アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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お待たせしました、続きです。

修羅場前哨戦、スタートです。


IF未来 戦力過多な森一派のIS学園 その5

 

「まぁ、その、アレだ。元気だったか…?」

「お、おう…」

「そうか」

 

 IS学園整備室の前で向き合うのは二人の男女。一人は美しい金髪と、既に完成された美貌を持つ少女、アメリカ代表候補生にしてIS学園三年生、ダリル・ケイシー。もう一人はビジネススーツを身に纏い、彼女とはまた違う毛色の…狐色の金髪の青年。彼はデュノア社所属、テストパイロットであるシャルロット・デュノアの専属スタッフ、名を『オランド・J・レノン(自称21歳)』と言う。

 

「そう言うお前は?」

「俺? あー、変わりないな」

「そうか」

 

 しかし、その正体は世界を又に掛けて暗躍するテロリスト集団、亡国機業のエージェント。それも、実働部隊でありながら幹部クラスの力を持つフォレスト、その彼の弟子であるオランジュと、長い間フォレスト派と敵対関係にあったスコールの秘蔵っ子、レイン・ミューゼルだ。

 今でこそフォレスト派とスコール派は手を結び、同盟関係にある。しかし、それだけで今までのことを全て無かったことにして付き合えるような、軽い関係でも無い。

 

「「あの…」」

 

 無い筈なのだが…

 

「「お前から先で…」」

 

 この二人、さっきからとてもそんな風には見えない。互いに気まずそうに、そしてどこか照れくさそうにして、相手を直視できず、目が合いそうになる度に即座に目を逸らす。言いたい事は山ほどあるみたいなのだが、どうしても上手く言葉にできず、濁したり飲み込んだりの繰り返し。傍から見ても二人のその様子は、ただならぬ男女の関係のそれにしか見えなかった。

 故に、そんなことを整備室の前、決して少なく無い人数の生徒達が通るその場でやってれば、視線を集めるのは当然のこと。ましてや、学園でそれなりに有名なレイン…三年のダリルが見知らぬ男と見つめ合ってれば尚更だ。その状況にやっと気付いたオランジュは溜め息と共にガシガシと自身の頭をガシガシと掻いた後、口を開く。

 

 

「……場所変えようぜ。せめて、もうちょっと人目の少ない場所に…」

 

 

―――ぉぉぉぉぉぉッ…

 

 

「ん?」

 

 

 そう言ってレインに手を伸ばしたその時、彼の耳に何かが聴こえてきた。その何かは遠くから段々と此方に近付いてきており、耳を澄ませば誰かの足音も一緒に聴こえてくる。その音と足音は、レインの背後の方から迫ってきていることに気付いたオランジュは、そっと彼女の後ろを覗き込んだ。

 

「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおりゃああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

「へぶぉあ!?」

 

 それと同時に、彼の顔面にギリシャ代表候補生の膝がぶち込まれた。目一杯に助走をつけての跳び膝蹴りを受けて吹き飛び、二転三転とバウンドしながら転がるオランジュ。四転目で後頭部を床に強打した辺りでようやく止まり、彼はプルプルと身体を震わせながら起き上る。そして、いきなり自分をこんな目に遭わせた下手人が、レインの傍で仁王立ちしながら自分を見下ろしている姿を視界に捉えた。

 

「な、なんだ、いきなり…」

「黙るっス、この色情狂!!」

 

 オランジュの当然の疑問に、フォルテはビシィっと彼の事を指差しながら、そんな事をのたまった。当然ながら、そんな事をのたまわれた本人は、口をポカンと開けて『は?』と言う音を出すことしか出来なかった。

 

「先輩に色目使った挙句、人目の少ない場所に連れ込んで何するつもりっスか、ナニするつもりだったんスか!? これだから男って奴は信用ならないっス。先輩、コイツに変な事されてなッ…」

「フォルテ」

 

 呆けるオランジュを無視してレインに向き直ったフォルテだったが、今度は彼女が呆ける番だった。自分にとって大切な先輩で、大切な恋人。自分は、その大切な人に手を出そうとした下男を成敗しただけ。

 なのに、どうしてこの人は、こんなにも冷たい声で自分を呼ぶのだろう。どうしてこの人は、こんなにも冷たい視線を、自分に向けているのだろう。

 

「せ、先輩…?」

「悪いなフォルテ、今ちょっと大事な話をしてんだ。後でちゃんと説明してやるし、相手もしてやるから、少しだけ大人しくしててくれ」

 

 彼女の様子と、彼女が自分に対して向けてくるその態度が信じられず、そして余程ショックだったのか、フォルテはよろめく様にその場で後ずさった。そのまま力なく、床に崩れ落ちそうになった、その時だった。何やら聞き覚えのある音が…さっき自分が飛び膝蹴りする為に助走つけてた時に出た、全力で廊下を走る音が自分目掛けて近付いて来ていた。

 

「へ?」

 

 意識を手放す直前、彼女が最後に見たのは、レインと同じ金色の髪を持つ少女が自分目掛け、思いっきり腕を振りかぶる姿だった。

 

 

◇◆◇

 

 

「オランジュ、大丈夫?」

「あ、あぁ、大丈夫だけど、よ…」

 

 シャルロットに助け起こされ、どうにか立ち上がったオランジュ。蹴られた顔面は少々痛むが、この程度で音を上げるほど軟ではない。裏方組とは言えフォレスト一派所属、虎兄貴による訓練と比べたら、大抵のことはぬるく感じるというもの。だが、それを踏まえても…

 

「あっちは大丈夫なのか?」

「さぁ?」

「いや、さぁって、お前…」

 

 彼女(シャルロット)を怒らせるような真似だけは、絶対にしない方が良い。無表情で二年生を、それも代表候補生のフォルテをラリアット一発で沈めた彼女の姿を目の当たりにして、オランジュは改めてそう感じた。因みに当のフォルテは現在、少し離れたところで白目剥きながら倒れており、レインによって介抱されている最中である。

 

「あー、息はある。フォルテはオレがどうにかするから、二人は構わず行ってくれ」

「良いのか?」

 

 任せてしまって良いのか。そして、久々に会ったのに、こんなんで良いのか。二つの意味が籠められた彼の言葉に、レインはただ苦笑を浮かべた。

 

「こいつの面倒を見るのはオレの役目だ。それに話する機会なんて、これから幾らでもあるだろ。何より、これ以上お前と喋ってると、今度はオレがブッ飛ばされそうだし…」

 

 ふとオランジュが横に目を向けると、シャルロットがレインのことを色々な感情が混ざった瞳でジーッと見つめていた。そんな彼女の様子に、思わず頬が引き攣るのを自覚した。

 

「フォルテにはある程度ぼかして説明しとくから、お前もちゃんとオレとの関係そいつに説明しとけよな」

 

 そう言ってフォルテはレインをお姫様だっこの形で抱え上げ、さっさとその場を立ち去ってしまった。残された金髪フランスコンビは暫く、彼女の後姿を見送る様にその場で立ち尽くしていた。

 そして、レインの姿が見えなくなってからも、二人の間には微妙な沈黙が流れていた。オランジュは再びチラリと横に視線を向けてみると、シャルロットはさっきと同じようにジーッと見つめていた。

 

 ただし今度は、オランジュの方を、だが…

 

 何か言いたげな…否、此方が何か言うのを待っているかのようなその視線を、正面から見つめ返すことができず、オランジュは顔を彼女の反対側に向ける。しかし、回り込まれてしまった。もう一度、反対側に顔を向ける。しかし、回り込まれてしまった。もう一度逸らそうとしたら、脛を蹴られたのでやめた。結構、痛かった。

 目を逸らすことを諦めたオランジュは、吹っ飛ばされた拍子についてしまった埃を払い、雰囲気をリセットするつもりで咳払いを一つ。そして、十人中七人くらいがイケメンと評する笑顔を浮かべて、口を開く。

 

「よぉシャルロット、元気にしてたか?」

「オランジュ、本当に来てくれたんだ。わぁい、久しぶりー!!」

「おいおい、昨日も電話で話したじゃないか」

 

 片手を挙げ、にこやかに話しかけてくるオランジュに、シャルロットもまたにこやかに返す。

 

「学園での生活はどうだ?」

「概ね楽しいよ、友達も出来たし、オトモダチもたくさん」

「そりゃ良かった」

 

 まるで先程までの一悶着なんて最初から無かったかのように振る舞うその様子に、たまたま一部始終を見ていた通りすがりの生徒達は軽く引いた。そんな周りの様子のことなど知った事かと言わんばかりに、オランジュは一気に捲し立てる。

 

「ところで、今は時間大丈夫か? 昨日言った通り、技術開発部の奴らの試作品をテストしてやって欲しいんだけど…」

「良いよ。言われた通りアリーナの予約も取っておいたから、ここで準備整えたらすぐに始められるし」

「よっしゃ上出来、それじゃあ早速…」

 

 クルリと背を向け、そそくさと整備室に入ろうとしたオランジュ。しかし、その足は一歩踏み出しただけで止まる。彼が二歩目を踏み出すよりも早く、彼の身に着けたスーツの裾が目にも留まらぬスピードで、皺が寄るくらいに力強く、シャルロットの手によって掴まれたからだ。

 冷や汗を滝の様に流すオランジュは、恐くて振り向けなかった。けれども、今の彼女がどんな表情を浮かべているのかは、手に取るように分かる。分かるからこそ、恐くて振り向けない。今のシャルロットは確実に、天使のような微笑を浮かべていることだろう。

 

「気は済んだ?」

「はい」

「それじゃあ、レインとの関係、説明してくれる?」

「……はい…」

 

 そして、その瞳は、絶対に笑っていない…

 

 

◇◆◇

 

 

「う…」

「お、気が付いたか」

「……先輩…?」

 

 オランジュが整備室前でシャルロットに土下座する覚悟を決めた頃、フォルテはようやく意識を取り戻した。そして、自分がお姫様抱っこされていることにも気付いた。

 

「って、何してんスか先輩!?」

「可愛い後輩の介抱」

 

 しかも普通に他の生徒で溢れてる廊下でそんなことやってるせいで、嫌でも視線は集まるは、四方八方から黄色い歓声が聴こえてくるわ。おまけに、こんな状況、こんな体勢で可愛いとか言って来るものだから、フォルテの顔は一瞬で真っ赤に染まった。

 

「そんなこと言われても、誤魔化されないっスよ…」

「誤魔化す?」

「さっきの男のことっス!!」

 

 それでも、先程の光景を無かったことするなんて、フォルテには出来なかった。

 

「誰っスか、あの男!! 先輩に馴れ馴れしい上に、なんかそれっぽい雰囲気出して、先輩も……先輩も…」

 

 偶然見かけてしまった、見つめ合う二人の男女。その片割れが、まさかの自分の恋人。しかも、あの様子は明らかに他人同士とは言い難い。むしろ、良い雰囲気って奴だったと思う。それに自分があの男を傷つけた時、彼女は間違いなく怒った。そして、直接言葉にこそしなかったが、自分を邪魔者として扱った。

 もう、疑いようがない。この人とあの男は、ただならぬ関係…それも所謂、男と女の関係にある。フォルテには、そうとしか思えなかった。

 

「まぁアイツがオレにとって、少しばかり特別な人間である点は否定しねーよ」

 

 思わず俯いてしまったフォルテに返ってきたのは、そんな言葉だった。ハッとするように顔を上げると、ダリルが自分のことを見つめていた。けれどその瞳は先程の冷たいようなものでは無く、愛情と慈しみに溢れた、優しくも温かいもの。フォルテが良く知る、彼女の瞳だった。

 

「とは言っても、お前が心配するような関係でも無いさ。今の俺が愛してるのは、お前だ。アイツとの関係はもう、とっくに全部終わってるし、それはアイツ自身も分かってる筈だ」

 

 『もう、とっくに全部終わってる』。その言葉と、どうにも複雑そうな様子を見せるダリルの姿に、フォルテはひとつの可能性に辿り着いた。

 

「それって、もしかして…」

「あぁ、お前の想像通りだよ。端的に、世間一般の言い方で表現するなら、オレとアイツの関係は…」

 

 

 

―――元カノと元彼って奴だ―――

 

 

 




○知らずに付き合ってしまい、知ってしまって別れることにした二人
○そんな二人の出逢いと別れは、次回
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