アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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いよいよ学園編ラストです!!しかし、時間が無くて最後が超駆け足になったので少し雑になってしまいました…;

その内修正したり、裏方組(オランジュや楯無とか)のオマケ描写を加える予定です…


IF未来 続・学園編 ラスト

 

『やってくれたね…』

 

「はて、何の事やら皆目見当が付かないな……心当たりが多すぎて…」

 

 

 日が沈み始め、暁色に染まる空を浜辺で眺めながら、フォレストは自分の古臭い携帯電話で誰かと話し込んでいた。受話器の向こうから届いてくる声は若い女性のもので、機嫌の悪さを隠そうともしていない。そんな相手の不機嫌さを飄々と受け流し、彼は言葉を続ける。

 

 

「ISのコアネットワークに介入できなくしたこと? 世界中の電子回線に侵入できなくしたこと? それとも“コイツら”を壊した事かな…?」

 

『………』

 

 

 受話器から聴こえてくるギリリッという歯ぎしり音を耳にしながら、彼は周囲を見渡す。彼が佇む浜辺には現在、異形の形を持っていた鉄の塊…無人IS『ゴーレムシリーズ』の最新版が6機ほど転がっていた。幸い彼が居る場所は臨海実習の実地場所から離れており、学園の生徒や旅館の従業員は殆ど居ない。

 

 

『ちょっと時間掛かったね~』

 

「でも根本は変わらないから、まだまだ余裕だよ~」

 

 

 もっとも、その全てがIS学園のホラーコンビに破壊されてたが。残骸を突っつきながら呟かれた布仏本音と亡霊の言葉には、一時的にとは言え彼女達と協力関係を結んだフォレストも流石に苦笑を浮かべるしかない。頼もしいと思う反面、絶対に敵に回してはならないと改めて認識する。

 そう思った矢先、相手が再度言葉を紡ぎ始めた。そもそも、フォレストに電話を掛けてきたのは向こうである。多分一夏達のISを暴走させて事件を起こすことが出来ず、世界中のミサイル発射施設をハッキングする事も出来ず、譲歩してアメリカの暗躍を陰で支援しながら事件を巻き起こそうとした結果、全てフォレスト達の手によって未然に防がれてしまった事に対し、悪態でも吐きに来たのだろう…

 

 

『調子に乗っていられるのも、今だけだよ』

 

「あれ、おかしいな? 去年も同じセリフを聴いた気がするよ?」

 

『……自分の家を壊されといてよく言うよ…』

 

 

 吐き捨てるように呟かれた言葉を聴いた瞬間、向こうにいる彼女が嘲笑を浮かべている光景が頭に浮かんだ。『家』というのは去年に表向き崩壊した亡国機業の事であり、その事を皮肉ったのだろう。

 

 

「家を壊された?……あぁ、去年の内戦のことか!! 君が馬鹿どもを焚きつけてくれた御蔭で、頭でっかちな無能を退場させる事が出来たアレの事か!!」

 

『……え…』

 

 

 しかしそんな彼女の嘲りすら、彼には無意味だった。この戸惑いを多分に含んだ間の抜けた声を彼女の事を知っている者が聴いたら、本物であるかどうか疑ったかもしれない。

 実際、フォレストの言葉は別に強がりでも何でないことも事実。確かに去年の内戦を機に、電話一本で大国を動かせた全盛期と比べて弱体化したのは否定できない。しかし直属や子飼いの部下は誰一人欠けておらず、それどころか他の派閥の貴重な人材も手に入れる事が出来た。全体の数こそ減ったが、質はあの時とは比べ物にならなくなっていたのである…

 

 

「いやぁ、本当にありがとう!! 君は恩人だぁ!! あっははははははは!!」

 

『……本当にムカつくな、お前…』

 

「当たり前だ、怒らす気で言ってるんだもん」

 

 

 フォレストが会話している相手が誰だか分かったら、世界各国は血眼になって彼らと接触を図るだろう。それ程までに、この電話の向こうに居る彼女は超が付く大物だが、正直な話フォレストにとって目障り以外の何物でも無い。それはあっちも同じようで、そこに関しては互いに気が合うとも言える。

 

 

『精々、その拾った“出来損ない”と一緒に自惚れてればいいさ…』

 

「『大切な人間=大事な実験対象』の構図が出来てる君より、彼女の方がよっぽど人間は出来てるよ」

 

『……』

 

「僕は別に誰がどこで何しようが気にしないタチだけどさ、僕の周りや身内を巻き込むのやめて欲しい訳だ。で、その身内には君の実験動物も含まれてるんだよ」

 

『実験動物って、ちーちゃんやほーちゃん、いっ君のこと?……だとしたら、本気で潰すよ…?』

 

「すっとぼけているのか無自覚なのかは知らないが、君が彼女らに向ける愛は良い結果を出すモルモットに対するソレと一緒だよ」

 

 

 確証や証拠は無いが、フォレストは彼女がそういう人間であると思っている。表も裏も含めた今までの彼女の行動を見ている限り、彼女の愛情表現は歪んでいる。歪んでいるが、馬鹿でも無能でも無い。そんな彼女が引き起こした事件の数々から考えるに、彼女の目的は恐らく…

 

 

「ま、とにかくだ……君が好き勝手出来る時代は、もう終わり。そろそろこの世界を返して貰おうか…」

 

『……勝手に言ってれば?お前なんかが、束さんに勝てるとは思えないけどね…』

 

「勝てるさ。世界から逃げる為に世界を変えた、人生の負け犬にならね…」

 

『ッ…!!』

 

「それでは御機嫌よう、“自称”天才様…?」

 

 

 癇癪と携帯電話を床にブン投げて叩き付ける音と共に、通話は切られた。かなり前から彼女…篠ノ之束博士には目障りな奴と認識されていたみたいだが、フォレストとしても実質この世界を掌握していた彼女を忌々しく思っていた。そんな彼女の事を嫌う彼だからこそ、この前の思わぬ拾い者…束博士が『出来損ない』と称した彼女は素晴らしい存在である。なんて事を考えていたその時、彼の背後に布仏本音とも東明日斗とも違う気配が現れた…

 

 

「…おっと、途中で電話を代わるべきだったかな?」

 

「いや、どうせまたすぐに掛かってくる……こっちの事なんてお構いなしに、な…」

 

 

 件の篠ノ之博士の親友である、織斑千冬だ。実習も講義も終わり、裏方仕事の結果を尋ねに来たところで今のやり取りに遭遇したようである。だが、それほどリアクションは大きくなかった。篠ノ之束の事に関しては、彼女にとって大抵の事が今更な事なのだろう…

 

 

「それで、どうなったんだ…?」

 

「先行した特殊部隊とIS一機、それと母艦は僕の仲間達が沈めた。沈めた母艦の乗組員は全員日本政府に保護させたし、契約通り死者は一人も出て無いよ」

 

「そうか…」

 

「もう一機のISは、セイスとエムが撃退してくれたんだって?本当に相変わらずのようで、良かった良かった…」

 

「……また勧誘したくなったか…?」

 

「いや、逆だよ。確かに表世界に上手く馴染めず、自分を押し殺してるくらいなら裏世界に連れ帰るつもりだったさ。だけど、昨日の彼らを見たら安心した…」

 

 

 思い出すのは、海で一夏達と楽しくやってるセヴァスとマドカ。裏世界で産まれ、育ってきたあの二人の心配は杞憂に終わった。闇社会での過去を否定せず、囚われず、己の全てを肯定しながら未来を受け入れる二人の表情は、どこまでも眩しかった。

 

 

 

―――やはり彼らの生きるべき場所は、自分達の居場所とは違う…

 

 

 

「だから改めて言うけど、二人をこれからもヨロシク頼むよ…」

 

「先程スコールにも同じことを言われたし、こう返したが……当然だ。そして今まで二人の面倒を見てくれたこと、感謝している。本当に、ありがとう…」

 

 

 千冬はフォレストの言葉に対して不敵に笑って返したあと、表情を改めて深々と頭を下げた。何だかんだ言って今日まで碌にこの言葉を言えなかったのだが、やっとその機会に巡り合えたのだ。そんな彼女からのケジメを、彼は無言で受け取った。そして、そのケジメが受け入れられた事を察した千冬が頭を上げたのを気に、フォレストは口を開く。

 

 

「……さて、そろそろ僕たちはお暇しようかな……」

 

「もう帰るのか? もう一度くらい、セヴァス達と話していけば…」

 

「いや、良いさ。どうせ、またすぐに会いに行くからさ」

 

「……そうか…」

 

 

 千冬が続けて何かを言おうとしたが、その先は言葉が出なかった。何故なら、突如として海が音を立てながら揺れ始めたのである。陸地は揺れていないので、地震では無いようだが…

 急の事に思わず身構える千冬と、それに反して至って冷静なフォレスト。そんな二人の目の前で、海を割る様にして水柱を上げながら、巨大な何かが出現した。その正体は、戦艦並に巨大な潜水艦だった…

 

 

『旦那ぁ、お迎えに上がりました~!!』

 

「バンビーノか…ご苦労さん」

 

「うわ大きい~!! あすち~もこういうの好き?」

 

『巨大戦艦は男のロマン!!』

 

「な…これは『ポセイドン』号じゃないか!?」

 

 

 楯無に渡されたデータに掲載されていた、今回の臨海実習を襲撃する予定だった米軍所属の秘密特捜艦。先程スコール達によって沈められ、乗組員が一人も居ない状態で海底に沈んだ筈の巨艦が二人の目の前に新品同様の状態でその姿を見せていた。流石の世界最強も、数時間ほど前に沈められた筈の艦がいきなり出現しては動揺を隠せなかったようである……最恐コンビは普通に興奮してたが…

 

 

「ど、どういう事だ…?」

 

「どういう事って…これ、僕たちの今回の報酬」

 

「は…?」

 

「楯無の嬢ちゃんとの契約でね、今回の仕事の報酬は沈めた艦を僕たちの好きにして良いってことなったのさ。現金払いにすると、確実に君たちの給料がカットされる額になるからね…」

 

 

 何せ今回の仕事はISも相手にしなければならなかったのだ、消費した装備の金額だけでもかなりの物になってしまう。当然ながらそんな額、楯無のポケットマネーはおろか更識家そのものにも辛い。というわけで、今回の報酬内容がコレになったのだが…

 

 

「それは分かったが……さっき沈めたばかりの艦を、どうやって修繕した…?」

 

「あぁ、それはね…」

 

『あ、ちょッ!? 『月(ルナ)』ちゃん駄目だってば!!』

 

『バンちゃんの意地悪!! ルナちゃんも森さんとお話したい~!!』

 

 

 何やら艦のスピーカー越しから聴こえてきた騒ぎ声。一人は若い男の声だったが、もう一人の声は若いを通り越してどこか幼い少女の声だった。しかしその声を聴いた瞬間、フォレストの隣に立っていた千冬は驚きで目を見開いていた。だが無理も無い、何せその少女の声は…

 

 

『駄目だって!! 森さんは今大切なお話中なの!!』

 

『むぅ……分かった、我慢する…』

 

 

 まるで完全に子供とそれを叱る保護者の会話に、フォレストは思わず苦笑を漏らす。けれど、その苦笑はどこか楽しげだ…

 

 

「あぁ、大丈夫だよバンビーノにルナ。もう話は終わってるから」

 

『本当!? ねぇねぇ森さん見て見て!! ルナちゃん頑張ったよ、この潜水艦を10分で直して魔改造したよ!! 凄い!? ルナちゃん凄い!?』

 

「うん、凄い。良く頑張ってくれたね、ルナちゃんは偉い子だ…!!」

 

『森さんに褒められた!! やったよバンちゃん、ルナちゃん褒めて貰えたよ!!』

 

『おぉう、流石だルナちゃん!! 天災なんて目じゃないぜ!!』

 

 

 どうやら、この少女が全てをやってのけたらしい。余談だが、ティーガー達が使った『疑似AIC』や『携帯用盾殺し』も、この少女が手掛けたものだったりする。

 その事を知ってようが知らなかろうが、千冬が彼女の声に驚愕するのは変わらなかったろう。明らかに驚愕した表情を浮かべ、驚きによって言葉が出ないまま口をパクパクする世界最強は中々にツボに入りそうで笑いを堪えるのに必死である。だが漸く落ち着いたのか、ぎこちない動きでこっちを向きながら訊ねてきた…

 

 

「あれは……彼女は何者だ…?」

 

「エム…いや、マドカのような存在が居たんだ。ならば天災のそういうのが居ても、別に不思議じゃないだろう? 束博士は彼女の存在を、心底嫌がってたみたいだけどね…」

 

「……そういう事か…」

 

「今日はドタバタしてたせいで無理だったけど、いつかセヴァス達と会わせたいものだよ。きっと仲良くなれるし、何より本人が二人に会いたがってる……特に、マドカと…」

 

 

 去年の騒動の最中、フォレスト達はこの少女と出会った。まだ幼かった彼女はこの世の全てに恐怖していたが、幸いフォレスト達に出会った事で歪むことは無かった。フォレスト一派の気質もあって、彼女はすぐさま馴染んでいったのである。セヴァスやマドカ達の武勇伝を聴きかされながら日常を送るこの少女は現在、篠ノ之束に対するフォレスト一派の切り札であり、大切な仲間である。紛い物を嫌悪する束博士の事だ、必ず彼女の存在を消し去ろうとするだろうが、その時はフォレスト一派全員が本気で相手になってやろう…

 

 

「しかし…こうなるのは予想していたが、なんて顔をしているんだ……ククッ…」

 

「う、うるさい!!」

 

 

 

―――生きる理由を探していた者

 

 

―――揺るぎ無い己を探していた者

 

 

―――今の居場所を愛する者

 

 

―――己の価値を見定めたい者

 

 

―――親に売られた過去を買い戻したい者

 

 

―――自分の元には、様々な意思を持った者が訪れる。時には与え、時には与えて貰う。その繰り返しは、決して己を退屈させない。決して飽きさせない…

 

 

―――常に己の人生に、鮮やかで煌びやかな充実感を感じさせてくれる…

 

 

 

「……さぁルナちゃん、初めて会った人には…?」

 

『自己紹介!! 私の名前はルナ、8歳です!! 好きなものはイチゴパフェ!! 将来の夢はオリジナルである篠ノ之束に技術面で勝った後に(ピー)して(バキューン)することです!! 他の面では本物に圧勝してるらしいので、それ以外は眼中に無いです!!』

 

『はい、良く出来ました!!』

 

『わ~い、褒められた~♪ ところでバンちゃん、(ピー)と(バキューン)って何?』

 

「……バンビーノ、彼女の教育担当者である君に後で話がある…」

 

 

 

 

 

―――やはりこの世界は、まだまだ楽しい事で満ち溢れている…

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「良いのか?最後に一目会いにいかなくて……恩人なんだろ…?」

 

「旦那達のことだ、どうせまたすぐに会いに来てくれるさ」

 

「そうか…」

 

 

 臨海実習も終わり、今は夕方。風呂は女子の入浴時間なので入れず、夕飯にはまだ時間がある。唯一の男子生徒である一夏は勿論の事、最早ただの宿泊客と同じ扱いを受け始めたセヴァスも暇を持て余していた。取り敢えず理由は違えど、互いに汗をかいたので風呂に入りたいのが本音だった。しかしそれは先程も言った通り、入浴は時間割のせいで無理だ……そこで、セヴァスが思いついたのが…

 

 

「しかし、良い眺めだな…」 

 

「確かにな。昨日入った旅館の温泉も良いけど、これはこれで…」

 

 

 

―――ひと気の少ない浜辺にて、野郎二人がドラム缶風呂…

 

 

 

 温泉に空きが無いなら作れば良いじゃない。そんなノリでセヴァスはドラム缶を何処かから調達してきて、あれよあれよという間にこの即席ドラム缶風呂をこしらえてしまったのだ。その最中に彼に遭遇した風呂好きの一夏も悪乗りし、今はこの汗臭い男二人で夕日を眺めながらノンビリ入浴中である。

 

 

「千冬姉にバレたらシバかれるかな…」

 

「俺は生徒じゃないからモーマンタイ。シバかれるなら、お前一人だ」

 

「う、裏切り者!?」

 

 

 こんな場所に来てまで何をしてるんだと我ながら思うが、とにかく色々あって疲れたのだ。米軍の馬鹿野郎共を撃退して後始末をオランジュと楯無に任せ、そのまま何事もなく実習が無事に終了した後、仕事を終えたかつての仲間達と鉢合わせしたのだ…

 

 

『よぉ、久しぶりだなセイス!!』

 

『元気にしてたかこの野郎!!』

 

『エムとラブラブだって?このリア充めッ!!』

 

『ちょ、やめッ!!…皆が見てッ…!!』

 

『お、また身長伸びたんじゃね?』

 

『こりゃ毛の分でタコが抜かされるのも時間の問題ですねぇ…』

 

『おいコラ、何か言ったかメテオラ…?』

 

『恥ずかしいから皆で頭をワシャワシャすんのやめろーーーーーーー!!』

 

 

 IS学園の生徒達でいっぱいな場所で、周りの視線など御構い無しでもみくちゃにされてしまった…。生徒達の注目がある程度集まったのを確認した瞬間に帰って行ったあたり、絶対にワザとだと思う。超が付くほど恥ずかしかったが、何だかんだ言ってちょっと懐かしくて嬉しかった…

 

 

「……皆、元気で良かったよ…」

 

「やっぱり、さっきの人達って…」

 

「そうだよ。俺の仲間……いや、家族だよ…」

 

 

 碌でも無い生まれ方をしたせいで、生みの親は最悪な奴だった。だからこそ自分を拾い、育て、共に生きてきた彼らはセヴァスにとって、掛け替えのない家族である。血の繋がりは一滴たりとも無いが、そんなものは関係ない…

 

 

「あら、嬉しい事を言ってくれるじゃない…?」

 

「え…?」

 

「え゛…?」

 

 

 今、IS学園の女子達は入浴中の筈…その時間帯が終わるまで、まだまだ時間は残っている。しかも、ここは地元の人でさえ殆ど来ない穴場的な場所。そんな場所に居るにも関わらず聴こえてきた妙齢な女性の声は、いったい誰のものだろうか……いや、何となくは分かっているけども…

 

 

―――そして案の定、寂びたブリキ人形の如くギギギと後ろを振り向いたら居た。しかも、オマケ付き… 

 

 

「あ、姉御おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「ていうかマドカまで居るうううううううぅぅぅぅ!?」

 

「何だ、居て悪いか?」

 

 

 セヴァス達の後ろに打ち上げられた流木に、スコールとマドカが並んで腰を降ろしてこっちを見てた。スコールはあのふざけた制服からいつものスーツに戻っており、マドカは旅館の浴衣を着ていた。二人は何食わぬ顔でこっちを見てるが、こちとらドラム缶風呂に入ってるとは言えまっぱの状態である。正直言って、冷静でいろと言う方が無理である……いったい、いつから居たのだろうか…?

 

 

「一夏が『おぉ、湯加減最高!!』って言ったあたりだな」

 

「それ服脱いだあたりから見てたって事じゃねぇかああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 

 マドカはともかく、姉御に見られてたとかマジで羞恥心マックスなんですけど。俺以上にウブな一夏もかなり凹み、浜辺に佇む二つのドラム缶に影が差した。因みに、念のため周囲を見渡したら、かなり離れた場所に両膝抱えて黄昏ているオータムも居た。姉御曰く、今日の作戦で殆ど役立たずだったことを気にして落ち込んでいるとか…

 

 

「……いや、それよりもマドカ…」

 

「何だ?」

 

「お前の後ろにあるドラム缶は何だ…?」

 

「風呂」

 

「え、何?もしかして、ここで入る気…?」

 

「何か問題あるか、彼氏と兄さんよ…」

 

「「いやいやいやいや…」」

 

 

 

―――本気で不思議そうな表情を浮かべて言いなすったよ、この子…

 

 

 

 時たま冗談なのか本気なのか分からない時があるが、今回は本気のようである。マドカは言うだけ言って立ち上がり、後ろに置いてあったドラム缶風呂セットを抱えながらテクテクと此方に歩み寄り…

 

 

「という訳で……どけ、一夏…」

 

「は? って、うおおおぉぉ!?」

 

 

 惚れ惚れする様なミドルキックで、ドラム缶ごと一夏を蹴り倒した。お湯をまき散らし、情けない声を出しながらぶっ倒れた一夏は顔面から砂浜に突っ込んだ。すぐさなマドカに詰め寄って文句を言おうとしたが、裸のままなのを思い出して倒れたドラムに入ったまま、顔だけ向けて抗議の声を上げる。

 

 

「な、何しやがる!?」

 

「もう充分に堪能しただろう?それに、セヴァスの隣は私の場所だ……どけ…」

 

「百歩譲ってそうだとしても、ドラム缶譲れとか一言くらい言ってくれても…!!」

 

「お兄ちゃんが入った後の湯船なんて入りたくなーい」

 

「棒読みだってのになんつー高威力!?」

 

 

 俺と姉御の目の前で急遽開始された兄妹喧嘩。支離滅裂なマドカに対し、『もっと慎みを持て』だの『おしとやかになれ』だの段々と説教臭い言葉が増えていく一夏。そんな一夏がいい加減に鬱陶しくなったのだろうか、マドカは少し面倒くさそうな表情を浮かべ、奥の手を使った…

 

 

「そもそも、お前はいつも…」

 

「ところで一夏…」

 

「ん…?」

 

「さっき、姉さんが半ギレ状態でお前のこと捜してたぞ?」

 

「なん…だと…?」

 

「何をやらかしたか知らないが……ま、精々死なないようにな…?」

 

「そ、そう言う事は先に言ええええぇぇ!!」

 

 

 マドカのその言葉に顔を青くした一夏は慌ててドラム缶から這い出し、傍に置いてあった自分の着替えを手に取った。そして数秒で衣服を身に纏い、俺達に見向きもせず速攻で旅館の方へと駆け出した。

 

 そして、全力で旅館の方へと走り去っていく一夏の背中を見送りながら、マドカはボソリと呟く…

 

 

 

「姉さんがお前を捜してると言ったな……あれは嘘だ…」

 

 

 

―――マドカェ…

 

 

 

「これで邪魔者は消えた」

 

「なんて清々しい顔だよ…つーか、実の兄(暫定)に対してなんちゅう接し方を……」

 

「織斑家ではこんなの日常茶飯事だ。さてそれよりも、そろそろ良いか…」

 

 

 一夏をどけた場所で沸かし始めた自分のドラム缶の中に手を突っ込み、湯加減を確かめた彼女は言うや否や自分の浴衣に手をやって脱ぎ始めた。羽織を外して畳んで近くに置き、次に腰に巻いた帯に手を伸ばす……その一連の動きには全くと言って良いぐらいに躊躇が無く、思わず狼狽えてしまった…

 

 

「おいおいマジで一緒に入る気か…?」

 

「一緒に入るの、嫌か…?」

 

「むしろ大歓迎っす」

 

「素直でよろしい」

 

 

 上目使いでそんなこと言われたら建前とかモラルとかが一瞬で消し飛んだ。恐るべし、彼女の上目使い&反則的な誘惑…!!

 

 

「ふ、ふふふ……アッハハハハハハハハハハハハ…!!」 

 

「あ、姉御…?」

 

 

 割といつもの事になりつつある、マドカとのこういった感じのやり取り。それをさっきからずっと後ろで眺めていたスコールの姉御が、突然腹を抱えながら大笑いしていた。そういえば、フォレスト組の面子は俺達のやり取りを良く目撃していたみたいだけど、姉御はあまりその機会が無かったかもしれない… 

 

 

「ハハハハハッ!! あぁ可笑し…やっぱりあなた達は殺伐とした闇社会で生きるより、今みたいに平和ボケしていた方がお似合いよ…」

 

 

 その姉御の言葉に、俺もマドカも思わず黙ってしまう。姉御の言う闇社会で文字通り生まれた俺達は、表の世界で生活する未来なんて夢のまた夢だった。亡国機業に居た時には口にこそ出さなかったが、表の世界に対して少なからず憧れを持っていたのも事実だ。組織に入った当初、色々な派閥に勧誘されたにも関わらずフォレスト一派に所属する事をやめなかったのは、単に旦那に拾って貰った恩を返すためだけでなく、あの裏社会の住人とは思えないフォレスト一派特有の、あの明るい雰囲気に惹かれていたのかもしれない…

 

 

「何より、常に自分を押し殺してきたエムがこんなにも活き活きしているんだもの…今が幸せじゃないって言うのなら、嘘よ」

 

「スコール…」

 

 

 そして、マドカもまたこうやって表世界に生きる事を無意識の内に望んでいた。かつて彼女が一夏に対し向けていた憎悪の何割かは、不毛で殺伐とした世界で生きる自分とは真逆に、安穏と平和な日々を謳歌していた事に対する嫉妬から来ていたものかもしれないと、本人は言っていたが…

 それでもマドカは、千冬さんに復讐を果たすまではこの世界で生きていくと決めた。そんな彼女は他人に対して滅多に自分の本音や素顔を見せず、その殆どを己の弱味として隠してきた。スコールの姉御やオータムに対しては特に徹底的だった。それどころか俺達以外とは、碌に口を利こうとすらしなかった始末だ。

 

 姉御にとって、ここまで自分自身を曝け出すマドカの姿を見たのは、初めての事なのかもしれない。そしてその姉御の前で、ここまで遠慮しないマドカを見たのは俺も初めてだ。姉御の言う通り、本当に今のマドカは心から自分の人生を楽しんでいる…

 

 

「本当は少し心配していたのだけど、彼らの言う通りただの杞憂だったわね。あなた達二人はこのまま、堂々と明るい世界を歩いていきなさい…」

 

「……姉御…」

 

 

 今まで見せた表情の中で最も優しい微笑を浮かべ、俺達にそう言ってくれたスコールの姉御。俺達の気持ちを分かっていたからこそ、旦那達は俺達が表世界で生きて行けるように手を回してくれた。身寄りも後ろ盾も何も無い俺達に、居場所を表世界に作って送り出してくれた。だけど本音を言えば、あんなにあっさりと裏世界から身を退くことが許されて良いのかと不安を感じた。その原因は恐らく、ちゃんとしたケジメを付けなかったこと…いや、今まで世話になった人達と別れの言葉を交わさなかったことにより、自分の中で人生の区切りが付かなかったのだろう。

 

 だけど今の姉御の言葉により、心の中に何かがストンと収まった気がした。そして同時に、何故か目頭に熱い物が込み上げてくる。それはきっと今の言葉が、亡国機業を去る時に聞けなかった、そしてずっと聞きたかった『いってらっしゃい』に聞こえたからかもしれない…

 

 

「じゃあね二人とも、また縁があったら会いましょう…?」

 

「……スコール…!!」

 

 

 ちょっと泣きそうになって言葉に詰まってる内に、俺達に言うだけ言って帰ろうとした姉御をマドカが引き留めた。既にこちらに背を向けて去ろうとしていた姉御は歩みを止め、此方を振り向く。それと同時に姉御を呼び止めたマドカは、何故か慌てて目を逸らした。

 

 

「何かしら…?」

 

「いや、その…」

 

「…?」

 

「……今まで…ありがとう…」

 

 

 今までの接し方のせいもあり、この期に及んで素直に成り切れなかったマドカは姉御から視線を逸らしたまま顔を赤くして、たった一言そう呟いた。何だかんだ言って、マドカもスコールの姉御には長い間世話になったという自覚はあったのだ。そんな彼女に思わず俺も姉御もきょとんとしたが、すぐに姉御は苦笑を浮かべながらマドカに向き合った…

 

 

「あなた達姉妹って、本当にそっくりね……エム、精々元気でやりなさいよ…」

 

「……ああ…」

 

「姉御たちも、お元気で…」

 

「えぇ、ありがとう。それじゃあ改めて、またね二人とも」 

 

 

 それだけ言って再度俺達に背中を向け、今度こそスコールの姉御は去って行った(途中、しっかり黄昏オータムを回収して…)。その彼女の背中は、旦那や兄貴たちとはまた違った温かさと大きさを感じた。本人はどう思うか分からないが、旦那達を父親に例えるなら姉御は俺達の母親みたいな存在だった…

 

 

「母親にしては若過ぎだと思うが…?」

 

 

 ちゃぷんと控えめな水音とマドカの声がした方を向くと、彼女は既に隣のドラム缶風呂に入っていた。俺が姉御の背中を見送ってる間に入ったみたいだが、何ともちゃっかりした奴である。おまけにこの場所には俺と自分しか居ないからって、前をあんまり隠そうとしない。姉譲りの良く引き締まった身体がチラチラと見え、ちょっと落ち着かない……殴られるの覚悟で白状すると、こういった状況が日常茶飯事なせいで若干見慣れつつもあるが…

 

 そんな彼女の様子に思わずため息を吐いたが、気を取り直して即席露天風呂を再び堪能し始める。広がる光景はさっき変わらないが、今度は彼女と一緒なので雰囲気が大分違う。と、その時マドカがポツリと呟いた… 

 

 

「皆、相変わらずだったな…」 

 

「……あぁ、そうだな…」

 

 

 フォレストの旦那、ティーガーの兄貴、スコールの姉御、メテオラ、エイプリル、ストーン、アイゼン、オータム、バンビーノ…全員、昔と変わらず賑やかで元気にやっていた。今まで音信不通だった分、ちょっと安心した。

 

 

「今日、皆と会ってどうだった…?」

 

「どう、って?」

 

「……帰りたくなったか…?」

 

 

 反射的に彼女の方を向くと、どこか不安げな表情を浮かべてこっちを見ていた。多分、旦那達が復活させた亡国機業に俺が戻りたがっているのではと心配しているのだろう。そして彼女は、今の一夏や千冬さん達と離れる事を望んでいない。そんな理由で怯えた小動物みたいな表情を浮かべる彼女に思わず苦笑してしまったが、安心させるためにもしっかりと答える。

 

 

「確かに今でも旦那達の事は好きだけど、俺は今のこの生活…お前達と一緒にのんびり出来る今の日常が気に入っているんだ。多分、俺が亡国機業を名乗ることは二度と無いと思う…」

 

「……本当か…?」

 

「当たり前だ。それに今も昔も、俺の居場所はお前の隣って決めているんだ。何があろうとも、俺はお前から離れるつもりは無いさ…」

 

「……そうか…」

 

 

 それだけ聞ければ満足と言わんばかりに、彼女はホッとしたような表情を浮かべて安堵の溜息を吐いた。彼女のその様子を見て、俺も一安心である。すると、再度隣でちゃぷッと水音がした。見ると、彼女が自分のドラム缶から片腕をこっちに伸ばしていた…

 

 

「どした…?」

 

「ちょっと、手を繋ぎたくなった……良いか…?」

 

「お安い御用で」

 

 

 彼女に応じるように、俺もまた腕を伸ばして彼女の手を取る。取った手を愛おしげに、優しく握り返してきた彼女の手は、見た目以上に柔らかく気持ち良い。そして…

 

 

「……セヴァス…」

 

「ん…?」

 

「……これからも、ずっと一緒だぞ…?」

 

「言われなくても、そのつもりだよ…」

 

 

 

 俺達を照らす夕日はどこまでも眩しく、世界を綺麗で温かな光で染めていた。だけど、これから俺達が歩むであろう未来はきっと、これより綺麗で強い輝きを持つと、そう信じている…

 

 




月(ルナ)…フォレスト達に拾われた篠ノ之束のクローン。技術面で劣る分、性格は良い子。とはいえ充分に天才的なので、フォレスト達の切り札的な存在。セヴァスやマドカといつか会ってみたいと思ってるそうな…
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