アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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サイボーグ化したライオンを親友に持つ、魂だけしか残らなかった人間でさえ身体ごと完全蘇生させる金属を発明した、空母乗っ取りの前科がある天才少年が、天災と仲良く世界を滅ぼし掛ける夢を見た。

クリスマス編書き終わったら、短編で書こう。

何はともあれ、お待たせしました、ダンウツ編ラストパートです。


プロジェクト・DU ラスト

 

 

「……凄い…」

「なんか、もう、それ以外の言葉が出てこないですね…」

 

 遊園地エリアを堪能し、途中に立ち寄った屋台で昼食を済ませた二人が次に訪れたのは、水族館エリア。

 このドルピーク島水族館には施設自体の大きさに反して、水槽がたったの2つしか存在しない。しかし、その2つしか無い水槽が、とんでもない大きさを誇っている。空母が1隻丸ごとすっぽり収まると言われる巨大な水槽の中には地球上に存在する、もしくは存在していたあらゆる水棲生物が優雅に泳いでおり、その姿を巨大水槽の外から、時には二つの水槽に挟まれるようにして中から、ゆっくりと眺める事が出来る。

 巨大な二つの水槽と、中で泳ぐ無数の魚たちを前にして、弾と虚の二人はその迫力に圧倒され他の来園者と同様に、自然と開いた口が塞がらなくなっていた。この目の前に広がる光景の凄まじさと、スケールの大きさもそうだが何よりも、事前に聞いていたとある話が二人を心から驚愕させていた。

 

「この中で泳いでる奴ら、全部ロボットってマジなんですか、とてもそうは見えないんですけど…」

 

 そう、この巨大水槽の中で優雅に泳ぐ生物達は全て、精巧に作られたロボットなのだ。巨大な群れを作る小さなイワシも、とんでもないスピードで泳ぎ続ける巨大なマグロも、ガラス越しにまで響く鳴き声を上げたクジラまで、全てが作り物なのである。しかし見ての通り、その一体一体が本物と判別出来ないくらいにとてもリアルで、機械とは思えない活き活きとした動きを見せており、全て偽物であると聞かされても尚、二人はそのことを信じることが出来ないでいた。

 

「どう見ても本物にしか見えないわよね。でも、確かに…」 

 

 ふと視線を別の場所に向けると、悠々と泳ぐマンタの後ろをピラルクが追いかけていた。また別の場所に目を向ければ、大きなタカアシガニに一生懸命威嚇するアメリカザリガニが居る。イワシの大群を良く見てみると、群れにアロワナが紛れ込んでいるのが分かる。海と川の生き物達がごちゃまぜに入り乱れる、なんとも奇妙で、そしてある意味夢のような光景が広がっていた。

 

「本物では、こんな光景は見れないわね」

「さっき向こうでジュゴンとマナティが一緒に泳いでましたからね」

 

 もうかれこれ30分くらい同じ場所に立ち続けているのだが、全く飽きる気配が来ない。水槽のどこかに展示用のロボット達が待機している小部屋と繋がる水路があるそうで、そこから定期的に水槽の中のロボット達を入れ替えているとのことだ。その為、地球上の全水棲生物を揃えていると豪語するだけあり、次から次へと新しい魚や動物のロボットが現れ、見ているこちらを楽しませ続けてくれる。

 

「あ、シロイルカ」

 

 そんな中、水底から昇ってくるように弾と虚の前に現れた一匹のシロイルカ。水槽のガラス越しの二人の前で止まったそのシロイルカは、ロボットとは思えないリアルな声で一鳴きすると、二人に向けて口から泡のリングを吐き出した。吐き出されたリングはガラスに向かって突き進み、やがて衝突すると同時にハートの形へと変化した。

 シロイルカは笑うように再び一鳴きすると、上へと浮上していった。突然の不意打ちにびっくりして、弾は思わず固まった。少し照れくさくなり、取り敢えず隣に顔を向けると、全く同じリアクションをとったのか、若干顔を赤くしてこっちを向いた虚と目が合う。そして、暫し見つめ合う事三秒。

 

 思わず吹き出し、互いに声に出して笑ってしまった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「あ、アレは、アレはまさか、ドルピーク島シロイルカの祝福ッ!!」

「刀奈さん、どうかしましたか?」

 

 一方こちら、再び物陰から従者と親友の恋路を眺めるストーカーコンビ。

 

「この水族館の名物、大水槽のアイドルでもあるシロイルカのワイスちゃん。彼女は時たま、水槽を見に来たお客さん相手に、挨拶代わりに口から泡のリングを出してくれるの。だけど、ごく稀に、そのリングの形がハートの形になることがあるのよ」

 

 弾と虚が遊園地エリアを後にしてからも、途中に寄った屋台で購入したホットドッグ(オムレツ付き)を片手に尾行を続けていた刀奈と一夏。水族館エリアに入った瞬間、その絶景に見とれて弾達を見失いかけると言うトラブルに見舞われたが、一歩間違えれば馬に蹴られかねないこの行為を二人は、少なくとも刀奈の方はまだやめるつもりは無さそうだ。

 

「因みに、もしもハートのリングを見る事が出来たら、そのカップルは必ず結ばれるって噂があるわ」

「へぇー、そうなんですか。良かったな、弾」

 

 ドルピーク島公式観光ガイドで事前に調べておいた情報を熱く語る刀奈だったが、心なしかその表情には嫉妬の色が色濃く出ていた。一応本人は、日頃の感謝も籠めて二人のデートを守るとか、弾が虚に相応しい男なのか見極める為と言っていたが、やはり少しばかり虚のことが羨ましい部分もあるのだろうか。

 

「ぐぬぬぬぬ、虚ちゃんばっかりずるいわよ。私なんて、私なんて…」

 

 て、言っちゃったよこの人…

 

「あ、タコだ」

 

 と、どこからともなくやってきた一匹のタコ。こいつもロボットなのだろうが、やはり近くで見ても本物にしか見えない。そのタコはガラスを挟んで二人の前でフヨフヨと浮いていたのだが、やがて、ガラスを挟んで刀奈と目を合わせた途端、動きを止めた。そして、見つめ合うこと数秒。

 彼女の顔目掛けて吐き捨てる様に墨をぶちまけ、そのままどこかへと去って行った。

 

「こんのタコ、私の恋路はお先真っ暗とでも言いたいわけ!?」

「刀奈さん落ち着いて、こんな場所でIS装備を出さないでッ!!」

 

 傍から見ても悪意しか感じないタコの行動に刀奈がキレた。

 

「離して一夏君、ちょっとだけだから、ちょっとあのタコで刺身作るだけだから!!」

「絶対に離しません!!」

「じゃあ今のセリフに私の名前を足してリピートして!!」

「え?……刀奈さんのことは絶対に離しません…!!」

「良し、満足」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「すっかりバカになったなアイツ、昔はあんなじゃ無かったのになぁ…」

「セヴァス、セヴァス、あれ見てみろ、凄くでかいサメが居るぞ」

「おおう、ありゃメガロドンじゃないか。あんなのまで居るとは、本当に何でもアリだなこの水槽。もしかして、アーケロンとかモササウルスも居るのか?」

「あれは操れないのか?」

「出来るけど、何させるつもりだ?」

「蹂躙」

「バカ野郎」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「今日は楽しかったわね」

「はい、本当に」

 

 結局、更に一時間ほど水族館を楽しんだ弾と虚。その後ショッピングエリアを散策し、友人達への土産を買いながら過ごし、少し早いが混雑する前にレストランエリアへと赴いて早めの夕食をとることにした。

 世界各国の専門料理店が集まるドルピーク島レストランエリア、その中で最も多くの客が集まる『レスト・モンテ』。海岸沿いに建てられたこの店は料理の味は勿論のこと、ドルピーク島の綺麗な海を一望できることで絶大な人気を誇っていた。そして事前に虚が…正確にはチケットを用意していた布仏家が予約していたことにより、店で最も眺めの良いテーブル席に二人は居た。少し視線を向ければ、美しい海原と夕日が生み出す絶景がどこまでも広がっている。 

 

「こうして改めて眺めると良く分かりますけど、海も凄く綺麗ですし、ちょっと泳がなかったのは勿体無かったかもしれませんね」

「そうね、また今度来る時はちゃんと水着も持って、そして泊まり込みで遊びに来ようか」

 

 そう言って用意されたミネラルウォーターを口にしながら、虚は少し離れたテーブル席に目だけ向けた。そして同時に携帯を取り出し、今の時刻を確かめる。携帯には、ちょうど午後6時と表示されていた。

 

「……やっぱり、ガセね…」

「どうかしたんですか?」

「ううん、何でも無い」

 

 言うと同時に虚は携帯を鞄にしまい、誤魔化すように笑みを浮かべた。どことなく弾は、彼女が肩の荷が降りたかのように、何かに安堵しているようにも見えたが、あまり追求しないことにした。虚がその表情を浮かべる時は大抵実家関係で、もう終わった時だからだ。

 ふと、その虚が真っ直ぐに、ジッと弾のことを見つめていた。

 

「それにしても、不思議なものね…」

「え?」

 

 そして感慨深そうに、ポツポツと語り出した。

 

「正直に言うと私、最近まで色恋沙汰になんか殆ど興味無かったの」

 

 特殊な家系故に、『普通』なんてものとは無縁な生き方を覚悟していた。実際、家の為、主である幼馴染の為、その身を粉にして一生懸命に自分の役割を果たしてきた。その生き方を不満に思ったことは無かったし、一般的な女子としての在り方なんて、社交辞令と学園での仕事に支障をきたさない程度の最低限のものにしか興味無かった。恋愛なんて尚更、欠片も興味が湧かなかった。

 

「けれど、弾君と出会って何もかもが変わった」

 

 あの学園祭の日、一目惚れと言うものが実在するということを、その身を持って知った。互いのことを知った今ならともかく、どうして当時、見ず知らずの彼に惹かれたのかは、今でも分からない。やはり恋と言う物は、理屈でどうこう出来るものでは無いのだろうか。

 そうでもなければ、色恋沙汰に殆ど興味の無かった自分が、こんなにも変わってしまったことが説明できない。プライベートでお洒落に気を使い始めることも、自分と違って意中の相手が同じ学園に居る主に嫉妬するなんてことも、仕事を建前に好きな男の子とデートするなんてことも、昔の自分からは全く考えられなかったことだ。何より今なら、織斑一夏と関わってポンコツ化する主と、専用機持ち達の気持ちが少しだけ理解出来るのが良い証拠かもしれない。

 

「弾君と出会ってから、毎日が楽しいの。仕事もこれまで以上に頑張れるようになったし、仕事以外の生き甲斐も見つける事ができた。何より、今も私が一人の女の子としていられるのは、弾君のお陰なの。だから弾君、私…」

 

 すっと伸ばされる虚の手は、弾の手にそっと添えられた。そして彼女の瞳は、弾に真っ直ぐ向けられ…

 

「私、弾君に逢えて、本当に良かった」

 

 心の底から幸せそうな、綺麗な笑顔。それに対する弾の返事は、決まっていた。

 

「俺もです」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「私、これからは虚ちゃんの為にも、もっと頑張るッ…!!」

 

 ちょっと離れたテーブルで席に着き、懲りずに弾と虚の会話に聞き耳を立てていた刀奈と一夏。虚があの若さで社畜…もとい仕事人間となってしまったのは二人の実家が原因だが、その片方の当主として少なからず責任を感じてしまったようで、刀奈は何やら決意に満ち溢れた表情を見せていた。

 同時に、虚にあそこまで言わせてみせた弾を、ここに至ってようやく認め始めてもいた。ただの堅気である彼が、特殊な家系の虚と結ばれるには生半可では無い障害が待ち構えているし、従者にして幼馴染の虚を盗られたような気がして妬ましい気持ちはあるが、今後二人の恋路を微力ながら手伝ってあげようかな、ぐらいには思っていた。

 

「じゃあ、まず手始めに、この野次馬根性丸出しの尾行はやめませんか」

「あ、それは話が別、むしろやんないといけないことだから」

 

 一夏の言葉をバッサリ切り捨て、刀奈はふと視線を別の方向へと向けた。その先にはあったのは、先程虚が目を向けたテーブルである。

 

―――来週の日曜日、6時にドルピーク島レストラン街の人気店、『レスト・モンテ』の18番テーブルで、亡国機業が会合を開く

 

 そもそも事の始まりは、この一本の悪戯電話だった。匿名でのタレ込みと言う名目だったが、内容が内容なので発信元を逆探知して場所を特定、即座に電話の主を確保した。ところがこの電話の主、まさかの一般人、それも普通の高校生だった。しかも聴取の結果、確かに電話をしたことは間違いないのだが、内容は悪戯目的の出鱈目だったことが分かった。しかし更識家の実態も亡国機業の名前も、堅気の人間が普通の日常で知り得る事はまず有り得ない黒ワード。どこでその名前を知ったのか問い詰めてみたところ、この少年、悪戯電話の常習犯だった上に、自分が暗部の家に電話したことも分かっていなかった。ある日、コンビニや警察署への嫌がらせにも飽き、何か面白いプランは無いかとネットで悪戯の内容を募集したのだが、そこに一件の書き込みが現れたそうだ。書き込み曰く、指定した番号に電話して、書き込みの内容を相手に告げれば面白い展開になる、とのこと。その指定された番号が更識家の緊急回線で、先程のタレ込みの内容だった訳である。

 その後の調査で、取り敢えず例の書き込み、そして少年が正真正銘一般人であり、彼の主張が本当である裏付けは取れた。問題は、この悪戯少年に入れ知恵した人間とその内容だ。この書き込みをした人間の正体が、結局その後の調査でも分からなかったのである。こいつは限りなく怪しいが、しかし本当のタレ込みならば、このようにバカな少年を介する意味はなんなのか。それに実を言うと、ネットを彷徨えば似たような内容の都市伝説はゴロゴロと転がっているし、それが独り歩きした結果、奇跡的に更識家に繋がってしまったという事件が過去にもあったそうだ。

 とまぁこんな感じに割と長くなった協議の結果、情報の信用度は限りなく低いが、完全に無視する訳にはいかない案件、という結論に収まった。 

 

(とは言え、やっぱりガセネタなんでしょうけど)

 

 刀奈自身、こんな場所に亡国機業が本当に来るとは思えなかったが万が一ということもある。色々な建前の元、虚にその役目を与え、日頃の感謝も籠めて休暇代わりに楽しんできてと言った訳なのだが、まさか迷う事無く堅気の彼氏を同行させるとは思わなかった。だから嫉妬と野次馬根性の面が強いのは否定しないが、純粋に二人が無事にデートできるのか心配だったのだ。とは言え、例の18番テーブルには…

 

「わぁ、すごーい!!」

「こらこらルナちゃん、気持ちは分かるけど、あんまり騒ぎ過ぎちゃ駄目だぞ。ここは森さん達のアジトじゃ無いんだから」

「はーい。ところでバンちゃん、どうして今日は髪の色、ルナもバンちゃんも黒にしないといけないの?」

「んー、今回の建前と屁理屈の為のイメチェンかな?」

 

 二十代前半の青年と、紛うことなき幼女の二人だけ。物騒なテロ組織とは全く関係ない、どこにでも居そうな、見るからに普通の二人だった。強いて言うなら、二人の声にはどこか聞き覚えがあるような気がしたのだが…

 

「年の離れた兄妹かしら?」

「刀奈さん、前菜が来ましたよ」

「あら、美味しそう」

 

 ドルピーク島一番人気の店が繰り出す絶品料理を前に、どうでも良くなった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「さて、こんなもんかな。後は二人が島を出るとこを見送れば任務完了だけど、そこはバンビーノ達に任せれば良いだろう」

「じゃ、もう良いんだな?」

「良いぞ」

「いよおおおおおし遊ぶぞおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

「どこから行く?」

「遊園地、さぁ走るぞセヴァス!!」

「おい、どうせ深夜になったら貸し切りに出来るから走る必要は……あぁ、行っちまった。マドカの奴、この島のスポンサー旦那だから、それにあやかって俺達も特別待遇なの忘れてるな…」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

―――後日

 

 

「お嬢様、珍しく仕事が捗ってますね」

「当然、なにせ私は虚ちゃんの主にして更識楯無、これぐらい朝飯前よ」

 

 あれから数日後、IS学園生徒会室にていつものように仕事をこなす二人。しかし宣言通り、少しでも虚の負担を減すべく、刀奈は日頃以上に張り切っていた。いつもならもう少し時間が掛かる筈の書類の山も、見る見るうちに片付いて行く。

 

「それはそれは、嬉しい限りです。その調子で、うちの妹に仕事押し付けてまで人のデートを覗き見する、なぁんて悪趣味な真似も、自重なさって下さると本当に嬉しいのですが」

 

 しかし、その動きも虚のこの言葉で固まってしまう。

 

「……な、なんの、ことかし、ら…?」

「口止めは本音だけでなく、織斑君と専用機持ちの皆にもしておくべきでしたね?」

「あ゛ッ…」

 

 島から帰ってきた一夏は、当然ながら専用機持ち達に詰め寄られ、いつもの展開へ。詰め寄られ締め上げられ、刀奈と二人きりでドルピーク島で過ごしたことを白状したら物理的に吊し上げられ、弾と虚のデートの件も吐く羽目になった。いつも通り教室で繰り広げられたその光景と事の顛末は、女子特有のお喋りネットワークで学園全体へ。結果、虚の耳にも届いてしまった。

 怖くて書類から顔を上げられない刀奈だったが、冷や汗が止まらず、身体は小刻みに震えていた。しかも虚の方からは、聴こえる筈のないゴゴゴ!!と言う効果音が。最早これまでと、覚悟を決めた刀奈は来たるべき制裁に身構えた、が…

 

「まぁ今回は、私も人のこと言えないくらいに公私混同してましたし、あまり強くは言いません。むしろ、こちらを気遣って下さった面もあるようで、ありがとうございました。これからも主従として、そして幼馴染として、どうかよろしくお願いします」

「う、虚ちゃん…!!」

 

 予想に反して向けられたのは、温かくも優しい言葉と笑顔。刀奈は思わず、虚の背中に後光を幻視した。

 

「それじゃ、仕事頑張って下さいね」

「分かったわ、この私に任せなさい!!……って、『頑張って下さい』…?」

 

 言うや否や、ドカンと言う音を響かせながら刀奈の前に置かれる書類の山。目の前の現実を理解出来ず、呆然とする刀奈だったが、しかし虚は先程の優しい笑顔のまま残酷に告げた。

 

「それ全部、もう私が手を加えられる部分は残ってませんので。後は、お嬢様が承諾のサインを書き込むだけです」

「え、待って、この山盛りの、全部?」

 

 一枚手に取って見てみると確かに彼女の言う通り、書類に虚が手を加えられる場所は既に一つも残っておらず、後は刀奈が承認のサインを書き込むだけ。むしろ本来なら刀奈がやるべき部分にも既に手が加えられており、それでいて手を加えられた場所は刀奈が文句をつけようのない程に完璧なもの。むしろ刀奈の負担は本来よりも減っている、減っているのだが、それを差し引いてもこの量はキツい。

 

「それと昨日も言いましたが、午後から約束があるので出掛けてきます。夕方には帰ってきますので、それまでに終わらせといて下さいね。それでは、お疲れ様です」

 

 軽くフリーズしていたら、いつの間にか虚は生徒会室の扉を開き、刀奈に一礼していた。そんな彼女を、刀奈は慌てて引き留めようと手を伸ばすが。

 

「待って、本当に待って虚ちゃん、流石の私もこの量は…」

「大丈夫です、何せ貴方は私の主にして更識楯無、その程度朝飯前でしょう。それに…」

 

 

―――あまり、彼を待たせたくないんです

 

 

「それではお嬢様、お先に失礼します」

 

 そのまま笑顔でパタンと、閉められた扉の音がやけに響いた。そんな中、一人残された刀奈は扉に手を伸ばした姿勢のまま、固まっていた。

 年の差たった一年とは思えない、圧倒的な大人の…否、女の余裕。仕事面でも、プレイべート面でも見せつけられた彼女との差に、刀奈は軽く心が折れそうになり、目尻には涙が。取り敢えず、行き場を失い伸ばされたままだった手で、再び書類を一枚。そこに書かれていたのは、『専用機持ち達によって破壊された、学園設備について』の文字。

 しばらく何かを考え込む仕草を見せた後、刀奈は携帯を取り出した。

 

「一夏君、今、暇? ちょっと、おねーさんと生徒会室で楽しいことしない?」

 

 

 




○ドルピーク島のスポンサーはフォレスト一派
○更に、島のとんでも設備の大半はルナちゃんが手掛けたもの
○因みに、水族館のロボットを一部操作する権限、深夜の時間帯なら遊園地の設備を貸しきりにできる、食事代無料など、フォレスト一派とその同伴者は特別待遇を受けることが可能
○余談ですが、オランジュはオープン初日に旦那の付添いで行ったことがあるので、それが理由で今回は強制的に居残り組に回されました



さて、次は宣言通りクリスマス特別編の準備に入ります。見た目は子供、頭脳は大人な死神…もとい少年探偵の世界へとルナちゃん達を放り込む予定です。

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