BLEACH/the blade works 作:蓼野 狩人
縁側で隊長と車谷先輩も交えてお茶を飲んだ翌日は、流石にすぐ有給を貰う訳には行かなかったので空座町への勤務となった。
空座町、というのは近年になって多く虚が出現する地域である重霊地となっている。最近になって現世の人間が瀞霊廷に侵入する事件などもあったが、その人間達が住む場所でもあるそうだ。
「
地獄蝶の導きで辿り着いた空座町を見下ろして、車谷先輩は溜息をついた。
それもそのはずで、重霊地故に大量発生する虚の大半を例の死神代行が処理する一方、その虚に関する報告書等は担当の死神が担っているからだ。
「でも、オレ達では間に合わなかった案件も沢山あるじゃないですか。確か――黒崎一護、でしたっけ」
「ああ、その通りだ。癪に障るけどな」
現世に着くと、今度は伝令神機に書かれている場所まで移動する。今回はどうやら虚が四体ほど一度に出現したらしい。
「どーせ今回の件でも間に合っちまっているんだよ、どーせな」
もちろん、間に合った方がいいのは間違いなく有難いことではある。けれども、彼の活躍で経験が積められないのは些か不満だ。
果たして、現場に辿り着いたオレ達が見たのは消滅していく虚の姿を背にして立つオレンジ髪の青年だった。
「……うおおおい!!虚は!?他の虚は!?」
叫び出す車谷先輩に気付き、青年――黒崎一護が振り返る。
「よぉ、芋山さん。たまたま近くにいたら代行証が鳴り出したからよ、先に片づけさせて貰ったぜ」
「まーた近くに居たって言うのかよ!!お前は虚を引き寄せる体質でも持ってんの!?あと俺の名前は車谷善之助!!」
確かに、黒崎一護の近くに虚が出現する割合は高い。具体的には5回に4回は黒崎一護が間に合っているし、間に合った上で虚を必ず浄化している。まるで行く先々に事件が起きる名探偵のような遭遇率だ。
「んー、俺は別にそんな事無いと思ってるけどな。むしろ空座町の虚が多すぎじゃね?なんか重霊地とか聞いたけどよ」
「確かにそうですね、前任のルキアさん一人が担当の時はよく乗り切ったものだと思います」
オレが話を合わせると、黒崎一護が不思議そうな顔で振り向く。
「アンタ……喋るんだな。初めて見た時は全然喋らねーなーとか思ってたんだが」
「それは何というか、心外ですね。オレも喋る時は喋りますよ。喋る事が無いだけです」
「…………」
何故だか、黒崎一護が嫌そうに身じろぎした。
「お前、ひょっとしてルキアと同年代か?見た目の年齢的に敬語使われると気持ち悪いんだが」
「そうですか……それならまあ」
基本的には敬語が楽だと思っていたのだけれど、指摘されたのであれば仕方がない。
「よろしく、黒崎一護。オレの名前は衛宮士郎。芋山先輩と同じ十三番隊だ」
「おう、そっちの方がいいぜ士郎。あと俺の事は一護で構わねぇよ。ルキアや芋山さんと同じ十三番隊なら安心だし」
「……オイィィィ!!俺の名前は!!車谷!善之助!エミーもそいつに引っ張られて名前間違えんな!ってかなんで同僚の名前間違えるんだよ!」
「あっすみません……先輩の印象とあまりに噛み合っているもので」
「いやー俺もなんか芋山さんって呼び方が板に着いちまってさ」
「はぁぁぁぁぁあ!?」
まだまだ文句言いたげに口を尖らせる芋…車谷先輩だったが、それを遮るタイミングで突如として巨大な霊圧がのしかかってきた。
ミシミシミシッ
空が罅割れる音が聞こえる。大気が騒めく気配がする。身体が……酷く重い。
「こ、この霊圧はまさか……!!」
先輩、オレ、一護が上空を仰ぎみると、そこには黒々とした空間が口を開けていた。禍々しい霊圧が周囲一体に吹き荒れる。
「「「
虚圏と現世を繋げる異空間にして、虚の侵入経路。そしてあの藍染が逃亡した際に使用した扉でもある。
「まさか、来るのか!?」
「ひいいいいい!!」
一護がその包丁にも似た大きな刀身を正面にかざし、車谷先輩もまた怯えながらも未開放状態の斬魄刀を構える。
「卍解……!!」
虚のものとは違う、死神特有の霊圧が収縮し、弾ける。
「『
死覇装が洋装を思わせる意匠に変わり、あれほど大きな斬魄刀もまた黒い直刀へと姿を変える。これが……これが、行方を阻む数多の死神の妨害を乗り越え、ルキアさんを処刑される運命から救った卍解……。
「ボーッとすんなエミー!!俺達も行くぞ!」
ガクガクと震える膝を抑えつつも、車谷先輩も斬魄刀に呼びかける。
「仕事の時間だ!お早う、『
斬魄刀の形が変化し、右手に輪を形成する。確か円月輪、という種類の武器だったか。鈍色の光を放つその刃はどこか泥臭い生き様を感じさせられる。
「エミー、俺は『土鯰』でひたすら足止めする!お前は伝令神機で連絡した後で俺のカバーを頼むぞ!死神代行は恐らく死なねーだろうが、俺達があの藍染に会えば死ぬぞ!!生き延びることを考えろ!!あとは虚を出来るだけ倒しとけ!!」
早口で指示を出す車谷先輩に従って、思考を斬魄刀から引き剥がして伝令神機の緊急連絡モードを起動して現在の状況を入力する。
「――――オラよっ!!」
黒腔から溢れた虚を一護は矢継ぎ早に処理していく。斬魄刀が始解に較べて卍解の方が小さくなる場合、個人の身体能力がより高まるという噂を聞いたことがあったが、どうやら本当かも知れない。卍解によって一護のスピードが格段に上昇し、目にも止まらない速さで上空を駆け巡っている。
「こっちも来たぞ!」
車谷先輩が叫ぶと同時に『土鯰』を地面に叩きつけると、地面が鳴動した。斬魄刀の能力により操られた土や岩が正面から押し寄せてきた虚に絡みついていく。オレは計六体の虚が捕まったことを確認すると、腰の浅打を抜いた。
「―――ハッ!!」
気迫を込めて、刀を地面と並行に構えて走り出す。固定された虚もそのまま殺られる気など無く、身じろぎしながらも鋭い爪を振り回したり、緑色の霧を吐き出したりと色々いる。
その中を、最低限の動きで躱しながら瞬歩で移動する。虚の弱点は顔面――だったか。時には首を飛ばし、時には腕ごと頭部を唐竹割りに、時には浅打を鍔まで深々と顔の中央に突き刺す。
「先輩、処理出来ました」
「よっしゃ!でかした」
車谷先輩が嬉しそうに親指を突き立ててきたものの、歪なヒビ割れのような黒腔は開いたままだ。
そして、その影から巨大な仮面が顔を覗かせていた。
「あ、あれは……!?」
「おい、二人共!無事か!?」
目では見ても頭では「そんな馬鹿な」と考えていると、上空で飛び回る虚を全て片付けた一護が降りてきた。
「ハッキリとは見えねえが、恐らくは間違いねぇ!
確かに、黒腔の向こうでは鼻のとがった特徴的な仮面が四つ蠢いている。周囲の霊圧はどんどん圧力を増し、恐らくは見えている範囲以外にも大虚が殺到している事の予想がついた。
「エミー、恐らくは技術開発局の連中も察知しているだろうが、一応追加で連絡しとけ」
「先輩、どうするんですか。これだけの数となれば死神代行だけでの対処は難しいですよ。逃げるのはお勧めしません」
それに、大虚がこちら側に入ろうとしている合間にも別の虚達が次々と湧いている。雑魚だろうと仕留めなければ、空座町の住民にも被害が及ぶだろう。
「……分かってるんだよ、そんな事は!!」
車谷先輩はそう言うと、始解状態の斬魄刀を持ったまま来た道を引き返し、穿界門近くに駆け寄ると――正面に向き直って陣取った。
「おい、エミー。お前はもう帰っとけ。始解も出来ねぇ平隊員じゃあ処理しきれねぇだろ。俺が足止めしておくさ」
「い、芋山先輩……そんな……」
「何故今間違える!?」
芋……車谷先輩が目を見開くも、やはり「フッ」と笑って先程の覚悟を決めたような顔に戻る。
「俺はここで足止めするからよ、いいか。振り返らずに走れ」
歯を見せて快活に笑い、『土鯰』を構えた先輩は――横から飛んできた奇妙な虫に黄色い気体を吹きかけられ、地面に昏倒した。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!聞いちゃった聞いちゃった!!ボクちん聞いちゃった!!雑魚死神を逃がそうとする健気な死神の話を聞いちゃった!!」
車谷先輩が倒れ伏した背後の影から、猿のような姿をした虚が出てくる。
「こーれで一丁上がり!!おねんねした死神と、始解も出来ない死神を殺せる!!殺せる!!」
「……」
どうやら、死神についてどこかで情報を集めていたようだ。
「あの黒い奴も大虚の対処で大忙し!後はお前独りだ!これはいいねぇ!!実にいい!!」
ケラケラケラケラケラケラケラケラ。
笑う虚。迫る影。倒れた死神。
いつの間にか、大口を開けて迫るあの虚がいて、そして。
誰かに、助けられたのではなかったか。
「ああ、良かった」
「君が生きていてくれて、良かった」
涙が溢れていた、自分を助けてくれた人の顔を。
今も、覚えている。
「お前も眠っとけ、雑魚がぁ!!」
抵抗力を奪って殺しやすくするためか、猿のような虚が指示を出し、虫が正面から気体を吹きかけようと殺到してくる。
「……今なら、誰も見ていない」
オレは浅打を正眼に構え、斬魄刀の改号を叫んだ。
「山水拓け、『
~・~・~・~
黒崎一護は、虚を全力で処理しながら現状について思考を巡らせていた。あの巨大な黒腔から虚が次から次へと溢れてくる以上、黒腔を閉じなければ話にならない。しかし黒腔の閉じ方なんて自分は知らない。向こうが勝手に帰ってくれたことが一度あったが、今回はどうも勝手が違うらしい。
(そもそも、みんな何やってんだよ……!)
チャドや井上はともかくとして、石田が来ないのはおかしい。この街にいる滅却師としては、目の前で大量発生する虚を見過ごすわけがないのだ。そもそもこの街には浦原さんもいるはずであり、空座町に殺到する虚を前にして何もしない訳もないのだ。
(いや、待てよ。ここだけが虚の発生地点とも限らねぇ……)
その事に思い立った一護は、大虚の仮面を狙うために上空へと飛翔しつつ、空座町一帯を遠望した。
「!?」
すると、やはりと言うべきか。北の方と東の方でそれぞれ黒腔が口を開けており、中から大量の虚が湧き出ている。北の方では水色の光が雨の如く虚を射抜き、東の方では紅色の光が時折閃くのが見える。
(つまり……これは虚を三ヶ所にぶちまけているって事かよ!!)
道理で現世側の味方がこちらに来ない訳だ。もしかしたらチャドと井上は石田の所で戦っているのかもしれない。
(クソッ、これは不味い……尸魂界からの救援はまだか!?)
大虚の前で振りかぶった天鎖斬月を切り下ろしつつ、叫ぶ。
「月牙……天衝!!」
しかし、まだ虚化をコントロール出来ない自分が放つ月牙は、大虚に傷こそ付けられたものの一撃で倒せはしなかった。
「畜生……!」
下で戦っている2人の状況も気になるが、今は大虚で手一杯の状況だ。一体を狙っている間に残り三体が同時に放った虚閃を避けつつ、一護は再度刀を振りかぶった。
その時。
大虚の足元で何かが大量に炸裂し、大地を鳴動させた。
~・~・~・~
始解状態である瓜二つの斬魄刀『干将・莫耶』の特徴は、簡単に纏めると三つに絞られる。
「なんだァ?お前斬魄刀を始解出来ないんじゃ……おっと!」
まず、互いに引き合う力が働くこと。
「いきなり投げるとか、正気じゃねえ…アグッ!?」
この力により、投擲された『干将・莫耶』は互いの中央に向かって引き合う為、単純なブーメランよりもより鋭角な軌跡を描いて空中を移動する。今投げた二刀は正面の虫を全て切り裂いた後、飛んできた刃を躱した虚を背後から軌道を曲げて奇襲した。
「グッ……貴様ァ……!!何故また斬魄刀を……!!」
次に、複製能力。霊力をある程度消費することで、『干将・莫耶』を新たに造り出すことが出来る。手元に無くなったとしても常に補充出来る上に、斬魄刀が破損しても気にする心配はない。
「む、虫よ!!早く奴を眠らせろ!!」
向かってくる虫を全て両手の斬魄刀で直接切り払う。破裂して飛散する気体直接吸わなければ問題ない。
「う、うおおおおおおお!!」
最後に、自爆能力。全ての虫を総動員させて襲ってくる虚に向けて『干将・莫耶』をさらに三組ほど投げつけた後に、斬魄刀を構成する霊子に呼びかける。
「!?」
霊子を純粋なエネルギーに変換し、全ての『干将・莫耶』を炸裂させる。地面に落ちた全ての『干将・莫耶』は閃光を放ち――
「ぐうおあああ」
虫使いの虚の全身を余す頃なく吹き飛ばした。
「…………」
バラバラに吹き飛んだ虚を確認して、オレはまず車谷先輩の息を確認した。催眠ガスらしきものを浴びせられて気絶こそしているが、幸い目立った外傷もない。
ひとまず先輩を仰向けに寝かせると、正面に向き直り、新たな『干将・莫耶』を両手に呼び出し、構えた。
「オレは……『正義の味方』になると決めたんだ。救援が来るまではオレが持たせてみせる!!」
第一話では勝手ながらアンケートを取らせていただき、多数の方から「連載して欲しい」との声を頂いたので、第二話を執筆致しました。とはいえ、作者自身がまだまだ未熟な面が目立ちますし、「連載して欲しくない」との声があったことも事実です。出来ればより多くの読者様に「面白い」と感じていただける連載になればと思います。
また展開に悩んだ時は、最新話にてアンケートを行いたいと思います。