アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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二つ、良い事を教えてやる…

一つ、アニメ第二期の設定と展開は基本的に無視する…

二つ、楯無さん……今回もゴメンね…♪

き~る・ら・き~る♪


IF未来 トライアングル編3!! 前編

(ここは…?)

 

 

 目を覚まし、最初に視界に入ってきたのは全く見覚えのない天井だった。しかも、なんかやたら近い。今は横になっているのでそうでもないが、立つのは限りなく不可能なくらいに天井が低い。そしてついでに頭の方で枕の役目を果たしてる何かがあるのだが、良い感じに柔らかい上に温かくて心地よい…

 

 

(えっと確か俺、夕飯食いに外へ出たんだっけ…?)

 

 

 記憶が正しければ、現在の時刻は夕方と夜の境目あたり。ここ暫くカップ麺続きだったので、久々に美味いものが食べたくなり、オランジュと留守番役を順番に代わりながら外食することにしたのだ。それでジャンケンの結果、俺が先に行くことになって、さて久し振りに五反田食堂にでも行こうかなとか考えながらモノレール駅を出たあたりで″水色の何か″が…

 

 

「あ、セイス君おはよー」

 

 

 そうそう、俺の顔を覗き込んで来たコイツの髪の色と丁度同じ感じの色彩……って、おい…

 

 

「楯無!? ていうか何してんだ、お前!?」

 

 

 反射的に楯無の膝枕から脱出し、極力彼女から距離を取ろうとする。しかし、良く見たらここは走行中の車の中で、大して離れる事が出来なかった。おまけに身体は頑丈な拘束具でぐるぐる巻きにされており、碌な抵抗が出来そうになかった。そんな俺の様子を見た楯無は、割とガチにきょとんとした表情を見せながら一言…

 

 

「何って、膝枕…」

 

「そういう事を言ってるんじゃ無ぇ!!……あぁクソ、色々と思い出した…」

 

 

 飛来してきた水色の正体とは、言わずもがなコイツだった。目を爛々と輝かせ、驚く俺に抵抗させる暇すら与えずにISでボディブローを喰らわせ、瞬く間に意識を刈り取りやがったのである。で、目を覚ましたらこんな状況という訳なんだが、やはりと言うか俺は楯無に捕まってしまったようだ…

 

 

「そういうこと♪ 分かったら素直に大人しくしてちょうだいね?」

 

 

 『現状把握?』と書かれた扇子を見せながら、いつものニヤけ面でそう言ってくる楯無。拘束具によって動きは封じてあるし、目の前にはISを持った自分が居るので余裕なのだろう。

 その自信満々の笑みで覆い隠した駄目な部分をたくさん知っている身としては鼻で笑ってやりたいところだが、自分が圧倒的に有利な状況であるにも関わらず、さり気なく微塵も油断せずに俺のことを警戒し続けていることを見るに、今回は流石に分が悪そうだ。

 

 

「だが断る!!」

 

 

 だからと言って簡単に諦める程、俺は素直な性格をしているつもりは無い。言うや否や楯無とは逆…車の窓へと向き直り、思いっきり頭を振りかぶって、全力の頭突きを窓ガラスにぶちかました。ISに絶対防御を起動させる程の威力を持った衝撃を受けた窓ガラスは、二人の居る後部座席に大きな音を響かせる。しかし、その音はガラスの砕け散った時の甲高いものでは無く、まるで何かを鈍器で殴ったかのような『ゴッ!!』と言う鈍い音だった。そして…

 

 

「痛ってぇ!? てか硬ッ、超硬ぇ!?」

 

「言い忘れてたけど、あなたにはティナちゃんから拝借したこれを投与したから、暫くは常人レベルの能力しか無いわよ……でも、念の為にガラスは防弾仕様にしといたんだけど、罅入ってるわね。用心しといて正解だったわ…」

 

 

 窓ガラスには罅が入っただけで、逆に自分の額が割れそうになり、地味な激痛に悶絶する俺。そんな俺に向かって楯無は、怪しげな注射器を片手でクルクルと回しながらそう言ってきた。どうやら、いつだかティナの奴に撃たれた再生能力阻害弾と同じような代物を打たれたみたいだ…

 

 

「何にせよ、私の勝ちね。大人しく諦めなさい」

 

「クソ…それで、俺をどうするつもりだ?」

 

「ふふふ、愚問ね。私とセイス君が2人きり、それもこんな状況ですることなんて、分かりきったことでしょう?」

 

 

 片や亡国機業のエージェント、片や更識家の現当主。捕まったら最後、組織の事を洗い浚い吐かされたあと、俺は犯罪者の一員として牢獄行き…最悪の場合、大っ嫌いな生まれ故郷のアメリカに身柄を引き渡される可能性もある。

 仲間や恩人達の事を売るような真似は死んでもしないが、アメリカに送り返されるのだけはどうにかして避けたい。もしかしたら旦那や姉御が助けてくれるかもしれないが、今はIS学園での活動で手一杯な筈だし、日頃からマドカやオランジュ達と一緒に迷惑を掛けている手前、これ以上は二人の手を煩わせる訳に行かない。故に現状、自力でこの状況を打開するという選択肢しか俺には無かった…

 

 

「さぁ、着いたわよ」

 

 

 だが打開策を考える前に、楯無の目的地に到着してしまったようだ。とは言え、やる事は変わりない。ここが更識家の屋敷だろうが、特殊な留置所だろうが自力で逃げ出してやる。そう決意を固め、俺は先に降りた楯無に促されるようにして車から出た。

 

 

「……おい…」

 

「なにかしら?」

 

「なんだ、この場所は…?」

 

 

―――そして、それと同時に俺の決意は、あっさりと崩れた…

 

 

「何に見える?」

 

「少なくとも、監獄や留置場には見えねぇな。ここ、お前の実家だったり……する訳ないか…」

 

 

 車から降りて目に入って来たのは、古めかしい和風の屋敷を思わせる建物。敷地の周りを塀で囲っており、かなりの広さを持っているのが窺える。物々しい留置所や、どっかの廃屋に即席で作った尋問室を想像していたので少し拍子抜けした。一瞬だけ、更識家の屋敷に連れてこられたのかと思ったが、それも違うようだ……だって、本当にそうなら…

 

 

―――正面入り口に、『寿司屋・平吉』って看板が見える訳ねぇよな…

 

 

「さぁ、早く中に入りましょ♪」

 

「ちょ、待ッ…!?」

 

 

 拘束具で動けない俺をISを部分展開しながら担ぎ上げ、こっちが戸惑っているにも関わらず屋敷…もとい『寿司屋・平吉』の敷地内へと足を踏み入れる楯無。古風の日本庭園を意識した、如何にも老舗な雰囲気を感じさせる中庭を、彼女は迷わず店の本館目指して進んでいく。

 

 

「ちょっと待て、本当に待て…」

 

「なによ?」

 

「なんか前にも似たような事があった気がするが、敢えて尋ねる……お前、何考えてるの!?」

 

「何って…今からセイス君とディナーデート? 因みに店は貸し切り状態だから、実質2人きりよん♪」

 

 

 なんかもう、色々と馬鹿馬鹿しくなってきて嫌になる。どうやら例によって今回も、このおバカは俺と直接的に争うつもりは無く、真面目に仕事をするつもりも無いらしい…

 

 

「……お前、一応俺らは敵同士ってこと忘れてない…?」

 

「もう、さっきから細かいことばかり五月蝿いわねぇ。っと、こんばんわー、予約してた更識二名でーす!!」

 

 

 呆れる俺を軽く受け流し、楯無はそのまま入店。同時に俺も、魚みたいに担がれた状態という、一生に一度あるか無いかのスタイルで入店。貸し切り状態と言うのは本当らしく、広い店内にも関わらず客の姿は俺達の他に存在しなかった。だが店員は普通に居るので、当然ながら身体がムズムズするような視線を幾つも向けられた。限りなく恥ずかしかったから、楯無のISから逃れる為に身を捩りながら抵抗を試みたが、やっぱりビクともしなかったので結局は諦めた……もう、好きにしやがれ…

 

 

「え、本当に好きにして良いの!?」

 

「心を読むな!! そして、断じてテメェの考えているような意味じゃ無ぇ!!」

 

「ちぇ、残念……あ、ここだった…」

 

「ってオイオイ、店を貸し切ったにも関わらず個室用意したのかよ…」 

 

 

 店内から半ば隔離され、若干薄暗くて雰囲気のある空間。4人前後の人数を想定しているのか、俺達二人だけだと少し広く感じる。真ん中には足の短いテーブルが居座っており、お座敷タイプのようだ。更に置いてある陶器や掛け軸等はどう見ても値の張りそうな代物ばかりで、とんでもない場所に連れてこられたと改めて実感した。

 で、そんな感じの部屋に辿り着くや否や、俺は奥の方へと放り投げられた。『グエッ』と呻き声を出しながら床に転がり落ちるも、即座に起き上って楯無を睨み付ける。しかし当の本人は、俺とはテーブルを挟んで反対の方へと悠々と腰を下ろし、いつもの様に扇子を広げながらニコニコと笑みを向けてくるだけである。因みに、今回は『御静粛に』と書いてあった…

 色々と言いたい事が多々あるけども、真っ先に確認したいことがあるので今は取り敢えず、他の事は置いておくとしよう。そう思った俺は深いため息を一つ吐き、目の前の元凶をジト目で睨みながら口を開いた。

 

 

「一応確認しとくが…動機や理屈はどうあれ、今回も互いの立場は忘れる気満々なんだな?」

 

「そういうこと。でも成り行きとは言え、暫くは協力関係の間柄になりそうじゃない? この前の約束もあるし、ここは一つ2人で親睦を深めようかと…」

 

 

まぁ確かに実際のところ、不本意ながら同業者に獲物を横取りされない為にも、俺はひたすら露払いに徹する形になるだろう。そして結果的にそれは、一夏の身柄を護衛する楯無達と利害が一致している。少なくとも『一夏を拉致しろ』とか、『暗殺してこい』等と言う指令が来ない限りはそうなるだろう。

 ぶっちゃけると条件付きとはいえ、楯無を敵に回さないで済むのは、ありがたいと言えばありがたい。たまにこんな意味の分からない行動を起こす時もあるが実力は認めているし、裏社会の人間としてなら、それなりに尊敬できる部分も少しはあったりする。

 

 

「逃げようとしても無駄そうだからそれは諦めるし、状況によっては互いに協力し合うことになるのも否定しない。だが、今以上に馴れ合うつもりは無ぇぞ?」

 

 

 だからと言って、完全に気を許すつもりは無い。来たるべき時が来たら俺は、迷うことなく楯無達と敵対するつもりだ。

 

 

---例えコイツが、俺に恋心を抱いているとしても…

 

 

「それは建前だから別に良いわよ、私はセイス君と一緒にご飯食べれれば満足だから。ぶっちゃけ、それが一番の目的だし」

 

「いや、それ色々と駄目だろ…」

 

「大将、今日のお勧めお願いしまーす!!」

 

「聴けよ……あぁもう、どうにでもなれ…」

 

 

 改めて割と真剣な決意を固めている此方を余所に、目の前の楯無はマイペースに振る舞い続ける。一夏達と接している時は八割くらい演技が入ってるんだろうが、いざこうして目の前でやられると、どこまで本気なのかさっぱり分からない。確信犯であることには変わりないが…

 それにしても、コイツの相手をしていると、何だか真面目にやっている俺の方が馬鹿みたいに思えてくるから不思議だ。こんな気分にさせるような奴は、マドカだけで充分だと言うのに。

 

 

「もう、折角連れてきてあげたんだから、いつまでもそんな顔しないでよ。セイス君が言ったんでしょ、寿司奢れって…」

 

「いや確かに言ったけどさ、こんなアブノーマルな状況は望んでない…」

 

 

 言い忘れたが、未だに俺は拘束具で動きを封じられており、半ばミノムシ状態のままだ。両手は愚か足も動かせず、碌に食事も出来なさそうである。

 

 

「気にしないで、私は気にしないから。それに…」

 

「それに?」

 

「今なら、セイス君の身体を好きにできるし」

 

 

 そういうや否や、俺を気絶させた時と同じように目を輝かせ、間にあるテーブルを猫のようなゆっくりとした動きで乗り越えながら、ジリジリとこっちに近寄ってくる楯無。思わず後ずさろうとした俺だったが、上手く身動きできずに殆ど離れる事が出来なかった。

 

 

「オイやめろ、手をワキワキさせながらこっち寄るな…!!」

 

「フフフ、良いではないか~良いではないか~」

 

 

 コイツ…目がマジだ。いつもどこまで本気なのか分からない奴だと思っているが、この目は間違いなくマジだ。このままじゃあ、何をするか分かったものじゃ無い。ていうか、下手をすればナニをしかねないから怖い。しかし、こんな状況で言うのもアレだが、楯無とこんな至近距離で見つめ合ったのは初めてかもしれない。いつも追いつ追われつの関係を繰り返し、反撃する過程で幾らか近づいたことはあるが、こうもじっくり本人を眺めたことは無かった。

 性格はこんなだが、容姿は確かに美人だと思う。しかも、凛々しさと可愛いさの両方を兼ね揃えた反則的な感じで。おまけに身体の方も鍛えてるだけあって引き締まっており、出るとこはは出て引っ込むところは引っ込んでいると言う、ある意味理想的なものだ。こりゃあシールドノッ党とか言うファンクラブが出来るのも、当然かもしれない。

 

 

(待て待て、何を考えてるんだ俺は!? 目の前に居るのは、あの楯無だぞ!?)

 

 

 見た目が魅力的であることは、不本意だが認めよう。しかし俺にとって最も厄介な存在であり、傍迷惑な奴である事実に変わりはない。生身で化物の俺とそれなりに勝負できる上に、ロシア国家代表の肩書は伊達では無く、ISの操縦技術も一流だ。そして一夏に『人たらし』と言わしめるだけあってカリスマもあるし、料理まで出来るというハイスペックの持ち主。その癖して編み物が苦手だったり、妹の事になると臆病になったりと、妙なところで不器用になる可愛い面もある。ていうか冷静に考えてみると、コイツの性格って普段のマドカと五十歩百歩…つまり、俺にとっては許容範囲内だ。そうでもなければ、こんな風に暢気に会話したりしないし、この腐れ縁は続いていない……て、うぉい!! 途中から殆ど褒めてるだけじゃねぇか…!!

 

 

―――あれ? もしかして俺、自分で思ってたより楯無のこと…

 

 

「お待たせしました、本日のお任せ握り詰め合わせです」

 

「ッ!!」

 

「……むぅ、良い感じだったのに…」

 

 

 何時の間にか顎を手でクイッとやられ、鼻先同士がくっつきそうになるまで近寄られたあたりで、まるでタイミングを見計らったかのように、着物を身に纏い。女将さながらな長い黒髪の店員が個室の障子を開けて入ってきた。そのせいで先程までの雰囲気も壊れてしまい、興を削がれたのか楯無は舌打ちを一つして、不満げな表情を浮かべながら即座に居直った。

 ぶっちゃけ色々と助かった。あのまま続けていたら、今頃どうなっていたことやら…いや、本当にどうしたか分からない。今も頭の中が少し混乱しており、平静を装おうので必死だ。本当に今日の俺、自分で自分が予測不能である。店員さん、マジで感謝。

 

 

「ん? これは…」

 

 

 混乱しかけた頭を強引に落ち着かせ、頭を冷やす為にも楯無から目を逸らす。すると、店員が運び込み、テーブルに並べた料理の数々が目に入ってきた。そして俺の視線が卓上に固定されたことに気付いた楯無は、再び微笑を浮かべた。

 

 

「どう、セイス君?」

 

「……凄く、美味しそうです…」

 

 

 料理と言っても握り寿司の詰め合わせなんだが、とにかく見た目からして豪華だった。運び込まれた複数の大皿には鮪や鯛、ウニにイクラと言ったメジャーなものから、あまり見かけない生のサンマやトビウオ等の珍しい寿司ネタまで所狭しと並んでいる。マドカ程こう言うのには詳しくないが、そんな俺でも目の前に並んだこれらが、本来ならとんでもない値段になるというのは分かった。

 

 

「ふふふ、このお店は更識家御用達の老舗だもの、当然よ」

 

「なる程…つまり、この店でいつもの様にはっちゃけると、偉い人に怒られると言う訳か……」

 

「う…」

 

 

 俺の言葉に思わず呻く楯無。箒たちの目の前で一夏にちょっかいを出し続けるような奴の癖に、店員が来ただけでやけにアッサリ引いたと思ったら案の定そういう事らしい。しかし、だったら尚更、俺なんかをここに連れて来たら不味いんじゃ…

 

 

「あぁ、それなら大丈夫よ、その為の″建前″だから。本家の人達も仕事で似たような事はしてるし、それはセイス君のとこも一緒じゃないの?」

 

「……確かにそうだが…」

 

 

 今まで敵対していた相手と共通の敵が出現した場合、条件を付けたり期間限定で協力関係を築くこともある。そして状況によっては、その協力関係を出来るだけ長く続けたい場合もある。そう言った場合、やはり組織同士による交流は少なからず必要で、このような場所と状況で互いにプライべートなやり取りを定期的に行う事は然程珍しい事ではない。だから楯無は今回のこれも、上の連中には仮同盟相手との接待とでも報告しているのだろう。

 そもそも、ちょっと前までフォレスト派とスコール派の関係は、半ば冷戦状態に近いものだった。姉御達と今のような関係を築くことが出来たのは、一部の者達が行ってきた組織間での交流の積み重ねの賜物である。マドカ達と仲良くさせて貰ってる手前、改めて関係の改善に貢献してくれた人達に、心から感謝しておくとしよう。

 

 

―――因みに、その関係の改善に最も貢献した人達とやらは、セイスとマドカの二人なのだが、本人達は一切自覚していない…

 

 

「……ところで話を戻すが…」

 

「なーにー?」

 

「いい加減に拘束解け」

 

「だが断る」

 

 

 無駄に生徒会長モードを起動してキリッと言われ、無性にイラッとする。ていうか、俺にこのまま犬食いしろとでも言うつもりか? 今回は食欲が圧勝してるから、もしも言われたらプライド投げ捨ててするけどさ……後で仕返しすりゃ良いし…

 

 

「ふふふ、冗談よ、私だって鬼じゃないんだから。でも、その拘束を解く前に折角だから…」

 

 

 ちょっと間を置いてから、楯無はそう言った。そして、用意された菜箸と取り皿を手にして、立ち上がろうと…

 

 

「お待たせしました、お客様。それでは早速、どれからお召し上がりになりますか?」

 

「え…?」

 

「へ…?」

 

 

 するよりも前に先程の店員が、いつの間にか寿司を何個か乗せた取り皿を手にしながら、俺の横に座ってそんな事を言い出した。これには流石に俺は勿論、楯無まで呆気にとられた。ていうか、まだ居たのか店員さん…

 

 

「どうかなさいましたか、更識様?」

 

「いやいや、貴方なにしてんの!?」

 

「接客で御座います」

 

「せ、接客……余計な真似はしなくて良いから、もう戻って頂戴…」

 

「お客様、どれから食べるのかお悩みでしたら、此方の白身魚がお勧めです。今朝獲れたばかりで、とても新鮮で御座いますよ?」

 

「さらりと無視しないでよ!!」

 

 

 いち早く我に返った楯無が思わず声を荒げるが、店員さんは軽く受け流した。そのまま楯無の声を無視しながら、彼女は皿にのせられた寿司の数々から先ほど言った白身魚の握りを一つ箸で掴み、小皿に用意した醤油に軽くつけ、そして俺の前に差し出してきた。

 言わずもがなこの状況、所謂『はい、あーん♪』状態である。本来なら色々と抵抗感があって躊躇うが、不思議とこの店員さんにされるのは嫌ではなく、何よりも既に腹ペコだった俺は差し出されたそれを迷わずにパクリといった…

 

 

「ちょっとおおおおぉぉぉぉぉぉ!! それやりたいからセイス君の拘束解かないままにしといたのに、何してるのよ貴方はああああぁぁぁぁ!?」

 

「接客です」

 

「二度も要らないわよその返し!! ていうかこの店、そんなサービスしてなかったでしょ!!」

 

 

 楯無は思わず店員さんに詰め寄るが、当の本人は相変わらず涼しい顔である。そんな二人のやり取りを尻目に、俺は口の中に入れた握り寿司をモグモグと咀嚼していた。すると店員のオススメなだけあり、口にしたそれは確かに新鮮で、しかも俺好みの味に近くて凄く美味しかった。鯛とも鮃とも違う、この謎の白身魚…もう何個か食べたい。そう思った時、不意に楯無と口論(?)していた店員さんと目があった。

 

 

「お気に召しましたか?」

 

「あ、はい……因みにこれ、なんの魚なんですか…?」

 

「鱸(スズキ)です。なんなら、もうひとつ食べますか?」

 

「おぉ、是非とも」

 

「それでは僭越ながら、引き続き私が食べさせて差し上げ…」

 

「ダメッ!!」

 

 

 そう言うや否や、楯無は店員から箸と取り皿を引っ手繰った。それに対して店員さんはそこまで動揺せず、視線だけを俺から彼女に変えて口を開いた。

 

 

「更識様、返してください。そうしないと、お客様が食事を続ける事が出来ません」

 

「大丈夫よ、彼には私が食べさせてあげるから」

 

「更識家当主である貴方の手を煩わせる訳にはいきません」

 

「私がやりたいの、セイス君に『はい、あーん』をや・り・た・い・の!!」

 

「左様で御座いますか。因みにお客様…お客様自身はどうしたいですか、自分で食べたいですか?」

 

「え、俺…?」

 

 

 いきなり話を振られ、思わず戸惑う。それと同時に、楯無が凄い睨んでくるから余計に言葉に詰まる。さっき普通に受け入れた手前、ここで楯無に『はい、あーん』は嫌とか言えない…ていうか、必死に拒むほどのことでもないし。だが、取り敢えず…

 

 

「自分で食うにしろ、楯無に食わせて貰うにしろ、この拘束具は外して欲しい…」

 

「かしこまりました」

 

 

―――スパッ!!

 

 

「「え…?」」

 

 

 何かの風切り音がしたかと思ったのと同時に、俺の動きを封じていた拘束具がスッパリと切断された。それに合わせて俺は自由の身になれたのだが、突然の事に何が起きたのか分からず、俺も楯無も再び硬直してしまった。そんな俺達を余所にさっきと同じ体勢、同じ雰囲気のまま、店員さんは再度口を開く…

 

 

「時にお客様、知ってますか?」

 

「……何を…?」

 

「先程お客様が召し上がった鱸なんですが、実は…」

 

 

 尋常じゃ無い位に動揺しているが、平静を必死で装いながら近くにあったお茶を手に取って口に含む。一瞬だけ更識家お抱えの老舗というからには、そういう系の人が普段から居るのかと思ったが、この店員い対し、楯無まで身構えてることを考えるに違うようだ。いったい、この店員は何者だ…?

 

 

 

 

「お前がスペインで放浪していた頃に、嫌になるほど食ったブラックバスの親戚らしいぞ…?」

 

 

 

 

「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」

 

「きゃああああああぁぁ!?」

 

 

 突然の言葉に、俺は思わず含んでいたお茶を勢いよく噴出した。射線上に居た楯無が思わず叫んでたが、なんとか避けていたのでひとまず無視しよう。

 これまで何度か話したと思うが、俺はスペインの僻地に捨てられた際、川魚を食料にしていた時期があった。そして自力で火を熾こすことが出来なかった俺は、魚は基本的に生で食う羽目になった。決して美味くない…むしろクソ不味かったが、当時は食うものを選ぶ余裕なんて無かった。ナノマシンの治癒力に助けられながら、俺は幾度も腹を壊しつつ、何度も川魚を生で食い続け、最終的に壊滅的な味をしたアレに対して『悪くない』とさえ思えるようになってしまった。

 で、旦那に拾われてから暫くして、ふとあの時に自分が食ってた魚は何だったんだろうと疑問に思った。そして好奇心に突き動かされるままに調べてみた結果、俺が食ってた川魚の正体が、うっかり野生化してしまったブラックバスだったと分かり、もの凄い複雑な気分になった訳なんだが…

 ぶっちゃけ、今はそれはどうでも良い。別に今更、鱸がブラックバスと近縁だろうが、美味けりゃ問題ない。そんな事実、鮪と鯖の関係と大して変わらない。一番の問題は…

 

 

―――なんで目の前の店員が、唯一この事実を知っているアイツと同じ声、同じ口調でこの話題を出したかと言うことだ…!!

 

 

「……いや、そんなの言うまでも無いか…」

 

「ふはは、まぁそう言うことだ…」

 

「んな!? ま、まさか…」

 

 

 どうやら、楯無も気付いたらしい。それを機に店員さんは、変装に使っていたカツラと、印象を誤魔化す為に使っていたカラーコンタクトを取り外した。するとそこには、黒髪を肩まで伸ばし、常に鋭く時々柔らかくなる瞳を持った、とても見慣れた少女が立っていた。そして…

 

 

「何やら二人で楽しそうにしているじゃないか……どれ、折角だから私も混ぜて貰おうか…?」

 

「ま、マドカちゃん!? どうしてここに!?」

 

「やっぱり、お前か……ん? 楯無、今お前『マドカちゃん』って言った…?」

 

 

 凶悪で、それでいて明るい笑みを浮かべた腐れ縁第一号の登場に、この時の俺は更なる嵐を予感した…

 

 

 

~続く~

 




○拘束具はIS装備でスパッと
○この時既にマドカと楯無はメル友レベルの仲になっています

○時期的に間に合わない気がするので、次は先にクリスマス特別編を書きます。
大まかな内容は…

・フォレスト一派+αによるクリスマス兼忘年会パーティ
・本編世界のつもりですが、時系列は不明
・食事タイム→一発芸大会→旦那からのプレゼント→そのプレゼントによるイベント…てな感じの流れで話が進行
・一夏たちはチョイ役で

などを、予定しています……今更ながら、大丈夫かなコレ…;
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