御機嫌よう皆様、フォレスト一派のレディことセシリア・オルコットです。あれから数日後、クラス対抗戦当日。凰鈴音さんの転入に始まり、この日を迎えるまでの間、当事者たちの身の回りでは本当に様々な出来事が起きました。
「まったく、面倒な方ばかりですわね」
既に一組の裏ボスと呼ばれ始めている私は、織斑さんの指南役という事で特別に管制室に入れて貰い、そこでクラス対抗戦、その初戦でもある織斑さんと凰さんの試合を前に、文字通り高見の見物と洒落込んでいました。因みに、この場には織斑先生と山田先生を含む教員達に加え、何故か篠ノ之さんも居らっしゃいます。本人に何故来た、むしろ何故来れたと訊ねてみたところ、『幼馴染だし、特訓に付き合ったし……幼馴染だし…』という返事を、目を逸らしながら返してきましたわ。
とは言え正直な話、私としてはその辺のことはどうでも良いです。篠ノ之さんが謎の特別待遇を受けていようが、織斑さんが試合前、イケメン全開で『勝ってくる』と何故か私に宣言してこようが、あまり関係ないのです。今、私が気にしているのは…
「折角あのチンチク鈴をクラスから孤立させて、心身共に弱ったところに救いの手を差し伸べて、駒にする算段まで付けたと言うのに、全て無駄になってしまいましたわ。せめて片方が素直な性格、もしくは察しが良ければ…」
色ボケて視野の狭くなった中国代表候補生を、周りを扇動して精神的に追い詰め、マッチポンプよろしく自らの手で助けて忠犬二号を作る。その計画は、織斑さんと凰さんが喧嘩してしまったことにより、初日で頓挫してしまいました。オトモダチネットワークで得た情報によれば、織斑さんが凰さんとかつて交わした約束を間違えて覚えていたらしく、それが彼女の逆鱗に触れてしまい、一気に仲が拗れてしまったそうです。ついでに、当時その場に居合わせていた篠ノ之さんに二人の会話の主な内容も聞いてみたのですけど、なんとも言えない気分になりましたわ。酢豚でそれは解り難いと思うし、別れ際の言葉ぐらいちゃんと覚えとけ、そもそもその間違え方は酷いとも思いました。いっそ凰さんの真意を教えてやろうかとも思いましたが、犬のままで居てくれた方が何かと好都合ですし、後に彼女を手に入れることを考えた結果、結局この件に関しては織斑さんに一切助言をしていません。
そのせいもあってか、凰さんは今日まで織斑さんと訓練どころか会話すらまともにしておらず、織斑さんのコーチ役は引き続き私が務めることになりました。お蔭で、自分のクラスを蔑ろにする二組代表を孤立させる計画は、実質パァになってしまった訳であります。
『でも織斑一夏と二組の生徒達からの信頼は得たんだろ?』
「当然ですわ。しかし、このセシリア・オルコット、何事も中途半端に終わるのが一番嫌いなんですの」
とは言え、この期間に織斑さんから更なる信頼を、そして二組の生徒達とのパイプは得る事ができました。純粋にISの勉強をしたい者には代表候補生として手を差し伸べ、織斑さんと交流をしたい者には、ISの特訓という名目で橋渡し役を担うなど、仲良くする為の手段は幾らでもあるのです。
しかし、やはり凰鈴音と言う有力な駒が手に入らなかったのは非常に残念でしたわ。意外と面倒見が良く、姉御肌な彼女はそれなりに人望はあるようで、今から人間関係で彼女を孤立させるのは少々難しいかもしれません。尤も、難しいだけでやろうと思えば出来るのですけど。
『かーッ、相変わらずの完璧主義者め。あんまり欲張り過ぎると、いつか痛い目見るぞー?』
「あら貧弱へタレクソ野郎のオランジュさん、居たんですの?」
『口悪いにも程があるだろ黄金ドリル!!』
余計な茶々を入れてきた阿呆を黙らせるも、彼の言う通り焦って欲張るのは悪手。ここは最低限の目的は果たしたと思い、満足するとしましょう。
『おい貧弱、あんまり無線機で大きな声出すな』
『頭に響くんだよ、へタレ』
『そもそも、なんでまだ学園に居るんだ、クソ野郎』
『お前ら全員俺のこと嫌いなのか、嫌いなんだな、えぇオイ!?』
隠し部屋トリオにボロクソに言われて半泣きになるオランジュさんですが、確かに何故まだIS学園に居るのでしょうか。私としてはあまり認めたくありませんが、彼は敬愛するおじ様の愛弟子。新米の自分と違って既に組織の仕事を率先して任され、デュノア社を傘下に収めてからは独自の戦力を持つ事を改めて許されております。その忙しさはかつての比では無く、こんなところで暢気に試合見物なんてしている暇なんて無い筈なのですが。
もしサボりなら、おじ様に…いや、ここはティーガーさんにお伝えしておきましょう。そしてあわよくば、そのまま彼をおじ様の隣から蹴落とし、この私が…
『ほら、オランジュって表向きはデュノア社の人間で、僕の専属スタッフだからさ。今回のクラス対抗トーナメントも、新装備の稼働データ取りを兼ねた見届け人ってことで』
『あとデュノア社日本支部建設の件もあるから、その辺のアレやコレやの為に暫く日本に居る予定』
『あ、そうなの』
「チッ」
『セシリア、今舌打ちした?』
そう言えば、そんな話もありました。デュノア社を手にれて以来、フォレスト一派だけでなく亡国機業の力は増大の一途を辿っており、欧州のIS業界を牛耳る日が来るのも時間の問題と言われております。それに先駆け、IS業界の聖地にして総本山とも言うべきIS学園のある場所、日本にも拠点を作ることが決定したのです。織斑一夏の件で暫く日本での活動が増えることを踏まえた面もありますが、これで組織内におけるフォレスト一派の影響力は確固たるものとなるでしょう。今までこの国の管轄はどの派閥のものになるのか、ずっと前から揉めていたのですが、これで話は決まったようなものです。
それにしても実に残念、やはり彼を今の座から引きずり降ろす為の計画、その実行は時期尚早。もう少し慎重に、根気よく機会を窺うとしましょう。
『にしても、まさかIS学園の行事を来賓席で見れる日が来るとは思わなかったな』
『それ言ったら俺達だってこんな形でIS学園に寝泊まりするとは思わなかったぞ』
オランジュさんの何気ない言葉に、セイスさんがそう返します。しかし彼らの言う通り、一昔前の自分では、こんな立場で、こんな日常を送ることになるだなんて思いもしなかったです。テロリストのおじ様に預けられ、憧れを抱き、自分も同じ組織に身を置くだなんて、誰が想像できたでしょうか。
『しかし、そっちはそっちで楽しそうだな…』
「あらハーゼさん、気が変わりましたの?」
『興味が無いと言ったら嘘になる。なにせ生まれてこの方、一般的という言葉と無縁の生活だったからな。少しばかり、普通の学校生活というものに憧れすら感じている』
ハーゼさんはこの任務の話が出た際、おじ様から学生組とサポート組、どちら側で参加したいか訊ねられた際、自ら後者をお選びになりました。その時に理由を聞いてみましたが、自分は素性と経歴に問題があり過ぎるので無理だと、苦笑と共に仰いました。しかし、フォレスト派の力を使えば身分と戸籍の偽造なんて造作も無いことです、それは彼女も良く知っている筈。やはり彼女なりに、別の理由があったのでしょうか。
『因みに、マドカはIS学園入学してみたい?』
『セヴァスと会うの難しくなるからヤダ』
『じゃあ、俺もいいや』
えぇ、まぁ、この二人はそうだろうと思いましたわ…
『なんなら、今から参加できるよう旦那にお願いしてみようか?』
『いやいや、流石にそれは悪い。それに私は……むッ…!?』
「あら、空から何か…」
やれやれ、本当に面倒事ばかり起きますわね。そろそろ、怒ってもよろしいかしら。実は私、結構、我慢弱くてよ?
◇◆◇
「セシリア、そっちの様子はどうだ?」
『あまりよろしくありませんね。あの襲撃者の登場に合わせるようにして、防護シャッターも含めたアリーナの全設備がコントロールを受け付けなくなったようです』
空からアリーナのシールドをぶち抜いて現れた謎のISの登場により、観客席は一瞬で混乱に包まれた。突然のことに生徒の大半はパニック状態に陥り、腰を抜かす者、我先にと出口へ殺到する者、逸れた友人を探す者で溢れ返っている。それは来賓席も同じようなもので、良い年した大人達が自分の身の安全を求めて互いに醜い争いを繰り広げていた。
「アリーナのシールドをぶち破るとか中々の威力じゃねーかよ、今後の新商品開発に使えるかもな」
そんな怒号と悲鳴が木霊する喧騒に包まれながらも、オランジュは席に座ったまま落ち着いていた。それどころか、彼の顔には、禍々しく歪んだ笑みさえ浮かんでいる。さながらそれは、獲物を前に舌なめずりをする狐のそれ。
「セシリア、シャルロット、お前らアレに勝てるか?」
『愚問ですわ』
「余裕だね」
「そいつは上々」
管制室に居るセシリア、そして、いつの間にか隣に現れていたシャルロットに投げかけた問いは、揺るぎない絶対の自信と共に返ってくる。そこには慢心も、相手に対する過小評価も無い。自身の実力と、相手の動きを吟味した上で下した、純然たる現実。
「じゃあ捕まえる?」
「いや、生け捕りにしたところで所有権は学園側のものになっちまう。それに、今はまだ織斑一夏には生きていて貰わないと困るしな」
現在の最優先事項は織斑一夏の無事だが、あの襲撃者の駆るISは非常に興味深い。出来る事なら綺麗に丸ごと、せめてコアだけでも欲しいところ。しかし、生け捕りにしたところで所有権は学園のものとなり、学園の地下深くで厳重に管理されることになるだろう。そうなったら、セイス達でも盗み出すのは困難だ。よしんば何らかの形でデュノア社が確保したところで、今度は世界各国が確実に黙ってない。ならば…
「セシリアは学園側に従え、セイス達は今から俺の指示する場所で待機。そしてシャルロット……いや、リベルテ…」
―――ここからはルール無用、何でもアリな俺達の流儀で行くとしよう―――
「奴をぶっ壊せ」
「りょーかい♪」
◇◆◇
「くっそ、コイツ!!」
謎のISの乱入により、なし崩し的に鈴と共闘することになった一夏。しかし、状況はあまりよくない。攻撃は悉く回避され、逆に向こうが放つビームによってエネルギーがジリジリと減らされていく。直撃こそ避けているが、なにせ相手のビームはアリーナのシールドを貫通する。掠っただけでも、それなりの威力があった。そんな物騒な代物を、相手はまるで機械のような動きでガンガン放ってくる。このままでは、間違いなくジリ貧だ。
「…?」
と、その時だった。ふと感じた違和感に動きを止め、周囲を探る。それは鈴も同じようで、彼女もまた目の前の敵を警戒しながらも、周りに意識を向けていた。すると、段々その正体がはっきりと認識できるようになってきた。突然感じた違和感、それは音と揺れ。自分達の攻防とは違う、足元から徐々に迫ってくる、地震のような揺れと、地鳴り。
―――それに気付いた時には既に、敵ISは足元で起きた爆発に吹き飛ばされていた―――
「なんだ、新手か!?」
「あぁもう、次から次へと!!」
爆発で巻き上がった土煙の紛れ、大きな人影が一つ。やたら尖がって大きな右腕を持ったそれが、土煙を払う様にして腕を振ると視界が晴れ、新たな乱入者の姿が一夏達の前に現れた。
「待って待って、僕は敵じゃ無いよ」
オレンジカラーの専用機、ラファール・リヴァイヴ・カスタム。その右腕に巨大なドリルを装着させた、シャルロット・デュノアが笑顔で手を振っていた。
「君は…」
「ちょっとアンタ、何のつもり!? 生徒達には避難指示が…!!」
「そんなこと言ってる場合じゃ無いんじゃない?」
憤る鈴を遮り、振り返ると同時に一瞬でドリルを量子化、そして巨大な盾を呼び出して構える。直後、盾にビームが直撃。しかし、驚異的な威力を持っている筈のビームが直撃したにも関わらず、盾は持ち主が受かべる涼しげな表情が示すように、ビクともしない。
既に起き上がり、彼女に反撃のビームを放っていた敵ISは、ここにきて一瞬動揺するように動きを止めた。しかし、すぐに気を取り直したのか、再び彼女目掛けて弾幕を放つ。その全てを、シャルロットが構える盾は弾き返し、持ち主と、その背後に立つ二人を守った。
「あんな物騒なものを、あれだけ派手に撃たれ続けたら、いつ流れ弾が人の居る場所に飛んでいくか分かったものじゃないでしょ。だから最初から全力で、さっさと皆で片付けた方が良いと思うんだけど、どう?」
打ち所が悪ければ、一撃で致命傷になりかねない。そんな攻撃を盾一枚で防ぎ続け、尚且つこの程度なんでも無いと言わんばかりに、一貫して余裕の態度を取り続けるシャルロット。その姿に、一夏は無意識の内に息を呑んでいた。
彼女は、命が惜しくないのだろうか。それとも、本当にこの程度余裕と思えるくらいの実力を持っていると言うのだろうか。自分は、こんなにも必死で、我武者羅に奮闘していると言うのに。
(代表候補生って、こんな人ばっかなのか!?)
セシリアは彼女の実力を、自分と互角と称していた。だとすると、彼女もまた同じなのか。鈴も最初から臆することなく襲撃者に立ち向かって行ったし、もしや代表候補生に選ばれる少女達は、全員こんな恐れ知らずばかりなのだろうか。
『勝手が過ぎるぞ、デュノア!!』
「あーれー敵から謎のジャミング攻撃だ織斑先生すいません通信が聴こえませんので独自に判断して動きまーす、通信終わり」
いや、やはり彼女は特別なようだ。隣で顔を青くするセカンド幼馴染含め、あの姉にこんな態度取れる人間が何人も居てたまるか。
○ISの技術を応用して開発された通信機は、声を出さなくても会話が可能。学園関係者で一杯な管制室でも会話が可能。
○隙あらばオランジュのポジションを奪い取ろうと画策中のセシリア
○二人の抗争は、皆の知らない所で常に繰り広げられている
○手に入れる為に壊す、決してヤケになった訳ではありません
次回、二巻分ラスト。一応このシリーズ三巻分で一区切りするつもりなんですけど、現時点で既に結構話数多くなってるんですよね。もうコレ、ひとつの作品として独立させた方が良いですかね?