BLEACH/the blade works   作:蓼野 狩人

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第一話

尸魂界

 

そこには数多くの死神が住まい、現世にて彷徨える魂を導き魂を喰らう虚を退け世界のバランスを保っている。

 

 死神とは尸魂界の中でも選ばれた者だけがなれる、世界の均衡を保ち魂の平穏を担う特殊な職業。

それ故に死神に成るには必死の努力をせねばならない。霊術院に通い、基本的な戦闘技術や必要最低限の知識を学ばなければならない。

 

 死神としての実務を執り行う護廷十三隊。この中で席官となる条件、それは自らの「強さ」を証明し他の死神から認められること。

この場合の「強さ」とは十三の隊それぞれで求められている物が異なり、また隊で大きな力を持つ隊長・副隊長に認められるようになれば席官になるのはあながち夢物語ではない……認められるまでの道のりが大変ではあるのだが。

 

そして席官として何百年も研鑽を怠らなければ、総隊長や他数名の隊長に認められてもっと上の立場に就くことが出来る。護廷十三隊の隊長、それは尸魂界でも有数の花形職業である。

 

 

 

さて、死神として上を目指すにあたって避けては通れない道がある。

 

斬魄刀の始解だ。

 

死神としての固有の力を発揮させ、虚を倒す為に必要な武器。それと同時に己の最も大切な命を預けるのに相応しい相棒であることを示す重要なファクター。

 

始解が出来なければ数多の隊員達の中で埋もれていくだけであり、また始解が出来なければ席官になる夢は露と消える。

 

 

 始解、それは斬魄刀と共に戦い抜くという決意と絆の証――。

 

 

 

 ……とはいえ、それは戦う志を持つ者が行うことだ。

 斬魄刀を始解することは重要だ。何せ初めに持つ刀である「浅打」に特殊能力は無く、そして一般的に始解するだけでも大きく戦闘能力が向上する。

 

 だからといって、オレは始解を積極的にしようとは思わなかった。

死神になって隊員になるまでならともかく、隊員でいたいなら始解する必要なんてない。

オレは出世して偉い人物になりたいからとか、虚に特別な恨みがあるからとか、そういう理由で死神になった訳じゃない。

 

 

――死神になりたかったのは、誰かを守れる人でありたかったから。

 

現世という場所で、虚に襲われる人々を守りたかったから。

 

 

じいさんが憧れた、恥ずかしいいいかたをすれば「正義の味方」ってヤツになりたかった。

 

 

でも、今のオレは知っている。

世界には一隊員としては立ち向かえない巨悪がいる事を。

 

始解すらできない死神が、どう足掻いた所で羽虫としか認識されないような、そんな相手がいることを。

 

 

「傲りが過ぎるぞ、浮竹」

 

尸魂界に災いを齎すと言い伝えられた旅過が来た日。

 

後々になって旅過に対する罪は無くなって、どうして処刑されるかも分からなかったルキアさんも助かっていたけど、本当の災いは護廷十三隊の隊長三人だった。

 

 

「最初から誰も天に立ってなどいない」

 

 

浮竹隊長への捨て台詞には、己の進む道に対する絶対の自信があった。

 

 

「君も、僕も、神すらも」

 

 

眼鏡を外し、髪を搔き上げた裏切り者――藍染惣右介は、隊員に一切の思考を向けることは無かった。

 

 

「だが、その耐え難い天の座の空白も終わる」

 

 

護廷十三隊であれば誰もが知るような、冷静で優しげな笑みを浮かべる四番隊隊長はもう存在しない。

 

 

「これからは――私が天に立つ」

 

 

ああ、分かった。

理解したよ、藍染惣右介。

 

 

アンタがこれから護廷十三隊に対する悪になるというのなら。

じいさんの愛した平和を穢すというのなら。

 

 

オレが、正義の味方になる。

 

 

 

~・~・~・~

 

 

 

その日からというものの、オレは隊舎の個室に籠ってひたすら始解をする為に瞑想を繰り返した。

 

藍染を倒す為の、あれ程までに強い相手に勝てるような斬魄刀を。

 

 

ただ欲しいと願った。

 

 

でも現実というのは実に非情だった。

 

オレの魂が反映されるという斬魄刀は、それほど強力な斬魄刀じゃ無かったんだ。

考えてみれば当たり前かも知れない。

 

何故ならオレには……五歳の時から記憶が無いから。

 

東流魂街で一人さ迷っていた所をじいさんに拾ってもらったからだ。

 

 

幼い頃からの記憶の積み重ねのないオレが、強い斬魄刀を手に入れられる筈がなかった。

 

 

「山水拓け……『干将・莫耶』」

 

 

右手に黒い短剣、干将。

左手に白い短剣、莫耶。

 

 

これがオレの始解。せっかく希少性のある二刀流だというのに、能力は「複製」と「炸裂」、そして申し訳程度に互いを引き付けるだけの能力だ。

 

 

 

 

 

二刀流の死神なんて今の世には二人しかいない。

一人は京楽春水。八番隊隊長で刀の銘は『花天狂骨』

一人は浮竹十四郎。十三番隊隊長で刀の銘は『双魚理』

 

 

どちらも隊長格として特に有名で、あの名だたる総隊長の山本元柳斎重國の弟子だという。強さも折り紙付きだ。

 

 

でも、あの二人ですら藍染の裏切りを止めることが出来なかった。誰もが藍染に騙され、目の前で逃げるところを止められなかった。

 

ひょっとすれば、オレはどれだけ努力したところで藍染の所まで辿り着くのは無理なのかもしれない。

 

 

それでもオレは前線に出たい。オレの目の前で呆気なく倒された他の死神達を見たくない。

 

 

オレは、もう誰かが死ぬのを見たくはないんだ。

 

 

 

~・~・~・~

 

 

 

霊術院を出てからのオレは、護廷十三隊の中でも雰囲気が落ち着いている十三番隊に所属している。

 

じいさんの話では、ここの隊長は他の隊長格に比べて身体は弱くとも精神が強い、尊敬出来る人物らしい。

 

誰もが慕う性格。

誰もが認める志。

誰もが驚く強さ。

 

 

オレがじいさんの次に尊敬して止まない人であり、じいさんが死んだ後は後継人をしてくれている第二の父親でもある。

 

「やあ、士郎君。今日も清々しい良い天気だね!所で一つ相談が……」

「席官の話であれば断りますけど?」

「……むぐ」

 

部屋の中から突然話しかけるのは素直にやめて欲しい。ここ最近は毎朝隊舎裏の鍛錬場所へ出向く度に、いつも早起きを心がけているらしい浮竹隊長に勧誘されてしまう。

 

「いやいや。僕はほら、こうして身体が弱いわけだし、席官もそこそこ空いているんだ。ルキア君を就けてもいいとは思ったんだが、君の才能は本物だ。是非着任して欲しい」

 

穏やかな笑みで勧誘してくる浮竹隊長。子供の様な無邪気さに、どこか大人の落ち着きを感じさせる微笑みだ。

こうして席官に誘われるのは今回が初めてではない……とはいえ、いつも油断してしまう程にこの人の笑顔には他人を惹きつける何かがある。

 

それでも、断るしかないことが残念だ。

 

「僭越ながら、オレには実力が伴っていません。鬼道が全く出来ず、始解も出来ない死神が席官に就いても周囲の目が厳しいでしょう」

 

噂によればどこかの隊には斬魄刀を持たない副隊長がいるそうだが、その代わり鬼道に精通していると聞く。なんでもその副隊長は、かの有名な鬼道衆に居た経歴があるそうだ。

斬魄刀に頼らず生きるというのは大変だろうし、何らかの事情があり仕方が無かったのかもしれない。

 

何にせよ、周囲の目を気にせず気を強く持っているというのは、素直に凄いことだと感じる。まだまだヒヨっ子であるオレには出来ない生き方だ。

 

「僕は是非、君に席官を埋めて欲しいんだけど……仕方ないな。今日も僕の負けか」

「鍛錬が終わったらまたお茶でも煎れますよ」

「それは本当かい!?君のお茶は隊士の間でもよく噂になっているからね。是非頂きたい」

 

やや真剣な表情での勧誘から、お茶に喜び空気をガラリと帰る浮竹隊長。この人の底が知れないなあと思う数多くの何気ない一幕だ。

 

……本当は始解できるんだけど、それは言わないでおく。オレの考えを知れば、浮竹隊長に否定されるかもしれないからだ。

 

 

「おう、エミー。支度できたか」

「その呼び方はやめてくださいよ、芋山先輩」

「俺は芋山じゃねーよっ!エリート死神の!車谷善之助っ!!」

 

 アフロ頭をぶんぶん回しながら主張するこの人は車谷先輩。先日、朽木さんが捕らえられた際に代わりとして空座町に割り当てられた死神だ。

 

 

「ああ、そういえばこれから任務があるんだったな……とはいえ、まだ時間がある。よければ君、士郎君の鍛錬に付き合ってあげたらどうだい?」

「え、ええ?俺がですか?」

 

明らかに焦り始める車谷先輩。こういう俗っぽいところは嫌いじゃないんだけど……。

 

「いやー、オレはその自称エリートってだけでですね?腕は伴っていないというか」

「成程!それなら尚のことだ。斬術においてとても優秀な士郎君に学ぶ所があるのではないかね?」

「え、ええーと……」

「エリート死神に足りない物を、後輩から拾う。中々に素晴らしい事じゃないか」

 

相変わらず口が上手い隊長と、相変わらず流されやすい車谷先輩との話し合いでは結果は明らかだった。

 

「ええい、エミー!もし俺が勝ったら西流魂街の特製饅頭おごれよ!」

「ではオレが勝ったらまた休みを下さい」

「……ぐっ!」

 

芋や……車谷先輩の要求した饅頭は一日限定100個の希少かつ高級な品だ。丁度休みを取って一人で鍛錬したいと思っていたし、車谷先輩の要求した品を考えれば有休一つで釣り合いが取れるだろう。

 

「ええ……まじか……。俺が一人で派遣されるとなれば仕事量が五倍くらいには膨れ上がるんだが……」

 

顔を青くする先輩だったが、やはり名店の饅頭が欲しかったのか、それとも隊長の目の前で断るのは嫌だったのか。15分後には鍛錬場で向かい合っていた。

 

死覇装に殺傷性のない木刀(当たると痛い)を携え、オレと芋……車谷先輩が互いに向かい合う。中央には浮竹隊長の頼み事なら何でも二つ返事で了承してしまう、虎徹清音三席が判定人として立っている。

しかし、浮竹隊長もまた観客として鍛錬場の隅に佇んでいた。オレの顔を微笑みながら眺めている……この人、実はひょっとして暇なのだろうか。

 

 

「それでは両者、剣を構えっ」

 

 

虎徹三席の声に逸れていた意識を引き戻し、木刀を両手で青眼に構える。この勝負に勝てば久々の有給で自分の鍛錬に集中できる。空座町は虚の出現数が多いので実戦経験は積みやすいけれど、やはり実戦ばかでは基本を忘れてしまいがちになる。

ここはどうしても勝ちたいところだ。

 

……目の前の相手、芋山先輩の構えに集中する。眉間に皺を寄せて此方を睨みつけている様子は隙が無い、訳では無い。先輩には悪いけれど、むしろ隙は目に見えて大きい。

 

オレに向ける軸足の震えは止まらず、視線は一点に固定されている。瞳孔が開き、手から手汗が滴り落ちている。

霊術院の基本的な剣術を修めた者としてとして身につけた構えは意外にもしっかりしているが、肝心の精神が追いついていない様子だ。

 

やはり隊長の立ち会いはプレッシャーが大きいだろうか。

 

そんなことをつらつらと考えているのは別の自分であり、オレの身体は既に一歩目を踏み出している。肩の力を抜き、息は自然に任せる。

意識するのは常に目の前の相手だ。

 

「……ふっ」

 

息を吐いて、二歩目。芋山先輩の額から新たな汗が一筋垂れる。

剣を知らない流魂街の住人が見ても分からないであろう、剣術に置いて最も大切な読み合いの時間。空気を気力で繋ぎ続け、如何にして勝てば良いのかを探り続けなければ相手に負ける。

 

「――オリャア!」

 

瞼が動く。

瞳孔が開く。

口の端が一瞬痙攣する。

 

これだけの前兆があれば、声が耳に届く前にでも反応できる。

 

振り上げた木刀が一直線に落下する時間を縫って、一足飛びに刹那を数えて三歩四歩五歩。

 

あとは振り下ろすだけだ。

 

「フッ」

 

力を込めず気迫を込める。

俺が詰めに詰めた間合いから放った斬撃は、込められた霊力の威力も乗って、木刀にしてはいやに静かな衝撃で芋山先輩の腹にくい込んだ。

 

「ゴファ!?」

 

目を剥いた芋……車谷先輩は木刀から手を離し、そのままアッサリと仰向けに倒れていったのだった。

 

 

「勝負ありっ!!」

 

 

 

~・~・~・~

 

 

 

急須というのは実に素晴らしい発明だと思う。お茶を淹れることだけに機能を特化させ、余計なモノを排除している。だからといって飾りがついている急須を否定するつもりは無いけれど、やはり模様が無く、落ち着きのある色合いが急須に相応しいと思う。

 

オレは結局車谷先輩を打ち負かしたことによって、有給を勝ち取ることが出来た。個人的には「上司が認める有給」というのは後腐れが無いので楽だと思っている。

勝負の結果とはいえ、車谷先輩には感謝しないとダメだろう。

 

 

「なんでさ〜〜!!」

 

 

車谷先輩の嘆き声は。奇しくもオレの口癖とそっくりだった。

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