アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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大変お待たせしました、アナザートライアングル編完結です。

しかし、やっぱり皆彼らのことを理解してらっしゃる。感想読んだらもう誰が誰なのかモロバレしてて笑うしかなかったですwww


IF未来 アナザートライアングル編 後編

『ちょっとレインと一緒に仕事してきてくれない?』

 

 今思えば、この言葉が全ての始まりだった。

 スコールからの要請の元、フォレストの指示に従いレインのサポート役として、亡国機業の傘下でありながら裏切りを企てているらしいとある組織の実態調査に向かった。時間こそ掛かったが、調査対象が三流も良い所なポンコツ組織だったので、そんなに梃子摺る事こそなかったものの、一時的な相棒となったレインの扱いに関しては非常に手を焼いた。フォルテとの時間をパァにされたレインは常に不機嫌で、暇さえあればこっちに八つ当たりしてくるし、酷い時には報告なしの独断先行までされ、この短いようで長い期間の内に幾度となく肝を冷やしたものである。

 御機嫌取りして少しでも被害を少なくしようと試み、定期的にフォルテが居るアジトに帰れるように手配したり、長い愚痴に付き合ったり、上手く誘導して相手組織の人間にレストランやエステのサービス券などを貢がせたお蔭で、最終的に日頃の彼女の状態に戻すことが出来た。むしろ、前よりそれなりに仲良くなれたんじゃないだろうか?

 とにかく無事に仕事も終わり、フォレストとスコールへの報告も済ませた。本当はスコールへの報告は、レインが自分で翌朝にするからしなくて良いと言っていたのだが、あの凄ぇ眠そうな様子からして、絶対に翌日の昼まで寝てそうな気がしたので代わりにしといたのである。余談だが、その時スコールの顔に『あ、駄目だこりゃ…』と書いてあったのだが、アレはどういう意味だったのだろうか。あの時は疲れていたし、直後にあんなことがあったので殆ど気にしてなかったのだが、今思い返すと嫌な予感しかしない。

 

『見つけたっスよ、この泥棒猫ッ!!』

 

 因みに、あんなこととは、こんな言葉から始まった。アジトへ帰ろうとしていた最中、いきなりフォルテにこんなことを言われた挙句ブッ飛ばされ、気絶させられてしまったのである。そして気が付いた時には、フォルテの部屋に連れ込まれ、手錠で拘束された状態で床に転がされており、周囲に目を配るとこの状況を作った張本人が頭を抱えて何やら葛藤している姿が視界に入った。

 もう何がなんだか訳が分からなかったがフォルテの『泥棒猫』と言うセリフと、かなり長い時間を掛けて自分がレインと一緒に仕事していたことを思い出し、彼女がとんでもない勘違いをしていることを悟った。しかし、どうにか誤解を解こうと声を掛けるもフォルテは一切耳を貸さず、それどころか先程から部屋の中を右往左往していた。

 

『やんわりと説得すべきか、二度と近付かない様に脅すべきか…でも、この人と先輩が相思相愛だったら、身を引くべきなのは私の方なんじゃ……いや、でも、やっぱり許せない……殺すべきか………けれど、この人が先輩を奪ったんじゃなくて、先輩が私を捨てたのだとしたら………あああああああああぁぁぁぁぁ私はどうすれば良いんスかっ!?』

 

 最初は嫉妬と憎しみに身を任せ俺を殺すべきか、理性に従って説得の道を選ぶべきか、大きく分けてこの二つの選択肢に頭を悩ませていたフォルテ。しかし万が一にも選択肢を誤れば、レインとの仲が完全に破綻するのではないかと言う恐怖が、彼女に全てを躊躇させていた。彼女が部屋の奥から包丁を持ってきた時は本気で死を覚悟したが、それを躊躇うだけの理性が残っていて本当に良かったと思う。そもそも浮気は誤解なので、俺を殺そうが殺さまいがレインはなんとも思わないのだが、何度言っても聞いちゃくれない。

 勝手にとんでもない勘違いをするとこと言い、人の話を全く聞かないとこと言い、そこまで面識が無かったので今までフォルテに対してこれと言った印象は抱いてなかったが、今回の件で俺の彼女に対する印象は完全に『アホの子』になった。

 

『そうだ…私が、この人を先輩から奪えば良いんっスよ……』

 

 訂正、ただの馬鹿だ。おい服を脱ぐな、そして脱がすな馬鹿野郎。取りあえず落ち着け、その小柄な身体に不釣合いの妖艶な微笑を引っ込めてくれ、怖いから。ちょっ待て早まるな、寄るな、よせ、やめッ…

 

『ふ、ふふふ……いただきますっス…』

 

 

 アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 結局、抵抗空しく美味しくいただかれ、同時に美味しくいただいてしまった。フォルテは、そう言う行為そのものには慣れていたようだが、男とやるのは初めてだったのようで、ヤケクソ気味に悪ノリしたらいつの間にか立場が逆転しており、気付いたら艶々になって恍惚の表情を浮かべながら、隣で一人夢の世界へと旅立っていた。可愛い寝顔しやがって、この野郎…

 さて、どさくさに紛れて拘束は解かせてもらったものの、状況は最悪である。過程はどうあれ、あのフォルテとやるだけやったのである、フォルテとやってしまったのである。フォレスト一派にスモール・スコールと陰で呼ばれてる、レインの女に手を出してしまったのである。もしこの事実を彼女に知られたら、立場とか派閥とか関係なく惨殺される。直前まで一緒に任務してたから余計に確信しているが、例えスコールが宥めようとも、確実に止まらないだろう。こんな理由でこの相手に口封じは問題外、かと言ってこの馬鹿に隠し事は無理そうなので口止めも不可能。となれば最後の手段、フォルテが寝ている今の内に、色々と偽造工作をして、さっきのことは勘違いとか夢オチだったと思い込んでもらッ…

 

『あ、おはよう御座いますっス…』

 

 俺に現場組のような真似は無理だった。脱がされた衣服を手に取った瞬間にフォルテが目を覚まし、彼女もまた俺に合わせるようにして脱いだ服を身に纏い始めた。そして互いに服を着てから数分後、謎の沈黙が二人の間に続いたが、段々とフォルテの顔色が変わっていった。やがて顔を真っ赤に染め上げたフォルテは奇声染みた悲鳴を上げ、止める暇も無く部屋から脱兎の如く逃げ出してしまったのである。あの様子だと、先程までの記憶はしっかりと残っているのだろう。俺の人生、終了のお知らせである。

 もう打てる手は無く、自分に出来るのはただ死神レインが訪れるのを待つだけ。絶望に苛まれ、重い足取りでその場を後にした俺は、当ても無く街を彷徨った。そして時間も忘れ日が暮れるまで歩き続けていたら雨が降り出したので、近くにあった居酒屋に足を踏み入れた。そして店員に案内されるがまま、カウンター席に座ったのだが…

 

---何故か、隣に酔いつぶれたレインが居た…

 

 一瞬で頭が真っ白になり、思考だけでなく心臓も停止したかと思った。しかも、こっちが向こうに気付いたのと同時に、向こうもこっちに気付いたようでバッチリと目が合ってしまった。反射的に逃げようとしたが、既に彼女の手は自身の肩をガッチリと掴んでおり、それは叶わなかった。

 

『よぉ、奇遇だな……ちょっと、付き合ってくれないか…?』

 

 全てを諦め、椅子に座りなおした俺は覚悟を決めた。 嗚呼、なんとも短く呆気ない人生だった。この世に対する未練が山のようにあるので、もしかしたら例の怪奇コンビみたいに幽霊になって留まることが出来たりするのだろうか。そうなったら、かつての悪友達の秘密を根こそぎ暴いて晒してやるのも面白いかもしれない。そんな風に、半ば現実逃避するかのように、くだらないことを考えながらレインからの鉄槌に身構えた。

 

『実はさっきなぁ、フォルテに振られた挙句、逃げられたんだよ。ハハッ、もう意味分かんねぇ…』

 

 ところが意外な事に彼女の口から出てきたのは、死刑宣告ではなくやけに悲壮感の篭った愚痴。何でも、昼頃にフォルテに会ったら拒絶と謝罪の言葉を叩き付けられた挙句、逃げられてしまったそうだ。しかも、即座に追いかけたにも関わらず、未だにフォルテのことは見つけられていないとか。もしレインの言うことが事実ならば、奇跡的なことにフォルテは俺とナニかしたことを彼女に言っていない。つまりバレてないのだ、フォルテに手を出したことが。そのことに気付いた途端、思わず歓喜の叫びを上げそうになったが、残った理性を総動員してそれは抑えた。しかしバレてないだけであり、やったことは事実で、その事実を知られてはいけない奴が目の前に居るのが現実。依然として、気は抜けない。

 その後はもう、ひたすらレインの愚痴と酒に付き合った。何かの拍子にボロが出ないようにビクビクしながらも、彼女の話に付き合い、適度に相槌を打ち、ひたすら酒を共に飲んだ。なんか途中からフォルテの話からスコールの姉御に対する愚痴と悪口に変わってたが、フォルテとの件を完全に忘れることが出来たら、それなりに楽しかったと思う。良く考えれば彼女と自分は同い年で、立場も似たようなものだから、元から気が合うのかもしれない。その最中、既に潰れかけていたレインの酔いが更に回り、スコールの呼称が『スコールおばさん』から『クソババァ』に変わった頃、唐突に彼女はこちらを静かに見つめ出した。 

 

『お前って、見た目に寄らず良い奴だよな。仕事やってた時も面倒だったろうに、不貞腐れるオレのことを気遣ってくれるしさ。今もこうして話に付き合ってくれるし、本当、お前って何気に良い男だよ…』

 

 いきなりそんなことを言い出したかと思うと、グラスに残ってた酒を一気に煽った。そして今までに見せたことの無い、思わず見惚れてしまう様な、完全な女の顔を向けてきた。そして固まってしまった俺が動かないのを良いことに、自身の口を耳元に近付けて、囁く様に呟いた。

 

 

『ねぇお願い、もっとオレを…私を、慰めて。嫌な事全部、忘れさせて……』

 

 

 

 その瞬間、俺の理性は弾け飛んだ…

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「今思うと、俺も相当飲んでたんだよね。そのせいか頭も碌に働かなくてさ、気付いたらラブホのベッドの上でレインと寝てた。目ぇ覚まして我に返った途端、コレはもう流石にヤバイと思って、半ばパニック状態になりながら大慌てでホテルから逃げ出してきちまった訳なんだけど……どうしよう、レイン放置してきちゃった…」

「取りあえず、一言だけ言わせて下さい。マジで何してんだド阿呆」

 

 結局、一日で二人の女、しかも恋人同士の二人と致してしまったこの男。その後、逃げ出したは良いが、自ら悪化させた状況に今度こそ途方に暮れた。暫く街を彷徨っていたのだが、偶然この教会の近くを通り掛り、足を踏み入れた。そして迷うことなく懺悔室の扉を開き、誰にも相談出来ない、自分の身に降りかかった今日の出来事を全て吐き出した。

 壁の向こうでこの阿呆の話を最後まで聞いていた教会の者は、もう呆れるしか無かった。ぶっちゃけ、目の前の壁が無ければ二,三発引っ叩いても良いのではないかと思った。だが、もう少しだけ我慢だ。

 

「それでテメェは…失礼、あなたはこれから、どうするつもりですか?」

 

 

―--全ては、これに対する返答次第である…

 

 

「これから二人に会いに行く。そんで全部、何もかも白状する…」

 

 

 その返答に、壁の向こうから『ほう?』と言う言葉が聞こえてきた。しかし、それに構わず男は言葉を続ける。

 

「幾らなんでも、コレは駄目だ。一度目は不可抗力と言えなくも無ぇけど、二度目は間違いなく俺が悪い。しかも二度目に至っては、相手が弱っているところにつけ込んだ形になってるし、そもそも弱った原因を作ったのは俺だし、やってること最低じゃないか…」

 

 そもそも相手が知らないのを良いことに、寝取った(?)女の恋人とその日の内にやるとか論外である。フォルテに襲われた時、もっと真剣に抵抗すれば逃げ出せた可能性はあったかもしれない。レインに出くわした時、さっさとフォルテとのことを白状していれば、ここまで話が拗れることも無かったろう。全ては自分が蒔いた種、その責任も取らずして何が男か。このまま自分で自身が嫌悪するクズに成り下がるくらいならば、潔くあの二人に殺される方がマシである。それに何より、今になって改めて気付いたが、自分はあの二人のことが…

 

「とにかく例え殺されようが、ケジメはつける。そして、もしも許されたなら、もしも許されるのなら…」

「あ、そう言うの良いから。とっとと出て行け二股クソ野郎」

「酷ぇなオイ!?」

 

 決意表明をバッサリ切り捨てられ憤慨するも、向こうは知ったこっちゃ無いと言わんばかりに無視を決め込んだ。その後しばらく男は喚き続けたが、いつまで経っても返事は無く、やがて諦めて席を立った。しかし、懺悔室の扉に手をかけた途端、不意に壁の向こうから言葉を投げかけられた。

 

「神は言っています。この御時勢、馬鹿を見る正直者と、甘い汁を吸い続ける嘘吐きは、限りなく多いことでしょう…」

 

―――しかし…

 

「正直者も、嘘吐きも、罪を犯せば、犯した罪の分だけ罰を受ける。唯一違うのは、前者は罪を犯す度に罰をこまめに受け、後者は罪を嘘で隠す度に、膨れ上がり重くなった罰を一度に受ける、この点だけです。貴方は一体、どちらなのでしょうね?」

 

 その瞬間、懺悔室の扉が勢いよく開かれた。彼が咄嗟に視線を向けると、そこには…

 

「その身を張って、是非とも教えてくれ。精々死ぬなよ、阿呆専門オランジュ」

 

 

 金と黒の美少女が二人、仁王立ちしていた…

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

―――翌日…

 

 

「あ゛あああぁぁぁ死ぬかと思ったああぁぁぁ…」

「おう、無事で何よりだ」

「他人事だと思いやがって…」

「実際そうだし」

 

 次の日の夜、彼は…オランジュは五体満足で、行きつけのバーでセイス、バンビーノ、アイゼン、そしてマドカ達いつものメンバーと飲み会に興じていた。

あの後二人に、特にレインにはボコボコにされたものの、どうにか許して貰えたオランジュだったが、その日の内に、互いのの上司に事の顛末を報告し、更に事情を詳しく説明をすることになり、先程やっと尋問…もとい事情聴取が終わったのである。やっと諸々の問題が片付いたオランジュは今までの緊張と疲労からか、カウンター席でぐったりと身を投げ出していた程だ。

 余所の派閥、それもスコールの身内に二人も手を出したこともあってか、お話は非常に長引いた。しかし当事者三人それぞれにも非があったこと、フォレストが助け船を出してくれたことにより、なんとか命を獲られるような事態にはならなかった。事情聴取の最中、『まぁ良かったじゃないか、ちょっと斜め方向だけど君が望んだ結果になって』とフォレストが言った瞬間、スコールは顔色を変えてオランジュへの追及をやめてしまったのだが、果たしてどう言う意味だったのだろうか。まぁ尤も全てから解放され、精神的に余裕の出来た今なら、なんとなく二人の考えていたことに察しはついているのだが、今はもう忘れてしまおう。

 

「それよかお前、結局あの二人とはどうなったんだ?」

「どうも何も、あの後…」

 

 バンビーノからの問いへの返事を中断し、突然オランジュはカウンターへと飛びこむようにして身を乗り出した。そして彼がカウンターの裏側へと隠れると同時に店の扉が開かれ、新たな客が二人、入ってきた。一人は、まるでモデルの様な体型の金髪少女。もう一人は、猫を連想させる程の小柄な、黒髪の少女だ。

 

「「オランジュ(さん)は?」」

 

 二人の美少女、レインとフォルテの問いに、その場に居た全員がカウンターの裏…ではなく、少し離れたスタッフルームの扉を指差した。それを確認するや否や、彼女らはズンズンとスタッフルームへと足を進め、迷う事無く扉を開けて中に入った。その直後、中から『ぐああぁアイツらああぁ!?』と言う叫び声と、ドッタンバッタンと何かが暴れる音が聴こえてきたが段々と静かになり、やがて二人に両腕をガッチリホールドされたオランジュが、連行される犯人の如く引き摺られるようにして出てきた。

 

「ま、待て落ち着け、まずは話し合おう!!」

「この期に及んで逃げ出した言い訳は一応聞いてやる、ベッドの上でな」

「今日は眠らせる気無いんで、そこんとこよろしくっス」

「いやキズモノにした責任は取るって言ったけど、いきなりコレは無いだろ!? じゃあせめて、せめて二人同時はヤメッ…」

「「却下」」

 

 そのままオランジュは二人の手によって、店の外へと連れ出されてしまった。店の扉が閉まる直前まで助けを求めるような視線を皆に向けていたが、最後まで彼に救いの手は差し伸べられることは無かった。ていうか、誰もオランジュと目を合わせてくれなかった…

 

「アイツ、爆発しないかなぁ…」

「バンビーノ、目が据わってるぞ?」

 

何だかんだ言ってあの三人は相性が良かったのか、今後もあんな感じで付き合う事になったらしい。完全にオランジュが二人に振り回される…どころかぶん回されている気もするが、何気にオランジュはあの二人よりは異性との接し方と言うものを弁えているし、本人も満更でも無さそうだったので大丈夫だろう。

 余談だが、そんなことになるとはを微塵も予期せず、秘蔵っ子がオランジュを勝手に骨抜きにすることを信じて疑わなかった故に、何も告げず二人を長く組ませた結果、こんな事態に陥ったことに頭を抱えた者が居たりする。

 

「それはさて置きセイス、面白い話があるって言ってたけど、一体なんなの?」

「あぁ、実は仕事中にとんでもないことが起きてな。取り敢えず、今朝まで俺が教会の懺悔室で盗聴任務やってたのは言ったよな?」

 

 

―――ピシリッ!!

 

 

「フォレスト一派恒例のアレだろ、盗聴任務って言うか、エセ神父代行の…」

「て言うか、それでオランジュの二股騒動を知ったんでしょ?」

「それがさ、オランジュ達の後にも懺悔に来た奴が居たんだが、そいつの話があまりに笑えてな。なんでもそいつは一昨年のクリスマスに、友達に対して悪戯を仕掛けたそうだ」

 

―――ガシャン、パリンッ!!

 

「うぉい、どうしたエム!?」

「いや、ちょっと手が滑った。少し飲み過ぎたかもしれん、外で風に当たってくる」

 

 そう言ってマドカは店の外に出ようと席を立ったのだが、その場から一歩も動くことが出来なかった。割と本気で力の込められた、セイスの腕がガッチリと彼女の腕を掴んでいたのだ。

 

「おいおい、これからがこの話の面白いところなんだ、折角だし最後まで聞いていけ。ほら、座れよ」

「いや聞きたいのは山々なんだが、ちょっと気分が悪い。ここ最近冷え込んできたから、もしかしたら風邪を拗らせたのかもしれないし、スマンが今日のところは先に帰らせてもらッ…」

「座れ」

「ア、ハイ…」

 

 微塵も反論する気力が湧かない位に低い声で言われ、マドカは大人しく席に座り直した。それを確認したセイスは、話の続きを喋り出す。

 

「当日、そいつは仕事をサボり、悪戯の標的を含めた友人達が参加している余所のクリスマスパーティにこっそり忍び込んだそうだ」

 

 上司からの仕事を放棄するのも、友達に悪戯を仕掛けるのも、そいつにとっては日常茶飯事。その時も、いつもと同じように軽い気持ちで仕事を抜け出し、例の悪友達が集う宴の席へと足へと踏み入れ、くだらなくも楽しい企みの為に全力で裏工作を始めた。

 

「すっかり御馴染みの存在になっていたせいか、そいつは会場に顔パスで入場。そしてパーティの御馳走を食い漁りながら歩き回り、悪戯の標的が食べる予定なのだろうケーキを発見し、土産と称して持参した火薬入りケーキとすり替えた。早い話が、バラエティ番組でよくやってるケーキ爆破の再現を狙ったんだろうな」

 

 パーティ会場で一際存在感を放っていた、豪華なクリスマスケーキ。パーティ会場には自分や悪友達と同じ世代の若い面子も居るには居るが、やはり大半は大人達だ。甘い物が嫌いとは言ってなかったし、あのケーキは間違いなく悪友達の口に運ばれることだろう。故に躊躇う事無く、クリスマスケーキと爆弾ケーキをすり替えた。そして悪戯の成功を確信したそいつは、大量のお土産を両手に意気揚々と帰っていったのだが…

 

「ところが、そこで誤算が生じた。てっきり悪戯の標的が食べると思っていたケーキは、なんと標的の上司のものだったんだ。そいつも、上司も、そんなこと知るよしもなく、爆弾ケーキはそのまま…」

 

 悪友達が食べると信じて疑わなかった、あのクリスマスケーキ。あろうことかアレは、彼らの上司のものだった。真面目で厳しい性格な上に最強の実力、そしてその風貌と性格に似合わず甘い物が大好物なことで有名なその上司が、軽い破裂音と共に弾けたケーキによって顔面をクリームだらけにされた瞬間、パーティ会場は一瞬にして地獄絵図と化した。

 

「とっくに会場から逃げ去っていたせいもあって、その事実を知ったのは翌日、怒り狂った上司のせいでボロボロにされた友人達に話を聞かされてからだったそうだ。相手を酷い目に合わせようとしたのは確かだが、当初の計画よりも被害のレベルと規模があまりにでか過ぎて流石にヤバイと思ったものの、幸いなことに悪戯の犯人が自分であることはバレてねぇし、白状したらしたですんげぇ怒られると思って、今も当時の被害者達には事実を黙ったままらしい」

 

 『以上、面白い話でした』…セイスのその言葉と同時に、4人の間に重苦しい沈黙が流れた。面白い話と称した割には、誰一人として笑っていなかったが、そんなの知ったこっちゃないと言わんばかりにセイスは飲み物を口に運んだ。バンビーノとアイゼンも彼の態度を特に気にした様子は無く、何も言わない。ただ、何故かマドカは顔を青褪めさせ、まるで何かに怯えるようにカタカタと身体を震わせていた。

 

「ところで、一昨年のクリスマスのこと、覚えてるか?」

「爆発してたなクリスマスケーキ、兄貴の」

「その場に居た全員殴られたよね、兄貴に」

「おおっとスコールから緊急通信だすまないが先に帰らせて貰うぞおおぉぉ!!」

 

 露骨に白々しい台詞を吐きながら、マドカは素早い身のこなしで席から立ち上がり、店の出口へと駆け出した。しかし、それを軽く超えるスピードで動いたアイゼンに足を払われ、宙で一回転したところをセイスに御姫様抱っこで受け止められ、さっき座っていた席に優しく降ろされてしまった。

 まるで判決待ちの罪人の如く、優れない顔色で恐怖に震えるマドカの肩にポンっとセイスの手が置かれ、彼女はビクリと一層大きく身体を震わせたが、それに反してセイスはとても笑顔だ。それはもう怖くて直視できない位に、とても良い笑顔だ。その笑顔で、彼はこんなことを言い出した。

 

「ところでマドカ、お前このまえ、モンハンク○スで初めてディノバ○ド倒したとか言ってたよな?」

「え、まぁ…」

 

 予想外の言葉に思わず素で返事をしてしまったが、次の瞬間…

 

「おんやぁ、何故かこんなところに青くて遊牧民チックな民族衣装がー」

「は?」

「アレレー、いつの間にか猫耳カチューシャまであるぞー」

「ハァ?」

 

  バンビーノとアイゼンがそんなことを言って、言葉通りの衣装と小道具を取り出した。事前にセイスに『持って来い』と言われた理由が分かったこともあり、疑問が解けた二人の表情はやけにスッキリしており、同時に非常に悪い顔をしていた。二人の様子に嫌な予感を覚えたマドカだったが、その予想は見事に当たった。突如、店の扉が開かれ、見慣れた眼鏡の男…フォレスト一派のメテオラが入ってきた。そして…

 

 

「エムさんが踊り付きでト○ベルナ熱唱してくれると聞いて!!」

 

 

 撮影機材一式を持参してきた彼の言葉を耳にした瞬間、マドカは先程のオランジュのようにカウンターの裏側へと飛び込むような勢いで席から離れようとした。だが両腕と襟首をセイス達3人掛かりで掴まれ、再び席に引き戻されてしまった。しかし今度は、今から自分が何をされるのかを理解したマドカは恥も外聞も捨てて喚きながら、ジタバタと暴れながら必死に抵抗する。あの格好で、あんな恥ずかしい踊りと歌を披露するくらいなら、いっそこの場に居る3人に袋叩きにされる方が余程マシである。しかもコイツら、いつだかのマド☆マギ合成写真の時のように、撮影した映像をばら撒く気満々ではないか。精神的にも社会的にも殺しにかかっている辺り、明らかに本気で怒っている。

 けれども、あの大参事を引き起こしといて何の詫びも無く、二年間も黙っていたことを許す気は3人には無い。それでもマドカは一縷の望みを懸けて、セイス達に許しを請う。

 

 

「あ、謝れと言うなら幾らでも謝る、ティーガーに殴られてこいと言うなら殴られに行く!! だから、後生だからそれだけは許しッ…」

「エムを酷い目に遭わすと聞いて!!」

「オータム貴様あああああぁぁぁぁぁ!?」

「あ、オータム丁度良いところに。マドカを向こうでコレに着替えさせてやってくれ」

「任せろ。ほらエム、こっち来い!!」

「ふざけるなぁ!! よ、よせ、やめろおおおおぉぉぉ!?」

 

 結局この後、皆の前で滅茶苦茶ニャンニャン♪させられたのは言うまでもない…




○マドカの罰ゲームの詳細は『MHX』、『エンディング』で調べれば分かると思います
○3人とも相思相愛な三角関係で落ち着いた模様
○セイス達を狙って仕掛けたケーキ爆弾、まさかの誤爆で虎が激オコぷんぷん丸
○反射的にその場から逃げてしまった全員が、犯人と誤解されブッ飛ばされました
○でも冷静になったら流石に大人げなかったと反省し、全員に謝った
○因みに後にも先にも、虎の兄貴が皆に土下座したのはこの時だけ

やっぱりアイ潜はセイスとマドカのやり取り書いてる時が一番筆が進むwww

次は約一年ぶりに本編を更新したいと思います。相変わらず亀更新ですが、首を長くして待って頂けたら幸いです。それでは、次回をお楽しみに~
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