アイ潜IF外伝   作:四季の歓喜

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別名・阿呆とお嬢の決闘

この話は、セシリアがフォレスト一派の仲間入りを果たしてから暫く。
まだ彼女に黒さが足りない頃の話


IF未来 戦力過多な森一派の番外編 前編

 

 

 

「まったく、本当に、あの男はッ!!」

 

 セシリア・オルコットは激怒した。必ず、かの阿呆専門なバカ男を、愛しのおじ様の隣から排除してやらねばと決意した。セシリアには、何故あんなのがフォレストの弟子に収まっているのかが分からなかった。亡国機業においてセシリアは、まだまだ新人の身である。両親を亡くしてからはフォレストが後見人となり、最近までは一般人として暮らして来た。だから組織に関することは、まだまだ分からない事だらけだ。けれども恩人であり、第二の父親として尊敬するフォレストへの思いは人一倍大きかった。だから今もこうして、フォレストの反対を押し切ってまで亡国機業に身を置き、彼の力になろうと努力し続けている。

 そんな彼女にとって、オランジュと言う男は本当に目障りな存在であった。自分より二つだけ年上の彼は阿呆専門の呼び名の通り、隙あらばバカをやらかし、自分の欲望に忠実に従う下品な男で、まさにセシリアが嫌うタイプそのもの。それだけでもセシリアにとっては腹立だしいと言うのに、よりにもよって彼は敬愛するおじ様お気に入りの弟子にして、組織の次期盟主候補。その事が、何よりも気にくわない。

 

「おじ様もおじ様です、まだ新参の身に過ぎない私が無理なのは百歩譲って仕方ないとして、何故あのような下品で下劣で下等な愚図を大切な弟子として扱うのでしょう。おじ様の弟子と言うのなら、せめておじ様のように優雅で紳士的な格好良い方でなければ納得できませんわ…」

 

 フォレストへの憧れが強い分、彼の弟子に対する期待も大きかった。なのに実際に出てきたのは、まさかのあんな奴。それでも一応は先輩、それにあのフォレストが認めた男なのだ、実力は本物なのだろう。そう自分に言い聞かせ、今日まで我慢してきた。が、それも最早限界だ。

 自分達のようにISを使える訳でも無ければ、セイス達現場組のような戦闘力も持っていない。サポートやオペレーターとしての能力も、そこまで特別優れている訳でも無い。性格はクソ、能力も皆無、やはり彼は無能だ。彼に弟子をやらせるぐらいなら、自分の方が余程相応しい。

 その事を先程、我慢の限界を迎えたセシリアは勢いに任せ、フォレストとオランジュ、二人の前で直接言い放ってしまった。流石に口が過ぎたと思い青褪めたが、意外な事にフォレストは、いつもの穏やかな微笑を浮かべこう返してきた。

 

『じゃあ、ちょっと彼と勝負してみる?』

 

 日本の某美術館に、ルクーゼンブルク公国が貸し出した秘蔵の芸術品が多数出展されるらしい。そして、その中から一番価値の高い品をフォレストの渡すお小遣い(一千万円)を元手にして、ポケットマネー使用禁止、現場組の力を借りるの禁止で一週間以内に盗み出し、いち早くフォレストの元へと持ってきた方が勝ちと言う物。しかもセシリアが勝った場合、即座に弟子の座をオランジュからセシリアに譲るとまで言ってきた。当然ながら、その話を断る理由がセシリアには一切思いつかなかった。

 勝負の内容は明らかに現場組向け、サポート組として見ても身体能力が圧倒的なまでに低いオランジュと、ISが使えることに加え、鍛えられたことにより素の戦闘力も相当なものになってきた自分では、負ける要素など一つも無い。既に勝利を確信をし、余裕の笑みを浮かべながらオランジュに嫌味の一つでも言ってやろうと口を開きかけた、その時だった。

 

『ちょっと旦那、冗談キツいっすよ。ポケットマネー禁止ってそんな、セシリアからオルコット家の力を失くしたら、ただの残念な御嬢さんしか残らないじゃないですか。流石に勝負にならないんじゃ?』

 

 オランジュが真顔で言い放ったその言葉に、セシリアは一瞬固まった。

 

『ポケットマネー無しなら、せめてセシリアにはチェルシーさん、もしくは現場組に手伝わせるのアリにしましょうよ。それに加えて彼女自身がIS使って参加すれば、それらしくは……いや、やっぱ駄目だな。ISはともかく、肝心の中身がコレじゃあ話にならねーか…』

 

 頭をガシガシと掻きながら本当に悩ましそうに、そう言っている。嫌味とか侮辱とかではなく、心の底からセシリアの事を心配し、そう言っている。日頃から馬鹿と無能っぷりを晒すしかないこの男が、自分に向かって、そう言っている。

 

 本気で、目の前の自分を取るに足らない小物と認識し、本気で此方を気遣い、ハンデを恵んでやろうとしている。

 

 それを理解した途端、セシリアの中で何かが切れた。

 

『あー、じゃあこうしましょう。セシリアだけ予算は俺の倍で…』

『必要ありません』

『え?』

『必要ありませんと、そう言いました』

 

 フォレストの居る手前、荒ぶる感情をどうにか抑えつけながら、オランジュの方へと一歩踏み出す。彼が思わず後ずさるのにも構わず、言葉を続ける。

 

『あなたみたいな男から、ハンデを貰う必要なんてありません。オルコット家もブルー・ティアーズも、現場組の方々の手も要りません。あなたの土俵で、あなたと同じ条件で、徹底的に叩き潰して差し上げますわッ!!』

 

 そう言い放ち、呆気にとられるオランジュを尻目に、その様子を楽しそうにニコニコしながら見ていたフォレストから札束でギッシリなスーツケースを受けとると、セシリアは踵を返して部屋を出て行った。

 そして自分に対するオランジュのあの言い草に腹を立てながらも早速、勝負に勝つ為に頭をフル回転させていた。

 

(まだまだ新参者の身であるとは言え、この私が今日まで何の努力もしてこなかったと思ったら大間違いですわ。私をただの小娘と侮るのなら、その慢心を突くまで!!)

 

 育ちの良さが窺えるピンと伸びた背筋で足早に通路を歩む彼女は、おじ様に貰ったお気に入りの携帯端末のスイッチを入れた。

 

 

◇◆◇

 

 

「お前が依頼人か?」

「えぇ、そうです」

 

 組織入りしてから手にした伝手でコンタクトを取り、とある喫茶店のテーブルにて、呼び出した窃盗団とセシリアは向き合っていた。窃盗団の男は、自分に依頼を持ってきた人間がこんな少女だったとは思わなかったのか、あからさまに見下した態度を取った。

 

「帰りなお嬢ちゃん、ここはガキの来るところじゃねーよ」

 

 しかし、そう言った瞬間、一発の銃声と共に自分の頬を何かが通り過ぎた。同時に、自身の背後で悲鳴が上がる。振り向くと、万が一の為に、少し離れた後方のテーブルに待機させておいた手下の一人が、引っくり返って悶絶していた。

 

「何か、文句でも?」

 

 向かい側から投げかけられた言葉につられ視線を前に戻すと、いつの間にかセシリアの手には拳銃が握られており、その銃口からは砲煙が昇っていた。もしかしなくても、目にも留まらぬ早撃ちで手下を、それもわざわざ殺さないように彼が懐に忍ばせた拳銃に直撃させたようだ。

 その少女とは思えない腕に、男はゴクリと息を呑み、態度を改めた。

 

「で、依頼の内容は?」

「あちらを御覧になって」

 

 喫茶店の外を指差すと、ガラス越しからでも良く見える大きな美術館が。男の記憶が正しければ、この街一番の大きさを誇る有名な場所であり、そして今は確か…

 

「あの美術館には、かのルーゼンブルク公国から多くの美術品が貸与されています。そして貴方達には、あの美術館から、こちらの絵画を持ち出して貰いたいのです」

 

 そう言って彼女は一枚の写真を取り出す。そこに写されていたのは、馬に跨り旗を掲げる、神々しくさえ感じる女騎士の絵。今回ルーゼンブルクの贈り物の中で、最も価値が高いと言われる、高名な画家が描いた絵画だ。

 当然ながら価値が高ければ高い程、そして管理する美術館が大きければ大きい程、それに施される警備の手も生半可なものではなくなる。並の盗人では、その絵画に触れる事すら出来ないだろう。しかし幸いな事に、セシリアが呼び出した彼らは、並の盗人では無かった。

 

「幾ら出す?」

「五百万出しましょう」

 

 提示された金額に、男は唸り声のような溜め息共に、苦い表情を見せた。

 

「安過ぎる、二千万だ」

「高過ぎますわ、六百万」

「千八百」

「七百」

「千五百」

「一千万、これ以上ごねるなら他を当たります」

 

 男は暫く悩みこむ素振りを見せ、一度背後を振り返り、ようやく復活した部下と目を合わせる。そして、互いに頷き合うと視線をセシリアに戻し、口を開いた。

 

「良いだろう、受けよう」

 

 

◇◆◇

 

 

 そして、三日後の深夜…

 

「やはり、良い腕ですわね」

 

 少し離れた無人のビル、その屋上で双眼鏡片手に美術館を見つめるセシリアは、窃盗団の手際の良さに自然と称賛の言葉を漏らした。

 軽い身のこなしで正面ゲートを飛び越え、警備の目を掻い潜り、あっという間に館内に。そのまま他の宝には目もくれず、どんどん奥へと突き進む。その実力は亡国機業フォレスト一派、その現場組に迫るものがあった。まぁ尤も、流石にセイスやアイゼン達と比べたら見劣りするが…

 

『不味い事になった』

 

 と、その時だった。ふと彼らと繋いでおいた通信機から、困惑の声が届く。

 

「あら、どうかしまして?」

『今日になって追加された警備システムがある』

「突破はできませんの?」

『難しいな。せめて一時的にでも良いから、美術館を停電状態にできればなんとかなるが…』

「分かりました、少しお待ち下さい」

 

 言うや否や彼女は双眼鏡を置き、代わりに大きなスーツケースを手に取り、中身を取り出す。彼女が手に取ったのは、サイレンサー機能付きの狙撃ライフルだった。それを一瞬で構え、同時にトリガーを引いた。碌に狙いも定めずに放たれた銃弾は彼女の狙い通り、真っ直ぐに、美術館に伸びる複数の電線を綺麗に撃ち抜き、一本残らず切断した。

 すぐに非常用電源に切り替わって、停電はすぐに元通りとなってしまうだろうが、彼らの腕ならその僅かな時間でも充分だろう。

 

『なにしたんだ?』

「機業秘密です」

 

 通信機から、さっきとは別種の戸惑いを感じさせる声が届く。しかし、それに構わずセシリアは、美術館の周囲に警戒の目を向ける。勝負が始まってから既に数日、まるで姿を現さない阿呆が、そろそろ動き出す筈だ。念の為、ここ数日は美術館に対して目を光らせ続けてきたが、ターゲットでもある例の絵画は今日まで盗まれていない。だとすれば向こうは、まだ準備に手間取っている、もしくは此方が盗み出した瞬間を狙っているかのどちらか。前者なら後で散々笑ってやろう、だが後者なら気は抜けない。彼は現場組では無いので、来るとしたら今の自分のように人を雇って差し向けてくる筈。

 だから、自分の雇った窃盗団を自ら護衛する為、このビルの屋上に陣取り、組織入りしてから使い続けている愛用ライフルを構えている訳なのだが…

 

(さぁ来るなら来なさい。何が来ようと、この手で仕留めてさしあげますわ)

 

 結局この日、オランジュと彼の手先らしき者達は、セシリアの前には現れなかった…

 

 

◇◆◇

 

 

「約束の品だ、受け取れ」

 

 特別製の保護シートに包まれた、そこそこ大きな目当ての品を受けとる。中を確認してみれば、情報通り美しい女騎士の絵がその手に収まっていた。

 

「見事な手際でした。では、こちらが報酬です」

「確かに」

 

 男は札束がギッシリ入ったスーツケースを受けとり、セシリアと同じようにその場で中身を確認する。そして金額に間違いが無い事を確認し、満足そうに頷いた。互いに欲しい物が手に入り、特に問題も起きなかった、故に取引成立である。

 

「また縁があればお会いしましょう。それでは、御機嫌よう」

「おい、お嬢ちゃん……いや、依頼主さんよ…」

 

 早くフォレストの元に行きたいのか、挨拶もそこそこに絵画を抱えて立ち去ろうとしたセシリアを呼び止める声。振り向けば、男は報酬の入ったケースを手に、いつの間にか彼女の傍に立って居た。全く気配を感じさせなかったその動きに、セシリアは思わず戦慄する。つい反射的に絵画から手を放し、隠し持っていた拳銃に手が伸びる。

 そして男は、そんな彼女のことを見つめながら、こう言った。

 

「狙撃、見事だったぜ。また今度一緒に仕事しようや」

 

 

◇◆◇

 

 

(ふふふ、これで私の勝ちですわ!!)

 

 フォレスト一派のアジトの中で、盗み出した絵画を手にしながら、彼女は上機嫌で通路を歩んでいた。

 あの後もオランジュは特に動きを見せることは無く、セシリアは無事にフォレスト一派のアジトへと辿り着いた。後はフォレストの部屋にこの絵画を持ち込めば、勝利だ。

 

(念の為に警戒は続けてますが、やはり来る気配がありませんね。もしや、本当に準備が間に合わなかったのでしょうか?)

 

 だとすれば、尚更あの男は相応しくない。十年近くもあの人の隣に居ながら、この程度のことも出来ないとは、期待外れも良いとこだ。

 そう、期待外れだ。心のどこかで、期待していたのだ。仮にも同じ人を尊敬する、自分と年の近いあの男が。どことなく、あの誰に対しても卑屈で情けない態度を取っていた、かつての自分の父親に似たものを感じる彼が、本当は凄い男であったことを。もしもそうだったなら、自分の父親も本来の姿を隠し、本当は……と言う風に、少しだけ夢見ることが出来たかもしれなかったのに…

 

「……どちらにせと、もう終わったこと。どうでも良いことですわ…」

 

 そう言って彼女は、フォレストの部屋に辿り着き、ドアノブを握って扉を開いた。

 

「え…」

 

 しかし扉を開いた瞬間、目に入ってきた光景を前に、セシリアは大事に抱えていた筈の絵画を、ゴトンと大きな音を立てながら取り落としてしまった。何故なら…

 

 

 

「はい旦那、御所望の品ですよ」

「うん、確かに本物だね。じゃあ勝負は、君の勝ちってことで」

 

 

 

 あの阿呆が、女騎士の絵画をフォレストに手渡し、勝利を手に入れていた…

 

 

◆◇◆

 

 

―――遡ること四日前、勝負が始まった日―――

 

 

「あなたみたいな男から、ハンデを貰う必要なんてありません。オルコット家もブルー・ティアーズも、現場組の方々の手も要りません。あなたの土俵で、あなたと同じ条件で、徹底的に叩き潰して差し上げますわッ!!」

 

 チョロイわー、マジでチョロイわー。ちょっと煽っただけなのに、こうも簡単に踊り始めるとか逆に笑うしかないわー。あの様子だとセシリアの奴、自分で自分にハンデかけたことに気付いてないんだろうな。まぁ、そう仕向けたんだけどさ。ブルーティアーズやオルコット家の財力もそうだけど、同じくらい、もしくはそれ以上にヤバいのがあの公式チートメイド。現場組の協力を得られないこの状況で出て来られたら、流石に分が悪過ぎる。

 さて、セシリアが怒り心頭で部屋を出て行ったのを見計らってピ、ポ、パっと。

 

『はい、もしもし』

「メテオラ、ちょっと頼みごとして良い?」

『今日は私、非番なんですが?』

「今、俺の手に一千万円あります」

『話を聞きましょう』

「なに簡単なことだ、どんな方法でも良いから、コレを今日中に五倍に増やして欲しい」

『見返りは?』

「余分に稼いだ分は全部くれてやる。例え一千万が一億に増えたとしても、俺は五千万あれば充分だ」

『喜んで引き受けましょう。なんでしたら、先払いで五千万お渡しても構いませんよ?』

「マジで?」

『何やらお急ぎのようですし、それだけの元手があれば確実に稼げますからね、私なら。ま、後は日頃の補給物質の件もありますし、サービスです』

「分かった、助かる。それじゃ頼むわ」

『承知しました』

 

 メテオラと話がついて、携帯を仕舞と同時に旦那をチラリ。浮かべている表情は、いつも通りのニコニコとした笑み。という事は、今の行為はルール違反には該当しないと受け取って良いな。

 そりゃそうだ。ポケットマネーを使ってはいけないと言われたが、渡された一千万円を増やしては駄目とまでは言ってない。そして現場組の力を借りてはいけないと言われたが、サポート組や技術部の力を借りてはいけないとも言われていない。

 だからセシリア、後で卑怯とか言うなよ。お前だってお友達とか適当な建前使えば、チェルシーさんの手を借りること出来たんだから。

 

「よし、次は…」

 

 ポケットマネー無し、現場組無し、俺が煽ったからオルコット家関係の伝手も無し。となれば、セシリアが取る手段なんて自分で直接行くか、フリーの人間を雇うかの二つぐらいしか無い。自分から不利な状況に陥っている自覚が無いとはいえ、一応は俺を全力で潰すと宣言していた。だから多分、その手のプロを雇った上で、彼女自身も現場に参加するつもりなんだろう。

 セシリアの腕、特に狙撃に至っては現場組から見てもトップクラスの実力だ。彼女に銃口を向けられてしまえば誰を雇ったところで、それこそ現場組クラスの奴でも無い限り苦戦は免れない。だったら…

 

「銃口を向けるべき相手を分からくすりゃあ問題無しってな」

 

 

 さぁて、最近売り出し中の凄腕で、尚且つセシリアが選びそうな連中は、っと…

 

 

◇◆◇

 

 

 

―――その翌日―――

 

 

(ははぁん、やっぱそうなったか。セシリアもまだまだ甘いなぁ…)

 

 翌日、尾行の末に、交渉が済んで満足げな表情で店から出てきたセシリアと入れ替わるようにして、街中のとある喫茶店へ。地味に重いスーツケース二つを両手に持ちながら中へ入ると、先程セシリアが座っていたテーブルに、件の窃盗団が集まって互いに何やら話し合っていた。

 

「どうすんだ、ボス」

「決まってるだろ、貰うもん貰ったらトンズラだ。なんで上手く売れば一千万以上する代物を一千万の報酬で渡さなきゃならねーんだ、必要経費も差し引いたら更に手取りが減るぞ」

 

 ほーら、やっぱり甘い。相手の実力と、表面上の経歴だけで判断するからこうなる。真っ当な接客業や役所仕事じゃねーんだから、金払う側の依頼主の方が常に偉い、とか思ったら大間違いなんだよ。

 

「とにかく、途中まではあの小娘に従うフリすんぞ。仕事終わったら適当な偽物渡して、報酬貰ったらそのまま…」

「ハロー」

 

 にこやかに挨拶すれば、渋い顔を浮かべて振り返る野郎共。

 

「ちょっと依頼したい仕事あるんですけど、良いですか?」

「失せろ、ガキ」

 

 セシリアに続いてまたガキが現れたせいか露骨に嫌そうにする、そんな彼らにプレゼント。一千万円入りのスーツケースをポーイっとな。

 

「前金です、働きぶりによっては、倍額出しましょう」

「話を聞かせろ」

 

 話を聞く体制が出来上がったようなので皮肉を込めて、彼ら自身の言葉を借りて依頼内容を言ってやる。

 

「途中まであの小娘に従うフリをして下さい。仕事が終わったら適当な代物を渡して、報酬貰ったらそのままトンズラ。ただし、本物は私に渡して下さい」

 

 そう言ってやると、彼らは随分と苦々しい表情を浮かべた。これで彼らも、俺がそっちの状況を知っていること、そして、さっきの会話…ケチな依頼主(セシリア)に対する謀も把握している、ということは理解できたことだろう。お蔭で、随分と警戒されてしまったが。

 とは言え、この手の奴らが優先するのは大きく分けて三つ。

 

 信条(ポリシー)、金(マネー)、命(ライフ)

 

 そしてこいつらの場合、一番大事なのは命で、次に金。その証拠に、油断ならないガキと判断されたのか警戒心を露わにしているものの、さっきの小娘より明らかに金払いが良さそうなので、依頼を受けるかどうか悩んでいるようだ。さっきから何度も視線が俺と、その手に受け取った、ズッシリとした重みを感じさせるスーツケースを行ったり来たりを繰り返している。

 でもまぁ、結局…

 

「幾ら出す」

「最低でも二千万、必要経費は全てこちら持ち。貴方達の手腕がボスのお眼鏡に叶えば、追加で報酬をお渡しします」

 

 不安(リスク)に見合うだけの報酬があれば、言う事聞いてくれる訳だけどな。あぁ因みに、追加報酬は本当に渡す気あるけど、ボス云々は適当な嘘だ。俺みたいな若造だと、バックに誰か居るって言っといた方が何かと素直に言うこと聞いてくれるし。下手に俺を害せば、誰かが報復に来るって遠回しな警告にもなるしな。

 

「何故、俺達を選んだ?」

「それは勿論、貴方達の実力を考慮した上での判断です」

 

 流石に『セシリアが選んだ奴を寝返らせた方が楽だったから』とは言えない。

 

「……そうか分かった。その依頼、受けよう…」

「感謝します」

「ただし前金を倍にしろ、でなければ話は無しだ」

 

 案の定、調子乗りやがったな、この野郎。そりゃお前らが依頼受けてくれないと困るし、セシリアにこの事をチクられたりでもしたら即終了になる。間違いなく、俺にとって最大級の弱味だ。それを分かった上で、吹っかけてきやがった。

 尤も、それも想定の内ってな。という訳で、追加で一千万円二ケース目をポイッと。そして、もう一つ…

 

「前金の上乗せと、貴方達の身の安全。これでどうです?」

「身の安全だ?」

「マグマード氏と和解させて差し上げましょう」

 

 弱味握ってんのはこっちも同じなんだよ。ほーれザマァ見ろ、アイツの名前出した途端、すっかり青くなってやんの。まぁ、無理もないか。ヨーロッパ系のメンバーで構成されたこいつらが、日本で活動する羽目になった原因だもんな。

 

「実はですね、あの人から私の所属する組織に依頼が入りましてね。依頼した品の偽物を掴まされた挙句、報酬を持ち逃げした窃盗団を見つけ出し、落とし前をつけろと。あ、当然ながら御本人達を殺せと言う意味ですよ?」

 

 うーん、良い表情だ。よっぽど怖い思いしたんだろうな、身体もガタガタ震えてやがる。名を変え、顔を変え、国を転々としながら似たようことを繰り返してきたコイツらがこうまで怯えるとは。流石はマグマード氏、旦那の腐れ縁の一人なだけはある。て言うか、むしろ良く逃げ切ったなコイツら。やっぱ優秀なのかもしんない。だったら尚更、変な気を起こされても困るから、もう少し念入りに釘刺しとくか。

 

「こちらも仕事ですから依頼された手前、断る訳にもいかないんですよね。しかしこの窃盗団、タチの悪さはともかく腕は良い。おまけに何という偶然、今の私が抱えている案件には、一流の窃盗団の手が必要なものが。もしも彼等が使えるのであれば始末するのはやめて、怒れる依頼主を説得して助けてあげても良いかな、なんて…」

 

 さてさて、すっかり顔色の悪くなった窃盗団の皆様、ここまでのお話を要約するとこうです。

 金は用意した、命の保証もしてやる、なんなら今後、再び故郷で仕事できるように取り計らってやる。ただし裏切るような真似したら許さん。そして何より…

 

「なんて、思ってるんですけど、どうします? 受けますか、死にますか? あ、一応言っておきますけど、世界のどこに逃げようが、貴方の居場所なんて一分もあれば分かりますんで、悪しからず」

 

 

―――ハナからテメェらに選択肢なんざ用意されてねーんだよ。

 

 

 




最初はセシリアパートで区切るつもりだったんですが、絶対にオランジュの手口を察せられる気がするんで強引にくっつけました。そのせいでかなり長くなってしまいましたが…

次回、敗けた彼女と保護者による反省会
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