「突撃…」
「隣のクリスマス・イヴ…」
「御邪魔しま~す…」
遂にやって来た、ラウラの部屋。簪のプレゼントは彼女と同室のトナカイ(のほほんさん)が帰り際に持っていくだろうし、実質ここが最後の部屋である。のほほんさんの指パッチン(怪奇現象)で鍵を開け、いざ入室。しかし異常な量になったプレゼントの数々は一応仕分けしたものの、あんまり減らすことが出来なかった。背負った袋に視線をチラリと移すと、さっきと殆どサイズが変わってないことを改めて認識する…
「だけど、ラウラの事を考えるとなぁ…」
「何か、喜びそうなモノばっかなんだよね…」
「……ま、取り敢えずオランジュはシャルロットの方を頼む…」
「あいよ~」
「ん…?」
「どうした…?」
今のオランジュとのやり取りに何かの違和感を感じたのだが、具体的に何が変なのかが分からない…。もしかしたら気のせいかもしれないし、深く考えるのはやめよう…
「とにかく、プレゼントをオープン…」
俺が持ってる袋の中身全部がラウラ宛なので、このまま置いて行っても良い気もするが、流石にそれはダメな気がするのでプレゼントを袋から取り出し、並べ始める。しかし、改めて並べたものを見渡してみて再認識したが……やっぱりインパクトが凄まじい…
「わぁ…改めて見ても、ラウラウのプレゼントって……」
「何だかなぁ…」
ラウラの為にプレゼントを贈った連中は、亡国機業のファース党やセカン党の変態共と比べたらずっとマトモなのだが、送ってきたプレゼントの内容が内容なだけにぶっ飛んでると思わざるを得ない。何せその中身は…
「子供用御菓子セットに、テディベア…」
「クリスマスケーキにクリスマスツリーのインテリア、サンタの人形にオルゴール…」
「新品の拳銃やナイフ……うわ、スぺツナズナイフまである…」
「C4爆弾組立キットまであるよ…」
「かと思ったらリイ○フォースのコスプレセットなんてもんも混ざってる……そういやあのアニメ、最終決戦はクリスマスだったっけ…?」
普通の子供に贈るような微笑ましいモノ、どこぞのミリオタが喜びそうな物騒なモノ、何だか言葉を失いそうになるモノ…改めて言うが、これ全部ラウラに送られてきたプレゼントなんだぜ?この種類豊富で統一性の欠片も無さそうな、カオスの極みに至りそうなプレゼントの山が全て、一人の少女の為に送られてきたとは誰も想像できまい……
何か色々と不味いと思ったのだが、ラウラの密かな趣味を知っていることもあり、このプレゼントを受け取った時の彼女の様子を想像してみた結果…
―――見てみろシャルロット!!サンタは本当に来てくれた!!
―――ふぅむ…眠っていたとは言え、私が気配を察知出来なかったとは……この贈ってくれた武器の数々の趣味の良さと言い、サンタはプロなのか…?
―――こ、これは!!予算的に辛くて購入を諦めた奴じゃないか!!
うん…頭がオカシイと言われるのは重々承知だが、ラウラがこんな風に喜ぶ姿を想像出来てしまったのである。その姿が一度浮かんでしまうと、仕分けする手は見事に止まった。やっとの思いで捨てることが出来たのは、『世間の常識百選』とか言う明らかに相手に喧嘩を売ってる本だけだった。因みに良く見ると、それを送って来たのはアメリカ支部の馬鹿兄弟だったので少しイラッとした。常識が必要なのはお前らの方だっての…!!
「さて、こんなモンか…」
「改めてみると、凄い光景だね~」
翌朝気付いた時のラウラの反応が楽しみである。何せ自分の眠っていたベッドがプレゼントの山に完全包囲されており、その質も量も半端無い。それらに囲まれてスヤスヤ眠る彼女の姿は、本当に幼く見えて微笑ましかった…
「……そういや、ラウラが書いたサンタへの手紙を見てなかった…」
これだけ様々なプレゼントが揃っていれば、必ず一個くらいは混ざってると思うけど一応は見ておこうと思う。そして枕の横に置いてあった紙切れを手に取り、書いてあった文字に目を通すと…
―――『嫁』
「……なんの躊躇も感じさせない筆跡に漢気を感じた…」
「ていうかラウラウはオリムーを所望してるみたいだけど、どうするの…?」
「大丈夫だ、イチカ君人形が二つあった筈。流石の彼女もそれで満足してくれると思う…」
本当に予想外だった。まさか、本当に下手な鉄砲数撃ちゃ当たるな結果になるとは。しかし、これだけ予想するのが難しかった彼女の欲しがるプレゼントを当てた二人は一体誰だったのだろうか…?
同封したリストと照らし合わせ、二種類のイチカ君人形を送った二人の人物を確かめる。ついでに言うとこの人形、いつだかシャルロットが怪しい通販で買った奴と同じシリーズである。彼女が購入した学生服姿のスタンダードと違い、目の前にあるのは私服タイプと学ランタイプだ。
「えぇっと私服タイプのイチカ君人形の送り主はっと………マジ、ですか…?」
「どうしたの?」
「いや…ちょっと、予想外な名前を見つけて………何してんの、ティーガーの兄貴…」
コレは…見なかった事にした方が良いのかな?いや兄貴の場合、ファンクラブの連中と違って妹とか娘感覚で見てるのかもしれない。同じ遺伝子強化素体で、元軍人と現役軍人。あの人もラウラに対しては少し思う所があるんだろうし…
でも、あの超強面でクソ真面目な兄貴がぬいぐるみを購入って……本人には悪いけど違和感MAXだ…
「ねぇねぇ、もう一つのイチカ君人形は誰が送って来たの?」
「え?あぁ、学ランタイプの方か…」
リストを指でなぞり、送り主の名前を探す。そして、学ランイチカ君を送った人物の名前を見つけたのだが…
「……クラリッサ・ハルフォーフ…」
―――綺麗な字で、黒兎隊副隊長のフルネームが書いてあった…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あぁ…終わった終わった……!!」
「お疲れ様~」
「しかし、何だかんだ言ってちょっと楽しかったな」
プレゼントも配り終わり、俺達は廊下に出た。まだ簪の分が残っているが、それはのほほんさんが帰りに持っていくので俺達の役目は終了である。さっさと戻ってくつろぐとしよう…
「ところでオランジュ、どうだった…?」
「ん?……どういうこと…?」
「いや、シャルロットの様子とかサンタ宛の手紙とか…」
「あぁ、そういうことか。サンタ宛の手紙には、『皆が喜ぶモノ』って書いてあったぞ?」
「……。」
「どうした?」
「……いや、何でも…」
オカシイ…何がオカシイのか分からないけど、何かがオカシイ。謎の違和感に首を捻る俺を余所に、目の前のオランジュは逆に不思議そうな表情を浮かべた……何なんだろうか、このモヤモヤは…?
「それじゃ、私そろそろ行くね~」
「ん?お、おう…」
そんな俺達の様子を知ってか知らずか、のほほんさんはそう言って残った袋を背負い、俺達にバイバイと手を振る。結局最後まで不穏な空気…地雷プレゼントを見た時は省くが、終始最後まで平和だった。幾ら相手が最恐の存在とは言え、ちょっと余計に怖がり過ぎたかもしれない…
そう思って手を振り返そうとした矢先…
「あ、僕もついて行く」
―――隣のオランジュがそんな事を言い出した…
「待て待て、何考えてるのお前!?」
「いや、何か楽しそうだからもうちょい……別に、お前は先に帰ってても良いぜ…?」
「言われなくとそうするわい!!けど、それ以前に…」
何でムザムザ自分からトラウマの権化そのものに突き進んで行こうとしてるんだ!?今でもダイレクトにのほほんさんのこと思い出すと、悪夢を見て眠れないとか言って……あれ…?
「大丈夫、大丈夫。ちょっと寄り道してくるだけだから、そんじゃ!!」
「あ、ちょ…!!」
制止した俺の腕を振りほどくようにして、オランジュは先に行くのほほんさんの元に駆け寄って行った。そして俺が呆然としている間に、二人はあっと言う間に去って行ってしまった。誰も居ない廊下には、立ち尽くす俺ただ独りである。
だが、今となってはそんな事どうでも良い。やっと気付いたのだ、さっきからオランジュに感じていた違和感の正体に…良く考えれば、変だったのは最初からだ。
―――何で、トラウマそのものである布仏本音から逃げなかった…?
―――何で、いつもより冗談が少なかった…?
―――何で、シャルロットの部屋に行ったにも関わらず反応が薄かった…?
そして、何より…
「……あいつ今、自分の事『僕』って言ったか…?」
その事に気付いた瞬間、何だか背中が凄く冷たく感じた……それはきっと、外の寒さだけのせいでは無かった…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あちゃあ、ちょっと最後の方でボロが出ちゃったかな…?」
「きっと大丈夫だよ、分かったところで何もして来ないって~」
セイスと分かれ、人っ子一人居ない廊下を二人で歩くのほほんトナカイとオランジュサンタ。しかし、どうにも二人の雰囲気がさっきと違っていた。当然ながら、セイス達と本音はちゃんとした面識は無い。存在自体は互いに認知しているが、直接的に戯れたのは今夜が初めてである。
にも関わらず、今の二人にはそれを一切感じさせない気安さがあった。オランジュに至っては、どうも雰囲気どころか口調まで変わっている始末だ…
「ところで、“その身体の使い心地”はどう…?」
「う~ん…彼はデスクワーク派みたいだから、ちょっと生前の僕より体力は少ないみたい。だけど、充分に良い感じだと思う…」
「そう…良かったね、“あすち~”♪」
本音のその言葉に、オランジュの顔に笑みが…彼とは長い付き合いであるセイスでさえ見た事の無いような笑みが浮かんだ。それもその筈、何せ今の彼は……
「まさか本当にこうも上手くいくとは思わなかったなぁ……憑依…」
「えいッ♪」
「おわっと…!?」
本音がオランジュに…否、彼の身体を借りた明日斗に飛びつき、腕に抱き着いた。簪へのプレゼントを背負っている上に、不意を突かれたのでちょっとよろめいた。しかし明日斗は何とか支えきってみせる…
「まったく、危ないなぁもう…」
「えへへ♪だって、嬉しいんだもん…」
「ん…?」
「あすち~と触れ合えることが…!!」
―――そう言った本音の表情は、彼女の名前を体現したかのように本当に嬉しそうだった…
「……これは、僕の身体じゃないよ…?」
「でも、あすち~が感じてる私の感触は本物でしょ…?」
「……。」
「それに私は…あすち~に“触れれる”ことじゃ無くて、あすち~と“触れ合える”ことが嬉しいの♪」
「……ふふ、そうか…」
明日斗は再び微笑みを浮かべ、そっと本音の頭を撫で始めた。借り物の身体越しに伝わってくる彼女のぬくもりは、幽霊になって以来完全に冷え切ってしまった己の魂に心地良い暖かさを感じさせてくれる…
「……本音ちゃん、君は本当に暖かいね…」
「ぬふふ、人間湯たんぽで~す」
「ははは……ありがとう…」
人の気配も無く、照明も消えたまま、外はいつの間にか雪が降り始めており、更に寒さが増してきた。それでも、この一人の少女と幽霊の少年が並んで歩くこの場所は、どこよりも明るくて暖かかった…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま~」
「む、遅かったな」
「まぁ、ちょっと色々あってさ……って、マドカ…?」
ホラー気分でオランジュの冥福を祈りつつ、隠し部屋へと戻ってみたらマドカが居た。しかも俺が熊トナカイな恰好なのに対し、彼女はどっかのパーティ帰りなのか三角帽子を被って先日買ってあげた洋服を着ている。この前一緒に買い物へ行ったときに欲しそうにしてたので買ったのだが、改めて見ても良く似合ってると思う。いやマドカの場合、何着ても似合うと思うが…
「さっきまでスコールにホテル主催のパーティに連れて行かれてたんだが、退屈だから抜け出してきた」
「そうか…」
「それで、その……どうせだからホラ…」
「ん…?」
言うや否や、マドカは何かを取り出した。良く見るとそれは、リボンで包まれた箱…どう見てもクリスマスプレゼントだった。ビックリして思わず彼女の顔をへと視線を戻すと、ちょっぴり顔を赤くして照れくさそうにしており、ちょっと可愛かった…
「互いにクリスマスを祝うような性分じゃ無いが……この洋服の礼も、したかったからな…」
そのままマドカはぐいっとプレゼントを俺に押し付け、すぐさま背を向けた。戸惑いと嬉しさで混乱して思考がストップした俺だったが、何とか我に返る。
「えぇっと…ありが、とう…?」
「何で疑問形なんだ?……まぁ、良い。早く開けてみろ…」
「お、おう。だがその前に、ひとつ訊きたいんだが…」
「何だ…?」
「どうしてそんなに俺から離れてるんだ…?」
「……気にするな。良いから早く開封しろ…」
とは言ってもなぁ……仕方ない、カマ掛けるか…
「いくぞ…1…」
「ッ!!」
「2の…3ッ!!」
「とぉうッ!!」
―――俺がプレゼントのリボンを解くフリをしたその瞬間、両目両耳を塞いで部屋の隅へ緊急回避した馬鹿が約1名…
「……。」
「……。」
「……何を仕込みやがった…?」
「TNT(高性能火薬)!!」
「ギルティ・クリスマス・ウィザードオオオオオオォォォォッ!!」
「ただの跳び膝蹴りじゃないかって危なッ!?」
―――狭い部屋で繰り広げられる、久方ぶりのドタバタ騒ぎ。聖夜には程遠い夜になりそうだが…
「この野郎ッ!!キリストの誕生日を俺の命日にする気かあああぁぁぁ!?」
「その程度で死ぬお前じゃ無いだろう!?そして、ちょっとした御茶目という奴だ!!許せ!!」
「フ・ザ・ケ・ロッ!!」
「フ・ザ・ケ・タ・サッ!!」
「死ねえええええええええええええええええええぇぇぇぇッ!!」
「あはははははははははははははははははははッ!!」
―――何だかんだ言って笑顔の二人にとっては、この位が丁度良いみたいだ…
○どうやってプレゼントを忍ばせたかは不明ですが、クラリッサは機業に属しておりません。
○オランジュには明日斗に憑依された時の意識と記憶は残っておりません
○翌日、オランジュはモノレール駅のホームのベンチに捨てられておりました…