アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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大乱闘クリスマッシュ・ブラザーズ、開幕


IF未来 戦力過多な森一派のクリスマス編 中編

 クリスマス当日、例年通り高級ホテルを貸し切ったフォレスト一派。しかし、今年は宴会場で騒ぐ前に、動きやすい服装で全員ホテルのレクリエーションルームへと集められていた。そして、そこにはフォレスト一派以外のメンバーの姿もあった。

 

「ねぇ先輩、聞いてた話と違うっスけど…」

 

 その内の一人、スコール一派のフォルテは、隣に居るレインに戸惑いの視線を向け…

 

「なぁエム、聞いてた話と違うんだが…」

 

 そのレインが軽く頬を引き攣らせながら、隣に居るマドカに問い掛けると…

 

「おいセヴァス、話が違うぞ!! クリスマスパーティで景品を掛けたゲームをやるんじゃなかったのか!?」

 

 マドカはセイスの胸倉を掴み上げ、血相を変えながら問い詰めていた。

 

「嘘は言ってないだろ?」

「お前らはいつからあの最終決戦兵器と遊び感覚で殴り合えるようになったんだ!?」

 

 シレッと答えるセイスに、掴んだ彼の胸倉をガクガクと揺らしマドカが吠える。

 スコールとフォレストが同盟を結ぶ前からセイス達と交流のあるマドカは勿論のこと、そのマドカに誘われる形で今回のクリスマスパーティに参加したレインとフォルテ。今年はゲームに挑戦すれば豪華な景品が貰えるからと来てみれば、彼の言うゲームの内容は、まさかのティーガーとの模擬戦。いつもフォレスト一派の元に顔を出しているマドカだけでなく、派閥の違うレインとフォルテでさえ、ティーガーの恐ろしさは嫌と言う程知っている。故に彼女らにとって、そんな彼を相手と生身で戦えとか無理ゲー以外のなにものでも無かった。

 セイスの態度から察するに、本当のことを言ったら確実に来ないと分かっていたので黙っていたのだろう。あるいは、いつもの悪戯合戦の延長か。どちらにせよ、巻き込まれた身からしたらたまったものでは無い。

 

「ええぃ、今更もう遅い。それに勝算はある、損はさせないから」

「本当だろうな?」

「失敗したら責任とって新年会の費用を全額出す、オランジュが」

「おい!?」

「それなら良いだろう」

「おいいぃぃ!?」

 

 叫ぶオランジュだったが、マドカはそれで手を打つことにしたようで既に聞く耳を持たない。レインとフォルテに視線を向ければ、二人もそれならと言わんばかりにうんうんと頷いていた。どうやら、もう取り消しはできないらしい。

 

「ったくよぉ、アイツらは…」

「あ、あはは。まぁ、勝てば良いんだし、オランジュの考えた作戦ならきっと上手くいくよ。それに万が一失敗しても、僕も一緒に責任取るからさ」

「……あぁもう、お前だけが俺の癒しだぜシャルぅ…」

 

 先程の落ち込みようから一転、シャルロットの言葉に気を良くしたのか満面の笑顔の阿呆。そのまま彼女を抱きしめ、頭を撫でる。普通にセクハラ認定されても文句は言えない阿呆のこの行動に、当の彼女は嫌がる素振りを見せるどころか、赤面しつつも凄く嬉しそうだった。

 そのオランジュとシャルロットの様子を、割と黒い感情を抱きながら睨み付ける視線が二人分。

 

「……先輩、派閥の移籍って出来るんでしたっけ…」

「出来るぞ、スコールおばさんに恨まれる覚悟さえあればな…」

「じゃあ私は行こう、あのアイアンババァによろしくな二人とも」

「「待って」」

 

 半ば本気でスコールの元を去ろうとしたマドカ、それを止めるレインとフォルテ。いつまでも色ボケ続けるフランスコンビ、残りのメンバーはセシリアのせいでいつの間にか始まった、『フォレストの旦那が好きなものって何だっけ?会議』に夢中。

そんな中、すっかりグダグダになった空気を元に戻したのは、レクリエーションルームの中央から発せられた、それはそれは苛ただしそうな舌打ちの音だった。全員が音の発生源へと目を向ければ、見るからに不機嫌そうな表情を浮かべるティーガーの姿。一瞬で全員の顔から血の気が引いた。

 

「あ、すんません、もう少しだけ時間下さい…」

「早くしろ、後はお前らだけなんだ」

「はい…」

 

 因みに、彼の言う通りオランジュ達がこのゲーム最後の挑戦者となる。他の挑戦者は既にティーガーと戦い、その全員が敗北で終わった。トールを始めとする古参組は銃火器まで使って善戦したが、やはり小細工抜きでティーガーに勝つのは難しいようだ。

 

「んじゃ、作戦通りによろしく」

「お前ら、マジで碌でも無いことばっかり思いつくな…」

「と言うか、そんな作戦で本当にいけるんスか?」

「まぁ、正面からじゃIS使っても勝てそうにないティーガーが相手ではな…」

「そう言うこった。とにかく、手筈通りに頼んだぞ助っ人トリオ」

 

 だからこその、今回の作戦。正直言うと、内容は非常にくだらないものだが、幾つもの条件が揃ったこの場所に限り、絶対的な効果をもたらすとオランジュは確信していた。セイス達も、何だかんだ言って今までもこの阿呆を信じてやってきた。今回も騙されたと思って、阿呆の阿呆に付き合ってやるだけだ。

 

「準備は済んだか?」

「えぇ、バッチリですよ」

 

 オランジュの言葉に、全員の空気が張り詰めたものに変わる。まだ二十にも満たない子供たちが、本職の大人達ですら怯みかねない、尋常じゃない戦意を滾らせる。その全てを正面から受けながら、フォレスト一派が誇る最強の猛虎は殆どの者には分からない程に小さく、けれどしっかりとした笑みを浮かべた。

 

「そうか、なら来い」

「じゃあ遠慮なく!!」

 

 言葉と共に、人外の全力を使い一瞬で間合いを詰めたセイス。更にそのまま、至近距離から全力の拳をティーガーに放つ。ズバァン!!と言う凄まじい音と、それに見合うだけの強い衝撃が部屋に響く。

 ISに絶対防御すら使用させる、セイスの全力の一撃。しかし放たれた必殺のそれは、ティーガーの突き出した片腕にがっしりと掴まれていた。

 

「大きくなったな」

「身長の話ですか、それとも拳の威力ですか?」

「両方だ」

 

 ティーガーの言葉に、セイスの闘志剥き出しな歪んだ笑みが深くなる。一見すると余裕そうなティーガーだが、よく見ると正面からぶつかり合い、今も前に押し返そうと力を籠める互いの腕はガクガクと震えていた。こっちの全力に向こうも全力を出している、つまり拮抗しているのだ、あのティーガーと。昔は自分がどれだけ全力でぶつかっても、ビクともしなかった兄貴分の腕。その剛腕に、一応とは言え拮抗して見せている。その事実だけでも、セイスが心の中で歓喜するには充分だった。

 

「オラァ!!」

「だが甘い」

 

 獣のように吠えたセイスは、そのまま空いた方の腕でティーガーを殴りつけようとするが、咄嗟にティーガーは掴んでいたセイスの腕を放す。そのせいでセイスはバランスを崩し、その隙を狙って叩き込まれた虎の拳に吹き飛ばされた。瞬間、ティーガーの背後に迫る黒い影… 

 

「お前は疾くなったな」

「そりゃどうも」

 

 振り向き様に放たれた裏拳をしゃがんで避け、追撃のローキックを飛び退いて躱すアイゼン。その傍ら、置き土産の投げナイフも忘れない。自身の急所目掛けて飛んでくる無数のナイフ、その全てにティーガーは腕を一振り。たったそれだけで、アイゼンの放ったナイフは一本残らず彼の手に収まっていた。

 徐に、その内の一本を自身の背後へと勢いよく投げた。

 

「うひゃあ!?」

 

 投げられたナイフはティーガーの背後へと回り込んでいたシャルロットの拳銃を貫き、彼女の手から跳ね飛ばした。しかし、それでも勢いは止まらず、そのまま更に彼女の背後に居たバンビーノの拳銃まで貫いてしまった。

 

「嘘ぉ…」

「おまけだ、受け取れ」

「て、ちょッ!?」 

 

 その言葉と共に、残りのナイフ全てがバンビーノ目掛けて飛んでくる。必死の形相で避けるバンビーノを尻目に、ティーガーは再び自分に突っ込んでくる影と向き合う。セイスに匹敵する人外のスピードで迫ってくる今度の影は、銀色だった。

 

「行くぞ兄様!!」

 

 ティーガー直伝の手刀の乱舞を繰り出すラウラの猛攻に、彼は正面から迎え撃つ。小柄な体躯からは想像もできない程に重く、速い一撃の数々。並大抵の相手なら2秒持たないその手刀の嵐を、ティーガーは彼女を上回るスピードで腕を動かし、片腕のみで捌いていた。一部の者には理不尽にも思えるこの光景を前に、しかし彼女は当たり前だと言わんばかりに笑みを浮かべていた。

 まるでセイスと同じように、自分の成長を実感しているかのようで、そして目の前の人物が、自分の師であり、兄であることを誇るかのようで…

 

「ふむ、また腕を上げたな」

「ありがとうございます!!」

「しかし、まだ満点はやれん」

「ぬおぁ!?」

 

 急に足をはらわれ、宙を浮いたところを猫のように襟首を掴まれる。そして、そのままポーンと遠くへ投げ飛ばされてしまうラウラ。

 

「よっこい…」

「せッ!!」

 

 そんな彼女と入れ替わるように、左右からティーガーを挟むようにして回し蹴りを放つアイゼンとシャルロット。二人の全力の一撃、ティーガーは両腕のガードで難なく受け止める。しかし、最初から防がれると分かっていた二人は即座に次の行動へと移った。防がれたことにより勢いが止まり、そのまま重力に惹かれるよりも早く足をティーガーの腕へと足を絡めて関節を決める。

 

「よっしゃそのままぁ!!」

 

 そこへ飛び掛かるバンビーノ。両腕を封じられ、人間二人分の体重により動きを制限された今なら隙だらけ、まさに絶好の好機だろう。しかし、それは相手が人間だったらの話。

 

「あ、無理だコレ」

「ごめん、バンビーノ!!」

 

 ティーガーが絡みついた二人ごと両腕を高く振り上げ、その様子に危険を感じたアイゼンとシャルロットが拘束を解いて飛び退いたのと、ティーガーが両腕を床に勢いよく振り下ろしたのはほぼ同時。あと一歩遅ければ、二人はあのまま床に勢いよく叩き付けられていたことだろう。

 

「え、ちょちょちょちょタンマ、タンマぁ!!」

「断る」

「クソッたれめぇ!!」

 

 その結果、なんの枷も付いてない虎とサシで相対する事になったバンビーノ。彼もまたフォレスト一派が誇る精鋭の一人であり、おまけに相手は一応は手加減してくれている。半ばヤケクソ気味だが、次々と拳打を放って攻め立て、どうにか善戦していた。しかし、やはり相手が悪過ぎるようで、段々と勢いが無くなっていく。そして暫しの応酬の後、逆にカウンターの一撃を打ち込まれ、ブッ飛ばされてしまった。

 

「もういっちょ行くぜ、兄貴!!」

 

 ふと上から迫る気配に顔を上げると、高く跳躍したセイスがティーガー目掛けて踵落しを放ってきていた。咄嗟に両腕を交差して防御の構えを取り、正面から受け止める。先程よりも大きな衝撃と轟音が響き、それに混じって彼の両腕からギシリと骨が軋むような音が鳴った。しかし、それに構わず押し返し、セイスを突き飛ばすようにしながら距離を取る。

 そこへ、再び上からの殺気。

 

「くらえ」

 

 今度はマドカだった。セイスと同じ軌道、同じ動きで、彼女もまた踵落しを放ってきた。セイスの一撃により、まだ少し痛む腕で再びガードするが、思いの外ダメージが大きかったのか、それともマドカの踵落しの威力が大きかったのか、あるいはその両方か、先程よりもはっきりとした痛みがティーガーの腕を駆け抜けた。

 

「そ、こ、だぁ!!」

「ッ!?」

 

 僅かに怯んだ、ほんの一瞬の隙。そこへ遂に叩き込まれた、セイスの一撃。チャンスを逃さない為に速度重視で放ったが、ティーガーの表情を歪ませ、強制的に10メートル程後退させるには十分な威力だった。

 しかし、逆に言えばそれだけ。ティーガーは即座に息を整え、着地したマドカともどもセイスを睨み付ける。先程よりも大きな、それでいて様々な感情が入り乱れた、実に好戦的な笑みを浮かべながら。そのティーガーの笑みを応えるように、セイスもまた笑みを深くし、彼と正面から向き合う。お互い、まだまだ本番はこれからだと言わんばかりに…

 

「……お前ら、やっぱ頭おかしいわ…」

「死にたくないんで帰って良いッスか?」

 

 一方、司令塔のオランジュと、拳銃で援護に徹するセシリア、その傍で死神に突撃するタイミングを掴めず、足踏み状態になってるレインとフォルテ。本来ならこの二人、セイス達と同じようにティーガーに正面切って立ち向かって貰う筈だったのだが、生身での実力に関しては既に一目置いていたフォレスト一派の奮闘と、それと単身で渡り合うティーガーを前にして完全に尻込みしてしまったのだ。

 オランジュとしては少しでも作戦の成功率を上げる為にも彼女達には前に出て貰いたいのだが、このまま無理に説得するより、このまま万が一の為に自分達の護衛でもしてもらおうかなとも思っていた。しかし…

 

「あら、モノクロームアバターの方々も、案外大したこと無いんですのね」

「「あ?」」

 

 突如、隣のセシリアがそんなことを言い出し…

 

「あら失礼、私としたことが、うっかり間違えてしまいましたわ。確かあなた方のチーム名は、モノクローム”アバズレー”でしたわね。腰抜けビッチな貴方達にお似合いな名前を間違えてしまうなんて、どうかしてましたわ、ごめんあそばせ」

「「やってやろうじゃねええええぇぇぇぇかあああああぁぁぁぁぁ!!」」

 

 怒声と共に駆け出す二人は、自ら死地へと飛び込んだ。ティーガーは構わず迎え撃つ体勢を取り、セイス達はそれに合わせて一斉に襲い掛かる。一対八の大乱戦が、再び始まった。

 

「おぉ、怖ッ…」

 

 それは果たして怒れるレインとフォルテに向けた言葉か、それとも言葉だけで二人をあっさり動かしてみせた隣の彼女に向けたものか…

 

「ぼーっとしてる暇はありませんわよオランジュさん、そろそろ頃合いでしてよ?」

「分かってるよ。おい、ハーゼ!!」

「了解」

 

 呼びかけに応え、ティーガーとの手刀の応酬を切り上げてまでオランジュ達の元へと下がるラウラ。そこで彼女は、何やら白い箱らしきものをオランジュから受け取った。

 

「何を企んでいるか知らんが…」

 

 唸るように呟きながらレインの足を払い、フォルテの腕を掴んで投げ飛ばす。アイゼンの飛び蹴りを片手で弾き飛ばし、腹部に踵を落として地面に叩き付ける。突っ込んできたバンビーノの顎に掌底をくらわせ、体勢を崩した彼をシャルロットに投げつける。行く手を塞ぐセイスには、さっきのお返しとばかりに本気の顔面パンチ。一撃で沈んだセイスに目が点になるマドカには、久し振りに脳天目掛けて拳骨を叩き落としてやった。痛みで床を転がりながら悶絶するマドカを尻目に、ティーガーはラウラの元へ殆ど一足飛びで距離を詰めてきた。

 

「全て捻じ伏せるまで!!」

 

 ラウラが箱をオランジュから受け取り、後ろを振り返った時には既にティーガーは間合いを詰めていた。

 何もさせまい、何をされても動じまい、そのつもりで腕を振りかぶるティーガー。対して向き合うラウラはと言うと、本来なら絶体絶命に他ならないこの状況で冷静、淡々と自分の役目を果たした。

 因みに、彼女がオランジュに指示されたことは三つ。

 

 

 その1、呼ばれたらオランジュから例の箱を受け取ること

 

 

 その2、その箱をティーガーの攻撃に合わせ、彼の目の前で開けること

 

 

 その3、ついでに例のセリフも忘れないこと

 

 

 彼女は作戦通り、しっかりと役目を果たした。オランジュから事前に指示されたその全てを、三つとも成し遂げて見せた。その結果、今まさにラウラに一撃を放とうとしていたティーガーの目に何が映ったのかと言うと…

 

 

 

 

 

 

 放とうとした自分の拳の軌道上に差し出された、イチゴショートで作られたクリスマスケーキと…

 

 

 

 

「メリークリスマス、おにーちゃん♡」

 

 

 

 

 天使のような満面の笑みを浮かべながら、甘く囁くようにそんな言葉を放った愛しい妹の姿で…

 

 

「今だ掛かれえええええぇぇぇぇぇぇ!!」

「「「「「「「「よっしゃああああああぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」」」

 

 

 甘党の隠れシスコンの思考を一瞬だけでもフリーズさせるには、充分過ぎる光景だった。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「それでは、勝利を祝って乾杯!!」

「「「「「「「乾杯ッ!!」」」」」」」

 

 場所は移ってホテルの宴会場、集まったフォレスト一派と彼らに招かれた者達はいつもよりお洒落な私服に着替え、それぞれのテーブルを囲んで思い思いの時を過ごしていた。良く飲み、良く食べ、良く騒ぎ、この一年の出来事を肴に心から楽しんでいた。ティーガーとの勝負に唯一勝利したセイス達も例外ではなく、各自飲み物の入ったグラスを片手に勝利の余韻に浸りつつ、いつも以上の賑わいを見せていた。

 

「いやぁ、正直言うと本当に勝てるとは思わなかった。方法は少しアレだが…」

「兄貴が本気じゃなかったとは言え、勝ちは勝ちだ。そこら辺は気にするな」

「え、アレで本気じゃないとかマジっスか…」

 

 セイスとオランジュの呟きに、思わずフォルテが固まった。あれだけのハンデ、そして割と悪質な手段を使ったとは言え勝ったことには勝った。しかし、それでも尚、やはりティーガーと言う男は凄まじかったと、その身を持って理解させられた。理解させられたつもりだったが、彼らの口ぶりからすると、あの時の彼はまだまだ全力を出していないということになる。

 

「そりゃそうさ、今回は宴会の余興みたいなもんだし。それに、実際さっき殆ど自分から動いてなかったろ、兄貴」

「実戦だったら開幕早々に半数が沈黙させられてたろうし、そもそも仕事モードの兄貴だったらケーキごとハーゼ殴り飛ばしてると思うぞ」

 

 故に今回オランジュは、あのようなふざけた作戦でも通用すると判断し、決行した訳だ。因みに彼曰く、もしも本気の本気でティーガーと戦おうとする場合、軍隊一個師団使い潰すつもりで足止めしているところに核ミサイルでも落とさない限り勝てない、下手するとそれでも殺せないとのこと。

 

「だが、さっきも言った通り勝ちは勝ちだ。今は素直に喜んどこうぜ」

「……そっスね…」

 

 そう言って気を取り直し、再び宴に興じる一同。他のテーブルと同じく盛大に飲み食いしながら、それぞれが楽しいひと時を過ごしていた。

 

「む、なんだか料理の味がいつもと違う気がする…」

「あら流石はエムさん、やはり気付きますか。僭越ながら今年のパーティの食事は、オルコット家とデュノア社の伝手で手配した料理人に用意させましたの。お気に召しましたか?」

「あぁ、スコールの用意した奴より美味いな。セヴァス、お前も食ってみろ」

「どれどれ……うわマジで美味い、これはフォークが止まらない…」

 

 余程料理が気に入ったのか、先程からフォークを持った手と、料理を咀嚼する口が止まらないセイスとマドカ。その二人の様子に気を良くしたのか、満足げな表情を浮かべるセシリア。

 

「アイゼン、さっき使ってたナイフ新しい奴だろう。見せてくれないか?」

「いいよ、はい」

「ふむ、やはりコレは良い業物だ。技術部の新作という訳ではないみたいだが、どこで手に入れたんだ?」

「旦那の古い知り合いから貰ったんだ。多分ハーゼも会ったことあると思うけど、アメリカのエドワード爺さんって知ってる?」

 

 ペン回しの様にナイフをクルクルと片手で回転させ、使い心地を確かめるラウラ。そして、そんな彼女にナイフを入手した経緯を説明するアイゼン。互いにナイフの扱い方に心得があり、同じドイツ出身者であり、同じ師を持つこの二人は案の定、気が合うようだ。

 

「おいコラ、リベルテ」

「あまり調子に乗るんじゃないっスよ」

「えぇー、なんのことかなー?」

「しらばっくれるんじゃねーよ、分かってんだろ?」

「別に『抜け駆け禁止』とか甘いこと抜かすつもりは無いっスけどね、ちょっとその余裕たっぷりな態度は頂けないっス。純粋に腹立つっス」

「分かった、気を付けるよ。今度はもう少し、二人にはすまなそうにしながらオランジュに甘えるね?」

「この野郎……ま、良いか。お前がどれだけ頑張ろうが、オランジュの初めてをオレが頂いた事実は変わらないし、なぁ…?」

「……ふん、そんなの関係ないもんね…」

「ちょっと先輩、オランジュさんの初めてって、何の話っスか…」

(あ、やべッ、フォルテに言ってなかったんだこの話…!!)

 

 シャルロット、レイン、フォルテの三人は、何やら黒く禍々しいオーラを漂わせながら、一人の少年を巡って女の戦いを繰り広げる。しかしシャルロットの牽制に苛立ったレインが自爆し、いつの間にか別の修羅場が生まれ始めていた。

 

「おい、お前の女達だろ、どうにかしてこい」

「待ってくれ、色々と待ってくれ、俺の女″達″ってどういうこと!?」

「ワンサマーじゃあるまいし、朴念仁のフリして誤魔化せるとでも思ってんのか。て言うか、どうしてお前ばっかりモテるんだよマジで!!」

 

 目の前の現実から目を逸らそうとするオランジュ、そんな彼に妬みの気持ち9割でヘッドロックを決め、そのままギリギリと締め上げるバンビーノ。

 なんとも騒がしく、賑やかな十人。亡国機業随一の騒々しさを誇るフォレスト一派だが、その中でも彼らは群を抜いていた。マドカの悪戯にセイスが吠え、オランジュとバンビーノが碌でも無い悪巧みを考え付き、ラウラが天然を唐突に爆発させて周囲を振り回し、アイゼンは巻き込まれ、彼ら彼女らの暴走をセシリアが腹黒い一面を覗かせながら火消しに奔走し、それらの光景にシャルロットが苦笑いを浮かべ、そこにレインとフォルテも加わった。互いに互いのことを棚に上げ、そんな日常に対し皆は文句ばかり零す。けれども、素直に口に出さないだけで全員、この騒々しい日常が楽しくて、愛おしくて、大好きだった。いつまでもこんな日々が続けば良いと、全員が思っていた。

 

「おやおや、実に楽しそうだネ、皆」

 

 ふと、そんな一際騒々しい彼ら彼女らのテーブルに一人の女性が近付いてきた。まるで燃え盛る炎のような深紅の髪に、癖のある喋り方。織斑千冬との決闘と言う望みを叶える為に亡国機業へと身を置いた隻腕の戦女神、本日は赤いスーツで決めてきた二代目ブリュンヒルデこと『アリーシャ・ジョセフターク』その人だった。

 彼女は一応、形式上はスコールの下についていることになっているのだが、当の本人にそのつもりは一切無く、織斑千冬と戦うこと以外で動くつもりは無いと公言している。スコールも味方に引き込めただけでも御の字と思っており、彼女の事は対織斑千冬専用兵器として割り切っていた。そもそも彼女を勧誘し、直接交渉してその気にさせたのはフォレストなので、元々強く言えるような立場でも無い。

 なので、フォレスト一派からクリスマスパーティの招待状を受け取り、ルンルン気分で出掛けた彼女を止める者は居なかった。

 

「これはアリーシャさん、京都以来ですわね」

「あの時はお世話になりました、色々な意味で」

「どーも、お久しぶりお嬢さん方。あの時、代表候補生にしては末恐ろしいモノを感じたけど、まさか君達も彼らの一員だとは思わなかったヨ。これからは、同じ仲間としてよろしくネ。それと、君達のことは先輩と呼んだ方が良いかナ?」

「御冗談を、貴方相手にそんな恐れ多い真似は出来ませんわ」

「僕達は亡国機業の一員ですけど、同時に一人のIS操縦者としてアリーシャさんのことを尊敬しています。こちらこそ、どうかよろしくお願いします」

 

 チラリとレインとフォルテに視線を向け、あの二人とは大違いだなと思いつつ、亡国機業に来て以来久し振りにお世辞抜きで敬われ気を良くしたアリーシャ、彼女の表情には自然と笑みが浮かんでいた。

 

「ところで話は変わるんだけどサ、一つ訊いても良いかい…?」

「はい?」

 

 唐突にアリーシャは周囲を探る様にキョロキョロと見回した後、目の前のシャルロットだけでなく、ついでとばかりにその場に居た全員に訊ねた。

 

「……フォレスト一派に、メテオラって居るよね…?」

「え、居ますけど…」

「あの守銭奴がどうかしました?」

 

 アリーシャの口から出てきた名前に、問われた全員が首を捻った。フォレスト一派の経理を担当するメテオラのことは、この派閥に所属する全員が良く知っている。金を稼ぐ才能と執念は組織の中でも随一を誇り、そのとばっちりを周りが受けることもしばしば。因みに、女の子の好みは内気な眼鏡っ娘で、更識いもう党所属。

 そんな彼の名前が、イタリア出身と言う以外に接点が無さそうな二代目ブリュンヒルデの口から出てくるのか、全く分からないのだが…

 

「彼の本名、エミリオだったりする?」

「エミリオ?」

 

 続いて出てきた名前に、再び全員が不思議そうな表情を浮かべた。その反応に、アリーシャも当てが外れたかと思い、心底残念そうに溜め息を吐いた。

 

「そっか、違うのか…」

「あぁいや、そうとも限りませんよ。ただ、実はアイツの本名、全員知らなくて…」

「おじ様なら知ってるかもしれませんけど…」

 

 割とガチで落ち込むアリーシャに、オランジュとセシリアが慌ててフォローに入る。フォレスト一派に限らず、亡国機業に身を置く者達には複雑な事情や過去を抱えた者が多い。セイスやマドカ達のように全て受け入れ、親しくなった相手に自分の全てを明かすケースも多いが、逆に全てを忘れ去ろうと言わんばかりに、親友と言うべき相手にすら死ぬまで何も語ろうとしない者も少なく無い。メテオラもそんな者達の内の一人のようで、自らの過去を滅多に語らず、特に名前に関しては絶対に教えてくれなかった。

 

「参考までに、どうしてアイツの本名がエミリオだと?」

「別に大したことじゃ無いサ。彼が私の幼馴染にそっくりだった、それだけサ」

「「「「「その話、詳しく」」」」」

 

 ラウラを除いた女子5人が、恋話の気配に勢いよく食いついた。あまりの迫力にアリーシャも僅かに怯んだが、『若いって良いね』と苦笑いを浮かべた。

 

「まぁ折角だし、語るのは良いけど、ちょっと男子の前でする内容じゃないなかナ…?」

「おい男子、今すぐに失せろ」

「これから男子禁制、臨時女子会の時間っス」

「3秒以内に消えろ、でなければブッ飛ばす」

「ちょっとお待ちになって皆さん、彼らが居なくなったところで、ここは宴会場。むしろ私達が移動した方が確実且つ安全ですわ」

「という訳で皆、ちょっと行ってくるね。さ、ハーゼもこっちこっちー」

「え、私は別に、って、あ、ちょ待て、引っ張るな…!!」

 

 言うや否や、女性陣はアリーシャと共にあっという間に消えてしまった。取り残された5人の野郎共は、一気に寂しくなったテーブルを前にポツンと立ち尽くしていた。

 

「……で、どうなんだ、エミリオ…?」

「その名前で呼ばないで下さい」

 

 そう、5人の野郎共だ。セイス、オランジュ、バンビーノ、アイゼン、そしてアリーシャが来る直前、何かから逃げる様に彼らのテーブルへと駆け寄り、その下に潜り込んで隠れていたメテオラの5人である。

 

「まったく、幼馴染と呼んで良いのかどうかも疑わしい程に短い、それもお互い凄く幼い時の付き合いだったというのに…」

 

 ブツブツと文句を言いながら、テーブルの下から現れたメテオラは、そのまま椅子にドカッと乱暴に座り、テーブルにあったグラスをとって中身を一気に煽った。あまりお目に掛かる事の無い、露骨に不機嫌そうな彼のこの様子に、セイスとバンビーノ、そしてアイゼンは純粋に驚いた。しかしオランジュだけは、彼がどうすれば良いのか自分でも分からず、途方に暮れているように見えた。

 

「さっきの、アリーシャさんが言ってた幼馴染ってのは?」

「どうやら私と彼女、家が近所にあったようでして、幼い頃は同じ公園でよく一緒に遊んでたんです。と言っても私が5歳の時、1年にも満たない短い間でしたが…」

 

 彼の名前は今日まで知らなかったが、彼がどう言った経緯でフォレストに拾われたのかは知っているセイス達は、アリーシャとの付き合いが1年で終了した理由を察した。

 グラスの中身を呑み干し、空になったグラスを放り捨てたメテオラは、中身の残っている別のグラスに手を伸ばし、再び勢いよく喉に流し込みながら語る。

 

「こっちは家に居たくないから公園に逃げてただけだと言うのに、私を見つける度に一緒に遊ぼうと腕を引っ張って、色々な事に付き合わされました。あの自由奔放な性格に加え、年は向こうの方が上でしたからね、お姉さん気取りの彼女には本当に、随分と振り回されたものですよ…」

 

 空になったグラスを再び投げ捨て、今度は瓶そのものに手を伸ばそうとしたので、流石にセイスが引っ手繰って阻止した。彼は酒に弱い訳では無いが、かと言って特別強い訳でも無い、これ以上飲ませると危ない。しかし、本人は奪われたワインボトルを残念そうに見つめ、結局話を続けた。

 

「本当にしつこくて面倒な方でした、あの人は昔から。こっちがどんなに嫌そうな顔をしても、向こうは笑顔で近寄ってきて、自分が連れて行きたい相手を、自分の望む場所へ一緒に、何度も腕を引っ張って連れて行こうとするんです。余りにしつこくて、いつの間にか、私の腕を掴み、強く引っ張りながら毎日どこかへ連れて行ってくれる、あの人の優しい腕が好きになってました…」

 

 言うや否や、彼はテーブルに突っ伏した。やはり、らしくもなく勢いに任せ飲みまくったせいで、酔いが一気に回ってしまったようだ。それでも、逆に酒が回ったせいか、メテオラは…

 

「親に端金の為に売られてからも、もしかしたら彼女が助けに来てくれるんじゃないか、またあの時みたいに私の腕を引っ張って、こんな場所から連れ出してくれるんじゃないか、そう信じて疑いませんでした。まぁ当時の互いの年齢を考えれば、助けにくるとか無理な話に決まってますけどね。だけど、そう思えるくらいに、私の中で彼女のことが…アリーシャさんの存在は、大きなものになっていたようです」

 

 ロクデナシの親に育てられ、その親に売られた過去を持つメテオラ。既にケジメはつけ、このフォレスト一派を自分の居場所と定めた今でも、過去のことは極力思い出したくない、忌むべき記憶だった。けれども、そんな彼でも唯一、忘れられない思い出があった。それが、あの公園で彼女と過ごした、短くも温かい日々だった。

 

「それにしても、本当にあの人は自由過ぎると言うか何と言うか。こっちはテロ組織の一員、あっちは世界にその名を轟かす二代目ブリュンヒルデ、再会しても碌なことにならないし、そもそも会ったところで向こうは私のことなんて覚えてないだろうと思ったから接触は控えていたのに、勝手に向こうから来るだけじゃ飽き足らず、私の顔と名前を忘れずに幼馴染認定してると来たもんです。彼女が片腕を失ったと聴いた時、会いに行くべきか否か三日三晩悩み続けた私がバカみたいじゃありませんか…」 

「そう言えばお前、アリーシャ・ジョセフタークが片腕を失くした時、医療費と称して洒落にならん額の寄付金を匿名で送ってたな。もしかして、その理由って…」

 

 うつ伏せのまま、今度は愚痴をマシンガンの様に零し始めたメテオラに、当時のらしくない彼の行動がずっと気になってたオランジュがそう問いかける。するとメテオラは顔を上げ、少し気まずそうに、そして照れくさそうな苦笑いを浮かべ、こう答えた。

 

「幼い時の話とは言え、初恋の相手が苦しんでるんです。無視なんて、出来る訳ないでしょう?」

「だそうですよ、アリーシャさん」

「え゛…?」

 

 瞬間、空気が…と言うか、メテオラの身体が固まった。嫌な視線と予感を感じ、恐る恐る後ろを振り返ると、そこには先程女子会と称して居なくなった筈のマドカ、レイン、フォルテ、セシリア、シャルロット、ラウラ。そして、まさか彼も自分の事を覚えていただけでなく、そんな風に思っていたなんて想像だにしていなかったせいか、顔を自分の髪と同じくらい赤くしたアリーシャの姿が…

 

「や、やぁ、久しぶり、エミリオ…」

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁッ!!!?」 

 

 クリスマスに…メテオラにとっては自分の親に売られた日にして、自分を買い戻した日でもあるこの日に、盛大な黒歴史を刻んだ彼は、断末魔のような絶叫と共に逃げ出した。

 




○今回はバトル&宴、そしてイタリアコンビがメイン
○次回の後編は、アリーシャ含めたこの4人娘と、彼女達と関わりを持った彼らの回
○メテオラの過去に関しましては、一昨年のクリスマス活動報告を参考

どうにか今年中に後編仕上げたいところですが、正直言って微妙に間に合わないかも…
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