アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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ぶっちゃけ不調です、その内に書き直すかもしれません…


IF未来 アナザートライアングル2 前編 

 

 

 

 『ファントム』と言う名を聞いて、闇社会の住人が示す反応は様々だ。『彼はまさに一流だ』と称賛する声もあれば、『野郎、次に会ったら殺してやる』と吐き捨てる者も居るし、『もう二度と関わりたく無い』と名前を聞いた途端に脱兎の如く逃げ出した奴も出た。神出鬼没、正体不明、関わった者に成功と破滅を齎す彼は、まさに悪魔のような男と言えよう。

 その悪魔が、亡国機業の重鎮フォレストの弟子にして、組織の次期盟主候補であることは、ごく一部の者しか知らず、そして彼が最近二人の女性と同時に関係を持ったことを知る者は更に少ない。

 

「さぁ、いい加減に観念して吐け」

「まぁ真相を聞いたところで許すかどうかは別問題っスけどね」

 

 しかし、その悪魔は現在、荒ぶる交際相手二人の前で正座させられていた…

 

「待って、本当に待って、今回はマジで身に覚えが無いぞ俺ッ!!」

 

 都内某所にある喫茶店、ちょっとフォレスト一派と縁があるので色々と融通の利くこの店を貸しきりにしてまで行われていたのは、プロも真っ青な尋問である。

 例の事件を切っ掛けに、正式に交際をスタートさせたオランジュとレイン、そしてフォルテの三人。現在は普通に三人揃ってデートに出掛けたり、互いに居ない所で惚気たりと、寂しい独り身な組織仲間に精神的ダメージ与えながら、普通とは程遠いが順調且つ良好な関係を築きつつあった。

 が、本日の朝、突如として異変が起きる。何故か朝っぱらから、レインとフォルテが尋常じゃないくらいに殺気立っていたのだ。即座に気付いたオランジュは、二人が自分に対してキレているのは直感で分かったのだが、どうしても心当たりが無かったので、取り敢えずほとぼりが冷めるまで逃げる事にした。そして逃げてる間に二人の機嫌が悪い原因を突き止め、対策を考えようとしていたのだった。

 

「て言うかエム、この野郎!!」

「すまないオランジュ、どうしても断ることが出来なかったんだ」

 

 だが、その目論見はマドカから届いた『セイス達と喫茶店に居るからお前も来い』と言うメールにより、一時間足らずで破綻した。喫茶店で心を落ち着かせ、ついでにマドカとセイスに相談しようと思ってノコノコと店にやって来たオランジュを出迎えたのは、誘ってきた本人であるマドカにセイス、バンビーノ、アイゼン、そして阿修羅すら裸足で逃げ出しかねない怒気を纏ったレインとフォルテの二人だった。

 

「くっそう、エムに言う事を聞かせるなんて姉御ですら滅茶苦茶苦労するって言うのに、まさかこうもあっさり従わせるなんて。いったい、どんな手を使いやがった…」

「はいエム、報酬のプリンっすよ」

「確かに受け取った」

「ふざっけんなッ!!」

 

 そして阿呆専門が歴戦の現場組5人と元代表候補性に太刀打ちできる筈も無く、御覧の有様だ。店内のど真ん中、仁王立ちする二人の前で正座させられて縮こまるオランジュの姿は、いっそ哀れですらあった。

 

「テメェ、プリン一個でそこそこ長い付き合いの同僚を売りやがったのか。幾らだ、いったいお値段幾らのプリンで俺を売りやがった!?」

「そこらのコンビニで売ってる、逆さにしてプチってやる奴っスよ?」

「俺の価値プ○チンプリン以下!?」

 

 流石に声を荒げるオランジュだったが、ガッ!!とレインに頭を鷲掴みされたことによって、あっさりと口を閉じた。思いのほか強い握力にビビり、同時に寄せてきた怒れる彼女の顔にビビり、ついでに彼女の肩越しに見えたフォルテの目がヤバいことになっていることに気付いてビビってしまった今、何か余計なことを喋る気力は、オランジュの中から微塵も残らず消し飛んだ。そして、オランジュが思わずゴクリと息を呑むのと同時に、レインは口を開く。

 

「オランジュ」

「は、はい…」

「お前、言ったよな。オレとフォルテ、両方を傷物にした責任は取るって」

「はい、言いました」

「仕事の関係で止むを得ない時を除いて、オレとフォルテ以外の女には手を出さないとも言ったよな」

「言いました」

「何より、事の始まりはあんなだったが、オレとフォルテのこと、本気で愛してるって、言ったよな」

「言った」

 

 内心震えていたが、言葉に嘘は無い。始まりこそあんなだったけども、今のオランジュにとってレインとフォルテは掛け替えのない大切な存在だ。趣味と言っても過言では無かったナンパもやめ、あれだけ情熱を捧げていたシャルロッ党突撃隊長の座も捨てた辺り、彼の本気度が窺えよう。そんな彼の気持ちをレインとフォルテもしっかりと感じており、同様に彼の事を心から好いていた。だからこそ余計に…

 

 

「じゃあ昨日、近所の遊園地で一緒に腕組んで歩いてた女は誰なんだぁ!?」

「だから知らないってば!!」

 

 

 この騒動が収束するには、まだまだ時間が掛かりそうだ…

 

「そもそも俺、昨日は1日中部屋に籠ってて外には出てないんだよ。ここ最近、遊園地どころか公園にすら行ってねぇわ、人違いじゃねぇの!?」

「オレがお前を見間違える訳ねーだろが!! ついでに、その女相手に鼻の下伸ばしてるとこまでバッチリ確認済みだっつうの。しかもあの顔、遊びとか仕事の時とは違う、オレとフォルテに向けるのと同じ完全に本気の時の顔だったじゃねーか!!」

 

 掴む場所を頭から胸倉に変え、ガクガクと揺さぶりながら二重の意味でオランジュを吊し上げるレイン。一方のフォルテは、レインの言葉を真っ向から否定するオランジュのことをジッと見つめ続けているだけだったが、その表情は完全に無そのものであり、彼に向ける視線に至ってはゾッとするくらいに冷たい。

 そんな炎と氷、彼女達の専用機を連想させる二つの怒気に晒され、心がポッキリ逝きそうになっても尚、オランジュは浮気を認めようとせず、否定の言葉を続ける。そして、そんな3人の傍で暢気にプリンを皿にプッチンするマドカ。店内は、これまでに無い位カオスな空気に包まれていた。

 

「なぁ、どう思う?」

「どうって言われてもな…」

 

 対して喫茶店の一番奥、テーブル席の一角で対岸の大火事を眺めているのは、マドカに付き合わされる形でレイン達に協力する羽目になったセイスとバンビーノ、そしてアイゼンの三人である。オランジュを捕縛した後、野次馬根性丸出しで話を聞いていたのだが、内容が思いのほかアレだったものなので、変に飛び火する前に当事者達からやや離れた場所に移動して、遠くから事の成り行きを見守っていた。

 朝っぱらからマドカに呼ばれ、待ち合わせの喫茶店に行ってみて現れたのは、現場組トリオですら怯む程の怒気を纏ったレインとフォルテ。話を聞いてみたところ、昨日レインは次のデートコースの下見に一人で遊園地へ行った時に、オランジュが見知らぬ女と一緒に居たのを目撃したとか。今日になってその事をフォルテと共に本人に問い詰めようとしたのだが、当のオランジュが勘付いて逃走。業を煮やした二人はマドカに協力を求め、そのマドカはセイス達に協力を要請し、現在に至る訳だが…

 

「実際、レインの言ってる時間帯にオランジュが隠し部屋に居なかったのは事実だし、特に仕事も任務も無かった筈だ。まぁ、旦那からの密命って線もあるけど…」

 

 呼ばれた理由を聞かされた当初は心の底から『知らんがな』と思ったが、冷静に考えると痴情の縺れとは言え、この三人だと最悪の場合、死人(死ぬとしたら十中八九オランジュだが…)が出る事態に発展しかねない。本当に浮気しているのならともかく、オランジュの言う通り本当に誤解だったら流石に不憫だ。

 とは言えセイスの言う通り当時のオランジュには、アリバイが無い。レインの言う時間帯にオランジュを見た奴は居ないし、本人から何かしらの予定を聞いた覚えも無い。最も可能性の高いフォレストからオランジュへの勅命の類も、よっぽどの事情が無い限りセイス達では確認する事が出来ない。まぁ今のオランジュの状況を伝えれば、フォレストなら教えてくれそうな気もするが…

 

「やっぱりやっちゃったのか、浮気?」

「いやいや幾ら阿呆専門だからって、あの二人が居るのに浮気したらどうなるかぐらい分かるだろ」

「て言うか最近、オランジュの前でレインとフォルテの話題出すと、こっちが止めない限り延々と惚気話続けるからね。あの二人に対して愛想が尽きたとか、飽きたと言うことは無いと思うよ」

 

 正直な話、野郎3人…少なくともセイスとアイゼンは、オランジュが浮気をしたとは思っていない。日頃から阿呆なことばっかやっているが、彼は身内の事となるといつだって真剣だ。ましてや三人の恋人関係は良好だった筈、オランジュの性格的にも近況的にも、浮気するとは到底考えられなかった。

 

「そもそもオランジュの場合、どこぞの遊び人気取りと違って新しい女と関係持つ時は、ちゃんと前の女とケジメつけてからにすると思うよ」

「うん、確かにオランジュはそうだ、バンビーノと違って」

「オイ待て、色々と待て」

 

 唐突に最悪な形で話を振られ、慌てて立ち上がるバンビーノ。しかし、二人の口を閉じようとするも既に手遅れ、彼の背中に冷たい視線が突き刺さる。二人の言葉は今この手の話題に非常に敏感になっている女性陣の耳にしっかりと届いたようで、オランジュを締め上げたままのレインとフォルテ、そしてマドカの3人はバンビーノに対し、まるで生ゴミを見るかのような目を向けていた。

 

「前から薄々感じていたが、やっぱりそう言う男だったか」

「そう言えばオランジュとの交際の件を話し合った時、スコールおばさんも『バンビーノよりはマシかしら…』って言ってたな…」

「バンビーノさん、もう金輪際近寄らないで欲しいっス」

「女泣かせの最低野郎めー」

「本当に待とうか3人共!? そしてオランジュ、今のテメェにだけは言われたくねえええええぇ!!」

 

 自業自得とは言え、風評被害をモロに受けた女性経験有りにして彼女居ない歴実年齢と一緒な二十一歳。場は更に混沌としてきたが、流石にこれ以上荒れたら収拾がつかないと思い、セイスがレイン達に話を振った。

 

「そう言えば、そのオランジュの浮気相手ってどんな奴だったんだ?」

「知り合いって訳じゃねーが、どっかで見たことあった気がする」

 

 オランジュの胸倉から手を放し、彼を床に放り投げてから腕を組んで記憶を手繰り寄せるレイン。そして…

 

「多分年下、背丈はフォルテやエムと同程度、だが着痩せするタイプなのか、服の下にはフォルテのより揉み甲斐のありそうなモノを持っぐふぅ!?」

「先輩、時と場合を考えて下さいっス」

 

 これを聞いた途端、セイスとオランジュはある人物を思い浮かべたが、これだけで判断するのは早計だと首を振り、引き続きレインの証言に耳を傾ける。

 

「えーと、髪の色は…あれ何て表現すれば良いんだ、赤茶と言うか、薄い桃色? それと顔は、完全に癒し系だったな」

 

 いやいやいや、まさか、そんな筈は…と思い、どうか勘違いであってくれと願いながら、一縷の望みを掛けてレインの言葉を待つが…

 

「因みに服装は?」

「至って普通の私服だったけど、なんか動物を模した帽子被ってたのが印象的だった。うん、こんな形じゃなけりゃ、一晩くらい遊んでやったかも。何と言うか、雰囲気がとってものほほんとしていて可愛くて…」

「先輩、先輩」

「どうした、フォルテ?」

「もうやめるって言ったのに、女遊び続けてるっスね?」

 

 フォルテがレインの手首を掴み、濁った瞳で彼女を見つめ、もう一つの修羅場が生まれようとしているが、セイスは最早それどころでは無かった。

 

「いやいや何を言ってるんだ、ちゃんと約束したろ。お前と、この馬鹿と正式に関係を持つからには、他の女にちょっかい出すような真似はしないって…」

「脈が踊り狂ってるっスよ」

 

 もしも予想通りなら、オランジュは嘘をついてないし、レインも勘違いしていないと言う、一見矛盾しているように思えるが、それが罷り通ってしまう結論に辿り着く。だがその代わり、今のこの状況が生温く思えてしまう程に複雑で、非常に拗れるであろう事態に陥る可能性があった。

 

「待て落ち着けフォルテ誤解だ、今も昔もお前以外の女を相手に本番まで手を出したことは無いって!!」

「本番までは、っスか」

「しまッたああああぁ!!」

「それとオランジュさん、隙見て逃げ出そうとしても無駄っス」

「グワアアぁぁぁ!?」

 

 オランジュには悪いが、多分もう自分達ではどうすることも出来ない。て言うか、心の底から関わりたくない。相棒の癖に薄情と思われるのは重々承知の上だが、誰が好き好んであの3人…否、”5人”のドロドロな争いに首突っ込むと言うんだ。絶対に御免だ。

 

「は、早まるなフォルテ、話し合おう、とにかく話し合おう‼」

「ちょっ、取り合えず手ぇ離してフォルテ‼ 足が、もげる‼」

「先輩、オランジュさん、最近の恋愛ものって、生まれ変わってからの方が上手くいく話が多いらしいっスよ?」

 

 そうと決まれば話は早い。ヤンデレスイッチ入ったフォルテに殺されそうになってるオランジュとレイン、そしてそれを止めようと腰を上げたアイゼンとバンビーノを横目に、プリンを食べ終わったマドカの腕をそっと引っ張りながら、こっそりと店の出口へと向かうセイス。どうしたとマドカが問いかける前に、セイスが店の扉に手を伸ばしたのと、店の扉が独りでに開かれたのは、ほぼ同時だった。そして、開かれた扉の先には、一人の少女が立っていて…

 

「あ、オラっちょはっけ~ん♪」

 

 癒し系のほほん少女を前に、セイスは絶望した

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