アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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マリオサンシャインやりたい


プロジェクト・DU その1

 

 ある昼下がり、五反田食堂にて…

 

「ところで五反田君、彼女さんとは最近どうなん?」

 

 すっかり常連となったセイスのこの言葉に、話を振られた五反田弾は頼まれて持ってきたお冷片手に固まってしまった。

 

「いや、いきなり何を言うんですか」

「何ってそりゃ、言葉の通りだよ」

 

 注文したハンバーグ定食に舌鼓を打つセイスの口から、何の前触れも無く出てきたこの話題。下手な返事をすればとことんイジリ倒されるのは目に見えているし、あまり動揺して騒ぐと厨房から調理器具が飛んでくるので、取り敢えずセイスのテーブルにおかわりのお冷を置いてから咳払い一つ、意識を切り替えてのポーカーフェイスで一言。

 

「ノーコメントで」

「つまり前回一緒に買い物デートして以来、特に進展ない上に最近は忙しくて携帯でのやり取りしかしてない、と…」

 

 無駄な抵抗だった…

 

「て言うか前から気になってたんだけど、いつもどこで情報仕入れてんの?」

「そいつは機業秘密」

 

 飯を食いながら何食わぬ顔でそうのたまうこの常連に、もう溜め息しか出ない弾。

 別に悪質な客って訳じゃないし、むしろ、いつも御贔屓にして貰ってるので五反田食堂では上客扱いされる常連の一人だ。けれど、ことある事に人の恋愛事情をネタにからかうのはやめて欲しい、特に妹の居る前では尚の事、それも切実に。最近、たった一年と言う年の差が、恋の大きな障害となっている妹の前でこの手の話題を出すと、恐ろしく機嫌が悪くなるのだから。現に今も、殺気混じりの視線が背中に突き刺さっているし…

 

「落ち着け落ち着け、別にからかう為だけにこの話題を選んだ訳じゃあ無いんだ」

「あ?」

 

 丁度食べ終わり、受け取ったお冷をグビリと一口。そして、一息入れるたセイスは語りだす。

 

「常連客と店員って言うありきたりな関係だが、かといって全く知らない仲でも無い。実際、毎度美味い飯を食わせて貰ってるし」

「大半はうちのじーちゃんが作ったのだけどな」

「愚痴もよく聞いてくれるし」

「内容の九割は惚気話だったけどな、そう言えば今日は彼女さんは?」

「アイツは今日、別の仕事が入って無理だった。そして前も言ったけど、アイツは彼女じゃない」

 

 セイス同様、かなりの頻度でやってくる例の少女。どことなく親友の姉に似た雰囲気を持つと同時に、小柄な見た目からは想像できない大食らいで、いつも三人前近い量を平らげていく。そして、この店に来る時は大抵セイスと一緒だ。て言うか本人達は毎度否定するが、あれはもう完全にデキてるだろう。進展が無い妹や幼馴染達と違って、完全にラブラブイチャイチャの領域に入っている。少なくとも、どこぞの酢豚幼馴染には、こんな人目の多い定食屋で微塵も顔を赤らめずにアーンで食べさせあうとか絶対に無理だろ。

 

「これも気になってたんだけどお客さん、アンタら俺と同い年だよな?」

「そうだよ」

「何の仕事してんの?」

「機業秘密」

 

 そう言っていつも煙に巻かれてしまうのだが、本当に何の仕事してるんだろうか。いつもの様子や身なりから察するに、金回りは良いのだろう。実際、彼女さんに代金を毎度のように払わされ、何度も苦い表情を浮かべてはいるが、本気で金に困っていそうな姿は見たことが無い。しかし、あまり深く詮索するのは祖父にも控えろと釘を刺されているのでやめておこう。以前にタチの悪い酔っ払いが…しかもヤクザが店にやって来た時があったのだが、祖父が自慢の剛腕を炸裂させる前に、当時たまたま居合わせたこの常連客と愉快な仲間達がそいつを一瞬でケチョンケチョンのボッコボコにしてしまったのである。あの手際の良さと雰囲気、絶対に堅気の人じゃなかった。おまけに翌朝のニュースで知ったのだが、その日の内にボコられたヤクザが所属する事務所が何者かに襲撃され、跡形も無く消滅したとか。それ以来、さっきみたいに軽く訊ねる事はあれど、彼らの素性を深く詮索するのは怖いからやめた。

 尤も、この店って元々、明らかに堅気じゃ無い人間がちょいちょい来るので、今更と言えば今更である。なので今のところ、進んで彼をどうこうするつもりは無い。

 

「まぁ俺のことは置いてといて、何が言いたいのかっていうとだな…」

 

 で、その謎の常連客は自らの懐をゴソゴソと探り…

 

「日頃のお礼も兼ねて、お前を全力で応援する所存、ってな」

 

 とある一枚の紙を取り出し、テーブルの上を滑らす様にしながら、弾に差し出してきた。彼が取り出したもの、それは一枚のチケットだったのだが、そこに書かれている文字を見て弾は、あまりの衝撃に目を見開いた。

 

「ド、ドルピーク島ぁッ!?」

 

 『ドルピーク・島 (アイランド)』、それは東京デ○ズニーリゾート、ユニバ○サルスタジオジャパンと肩を並べる、日本三大テーマパークの一つだ。

 IS学園を建設する際に得たノウハウを駆使して作られた巨大人工島の上には、まるで街のように大きなショッピングエリア、レストラン街、遊園地、海水浴場、水族館、ホテル、温泉、農園など、エリア一か所分だけでも並の遊園地並の規模を誇る一流のレジャー施設が、ありとあらゆるジャンルで揃えられており、一日どころか三日掛けても園内全てを巡るのは不可能と言われ程に大きく、島の設備だけで自給自足が可能なことから、冗談半分で…むしろ半ば本気で利用した事のある人たちから、『ドルピック島は、世界唯一の遊園地国家』と呼ばれていたりする。最近は海外からも多くの来園者が訪れ、今世界で最も熱い遊園地とも言えるだろう。

 そのドルピーク島のチケットが、三年先の予約チケットさえ入手困難とされるドルピーク島のチケットが、ネットオークションに出せば10万円を軽く超えるとも言われるドルピック島のチケットが今、古びた定食屋に過ぎない五反田食堂のテーブル席にッ…!!

 

「え、くれるの?」

「おう」

「マジで?」

「マジで」

「ドッキリ?」

「ノードッキリ、イッツアリアル。ペアご招待券だから、彼女さん連れて楽しんできな」

 

 震える腕で受け取り、思わず叫びそうになるのを必死に堪える。けれど、今なら祖父の剛速球も歓喜の雄叫びだけで跳ね返せそうだ。

 チケット代が割高な割にドルピーク島、園内に存在するものは料理からサービス料まで、全て良心的な価格で提供されている。ものによっては同じ品であるにも関わらず、そこらのデパートより安く提供されている時さえあるくらいだ。家の手伝いとバイトが主な収入源の貧乏学生な自分でも充分に楽しめるし、今回はチケットをタダで手に入れたので、あわよくば虚さんに上等なプレゼントを買うことだって出来るだろう。しかし…

 

「……でも結局のところ、虚さんが忙し過ぎるのがなぁ…」

 

 そう、肝心なのは虚さん本人の多忙っぷり。付き合い始めて暫く、布仏家はどんな一族なのかは既に支障が無い程度に教えても貰ったので、事情は理解している。理解しているからこそ無理に誘うなんて出来る訳も無く、ここ最近はデートとか逢引とか言った甘いものとは無縁な日々を送っており、少しばかり憂鬱になっていたのだが…

 

「そこら辺は安心しろ、既に手は打った」

「え?」

「取り敢えず、すぐに電話して誘ってみな。そんじゃ御馳走様、後は頑張れよ」

「え、ちょ、手を打ったって何だよ、おい、お客さーん!?」

 

 悩むこっちを余所に、言うだけ言ってセイスは定食の代金を払い、さっさと帰ってしまった。後に残されたのは、ただ戸惑うだけの弾と、綺麗に完食されたハンバーグ定食の皿だけである。

 

「いや、まぁ、ありがたいのは確かなんだけど…」

 

 取り敢えず皿を片付け、ちょうど休憩の時間なので一度自室に戻る事にした。当然ながら、チケットは妹に見つからない様にしっかりとポケットの中に捻じ込んで、抜き足、差し足、忍び足、時たまダンボールで弾inダンボールまで使って、自分の部屋に滑り込む。そして、いつだかのように妹がノック無しで入って来れない様にドアを机で塞ぎ、改めてチケットを取り出す。

 自室の床に置かれたドルピーク島のチケットは、心なしか神々しいオーラを放っている気がした…

 

「とにかく電話してみるか」

 

 折角頂いたし、何だかんだ言ってあの常連客の言葉に従って失敗したことは無かったし、今回も信じてみるとしよう。携帯電話を取り出し、着信履歴の一番上にある彼女の番号を選択し、いざ通話。数秒のコール音の後、愛しの彼女の声が聴こえてきた。

 

『はい、もしもし、弾君?』

「もしもし虚さん、今大丈夫ですか?」

『えぇ大丈夫よ、ちょうど私も弾君に電話しようと思っていたところなの』

「え、マジっすか」

 

 自分が電話しようとした時に、向こうも電話しようとしていた。文字にすればそれだけのことなのだが、何だか意味も無く照れくさくて、ちょっと嬉しい。きっと今、妹が見たらキモいって言いかねない笑みを浮かべてる。そして、声の様子から察するに、向こうもちょっと似たような笑みを浮かべてるっぽい。

 お互い恋人同士になってからも、未だにちょっとしたことで照れてしまうのだけど、どうしたら良いのだろうか。この前も二人で歩いていたら、無意識の内に手を繋いで互いに顔を真っ赤にして、それをどっかで見ていたセイス達に滅茶苦茶からかわれたのは記憶に新しい。やっぱり、いちいち些細なことで動揺しない方が男らしい気もするし……いや待て、良く考えたら、全く動揺しなくなったら一夏と一緒じゃん、陶片木にして朴念仁じゃん。それに虚さん可愛いんだもん、無反応とか無理だよ、自分の心と体に嘘はつけねぇよ…

 

 ごめんなさい、話が逸れました…

 

「あー、話があるなら、そちらから先にどうぞ」

『ううん、弾君から先で良いわ。別に急ぎの用件でも無いし、電話してきたの弾君からだったし』

 

 落ち着け、落ち着けと、心の中で何度も唱える。ここでしくじれば折角のチャンスと、セイスからの贈り物が全て無駄になる。さぁ、いつものように淀みなく、なめらかに誘いの言葉を!!

 

「じゃあ、お言葉に甘えまして。早速なんですが虚さん、今度の日曜日、予定は空いてますか?」

『え…』

 

 あれ、何だか思ってた反応と違う。奇跡的に予定が空いてるか、例によって忙しくて無理の二択だと思っていた。前者なら少しだけ嬉しそうに『空いてる』と言ってくれるだろうし、後者なら心底残念そうに『空いてない』と答えるだろう。

 なのに返ってきた返事はそのどちらでもなく、ただひたすらに予想外と言わんばかりの戸惑いだけ。

 

「虚さん?」

『う、ううん、何でも無いわ。それよりも日曜ね、日曜かぁ…』

 

 受話器の向こうで唸る様に何か悩み始める虚さん。快諾してくれた訳でもないけど、断られてもいない。ぶっちゃけ、こんな状況は今の今まで無かっただけに、こちらとしても困惑するばかりなのだけど、少しは希望を持って良いのだろうか。取り敢えず、一応念の為にもうひと押し…

 

「実は、『ドルピーク島』のチケットを手に入れましてね、今度の日曜日、一緒に行きませんか?」

『えぇ!?』

 

 凄ぇ驚いてる、何で驚いてるのかは分からないけど、すんげぇ驚いてる。まぁこっちの財布事情を知ってる向こうからしたら、ドルピーク島のチケットなんてお宝を自分が手に入れられるとは、夢に思っていなかったろう。だけど気のせいだろうか、何だか自分がチケット手に入れたことよりも、このタイミングでドルピーク島の名前出したこと自体に驚いているような…

 

「う、虚さん?」

『あ、ゴメンなさい…』

「あの、嫌なら別に断ってくれても俺は…」

『あぁ違うの、そうじゃないの、そうじゃないんだけど、ちょっと問題が…』

 

 そう言って再び何かを考え込むこと数秒…

 

『よし、何とかしてくる、ちょっと待ってて』

 

 

 と言って暫く受話器の向こうが沈黙すること数分…

 

 

『何とかしてきたわ、大丈夫よ』

「本当ですか!?」

 

 まるで何かをやり遂げたかのような達成感をにじませた声で、そう返事をしてくれた。思わず立ち上がり、誰も居ない部屋でガッツポーズを決めて踊り出しそうになった。

 嗚呼、久しぶりのデートの約束だけでも奇跡的なのに、行き先はまさかのドルピーク島、しかも貰い物とは言えチケットは自分が用意したものとあっては、もう歓喜せずにはいられない。本当に、あの常連客には感謝しても感謝しきれない。今度店に来た時は、お礼に彼女さん共々たっぷりとサービスしてあげよう…

 さて、それはさて置き、折角デートが確定したのだから、早速当日の予定を話し合って…

 

 

―――ちょっと虚ちゃん、まだ話は終わってないわよ、ねぇ聞いてる!?

 

 

「……あの、本当に大丈夫なんですか…?」

『えぇ、勿論』

 

 

―――いきなり『日曜日は彼と行きます』ってあなた本気なの!? だって、その日は確かぐふぅえ!? 

 

 

『何も問題無いわ』

 

 

 本当に大丈夫なのか、特に受話器の向こうで呻き声を上げた人…

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「日曜日に、弾君とドルピーク島……ふふっ…」 

「ぢょっと、うつぼぢゃん、いだいんだけど…」

「誰が海のギャングですか。とにかく今週の日曜日、彼を同伴させますので、よろしくお願いしますね」

「いや、よろしくじゃ無いわよ!! 布仏家の、暗部のお仕事でドルピーク島に行くんでしょ!? なんで一般人の彼を当然のように連れていこうとしてる訳!?」

「そうは言いますが情報源の信頼度と重要性、そのどちらもが中途半端であるが故、念の為に確認すると言う名目で更識家でなく布仏家に回されてきた案件です。想定されている危険度は低く、お嬢様も休暇代わりのつもりで行ってきなさいと言っていたじゃありませんか」

「それは虚ちゃんだけ、もしくは同業者の人が居る時のことよ!! 万が一、本当に情報の通りだったらどうするの!?」

「その時は私が全力で彼を守るだけです」

「わぁお凄い男前、じゃなくて!! あぁもう、とにかく考え直しなさい。裏仕事に堅気同伴とか、正気の沙汰じゃ無いわよ!!」

「実際の本音は?」

「主人である私を差し置いて好きな人とデートとかずるあ痛たたた、虚ちゃん耳はやめて引っ張らないで!!」

 

 




本当にあったら行ってみたい、ドルピックアイランド。
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