二巻分のエピソードはもうちょい続きます。
無数に放たれた破滅の閃光が、橙色のISに殺到する。
「よし、次行くよ!!」
しかし、その全ては橙色のIS…シャルロットの駆るラファール・リヴァイヴ・カスタムには、掠りもしない。襲撃者が相手の動きを予測し、どれだけ弾幕を張ろうとも、彼女のシールドエネルギーを一メモリも減らすことが出来ない。
それでも諦めずにビームを乱射する襲撃者に、シャルロットは新たに呼び出した武器を手に、瞬時加速で迫る。対する襲撃者は左腕のビーム砲で弾幕を張りながら牽制し、それを掻い潜って距離を詰めてきたシャルロット目掛け、本命の一撃を右腕から放つ。
「おっと、危ない危ない」
だが、それすらも彼女には無意味。当たる直前に繰り出されたバレルロールにより、シャルロットは放たれたビームを回避するだけに留まらず、一切スピードを落とす事無く襲撃者の横を駆け抜けた。
すれ違い様に、自身の身の丈ほどもある大鎌を、襲撃者の腕に深々と突き刺していくのを忘れずに。
『ッ!!?』
「さてと、次は何が良いかな?」
まるで狼狽えているかのように、段々と動きが鈍くなっている襲撃者に対し、シャルロットは笑顔でそう言い放った。そして、襲撃者が反撃に転じるよりも早く、高速切替(ラピッド・スイッチ)で即座に呼び出した二丁のガトリング砲が火を吹き、襲撃者を滅多打ちにする。
「凄ぇ…!!」
「な、何なのアイツ、マジで何なのよアイツ!?」
シャルロットの弾幕で動けない襲撃者に雪片で斬りかかり、衝撃砲で牽制しながらも、一夏と鈴はそう叫ばずにはいられなかった。そうせざるを得ない程に、彼女の実力は驚異的なものだったのだ。
広さを制限されたアリーナの中を、縦横無尽に飛び回り、時に鋭く、時に優雅に、変則的な軌道で相手を翻弄する。その姿はさながら、自由の翼を手にし、大空を翔る隼の如く。
「て言うかアイツ、いったい幾つ武器持ってるのよ!? 今使ってるガトリングで”三十個”目よ!?」
そして、通常の機体が積み込める装備の数は十個以下と言われている中、彼女はそれを軽々と上回る数を召喚し、使いこなしていた。
対ビームシールド、ドリルランス、大型ブレード、ガトリング、対物ライフル、ミサイルランチャー…その全てを手に取っては叩き込み、手に取っては撃ち込み、相手が無人機であることを悟った時には更に容赦がなくなり、相手の装甲を貫通させるような装備を次々と繰り出し、瞬く間に相手はスクラップへの道を歩まされていく。
一夏と鈴、二人掛かりでも苦戦を強いられた相手を、シャルロットは完全に手玉に取っていた。一応彼女が参戦してからも二人はしっかり戦闘に加わっているが、間違いなく彼女だけでも襲撃者をボコボコにできたことだろう。
「知りたい?」
「「ッ!?」」
鈴の声が聴こえたのか、既にボロボロの襲撃者…無人機にバズーカを連射しながら、シャルロットが二人の元に笑顔で近寄ってきた。場にそぐわない笑顔に一瞬二人は怯んだが、次の瞬間に彼女の口から出てきた言葉に、更に驚くことになった
「僕のリヴァイヴに搭載された武器は『フィーユ・デュノア』、この一個だけだよ」
◇◆◇
それはオランジュがデュノア社を支配し、経営の立て直しに成功して暫く経った頃、シャルロットの専用機強化プランについて話し合われていた会議室で起きた。
その場に居合わせたのは、オランジュが招き入れた亡国機業技術開発部にフリーランス、そして彼に乗っ取られ、全ての背景を知った上で残った一部のデュノア社員。オランジュの無茶振りに応え、倒産寸前のデュノア社を救った腕利きにして立役者である。そんな彼らの共通点は生粋の技術屋であること、そして…
『シャルロットちゃんには、うちの装備を使って貰う!!』
『ふざけるな、シャルロットお嬢様には我々のチームが開発した装備を搭載して貰うに決まってる!!』
『寝言は寝て言えガキ共、お前らのようなロマンを理解出来ないゆとり世代の作った武器なんざ、あの嬢ちゃんの才能を腐らすだけだ。黙って俺に譲れ!!』
『何がロマンだボケ、お前のはロマンって言うよりただの悪ふざけの塊じゃねぇか!!』
『引っ込め時代遅れのクソジジイ!!』
『何だとゴラァ!?』
デュノア社のテストパイロットにしてアイドル、シャルロット・デュノアの熱烈なファンであることだ…
社長が連れてきた愛人の娘、その姿を見た瞬間デュノア社の男共は衝撃を受けた。中性的でありながら、保護欲を誘う可凛な健気な容姿、気配り上手で優しい性格、その出自により見舞われる不遇と不運。普通に考えて、放っておける訳が無かった。大人の事情により、表立った行動は出来なかったが、せめて少しでも彼女の力になれるようにと、一部の野郎共は水面下で彼女を支えようと決心し手を組んだ。
故に、オランジュが彼女を救う為にデュノア社乗っ取りの計画を持ち込んだ際、ビックリするぐらい話がスムーズに進んだそうな。
『シャルロットちゃんにはこの鉄血メイスを使って貰う、それは絶対に譲らねぇ!!』
『そんな野蛮で幼稚な代物、絶対に使わせないぞ!! そんなものより我々が製作した対IS用ライフル・ヘカートMk4を…』
『カーッ、分かっとらん、分かっとらんぞテメェら。そんなチンケな玩具であの嬢ちゃんを満足させられるものかよ!! 見ろコレを。2199式波動砲だ、コレさえあれば絶対防御なんざ無いも同じ。まさに火力こそパワーだ!!』
『『お前はシャルロット(お嬢様)を殺人犯にするつもりか!?』』
そしてオランジュがデュノア社を乗っ取ってからも、それは変わらなかった。今では自分の誇りとも言うべき作品の数々を、どれだけ彼女に気に入って貰えるか、互いに日々競い合っていた。彼女に少しでも自分の作った装備を使って貰う、それだけの為に彼女の専用機の拡張領域を通常の2倍、更に亡国機業の技術力と根性で25個分にまで増やしたりもした。それでも尚、彼らの欲求を満足させるには程遠いようだ…
『話は聞かせて貰った!!』
『あ、オランジュ』
『裏社長…』
『おう小僧、何しに来た』
そこへ颯爽と現れた裏社長ことオランジュは、『解決策を思いついた』と言う言葉と共に、とある資料を全員に配った。それを見た彼等の反応は、次の通り。
『テメェ、マジでぶっ殺すぞ!?』
『見損ないましたよ、本当に!!』
『て言うか今この場で殺す!!』
―――会議室に居た全員が殺気立ち、本気でオランジュを半殺しにしようとした―――
『バッカ野郎、誰がコレそのものをシャルロットに使わせると言った!! 話は最後まで聞けぇッ!!』
だが、その怒りすら一瞬で飲み込む程の一喝が彼等を怯ませる。いつもの彼からは想像も出来ない声量に全員が驚き、思わず腰を抜かす者まで出た。そんな彼らに構わず、オランジュは話を続ける。
『お前らがシャルロットに自分の作った装備を出来るだけ多く使って貰いたいように、シャルロットもお前らの装備を可能な限りたくさん使いたいそうだ。その為に専用機の拡張領域の魔改造なんてのもやったが、それにも限界がある。どうやっても、もうこれ以上積み込める数を増やすことは出来ない、そうだな?』
そのオランジュの問いに、彼等は沈黙を持って答える。それを確認したオランジュは、『だったらよぉ…』と呟きながら、改めて持ち込んだ資料を掲げて見せた。そして…
『”個数”を増やせないなら、”種類”を増やせば良いだろ。お前ら、全く別のシステムと材料使って、コレと同じことが出来るモノを作れ』
その手に持った資料、そこに書かれていた文字は…
―――VTシステム―――
◇◆◇
「この『欲張りなデュノア(フィーユ・デュノア)』はね、『VTシステム』の…正確には装甲の変異機構を参考にして作られてるんだ」
使用者の命を脅かす故、違法の烙印を押された『VTシステム』。その最大の特徴は、かつてのモンドグロッソの覇者達のデータを元に、その動きと力を自分のものにすると言う物。動きだけでなく、形状記憶型液体金属でISの装甲を無理やり変形させ、姿形まで似せると言う徹底ぶり。
オランジュは問題解決の為、その装甲の特徴に目を付けた。
「データさえあれば選手の機体もコピーできるんだから、装備がコピーできない訳ないでしょ。しかも僕達デュノア社の主力は実弾兵器、金属さえあれば大抵のものは作れちゃうんだよね」
フィーユ・デュノア…その正体は、彼女の専用機の拡張領域をほぼ占領する程に搭載された、特殊な形状記憶金属と、その形状変更システムである。VTシステムの変異装甲を参考に作られたこの金属は、事前に入力されたデュノア社の装備データが記録されており、持ち主の呼び出しに応じてその姿形を量子化による分解、再構築を経て、記録されたデータの中から選択した装備に姿と形を変えることが出来る。
「しかも使った装備も弾薬も、ある程度近寄れば量子化して回収した後、また作り直して使う事が出来るから、ほぼ無限に使い続けることが出来るよ。一応実弾兵器に分類されるけど、光学兵器よりよっぽど弾切れとは無縁でいられるかもね」
無論、VTシステムそのものを流用した訳では無い。彼等が使ったのはVTシステムの装甲、その仕組みだけ。それを把握した後は安全面を徹底的に考慮した上で、デュノア社独自の技術で全く別のベクトルから作り直し、再現して同じ特徴を持った代物を作り出しただけ。仕組みを参考にし同じ特徴こそ持っているが、全くの別物と化していた。ついでに安全面に関しては、国際IS委員会の試験もパスしてある。
「何より高速切替(ラピッド・スイッチ)を得意とする僕にとって、この装備は相性バッチリなんだ。あ、因みにね…」
しかし本当に恐ろしいのは、これを使いこなすシャルロット本人であろう。幾ら扱える武装の種類が多いらと言って、使いこなせなければ意味は無い。そもそも常人には、高速で飛び回りながら、その場その場で最適な装備を選択すること自体難易度が高いのだ。にも関わらず、彼女はそれをあっさりとやってのける。正確無比な攻撃を避けながら最適な装備を選び、癖の強い奴らが作った癖の強い装備を十全に使いこなす。何より彼女の頭の中には、フィーユ・デュノアに入力されたデータが全て記憶されている。それだけでも、このフィーユ・デュノアの力を存分に発揮できると言えよう。
何せこのフィーユ・デュノアに記録された装備データの数、つまりは彼女が扱う装備の数は…
「フィーユ・デュノアに記録された装備データは、全部で”108種類”。まだまだ一杯あるから、存分に味わっていってね♪」
デュノア社の宣伝も兼ねた47撃目、鎖付き鉄球の直撃は、存在しない筈の無人機の心をへし折った。
○シャル無双やってたら箒に激励させるタイミングを失った(笑