アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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大変お待たせしました、続きの更新です。
今回も前回に引き続き、阿呆と彼女達のお話です。


IF未来 戦力過多な森一派のIS学園 その6

 

 

 二人が出会ったのは今から二年前、レインがダリル・ケイシーとしてIS学園に入学し、半年が過ぎた頃だった。レインは休日を過ごす為に街へと繰り出し、オランジュはフォレスト一派の活動拠点の下見の為に来日し、彼女と同じようにIS学園周辺の街を散策していた。

 

『おや、あの顔は確かアメリカ代表候補生の…』

 

 そこで彼はレインを見つけ…

 

『上手く誤魔化してるけど、ただの観光客じゃ無さそうだな。何者だアイツ…』

 

 彼女もまた、オランジュを見つけた…

 

『『……ちょっと、探りを入れてみるか…』』 

 

 図らずも同じタイミングで、同じ考えに至った二人は、同じ行動に移った。片や一般の観光客として、片やIS学園の一般生徒として、互いに偶然を装って接触し、互いに相手の秘密を探り始めたのである。

 既にそれなりの場数を踏み、自分の実力に自信を持っていたオランジュとレイン。今回も上司への手土産にはなるだろうと言った程度の軽い気持ちで動いた訳だが、そんな二人には大きな誤算が幾つかあった。

 それは、互いに互いが亡国機業の一員であることを知らなかったということ。しかも二人とも、所属する派閥にとって重要な立場にあった。

 

 だが何よりも、互いに、思っていたよりも相手のことが気に入ってしまった。それこそが、二人にとって最大の誤算だった。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「初日から意気投合しちまって、相手から有益な情報を聞き出すってのがただの建前になるのに大して時間は掛からなかった。その後も適当な理由つけて、何度も会ったよ。向こうも満更でも無さそうだったし、いっそ相手の怪しい部分には目を瞑って、この関係がいつまでも続けば良いとさえ思ってた。あの日、アイツの素性を知るまでは…」

 

 何度目かの逢瀬の際、唐突に送られてきたフォレストからのメール。その内容は、彼女の正体がスコール・ミューゼルの隠し玉、レイン・ミューゼルであることを告げるもの。それを理解した瞬間、オランジュの中で何かが崩れた。

 

「アイツがレイン・ミューゼルであると俺が知ったと同時に、アイツも俺がオランジュであることを知ったみたいでな。それを互いに顔見た瞬間に悟って、互いに疑いの目を向け合っちまった。だからこそ、もうこれまで通りに付き合うのは無理だと悟った訳だ」

 

 それまで、お互いに何か隠していることは薄々察していた。けれども、自分ならどうにでも出来るとタカを括り、その事をずっと先送りにしてきた。しかし、そんな二人が即座に考えを改める程に、互いの持つ肩書きは重かった。

 

「正直に言うとだ、俺達はセイスとエムみたいにはなれねぇ。旦那かレインの二択を迫られたら俺は旦那を選ぶし、アイツだってミューゼルとしての自分を優先する。それを分かってるからこそ、何をしても、何を喋っても、その言動の全てに何か裏があるんじゃないか、自分は騙されているんじゃないかと相手を疑っちまう。だからもう、俺とレインが本気で付き合うことは、二度とない」

 

 常に人を欺き騙す側だった、人一倍卑怯者で臆病者な自分達は、身内以外の人間をどうしても信じ切る事が出来なかった。この先、付き合い続けてもお互いの素性と立場がずっと脳裏にチラつき、その度に相手の事を疑わせてしまう。愛を囁くと同時に、疑念の目を向けてしまう。好きになった相手の事を、心から信じる事ができない。そんな関係、破綻しない訳が無い。だから互いの素性を知ったあの日、オランジュとレインは互いに別れることを決意した。

 幸か不幸かスコールは二人が交際していたことを知らなかったようで、レインも黙っていることに決めたのか特に揉め事に発展するようなことにはならなかった。フォレストの方は分からないが、彼も特に何も言ってこなかった。多分知っているのかもしれないが、関係を利用してどうこうして来いと言った指示を出してくることも無く、その一件には一切触れて来なかった。

 そして、それから二年余り、お互い音沙汰の無いまま今日を迎え、遂に再会した訳だが、案の定どう接すれば良いのか分からない。一応二人の中でこの件に関しては終わったことにはなっているし、あれから組織内の派閥情勢も大きく変わったが、やはり思うところはある。

 

「とは言え、今はフォレスト派とスコール派は同盟関係にあるからな、意味も無く無下に扱うつもりは無い。同じ目的を持った仲間として、それなりに仲良くはやろうと思う。ただ、それだけだ」

 

 語るべきことを語り終え、オランジュは深呼吸するように深い溜め息を零した。そんな彼を、シャルロットは最後まで黙りばがらジッと見つめ続けた。我ながら最低と思う話の内容と、シャルロットの様子に気まずくなったのか、オランジュは彼女から目を逸らしながらポツリと呟いた。

 

「……幻滅したか…?」

「そんなことないよ」

 

 殆ど間を置かずに返ってくる返事に、思わず顔を顰めるオランジュ。

 レインと別れてから少し、半ばヤケクソ気味に挑んだフランスでの任務で死に掛けた際、シャルロットと出逢った。行き倒れていたところを助けてくれただけでなく、回復するまで身分も素性も分からない怪しい自分の世話までしてくれた彼女に恩を感じ、その人柄に惹かれた。だからシャルロットの意思を蔑ろにするデュノア社を乗っ取り、改めて彼女を自由の身にした訳だが、ここで再びの誤算。

 

「何度も言ってるが俺はこういう人間だ、今までの人生を捨ててまで追いかけて来るような価値なんざ痛ってぇ!?」

「何度も言ってるけど、僕はそんな君について行くと決めたの。今更、その程度で気が変わると思ってるの?」

 

 言葉を遮るように放たれた脛キックの如く、シャルロットはこれまでの平穏を蹴った。それだけに留まらず、あろうことかオランジュを追い掛けて亡国機業へと来てしまった。自分を救ってくれた少年に恩を返す為に、そして好きになった少年と共にある為に。

 

「……お前との出逢いが、お前を都合の良い手駒にする為、最初から全部仕組んだ茶番だったとしてもか…」

 

 痛みに足を抱えて蹲り、悶えるオランジュが苦し紛れにそう呟くと、シャルロットは彼の前でしゃがみ込んで目線を合わせてきた。そして…

 

「ねぇ、オランジュ」

 

 思わず見惚れてしまうような微笑を浮かべながら、彼の耳元で囁くように言い放った。

 

「君って、意外と嘘つくの下手だよね」

 

 固まるオランジュを余所に、シャルロットは立ち上がって、さっさと整備室へと行ってしまった。残されたオランジュはそんな彼女の後姿を呆然としながら見送りながら、深い溜め息を零した。

 

「俺にそんなこと言えるの、お前と旦那ぐらいしか居ねぇよ…」

 

 当分は本気の恋なんてしない…その決意が、シャルロットに出逢ったあの日から既に揺らいでる現実に目を逸らしながら、彼はもう一度深い溜め息を零した。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

(とは言ったものの、あーぁ…)

 

 一方、先程言ってた新製品のテストの準備の為に整備室へと入ったシャルロットもまた、悩ましげな表情を浮かべ、オランジュと同じように深い溜め息を零していた。

 恋する乙女の勘は、フォレスト一派随一のポーカーフェイスすら打ち破る。腹芸に置いてほぼ負け知らずのファントムことオランジュだが、彼女の前では得意の嘘も隠しごとも全部ばれてしまう。そんな彼女だからこそ、分かってしまう。彼自身も気付いてない、彼の心の内を。

 て言うか、何が『ただ、それだけ』だ。あんな顔しといて、自分じゃなくたって勘付くっての。

 

「シャルロット?」

「あ、簪」

 

 そんな彼女の様子に、整備室の先客にして常連が気付いて声を掛けてきた。空色の髪に赤い瞳、そして眼鏡が印象的な物静かな少女。一年四組のクラス代表であり、日本の代表候補生でもある更識簪だ。

 入学してから数日後、シャルロットが専用機の点検を行う為に整備室を訪れた際、一人で黙々と作業を進める簪を見つけ、話し掛けたのが交流の切っ掛けだった。人見知りなのもあって最初は警戒されてしまったがシャルロットの人当たりの良さと、本人がそれを自覚した上で使うオランジュ直伝の話術を前にしては、それも長くは続かなかった。今ではそれなりに仲良くなり、織斑一夏の一件で倉持技研がこれまで担当していた簪の専用機の開発を中止してしまったことや、実の姉に対する劣等感、それら全てを覆す意味合いも含め、自分一人の手で専用機を完成させようとしていることなど、本当に色々なことを教えてくれた。

 余談だが、家族仲に問題を抱えている件に関して非常に共感できるところが多々あったせいか、その話題になった際は二人で大いに盛り上がった。結果シャルロットは彼女をオトモダチではなく、可能な限り本当の友達として接することにした。

 

「何かあったの?」

「うーん、ちょっとね…」

 

 例によって本日も専用機製作に精を出していたみたいだが、そんな彼女でも気付いて声を掛ける程に落ち込んでいたようだ。簪の作業の手を止めてしまった手前、このまま何でも無いと誤魔化すのも気が引ける。

 

「自分の好きな人が、無自覚で元カノに未練タラタラな場合、どうすれば良いと思う?」

「はぃッ?」

 

 折角なので素直に相談してみたが、やはり話題の選択を間違ったようだ。自分だって、いきなりこんなこと訊かれても困る。

 

「あー、ごめん、今の忘れて。それより、今からデュノア社の新作を試すんだけど、見たい?」

「ッ、うん!!」

 

 オランジュに乗っ取られて以来、デュノア社は世界に名立たる名企業にして魔窟と化している。

 元々量産機として成功したラファール・リヴァイヴと、それを開発したデュノア社。その時に培ったISの基礎と開発生産のノウハウ、そしてデュノア社の信頼性を十全に活かし、数が限られたISのコアで利益を出すにはどうすれば良いかとオランジュが考えた際、IS装備の開発に全力を注ぐという結論に至った。そして、これまで難航していた新型の開発を一端諦め、亡国機業技術開発班のクレイジー達と共同で作業に当たり、『第二世代機でも第三世代機を倒せるだけの新装備』の開発に心血を注がせた。その結果、亡国機業のロマンとデュノア社の堅実さがバランス良く混じったオーパーツが次々と生まれ、その凄まじい性能で世界に衝撃を与えた。

 それらを世界中に売り捌いて得た利益により、倒産寸前だったデュノア社は経営の立て直しに成功。装備以外に手を加えていないラファールが公式戦でドイツの第三世代機を下した頃には、かつての名声を完全に取り戻していた。今では世界を見渡すと、機体は第三世代機、装備はデュノア社と言う専用機持ちも珍しくない。

 で、簪もデュノア社のファンの一人であり、自分の専用機にデュノア社の製品を搭載することを真剣に検討中だったりする。今思えばこんな早い段階で打ち解けられたのは、シャルロットがデュノアの人間であったからというのもあったかもしれない。

 

(ま、オランジュが来てくれたことが嬉しいのに変わりは無いし、今はそれでいっか)

 

 悩み事は結構あるけど、それと同じくらい良い事もたくさんある。取り敢えず今は、この学園で初めて作れた友達と、そして遥々フランスからやって来た彼とのひと時を楽しむとしよう。





次回、時間が結構とびます。具体的に言うと、無人機の日まで。
タイトルに偽りの無い、戦力過多っぷりに御期待下さい(黒笑
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