今回は最初から前中後編の三分割を想定しておりまして、今回はプロローグの意味合いもあって短めです。まだ完全には書き上がっておりませんが、前回はクリスマス特別企画と称したものの、途中からあんまりクリスマス要素無い気がしてきました…;
なので取り敢えず、いつも通りチマチマと書き上がり次第更新します。
某国某所に、一軒の古びた教会が存在した。古い上にまともな手入れもされていない為、外見は既に廃墟の一歩手前になっており、特に夜は不気味すぎて近隣の住民でさえ近付かない程に不気味な雰囲気を醸し出している。しかし、このオンボロな見た目で一般人が寄って来ないことをこれ幸いとばかりに、信者でも無いのに足を運んで来る者が後を絶たず、おまけにその大半が明らかに堅気とは違う空気を漂わせていた。
態々人目を避けながら、この教会を訪れる彼らの目的はただ一つ。
「嗚呼神よ聞いて下さい、俺はとんでもないことをやってしまいましたッ…」
誰にも言えない、己の罪を吐き出す…俗に言う懺悔である。
「俺は仲間に唆されて…いや、自分の欲に負けて、オレオレ詐欺に手を染めてしまいました。しかも後で知ったんですけど、よりによって狙った相手は近所のお婆ちゃんでした。金を奪われて、うちひしがれるお婆ちゃんを見たら、自分の仕出かしたことの重大さにやっと気付いて、それで、それで…」
今宵もまた、一人の迷える子羊が己の罪を吐露しにきた。滅多に人が寄り付かないボロ教会故に、この場に来る者達の懺悔の内容、そして立場は一際後ろめたいものが多く、公には出来ないものが自然と多い傾向にあるが、一人分の椅子が置いてあるだけの懺悔室に駆け込んできた彼もそう言った輩の様である。浅はかにも軽い気持ちで犯罪に手を染めた愚か者は、今になって自分のやった事の意味を理解したは良いものの、そこからどうすれば良いのかは分からず、迷っている内に気付いたらここへと辿り着いた、と言ったところだろう。
「俺は、俺は一体どうすれば…」
「……今更後悔して、何をしても、あなたが自分で御婆さんを傷つけた事実は消えません…」
利用者と教会の人間を隔てる懺悔室の薄い壁の向こうから聞こえてきた声に、詐欺を働いてしまった若者はビクリと肩を震わす。そんな彼の様子に構わず、声は続けられる…
「しかし自分の行った罪に対して、他人の手によって向き合わされるのと、自分の意思によって向き合うのとでは、天と地ほどの差があるという事を覚えておきなさい」
その言葉に若者は一瞬だけ目を見開き、その後俯いて沈黙した。
自分はこんな場所で、何をやっているのだろうか。自分の行いを後悔しており、罪悪感も感じているのならば、この様な場所では無く、もっと先に行くべき場所と、やるべきことがあるではないか。結局のところ、この期に及んで自分の身が可愛いかっただけではないか。
「神は言っています、迷った時は己の良心に従いなさい、と…」
この一言が最後の一押しになったのだろうか、若者は即座に椅子から立ち上がり、足早に懺悔室を出て行った。向かう先は、本来ここよりも先に自分の罪を吐露するべき場所、警察署である。詐欺の話を持ちかけた仲間ごと自分の罪を洗い浚い吐くことになるだろうが、不思議と彼の足取りに迷いは無く、むしろ軽かった。
壁越しにそのことを感じ取った教会の者は、若者に改心の兆しが見られたことに安堵し、人知れずホッと息を吐いた。しかし、すぐに教会の扉が開け放たれる音が聴こえ、新たな人の気配を感じとり気を取り直す。それとほぼ同時に、仕切りの壁の向こうにある懺悔室の扉が開けられ、中に誰かが入ってきた。
「神様聞いて下さい。私、とんでもないことをしちゃったっス…」
その途端、懺悔室の奥の方からガタッ、と言う物音が響いてきた。
「今、なんか音したっスけど、大丈夫っスか?」
「椅子から転びそうになっただけです、気にしないで下さい。さ、どうぞ続けて」
少し不審に思いながらも、新たな懺悔室の利用者…声からしてまだ若い女性、しかも恐らくまだ少女と呼べる年齢であろう彼女は、ポツポツと自分のしちゃったとんでもないこととやらを語り始めた。
「私には、愛してる人がいるっス。少なくとも、駆け落ち同然に故郷も何もかも捨てて、その人について行く位には愛してるっス」
全部本当の事を言うと色々とややこしい事になるので、一部ボカして少女は喋っているが、話を聞かされている側は何故か、『駆け落ち』と言う言葉が出た時点で既に汗がダラダラと流れていた。そのことを知ってか知らずか…いや、壁のせいで顔が見えないので知らないのだろうが、彼女は話を続ける。
「その人…先輩と離れたくないが為、職場も先輩と同じ場所を選びました。新しい就職先は、巷では真っ黒な噂しか無かったので不安だらけでしたっスけど、先輩と一緒ならどんな環境にも耐えられると思ったし、むしろ二人で居られる時間が増えると思えば気楽でしたッス。まぁ、不安に関しては完全に杞憂だったんッスけど…」
そう言って彼女…フォルテ・サファイアはこれまでのことを振り返り、同時に深い溜め息を零した。全てが変わった、あの京都での出来事から早くも三か月、その間にも色々な事があった。愛しの先輩ことダリル改めレインの親戚にして、直属の上司となったスコールには初っ端から世話になりっぱなしだったし、その彼女の副官にして恋人のオータムにも何だかんだ言って面倒を良く見て貰っている。互いにレズ同士であり、更に好みにも通ずるものがあったので、そこが大きかったのかもしれない。今はアメリカで活動中のシャドウ達とは顔合わせ出来ていないが、きっと良い関係を築けるだろう。少なくとも、万年仏頂面の年下な先輩よりかはまともな筈だ。別に嫌いな訳では無いし、嫌われてる訳でもないのだが、どうしてもフォレスト派の連中のように、あそこまで遠慮なく接する勇気が出ないのである。多分、世界最強にしてIS学園随一の鬼教師と同じ顔なのが原因だと思う。
因みにそのフォレスト派のメンバーとは、何故かスコールの手により貸出組以外との交流を禁じられてしまった。彼女らが言う程彼らは、少なくともオランジュやセイス達を筆頭とした貸出メンバーは、そんなに悪い奴らでは無いと思うのだが、何でも自分に絶大な悪影響を及ぼすからとか、教育上あまり好ましくないとか良く分からない事を言っていた。結局はオータムにまで止められたので、彼女らの言う通りに控えているが、今もその理由は良く分からない。
「……て言うか亡国機業って、本当に悪の秘密結社なんスか? なんか、そこら辺の一般企業の方が余程ブラックな気がするんスけど…」
「あなたの居る場所が特殊過ぎるだけだと思います…」
「ん、何か言ったスか?」
「いえ、何も…」
聞き逃した言葉が何だったのか少し気になったものの、既に頭の中で話が逸れ掛けていたので、気を取り直して話を再開するフォルテに反して、どうも壁の向こうの反応はイマイチである。それどころか、心なしか今すぐ家に帰りたい衝動に駆られているようにも思えたが、残念ながらそのことに気付いてくれる者は居ない。
「現状スコールさん達、そしてフォレスト一派の皆さんのお陰で充実した毎日を送れてるのは確かっス。しかし、しかしですよ? さっきも言いましたが、私は先輩と一緒に居たいから何もかも捨てて、職場まで変えたんス。なのに、肝心の先輩ときたら…」
一息にそこまで言って、フォルテは途端に顔を俯かせ、荒ぶる感情を抑えつける様に身体をプルプルと震わせながら沈黙した。しかし、やがてそれらを一気に爆発させるようにガバッと顔を上げ、そして…
「最近、仕事にかこつけて全ッ然相手してくれないんス!!」
「待て」
「昨日も仕事、一昨日も仕事、三日前もその前も仕事ッ!! 帰ってきても仕事で疲れたとか言ってすぐにベッドへ直行、然る後即就寝ッ!!」
「待って」
「先輩とキャッキャウフフな毎日を夢見てたのに、これじゃあIS学園に居た時の方がよっぽど二人の時間多かったじゃないっスかッ!! 『二人で世界を裏切ろうぜ』なんて中二臭い台詞で誘っときながら、結局は私のことは遊びだったんスかーーーーーッ!?」
「待てや落ち着けーーーーッ!!」
今まで溜めに溜めた鬱憤と苛立ちを叩き付ける様に、教会の外にまで響く大声で吐き出されたフォルテの言霊化したストレスの数々。思わず壁の向こうからも悲鳴に似た制止の怒鳴り声が轟いたが、当の本人の耳にはまるで届かず、近所迷惑など一切顧みない彼女の心の叫びはまだ続く。
「しかも仕事で忙しいとか言っときながら、時たま艶々になって帰ってくる時があるのはどういうことっスか!? もう明らかにコレ不倫してるっすよ、絶対に浮気してるっスよ!! 倦怠期が来てポイされる十秒前っスよおおおおぉぉぉもう嫌だああああぁぁぁぁ私は何の為に家族も友人も後輩も裏切ってあの人についてきたと思ってるんスかああぁぁぁ!?」
「あの、取り敢えず落ち着きましょう。それと懺悔室は、愚痴では無く罪を吐き出す場所なんで…」
何かもう完全にここが何処で、どう言った場所なのか忘れているであろうフォルテ。流石の壁の向こうの彼も困り果てたようで、取り敢えず彼女を直接宥め、そしてあわよくば教会の外につまみ出して近所の居酒屋にでも放り込んでやろうと、椅子から立ち上がった。
「だから私が先輩の浮気相手を寝取っちゃうなんて事態になるんスよおおおぉぉぉッ!!」
直後、壁の向こうでドンガラガッシャンと、何かが盛大にすっ転ぶ音が聴こえてきた…
○スコールが野郎共と交流を控えさせたのは、エムの二の舞を防ぎたかったから
○次回はレイン
○次々回は元凶が登場
修羅場マス終わったら、そろそろアイ潜本編を再開する予定です。それでは、次もお楽しみにー