アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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文量の都合により、最後にスーパーオランジュタイムを追加しました。割と久々にファントムな彼をお楽しみ下さい(黒笑)

……先週、急性胃腸炎なんぞで倒れなければなぁ…;


IF未来 続・学園編 その7(朱色タイム追加)

「撃て、撃ち殺せぇ!!」

 

 

 特殊部隊という地位は伊達では無く、ティーガーに気づいた彼らの動きは素早かった。瞬時にして所持していた銃器を構え、銃口を向けると同時に発砲する。ひと気の無い雑木林に、サブマシンガンによる無数の銃声が鳴り響く…

 

 

「……ふん…」

 

 

 しかし放たれた幾つもの銃弾は、一発たりともティーガーに当たらなかった。立っていた場所に鉛玉の壁が殺到した時には既に、彼は到底生身の人間では出せないようなスピードで瞬時に木々の陰へと飛び退いていた。その彼の動きを目にした特殊部隊の面々は驚きに目を見開き、戦慄してしまう…

 

 

「じゅ、銃弾を避けた…?」

 

「まさかアイツ、亡国機業のティーガーじゃ…」

 

「ティーガーって…あの『IS殺し』の遺伝子強化素体!?」

 

「狼狽えるな、所詮相手は生身の人間モドキだ!!」

 

 

 ティーガーの動きと彼の異名に対して恐慌状態に陥りそうになった特殊部隊だったが、隊長が一喝する事によってどうにか落ち着きを取り戻す。流石は国の生え抜きの精鋭と言ったところか…

 

 

「落ち着いて対処しろ!!それに、奴がISを撃破したなんて話は出鱈目に決まって…」

 

「ほぉ?なら、試してみると良い…」

 

「ッ…!?」

 

 

 突然聴こえてきた、悪魔の様に冷たい囁き声。その声は何故か、やけに自分たちの近くから響いてきて…

 

 

「う、上ッ…!!」

 

「遅い」

 

 

 次の瞬間、咄嗟に顔を上げた隊長は上から降ってきた何かに顔面を鷲掴みにされ、そのまま地面に叩き付けられた。ゴウン!!という、とても人間の頭が出したとは思えない衝突音を発しながら、うめき声を上げる暇も無く意識を刈り取られてしまった…

 

 

「ッ、隊長!?」

 

「死ね、化け物が!!」

 

 

 指揮官を討ち取られ、ほんの一瞬だけ呆けてしまった隊員達だったがすぐに我に返り、すぐさまティーガーに銃を向ける。隊長が立っていた場所は隊員達のど真ん中だった為、ティーガーは至近距離で銃口を向けた彼らにぐるりと包囲された状態になっていた。軍隊出身であろうが、遺伝子強化素体であろうが、生身の人間がプロの兵士にこんな形で銃を向けられたら普通は助からない。ISも無しにこの状況を切り抜けられるとしたら、そいつは本物の化け物だ…

 

 

---しかし、生憎と…

 

 

 

「鬱陶しいぞ、三下どもが…」

 

 

 

---彼は正真正銘、本物の化け物であった…

 

 

 隊長の頭を鷲掴みにしている手を離し、獣が爪を一閃させる様に腕を構えながらクルリと身体を一回転させる。傍から見ると謎の行動にしか見えなかったが、一人の隊員から発せられた『ゴキリ』という音を皮切りに、彼らはその意味を身を持って理解する羽目になった…

 

 

「痛ええええええええええええええええええええぇぇ!?」

 

「あ、あ……あ…があああああああああああああぁぁぁぁ!?」

 

「骨がぎゃああああああぁぁ!?」

 

 

 一人目が悲鳴を上げながら崩れ落ちた瞬間、次々と隊員達の身体が『バキボキ』と音が鳴り始め、耐え難い激痛が彼らを襲った。厳しい任務にも耐え抜き、幾つもの修羅場を潜り抜けた彼らだったが、流石に一瞬にして“全身の間接を外される”のは想定外だったようだ。

 

 

「ば、馬鹿な……いったい、どんな手品を…」

 

「黙れ」

 

「がッ!?」

 

 

 呻いていた隊員の頭を思いっきり踏み付け、轟音と共に意識を刈り取る。他の者達は激痛に耐えられなかったようで一人残らず気を失っており、一人その場に佇むティーガーを中心にして、辺りは静寂に包まれた。やがて…

 

 

「……さぁ、次だ…」

 

 

 彼は、次の獲物を求めて移動を開始した…

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「か~ッ、相変わらずティーガーの奴はエゲツねぇな…」

 

「余所見しないで下さいよストーン、次はポイントBー29です」

 

「ほいほい、了解したよっと!!」

 

 

 ティーガーが暴れていた場所とは少し離れた場所に、彼らは居た。一人は草むらに身を隠しながら双眼鏡を手にして観測手の役目を担っており、もう一人は彼の指示に従って巨大な対物ライフルを撃ち続けていた。ライフルから放たれた弾丸は寸分の狂い無く、遥か向こうに居る標的…特殊部隊Bチームのメンバー達に襲い掛かっていった…

 

 

「おや、アイゼンが狙われてますね。3秒後にポイントSu-37」

 

「あいよ……よし、どんぴしゃ…」

 

 

 時間差で放たれた銃弾は、先陣切って敵に突っ込んでいったアイゼンを狙っていた隊員を撃ち抜いた。その光景を見届けたスキンヘッドの狙撃手…ストーンは銃を構えた姿勢のまま、小さくガッツポーズを決める。

 

 

「しかし、つまらないですね。特殊部隊というからには、もう少し歯応えがあると思ってましたが…」

 

「そう言うなよメテオラ、仕事が楽なことに越したことは無ぇしよ」

 

 

 ため息と共に吐かれたメテオラの呟きに、ストーンは苦笑しながら応じる。元々フォレスト一派に所属していたメテオラは勿論のこと、オセアニア支部所属でありながらセヴァス達と交流があったストーンは今回の事への参加を二つ返事で承諾した。自分達の古巣の名前をこんな事に使われるのが許せなかったのもあるが、それと同じ位に大切な理由が彼らにはあった。それは…

 

 

『そこの二人!!大人しく武器を捨てて投降しろ!!』

 

「……おいおい、お前が余計なこと言うからフラグが立っちまったみたいだぜ…?」

 

「あれま…私、運動は苦手なんですがねぇ……」

 

 

 声が振ってきた空を見上げると、一機のISが上空から此方を見下ろしていた。アメリカの第三世代機の一つ、『空の人形師(エアズ・パペッター)』である。亡国機業一口の悪い女と名高いオータムとはまた違った、キツい性格をしていそうな『人形師』のパイロットは、高圧的な態度で投降を二人に呼び掛け続けてくる…

 

 

『何をコソコソしている、犯罪者共が!!さっさと投降しろと言っているのが聞こえないのか!?』

 

「つーかISの相手は、オータムが担当の筈じゃ…?」

 

「撃破されたという報告はありませんし、また調子に乗って撒かれたんじゃないですか?」

 

「……やれやれだな…」

 

「全くです…」

 

 

 今頃、宙で地団太を踏むというシュールな行動をしているであろう秋女を想像して、二人は同時に溜息を吐いた。そして…

 

 

「……角度48、風圧レベル3…!!」

 

「おうさ!!」

 

『なッ!?』

 

 

 メテオラの言葉を聞くや否や、ストーンは瞬時に照準を『人形師』に向け、ライフル弾を彼女に向かって放った。どこか暗くなった雰囲気から、二人が投降するものだと思い込んでいた人形師のパイロットは不意を突かれ、避けることが出来ずに直撃してしまう。絶対防御によってダメージは無いものの、まさか反撃…それも生身の人間がISに対して抵抗するとは思ってなかった為、暫く呆然としてしまった。

 

 

「もう一発!!」

 

『クッ、舐めるな!!』

 

 

 チャンスとばかりにストーンは再度銃弾を放ったが、流石にそう何度も受けはしなかった。しかし不意打ちだったとはいえ、先程受けた一発は彼女のIS乗りとしてのプライドに火を付けるには充分過ぎた。

 

 

『良いだろう、ISを使えない相手には少し気が引けるが……本気で相手してやる…!!』

 

 

 彼女の言葉と同時に、彼女の遥か後方から二つの機影が接近してきた。大きさは『人形師』自身と大差ないが外見はかなり無骨で、かつてIS学園を襲撃した無人機達に似ていた。

 

 この二つの機体…『アイアン・ソルジャー』が人形師の第三世代兵装であり、名前の由来である。凄まじい性能を持ってはいるが、数に限りがあるIS。その欠点を補うべく開発されたこの兵装は、パイロットの簡単な指示に従って自発的に行動し、共に戦ってくれる。エネルギーの都合で絶対防御やビーム兵器の搭載は出来なかったが、それなりの装甲とAIを持っており、理論上なら第一世代機に匹敵する能力を持っていると言われている。

 

 

「ちょっと、ヤバイか…?」

 

「いえ、もの凄くヤバいです」

 

『今更怖気づいても遅い!!行け、アイアン・ソルジャー!!』

 

 

 彼女の声を合図に、二機の鉄兵は二人に向かって突っ込んでくる。その速度は現役のISには及ばないが、人間がどうこう出来る速度では無い。ストーンとメテオラはその場から離れようとすらせず、ただ立ち尽くすしか無かったかのように思われた。しかし…

 

 

「仕方ない……使うか…」

 

「ですね」

 

 

 言葉と同時に二人は手のひらサイズの何かを取りだし、目の前に放り投げた。投げられたそれが宙に留まって光りだしたのと、鉄兵が光に触れたのは殆ど同時……そしてその光に触れた二機の鉄兵は、まるで“宙に縫い付けられたかのように”その動きを止めた…

 

 その様子を目撃した『人形師』のパイロットは、驚愕に目を見開いた。何せISパイロットである自分はあの光と、その光に捕らわれた鉄兵の反応に見覚えがあったからだ。だからこそ彼女はこの光景が信じられないのだが、あの反応は間違いなく…

 

 

『こ、これは……この反応は、まさか…!?』 

 

 

 

---ドイツの第三世代兵装『停止結界』…通称、『AIC』

 

 

 

 彼らが投げたのは、亡国機業が開発した『擬似AIC』である。使用回数一度きりの消耗品だが手のひらサイズなので携行し易く、使い勝手も良いし量産も出来るので重宝されている。その擬似AICを彼らは自分達の至近距離に放り投げた為、それに突っ込んだ鉄兵達は二人の目の前で無様に隙を晒す形になっている訳で…

 

 

「ストーンさん、効果時間が終わる前にさっさと…」

 

「言われなくとも!!」

 

 

---ストーンの対物ライフルにより、あっさりと撃ち抜かれて無力化されてしまった…

 

 

『お、おのれぇ…!!』

 

 

 こんな間抜けな形で、それもISも使えない男達に兵装を破壊された事により、人形師のパイロットは怒り狂った。バイザー越しのせいで顔は見えないが、その顔はさぞかし凄まじい事になっているだろう…

 

 

『このテロリスト風情が…それも男の分際でええぇぇ!!』

 

 

 そしてその怒気を孕んだまま、彼女は二人に向かって別の射撃兵装をコールし、戦車さえ軽く吹き飛ばし兼ねない巨大な銃を彼らに向けた。切り札である擬似AICは先程使ってしまった上に、上空から圧倒的な火力で狙い撃とうとする人形師に対し、彼らに成す術は無い。

 

 けれど、彼らには焦りも無い。この程度の状況、既に何度も経験している…

 

 

「おいおい人形師さん、後方注意だ…」

 

『何を言っ……ぐあ!?』

 

 

 突如、武装を構えていた人形師の背中から爆炎が発生した。突然の事に人形師はバランスを崩し、錐揉み状態になって地に墜ちた。その最中にハイパーセンサーで、撃った直後のRPGを構えていたメテオラ達の仲間…アイゼンが見えた為、自分が背中越しに撃たれたことを理解した彼女はすぐさま立ち上がり、彼の方へと武器を向けようとする。しかし、再び背後から何かが接近してくる気配を感じ取り、その動きは中断された。

 

 

「うらああああぁぁぁぁ!!盗んだ改造バイクで突撃じゃあーーーーーーー!!」

 

『んなッ!?』

 

 

 センサーを使って後方を確認した彼女の視界に映ったのは、自分目掛けて真っ直ぐに突っ込んでくる一台の大型バイクだった。咄嗟にそちらを対処するべく振り返ったが、その瞬間を狙って次弾装填を終わらせたアイゼンにより再度砲撃され、その弾みで狙いが逸れてしまう。

 

 

「よっと!!あばよ、くそったれ!!」

 

『ッ!?』

 

 

 バイクに乗っていた男…エイプリルは直前で飛び降り、猛スピードで突っ込んできた巨大な自動二輪は彼女に直撃する。衝突の衝撃で絶対防御を発動させ、多少なりぐらつかせる事に成功する。それでも、人形師自体に大きな損傷は見受けられなかったが…

 

 

『さっきから小賢しい真似を……この程度で人形師が墜ちると思っているのか…!!』

 

「んなわけ無ぇだろ」

 

『え…!?』

 

 

 しかしそんな事、ストーンやメテオラ達は百も承知である。人形師によって衝撃を殺され、受け止められたバイクに向かってストーンの対物ライフルが、アイゼンのRPGが放たれた。二つの砲撃はバイクの燃料に引火し、大きな爆発を発生させた。人形師は結果的に、超至近距離で爆発に巻き込まれる形になってしまった…

 

 

『ぐうううううううぅぅぅぅぅ…!!』

 

 

 衝撃により呻き、苦悶の表情を受かべる人形師のパイロット。しかし、かなりエネルギーを減らされてしまったが人形師は未だに健在である。その事を理解した彼女は、まだエネルギーが残っている事に安心すると同時に、ここまでコケにされた事に対して遂にキレた。極力殺傷沙汰は起こすなと言われていたが、最早知ったことじゃない。自分にここまで無様な思いをさせた男達を皆殺しにするべく、彼女はゆっくりと足を踏み出し…

 

 

 

「時間稼ぎ御苦労」

 

『ッ!?』

 

 

 

---目の前で機械的且つゴツイ鉄の塊を突きつける、虎と目が合った…

 

 

 

『貴様ッ、IS殺しの…!!』

 

「黙って沈め、鉄屑」

 

『ガフッ!?』

 

 

 砂塵に紛れて彼女に近づき、ティーガーが使用したのは『携帯用盾殺し』。辛うじて持ち運びが出来る程度に小型化しつつも、その威力は本物に引けを取らない。反動が凄まじく、並の人間が使用すれば腕が持っていかれるが、人外たるティーガーやセヴァスなら問題なく扱える。

 

 そして、絶対防御でさえ衝撃を殺しきれない威力を持ったそれを彼は、彼女の喉笛目掛けて躊躇無く放った。全力で喉を殴られた感覚に襲われ、人形師は呼吸困難になりながら二転三転と地面を転がって吹き飛んでいく。死にはしないがこの状況、最早生身で熊と一方的な殴り合いをするようなものである…

 

 

『ご…が、あ……かはっ…!?』

 

「まだ終わらんぞ?」

 

『ッ!!……い、嫌あぐ…!?』

 

 

 喉を抑え、咳き込みながら地面に蹲って苦しむ人形師のパイロットに向かってティーガーはゆっくりと歩み寄る。目に溜まった涙のせいで視界がぼやけた事もあり、歪んで見えた彼の姿は彼女に悪魔や死神のように映った。想像を絶する恐怖に襲われた彼女は、先程の高圧的な態度は見る影も無く、力が上手く入らない身体を必死に起こして逃げようとする。しかし飛ぼうとするよりも早く、追いついたティーガーによって二発目の盾殺しを受け、今度は地面に叩きつけられる形になった。

 

 

『あ……あぅあ…が…』

 

「言い残すことはあるか?」

 

 

 二発目は後頭部に直撃させられた為、脳が揺れてしまい身体に一切の力が入らない。地面にうつ伏せになって弱々しい呻き声を上げるしかない人形師のパイロットだったが、人間のものとは思えない力で踏みつけられ、同時に振ってきた無慈悲で冷たい言葉により、一瞬にして彼女は死の恐怖に襲われた。

 

 

『た、たすけ…て…!!』

 

「そうか、なら……今、楽にしてやる…」

 

『い、嫌…!!…やめ……何で、も…言うこ、と……きく、から…!!』

 

「死ね」

 

『お、ねがい……やめ、て…!!……やめてえええええええええぇぇぇぇぇぇ…!!』

 

 

 

---いつまでも続くかと思われた彼女の叫び。しかしそれは、数発の轟音が鳴り響くと同時に、随分と呆気なく途切れた…

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「相変わらずエグいな、ティーガー。ところで、殺してないよな…?」

 

「当たり前だ。そもそも、対物ライフルで兵士の手足吹っ飛ばす貴様に言われたくないのだが…」

 

「おいおい、あのくらい最近の再生医療じゃ盲腸レベルだ。ちゃんと治療すれば、後遺症も残らないだろうよ……精神的ショックは知らねぇが…」

 

「……ふん、それはこっちも一緒か…」 

 

 

 意識を奪われた後も盾殺しを受け続け、最終的にエネルギーがゼロになってISを解除した人形師のパイロットを無造作に投げ捨て、ティーガーはストーン達と軽口を交わしていた。

 

 亡国機業役として先行していた特殊部隊と、それを捕らえる役を演じる予定だったISを撃破したティーガー達は一息入れていた。かつての亡国機業の戦力が半端ではなかったので、ある程度本格的な戦力を投入されても『亡国機業のせい』とホラを吹かれたら、妙に説得力を帯びてしまう。元から堂々と出来るような立場では無いが、やはりこんな事に自分達の名前を使われるというのは全く持って許し難い。なので、見せしめと落とし前を兼ねて自分達はこの臨海実習の警護を受けた。

 

 

 

---というのが建前で、実際はというと…

 

 

 

「ところで、セイスとエムの奴は元気だったか…?」

 

「あぁ、二人とも相変わらずだ…」

 

「……そうか、そいつは良かった…」

 

「あぁ、私も見ましたよ。相変わらずラブラブでしたねぇ~」

 

「そりゃマジか、メテオラ?」

 

 

 

---単に、可愛い弟分と妹分の様子が気になっていたからだったりする…

 

 

 セヴァスとマドカが亡国機業に拾われたのは、二人が幼少の頃だ。彼らの性格もあって、10年もその成長を見守っていた一同が裏世界から足を洗ったセイス達を気にするのは、当然といえば当然である。

 

 余談だが、マドカがIS学園で友達を作ったと聴いたフォレスト組はかなりの大騒ぎをしたとか…

 

 

「何にせよ、さっさと残りの仕事も終わらすか…」

 

「そうだな。二人の楽しい思い出作りを邪魔するような奴には、馬に蹴られて鹿に喰われて貰おう…」

 

「アメリカから馬鹿兄弟呼びます?」

 

「「「「やめてくれ…」」」」

 

 

 無駄口を叩きながらも、彼らは次の現場に向かうべく準備を速やかに整える。後は敵の母艦をスコールが沈めるだけだが、情報によれば敵のISはもう一機居る。慢心癖が未だに抜けないオータムのことだ、そのもう一機もどうせ取り逃がしているに違いない…

 

 

「冗談ですよ、私だってあの兄弟を呼ぶのは願い下げ……ん?おや、オランジュから通信が…」

 

「経過報告か?」

 

「そのようで……はいはい、どうかしましたかオランジュさん…?」

 

『ーーーーーー。』

 

「……え゛…?」

 

『ーーー!!----ッ!!』

 

「あ、はい!!分かりました!!」

 

 

 気づいたメテオラは端末を取り出し、オランジュの通信に応じる。そして二,三言葉を交わすうちに、彼の顔をから血の気が引いていった。オランジュと通信を終えたメテオラは端末を仕舞い、ギコちない動きでティーガー達に向き直る。そんな彼の様子に一同は嫌な予感がしたが、その予感は見事に当たってしまった…

 

 

「……敵ISの位置が分かりました…」

 

「どこだ…?」

 

「南ポイントVF-25……ここから最も遠く、臨海実習の現場に近い場所です…」

 

「げっ…」

 

「やべぇじゃねぇか!?」

 

 

 ティーガー達は思わず頭を抱えたくなった。流石に向こうが用意した悪役を排除した今、ヒーロー役に単独で専用機持ちも多数存在する臨海実習を襲撃するような真似はさせないと思うが、大騒ぎになるのは確実である。最終的な結果を考えれば此方の勝利は決まったも同然だが、セヴァス達を巻き込まないと決めた手前、それは何としても避けたかったのだが…

 

 とにかくジッとしている訳にも行かず、彼らはすぐにでも現場へ向かうべく動きを早めた。しかしそれを、メテオラが何とも歯切れの悪い言葉で中断させる。

 

 

「あの、それが…」

 

「何だよメテオラ、まだあるのかよ…?」

 

「既に敵ISは、交戦状態に突入しているようです…」

 

「……遅かったか…」

 

 

 これで臨海実習は中止確定である。入学当初からトラブル続きな一夏達は勿論のこと、その実情を知っているセヴァスも今年くらいは何事も無く終わらせたいと思っている。だからこそ、自分達は裏でコソコソやっていたのだが…

 

 

「あ…いや、臨海実習は中止になってません……」

 

「は?そりゃどういう意味だ…」

 

「じゃあ、敵ISは何と交戦しているんだ…?」

 

 

 敵ISは臨海実習の付近に出現して交戦を開始、されど臨海実習は続行中……メテオラの言葉に、ストーン達は首をかしげるばかりだ。やがて苛立ち始めたのか、ティーガーが冷たい怒気を放ちながら無言でメテオラに簡潔な説明を促し始めた…

 

 

「ちょ、ティーガーさん!?その殺気は洒落にならな…!!」

 

「黙れ早くしろ殺すぞ…」

 

「はいスイマセン!!取り敢えず先に言わせて貰いますが、敵ISと交戦しているのは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---セイスとエムの二人です…!!

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

(何なのコイツは!?)

 

 

 命令に従い、臨海自習の付近までやって来た『人形師二号機』とそのパイロット。しかし現在、彼女は徹底的に追い込まれていた。最新鋭機である彼女の機体は、ものの見事にボロボロにされていた…

 

 

「どうした、その程度か?これならラウラ達の方がよっぽど強いぞ?」

 

『クッ…舐めるな!!』

 

 

 目的地まであと少しというところにまで接近した自分を出迎えたのは、訓練機である『ラファール』を身に纏った、“ブリュンヒルデに顔がそっくり”なIS学園の生徒だった。どこか見覚えのあるその生徒だったが、何者であるかを思い出そうとする前に、その生徒は突然こちらに向かって攻撃を仕掛けてきた。こっちの計画が発覚したのかどうか知らないが、向こうがやる気満々なのは間違いない。亡国機業に扮する予定だった特殊部隊が音信不通になった今、自分が誘拐犯を演じるしか無い。なのでこの生意気な生徒を軽くぶちのめし、人質にして標的達を拉致しよう…彼女はそう考えた。

 

 自分が駆る人形師は第三世代で、実質3対1の状況を作れる。それに対し相手は第二世代機で、しかもただの訓練機。決着はすぐに付くと思った……いや、思っていた…

 

 

『行け!!アイアン・ソルジャー!!』

 

 

 何とか力を振り絞り、鉄兵に指示を出す。彼女の命令を受けた二機の兵士は搭載された機銃を撃ちながら、依然として無傷のラファールに向かって突撃していった。

 

 

「……遅い…!!」

 

 

 しかし、ラファールを駆る彼女は二機の鉄兵の間を縫うようにして回避し、そのまま一気に距離を詰めてくる。その相手の技量に驚愕した人形師のパイロットは反応が送れ、彼女…マドカの接近を許してしまう。そして…

 

 

「墜ちろ!!」

 

『うぐッ!?』

 

 

 腹部に強烈なキックをお見舞いされ、前のめりになったところへ踵落としを喰らわされた人形師は、隕石の様な速度を持ってして砂浜へと叩き落された。墜落の衝撃により、砂塵が砂嵐の如く舞い上がる…

 

 

『こ、このぉ…』

 

「お前らも懲りないな、ほんと…」

 

『ッ!!』

 

 

 よろめきながらも立ち上がった人形師のパイロットだったが、すぐ近くから誰かの声が聴こえてきた。反射的に顔を上げるとそこには、ラファールを駆る生徒と同年代の少年…セヴァスが立っていた。此方は何をトチ狂ったのかIS同士の戦場にティーシャツと短パン、それとビーチサンダルしか身に着けていない状態で佇んでいる。

 

 

『お、お前は…』

 

「あぁ何も言わなくて良い、肝心なことは分かってる。俺達の古巣の名を使って、俺達の臨海実習を台無しにしようとしてるんだって…?」

 

『ッ!!……そうかお前ら、セヴァス・六道と織斑マドカね…!?』

 

「はいはい、そうですよ…っと!!」

 

『ッ!?』

 

 

 言うや否や、セヴァスは人形師を蹴り上げた。絶対防御によって威力は殆ど無いが、それでも人形師は弾みで強引に立ち上がらされる羽目になった。話には聞いていた、IS学園にその籍を置く事になった亡国機業出身の二人…その情報を思い出した人形師のパイロットは、彼に対して心底忌々しげな目を向ける。

 

 

『この、蛆虫ども…!!』

 

「その蛆虫の真似しようとしてんのは誰だよ?」

 

『黙れ!!嬲り殺しにしてやる、このゲテモノ!!』

 

 

 言葉と共に彼女は近接用のISブレードを取り出し、至近距離からセヴァス目掛けて振りかぶる。しかし、彼は一切動じずに身体を捻りながら最低限の動きでそれを回避する。

 

 

「ほれ、お返し」

 

『ぐッ!?』

 

 

 彼女の腹部へと放たれたのは、手加減された彼の拳。“絶対防御を発動する必要が無い程度”の、ちょっと痛いだけの攻撃。だが絶対防御を過信していた彼女は、予想外の痛みに動揺して思わず武器から手を離してしまった。それをセヴァスが見逃すはずも無く、手放された近接用ブレードを拾い…

 

 

「武器もーらい」

 

『なッ!?』

 

「オッラァ!!」

 

『うあッ!?』

 

 

 ここぞとばかりに思いっきりブレードを振りかぶった彼は、全力でそれを彼女に叩き付けた。人外の力を動員してまで振るわれたブレードは、人形師を数メートル程吹き飛ばす事に成功する。しかし第三世代機を任せられるだけあって、彼女もただでは転ばない。無骨なISを身に纏っているにも関わらず、彼女は上手く受身を取ると同時に対ISライフルをコールしてセヴァスに向けた。

 

 だが、彼女が引き金を引くよりも早く、上空から爆発音が響いた…

 

 

『な、アイアン・ソルジャーが…!?』

 

 

 反射的に空を見上げれば、鉄兵の片割れがマドカの狙撃ライフルによって撃墜されたとこだった。生き残っていたもう一機は彼女のラファール目掛けて再度突撃していくが、あっさり回避されてしまう。仕舞いにはすれ違いざまに散弾のを背後にお見舞いされ、爆炎を纏って一機目の後を追った…

 

 

「おい、余所見すんなよ!!」

 

 

 主力兵装が破壊されたことにより、呆然としていた隙を突いてセヴァスはISブレードを人形師目掛けて投げつけた。咄嗟にセヴァスに照準を向けた人形師だったが、そのせいで一瞬怯んでしまった。

 

 

『この…無駄な真似を!!』

 

「無駄じゃないさ……上、見てみな…」

 

『何を……ッて…!?』

 

 

 フェイクかと思いセヴァスの言葉を鼻で笑った『人形師』のパイロットだったが、次の瞬間センサーから警告音が鳴り響いた。それにつられる様にして、空を見上げた彼女の目に映ったのは…

 

 

 

「潰れろ、蛆虫」

 

 

 

---視界一杯に広がる、自分目掛けて急降下してきたラファールの足の裏だった…

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「うわぁ、凄ぇ痛そう…」

 

「正直、ちょっと殺っちゃったかと思った…」

 

「オイ」

 

 

 さっきのマドカの攻撃によりエネルギーが底を尽き、ISを強制解除された人形師のパイロット。先程の衝撃によって砂浜に出来たクレーターの中で白目を向いているが、一応息はしていた。

 

 

「それにしても、本当にコレってデモンストレーションって言葉で皆を誤魔化せられるのか…?」

 

「さぁ?楯無とオランジュの口車次第だろ。それに『後の事はコッチでどうにかするから、全力で潰せ』って言ったのはアイツらだし…」

 

 

 昼食が終わり、実習を再開したIS学園生徒一同。専用機組は千冬達と別の場所へ、今は自分の機体を持ってないマドカは一般生徒達と共に実習を受けていた。そんな時だった…楯無がセヴァス達に事の真相を教え、協力を求めてきたのは……

 

 

「途中から一夏達のIS装備とは違う銃声やら爆音が聴こえると思ったら、まさかそういう事だったとはなぁ……俺はてっきり、亡国機業への再勧誘しに来たのかと…」

 

 

 今の平穏を脅かす者には、容赦はしない。その思いに偽りは無く、どこまでも本気だ。そして、そんな自分をまた亡国機業に誘おうとしている…そう思い込んでしまったが故に、昨夜はオランジュに対して敵意を向けてしまったが、楯無に話を聞かされた途端に申し訳ない気持ちで一杯になった。彼には後でしっかりと謝っておこう…

 

 

「ま、何にせよコレで俺達が手伝えることは終わり。後は旦那と姉御達に任せて、とっとと戻るか…」

 

「そうだな…」

 

 

 そう言って二人は踵を返し、楯無の言葉を鵜呑みにしてセヴァスとマドカの立ち回りを終始楽しんでいた皆の元へ戻っていった

 

 

 

 

---心から気に入っている、今の自分達の居場所へと…

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「特殊部隊からの応答が全て無くなりました!!」

 

「トムキャット1、2共にシグナルロスト!! 撃墜された模様です!!」

 

「限界時間まで残り5分を切りました!! もうじき海上保安庁の巡視船が来ます!!」

 

「か、艦長…!!」

 

 

 先行させた特殊部隊、隠し玉である二機のISの信号途絶…ブリッジに寄せられていくる情報はどれもこれも最悪なものばかりであり、副官から困惑と焦りの視線を向けられたベケット艦長も、これには流石に苦い表情を浮かべて呻るしか無かった。

 

 

「……どうしてこうなった…」

 

 

 アラクネの強奪、銀の福音の暴走、秘密基地の襲撃、亡国機業内戦時の大損害…ここ数年、失態ばかり繰り返している今の政権には、もう後が無いのだ。野党の勢いは留まるところを知らず、対してこちらは国民からの支持も殆ど無くなりつつある。ここで何かしらの成果を残せなければ、自分達は国の舵取り役の座を降ろされる羽目になるだろう。それを危惧した一部の議員たちは、『亡国機業残党の殲滅』と『現IS学園3年生とのコネクション形成』という成果を残すべく今回の暴挙に出た。

 去年の騒乱の際に本国にも何体か出現した無人機…それを撃破し、確保した未登録コアを使用して作られた『空の人形師』。流石に国家代表やテストパイロットを連れ出す事は叶わなかったが、先進国は質はともかくIS操縦者の数に事欠かない。これに加え最新鋭の原子力潜水艦、それに乗り込むに値する精鋭達と茶番にしては過剰なくらいの戦力を自分は任された。今まで似た様な厄介事や依頼を何度も寄越されてきたが、ここまで奮発して貰ったのは初めてだ。故に今回はより一層の気合を入れ、全てを成功させるべく念入りに計画を立てた。そして、何の問題も支障も無く作戦は開始されたのだが…

 

 

―――結果はこのザマである…

 

 

「さて、どうするべきか…」

 

 

 このままモタモタしていたら先の部下の報告の通り、海上保安庁の船と鉢合わせする可能性が大きい。あからさまに領海侵犯を犯している為、見つかると国家規模で面倒な事態になるのだ。本来ならば『誘拐された生徒の救出の為に止むを得ず』という建前を使って開き直る予定だったが、残党役に扮する肝心の特殊部隊からの応答は無くなり、切り札のISも反応を消失させるという緊急事態が発生する始末。襲撃犯の存在しない平和な臨界実習に、いったいどのツラ下げてその建前を使えと言うのか?

 しかし何にせよ、この作戦はもう失敗したと思った方が良い。特殊部隊とIS部隊が同時に音信不通になったという事実は、通信機のトラブル等という間抜けな理由では片付かない。誰の手による物なのかは分からないが、恐らく全員撃退されたのだろう。今回の妨害工作がIS学園によるものならば、政治家達がお得意の棚上げ論で抗議するだろうし、違うのであれば次回にでもこの雪辱を晴らすまで。艦の位置を察知される可能性がある今、自分が取るべき最善の選択肢は撤退の二文字だけであろう…

 

 

「艦を百八十度転回!! これより、この海域から撤退す…」

 

『もしも~し、こちらIS学園交渉窓口担当官のオランジュで~す。そちらはアメリカ合衆国所属のポセイドン号であってますか~?』

 

「な、何…!?」

 

「外部からの通信です…!!」

 

「誰だ貴様は!?」

 

 

 撤退の指示を出そうとしたまさにその時、ベケット艦長に割り込むようにして艦内に響いた軽薄な男の声。一瞬にしてブリッジは驚きと困惑に包まれ、今まさにここから引き上げようとしていたポセイドン号の乗組員たちは出鼻を挫かれてしまった。ベケットは通信士に目を向けてみると、彼は明らかに混乱した表情を受かべていた。どうやら、艦の通信システムを半ば乗っ取る形で繋いできた様だ…

 しかもこの声の主…オランジュとか言った若造の声に、ベケットは自然と苛立ちを覚えるほどに聴き覚えがあった。この様な裏仕事を任されるようになってから相当の年月が経ったが、コイツはその中盤辺りからの付き合いになるのではなかろうか?

 

 

「この耳障りな声と喋り方……お前、ファントムだな…?」

 

『おやおや、そういう貴方はベケット大佐じゃありませんか。ご無沙汰しております~』

 

「ふん……そういえば、IS学園の預かりになったと聴いたな…」

 

 

 『ファントム』…ある者は傍若無人なチンピラと、またある者には社交的な紳士、さらには忠義に熱い腹心等と称され、性格と特徴が全く定まらない正体不明の犯罪者。利用するつもりで彼に接触した結果、逆に利用されるだけされて食い潰された裏組織は数えきれない程である。一昨年なんて中国の過激派暗部である『影剣』が護衛していた当時の国家主席と共に高層ビルの崩壊に巻き込まれ、二つの意味で潰れたという事件があったが……コイツとその仲間達の仕業であると言われている…

 幸い自分は引き際を弁えていたので、早々にこの亡霊からは手を切った。そもそも、この胡散臭い雰囲気と態度がどうにも昔から気に入らなかったのだ。仕事は確かに出来る奴だが、不愉快だ。

 

 

「それで?いったい、我々に何の用だ?」

 

『いえね、先程こちらで不審な武装集団とISを確認したんですよ。武装集団は既に壊滅しており、ISの方は此方の呼び掛けに一切応じなかったので撃退しましたが…』

 

「……それがどうかしたか…?」

 

『そのISのパイロットに正体を問い詰めたところ、彼女はアメリカに所属している事を白状致しました。送り届けるにも手続きとか面倒なので、丁度近くに居る貴方達に引き取って貰いたいんですよ』

 

 

 近くにあった機材を殴りたい衝動に駆られたが、どうにか耐える。議員の身内な上にただの学園卒業生というだけで不安だったが、まさかこうも簡単に口を割るとは思わなかった。非公式な上に非常識な作戦な為、候補生やテストパイロットを利用できないのは理解できるが、もう少しマシな奴を寄越して欲しかった…

 

 

「よもや、その言葉を鵜呑みにしたわけではあるまいな?」

 

『えぇ、勿論です。“大事なISコアが懸かってます”ので、ちゃんとアメリカ政府に確認を取りましたよ?そしたら思いのほか早く返事が返ってきた上に、貴方達の存在まで教えて下さいました』

 

 

 今度は我慢できず、頭を抑えてその場に崩れ落ちてしまった。副官が慌てて駆け寄って支えてくれたが、最早それどころでは無い。コイツの言葉から察するに、政府はこの秘密部隊を秘匿する気は一切無いようだ。幾ら学園側や諸外国が抗議しようが、本国政府が自分達の存在を認めなければどうとにでも言い逃れ出来るというのに、上の連中は貴重なISコアをチラつかされた事によってあっさり釣られてしまったのだ。

 確かに彼女らの身元を保証せねば、回収されたコアは国際IS委員会の元に送られてしまったかもしれない。彼女らをテロリストに仕立て上げ、後から『奪われたモノ』として返却を要求したところでアレは未登録のコア、米国の所有物である証明が出来ない。

 

 

『何でも貴方達は、亡国機業の残党追撃の命を受けてここに居るんですって?お勤め、ご苦労様です……結果は散々のようですが…』

 

「黙れ。そして、何が望みだ?」

 

 

 流石に何をしようとしていたかまでは喋らなかったようだが、ここまで来ると何を要求されるのか考えるだけで恐ろしい。国が存在を認めてしまったので『居ない筈の部隊』なんて言い訳は出来ず、捕虜になったパイロットや隊員達の言葉をデマカセと断じる事も出来ない。早い話…

 

 

―――詰んだ…

 

 

『だから言ってるじゃないですか、彼らを引き取って下さいよ』

 

「なに…?」

 

『学園側としても、日本政府としても厄介事は嫌なんです。というわけで、御互い何も無かった事にして無難に解決しましょう。そうすればホラ、皆笑顔ですよ?』

 

「……」

 

 

 正直、自分の耳を疑った。自分達を見逃すという意味合いの言葉を、この男はこうもあっさりと口にしたのである。外道染みた手口で名を馳せた、あのファントムが…

 

 

「正気か貴様…?」

 

『至って正気ですよ。で、どうするんですか?別に彼らには、色々と“記録が残る”手続きをして貰ってから帰って頂いてもよろしいのですが…?』

 

「……選択の余地は無しか…」

 

 

 『事を秘密裏に終わらせたくないのか?』と暗に言われれば、黙って従う他に無い。作戦は失敗に終わり、その事実を一部の者達に知られるのは少々痛い。しかし負傷者は続出したが死人は出ていない様で、ISのコアも辛うじて無事。この艦も無傷なので、まだ最悪の結果には程遠いだろう…

 

 

「分かった。そちらの要求…いや、提案を呑もう。ただし、負傷者の回収地点はこちらが指定する」

 

『御賢明な判断に感謝します。では、座標が決まりましたら御一報くださいませ……あ、それともう一つ…』

 

「何かね…?」

 

『亡国機業残党によるそちらの被害に関しましては、学園側は一切責任を取らない事になっております。そこはアメリカ政府も承諾していますので、くれぐれも御了承下さいますように…』

 

「……ふん、分かった…」

 

『では、今度こそ失礼します…』

 

 

 その言葉と同時に通信は切られ、ブリッジに一時の静寂が訪れた。しかしその静寂もすぐに消え、乗組員たちの慌ただしい声と情報伝達によって次第に元の騒がしさを取り戻していく。ファントムとのやり取りを終えたベケットは疲れがドッと出て来たのか、艦長席に身を投げるようにして腰を下ろした…

 

 

「艦長、どうなさるので…?」

 

「従うしかあるまい…。被害が負傷者多数、死者ゼロで済んでいるのだ。この程度なら次の総選挙で議員達の首が根こそぎ跳ぶ前に、汚名返上出来るだろう…」

 

 

 気まぐれか何かは知らないが、今回は助けて貰ったと思って良いだろう。今回の作戦を邪魔した連中が学園側であろうが本物の残党であろうが、自分達の首が繋がっている内に必ず再戦の機会に巡り合える筈である。

 

 

「では副長、後は任せた…」

 

「ハッ!! 進路を南西に取り、全速前進!!」

 

「アイアイ・サー」

 

 

 副長からの指示により、操舵手や機関士を筆頭とする乗組員たちが動き始める。それに合わせ、この艦もまたゆっくりと動き出した。そして…

 

 

 

―――艦が爆撃されたかのような揺れに襲われた…

 

 

 

「な、何事だ!?」

 

「敵から攻撃を受けた模様!! 左舷に大穴が空けられました!!」

 

「現在左舷BブロックからCブロックが激しく浸水中!!」

 

「隔壁閉鎖!! ダメージコントロール急げ!!」

 

 

 突然の事態に大騒ぎになるブリッジ。しかし流石は精鋭揃いなだけあってか、対応は早かった。速やかに情報は伝達され、次々と処理されていく。が、クルーの一人の悲痛な叫びによって、全員の手が一端止まる事になる…

 

 

「こ、この反応……艦内にISが侵入しているぞ!!」

 

「何だと!?」

 

「索敵班は何をしていた!?」

 

「データ称号完了!! 敵は亡国機業の『スコール』です!!」

 

 

 まさかの事態に騒然となるブリッジだったが、そんな中…ベケット艦長だけは別の理由で呆然としていた。彼は敵が亡国機業であると分かった瞬間、ファントムが…オランジュが去り際に言った言葉を自然と思い出す羽目になった…

 

 

 

―――亡国機業残党によるそちらの被害に関しましては、学園側は一切責任を取らない事になっております

 

 

 

「……あのガキ、最初から我々を見逃す気なんて…」

 

「右舷より新たなISの反応!! 真っ直ぐに此方へ突っ込んできます!!」

 

「去年に確認された水中用ISかッ!!」

 

「駄目です!! 回避間に合いません!!」

 

 

 部下たちの叫びを飲み込むようにして、二回目の衝撃が艦を襲う。今度は先程のものより強烈で、座って無かった者は宙を舞う羽目になった…

 

 

「被害状況を知らせろ!!」

 

「至近距離で魚雷を叩き込まれた模様!! 左舷と合わせて被害甚大です!!」

 

「ダメージレベル限界点を突破!! このままじゃ沈みます!!」

 

「か、艦長…!!」

 

 

 部下たちの報告を聴いて脂汗を流すベケットの頭に、見たことも無い筈のオランジュの顔がぼんやりと浮かんできた。大人を舐め切った態度を見せるその小僧は、此方をとことん見下すかのような目を向けながら口を開きただ一言、こう言ってきた…

 

 

 

 

 

 

―――勝てると思ったか…?

 

 

 

 

 

「そ、総員退艦!!脱出ポッドへ急げえええええぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 ベケットが叫んだのと、スコール達の手によって艦のエンジンが破壊されたのは殆ど同時だった。幸い乗組員たちは一人残らず脱出できたものの、この一件でアメリカは第三世代機を二機、ISコアを一つ、さらには秘密特捜艦を丸ごと一隻失うという大損害を被った。

 それに加え、被害の原因がテロリストに返り討ちに遭ったからという情けない事実まで世界中に広がってしまい、現アメリカ政府の議員達の命運は尽きたも同然であった…

 

 

「あれ?ISコアは全部返すんじゃ…」

 

「あぁ、全部返すさ。“学園側が回収出来た”物はな…」

 

「……タチ悪ッ…」

 

 

 




阿呆専門が阿呆やりませんでしたwww
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