アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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やっと書き終わりました。本当は既に書けてたんですが、イグニッション・ハーツの影響を受けて色々と手を加えていたら、また随分と時間が…orz

それにしてもあのゲーム、作中にラウラの口から『コスプレの知識』って単語が出てきたことにも吹き出しましたが、三択とも『じゃあ、そのままで!!』と『メイドマガジン』には爆笑しそうになりましたwww

ネタ集め程度のつもりで買いましたが、中々侮れないわ…;


IF未来 トライアングル編3!! 後編

 ドイツ軍との裏取引に加え、ナノマシン技術の塊とも言えるセイスが組織に加わったことにより、亡国機業のナノマシン技術は世界で見てもトップクラスである。その恩恵に預かった人間は、最初から色々と調整されている黒ウサギ部隊の遺伝子強化素体ほどでは無いにしろ、常人より優れた身体能力と治癒能力を手にすることが可能だ。中でも生まれながらにして人外なセイス、そして世界最強と同じ遺伝子を持つマドカに至っては、他者よりも高い適合率を見せ、並の人間を遥かに凌駕する肉体を手に入れた。

 さて、ここで本題。幾ら鍛えているとはいえ、意地を張っただけの普通の人間が、そんな軽く人間を辞めた奴らと同じペースで酒を飲んだらどうなるか。言うまでもないだろうが、結果はこうなる…

 

 

「ふ、ふふ…ふふふふ……!!」

 

「おいおい、いい加減にやめた方が…」

 

「なぁにをいってるのかしらあぁ、わたしはまだまだのめるわよおおおぉぉぉ。なんたってえええぇぇ、わたしはふたりよりもとしうえだもおおぉぉん!!」

 

 

 

―――更識楯無、色々な意味で堕ちる…

 

 

 

「駄目だこりゃ。おい、どうすんだよコレ…?」

 

「別に良いじゃないか。本人も楽しそうだし、問題無いだろう」

 

「うへへへええぇぇ、せいすくんがふたり、さんにん、よにん…」

 

「……どこが? ていうかオメェ、いったい何本持ってきたんだ…?」

 

「スコールからは一本だけだが、残りはオータムとバンビーノところから手当たり次第に…」

 

 

 マドカの挑発にあっさりと乗せられ、自ら飲酒デビューを果たした楯無。彼女は最初こそ慣れない酒の苦味に眉を顰めたものの、一口二口と飲み進めていく内に段々と酒の味に慣れ、終いにはすっかり気に入ってしまい、途中からはかなりのハイペースで飲み進めていった。どうやら元々酒には強い体質だったようで、最初は飲むことを渋っていた彼女の事をからかったマドカも驚く位だった。

 しかし、楯無も所詮は人間。味を占め、調子に乗った彼女はその後もセイス達と同じペースで飲み続けていたのだが、ついに自分の限界量をぶち抜いてしまい、完全に出来上がってしまったのだ。顔は彼女の瞳と同じくらいに赤くなってしまい、目つきもとろけるどころか完全にグルグルと渦巻状態になっており、彼女が酔っ払っていることは一目瞭然である。

 

 

「じゅうにん、じゅういち、じゅう……すぅ…」

 

「あ、落ちた」

 

「やれやれ、なんとも他愛のない…」

 

 

 そして、ついには二人の目の前でグラスを片手にテーブルへと突っ伏し、そのまま静かに寝息をたてながら眠ってしまった。直前まで随分と楽しげな笑顔を浮かべていたが、飲んでいた量を考えるに、翌日は酷い二日酔いに苛まれるだろう。そして飲酒したのが発覚してしまい、また側近の虚あたりに説教部屋へと連れて行かれる彼女の未来は容易に想像出来た。

 酔いつぶれた楯無を眺め、そんなことを考えていたセイスだったが、不意にマドカが彼の肘を小突いたことにより、自然と意識はそちらへと向けられた。

 

 

「で、実際どうなんだ?」

 

「何がだ?」

 

「コイツのことだよ、コイツ。お前に対し、ああも露骨なアピールを続けているが、どう思ってるんだ?」

 

 

 セイスの隣に座って飲み続けていたマドカは、唐突にそんなことを訊いてきた。少しだけ酔いが回って来たのか、彼女の顔は薄らと赤みを帯びていたが、楯無と違ってまだまだ余裕のようだ。そんな彼女の問いに対してセイスは、もう一度だけ眠っている楯無の方をチラリと一瞥してから口を開いた。

 

 

「別に、どうもねぇよ…」

 

 

 どことなく歯切れが悪い口調だったが、彼はそう言った。その返答にマドカは特に大きな反応を見せず、『ふむ』とだけ呟いて話の続きを無言で促す。

 

 

「顔を合わせる度に碌でもねぇ展開になるし、何度かぶっ飛ばしてやりたいと思ったことは一度や二度の話じゃない。逆に殺されかけた回数も半端じゃないし…」

 

 

 そもそも互いの立場は敵同士で、こうして気軽に接して良いような間柄では無い。他に選択肢が無かったとはいえ、同じ空間で暢気に飯食ったりしちゃいけない筈なのだ。その筈なのに、楯無は自分に対してあからさまな好意を向けてくる。挙句の果てに最近は、一緒にショッピングに行く羽目になったり、妹さん込みで交流したりと、不測の事態が連発して調子が狂いっぱなしである…

 

 

「でも流石に、アッサリ死なれても寝覚めが悪い、かな…」

 

「ほほぅ。つまり少なくとも、私と同じ程度には大切に思っているということか」

 

「バカ野郎、お前が死んだら一生立ち直れねぇよ…」

 

 

 一瞬の迷いも無く返ってきたセイスの返事に予想外だったのか、思わずマドカは硬直した。彼女のその様子にセイスも自分が何を口走ったのか自覚し、酒が入った今以上に顔を真っ赤にして、視線を逸らしながら『あ、いや…』と誤魔化すように呟くが、最早手遅れ。飲んでいるとはいえ、柄にも無い事を口走って焦りまくるセイスに、マドカは彼の事をジーッと見つめながら微笑を浮かべた。

 

 

「そう言ってくれるのは、本当に嬉しいがな。だがセヴァス、お前は自分で思っている以上に楯無のことを気にかけているみたいだぞ?」

 

「なに…?」

 

 

 マドカの言葉に眉を顰めるセイスだったが、彼女はグラスに残っていた酒を一気に煽り、グラスをドンっとテーブルに置いて一息吐き、言葉を続けた。

 

 

「例の楯無の写真、なんでまだ持ち続けてるんだ?」

 

「それは、未だに大した値段が…」

 

「とっくに相場が篠ノ之箒達の写真よりも、倍近いものに膨れ上がっているのにか?」

 

 

 彼女の指摘に思わずセイスは言葉を詰まらせ、先程のマドカのように身体を硬直させた。

 実際、今の楯無の写真の相場は当時とは比べ物にならない程に上がっている。金額が自分の予想通りなら、例の最初の写真一枚だけでマドカの借金分を軽く超える値段になる筈だ。それでも彼は最初の一枚目をファンクラブに売ろうとはせず、それどころか最近は楯無の写真を送ること自体を渋るようになってきている始末だ。それが写真のレア度上げに一役買ったことは否めないが、それを抜きにしても楯無の写真は既に充分な額の値が付くのは事実だ。

 まさかその事を知られているとは思わず、暫く思考がフリーズしていたセイスだったが、我に返るや否や彼女の言葉を鼻で笑い、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに言い訳じみた否定の言葉を並べた。

 

 

「いや、そりゃお前、なにせ記念すべき最初の写真だぞ? しかも、あの楯無だぞ? レア度で考えたら、もっと上がっても…」

 

「さっき『俺の写真なんぞに価値を認めるな』と言った奴のセリフには思えんな。それに、他の奴らの写真より価値があると思っている時点で確定だと思うが?」

 

 

 それも呆気なく一蹴され、最早逃げ道は無い。それでもセイスはどうにか反論しようとするが、どうも言葉が出てこなくて口をパクパクと開け閉めするだけだった。しかし、やがて彼はマドカの視線から逃れるように俯き、暫く黙りこくった。そして唐突に身体をプルプルと震わせたかと思うと、ガバリと起き上り、顔を赤くしながらヤケクソと言わんばかりに叫びだした。

 

 

 

「あぁもう、白状するよ!! 確かに今日だけじゃなくて、結構前から惹かれ始めてんよ、楯無に!! 互いの立場とか事情を考えるのやめたら、最初から意識してたよ絶対にッ!!」

 

 

 

 一気にまくしたてるように叫び、全て言い切ったセイスは勢いよくテーブルに突っ伏した。勢い任せにとは言え、やはり恥ずかしかったのか、彼の顔は羞恥で耳まで真っ赤になっていた。

 

 

(マジで何を口走っているんだろうね俺はあああぁぁぁぁぁ…!?)

 

 

 とは言え、さっきのは本心である。マドカが来る前に楯無に詰め寄られた時、自分は彼女のことを意識しそうになった。けれで正直に白状すると、このような出来事は今回だけの話では無かった。今までも、楯無の言動にドキッとしては彼女のことを一人の女として意識しかけ、そのまま彼女の好意を受け入れそうになった。その度に自分と楯無の立場を思い出しては気のせい、またはその場の空気に流されてしまったんだと己に言い聞かせ続けてきたのである。

 だが、その誤魔化しも無意識のうちに限界を向かえようとしていた。マドカに指摘された通り、楯無の写真一号には愛着を持ってしまい、手放すことを嫌がる自分が居る。敵の身内だと分かっても、未だに簪とゲームで交流を続けているのは一重に『楯無の妹だから平気だろう』と思ったからだ。そして幾ら建前を用意してくれたからとは言え、敵勢力の庭みたいな場所から全力で逃げようとせず、一緒に宴を共にしようと決めたのは、やはり相手が楯無だったからだ。

 自分で口に出して、そして今までのことを思い返し、それ程までに楯無のことを信頼し、惹かれていたことを改めて自覚したセイス。彼は再び顔を真っ赤にして、両手で顔を覆いながらテーブルに突っ伏しながら小さく呻いた。恥ずかしさで悶えるセイスを見て流石に気の毒に思ったのか、マドカは少しだけすまなそうにしながら一言。

 

 

「人間、やっぱり正直に生きるのが一番だな」

 

「やかましいわ!! ていうか、俺にこんなこと言わして何がしたいんだよ!?」

 

 

 悪意と悪戯心に溢れた、良い笑顔で投げかけられた言葉。当然ながらセイスは憤ったが、マドカはクツクツと笑い、楯無の方に一瞬だけ視線を向けたあと、彼の言葉に答える。

 

 

「強いて言うなら、その感情を中途半端なタイミングで自覚されるのもなんだと思ったからか? どちらにせよ、お前の楯無に対する気持ちが、私の勘違いではなかったと分かれば充分だ」

 

「……それを知って、お前はどうするんだよ…」

 

「別に何もしない。だってお前は、楯無のことが好きなんだろう?」

 

「違っ…いや、そうなんだが……でも、俺は…」

 

 

 マドカの言葉に対し、セイスは異常な位に歯切れが悪くなった。楯無に対する気持ちを、今更になって否定することは出来ず、その事を最も気にしそうだったマドカの反応は思ったより悪くない。それでも彼はどういう訳か戸惑いと葛藤、そして苦渋に染まった、非常に難しい表情を浮かべていた。

 目の前で不思議な位に平然としているマドカと、依然として突っ伏したままの楯無に何度も交互に視線を送り、何かを言おうとしてはそれを躊躇う素振りを見せるセイス。そんな彼を見かねたのか、マドカは溜め息を一つだけ吐いて、ついに口を開いた。

 

 

「なぁ、セヴァス」

 

「ッ……なんだ…?」

 

「今から私は、お前が一番欲しがってる言葉を言ってやろう。ただ、もしも勘違いだったら恥ずかしさで自殺したくなる程に自意識過剰で馬鹿なことだから、一度しか言わない。絶対に聞き逃すなよ…?」

 

「お、おう。分かった…」

 

 

 彼女から放たれる謎のプレッシャーにより、セイスは思わず反射的に身構え、姿勢を正した。それを確認したマドカは、自身も緊張しているのか深く息を吸い込み、呼吸を整えていた。だが、やがてマドカは意を決したのか、セイスのことをジッと見つめながら、こう言った。

 

 

 

 

「別に二股しても良いぞ?」

 

「ぶッ!?」

 

 

 

 

 マドカのとんでもない発言にセイスは吹き出し、楯無は引っくり返りそうな勢いで無言のままテーブルからずり落ちた。爆弾をぶん投げた本人はシレッとしているが、セイスの狼狽えっぷりは半端では無かった。よっぽど驚いたのか派手にせき込み、目の焦点は彷徨いまくっていた。

 

 

「お、おおおお前、なな何を口走ってんの!?」

 

「だってお前、楯無のこと好きだけど、それと同じくらいに私のことも好きなんだろ?」

 

「ッぁーーーーーーー!!」

 

 

 マドカの言葉に、思わず声にならない悲鳴を上げたセイス。彼女がトチ狂ったことを言ったからでは無く、自分の本心をものの見事にいい当ててしまったからである。

  ここ最近になって、彼は段々と彼女の事を意識するようになっていた。だが当時のセイスは、自分の気持ちを整理することが出来なかった。元も子もない言い方をすると、へタレてしまったのだ。元々セイスにとって、マドカは互いの理解者であり、心から気を許すことが出来る大切な存在だった。そして、好きか嫌いかと訊かれたら、間違いなく大好きと答える自信がある。けれども、セイスはその気持ちが一夏とラヴァーズのような恋愛感情なのか、はたまたオランジュ達に向けるものと同じような信愛感情なのか分からなかったのである。

 けれども、最近になって一層積極的になったマドカのアプローチの甲斐もあって、ついにセイスは自分のマドカに対する想いを確信した。そして機会が訪れ次第、この想いを伝えようと日頃から考えていたのだが、中々その機会に恵まれず、今日までに至ってしまったのだ。

 だと言うのにここに来て、マドカ本人に楯無に対する気持ちを自覚させられてしまい、どうすれば良いのか分からず思い悩んでいる所に先ほどのセリフである。動揺するなと言う方が無理だ。

 

 

「でもマドカ、俺は…」

 

「セヴァスが私でなく、他の女を選んだら本気で泣く。だが、そんな風に自分自身の気持ちを誤魔化した状態で選んでもらっても、私は全く嬉しくないんだよ」

 

 

 セイスの言葉を遮る様に、彼女はそう言った。それに対して何も言う事が出来ず、セイスは思わず口を閉ざしたが、それに構わずマドカは言葉を続ける。

 

 

「私はお前を振り向かせるために、これからも私自身を磨き続ける。それでも尚、お前の心を独占する事が出来ないのであれば、私はその結果を甘んじて受け入れる。だからセヴァス、お前に恋した私たちの為にも、自分の心には常に正直でいてくれ」

 

「……。」

 

 

 その時の彼女の瞳は気丈な言葉とは裏腹に、若干の躊躇いと恐怖に染まっていた。先程も自分で言っていたが、やはり自分が選ばれなかったら本気で泣くと言うのは本当なのだろう。それでもマドカは、例え自分が傷つくような結果になったとしても、セイスの意思を尊重すると言ったのである。

 そんな彼女を目の当たりにして、セイスは軽い自己嫌悪に陥った。マドカにここまで言わせてしまうまで告白をズルズルと先延ばしにしたこともそうだが、こんな中途半端な気持ちでマドカに想いを伝えようとしたことを自覚したのが理由だ。こんな状態では、自身に対する想いを誤魔化され続ける楯無は勿論のこと、別の女に対する未練が残ったまま選ばれるマドカにも失礼だ。彼女の言葉を借りるならば、まさに自分が恋をして、自分に恋した二人に対する侮辱であり、最低の行為に他ならない。 

 

 

「……お前はどう思うんだ、楯無…?」

 

「あら、起きてるのバレてた?」

 

 

 セイスがそう呟くと同時に、倒れていた筈の楯無がひょっこりとテーブルの下から顔を出した。顔色は酒のせいで若干まだ赤いが、先程よりはマシになっており、瞳には理性が戻っていた。どうやら、途中で酔いも目も覚め、二人の会話を盗み聞きしていたようだ。

 

 

「確かに、好きな人に選んでもらえないのは悲しいわ。だけど、それは自分がその人を振り向かせるだけの魅力を持っていなかったってことだから、反省はしても相手に不満を抱いたりはしない。でも、流石にそんな中途半端な気持ちで結論出されるのは、マドカちゃんと同じで私も嫌かな…?」

 

「……初めてお前が俺より年上だという事を実感した…」

 

「ちょっと、どういう意味よそれ!?」

 

 

 楯無の反応に、さっきとは打って変わってカラカラと笑い出すセイス。憤慨した楯無だが溜め息を一つ吐き、セイスからマドカへと視線を移した。

 

 

「それにしても、マドカちゃん……あそこで二股の許可を出すって結論に辿り着くとは思わなかったわ。まぁ、お蔭で丸く収まりそうだけど…」

 

「おいおい、なに勘違いしてるんだ楯無。私はセヴァスを譲る気は微塵も無いぞ?」

 

「え…」

 

 

 思わずキョトンとする楯無だったが、対するマドカはニヤリと口角を釣り上げ、言葉を続ける。

 

 

「今回のコレは、セヴァスに自分自身の気持ちを自覚させる為の必要措置に過ぎない。今後はセヴァスも素直にお前の好意から目を逸らさなくなるだろうが、それは私とて同じこと。お前が今の状況に御座を掻いてる間に、負け惜しみも出来ないほど完膚なきまでに差をつけ、セヴァスの心を手に入れてやる…」

 

 

 そう、あくまでこれは必要措置…むしろ譲歩と言っても良い。いつまでも煮え切らない態度で進展しない、または歪んだ関係を結ばないために、やむなく決断したに過ぎない。故に今後もマドカはセヴァスに対するアピールを続け、最終的には彼を手に入れる気満々だった。

 それを理解した楯無は一瞬だけ呆けたが、すぐに挑戦的な笑みを浮かべ、真っ向からマドカの視線に向き合った。その時の彼女の顔には、二人におちょくられていた時のような戸惑いの色は、欠片も残っていない。

 

 

「上等よ。けれど、もしもセイス君が貴方じゃなくて私を選んでも、逆恨みなんて小物臭い真似はしないでよね?」

 

「私たちが恋したのは人間だ。相手が思い通りにならないだけで癇癪おこす程度の愛なんて、人形にでも囁いてれば良いって、ス……誰かが言ってた…」

 

「ねぇ、さっきから思ってたんだけど、マドカちゃんの考えって絶対に誰かの入れ知恵よね?……まぁ、概ね同意するけど…」

 

 

 二人が浮かべていた挑発的な笑みは、いつの間にか苦笑に変わっていた。その笑みは、最早浅からぬ縁となった宿敵同士だけにしか分からない何かがあった。そして…

 

 

「今後とも仲良くしようか、恋敵(たてなし)」

 

「えぇ、よろしくね恋敵(まどか)ちゃん」

 

 

 二人は互いにそう言って、空になったグラスをカツンと音をたてながら当てた。聞きなれた音の筈だったが、どうしてかセイスには今の音が、何かが始まったことを告げる鐘の音に聞こえた…

 

 

「さてと、次は…」

 

「そこで静かにしていたセイス君の番ね…」

 

「ッ!!」

 

 

 同時に視線を向けられ、思わずビクリと体を震わすセイス。しかし、暫く俯いていたが…

 

 

「ほれほれ、私たちにあそこまで言わせたんだ。このままセヴァスだけ何も無しとは言わんよな…?」

 

「ここで男を見せてよ、セイス君♪」

 

「ぐ…ぬ……うぅ…!!」

 

「あ、立ち上がった…」

 

「なんだ、逃げるのか……って、あれ…?」

 

 

 やがて無言で立ち上がり、二人と正面から向き合うような場所に位置をとり、正座した。そんな彼の謎の行動を楯無もマドカも不思議に思ったが、徐に彼は口を開いた。そして…

 

 

 

 

 

「俺は、織斑マドカと更識楯無、二人のことが大好きです」

 

「「ちょ、マジでいきなりッ!?」」

 

 

 

 

 

 さっきの責めるような言葉とは裏腹に、もうちょいセイスが抵抗すると思っていた二人は、本当に唐突に始まったセイスの告白に本気で狼狽えた。確かにマドカは、今晩中にセイスに覚悟を決めさせる気だった。だが、こうもアッサリと覚悟を決めるとは思っていなかったので心の準備が殆ど出来ておらず、楯無と殆ど変らないレベルでパニックに陥りかけていた。

 けれど先程までの仕返しとばかりに、セイスは二人を無視して言葉を続ける。

 

 

「殺伐とした俺の人生に、温かい光を与えてくれた、二人のことが大好きです。可愛くて、一緒に居ると心強くて、それでいて儚くも愛おしく感じる、二人の事が大好きです。大した取り得も甲斐性も無く、身体を張ることぐらいしか能の無い俺の事を好きになってくれた、二人のことが大好きです。本当に大事なことに関わらず、ハッキリとした答えを出せない俺を許してくれた、二人のことが大好きです…」

 

「え、あ…」

 

「はわわわ…」

 

 

 不器用な彼だが、流石にここにきて逃げ場を捜す様な捻くれ根性を持ち合わせてはいなかった。ぶっ飛んではいるが、覚悟を示したマドカと、彼女に負けず劣らず自分のことを好いてくれる楯無に今こそ答える為に、彼は腹を括ったのだ。その証でもある『大好き』の連呼により、二人は嬉しさと恥ずかしさで顔が酒で酔った時以上に真っ赤に染まり、思考がショートしかけていた。だけど、目の前のバカは止まらず、頭を下げながら最後の言葉を紡いだ。

 

 

 

「こんなバカな俺だけど、どうかお願いします。二人とも、俺と付き合って下さい。二人の気持ちに応える為に、自分の気持ちに答えを出すために、どうか、俺と付き合って下さい」

 

 

 

 本人達公認とは言え、初っ端から二股交際宣言って最低だなとか自分で思いつつ、全部言い切った彼はどことなくスッキリとした気分になった。マドカの言う通り、最低な行いと分かってても、自分に正直に生きると言うのも存外悪くないことなのかもしれない…

 なんて思いつつ、セイスは顔を上げて二人に視線を向けた。するとセイスの言葉を聞いた当人達は無言のまま、ものの見事に顔を真っ赤にして固まっていた。その様子を見て、ふいにセイスは不安に襲われる。やはり二人の言葉に甘え、調子に乗ったのは不味かったのかもしれない。けれど、もう今更後戻りはできないし、するつもりは無い。覚悟を決めたセイスは緊張しながらも、固唾をのんで二人の様子を窺い続けた。

 やがて、沈黙を続けていたマドカと楯無はゆっくりと、互いに視線を合わせた。そのまま目で語り合い、同時にコクリと頷いた。そして、これまた同時にバッと勢いよくセイスの方を振り向き、二人は…

 

 

 

 

 

「「望むところだああああああぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

「ぐお!?」

 

 

 

―――満面の笑顔でセイスに飛びつき、セイスを抱きしめた…

 

 

 

「ちょ、待ッ…苦しッ……」

 

「あぁもう、このバカバカバカバカ!! やっとお前の口から言わせてやったぞ、本当に待ったぞこの瞬間を!!」

 

「あら、なによマドカちゃん。さっきまでの強気な態度はどこいったのかしら?……って待って、本気で泣いてるの!?」

 

「全部ハッタリだ、強がりだ、張子の虎だ、悪いか!? 私だって本当は不安だったんだ!!セヴァスが好きなのは楯無だけで、私はどうでも良いんじゃないかって思うと怖くて怖くて仕方なかったんだ!!」

 

「まったくもう…自分で言った癖に、もうゴールした気分になってるじゃない。いつまでもそんなだと、セイス君もらっちゃうわよ?」

 

「ふん、言ってろ。お前だって目に涙が溜まりまくってるぞ?」

 

「んなッ!?」

 

(嗚呼…やっぱり、これで良かったんだよな、きっと……)

 

 

 セイスを押しつぶす様な体勢のまま騒ぐ二人を眺めながら、セイスは心の中でそう漏らした。少なくとも、今この場において、この結果を否定する者は居ない。

 いつかは答えを決めなければならない時が来るかもしれない。マドカにあって楯無にない魅力があるように、楯無にあってマドカにある魅力が存在する限り、この先もセイスがずっと平等に二人を愛し続ける保障は無い。もしかしたら、この3人が幸せに感じる時間は一瞬で終わるかもしれない…

 けれど、それは承知の上だ。それが分かった上で彼女らは覚悟を決め、彼は腹を括った。セイスが出来る事は、どんな結果になろうと二人の愛に対し、自分の正直な気持ちを示し続けることと、彼自身も二人に愛され続ける為に、自分を磨き続けることだけだ。逆もまた然りだ…

 

 

(だからせめて、例え今だけだとしても…)

 

 

―――この幸せな瞬間を噛み締めるがの如く、彼は二人を優しく、そして強く抱きしめた…

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

☆オマケ☆

 

 

「なにか、言い訳はありますか?」

 

「えっとぉ…」

 

「もう一度言います。なにか、言い残すことはありますか?」

 

「ちょっと、言葉が物騒なモノに変わってるわよ虚ちゃん!?」

 

「亡国機業のエージェントを、あの店に連れこむ許可を本家から取るのに、いったいどれだけ苦労したと思っているのですか!? しかもそれだけに飽き足らず、飲酒及び淫行に走るなど…!!」

 

「い、いいい淫行!? ちょ、一緒に居眠りしちゃったのは確かだけど、そこまでしてなッ…!!」

 

「……飲酒したのは否定しないんですね…?」

 

「あ…」

 

 

―――IS学園生徒会長、更識楯無。反省文及び謹慎処分…

 

 

 

 

 

 

☆オマケ2☆

 

 

「それでエム、彼氏とは上手くいってるのかしら?」

 

「な、何を言ってるんだスコール!?」

 

「最近やたら男を口説いたり、堕とす方法を尋ねてきたから、そろそろ告白した頃かと思ったのだけど、実際のところ結果はどうなったのかしら…?」

 

「お、お前に教えてやる義理なんて無い……でも、礼は言っとく。本当にありがとう…」

 

「……分かり易ッ…」

 

「ん、なんだ?」

 

「なんでもないわよ。ところで昨日、私の酒蔵に忍び込んだわね?」

 

「……知らんな…」

 

「あら、とぼけるつもり?」

 

「なんの事だか、サッパリだな…」

 

「ふぅん、そう…」

 

 

 ポチッ…

 

 

『我が人生に一片の食い残しなし!!』

 

「ッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

「正直に言いなさい。昨日、私の酒蔵に忍び込んだわね? しかも、中身を安物にすり替えて…」

 

「そ、それは…なぜ…おま、えが……!?」

 

 

 ポチッ…

 

 

『ふははは!! 華麗に完食してやったぞ、カレーだけに!!』

 

「わあああああああああああああああああああああああああああああわあああああああああああああああああああああああああわああああああぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

(効果絶大ね、コレ……あとでオランジュにお礼言っとこうかしら…)

 

 

―――亡国機業スコール派、エムこと織斑マドカ。二つの意味で公開処刑…




○今回のコレは一見すると『結局これまで通りやん』という面もありますが、マドカ達としてはセイスを自分の気持ちに対して素直にするという意味合いが強いです。
○ですので三人にとって今回のこれは、これからとこれまでに対するケジメみたいなものと思って頂けたら幸いです。
○因みに、オランジュは暫く口を利いてくれなかったそうな…

このトライアングル編…いつかは勝者を決めるべきか、それともこの三角関係を続けていくべきか……
何はともあれ次回、ワールドパージ編…本編ではギャグ要員でしかなかった彼らが、ついに本気を出します。お楽しみに~
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