アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

53 / 66
大分遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。

そして今回、クリスマス編ラストとなります。この話を読んで皆様が思うであろうことは、恐らく二つ。

○サブタイトルに偽りなし
○オランジュ死すべし慈悲は無い


IF未来 戦力過多な森一派のクリスマス編 後編

「あ、兄様!!」

「ハーゼか…」

 

 パーティ会場を一人でウロウロしていたラウラだったが、ティーガーの姿を見つけた途端、飼い主を見つけた犬の如く、あっという間に駆け寄って行った。

 羞恥で顔を真っ赤にさせたメテオラが逃走し、それを追いかけて行ったアリーシャ。そして、それを野次馬根性丸出しで全員が追い掛けたのだが、思いのほか足が速かったメテオラに中々追い付けず、そうこうしている内に皆と逸れてしまった。しかし、大好きな兄を見つけた今の彼女にとって、そんなのは些末なことに過ぎない。

 

「楽しんでるか?」

「はい、お蔭様で!!」

「そうか…」

 

 元気よく答える妹の頭にそっと手を乗せ優しく撫でてやると、彼女は幼い子供の様に満面の笑顔を浮かべ、とても心地良さそうにしていた。もしも彼女に犬みたいな尻尾が生えていたら、千切れんばかりに勢いよくブンブン振り回していたことだろう。自然と、表情に乏しい筈の自分の口元が緩む。

 

「それにしても…」

 

 思い出すのは、先程のゲームと称した模擬戦。あの決着に関しては色々と言いたいことはあるが、結局は自分の弱さが招いた結果だ、甘んじて受け入れよう。しかし、それを抜きにしても彼女達は、特に目の前のこの子は本当に…

 

「本当に、強くなったな」

「ありがとうございます、これからも精進します!!」

 

 初めて彼女の存在を知った時は、心底複雑な気持ちになった。

 

 初めて彼女の姿を目にした時は、他の誰でも無く、自分が守らねばと思った。

 

 初めて彼女に兄と呼ばれた時は、気恥ずかしさと、嬉しさで心が満たされた。

 

「ハーゼ…」

「…?」

 

 越界の瞳の適合に失敗し、欠陥兵器の烙印を押され、いつ処分の命令が下るか分からない毎日に怯えて過ごす彼女の姿は、かつての自分そのものだった。ましてや彼女は、遺伝子強化素体として生み出されるにあたり、自分と同じベース素体を用いて生み出されていた。最早、放っておける訳が無かった。

 そのまま組織に連れ帰ってからは、更に色々なことがあった。当初は、こと戦闘以外に関しては互いに不器用なせいで意志の疎通に苦労したし、人生の殆どを軍事施設の中で過ごしてきたラウラの箱入りっぷりはかつての自分やセイス以上だった。自分だけだったら、間違いなく面倒を見切れなかったと思う。だが幸いにも、自分には厄介で鬱陶しく、とても頼もしい仲間達が居た。

 

『兄貴の妹!? マジで!?』

『銀髪に赤い瞳…本当にそっくりだ……』

『そして兄貴と一緒で強そう…』

『よーしよしラウラちゃん、俺達は君のお兄さんの弟分、つまり君の兄弟分ってことだ。だから、一度で良いから俺のこと『バン兄さん』って呼んでみゴメンなさい冗談です二度と言わないから勘弁して兄貴いいいぎえええええぇぇぇぇぇ!!?』

 

 あの賑やかな連中に囲まれて過ごす内に、彼女を飲み込もうとしていた絶望は綺麗さっぱり消え失せた。自身が手塩にかけて鍛え、更には技術部の協力もあり、メキメキと実力を身に着けていった。仲間達に後押しされた彼女が自分を兄と呼び始めた頃には、自分も彼女のことがすっかり特別になっていた。少なくとも、彼女に『兄』と呼ばれる度、毎回顔が緩みそうになって必死に堪えるくらいには。

 

『兄さん、私は貴方の妹であることを、心の底から誇りに思います!!』

 

 彼女は自身が強くなれたのは兄の…自分のお陰だと言ってくれるが、そんな事は無い。あの日、人間として生きろと手を差し伸べ、あの場所から連れ出したのは確かに自分だ。けれど、それは切っ掛けを与えたに過ぎない。今の彼女は間違いなく、自らの努力と意志で立ち続け、歩き続けている。

 そうとも、今の彼女には自身の意志が、心がある。仲間と共に笑い、時に泣いて、時に怒り、そしてまた笑いながら前へと歩き続ける。そんなお前が、ただの兵器であるものか。誰が何と言おうが私は、私達は声を大にして何度でも言ってやる。ハーゼ、お前は…

 

「やはりお前は、人間だ」

 

 

 そして私の大切な、最愛の妹

 

 

「はい!!」

 

 

 お前の兄でいられることを、私も自慢に思うよ

 

 

「今日は気分が良い。それに形はどうあれ、模擬戦でも一応は私に勝った訳だしな。だからハーゼ、褒美だ。一つだけ、お前の望みを聞いてやろう」

「本当ですか!? では今後は兄様のことを、『おにーたま』と呼ばせて下さい!!」

「それだけはやめろ」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「……見失ってしまいましたわ…」

 

 一方こちら、アリーシャ達とメテオラを追い掛け回していたセシリア。彼女もまた、ラウラと同じく彼らの事を見失っていた。まだ宴は始まったばかり故に、会場には多くの参加者が飲食物片手に互いのテーブルを行き来して、それぞれが思い思いのひと時を楽しんでいた。そんな中を裏方組とは思えない足の速さで逃げ回るメテオラ、そしてその彼を本気出してまで追い掛ける二代目ブリュンヒルデと亡国機業現場組。段々と激しくなる追跡劇が面倒になり、そもそも会場内を走り回るなんて淑女にあるまじき行為自体も今更ながら嫌になってしまい、自然と彼女の足は止まっていた。そしてその場に立ち止まった途端、彼らの姿は一瞬で彼女の前から消えてしまったのだった。

 

「それにしてもメテオラさん、逃げ足の早さも含め、色々な意味で意外でしたわね」

「彼がどうかしたかい?」

「へ?」

 

 ふと零した呟きに返ってきた返事、驚いて思わず振り返る。自身の背後にあったテーブル、その席に一人の初老の男性が座っていた。彼の姿を目にした瞬間、セシリアの顔が喜び一色に染まる。

 

「おじ様!!」

「やぁレディ、パーティは楽しんでるかい? それと、ゲームクリアおめでとう。お陰で、今年一番の面白いものが見れたよ」

 

 亡国機業最大にして最強の派閥、フォレスト一派。その象徴にして頂点とも言うべき男が、そこに居た。

 

「おじ様は、何をしてるんですの?」

「もう散々飲み食いしたからね、ちょっと食後の休憩を」

 

 そう言ってフォレストが指差した先、テーブルの上には英国セレブ御用達しの高級ティーセットが一式、綺麗に揃えられていた。イギリス出身であるにも関わらずイギリス料理が嫌いな彼だが、紅茶に関してだけは食器も含め、英国ブランドを好むらしい。

 

「君も飲むかい?」

「是非」

 

 おじ様と呼び、第二の父として慕う彼からの誘いをセシリアが断る訳もなく、彼女は迷うこと無く席に着いた。テーブルは大きな丸型、対面に座ると離れてしまうので、彼の隣へと並ぶ形になった。そして座ると同時に差し出された、中身の入ったティーカップ。茶葉は、また最近流通が滞り始めたと言われるダージリン、その最上級の品。芳醇な香りを楽しんだ後、ゆっくりと口を付けた。幸せが、口の中一杯に広がった。

 

「おじ様の紅茶、本当に久しぶりです。あぁ、美味しい…」

「チェルシーの淹れた奴には負けるけどね」

「それはそれ、これはこれですわ。それに、この紅茶…」

 

 食後の一息と称して、用意してあった茶器は二人分。使われた茶葉、ダージリンは最近セシリアが入手し損ねてしまい、柄にも無く本気でへこんでしまったのは記憶に新しい。自惚れや勘違いで無ければ、つまりそう言う事なのだろう。

 

「お気遣い、ありがとうございます、おじ様」

「さてさて、一体全体なんのことかな?」

 

 そう言って悪戯っぽく笑う彼は、再び中身の残るカップに口を付けた。

 もしかすると、自分がこのテーブル付近で一人になるのも計算済みだったのかも。そんな風にセシリアが思った矢先、いつの間にか会場の一角が、一層騒がしいことになっていた。喧騒の発生源へと目を向けると、銀髪の麗人とも言うべきオランダ代表候補生と、彼女からマドカを背後に庇うようにして立ち塞がるセイスが何やら騒いでいた。

 

「探したよエム、こんなところに居たのかい!!」

「げッ、ロランツィーネ・ローランディフィルネ…!!」

「嗚呼そんな他人行儀な呼び方はよしてくれ、私のことは是非ロランと……何のつもりかなセイス、邪魔だからどいてくれたまえ…」

「うるせぇよ、この節操無し。前回あんだけボコられたのにまだ懲りてねぇのか」

「ふっ、確かに私はエムを巡って君と決闘した際、見事に負けてしまった。だが言った筈だ、たった一度の敗北程度で彼女のことを諦めはしないと!! あ、それと、次やる時はISを使わせてくれ。やっぱり、君を相手に素手で挑むのは蛮勇を通り越して無謀だった」

「ふざけんな。て言うか、どうせ口説くなら、お前と似た者同士なレインにしとけよ」

「あー、まぁ、うん、確かに彼女とは趣味も話も合いそうだから、私としても仲良くしたい。だけど今は、何やらお取り込み中のようで…」

 

 ロランが指差した先、そこに居たのはオランジュと、彼を取り合ういつもの三人。そして、彼らに詰め寄る赤毛に眼鏡、かつてフォルテのライバルと言われた、見るからに生真面目そうなギリシャ代表候補生。

 

「オランジュにレイン、あなた達が、あなた達がフォルテを狂わせた元凶ねッ…!!」

「いや、ちょ待て、フォルテを亡国機業に誘ったのはレインの方…」

「そうっス、私をこの道に誘ったのは先輩っスよベルベット。オランジュさんには普通に、口説かれただけっス」

「何言ってるのフォルテぇ!?」

「……へぇ、そいつは…」

「……僕も初耳だなぁ…」

「やはりあなたが原因かッ!!」

「誤解だぁ!!」

(良し、今の内に逃げるっス…)

 

 拗れ度二割増しの修羅場で阿呆の叫びが木霊し、その声に反応して思わず足を止めたアイゼン。そして、その彼に気付いたのは、浅黒く焼けた肌と緑掛かった黒髪、あと彼曰く超美脚なタイ代表候補生。

 

「アイゼンさん!!」

「お、ヴィシュヌじゃん、メリークリスマス」

「メリークリスマスです。あの、今年は本当にお世話になりました…!!」

「いやいや、むしろお世話になったのは俺の方だよ。いつも何から何まで、ありがとうね。あ、それとこの前作ってくれた料理…ガパオだっけ、凄く美味しかった」

「ふふっ、喜んで頂けたのなら幸いです。アイゼンさんさえ良ければ、また作りますよ?」

「是非お願い」

 

 少女はアイゼンに対し、見るからに好意を抱いていた。その光景を前にして崩れ落ちる悪餓鬼が一名と、そんな彼を心配して集まる少女(幼女含む)が4名。

 

「ちっくしょー、どいつもこいつも、どうしてアイツらばっかりモテて、俺は全然…」

「バンちゃん、大丈夫?」

「なんか、凄く落ち込んでる。お兄ちゃん、どうしちゃったの…?」

「……ぷーちゃん、ギュッてする…?」

「三人とも、そんなおバカ放っておきなさい。どうせ、暫くしたらいつもの状態に元通りよ。それに、万が一戻らなかったら、その、私が慰めてあげるし…」

「「「「いや、別にいいよ」」」」

「なんで皆で言うのよ、しかもバンビーノまで!?」

 

 いつの間にかメテオラを追い掛け回すのをやめた面々は、それぞれ勝手に盛り上がっていた。他の場所へと視線を向ければ、またラウラが何か変なことを言い出したのか、あのティーガーが困り果てていた。また別の場所に視線を向ければ、遂に逃げるのを諦めたのか、メテオラがアリーシャに腕を引っ張られながら、どこかへと連れてかれてしまった。

 更に周囲を見渡せば、フォレスト一派の誰かが騒いでいる、誰かが怒っている、誰かが泣いている、誰かが笑っている。感情豊かに、人生を謳歌している。

 

「本当、騒々しいですわね」

「賑やかなのは嫌いかな?」

「むしろ大好きです」

 

 少し離れた場所に座り、紅茶片手に眺める実に騒々しいこの光景。彼ら彼女ら一人一人が『未来』を目指して歩む中、幾つもの『過去』を積み重ね作り上げた『今』。その全てが集まり、交わり、一つの結晶となるこの光景が、フォレストは好きだった。彼が好きなこの光景が、セシリアも好きだった。

 

「君も大分染まってきたねぇ」

「これも皆様のお陰ですわ」

 

 憧れの母が父と共に亡くなり、オルコット家当主としての重圧、更には顔も名前も知らない自称親族に付き纏われ、限界を迎えて心が死にそうになった時だった、フォレストが現れたのは。

 彼がセシリアの元に現れた途端、付き纏っていたハイエナの大半が消え失せた。しかも、それだけで無く彼は、母が死んだことにより致命的なまでに傾いてしまったオルコット家を、僅か三日で立て直して見せた。その凄まじい手腕に幼いながらも、畏怖と尊敬の念を抱くのにさして時間は掛からなかった。

 

「レディ…いや、セシリア」

 

 最初は、母の『彼を頼れ』と言う言葉に従っているだけだった。しかし、いつしか彼の背中に、かつて夢見た理想の父の姿を見て、自らの意思でついて行くと決めた。流石に組織入りする事には猛反対されたが、両親の死の真相を知る為に、そして何より彼が身を置く世界に自分も行きたかいが為に譲らず、遂には向こうが折れた。その際、『そう言うところは父親似だね』と言われ、自分の父親に対するイメージがちょっと変わった。

 組織入りしてからは、本当に色々なことがあった。自分のように両親を失った者、自分とは比べ物にならないくらいに重い過去を持つ者、未だ進むべき道が分からない者、様々な人間に出逢った。それらの経験は全て、オルコット家を中心に回っていた自分の世界を粉々に壊した。いや、厳密には、見えなかったものが見えるようになったと言うべきか。

 

『さぁ、おいでお嬢さん、この僕が世界の楽しみ方ってものを教えてあげようじゃないか』

 

 今まで見えなかったものが見える様になり、知らなかったことを知り、より多くのことを感じ取れるようになった。それでもまだ自分の知らないこと、経験したことの無いことは、この世に溢れている。それを知る事が出来たのは全て、この人が居たから。この人が、世界には、まだまだ楽しいことが一杯あるって、教えてくれたから。

 

「楽しいかい?」

 

 

 だからこそ、返事は決まっている。

 

 

「勿論ですわ」

 

 

 自信を持って、そう言える。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「ふぃー、ようやく一息つける…」

 

場所は変わって、ここはホテルの屋上。ベルベットに詰め寄られた挙句、フォルテの爆弾発言のせいでレインとシャルロットにまで追いかけまわされたオランジュは、この寒空の中ホテルの屋上に逃げ込んでいた。

 

「オランジュ」

「うおっ、シャル!?」

 

 その場に体育座りして、ほとぼりが冷めるまで星空でも眺めてようかなと思った矢先、いつの間にか背後に立って居たシャルロット。驚いて思わずその場で跳び上がり、横向きに転んでしまった。そんな彼の様子を見て、彼女は苦笑いを浮かべた。

 

「そんな怖がらなくて良いよ、別に怒ってないから」

「そ、そうか……一応言っとくが、さっきのはフォルテのでまかせだからな…?」

「はいはい、分かってるよー」

 

 そう言ってシャルロットは、彼の隣にゆっくりと腰を降ろした。彼女の言う通り、もう先程のことは本当に怒ってないようで、オランジュはホッと胸を撫で下ろし、改めて座り直す。再び上を向くと、冬空の元、闇夜に輝く星々が視界一杯に広がっていた。そのまま誰も居ない屋上で、二人は隣り合って座りながら、暫く無言で夜空を見上げていた。

 一人は少し気まずそうに、もう一人は、ただ黙って静かに。

 

「僕は後悔してないよ」

 

 そして、最初に沈黙を破ったのは、静かにしていた彼女だった。

 

「なんのことだ?」

「僕はオランジュほど人の心は読めないけど、自分の好きな人が考えてることは分かるんだよ?」

 

 シャルロットのその言葉に、オランジュはビクリと身体を震わせ、顔を夜空から彼女の反対側へと向けた。暫く黙り込んでいたが、再び訪れた沈黙に耐え切れなくなったのか、やがて口を開いた。

 

「IS学園での…表の生活は、楽しいだろ?」

「まぁね」

 

 そう言って思い浮かべるのは、潜入任務の為に学生として潜り込んだIS学園での日々。潜る側にとっても、見守る側にとっても、あそこでの生活は、こちらに負けず劣らず賑やかなものだった。

 

「俺が余計なことしなけりゃあ今頃、その生活がシャルの普段の日常になってた筈なんだ。それに親父さんだって、やり方はともかく本当はシャルのことを…」

 

 そして何より、その場所で彼女は楽しそうに笑っていた。自分が彼女を守るつもりで手を出した結果、心の底から笑顔を浮かべることができたであろうあの場所での未来を、自らの手で奪ってしまったのでは無いか。ずっと、そう思っていた。ずっと彼女の本音を読み取るのが怖くて、彼女の顔を直視しないようにしていた。彼女が、自分に出逢ったことを後悔しているんじゃないかと、確かめるのが恐かった…

 

「結局のところ俺は、シャルを鳥籠みたいな場所から逃がしたつもりが、別の鳥籠に、それも前よりも薄汚いボロ籠に放り込んだだけだったんじゃないかって、そう思って…」

「鳥籠と呼ぶには、この場所は少し自由過ぎるかな」

 

 覚悟を決めて零した懺悔と後悔の言葉に対する返事は、随分と軽いものだった。思わず沈黙し、二人の間に再び静寂が訪れる。しかし、今更後戻りできず、オランジュは言葉を続けた。

 

「こんな物騒な世界に身を投じることも、命懸けの命令を聞かされることも無かった」

「無人機の襲撃や福音戦で思い知ったけど、命を懸けるべき瞬間って、誰にでも訪れるみたいだよ?」

 

 しかし、その悉くを

 

「リベルテなんて偽名を名乗らされることも、親御さんから貰った大切な名前を…」

「僕の本当の名前を知っていて、尚且つ呼んでくれる人がちゃんと居る。それだけで、僕は満足だよ」

 

 彼女はひとつ残らず

 

「折角できた友人を笑顔で騙し続けるなんて真似をすることも、無かった筈で…」

「確かに学園の皆は大切な友人だよ。でも、背中と命を預けられる仲間と家族が居るのは、この場所だけ」

 

 否定した

 

「あの時の僕には、選択肢なんて無い筈だった」

 

 今でも鮮明に思い出せる、あの日の出来事。母が死ぬまで一度も会いに来なかった父親、その部下に連れられてデュノア社に赴き、今後について話があると言われて部屋に通されてみれば、社長室の椅子に座っていたのは父では無く、行き倒れていたところを助け、一週間ほど一緒に生活していた彼だった。

 そして、驚いて呆ける自分に向かって、ただ一言。

 

―――お前は自由だ、自分の好きなように生きろ―――

 

「用意された選択肢の中には確かに、平和に暮らす道もあったけど、それでも敢えて僕はこの道を選んだ。この道こそが僕の望んだ未来に繋がるって、僕自身が思ったから。だから、後悔なんてしてないよ」

 

 彼が立ち去った後、その場に残された自分は、彼がデュノア社を乗っ取ったこと、そしてその動機が自分を助ける為だったことを父から聞かされた。

 自分を縛るものは無くなり、一人で生きていく為に必要なものは全て彼が用意してくれていた。面倒なしがらみもなくなり、父の本音も聞くことが出来た。彼の言う通り、自分は晴れて自由の身だ。なのに、何故か心は一向に晴れない。家に帰っても、趣味に没頭しても、滅多にできない贅沢をしても、胸にポッカリと穴が空いたように、ただただ虚しいだけだった。

 理由は、何となく分かっていた。解決する方法も、見当がついていた。世間的にも、個人的にも、あまり褒められるような選択では無いと思うし、結果的に彼の苦労を無駄にすることになる。けれどやっぱり自分の隣には彼が必要だった、何より彼の隣に居たかった。それに自分が自由の身であることは、他でもない彼自身が保証してくれている。

 

 

 だから彼の言う通り、好きに生きる事にした。

 

 

「それでも、私の人生を変えたことに負い目を感じるって言うのなら…」

 

 

 チュッと言うリップ音と同時に、ふと頬に感じた柔らかく、優しい感触。一瞬の間を空けた後、頬にキスされたと理解して思わず振り向いた瞬間、彼女に両手で挟むようにして顔を抑えられた。決して目を逸らせないまま、互いに正面から見つめ合う形になった二人。彼が彼女の心の内を知るには、それだけで充分だった。そして、彼が何かを言うよりも早く…

 

 

「男として、最後まで責任とってね?」

 

 

 彼女の唇が、彼の口を塞いだ。

 

 

 




○実は両想いの二人
○阿呆が行き倒れていたのは仕事中に訪仏していた際、よりによってオコーネル社に狙われて本気で死に掛けていた
○アイアンBBAとオータム、どうせ来ないだろうと判断され、今年は招待状貰えず
○確かに貰っても行かないけど、招待状が送られてこなかったら来なかったで少し悲しかった
○ISAB勢の設定(↓)

・ロランツィーネ
 任務中に黒騎士を駆るマドカを目撃して一目惚れ、彼女を百人目の恋人にするべく追い掛けてきた。尋常じゃない執念の元、自力で亡国機業とコンタクトを取り、フォレストに気に入られてそのまま組織入り。初日から早速マドカにアプローチするもセイスに阻まれ、手袋を叩き付けたは良いが、彼のことを全く知らなかったのが彼女の不運。かつてない程に機嫌の悪くなったセイスによる、手加減の手の字も無い男女平等パンチによって一発KOとなった。でも懲りてないし、諦めてない。そして当然ながら、マドカには苦手意識を持たれてる。

・ベルベット
 かつてライバル関係にあったフォルテの裏切りに対し、複雑な思いを抱えていたところ、偶然にも街中で本人とばったり遭遇。ただ、その時のフォルテが彼女を含めた三人の少女を侍らすハーレム野郎と一緒にラブコメってたことが彼女の琴線に触れたらしい。怒りと嫉妬、その他諸々の複雑な感情を爆発させた彼女と、そんな彼女を相手にしたフォルテ達よるIS4機の激闘は街を半壊させたとか。その後、経済破綻したギリシャをフォレストが掌握し、ギリシャ政府が親睦の証と称して勝手に彼女の身柄を送り付けてきた。時期的なこともあって、今のところ組織の仕事は任されたことは無く、代表候補生として普通に過ごしており、フォレスト派との交流は今回が初めて。

・ヴィシュヌ
 亡国機業アジア支部ことトウ派は、中国と台湾、そして日本を除くアジアのIS業界を牛耳っており、タイもその中に含まれていた。そして勢力を拡大し続けるフォレスト派に危機感を募らせたトウ派は、対抗して戦力の増強に踏み切り、影響下にある国のIS、そしてその操縦者の強引な引き抜きを試みた。ヴィシュヌも目を付けられ、トウ派の圧力に屈した政府に従い、専用機ごと引き渡される筈だった。しかし、彼女の両親はタイの国王様と友人同士。国王様は、フォレストの旦那と友人同士だった。幹部会を動かし、どうにか彼女の身柄をトウ派でなく、フォレスト派が預かるという事に落ち着いた。とは言え、その決定にトウ派が納得する訳もなく、フォレスト派の手に渡るくらいなら殺してしまえと、彼女に刺客が差し向けられることに。その際、彼女の護衛を担当し、トウ派の魔の手から彼女を守り続けたのがアイゼンだった。ベルベットと同じく、まだ直接組織の仕事を手伝ったことは無い。

・オニール&ファニール
 アイドル活動中に悪質なストーカー、更にはIS目当ての犯罪組織に同時に狙われてしまい窮地に。そこへライブを見たいと言い出したルナと、彼女の御守りで同行していたバンビーノが出くわし、成り行きで救出された。因みに、このクリスマスパーティの三日前の出来事である。そして彼女達のクリスマスライブの会場は、森一派のパーティ会場のすぐ近く。そしてそして彼女達を招待したのはルナちゃんで、しかも細かい説明無し。つまりこの二人、亡国機業のメンバーでもなんでもない上に、自分たちがテロリスト達の集会に参加してることに気付いてない。

・クーリェ
 孤児院出身、人には見えない友達…ゴーストフレンズが居るとか、もうアイ潜にうってつけじゃないかこの娘と思わずにはいられなかったロシア予備代表候補生。孤児院が森一派の経営下にあったことにすれば、もう細かい説明は不要。森一派の連中とは全体的に仲が良いが、特にルナとバンビーノに懐いている。因みに最近、ゴーストフレンズに学園のホラーコンビが加わったとの噂が。


この世界線の話、思いのほか書いてて面白かったです。次は本編かコタローの方の続きを書こうと思ってましたが、その前にもうちょっとだけこの戦力過多編、その学園での話を書いてみようかな…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。