「まさか最初に目にする光景が4つの変死体だったとは……予想外だ…」
「いや、誰も死んでないし…半分お前のせいだし……」
そう言われてもなぁ…あれでも最速で振り切ったんだぞ?この学園では相変わらず希少価値が高い男子ということもあり、俺は女子達に結構モテている。まさか、潜入時代に疎ましく思っていたコイツのモテモテ生活と同じようなことを経験することになるとは……人生とは、本当に分からないものだ…。
「で、いつまで不貞腐れてるんだ?」
「……ふん…!!」
本日二度目の千冬さんによる折檻を受けたマドカだが、さっきからずっと此方をジト目で睨みつけ続けているのだ。間接的にとは言え、俺が起爆剤になったからっていうのは理解できるけどさ…。
「悪かったって…けど、こっちも楯無や他の女子生徒に絡まれて苦労したんだよ……」
「…それが気に食わん」
「ほれ、エビとホタテ分けてあげるから…」
「……あーん…」
俺の昼食のパエリアに入ってた具の乗ったスプーンを差し出すと、マドカは一瞬だけ躊躇した後にパクついた。すぐにマドカは俺から視線をずらしたが、普通に咀嚼を続ける口と手に持った箸が止まらないところを見るに、昼食後には機嫌を直してくれるだろう。夜は何か軽いお願い事でも聴いてやるか…。
「……本当に貴方はあの時のマドカさんなのか今でも疑ってしまう時がありますわ…」
「まったくだな…」
この7人の中で最初にマドカと遭遇したセシリアとラウラが何やら遠い目で呟いているが、ぶっちゃけた話、これが彼女の素である。スイッチ一つで自分の命を奪える上司と、口のやたら悪い性格捻じ曲がり女と仕事してる時は流石に自重してクールで冷徹な性格になるが、俺達と居た時はいつもこんなだった。
「…ねぇ、セヴァスとマドカ……」
「ん?」
「何だ、シャルロット?」
自分の口に昼メシの乗ったスプーンを運ぼうとした所にシャルロットが声を掛けてきた。まるっきり同じタイミングでマドカも手の動きを止めている…。
「二人って本当に付き合ってないの…?」
「ないない」
「私がコイツと恋人同士なわけが無いだろ」
―――その瞬間、賑わっていた食堂から音が消えた…
「え?え?どうしたよ、みんな…?」
「どいつもこいつも何だ、そのハトが豆鉄砲くらったような顔は…?」
「い、いや…何でも無い、よ……?」
その割にはえらく引き攣った表情を見せとるが…ていうか、何故に皆さん固まっていらっしゃるの?食堂にいるあらゆる人間がフリーズするという光景は、中々にホラーな光景である…。
あ、一夏だけ俺らと同じ反応してた……何か、それって駄目な気がする…
そんな戸惑う俺らを余所に、シャルロット含む一夏ラヴァーズは同時に顔を突き合わせ、何やらヒソヒソと内緒話を始めた…。
(どう思う…?)
(流石は織斑の名を持つ女と、それに付き添い続ける男と言ったところだろうか…)
(二人してワザとやってるのか、本当に無自覚なのか…判断しかねますわね……)
(私達に色々とアドバイスくれるから、一夏(バカ)とは違うと思ったんだけどねぇ…)
(嫁と一緒で他人の事には鋭いくせに、自分の事となると鈍感なのだろう…)
(…そういえば、お姉ちゃんも呆れてた……むしろ、疲れてた…)
残念だったな6人とも、長い犯罪組織でのエージェント生活で鍛えた地獄耳は伊達じゃねぇんだよ……全部、聴こえてます…。
ていうか、周りの人間たちも似たような会話をしてるな。そんなに衝撃的だったのか、俺達のセリフは…。
「なぁ、セヴァスにマドカ…皆は何を話し合ってるんだ……?」
「……さぁな…」
「知ったことではない」
お前と比較した俺達の恋愛感情について…だなんて教えてやる気はサラサラ無い…。もっともこの前、一夏に直接恋愛関係のアドバイスをしようとしたらラヴァーズに殺されかけ、それに介入したマドカと半ば戦争状態に突入して大変だった…。
ラウラ以外の面々は、意地でも一夏の口から『好きだ』か『愛してる』を言わせたいらしい。自分から告白して、もしも振られたらと思ってしまい積極的になるのを躊躇ってしまうのかもしれない。それを考えると、簪はもの凄く勿体無い真似をしたな……あの不発に終わった告白以来、彼女が再チャレンジしたところを見たことが無い…。
その気持ちは解らなくもないが、実質2年前からず~っと見守る形になっていた彼女らの恋愛事情……それが目の前で繰り広げられ、口出しできる距離にあるのだ。なので最近は、彼女らにダメ出しやアドバイスをしてあげたりしてる。
「いやっはーーーーーー!!俺、参上ーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
―――この相棒(アホ)と一緒に…
「「「「「オランジュさ~ん!!」」」」」
「ふぅはは~!!御機嫌麗しゅう、美少女達よ!!朱色の貴公子、『ランド・レ・パルド』只今参上したっぜくあいんッ!?」
「うるせぇ…」
「何でコイツまでモテモテなんだ?理解できん……」
とりあえず、馬鹿につける薬は無いので俺とマドカの鉄拳をプレゼント。綺麗に吹っ飛んでいくオランジュ…改め『ランド』はその場に居た全員の視線を集めながら壁に激突して崩れ落ちた…。
俺や一夏とはまた違った属性を持ってるためか、アイツはアイツで結構女子に人気がある…。
「お、おおぉう…相変わらず息ぴったりでパワフルな拳だぜ……」
「まだ生きてたか…おい、マドカ……」
「任せろ」
「ストップストーップッ!!椅子、椅子は流石に痛過ぎるからやめてッ!!」
チッ…今日こそこの阿呆専門を葬れる日が来るかと思ったのに、残念だ……。
「ふぅ…私は先に戻ってるぞ……」
「おう、じゃあな」
「おうおう相変わらず仲が良いねぇ、お二人さん?…おっと、失礼マドモアゼル。ついつい取り乱してしまいました……」
「いつも思うけど、あんたキモいわよ…」
「殺生なこと言わないでくれよフェニックス副会長」
「その名前で呼ぶなあぁッ!!」
「ぎらどーがッ!?」
今度は鈴に殴り飛ばされて崩れ落ちるオランジュ。しばらくダメージによってピクピクしていたが、そんな阿呆に対して最初に声を掛けたのは意外な人物だった…。
「ねぇ、ランド…」
「はい!!何でしょう、お嬢!!」
―――なんと、簪である…
俺がIS学園に引き取られたのに対し、オランジュは更識家に引き取られた。あいつも一応仕事はそんじょそこらの奴らよりよっぽど出来る実力を持っており、その腕を見込まれたのかもしれない。まぁ、厳密に言うと引き取ったのは更識家じゃなくて……
「あまり騒がしいと、本音に言うよ…?」
「……すいません…」
コイツを引き取ったのは、布仏家だ。どういう風の吹き回しか、あの“のほほんさん”が名指しで彼を指名したのだ。その時は今の様に顔面を蒼白にし、体をガタガタと震わせていたが最近はある程度この生活にも慣れたようだ。しっかりと簪のパシリ…もとい従者の役目を果たしているそうだ…。
あれ?そういえば、のほほんさんは何処に…?
「ランラン~?」
「ッーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
あれま、笑顔で彼の背後に居りましたか……さらば、相棒…
「ちょっと向こうでお話しようか?」
「…orz」
「本音、やり過ぎちゃダメだよ?」
「お、お嬢ッ!!」
絶望に打ちひしがれるオランジュに差し伸べられる女神(簪)の手…だが、しかし……
「赤毛の2年生と協力して皆の写真を売り物にしようとした件もあるんだけど~?」
「私の分もやっといて」
「神は死んだ!!今死んだ!!」
いや、自業自得だろ…。
「さぁ、逝くよ~」
「ぬあぁーーー!?待って、待ってくれのほほんさーん!!痛たたたたた襟首は掴まないで、首が締まるからッ!!」
結局、ズルズルと引きずられて退場していったオランジュ。何かデジャヴな光景である…。
「ていうか、何をしに来たんだ…?」
「……確かに…」
「シャルロット、アイツはお前の元ファンらしいがどう思う…?」
「この前も言ったけど……有りか無しかで訊かれたら、無しかな…」
―――正確に言うと、最終的にアイツは貴方達全員のファンになりました…。
「…さて、邪魔者は消えたわね……」
「マドカさんも居なくなったことですし…」
「始めるか…!!」
え、何を?と尋ねる暇も無く、俺は一瞬で食堂に居た全員…他のテーブルに座っていた全員に囲まれていた。いつ見ても思うが、この統率力はいったい何なんだ?
「…また、アレか?」
「そうよ」
「一夏はどうした?」
「マドカが食事に下剤を仕込んでくれたようだ。しばらくはトイレに籠ったままだろう…」
オランジュが現れたあたりから何か静かだと思ったら、そういうことか。マドカの奴、俺に対して使ってる下剤は使用してないだろうな?俺以外の奴に使うとアレはちょっと危ないんだが…。
ま、とにかく始めますか…彼女らにとっては恒例の…
「で、今日は誰から相談してほしい…?」
―――セヴァス・六道による、恋愛相談教室を…