アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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大変お待たせしました、中編の更新です。



IF未来 学園編ゼロ 中編

「初めまして…になるのか、一応? まぁ、どちらにせよ、改めて名乗るが『セイス』だ、名字は無い。それにしても、やっぱ初対面な気がしねぇな…」

 

 

 簀巻きにされた熊の着ぐるみは、半ば投げやりな態度でそう言い放った。着ぐるみとは言え、のほほんさんが身に着けているようなものと同タイプなため、自己紹介にしては尋常じゃないくらいに不機嫌な顔がこれでもかと言うくらい良く見えた。尤も、拘束されて、ISのランスに引っ掛けられて宙吊り状態のまま名乗らされて笑顔を浮かべるような奴は居ないだろうが…

 そして、何かと突っ込み所の多い状態の彼を前にした一夏達の心情はと言うと、当然ながら困惑半分、楯無に対する諦めが半分の奇妙なものだった。セイスとは一度会ってみたいと思っていたのは確かだったが、こんな出会い方は全くもって想像の斜め上だった。しかし、楯無が持ってきた話や用件が普通に進行する訳が無いことは、彼らもこの二年の学園生活でいい加減に理解している節もある。それでも一夏達の七人は、セイスが最後に付け加えた一言…『初対面な気がしない』という言葉には、流石に疑問を覚えざるを得なかった。そんな彼らの心情を悟ったのか、セイスを宙吊りにしている張本人である楯無は、ニヤリと笑みを浮かべ、一切躊躇せずに言い放った。

 

 

「実は彼、覗き趣味のストーカーなの」

 

「おい、ふざけんなッ!!」

 

「でも、やってたことは大体一緒でしょ?」

 

「……それ言われると強く言い返せない…」

 

 

 拘束されてなければ頭を抱えていたんじゃないかと思うくらいに沈んだ声で呟き、一気にテンションが急降下するセイス。そして、その彼の様子を楽しむようにして、まるで某外道神父のように愉悦の笑みを浮かべる楯無。先程のストーカー発言も中々に衝撃的だったが、外野からすれば中々にカオスな状況だ。もう益々意味が分からず戸惑うしか無かったが、取り敢えず簪が最初に口を開いた。

 

 

「お姉ちゃん、どういうこと?」

 

「この前までセイス君が、亡国機業の一員だったことは何度か話たわよね? その時の彼の主な任務はね一夏君、あなたの監視と護衛よ」

 

「お、俺!? ってか、監視と護衛って!?」

 

 

 彼らにとっての衝撃発言、その2である。軍属のラウラ、更識家の簪は割とすぐに理解して納得したが、見張られていた本人は素っ頓狂な声を上げ、驚愕の表情を浮かべていた。セイスとしては、この件についてはもっと真面目な雰囲気で白状したかったところだが、こうなってしまっては仕方ない。色々と諦めた彼は、半ばヤケクソ気味に語り出す。

 

 

「そのままの意味さ。相変わらず自覚無いようだから言っとくが、お前は世界で唯一の男性操縦者…希少な存在なんだ。理由問わず、お前の事を狙ってる輩は俺たち以外にも腐るほど居るんだよ。亡国機業もお前のことには目を付けてたからな。他の同業者やら国家やらの手に渡らないように時期が来るまで、そう言った輩の手勢を追っ払いながら、お前を見張り続けるのが俺の役目だったのさ」

 

 

 他の同業者に独占されないよう監視の目を光らせ、時にはデータを取得し、楯無をおちょくりながら逃げ去り、組織を支援する為に裏で工作活動に従事した。何度か死に掛けたし、組織が壊滅した今となっては集めたデータも、設置した機材も、全てが無意味なものになってしまったが、個人的には何気に充実した日々であったことは否めない。

 

 

「因みにあんた、いつから一夏のこと見張ってたの?」

 

「お前らの入学式前から、ロシア革命が起こるまで、ずっと」

 

「それって、ほぼ二年!?」

 

「あー、言われてみればそうだな。俺って二年もやってたのか、この任務。色々なことがあり過ぎて、逆に実感が湧かなかったわ…」

 

 

 鈴の問いに答え、改めて実感する二年という歳月の長さ。その二年で自分は何度命を懸け、何度死に掛けたことだろうか。楯無にティナ、専用機持ちのフォルテと今は卒業して居ないダリル、アメリカ代表のイーリスなど…我ながら、良く生き延びられたものだと思う。しかも、その片手間で一夏を守らねばならなかったのだ。護衛対象の護衛に殺されそうになりながら護衛するとか、今思えば実に酷い話である。

 

 

「ていうか俺、絶対に楯無より頑張ってたろ、一夏の護衛…」

 

「ちょっと、なんか聞き捨てならないこと言った?」

 

「だって実際そうだろ、更識″伊達″無さん」

 

「……ふーん、そんなこと言っちゃうんだ。良いのかしら? 今ここで、セイス君の恥ずかしい思い出を語っても…?」

 

「お漏らしと下着泥棒には負ける」

 

 

―――気付いた時には既に、簀巻き状態の熊は武道場の反対側の壁に向かってブン投げられていた…

 

 

 勢いよく壁に叩き付けられたセイスは、鈍い衝突音と共に『ぐえっ』と短い悲鳴を上げ、そのまま重力に従って床に落ち、そのままピクリとも動かなくなった。一方それやった下手人はと言うと、余程動揺したのかゼーハーと肩で息をしている状態に加え、顔も真っ赤に染まっていた。部分展開とは言え、ISのフルパワーで投げ飛ばされたセイスも心配だが、敢えて一夏は楯無に問う。

 

 

「もしかして楯無さん、元からセイスさんと知り合いなんですか?」

 

「……不本意ながら、ね…」

 

「お漏らしと下着泥棒っていうのはってヒィ!?」

 

 

 目にも留まらぬ速さで、部分展開されたミステリアス・レイディの両腕が、一夏の両肩を、ガッチリと掴んだ。そして、楯無は笑顔で鬼の形相を浮かべると言う器用な真似をしながら一言…

 

 

「ナ ニ カ イッ タ ?」

 

「何でもありませんッ!!」

 

 

 首を必死で横に振りながら答える一夏に対し、楯無はその怖い笑顔のまま満足げに頷いて見せた。箒達も先程の会話で一夏と同じような疑問を抱いたのだが、あのラウラでさえ空気を読めてしまう程に鬼気迫る楯無の様子に全員が口を閉じた。そして、舞い降りる気まずい空気。

 

 

「……ねぇ、ちょっと待って。一夏のことをずっと監視してたってことは…」

 

 

---しかし、暫く続くかと思われたその状況も、シャルロットの言葉で呆気なく終わる

 

 

「一夏と一緒に居た時の僕達のことも、ずっと見てたってことじゃ…?」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

 シャルロットの言葉に反応して、凄まじい勢いで、それはもう『グリンッ!!』って音が聴こえそうなスピードで、一斉に全員が視線をある方向に向ける。無論、その先はセイスが投げ飛ばされた壁の方。しかし、そこに居たのは、解かれて打ち捨てられたロープと布団だけだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「やっべええええええぇぇぇぇぇぇ絶対に殺されるううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!?」

 

 

 廊下の隅で頭を抱え、呻き声とも叫び声とも取れる奇妙な声を出す熊が一匹。言うまでも無くセイスである。楯無にぶん投げられた直後、頭に浮かんだのは楯無に対する罵倒ではなく会話の流れ。常に一夏の行動を監視していた自分が、彼の周囲の人間の余計な秘密を握ってしまったというのは、楯無とのやり取りで彼女達も悟ったことだろう。そして、絶対に一人…特にシャルロットかラウラ、もしくは簪辺りが勘付くことだろう、一夏にべったりだった自分達も決して例外では無かったことに。

 そして、このままでは話題の終着点が自分の人生の終着点になりそうなことを悟ったセイスは、必死で拘束を解いてこっそり武道場から逃げ出したのだった。熊の着ぐるみのままで…

 

 

「ねぇねぇ、アレッて何?」

 

「熊?」

 

「本音…じゃないわね。誰かしら?」

 

「てか、アレ男じゃない?」

 

 

 しかも、彼が逃げ込んだのは学生寮。まだ新学期が始まっていないとは言え、既に生徒がチラホラと戻ってきており、決して少なくない人数が既に寮内に居た。そんな場所で熊の着ぐるみが頭抱えて呻いていたら、隅っこに居ようがど真ん中に居ようが目立つに決まっている。尤も、セイスとしては、わざと人目につく場所を選んでいたりするのだが。

 

 

「と、とにかく時間が解決してくれるまで適当にやり過ごすしかないか…」 

 

 

 学園の外に逃げることは、自分の立場を考えて不可能だ。今はこんな状況に陥っているが、仮にも学園に保護して貰っている元犯罪者の身である。そんなことしたら、理由に関係なく面倒な事態に発展することだろう。かと言って、彼女達を返り討ちにするなんて暴挙は言語道断だ。こんなもん、立場以前の問題であり、そもそも追いかけられる原因は自分にある。だったら、潔く御縄に着けと言われるかもしれないが、それはそれで気が進まない。だって…

 

 

「ISで…それも六機掛かりでフルボッコとか、流石の俺でも嫌に決まってるだろうがあああぁぁぁ!!」

「安心しろ、生身の人間相手にISなど使わん」

 

 

 もう暫く聞きたくなかった6つ声の内の一つが聴こえ、セイスは思わずその場から飛びのいた。それと同時に、自分がついさっきまで居た場所に向かって、木刀が凄まじい勢いで振り下ろされる。そして、振り下ろされた木刀は派手な音を立てながら、廊下の床をベッコリと凹ませていた。今のIS学園に、こんなことが出来て、尚且つ躊躇しない人間は自分の知る限り一人しか居ない。というか、さっきの声でもう分かってた。

 

 

「よりによって最初に来たのはお前か、篠ノ之箒いぃ…」

 

「黙れ」

 

 

 振り返れば、天災の妹様。人の多い学生寮に来た甲斐もあってISこそ展開してなかったが、目が完全に人斬りのそれであり、色々な意味で危ない人であることに変わり無い。その証拠に、さっきまでセイスの姿を眺めながらワイワイやってた生徒達は一瞬で静まり、既に二人の居る場所から避難するように離れていった。

 そもそも今の一撃、普通の人間が受けたら確実に死んでいただろう。自分の耐久力はさっきの楯無とのやり取りで把握していたのかもしれいないが如何せん、日頃の箒と一夏のやり取りを知っている分、やはりただの加減知らずにしか感じられなかった。ちょっと見苦しいのは承知の上だが、この場で制裁を受けるのは勘弁願いたいのが本音である。

 

 

「セイスと言ったな。先に一つ、お前に尋ねておきたいことがある…」

 

「うん?」

 

 

 冷や汗を垂らしながら相手の動きを窺っていたら、唐突に箒がそんなことを言い出した。少しでも時間が稼げればと思い、取り敢えずセイスは彼女の話に耳を貸す。

 

 

「ずっと一夏を見張っていたと言うことは、やはり見たのか?」

 

「な、何を?」

 

「……の、…だ…」

 

「え、何だって?」

 

 

 心当たりが多過ぎて何のことか分からず、逆に問いかけるセイス。すると箒は顔を俯かせ、プルプルと体を震わせながら、何やらボソボソと呟き始めた。急に彼女の声量が小さくなったので、セイスは何を言ったのか聞き逃してしまい、再び問いかけた。その途端、箒はガバッと真っ赤に染まった顔を上げ、半ばヤケクソ気味にこう叫んだ。

 

 

「私の、裸をだッ!!」

 

 

―――その瞬間、セイスに向けられていた視線が、一瞬で冷たいものに変わった…

 

 

「誓って見とらあああぁぁぁんッ!!」

 

 

 周囲の空気と、自分の社会的な命が風前の灯火であることを悟ったセイスは、それはもうあらん限りの大声で否定した。そして、同時に箒が言っていることも理解した。彼女が言いたいのは、入学当初の一夏との同居期間のことだ。一夏ですら、初っ端からシャワー上がりの箒とエンカウントするなんて事態に陥っており、その後も直接見ていないとは言え、着替えやトイレも同じ寮室で行っていたのだ。その一夏を監視していたセイスが、それを目撃してないと思う方が無理な話だ。

 

 

「だが、お前は一夏のことを監視していたんだろう!? と言うことは必然と、一学年の時の同居期間は…」

 

「安心しろ、ちゃんと一夏しか映らないように監視カメラの場所を考えて置いたから。だから着替えだの、シャワーシーンだの色々とアカン奴は、見ても無いしデータにも残してない!!」

 

 

 オランジュ達に『変なところで紳士』と言われるだけあって、ティーガーを代表とする良識派の大人達に躾けられたセイスに抜かりは無かった。流石に二人の部屋割りを把握した時は焦ったが、即座に風呂場とトイレ、そして箒側のベッドのカメラの電源をぶった切り、そして翌日には学園の警備と楯無の目を掻い潜りながら、二人の部屋に忍び込んでカメラの設置場所を変更したのである。その為、箒の色々な意味で際どい画像データは、意外なことに少しも残っていなかった。当然ながらファース党の連中には大ブーイングを頂き、随分と長くそのことで文句を言われたが、後悔はしていない。増してや今のこの状況を考えると、尚更だ…

 そんなセイスの胸中を知ってか知らずか、彼の必死の弁明を前にした箒は怒りを少しばかり沈めたものの、未だに疑いの目を向けてくる。

 

 

「本当だろうな?」

 

「本気と書いて、マジだ。その代わりと言っては何だが、せめて実際に犯した罪は懺悔しとく」

 

 

 そんな箒に対して、セイスは唐突にそんなことを言い出した。いきなりの発言に首を捻る箒だったが、次の瞬間…

 

 

「たまに箒達のことも監視してました。そして、余った写真と音声は仲間にデータ化して売った」

 

 

―――元剣道大会覇者による渾身の面が、セイスに叩き込まれた…

 

 

「ぐおおおおぉぉぉ…!?」

 

「貴様、やはりそこに直れ!! そのネジ曲がった根性を叩き直してくれる!!」

 

 

 思いっきりぶん殴られたデコを抑えて呻くセイスだったが、被害者たる箒は正直言って知った事では無かった。そして、先程のセイスの発言により、周囲が彼に向ける視線が更に冷たくなった。

 本来のセイスの仕事は一夏の監視と護衛、そして彼自身のデータを集めることだ。その一夏のデータというのには彼の交友関係も含まれており、当然ながらそれは箒達のことも含まれている。なので、必然と彼女たちのデータも少なからず上から求められたりしたのだ。基本的に一夏程のデータ量を要求されたりすることは無かったが、それでも結構な量のデータが毎度のように溜まり、そしていつも余計に余ってしまった。

 

 

「と言うか、音声を売るってどういう意味だ!?」

 

「加工して着ボイスに痛ってええぇぇ!?」

 

 

 そのデータの数々は、世界最強や更識家の人間、専用機持ち達を筆頭とした魑魅魍魎の類が蔓延るIS学園に潜入して手に入れたものばかり。曲がりなりにも命懸けで集めたそれらを、余ったからと言う理由だけで捨てるのは、流石に勿体無いと言うか納得できなかった。そしてある日、そのことを組織の仲間に愚痴ってみたところ、その相談相手は満面の笑みを浮かべ、『だったらそのデータ、私が買って差し上げましょう』と言ったのだ。

 そこからはもう皆様の御存知の通り、『IS少女・ファンクラブ』の結成と同時にセイスの集めてくる彼女たちのデータの需要が大爆発。某食いしん坊娘のせいで度々金欠に陥っていたこともあり、完全に魔が差してしまったセイスは、罪悪感を多少なり抱きながらも、定期的に彼女達のデータを組織の仲間達に送り続けていたのである。尤も先程の言葉通り、彼の言う『色々とアカン奴』は、仲間達にどれだけ要求されても送るどころか入手しようとしなかったのだが…

 

 

「じ、自業自得とはいえ、流石に効く…」

 

「ふん、これでも今までのことを考慮して、手加減しているつもりだ」

 

「い、今までのこと?」

 

「いや、何でも無い。それよりも、まさかと思うが、アレも目撃したのか?」

 

 

 一夏ならとっくに白目向いて気絶する程の一撃受けてケロッとしているセイスに内心で戦慄しながらも、箒はそんなことを言い出した。もう白状するべきことは全部白状したつもりのセイスは、今度は逆に心当たりが無くなってしまい、困惑するしかなかった。だが、箒にとっては割と深刻な問題の様で、先程の裸の件とは少し違った必死さが垣間見えていた。

 

 

「アレって?」

 

「アレと言えばアレに決まってるだろう、アレに!!」

 

「だから、アレって何だよ!?」

 

「まだ分からないのか!? アレと言うのは…」

 

 

 

―――『私は貴方のことを、心から愛しています』

 

 

 

「そう、それだ!!……って、え…?」

 

「あぁ、一夏を女口調の練習に付き合わせた時のか……って、え…?」

 

 

 セイスと箒の会話を遮る様に聴こえてきたのは、紛うことなき箒の声。しかし、声の源はセイスの目の前に居る彼女自身からでは無いようだ。その証拠に目の前の箒の顔色は、羞恥の赤と絶望の青が混ざって紫色に染まっていた。二人は暫く気不味い雰囲気に包まれて沈黙していたが、やがて箒の黒歴史…もとい、彼女の声が聴こえてきた廊下の反対側へと目を向ければ、奴が居た。

 

 

―――左手には、見た目だけはボイスレコーダーにそっくりな、音声データ再生機

 

 

―――右手には、『押収品』と書かれた扇子

 

 

―――その顔面には、腹立つ位の満面の笑み

 

 

 

「セイス君、君って本当に、罪なオ・ト・コ♡」

 

「お前マジでいつか殺す、いや殺す、今からぶっ殺す!!」

 

「死ぬのはお前だあああぁぁぁぁッ!!」

 

 

 セイスが近くに置いてあったゴミ箱を楯無に向かって全力投球したの同時に、涙目になった箒が木刀をさっきとは比にならない威力とスピードで、セイス目掛けて突き放った。セイスはゴミ箱が楯無の顔面に直撃したのを確認するや否や、放たれた木刀を鷲掴みにして受け止め、そのまま引っ手繰る様にして箒の手から奪い取った。そして、そのまま彼女から距離を取る様にして後ろへと飛び退いたのだが、今度は背後から殺気を感じ、慌てて振り向いた。

 するとそこには、瞳からハイライトを消失させた金髪の貴公子が、その辺の野次馬に混ざっていたソフトボール部の生徒から拝借したのであろう金属バットを、セイスの脳天目掛けて振り上げている姿が…

 

 

「危っねえええええぇぇぇぇ!?」

 

 

 躊躇なく振り下ろされた金属バットを、箒の手から奪った木刀で殴り飛ばすように向かえ打つ。咄嗟の事で手加減が出来ず、思いっきり振りぬいたせいで金属バットはくの字に折れ曲がってシャルロットの手から弾き飛ばされ、箒の木刀も衝撃に耐えきれず、粉々に砕けてしまった。そのせいで金属のバットの持ち主であろう女子生徒の一人が悲鳴を上げたり、他の野次馬達もセイスの動きに驚きの声を上げていたが、当の本人はそれどころでは無かった。

 だってこのシャルロット、さっきからずっと笑顔なんだもん…

 

 

「……ねぇ…」

 

「お、おう?」

 

 

 一夏にパイルバンカー構えてる時の笑顔で話し掛けられたセイスは、何を聞かれるのだろうかと内心でドキドキしながら、彼女の言葉の続きを待つ。その結果…

 

 

「死んで」

 

 

―――まさかの問答無用である

 

 

「尋問も裏付けもすっ飛ばしていきなり死刑宣告!?」

 

「だって箒の時でさえ、あそこまで把握してるんだよね!?」

 

 

 叫ぶようにそう言ってシャルロットが指差した先には、顔面にゴミ箱が直撃し、大の字になっている伸びている学園最強(笑)。しかし気を失っても尚、彼女の手には箒の黒歴史が記録されている再生機がしっかりと握られていた。箒が必死になってそれを奪還するべく、楯無の手をこじ開けようと四苦八苦しているの見受けられたが、パッと見ビクともしてない。

 

 

「箒でアレなら、どうせ僕が一夏と同居してる時のこともバッチリ見てたんでしょう!?」

 

「……うん、まぁ…」

 

 

 シャルロットの同居期間は、彼女が男装してた時期でもある。そんなに長い期間でも無かったが、一夏に男装がばれたことも含め、それなりに色々なことがあったのは今でも覚えている。シャルロッ党の間では既に伝説となりつつある『一夏が食べさせて』事変とか、眠った一夏のデコにキスしてたとか、一緒に着替えようとか言い出した挙句、なんかギリギリな展開になったとか。

 うん、普通にコレはヤバい。黒歴史とか、そんなチャチな代物じゃ無ぇわ…

 

 

「だ、だが落ち着け。その時の記録は何も残していないから…」

 

「でも、記憶には残ってるんだね?」

 

「……。」

 

「……(ニコッ♪」

 

「……(ニ、ニコッ♪」

 

 

 

―――ランニングベア は ひっし で にげだした !!

 

 

―――シャルロット は えがお で おいかけた !!

 

 

 

「あ、待て二人共!?」

 

 

 

―――箒 は あわてて おいかけた !!

 

 

 しかし、何を思ったのか途中で立ち止まり、振り返ることなく呟いた。

 

 

 

 

 

「セイスの件が片付いたら楯無さん、次は貴方の番ってこと、忘れないで下さいね」

 

 

 

 

 それだけ言って、箒はセイス達の後を追いかけた。後に残されたのは、事態を飲み込めずに呆然とする一般の生徒達と、愛用バットが無残なことになって打ちひしがれるソフトボール部の少女。そして、大の字になったまま、大量の冷や汗を流す楯無だけだった。

 




○ソフトボール部はただのモブです
○セイスの相談相手は、金儲けの話と口調でお察しください
○白状するならば、終盤のやり取りの通り、セイスは記録には残してませんが、記憶に残してしまったことが幾つかあります
○まぁ本人からしたら、不可抗力に他ならないのですが…


次回、鬼ごっこの本番にしてクライマックスです。現在、一次小説をコツコツ書き始めてしまい、今回のように執筆ペースが遅くなるかもしれませんが、首を長くして待って頂けたら幸いです。
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