アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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お待たせしました、続きです。




プロジェクト・DU その3

 

 

 布仏虚は華の女子高生にして、知る人ぞ知る仕事人間であった。休む時は休むが、与えられた仕事はどんな内容であろうと妥協せず、手を抜かず、完璧にこなす。更識家当主の従者として、布仏家の息女として、そしてIS学園生徒会の一員として、彼女は常に自身に与えられた役目を果たし続けてきた。

 布仏家の本懐は更識家を支えること、要は裏方稼業だ。いざとなったら真っ先に現場で命を懸けることになるが、平時の際は仕事に遊び心を捻じ込むだけの余裕はあるどこぞの生徒会長と違い、何かが起きようが起きまいが常に働きっぱなしなのが布仏虚である。当然ながら、そんな彼女に遊ぶ暇なんて、今の今まで無かった。そもそも布仏家の長女なんて言う肩書と責任からくる重圧と、それに応えてしまうだけの生真面目さが、その余裕さえ根こそぎ奪っていってしまったのかもしれない。

 さて、そんな彼女が、初めて恋というものを知った。好きになった少年と、一緒に居たいと思うようになった。与えられた役目はこれまで通りしっかり果たしながらも、以前よりほんの少しだけ我儘になって、自分の気持ちに正直になった。そんな布仏虚が、その好きになった少年と、これまで接待と付き添い以外で碌に行ったことの無い遊園地に来た訳なのだが…

 

「弾君、弾君、次、次はアレ行こう!!」

「わ、分かりましたから、ちょっと落ち着きましょう。そんなに焦らなくても、アトラクションはどこにも逃げませんから…」

 

 これまでに無いくらいの、もの凄いはしゃぎっぷりであった…

 最初こそ、落ち着いた年上の女性というものを維持しようとしていたが、そんなもの遊園地エリアに足を踏み入れて三秒で投げ捨てていた。目をキラキラさせ、軽く幼児退行しつつ、弾の手を引っ張りながらアレに乗りたいコレに乗りたい早く行こうの繰り返し。コーヒーカップでは加減無しでグルグル回すし、メリーゴーランドに乗れば終始はしゃぎっぱなし、海賊ゴンドラ船ではとても楽しそうに叫んでいた。そんな日頃の彼女からは想像もできない今の様子に、弾は何を思ったかと言うと…

 

(やっべ、超可愛い…)

 

 これに尽きた。しかも後で落ち着いた時に今の自分の様子を思い出して、恥ずかしくなって顔を真っ赤にしながら両手で覆って蹲るんだろうなぁこの人とか思いながら、やっぱり俺の彼女さんは『年上の可愛い人』だと、改めて認識した弾であった。

 

「と、それはさて置き、次はアレか…」

 

 虚がアレと行って指差していたのは、この遊園地エリア最大の目玉アトラクションの一つであるジェットコースター。その大きさ、スピード、恐怖度、どれをとっても最高クラスと言われている、まさに世界最先端のアトラクション。このジェットコースター単体でも有名であり、ドルピーク島に着く前から虚も乗ってみたいと言っていた。

 その時に虚が浮かべていた笑顔を思い出し、そして今、期待に満ち溢れたワクワク顔を見せる虚を前に弾は、まるで何かを覚悟するかのように深呼吸をひとつ、それからニッコリと笑顔を浮かべた。

 

「じゃ、行くとしましょうか」

「うん!!」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「オイ待て弾、早まるなッ!!」

「ちょっと、どうしたの一夏君?」

 

 一方、再びこちら野次馬ストーカーコンビ。遊園地エリアの片隅にある展望台で刀奈が持参した双眼鏡を手に二人の様子を窺っていたところ、突然一夏が動揺の声を上げたのである。耳元で大きな声を出されたのもあって刀奈も顔を顰めるが、一夏はそれどころでは無さそうだ。

 

「いや実は弾の奴って、昔から絶叫系のアトラクションもの凄く苦手なんです…」

「なぁんだ、そんなこと…」

 

 言葉にしてしまえば、たったそれだけのこと。やけに重々しく開かれた口から出た割には、随分と拍子抜けする内容に半ば呆れたように笑う刀奈だったが、一夏の次の言葉で表情が一変した。

 

「因みに、あいつ子供用コースターでも気絶します」

「え…」

「最悪の場合、失神して失禁します」

「え゛…」

「そして一度気絶すると、家に帰るまで起きません」

「えええぇぇちょっとそれヤバいんじゃないかしら!?」

 

 中学時代、遠足や休日に遊園地へ行って、何度かジェットコースターに乗ったが何一つとして良い思い出が無い。場の雰囲気と流れに逆らえずに乗った結果、吐くわ漏らすわ気絶するわで、その度に一夏が家まで背負って送る羽目になったものだ。そして、それは現在も変わらない様で、未だに絶叫系の話題を持ちだすと途端に目が死ぬ。

 

「多分、虚さんの手前、格好悪いところ見せたくないって気持ち半分、絶叫系苦手な自分に気を使わせたくないって気持ち半分でやせ我慢しているんじゃないかと…」

「そして、今の浮かれまくった状態の虚ちゃんはそれに気づいていない、って訳なのね…」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「遠くから見ても凄かったけど、やっぱり近くで見ると違うわね」

「そうですね」

 

 さて、一夏と楯無に心配されているとは露にも思わず、ジェットコースターの列に虚と並んだ当の本人はと言うと、二人の心配とは裏腹に案外平気そうだった。ただし…

 

(あああああああぁぁぁぁヤベぇよ、マジでヤベええええええぇぇぇぇよおおおおぉぉぉぉ)

 

 表向きは、と言う単語が頭に付くが…

 

(せめて漏らすのだけは避けねば)

 

 楽しそうにしている虚に水を差さない様、自分が絶叫系が苦手であることを隠しながらここまで来てしまったが、内心は絶望一色であった。幸か不幸か、人気アトラクションなだけあって長い行列になっており、順番が来るまでそれなりに時間が掛かりそうで、気分を落ち着かせたり覚悟を決めたりする時間は有り余っている。しかし悲しいかな、彼女の前で格好つけたいと言う男の性さがに身を任せ、勢いだけでここまで来てしまった代償なのか、恐怖心を顔に出さないようにするので精一杯だ。

 

(あれ、もしかして弾君って…)

 

 そして彼にとっての不幸は、目の前に居る彼女が、生真面目で気配り上手な、暗部の家系に名を連ねる、布仏虚であると言うことだろう。

 

「それにしても、流石に結構並んでるわね」

「確かに他よりも凄いですよね、やっぱ一番人気のアトラクションってことなんですかね?」

「うーん、このまま並び続けるとお昼までずれ込みそうだし、一度諦めよっか」

「え…」

 

 ふと、そんなことを提案してきた虚に、弾は思わずきょとんとしてしまう。確かに虚の言う通り、それなりに長い行列に並んで大分待たされているが、逆に言えばそれだけ待った甲斐もあって、もう少しで順番がまわってくるとこまで来ているのだ。例え言葉の通り、昼時に時間がずれこもうが、今更列を抜けて並び直すなんて真似は勿体無い。そんな事、あの虚が分からない訳ないと思うのだがと、そこまで考えて弾は察した。

 

(もしかしなくても、悟られた上に気を使われた…?)

 

 その考えに至るや否や弾は額を抑えて俯き、深い溜め息を吐いた。気を使ったつもりが逆に気を使われ、心底情けない気持ちに沈むが、こうなったらもう仕方ない。胸に溜まったものを溜め息と共に全部吐き出すと同時に覚悟を決め、顔を上げた。

 

「あのー、虚さん」

「うん?」

「実は俺、絶叫系苦手なんです…」

(あ、やっぱり)

 

 弾の言葉に虚は、まるで隠し事を白状した子供に向けるような、そんな柔らかい苦笑を浮かべた。彼女としても一応、自分の彼女に格好悪いところを見せたくない男の子の気持ちは分かるつもりだ、決してバカにするような気持ちは抱いていない。けれど彼が年下なこともあってか、弾が頑張って背伸びしようとする子供みたいに見えて、やっぱり少し微笑ましく感じてしまうようだ。

 

「ごめんね、気付かなッ…」

「それで、折角の機会なんで、今回を機に克服しようと思います」

 

 虚の言葉を遮ってまでそう言った弾の表情は、心なしかいつもよりキリリとしていた。

 

「でもやっぱ一人じゃ怖いんで、一緒に乗って下さいお願いします」

 

 その無駄にキリッとした顔で、随分と情けないことを言いながら、頭を下げる弾。そんな彼の言葉に、虚は思わずきょとんとしていたが、やがて、さっきとはまた違った微笑を浮かべた。

 

「ふふっ、分かりました、謹んで協力させて頂きます」

 

 不謹慎と分かっているが、自分の為に無理までしてくれる彼の気持ちが、ちょっと嬉しかったようだ。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「おいセヴァス、オランジュの言う通りになったぞ。五反田の奴め、無茶をする…」

「彼女に対する自爆覚悟の気遣いと、そんな男の意地と顔を立てる度量を持った女、か。まぁ、あそこまで覚悟決めて言った挙句に『別に良い』とか言われたら、そっちの方が男として辛わな」

「で、どうするんだ?」

「そんなの決まってる、プランA発動だ。という訳でアイゼン、よろしく」

『はいよー』

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 それから少しして、長い行列の先頭が見えてきた。ここまでくれば、もうすぐだ。恐らく次の、もしくは更にその次くらいに順番が回ってくる筈だ。

 

「弾君、やっぱり今日はやめとく?」

「いや、乗ります」

 

 とは言ったものの、弾の顔色は少々悪い。ここに来て、今までの絶叫系に関する黒歴史の数々を次々と思い出しているのかもしれない。しかし、何もかも今更だ。もう絶叫系が苦手なことはさっき自分で言ったし、一緒に乗る為の建前も使った、今更情けない思い出の一つや二つ、増えたところで屁でも無い。何より今回は、虚に楽しい思いをして貰うことこそが最優先事項。その為なら、自分がどうなろうが一向に構わない……でも、流石に彼女の前で失禁するのだけは避けたいなぁ…

 

 カシャン

 

 と、そんな時だった。弾と虚の前に並んでいた一人の客が、何かをポケットから落とした。目を地面に向けると、最近ではあまり見掛けなくなった、給油式のジッポライターだった。持ち主の男はどうやら落としたことに気付いていない様なので、取り敢えず弾はライターを拾い、男の肩を叩いて声を掛けた。 

 

「あの、落ちましたよ?」

「え、あぁ、すいません」

 

 振り向いた男は、ヨーロッパ系の若者だった。男は弾からライターを受けとり、落した拍子に壊れていないか確認しているのか、徐に目の前で蓋をあけ、そのまま弾の目の前で火を灯した。そして、まるで見せつけるかのように、火の灯ったライターをゆらゆらと揺らしながら、ギリギリ聞き取れないぐらいの小さな声で何かを呟き始めた。

 

「アイン、ツヴァイ、ドライ」

 

 

―――カチッ

 

 

「よし、これで大丈夫。拾ってくれて、ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

 

 そう言って男は前に向き直ると、丁度ギリギリ順番が回ってきた。職員の案内の元、コースターの最後尾に乗り込んだ彼は、あっという間に居なくなってしまった。そして、それからほんの少しして、遂に二人の目の前に次のコースターがやって来た。

 

「じゃあ、乗りましょうか」

「弾君、本当に大丈夫?」

「本当に大丈夫です」

 

 目の前に並んでいた男が最後尾だったという事は、当然ながら二人が座るのは最前列。ぶっちゃけ、人によっては一番怖い場所だ。そして弾も、最前列が一番苦手だったりする。しかし、ここまで来て引き返すつもりは更々無い。覚悟を決め、先に乗り込んだ虚に続くようにして座席に座りこんだのだが…

 

(あれ?)

 

 腰を降ろし、安全バーをしっかりと固定したところで、ふと気付く。いつもなら、この時点で顔色は真っ青になり、身体は震え、呼吸も乱れまくって大変なことになるのだが、どういう訳かそれらの症状が一切出ない。と、言うかそもそも…

 

(全然、恐く感じねぇ)

 

 

 その後、走り出したジェットコースターに激しく揺られ、隣ではしゃぐ虚を横目に、生まれて初めてジェットコースターを楽しむことが出来た弾であった。





予定では次、もしくは次の次でP・DU編は終わります。その後は、前回の後書きでも書いた通り、クリスマス編の準備を。

あと最近、SAOのメモデフやり始めて、SAOの二次書きたくなってきた。でも、またなろうでオリジナル挑戦したいし、アイ潜の本編も書きたい……
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