛のプレゼントの九割が独りでに、一瞬にして粉々に砕け散った…
「な、何でもないっす…」
「簪さん宛てのプレゼントは、あなた様に任せます…」
「任された~♪」
砕かれた半分はどうせ碌な物では無くて、のほほんさんの怒りを買ったのだろうが…やっぱり怖い。彼女達のことを真面目に考えてやらないと、自分達もあの砕かれたガラクタの後を追うことになるのではなかろうか…?
「……お前は充分過ぎる位に考えてると思うけど…」
「ん、何だって?」
「いや、何でもない…」
うだうだ言いながらも、せっせと3人でプレゼントの仕分けをしていく。シャルロット宛のプレゼントはアクセサリーや新しい服、可愛い系のキーホルダーやぬいぐるみなど、意外と普通のモノが多かった。一人だけ迷えるチキンな執事服を送った馬鹿が居たが、あるとすればそれ位だ…
チラリとのほほんさんの方に視線を送ると、生き残ったプレゼント候補をヒョイヒョイと拾い上げて袋に詰め直している最中だった。良く見るとアニメや特撮のDVD、ゲームのソフトやおしゃれ用眼鏡などが殆どだった。因みに『更識いもう党』所属のメテオラは、彼女が前から欲しがっていた『立体ホログラム』を送ったようだ。幸い粉砕されることもなく、無事プレゼント行きが決まった。
今までのが碌でもないものばっかだったので、何だかこの二人へのプレゼントは随分と普通に見えた…
「さて、残すは肝心のラウラ宛のプレゼントだけど…」
「……なんだかなぁ…」
「……。」
仕分けしている最中、薄々と気付いていたのだが……ラウラへのプレゼントが…
「……なんか、異常に多くね…?」
「多いな」
「多いね~」
シャルロットと簪、この二人のプレゼントを同じ袋に詰めてもまだ余裕がある。ところが、ラウラ宛のプレゼントは巨大なサンタ袋丸々ひとつ分、見事にパンパンに膨らませていた。ファンクラブの各党の構成員は、基本的にほぼ均等である筈だ。こんな露骨にプレゼントの数に差が出るわけないのだが…
「なんか嫌な予感がする…」
「奇遇だな、俺もだ…」
「いざ開封~」
「「空気読めよダークホースッ!!」」
尻込みする俺達を余所に、のほほんさんは躊躇無く袋の中身を確認した……その結果…
「………………うわぁ……」
―――短くそう声を漏らし、思わず後ずさりした…
次回、ラウラのプレゼントの中身が判明……そして、彼もちょっと登場…