「絶対に織斑君が良いわよ、なんたって千冬様の弟なんだから!!」
「いやいや、実力的に考えて絶対にオルコットさんの方が相応しいわ!!」
「そうよそうよ!!」
「えー、でも折角学園唯一の男子が居るんだよ、勿体無くない?」
「それとこれとは別でしょ!!」
IS学園、一年一組の教室。そこは今、記念すべき学園生活一日目にありながら、隣の教室にまで響く程の大きな喧騒に包まれていた。その原因は、クラス代表の選定。担任の織斑千冬が自薦他薦を問わず立候補する者を求めたところ、クラスの意見が真っ二つに割れたのである。
その片割れは世界唯一の男性IS適合者、元ブリュンヒルデの実弟、織斑一夏。当の本人は、まさか自分が推薦されるとは欠片も思ってなかったようで、この状況にひたすら戸惑っていた。そして…
―――パンッ!!
ヒートアップしていた生徒達による、喧騒の中ですら良く響いた、手を叩いた音。騒いでいた者は思わず口を閉ざし、教室に静寂が戻ると同時に視線が一か所、先程の音の発生源へと集まる。
視線の先、音の発生源…両手を合わせ、ただ静かに座る金髪の少女、イギリス代表候補生にして入試主席であるセシリア・オルコット。クラス代表としての推薦票を、織斑一夏に倍近い差を付けて獲得した彼女は周りが静かになったことに合わせ、ゆっくりした動きで手を挙げた。
「少し、よろしいでしょうか?」
「良いだろう」
担任の許可を得たセシリアは、いっそ目惚れるような優雅な動作で席を立ち上がり、咳払いを一つ。そして彼女の一挙一同に一年一組の全員の視線が集まる中、彼女は静かに、それでいて良く響く綺麗な声で皆に語りかけた。
「まず、この私をクラス代表に推してくれた皆様、ありがとうございます。しかし同時に、ひとつ皆様にお訊ねしますが…」
改めて周りを見渡した彼女は、問う。
「皆様の中に、私がISを纏っている姿を見たことのある方は、いらっしゃいますか?」
彼女の問いに一同は、互いを窺うようにして顔を見合わせ、ただ口を閉ざした。そして、セシリアの問いに是と答える者は、誰も居なかった。
「結構。それでは逆に、織斑さんを推薦なされた皆様、彼がISを動かしている姿を実際に見たことのある方は、いらっしゃいますか?」
二つ目の問いに対しても、反応は同じ。その問いに答える者も居なければ、その問いの真意を理解できる者はクラスメイトの中には居らず、織斑一夏を含めた全員が戸惑いを見せた。
「でしょうね」
その様子にセシリアは溜め息を零し、肩を竦めた。どう見ても相手に対して呆れていると言わんばかりの仕草の筈なのだが、彼女がやると優雅さが際立ち、不思議と見る者に嫌味を感じさせない。その動作で再びクラスの視線を集めた彼女は、引き続き言葉を続ける。
「つまり現状、私と織斑さんの実力を正確に知っている者は誰も居らず、代表に推薦するに辺り、お互い肩書き以外参考にできるものが存在しないと言うことになりますわね」
「オルコット、何が言いたい?」
口ではそう言うが、千冬は薄々と彼女が言いたいことを察していたものの、敢えて彼女に最後まで語らせることにした。それを知ってか知らずか、セシリアはにこりと笑みを浮かべ、再び口を開く。
「実は私、実家の都合で度々学園を空ける可能性があるのです。その事を考えますと申し訳ありませんが、あまり重要な役職を任せられても全う出来る自信がありません。ですから、代表の座は織斑さんに譲ろうと思います」
『しかし』と言葉を続け、視線を一夏へと向けた。セシリアの蒼く静かな視線が、真っ直ぐに彼を射竦める。視線を向けられた当の本人は、不思議とその瞳から目を逸らすことが出来ず、同じようにジッと見つめ返し、ホームルームや先程までの上の空の状態とは違い、しっかりと彼女の言葉に意識を向けていた。
「クラス代表とはその名の通りこのクラスの顔、代表戦等の結果はそのまま私達のイメージとして定着します。良いイメージも、悪いイメージも全て、ずっと。それを大した理由も根拠も無く勝手に期待して、完全なIS初心者に押し付けた挙げ句、彼の出した結果如何によっては不満を抱き、推薦したことを後悔する。それは些か、身勝手が過ぎませんこと?」
セシリアの言葉にクラスの大半、特に一夏を推薦した者は思い当たる節があるのか、バツが悪そうにしながら顔を伏せた。セシリアを推した者も、自分達がただのミーハー染みたノリで彼女を推薦したことを今更ながら恥ずかしく感じ、決して少なくない人数が同じように俯いていた。
確かに彼女の言う通り、自分達はクラス代表と言う役割と、その責任を軽く考えていた。二人の具体的な実力も知らず、相手の事情も碌に考えず、こんな適当な流れで決めて良いものでは無い。
とは言え、クラス代表を決めなければならないのは変わらない。代表の役割と、それを選ぶことに対する責任を改めて理解した今、先程のように軽い気持ちで誰かを推薦することも出来なければ、自分で名乗りを上げる事も出来ない。どうすれば良いのか分からなくなり、四方八方へと彷徨っていたクラスメイトたちの視線が、再び彼女の元に集まったのは、ある意味自然な流れだったのかもしれない。
「先程も言いましたが私は実家の事情がありますし、織斑さんの実力を知らないのは私も皆様と同じ。このまま彼にクラス代表を任せて良いのか、多少無理してでも私が立候補するべきなのか、それを判断する材料があまりにも少ない。なので織斑さん」
ただ静かに一夏を見つめ続けていたセシリアの目が、スッと細くなる。まるで獲物に狙いを定める狩人のようなものに変わった彼女の視線に、一夏は思わず身体をビクリと震わせた。どうして彼女の視線にそんな反応をしてしまったのか戸惑う一夏を余所に、クラス中の視線と意識を集めた中、彼女は微笑を浮かべながら静かに、そしてハッキリと告げる。
「決闘ですわ」
◇◆◇
「という訳で当日、データ収集しっかりお願いしますわよ、セイスさん」
『了解。それにしても、どこぞの阿呆専門と違っていつも慎重なお前にしては珍しいな』
「あら、そうですか?」
学生寮の一階、セシリアの寮室。記念すべき学園生活一日目を終わらせ、実家から持ち込んだお気に入りの椅子に腰かけ、紅茶片手に今日の出来事を無線機越しにセイスへと報告する彼女は、どこか御機嫌な様子だった。
「学園の役職に動きを制限されたくないのは本当の事ですし、こんなに早い段階で織斑一夏のデータが手に入るんですのよ。しかも私を差し置いてクラスの3分の1もの支持を集めた織斑一夏を学園公認の元ボコボコに出来る上、彼を支持した節穴共の目も覚める。まさに一石四鳥、何か問題があって?」
『絶対に後半二鳥が主だろ、決闘の理由…』
世界初の男性IS適合者、織斑一夏。その存在は、今後の世界を左右しなねない大きな可能性を秘めている。あらゆる勢力が彼の身柄を確保しようと既に動き始めており、それはコードネーム『レディ』ことセシリアが、そしてセイスが所属する亡国機業も同じだ。しかし今はまだ時期尚早、織斑一夏の本当の利用価値を見定めるまでは、監視とデータ収拾を主軸にして行動することが決まった。
「とは言え、やはりおじ様のようにはいきませんわね。おじ様なら、一日でクラスどころか一学年まるごと掌握出来たでしょうに…」
『俺から言わせれば、ただのイギリス代表候補性が世界唯一のIS男性適合者、しかもブリュンヒルデの弟相手に多数決で圧勝しただけ凄いと思うんだが…』
その役目を担う者を決める際、白羽の矢が立ったのが一夏と同世代であり、表の顔として代表候補生の肩書きを持つセシリア達だった。入学すれば同学年、更に彼女達の実家と国の力を用いたことにより、同級生としての立場も手に入った。こうなってしまえば、いつでも接触し放題である。おまけに、この学園に送り込まれたのはセシリアとセイスだけでは無い。
「お邪魔しまーす」
日用品などの入った荷物を手にこの部屋へと入ってきた彼女、フランス代表候補生の肩書きを持ち、デュノア社の令嬢でありながら、同社のテストパイロットを担うシャルロット・デュノア。彼女もまた『リベルテ』の名を持つ、セシリアと同じ亡国機業フォレスト派のエージェントである。
因みに彼女、一夏達とは別のクラスで、一年三組所属となっている。クラスメイトとして一夏と接触することが主な役割のセシリアに対し、学園全体に探りを入れることを担当するシャルロットとしては、その方が動きやすいらしい。現に、その人当たりの良さで既に大半のクラスメイトと交流を持ち、独自の情報網を着々と築き上げているところだったりする。
「お邪魔も何も、今日から貴方もこの部屋で暮らすんでしょう、シャルロットさん」
「あ、そっか。じゃあ、ただいま……やっぱ違和感しかないや…」
「そうだな。やはり我々にとって帰る場所とは、皆が居るいつもの場所と言うことだろう」
「ですわね」
今の彼女達3人にとって、真の居場所とは亡国機業、フォレスト一派。例えこの先に何が起ころうと、きっとそれだけは変わらないだろう。全員、闇社会と呼ばれるこの世界に、大切なものを作り過ぎた。今更かつての日常に戻れないし、元から戻る気も無い。この世界に足を踏み入れたのも、残り続けようとするのも全て、自らの意思だ。
「「『うん?』」」
そこで、ふと気付く。この部屋に居るのはセシリアと、今しがたやって来たシャルロット。会話には無線越しにセイスが参加していたが、彼を含めても一人多い気がする。ちらりと視線を横にずらしてみると、学園の制服に身を包んだセシリア達と違い、動きやすそうなシャツとズボン、左目に眼帯を身に着けた、小柄な銀髪少女がいつの間にか現れていて…
「ハーゼさん!?」
「何で居るの!?」
亡国機業フォレスト一派所属のエージェント、ティーガーの妹こと『ハーゼ』。ドイツ軍によって生み出され、かつてラウラ・ボーデヴィッヒと言う名で呼ばれていた遺伝子強化素体の少女は、部屋のベッドに腰掛け、驚くセシリア達の様子に首を傾げていた。
「何だお前ら聞いてなかったのか、私もセイスと同じく裏方組として二人のサポートを…」
「いや、それは知ってますわよ」
「そのサポート組が何で寮室に来ちゃってるの、ってこと!!」
「狭い、暗い、暇」
当然の疑問に即答で返ってきた、あんまりな理由。いっそ清々しい程の堂々とした態度に、セシリアは頭痛でも感じるかのように頭を抑え、シャルロットは苦笑いを浮かべた。基本的に素直で良い子なのだが、生まれた時から特殊な環境で育ってきたことに加え、フォレスト一派の濃い連中に囲まれて過ごしたせいか、このようにハーゼ…ラウラは他のメンバーに比べ少し天然なところがある。実力はフォレスト一派の中でも指折りなのだが、彼女のこれは当分直りそうに無い。
「学園の人に見つかっちゃったらどうするのさ」
「そんなヘマを私がすると思うか。ステルス装置は常備しているし、部屋の付近は常に監視されている。それに、いざとなったら…」
そう言って、ラウラは部屋の床を指差した。それにつられ、シャルロットとセシリアが目を向けると…
「おい、ハーゼぇ!!」
床下の物置のようにパカッと開き、中からセイスの上半身が出てきた。
「てめぇ、何してるんぐはぁ!?」
「何してるは此方のセリフですわ」
蓋のように開かれた床の一部を後ろからセシリアが蹴りつけ、強制的に閉じられようとしたそれがセイスの脳天に直撃。彼は一度そのまま地下へと沈み、部屋の床も元に戻ったが暫くすると再び、今度はゆっくりとした動きで床の扉が開かれ、セイスが顔を覗かせた。
「いや、組織から届いた物資とか届ける度に学園内をメタギアするのが面倒くさくて。あと有事の際、お前らの脱出用に…」
「だったらせめて、事前に伝えといてくれない?」
今回の潜入任務の際、サポート組の拠点を学園内に作るのは知っていたが、まさかこんな近くに、それも床下に寮の部屋と直通で作るとは思わなかった。さっきラウラが自分達に気付けれずに現れることができたのも、コレが理由だろう。まぁ確かに彼の言う通り、大抵のことは無線で済ませられるが、どうしても直接顔を合せなければならない時には非常に重宝するだろうし、いざと言う時の脱出経路はありがたい。
「まったく……取り敢えずいつまでもそんなところに居ないで上がりなさいな、お茶くらい出しますわ」
「え、いや。一応まだ、やる事が残ってるんだけど…」
「貴方のことですから、少し休憩するくらいの余裕はあるでしょう。それに、やっぱり気の許せる者同士の会話とは、人数が多ければ多いほど楽しいものです」
「そうか。そんじゃあ、お言葉に甘えまして」
言うや否やセイスは、のそりと部屋に上がり込んだ。それに続くようにして、マドカもまた床下から身を乗り出して…
「なんでエムさんまで居るんですの!?」
「ちっ、バレたか…」
普通に現れたせいで、逆に反応が遅れてしまった。ラウラはともかく、流石に彼女がここに居るのはおかしい。ついさっきまで背後に立たれていたのであろうセイスですら本気で気付いてなかったようで、彼女の登場に心底驚いている。
「マドカ、マジでお前いつの間に…」
「セヴァスの居る場所に私在り、それ意外に理由が必要か?」
「いや、その理屈はおかしいと思う」
かつて、フォレスト一派と対を成す存在と言われたスコール派。そのスコール派の若きエース兼ウルトラ問題児として名を馳せる黒髪の、どこか世界最強を連想させる顔つきの少女、コードネーム『エム』こと、織斑マドカである。
「とは言え、どうせまた姉御と揉めたか、仕事面倒くさくなってサボりに来たんだろ」
「失敬な、今回はちゃんと仕事で来たんだ」
「仕事?」
基本的にスコール派のメンバーとはそりが合わず、常に険悪な状態。隙あらばスコールの元から逃げ出そうとして、いつもセイス達の元へと足を運ぶ彼女。今では、フォレスト一派にとってもすっかり顔馴染みの存在となっており、セシリア、シャルロット、ラウラの森一派三人娘とも良好な関係を築いていた。時には仕事をぶっちしてまで来る時があるのだが、どうやら今回は違うようだ。とは言え、仕事で来たと言うのなら尚更、ここに来る理由が分からないのだが…
「私も裏方組に配属された、そして拠点はお前らの隠し部屋を使わせて貰うことになってる」
「は?」
それは流石に予想外過ぎた…
「待って待って、なに、どういうことなの?」
「もしやエムさん、遂にあの売女…もとい、スコールさんの元から私達の派閥に移籍するんですの?」
「残念ながら違う」
本当に残念そうに言うマドカだったが、それでも少しだけ嬉しそうに、ここに来た理由を語り出す。
「許可貰ったから色々とぶっちゃけるが、実はお前らよりも先にスコールの子飼いがIS学園に潜入してるんだ。しかも学生として、2年も」
「え、ってことは今三年生なの?」
現在、フォレスト派とスコール派は同盟関係を結んでいるが、かつては逆にライバル関係であった。その為、利害の一致で同盟を結んだ際も、互いに手の内を全て明かすような真似はしなかった。だから、向こうが何かしらの隠し玉を持っていても何ら不思議では無いのだが、まさか此方がやろうとしていることを既に向こうが、それも万年人材不足のスコールがやっているとは思わなかった。
「なんでもそいつ、お前らフォレスト派が学園潜入任務を実行するにあたって、万全のバックアップ体制を整えていると知った途端にゴネ始めたそうだ」
某アメリカ代表候補生曰く
『オレずーっと一人で頑張ってるのに、向こうは入学の時点で二人、しかもサポーターも一人ずつ付くとか、ずるくね? オレにもサポーターくらい付けるとか、せめてフォレスト派の連中に、ついででも良いからオレのことも支援してくれるよう頼むとかしてよスコールおばさん。え、隠し玉であるオレの存在をフォレストに教えたくない? どうせバレてるだろ、今更意味ないって。フォレストに借りを作りたくない? 元から一つ二つ増えた程度じゃ変わらないぐらい借りだらけじゃん。面子の問題? スコールおばさん、最近周りに『森の寄生虫』って呼ばれてるの知ってる?』
などなど少し同情したくなるくらい、的確にスコールの心を抉る言葉の数々が出るわ出るわ。遂には口だけで彼女に膝を付かせ、涙を流しながら『もうやめて、私のライフはゼロよ!!』と許しを請わせたとか。
正直な話、最近のスコール派の状況は、全くもってよろしくない。同盟を結んだ当初は、組織内でも貴重なIS戦力の提供を対価に、フォレスト派の人材を貸し出して貰い、あわよくばそのまま引き込んでしまおうと画策していた。していたのだが、この短期間でフォレスト派がISと操縦者、その両方を三機分も手に入れてしまった。おまけに、その過程でイギリスの名門オルコット家と、フランスに名立たる大企業、デュノア社まで手中に納め、今やフォレスト派の組織力は、亡国機業随一となった。ぶっちゃけ、スコールが用意できるものは、フォレスト派でも用意できるし、逆にフォレストに用意できて、スコールに用意できないものは山ほどあり、已む無くそれにあやかったのも一度や二度の話では無い。つまり、この二つの派閥による同盟関係は現在、お世辞にも対等とは呼べない形となっていた。
貸しを作るどころか、借りが増えていく一方の毎日。スコール自身も、周りにどう思われているのか薄々分かっているのだが、それでも尚、最後に残った意地とプライドがフォレストに頭を垂れることを彼女に拒ませていた。なので、有能で可愛い姪に改めて現実を突きつけられ、泣かされても、これ以上フォレストに借りを作るのだけは嫌だった。なので、人材不足な派閥の中から吟味に吟味を重ね、実力はあるけど何かと問題を抱えており、普段の仕事をさせる分には使い勝手が悪い奴を送り込むことにした結果…
「支援担当に私を送り込むことで妥協したらしい」
「俺達の設備を使うのは借りにカウントされねーの?」
「有事の際は私もお前らに手を貸す、という事でフォレストには手を打って貰った」
「そのこと、姉御は知ってるのか?」
「事後承諾」
余談だが、この事を知ったスコールはその夜、拠点にしているホテルの屋上で怒りの雄叫びを上げた。
「それと私が来た理由はもう一つある、お前だハーゼ」
「え、私か?」
セイスとシャルロットが軽くスコールに同情する中、マドカはラウラを指差してそんなことを言い出した。これには御使命を受けたラウラだけでなく、セイスですら首を傾げた。
実を言うとマドカとラウラ、この二人はかなり仲が良い。出会った当初は、初対面の相手に対して基本的に辛辣なマドカが相変わらずの塩対応を見せたが、超天然のラウラには一切通じず、逆に毒気を抜かれてしまった。初めてISによる模擬戦を行った際も実力が拮抗し、その点でも互いに一目置くようになり、それ以来二人は良くつるむようになった。性格も似たようなところがあり、元から気が合う性質だったのか、今ではセイスの次くらいに一緒に居る時間が長いかもしれない。
「ハーゼ、お前は良い奴だ、それに気の合う友達だと思っている。そんなお前だからこそ…」
そんなラウラの両肩に、ガッと掴むように自身の両手を置くマドカ。そして、顔を超近距離にまで近づけ、ビビるラウラに構わずこう言い放った。
「私を差し置いて、あんな狭い部屋で三年間もセヴァスと二人きりで寝食を共にするとか断じて許さん。むしろ私と代われ、この泥棒兎!!」
ラウラはずっこける様に脱力し、セシリアとシャルロットはセイスに目を向ける。彼は両手で顔を抑え、その場で蹲っていた。
「だから、私はセイスをそう言った目で見てないと言っているだろう!!」
「今はそうかもしれない。だが想像してみろ、セヴァスだぞ、あのセヴァスなんだぞ。普段ぶっきらぼうな癖に、実は凄く優しくて、一途で、格好良いセヴァスだぞ。暗部の当主だろうがCIAのエージェントだろうが、絶対に惚れること間違いなしのセヴァスだぞ。そんなセヴァスと三年も一緒に生活してお前、その平たい胸に何も芽生たりしないと断言できるのか!?」
「喧嘩売ってるのなら買うぞ貴様」
言ってはならぬ単語を引き金に始まった、五十歩百歩なスタイルの二人によるキャットファイト。割と良く見掛けるこの光景から、再びセシリア達がセイスに視線を戻すと、彼は先程の体勢のまま耳を真っ赤にして悶絶していた。
「まぁ、おじ様が許可を出したと言うのであれば、こちらも異存はありませんわ。何より、自ら馬に蹴られにいく趣味はありませんし」
「それに正直な話、エムも一緒っていうのは僕達としても嬉しいからね。セイスなんて特に喜んでるんじゃない?」
「うるせぇ」
ニヤニヤしながらそんなこと言ってくる二人に、顔を赤くしたセイスは一言そう返すので精一杯だった。
マドカとセイスが相思相愛であることは、フォレスト一派の全員が知っている。そして、とある事を切っ掛けに二人が正式にお付き合いを始めたことは、亡国機業全体に衝撃を与えた。組織入りしたばかりの幼少の頃から互いに互いを理解者と認め、派閥を超えて行動を共にしていた二人。初めこそ確かに、そこに恋愛感情は存在していなかった。しかし決して短くない時間が、いつも共に居る事が当たり前になっていた日常が、二人の間にゆっくりと、着実にそれを育んでいったのだ。そして悪戯合戦を繰り広げる傍ら、無自覚にイチャついていた二人が一度自覚してしまえば、後は凄ぇ早かった。
「あぁもう、仕方ねぇな…」
暫く羞恥で悶絶していたセイスだったが、やがてゆっくりと立ち上がった。そして乱闘の果てにラウラにヘッドロックされ、どうにか抜け出そうとジタバタと暴れるマドカの元へ近寄る。そのまま、彼女の耳元へと顔を近づけ、囁くようにこう言った。
「俺が愛してるのは、お前だけだよ、マドカ」
ボンッと音を立てながら顔を真っ赤にしたマドカは、そのまま床に座り込むように脱力し、ラウラが拘束を解くと同時にコテンと横に倒れて静かになった。
○初っ端から本編よりも戦力過多
○初っ端から姉御が残姉
○今シリーズのマドカ
根本は本編と変わっていないが、ラウラの存在が全てを変えた。自分と違ってセイスと同じフォレスト派に所属する故に、彼と行動する機会も多く、しかも仲間として良好な関係を持つラウラの姿を見て謎の焦燥感と嫉妬を覚えた彼女は、その理由を考えた。結果、かなり早い段階で恋愛感情を自覚し、悩むより行動派の彼女は迷う事無く突撃ラブハート。自覚してないだけで元から互いに相思相愛だった二人の悪戯合戦が、惚気合戦に変わるのに時間はそう掛からなかった。
しかし一度意識したらしたで独占欲が半端ない癖に、普段の素直じゃない性格が災いして、ストレートでキザな愛情表現に対して殆ど免疫が無い。なので、よく勢い任せに小恥ずかしいことを二人して口走るのだが、いつも後になってから互いに自分と相手、両方の言動で赤面しながら悶えている。