アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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お待たせしました、続きの更新で御座います。しかし思ったより長くなったので、後編と分ける事に……何度目だろう、この展開…;

因みに今回、彼女がちょっと闇堕ちしかけてます(笑)


IF未来 アナザートライアングル2 中編

 

 本来なら客達で賑わい、穏やかな雰囲気に包まれていたであろう喫茶店は今、核戦争勃発寸前の冷戦時代に匹敵する緊張状態に直面していた。その不穏な気配の源は、途中から増えた1名を足した当事者4人、隣り合うレインとフォルテに向かい合う様に席に着いたオランジュと本音達のテーブルである。本音が登場してから死人のような顔で一切何も喋らなくなったオランジュと、そんな彼の横で相変わらずニコニコしている本音の二人に憎悪混じりの視線を向けるレインとフォルテ。傍から見ると、完全に浮気がばれた男と女の話し合いにしか見えない。実際は、そんな生易しい状況ではないのだが…

 そして本音が現れた辺りで大体のことを察し、リアル修羅場に興味津々のマドカを引き摺りながら、店の更に隅へと避難したセイス達が事の成り行きを見守る中、ついにレインが口を開いた。

 

「で、誰だ、お前?」

「布仏本音16歳、趣味はお昼寝、よろしくねー」

「……布仏…?」

 

 鋭い眼光での問い掛けにも、笑顔を崩さずに答える本音。そんな彼女の名字に何かを引っ掛かるものを覚えたレインだったが、IS学園に居た時に彼女の姉と同学年だったことを思い出すよりも早く、今度はフォルテが問いかける。

 

「ほうほう、ご丁寧にどうもっス。ところで、『オラっちょ』ってなんスか?」

「オランジュだからオラっちょ、他の候補にオラジーとかオラランとかあったけど、響きが被りそうだからこれにしてみましたー」

「あだ名まで付けてるなんて、随分と親しげじゃねーか」

「そりゃあ私とオラっちょの仲だもん、こんなの序の口だよー」

 

 その言葉で、店内の気温が2℃ほど下がり…

 

「ね、オラっちょ?」

「ッ!?」

 

 そう言って本音がオランジュに抱き着いた瞬間、一気に氷点下まで落ち込んだかのような錯覚をセイス達は覚えた。もしも、もしもこれが何でも無い非番の時で、他に誰も居ない時なら、服越しにも感じる本音の柔らかい感触にオランジュも少しは顔がニヤけていたことだろう。しかしながら、無情にも彼の目の前には怒り狂う修羅が二人も座っている。遠目で彼女達がどんな顔をしているかまでは分からないが、オランジュの顔がムンクの叫びみたいになっているので、大体は察する事が出来た。

 

「へええええええぇぇぇぇぇ随分と仲がよろしいようでえええええぇぇぇぇ?」

「待って、少しで良いから俺の話を聞い…」

「黙れ」

「あ、ハイ」

 

 案の定、決死の覚悟を決めて口を開くも、弁解する機会すら与えられず沈黙させられる始末。それに比例するように、見守るセイス達も胃がキリキリしてきた。今この店の中で笑顔を見せているのは、いつも通りの本音と、野次馬根性丸出しのマドカだけである。当事者以外の野郎3人は正直言って今すぐに逃げ出したいが、同時にあの4人から目を離すと言う行動自体も別の意味で怖い。なのでこのまま最後まで残るか逃げ出すかずっと迷っている訳なのだが…

 

 

 そうこうしている内に…

 

 

「ところで布仏さん、アンタ昨日、そこで滅茶苦茶顔色が悪くなってる人と遊園地で一緒だったみたいっスけど、何してたんスか?」

「昨日ー?」

 

 

 ついにその時が来てしまった…

 

 

「あぁ、デートしてたねー」

 

 あ、死んだ

 

 店内に居た男達は、全員心の中で同時に呟いた。本音の爆弾発言の直後、一帯は恐いくらいの沈黙に包まれる。本音はいつもの笑顔、オランジュの顔色が絶望に染まっているのは言わずもがな。で、肝心のレインとフォルテはと言うと、対照的に完全な無表情。能面のような、あらゆる感情が抜け落ちたかのような完全なる無だ。ある種の虚無さえ感じるその顔が、オランジュと本音の二人をジッと見つめていた。

 

「そうか、デートか、そうかそうか…」

「やっぱりデートしてたんすか、そうっスか…」

 

 それっきり、再びの沈黙。あぁもう駄目だと、ついにオランジュを見捨てる決心をしたセイス達はマドカを連れて席を立ち、店の出口へと走った。が、その途中でドカァン!!と言う音が耳に届き、思わず振り向いてしまった。見ると、オランジュ達が座っていたテーブルが真っ二つに折れ、その残骸を二人で踏みつけながら本音に詰め寄るレインとフォルテの姿があった。

 

「「ふざっけんな」」

 

 そのまま本音の胸倉を掴んで引き寄せ、地獄の底から響いてくるかのような恐ろしい声音で、更に言葉を続ける二人。

 

「オイ、良く聞けクソ女。コイツはちゃらんぽらんでいい加減だし、何でこんなの好きになったのか忘れる時さえあるけどな、それでもオレ達の男であることに違いはないんだよ」

「つまりアンタは、人の男に手を出した泥棒猫ってことっス。そこんとこ、理解してるんスか?」

 

 まるでヤクザ、いやヤクザの方が逃げる。生身でISと戦えるセイスでさえ、遠目であるにも関わらず、普通にビビッていた。それ程までに、二人の剣幕は恐ろしいものだった。それでも尚、本音は余裕の態度を崩さない。それどころか…

 

「うん知ってる。で、それが何?」

「「あ゛?」」

 

 まさかの爆弾二発目、投下である。

 そして、いつもの笑顔のまま、レインとフォルテの腕を払い、いつもの口調で、ただ淡々と。こんな状況になっても、不気味なまでにいつも通りな彼女は、言葉を紡ぐ。

 

「だからー、二人がオラっちょと付き合ってるからって、それが私にとって何か関係あるの、って言ってるの。付き合ってるとか、関係を持ってるとか、通すべき筋とか世間的な良識とか、オラっちょ本人の意志とか、そんな面倒くさいもの正直どうでも良いんだよねー。まぁとにかく、要約すると早い話…」

 

 いつものニコニコ顔で、いつもののんびりとした口調で、薄っすらと開いた目に嘲笑の色を浮かべながら…

 

「三人の都合なんて知ったこっちゃないから、二人は黙って失せて」

 

 周りが唖然とする中、遂に言い切ってしまった。もう何度目になるか分からない、不気味な沈黙。しかし、こう何度も繰り返せば流石に理解する。この沈黙は次に訪れる嵐の、否…

 

 

「殺す」

 

 

 大噴火の前触れであると…

 

「殺す、その胸糞悪いニヤけた顔を燃やしてグチャグチャにした後、念入りにぶち殺す。そんで野良犬の餌にでもしてやる」

 

 ISを展開し、固有装備まで起動させたレインの周囲に炎が舞う…

 

「落ち着いて下さい先輩、そんなやり方じゃダメっス。そんなやり方じゃあ…」

 

 怒り狂うレインの肩に手を置き、嗜めるように囁くフォルテ。ただ、その声音は言葉の割に、恐ろしく冷たい。まるで、現在進行形で彼女のISが生み出している、氷刃のような殺意が籠められているようで…

 

「壊し甲斐が無くて、つまらなくなるじゃないっスかぁ!!」

 

 言うと同時に放たれる無数の氷刃。生身の相手にオーバーキルも良いとこな殺意の弾幕は、寸分違うこと無く、オランジュを避け本音のみに殺到した。並の人間は当然のこと、セイスでさえ無傷でいられないであろうソレは、砲撃の様な爆音と衝撃を店内に響かせながら、本音を消し飛ばしたかのように見えた。

 しかし舞い上がった噴煙が晴れた後には、本音の姿どころか、その形跡すら何も無く、彼女の座っていた座席の成れの果てのみだった。

 やがて、唐突に気配を感じて視線を向けると、さっきまで目の前に居た筈の本音が、さっきと同じ笑顔を浮かべたまま離れた場所に立って居た。普通なら確実に死んでいた筈の一撃を、どんな手を使ったのかアッサリと避けられた。そんな事実を突きつけられた訳だが、思いのほかフォルテに動揺した様子は見られなかった。

 

「へぇ、随分と妙ちきりんな力を使うっスね」

「あれー、あまり驚かないんだー?」

「いやいや、そんなこと無いっスよ。これでも内心、滅茶苦茶ビックリしてるっス。ただ単純な話、今の私と先輩が…」

 

 フォルテの言葉を繋げる様に、本音目掛けて襲い掛かる炎の塊。人間程度、簡単に燃やし尽くす火力を持って迫るソレを、翳した腕に合わせるように動き出したテーブルを浮かせ、盾にして防ぐ。再び繰り出された彼女の魔法染みた能力を前に、レインも彼女がISを使っていないと確信する。

 

「んなもん、どうでも良くなるくらい頭に血が昇ってるだけだ」

 

 しかしフォルテ同様、レインは少しも揺らがなかった。フォルテと共に一歩踏み出し、正体不明な力を使う本音と真正面から相対する。

 

「細かい事情は良く分からないが、今回の件はそこのバカにとって不本意なもので、テメェの差し金だったてのは何となく理解した」

 

 先日のデートは、脅されたのか、本当に記憶が抜けてるのか、そこまでは流石に判断できない。しかし、本音が現れたからのオランジュの様子から、彼が本音に対して好意的な感情を殆ど抱いていないことは確信できた。それさえ分かれば、他の細かい事はもうどうでも良い。オランジュが心身共に自分達の元にあり続け、目の前の女はそれを脅かそうとする敵、その事実だけで充分だ。

 

「とは言え、こちとら泣く子も黙る悪の組織の一員だ、今更物事を善悪で決めるような性格はしてねーよ。だからこそ、自分のモノに対する執着心は尋常じゃねーし、守る為の手段は選ばねーぞ」

「ましてや自分達に好きと言ってくれた人を、どう見ても傷つけそうな奴に渡せるわけないんスよ。オランジュさんの意思はどうでも良い? ふざけてるんスか?」

 

 二人の怒りを表すかのように炎が、冷気が、どんどん強まっていく。余波だけでテーブルと椅子が吹き飛び、店そのものが段々と崩れていく。完全に逃げるタイミングを失ったセイス達はやむを得ず、いつの間にかレインとフォルテの背後に、さり気無く本音から庇うようなポジションに位置していたオランジュの元へと逃げた。

 

「まぁ、とにかくだ…」

「要約すると、早い話…」

 

 そう言ってレインとフォルテの二人は拳を本音に突き出し、親指を一本だけ立て、ひっくり返して地面に向けた。そして…

 

「「今すぐ黙って失せろ」」

 

 生身の相手に対する、最低限の情けも兼ねた最後通告。彼女の返答の如何によっては、この場に居る全員と半壊した喫茶店の未来が決まる。そんな緊張に包まれたた中、本音はと言うと…

 

「ふふふ、良いな~オラッちょ。何だかんだ言って、ちゃんと二人に愛されてるじゃ~ん」

 

 この期に及んで、全く変わらないように見える。レインとフォルテの本気を前にしても、何一つとして変わらない様に見えた。

 だが、そんな中、相手の表情から内心を読み取ることを人一倍得意とし、尚且つ彼女に視線を向けられたオランジュは気付いてしまった。一見すると何も変わらないように思える本音の表情に、激しくも禍々しい、ドス黒い感情が漏れ始めている事に気付いてしまった。

 

「自分の愛してる人に愛される、そしてその事実を自分の身を持って実感する。これ以上に幸せな事って、無いと思うんだよね~。あぁ、良いな~、羨ましいな~、妬ましいな~、本当に…」

 

 

 

 ズ ル い よ

 

 

 

「私だって一緒に遊びたい、デートしたい。遊園地にも動物園にも水族館にもショッピングモールにもレストランにも、一緒に行きたい。一緒に手を繋いで、隣を歩きたい。ギュッと抱きしめて欲しい、キスだってして欲しい。いっぱい、いっぱいやりたいことが、やって欲しいことがある、のに…!!」

 

 笑顔が怒りと悲しみがごちゃ混ぜになったかのような歪んだものに豹変し、途端に堰を切ったかのように感情が溢れ出す。それはまるで、怒りに任せ怒鳴り散らしているようで、悲しみに暮れて泣き叫んでいるようで、先程までの様子との変わり様に、流石のレイン達も面食らってしまう。

 

「ねぇ、どうして君なの、どうして君じゃないと駄目なの? どうして君の身体じゃないと、あすちーは私に触ることさえできないの? ねぇ教えてよ、どうしてなの? 分かるなら教えてよ、分からないなら黙ってあすちーに身体をあげてよ…」

「……悪いなのほほんさん、正直アンタの事は怖いけど、二人に嫌われるのはもっと怖いんだ…」

 

 『だから、それは無理』と、オランジュはきっぱりと答えた。その返事に本音は俯き、少しだけワナワナと身体を震わせたが、やがて落ち着きを取り戻し、顔を上げた時にはいつもの笑顔に戻っていた。だが、薄っすらと開かれた目は、どんよりと濁っていた。

 

「まぁ良いや、小難しいことは全部、終わってから考えれば。今はただ、目の前のことに…」

 

 再び腕を翳し、浮かび上がる店の残骸。それを正面から迎え撃つ意思を示すように、レインとフォルテの炎と冷気もその強さを増す。一触即発、なんて段階はとうの昔に過ぎ去り、衝突はもう避けられない。ここにきてセイス達はいい加減に腹を括り、巻き込まれてもどうにか対処できるように身構えた。が、しかし…

 

「あれ?」

 

 本音が浮かび上がらせていた残骸が一つ残らず、まるで糸が切れたかのように床へと落ちた。戸惑う本音の様子から見るに、彼女がも意図してやった訳では無さそうだが、突然のことに戸惑っているのはこっちも一緒だ。レインもフォルテも結果的に出鼻を挫かれた形になり、動けなかった。

 

「あすちー?」

 

 やがて本音が何も無い虚空に目を向け、誰かの呼び名を呟くと同時に取り乱し始めた。まるで、そこに誰かが居て、尚且つ居いてはならない筈の人が、彼女にとって予想外の行動をしたかのように…

 

「どうして、どうして邪魔するの!? だってこうでもしないと、あすちーはッ…!!」

 

 よっぽど動揺しているのか、オランジュ達のことは完全に意識の外のようだ。この隙に仕留めるべきか、それとも様子を見るべきかとレイン達が迷っていたその時、奇跡的に無事だった喫茶店のドアが開かれ、カランコロンと来客を告げるベルが鳴らされた。

 

「お願い、邪魔しないでよ!! 私は嫌だよ、あすちーとの関係が、このままで終わるなんて…!!」

「御取込み中に失礼、可愛いお嬢さん」

 

 店に入ってきた人物は、店内の惨状にも、中央で取り乱す少女にも微塵も動じることなく、その人物が誰なのか気付いてギョッとするセイス達が止める暇もなく、一切躊躇せずに本音へと声を掛けた。

 そこで漸く新たな乱入者の存在に気付いた本音は驚き、咄嗟に退けようとしたが、途中でその手は止まる。自分に声を掛けてきた男、その顔を見た途端に思考が固まってしまったのだ。一見すると、どこにでも居そうで人畜無害に思える、40代後半の欧米人。顔には、自分と同じように微笑が張り付けられている。けれども、その笑顔は、自分よりも、オランジュよりも、ずっとずっと…

 

 

「少し、僕の話を聞いてくれないかな。もしかしたら君の…いや、君達の望みが叶うかもしれないよ?」

 

 

 とても、悪魔のようだった…

 

 




○どうしてこうなったんだろうなぁ、のほほんさん;
○そしてレイン達が男前過ぎてオランジュが半ばヒロインと化す謎の状況に…
○お察しかと思いますが、最後に来たのは森の旦那です。のほほんさんが来た辺りでセイスが電話しました

次回の後編ですが、修羅場自体はこの後の顛末をさらっと説明するだけで、実質オマケみたいな感覚になるかと思います。メインはどちらかと言うと、その後のセイス達の談話と、旦那の裏設定の方になるかなぁ…
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