アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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お待たせしました、AT2後編です。これにて修羅場は終了と相成ります。

原作最新刊を読みましたけど、本編マジでどうしよう…;

原作に従うなら、セイスに一度行方不明になって貰ってマドカに闇堕ちして貰わなければいけなくなります。オリジナルルート入るなら、京都編終わった途端にガラリと流れを変えて短期決戦に入ると思いますが、果たして…


IF未来 アナザートライアングル2 後編

 

 

「旦那ああああぁぁぁぁ一生ついて行きますううウウウゥゥゥぅぅぅ!!」

「はいはい落ち着きなさい、鼻水を拭きなさい」

 

すっかり半壊した喫茶店はその現状に反し、さっきまでの一触即発な空気が嘘のような、和やかな雰囲気に包まれていた。女子達は辛うじて無事だったテーブルの一角へ、男共はカウンター席に集まって一息ついている。そして、やっとこさ修羅場から解放されたオランジュは、フラッと現れて事態を解決してくれたフォレストに泣きながら感謝していた。

 

「一時はどうなるかと思ったぞ、割と本気で。て言うか、女の愛って恐い」

「バンビーノ、マジで気をつけなよ?」

「いや、なんでそこで俺なん?」

 

 

―――何でも造れる天才少女が作った、何にでも使えるお人形、欲しくない?

 

 

 たったその一言で、躊躇いを捨てた筈の布仏本音に迷いを生じさせた亡国の悪魔。そこから更に畳み掛ける様に言葉を重ね、あれよあれよと言う間に本音を懐柔、説得し、最後にはなんとあの彼女に頭を下げさせてみせた。直前まであんなやり取りをしていたこともとあってか、最初こそレインとフォルテも複雑な表情を浮かべていたが、『取り敢えず、互いにちょっと話し合ってみたら?』と言うフォレストの一言で、急遽マドカを加えた四人でプチ女子会が開かれた。先に頭を下げ、本気で反省している態度を見せたこと、そして恋した相手の為なら何でもするという気持ち自体、レインとフォルテも一応は理解出来る。その為、外野の男共の心配とは裏腹に、彼女達の和解はすんなりと済んだ。

 仲直りも済んだ今は、4人でガールズトークに花を咲かせている。流石に本音と明日斗のことを知った時のレインとフォルテの驚きっぷりは洒落にならなかったが、彼女達の性格もあって割とすぐに慣れたようで、今も手を使わずにスプーンを動かし、コーヒーに入れたミルクと砂糖をかき混ぜる本音に三人で拍手を送っているぐらいだ。

 

「しっかし、愛、か…」

 

 そんな彼女達を見つめながらふと、セイスがそんなことを呟いた。

 

「どうした、そんなセンチな単語呟いて」

「いや、愛…って言うより恋、かな。さっきの4人のやり取り見てたらさ、色々と思う事あってさ」

 

 言いながら彼はジーッと女子達のテーブル…いや、実際はテーブルに座る一人に視線を向けている。そして、そのまま一言。

 

「恋って、何なんだろうって…」

「本当にどうした、今日のお前」

 

 バンビーノは思わず真顔で返し、隣でコーヒーを飲もうとしていたアイゼンはカップを落しそうになっていた。そんな二人の反応なんて何処吹く風と言わんばかりに、彼は言葉を続ける。

 

「いや、さぁ。やっぱり愛してる人には、幸せになって貰いたいと思うのが普通じゃん?」

 

 大切な人の為なら頑張れる、手段も選ばない、命だって惜しまない。セイスはそんな輩を何人も見てきたし、自分自身も似たようなものだと思っている。今回の本音の行動も、根本は自分と明日斗の為に動いた面が大きい。だから、彼女の行動理念自体は理解出来るっちゃあ出来る。

 

「でも、改めて口に出すと照れ臭いけどさ、俺、フォレスト派の皆のこと好きだよ」

「お、おう」

「ありがとう」

 

 あまり素直とは言い難い性格故に口にこそ出さないが、セイスはフォレスト派の仲間達のことを心の底から大事に思っている。マドカ絡みの件だったとは言え、一時期は裏切る覚悟を決めたこともあるが、大事な恩人達であり、家族のように思っていることに変わりは無い。

 

「そんでさ、やっぱり皆には幸せになって貰いたいと思うし、その為なら命だって懸けるよ」

 

 そんな皆の為なら、多少の無茶をするくらい、どうってこと無い。かつて自分がして貰ったように、皆の望みを叶える手助けをする。その気持ちは、ずっと変わらないだろう。少なくとも、マドカが本気でフォレスト派と事を構えるような展開になり掛けたら、ギリギリまで彼女をフォレスト派につかせるように説得を続けると思う。

 

「でも、それが恋愛感情からくるものじゃないってことぐらい、流石の俺でも分かる。分かるんだけど、じゃあ恋愛感情ってのはどういったものを指すのか、と言われると分かんなくて…」

「あぁ、そう言う…」

 

 本音が明日斗に恋しているのは、日頃の姿を見ていれば何となく分かる。IS学園の面々が一夏に恋をしているのも、見れば分かる。レインとフォルテ、そしてオランジュの三人が互いに本気だと言うのも、他の人達より少し分かりにくいが、それでも察する事ができた。そして彼ら彼女達は、大切に想う互いの為ならば、どんなことだってやり遂げてみせる、それこそ自身の命を懸けて、そんな気がした。

 しかし、命を懸けれるくらい大切な存在になることが恋だと言うのなら、自分が仲間達に向けるこの感情も恋と言うことになってしまう。何より、上手く言葉にすることは出来ないが、彼ら彼女らの恋愛感情と、自分がフォレスト派の仲間達に向ける感情は明らかに別物、それだけは確実に分かる。

 では、恋愛感情とはどう言ったもののことを言うのかと訊かれると、セイスは答えることが出来ず、故に彼は地味に思い悩んでいた。そんな若くて青いセイスの疑問を、アイゼンは腕を組んで彼の考えに理解を示すかのように首肯すると同時に一言。

 

「任せたバンビーノ」

「え…」

 

 生まれてこの方、まともな初恋の経験すら無いアイゼン(20歳)からの唐突なパスに、思わず目を点にするバンビーノ。心底ふざけんなと憤慨しかけたが、後輩からの期待に満ちた視線に気付き、どうにか思い留まる。そして、どうにか答えを出そうと頭をフル回転させた。

 

「あー、まぁアレだ、ほら、うん、そうだな、やっぱりアレだよアレ…」

 

 珍しく素直なセイスに年上らしいとこを見せるべく、いつもは悪戯と悪意にフル活用している頭を必死に使い、どうにか考える。とは言え、所詮は遊び人気取りの彼女居ない歴21年、それらしい結論を出せる筈もなく、結局は…

 

「困った時は旦那に丸投げ」

「「オイ」」

「ん、僕?」

 

 セイスとアイゼンにジト目で睨まれるが、バンビーノとしては、我ながらこの選択は最善だったのではなかろうかと、心の中で自画自賛していた。

 

「いやだって旦那だぜ、なんちゃって遊び人の俺なんかより、よっぽどこう言った話題に強いだろ。て言うか旦那の手腕なら女の一人や二人、日常的に簡単に陥落させまくってるだろうし…」

 

 

 

「僕、三角関係の敗北者だよ?」

 

 

 

「「「ってえええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!?」」」

 

 店内に響き渡る、オランジュを除いた男三人の絶叫。流石の女子4人も驚いて彼らの方を振り向いたが、フォレストの発言がよっぽど衝撃的だったのか、彼らはそれどころじゃない程に動揺していた。

 何せ、あのフォレストが、亡国の鉄人BBAに二代目ブリュンヒルデ、更には亡霊少女さえ手玉に取る、人間の心を意のままに操る亡国機業の大悪魔が、自分を『恋の敗者』と称したのだから。彼らにとっては、『ISが零戦に撃墜された』と聞かされたようなものである。

 

「つ、つまり、一人の女を取り合った結果、負けたと言うことですか!?」

「嘘でしょう!?」

「て言うか旦那に勝った男もそうだけど、旦那を振った女って何者!?」

「まぁまぁ落ち着こうか、それにもう随分と昔、僕がまだ二十代だった時のことだから…」

 

 フォレスト自身、その事はあまり気にしていないように見える。そして意外な事に、彼の愛弟子でもあるオランジュのリアクションが思いのほか薄い。その事に一瞬だけ疑問を持ったセイスだったが、その思考はフォレストの言葉により中断させられる。

 

「とにかく、僕の話は一端置いとこうか。今は、セイスの悩みが先だ」

「あ、はい」

「と言っても、答えは割と単純だ。その相手に対する愛に、見返りを求めたら、それは恋だよ」

「見返り?」

 

 いまいちピンと来ないのか、セイスは首を傾げる。そんな彼の様子に面白そうな笑みを浮かべながら、フォレストはとあるテーブルに指を向けた。

 

「例えば、あそこに居るエム」

「なんでそこでマド…いや、エムが出るんですか?」

 

 『コイツ、この期に及んで気付かれてることに気付いてないのか』と、オランジュ達は胸中で呟き呆れていたが、マドカに視線を向けるセイスは気付かない。フォレストも敢えてその事には触れず、言葉を続けた。 

 

「君、彼女には幸せになって欲しいと思ってる?」

「当然です」

 

 迷う事の無い即答に、フォレストの笑みは更に深くなる。とは言え、セイスがマドカを大切に想っていることなど、彼の周りの者にとっては周知の事実だ。何せ彼は、彼女の為に組織を裏切る覚悟を決めたことさえあるのだから。今だって彼ほどマドカに近く、彼女の事を理解出来ているのはセイスだけだろう。

 

「じゃあ彼女の面倒は、今後は僕が見てあげよう」

「え…」

 

 だからこそ、セイスはフォレストの口からどんな言葉が出てきたのか、一瞬認識出来なかった…

 

「だって僕は君よりも権力がある、財力がある、彼女が欲しいものは何だって用意することが出来る。ついでに言うと、人の心を読むのは得意だから、メンタルケアだってバッチリこなせるよ?」

 

 しかし、次々と出てくる言葉の数々と、その意味がセイスの心に突き刺さり、彼の意識を現実へと強引に連れ戻す。突然のことに完全に混乱し、呻きにも似た言葉の成り損ないを口から漏らす事しか出来ない彼に、追撃は容赦なく行われる。

 

「それに対して君はどうだい、何が出来る? 確かに君には、ティーガーに匹敵する戦闘力がある。けれど、逆に言えばそれだけだ。そんな君が彼女の隣に居たところで、何が出来る? 彼女の幸せを願うなら、大人しく身を引いた方が良いんじゃないかな?」

「え、あ…」

 

 確かにフォレストの言う通り、自分にはこの腕っぷしぐらいしか取り柄が無い。フォレストのように特別頭が働く訳ではないし、国家レベルの財力を持っている訳でも無い。暴走した本音を止められる度胸も無ければ、彼女を説得するだけの材料を集める伝手も無い。そんな何も無い自分よりも、何もかもを持っているフォレストの方がマドカを幸せに出来ると考えるのは、至って普通の考えだ。いっそフォレストの言う通り、彼にマドカを任せた方が良いのではないか、そう思えてさえくる。少なくとも、オランジュやバンビーノ、アイゼンのことをフォレストに『任せろ』と言われたら、これ程に頼もしいことは無い筈だ。

 しかし、例えそうだったとしても、それでもセイスは…

 

「それでも、俺、は…」

「彼女の隣に居たい、だろう。エムも、きっとそう言うよ」

 

 思わず呆けるセイスの頭に、ポンとフォレストの手が置かれる。依然として笑みを浮かべたままだったが、セイスは心なしか、そのフォレストの笑みが先程よりも優しげに見えた。

 

「少し意地悪なこと言ったけど、そう言う事さ。君は心の底からエムの幸せを願っているが、同時に同じくらい、エムを自分の手で幸せにしたいと思っている。君は自分に向けられていた筈の彼女の心が無くなってしまうことを、心底恐れているから」

 

 そう言われ、少し躊躇った後、セイスは首を縦に振った。昔なら、マドカの為になるのならばと、フォレストに全てを託すと言う選択肢もすんなり取れたことだろう。しかし、彼女の隣で、彼女の本物の笑顔を見ると宣言して以来、自分以外にマドカを任せると言う行いに対し、無意識の内に抵抗を覚えていた。それは、常に全幅の信頼を置いている筈のフォレストにさえ当て嵌まった。

 その理由が何なのか、今まで自分でも分からなかったが、今のフォレストの言葉で少しだけ理解できた気がする。あの日、彼女との繋がりに価値を見出した時から自分は、彼女との繋がりが無くなることを恐れるようになった。だからこそ、マドカ自身も自分との繋がりを大切に思っていると知った時は、嬉しくて人知れず涙まで流してしまった。こんな強い感情は、他のフォレスト派の仲間達には抱いたことは無い。

 

「相手を大切に想う理性的な気持ち、誰にも譲りたくないって言う本能的な独占欲、形に違いはあれどそう言った感情は全て、愛と呼ばれる代物だ。その愛に応えて欲しい、同じように自分を愛して欲しいと望んだ瞬間、それは恋へと変わるんだと、僕はそう思っているよ」

「愛した相手に愛されたいと望むのが、恋…」

 

 その言葉は不思議な程に、セイスの心にストンと収まった。

 嗚呼そうか、そうだった。確かに自分はいつの間にか、繋がりだけでは満足出来なくなっていた。自分がそうであるように、マドカにとっても自分が特別な存在であると知った時に感じた、胸が熱くなる程に感じたあの幸福感。それ以来、彼女が自分に向ける言葉が、信頼が、涙が、笑顔が、その全てが愛おしく思えた。だがそれらは、自分に向けられたものだからこそ価値がある。彼女の心が自分に向けられているという事実そのものに、大切に想う相手に大切に想われていると言う事実に意味があるのだと、やっと気付くことが出来た。やはり自分は、彼女の事が、織斑マドカのことが…

 

「参考にはなったかい?」

「はい、ありがとうございました」

「それは良かった、エムに告白する気になったら教えてね」

「はい……ハッ!? いやいや、何でエムなんですか…!?」

 

 慌てて取り繕うセイスだが、今更過ぎるのでオランジュ達は敢えて何も言わなかった。尤も、何でどいつもコイツも、自分のことになると鈍く不器用になるのだろうとは流石に思ったが…

 

「さてと、そろそろ時間だね。僕は帰るよ」

「うっす、お疲れ様です」

「旦那、今日はマジでありがとう御座いました」

 

 因みに、この時のフォレストとのやり取りを一番聞かれたくない奴に最初から最後まで聞かれ、その本人が若干顔を赤くしながら期待の眼差しを向けていたことを、セイスは知らない。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 半壊した喫茶店から出てほんの数秒、フォレストの顔面に向かって何か飛んできた。

 

「おっと」

 

 基本的に体力の無い彼でも受け取れたそれは、この付近に新しく出来たレジャー施設の広告。ふとそれが飛んできた方へと目を向けると、美人と呼んでも差し支えの無い程に容姿の整った、金髪の少女が駆け寄ってくるところだった。どうやら、危うくこの広告を風に持って行かれそうになったようだ。

 

「も、申し訳ありません、大丈夫ですか?」

「平気だよ、はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 どこか見覚えのある白い制服を身に着けた、綺麗な青い瞳を持ったその少女からの謝罪を受けとりながら、手に取った広告を返してやる。すると、どうしたことか、彼女はジッとフォレストの顔を見つめてきた。これには流石のフォレストも、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「えっと、僕の顔に何かついてるのかな?」

「え、ああぁぁいえ、そう言う訳ではありませんわ。ただ、もしかして同郷の方なのではと思いまして…」

「そう」

 

 そして、それっきり黙り込む二人。この会話だけなら、運命の出逢いを果たした二人に思えなくもない。だが残念なことに、実際に向き合ってるのは十六歳の少女と四十過ぎたオッサンだ。傍から見れば、犯罪の臭いしかしない。

 

「あの良かったら、先程の御詫びも兼ねまして、そこでお茶でも御一緒に…」

 

 にも関わらず、何故か積極的な少女。もしも、この場に彼女のことを良く知る者が居れば、我が目を疑ったことだろう。何せ彼女は一人の例外を除き、学園では男嫌いなことで有名なのだ。そんな彼女が同郷とは言え初対面の、それも中年男性をお茶に誘うなど、彼女がレシピ本無しで料理を成功させるのと同じくらいに有り得ないことである。

 

「気持ちはありがたいけど先約があるんだ。折角の御誘いなのに申し訳ないけど、今日のところは辞退させて貰うよ」

「そう、ですの、それは残念ですわ…」

 

 それを知ってか知らずか…いや多分知ってるのだろうが、フォレストは誘いを断った。そして、断られた彼女はと言うと案の定、少し残念そうだった。しかし彼女自身その場の勢いに任せた面もあったのか、ふと冷静になり、自分が何を言ってるのか自覚したようで、遅れてやって来た羞恥心により、どんどん顔が赤くなっていった。そんな彼女の様子に、さっきまでとは違う苦笑いを浮かべるフォレスト。

 

「それでは、これにて失礼するよ、リトル・レディ」

「ッ、えぇ御機嫌よう」

 

 彼女の言動と様子には敢えて触れず、フォレストは軽く会釈すると彼女に背を向け、早々その場から立ち去っていった。このままグダグダと長引けば長引くほど、彼女の傷が深くなる一方だと判断した、彼なりの気遣いだったのだろう。

 咄嗟のことで内心慌てたが、そこは名家のお嬢様。ほぼ条件反射でスカートの端と端を摘まみ、小さく、それでいて綺麗な一礼を持ってして、しっかりと挨拶を返した。そして、立ち去って行くフォレストの後姿を最初と同じようにジッと見つめ続けたのだった。

 

「ちょっと、セシリア」

「ッ!!……って、あら鈴さん、どうかなさいました…?」

「どうかなさってんのはアンタの方でしょ、どうしたのよボーッと突っ立って。もしかして今の人、セシリアの知り合い?」

 

 友人であり恋敵でもある凰鈴音に声を掛けられ、少女は…セシリア・オルコットはビクリと身体を震わせた。一夏をデートに誘うべく、先程の広告にもあったレジャー施設の下見でもしようと思い出掛けたものの外出したところを鈴に見られてしまい、しかも考えていたことが顔に出ていたようで、尾行された挙句全部ばれた。結局、抜け駆けする事は諦めたが、ここまで来て帰るのも癪なので渋々ながら一緒にそのレジャー施設へと向かうことに。そして、先程の突風に広告を飛ばされて今に至る訳なのだが…

 

「いえ、そう言う訳ではありませんわ。ただ、先程の殿方、昔どこかでお会いしたことがあるような気がするんですの…」

 

 そう言って彼女は再び、彼が去っていった方へと目を向ける。既にフォレストの姿は遥か向こう、随分と小さくなった後ろ姿が辛うじて確認できる程度だった。

ただ、どうにも引っ掛かる。あの後ろ姿を見ていると、胸の内に何とも言えないモヤモヤが膨れ上がってくる。先程のやり取りでも分かる通り、互いに面識がある訳では無いのだが、どうにも昔、あの姿をどこかで見たことがある気がするのだ。

 

「あ…」

 

そこで、漸く思い出した。確かに会ったことは無かった、会ったことは無かったが、あの後ろ姿を遠くから見たことはあったのだ。

 

(確かあの時、お母様とお父様の葬儀が終わってから暫くした頃に…)

 

あれは、両親が死んで一年が経った頃だったか。オルコット家の相続手続きもひと段落し、専属メイドにして唯一の身内とも言えるチェルシーと共に、久々に両親の墓参りに訪れた時のことだ。

両親が死んだ当初は、下心満載で上っ面だけの礼儀しか持ってない、自称親族やら友人やらが呼んでもいないのに次々と現れるものだから、両親にゆっくり挨拶することさえ出来なかった。しかし一年も経って、更には遺産相続の手続きが済むと、そう言った輩はすっかり現れなくなった。その掌返しな態度に改めて腹は立ったが、逆に考えればあの薄汚いハイエナ共と関わらなくて済むし、もう墓参りの邪魔をされることも無い。それに何より、今日は久々に家族水入らずの時間が過ごせる。今はもう、それだけで充分だ。

そんなことを思いながら、両親が眠る墓の前に立った時、それはセシリアの目に入った。もう自分と屋敷の者、そして本物の親族以外、誰も来なくなった両親の墓。その二人の墓の前に供えられた、ひとつの花束。しかもそれは、母が好きだった青いバラで作られたもの。

ほんの一部の者しか知らない、母の好きな花で作られた花束。一体誰が供えてくれたのだろうと疑問に思った時、ふと気配を感じ視線を向けた。その先に居たのは、既にその場を立ち去るように歩みを進める男の背中。そして、あの時に見た背中は…

 

「お母様とお父様に、花束を供えてくれた人…?」

 

視線の先に居る彼と同じように、少し泣いていた気がした…




○旦那をイギリス人と決めた時から決めてました
○因みに旦那がセシリアに向ける感情は、スネイプ先生がハリーに向けるそれに近い
○青いバラは亡国機業技術開発部バイオ工学班が
○明日斗の憑代はルナちゃんが頑張ってくれました
○今回のでようやくマドカに対する恋心を自覚したセイス
○実はセイスよりも先に自覚していたマドカ
○にも関わらず互いに素直になれなかったせいで、告白するのはずっと後に…

さて次回は予定通り弾と虚のデート回にするか、それとも原作出ちゃったし本編を進めるべきか、悩む…










 
「本当はもっと早く来たかったんだけど、こっちにも都合があってね、忙しかったんだ」
 
「……正直言ってまだ信じられないよ、君達が死んだことが…」

「僕は、勝てる勝負しかしない。だからこそ、勝てると確信した勝負に負けたことは、一度も無かった。ゲームも、ビジネスも、殺し合いも、負けなしだった。故に恋愛だって、負けるつもりは無かった。負けるなんて、微塵も思わなかった」

「そんな僕に、君は勝ったんだ。心の底から欲しいと思った女を手に入れる為に、柄にも無く全力を出した僕を相手に君は勝ったんだ」

「そして君は、僕の誘惑に最後まで惑わされず、彼を選んだ」

「君達は、この世で唯一、僕に勝った二人なんだ」

「なのに、どうして…」

「どうして、こんな呆気ない、終わり方を…」

「……あぁもう本当に、君達には泣かされてばかりだ…」

「おや、あそこに居るのは君たちのお姫様だね。そうか、もう時間か…」

「それじゃあ、僕はこれで御暇させて貰うとしよう。お邪魔虫は退散するから、親子水入らずで過ごしてくれ」

「……じゃあね、あっちでもお幸せに…」
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