BLEACH/the blade works   作:蓼野 狩人

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回想回


第六話

隠密起動、と呼ばれる組織がある。

尸魂界における実行部隊の一つであり、主に「裏」を管理する役目を負っている。彼らは護廷十三隊等の「表」とは別に秘密裏に罪人の処刑や捕縛を行い、また死神同士での情報のやり取りが彼らを通じて行われることも珍しくはない。

現世で言う所の「忍者」が近いだろうか。この隠密起動に属している人間の多くが瞬歩と白打に秀でており、組織の構成は役割ごとに五つの分隊がある。

 

第一分隊・『刑軍』、隠密起動の最高位。主な役割は処刑。

第二分隊・『警邏隊』、瀞霊廷内を担当。主な役割は諜報。

第三分隊・『檻理隊』、罪人管理を担当。主な役割は収監。

第五分隊・『裏廷隊』、十三番隊で活動。主な役割は伝達。

 

…だが、第四分隊については存在そのものが「表」に語られることが滅多にない。これは情報が制限されていることも理由の一つではあるのだか、活動内容そのものが物騒であり、また秘密に行われることを前提としているからである。

 

第四分隊・『誅罰隊』、四十六室の直轄。

 

主な役割は、暗殺。

 

 

~・~・~・~

 

 

衛宮切嗣は、死神として二流であり邪道であると言われた男である。

彼は二番隊第十席という肩書を持ちながら、誰も彼が始解した所を見たことがない。第十席という地位にありながら始解すらできないのは何らかのコネを使ったからである、と噂する者もいた。

また現世において虚討伐を行う際には、絶対に斬魄刀を抜こうとしなかった。

十二番隊が現世における兵器を真似して製造した、使用者の霊力を用いて扱う銃火器を駆使して徹底的に虚を痛めつけた上で、パートナーの死神に止めを刺させるという手段を好み、自身は整の魂葬を行う時ですら斬魄刀に手を付けない。また敵の虚が強大な時には手段を選ばず、利用できるものはパートナーだろうが現世の建造物だろうが全て利用する。

 

冷酷かつ常に冷静でありながら、死神らしく斬魄刀で戦わず、虚と絶対に正面から立ち会わない。残虐でありながら腰抜けとみなされる矛盾した印象を持つ男。それが衛宮切嗣だった。

 

しかし、彼の真の顔を知る極僅かな死神は、彼の事を心の底から恐れていた。

あの『誅罰隊』で長を務め、収監も処刑も容易ではないと見なされた大罪人を葬ってきた得体の知れない実力者。中央四十六室が今日まで権威を保ってこれたのは、『誅罰隊』の存在あってこそであるとの話も流れたが、その噂は三日もしないうちにパタリと止んだ。

 

以降、誰も無闇に『誅罰隊』の話をしなくなった。

 

「……四十六室からの新たな依頼か。上流貴族の暗殺…雇っている人員は死神崩ればかりだな」

 

その『誅罰隊』の拠点は、四十六室の地下にある。地下とはいえ特殊な機材や鬼道を駆使した結界により、存在が隊員にしか分からないようになっている。また隠密機動の同胞である浦原喜助の手により、霊圧感知や霊子計測等の様々な認証をくぐり抜けなければならず、侵入はまず不可能である。

 

「衛宮様であれば、対象が例え山本元柳斎重國であっても暗殺は可能でしょう。死神崩れなど、何を案ずる必要があると言うのですか」

 

切嗣の隣に控えた女性の隊員の発言通り、死神崩れなど開発局から技術提供して貰った兵器によりどうとでもなる。格上だろうが関係なく、全員を等しく倒せる切り札があったからだ。

 

「……いや、この貴族の近辺には僕の親類が住んでいてね。下流貴族・衛宮家の代表として食事会に連れ出されるかも知れない」

 

「そう言えば衛宮様の実家はどちらの分家で?」

 

「綱彌代家さ。彼らが自分の手元にある下流貴族に興味なんて示すはずがないのに、僕がいると言うだけで価値を見出したらしい」

 

「綱彌代家、ですか。貴族の中でも最上位となれば断るのも難しいですね」

 

綱彌代家。現在の四大貴族と呼ばれる尸魂界の貴族達の中でも一際逆らいがたい名家である。彼らの命令は四十六室からの指示ですら捻じ曲げてしまえる程であり、彼らの言葉を無視するには大きなリスクを冒す必要がある。

 

「件の上流貴族の所属も綱彌代家の様だが、綱彌代家にも覚えがあるような人柄の良い当主らしい。が、裏では流魂街に薬物を流し、独自に虚を作っているそうだ」

 

切嗣が懐から薬包紙を取り出し、机に置いて拡げる。中には黄土色の粉末がひとつまみ程入っており、独特の臭いが漂っている。

 

「涅君に解析を依頼したが、どうやら四番隊舎から盗み出された植物を品種改良した産物らしい。繁殖させるのに必ず人の手が必要だそうだ。ということは、まず間違いなく地下に畑を作っていると見ていい。結界の有無や人の出入りを調査したが、庭園や屋内にそれらしき形跡は無かったからね」

 

「しかし、どう致しましょうか。正面から踏み込もうにも地下への入口が分からなければ…」

 

「その点については心配御無用ですよ、久宇サン」

 

突然現れた気配に、女性隊員――久宇舞弥は腰の斬魄刀を振り向くと同時に抜き放ち、無言で始解を行い、筒型の先端を背後の男、その喉元に突きつけた。

 

「おっとぉ、危ない危ない。いやー我ながらみっともない真似をしたみたいっすね」

 

「いつもそうやって現れるのは、こちらとしても心臓に悪いから止して欲しいがね。久宇が殺気立つのも仕方がないだろう」

 

切嗣は突然の訪問者――浦原喜助に対して至って冷静だったが、隣の舞弥は斬魄刀を構えたままだ。舞弥にとって、切嗣は従うべき唯一の人であり、切嗣の考えている事をほぼ常に把握している。その舞弥が警戒を解かないということは、即ち切嗣の警戒心も解けていないことを意味している。

 

「――貴様、何をしに来た。調査の報告は済んだはずだろう」

 

舞弥が斬魄刀の先端を僅かに逸らす。心臓の位置を確かめ直すように。そして握りも若干指をずらして余裕を作り、不審な動きを見せた場合に即行動に移れるように調整する。

 

「悪いんですが、ちょいと切嗣サンに内密のお話がありましてね。通信や鬼道で伝える訳にもいかないんで、直接話に来たっす」

 

浦原は久宇の斬魄刀にも構わず、ゴソゴソと袂をまさぐって取手の着いた紙箱を取り出した。

 

「まあまあ久宇サン。これでもドーゾ」

 

机の上にトンと置かれた紙箱、その縁のシールを剥がした浦原がカパリと開くと、中に入っていたものは――ニューヨークチーズケーキだった。しかもホール丸ごと一個分。

 

「こちらのニューヨークチーズケーキは、空座町に日本国内の四号店として進出を果たしたイギリスの銘店『Edel』の逸品。その透明感のあるしっとりした味わいと見た目から『Amber』と名付けられた、とにかく美味しいケーキっす」

 

浦原が語り終えた次の瞬間、ケーキ及び久宇舞弥の姿が消失していた。

 

「うん……別に現世のお菓子を差し入れるもの、そのお菓子の高級さで話題の深刻さを伝えるのも構わないけどね、浦原君」

 

切嗣は何とも言えない表情で席に着く。向かい側の席に着くよう浦原を促し、懐から煙草を取り出し一息ついた。ふと久宇へ意識を向けると、隣の部屋ではどうやらケーキ祭りが始まっているらしい。

 

「その、アレだ。久宇で遊んではいやしないだろうね」

 

当然の疑問に、浦原は堂々と「その通りっす」と返す。

微妙な沈黙が流れた。

 

「……いやー、ボクは現世に興味を持って、研究以外にも色々と関わっている立場なんすけどね。久宇サンみたいな現世の事物をすんなり受け入れる死神は面白いんすよ。ついつい差し入れをしたくなるくらいには」

 

「成程。今回の報告も、君が興味を持つ現世に関する話題かな」

 

切嗣が冷静に話を切り替え、浦原もそれを読み取り真面目な表情に戻った。

 

「ええ。実は現世の霊力の流れを計測したところ、新たに穿界門が開かれた形跡が見つかりました。ボクの研究を盗んだ輩が作ったらしく、痕跡を辿るのは容易でした。すると繋がっていた先が今回の依頼である屋敷の地下でして、恐らくは件の麻薬が現世に流れているものかと」

 

「現世でこの薬は入手できたのか?」

 

「それらしき薬が流れていたので、調べると成分が完全に一致しました。まだ現世では裏側にて一部のみが知る程度ですが、供給元を立たなければ現世の混乱を招きます」

 

「四十六室の目を盗んでまで現世に薬を流すとはな…ふむ、四楓院君には伝えたのかい?」

 

「ええ、伝えておきました。今回の件は刑軍に一切知らされていないそうです。いつも通りです」

 

「貴族の尻拭いか、刑軍が羨ましいね。尸魂界は尸魂界である限り、僕達のような存在がいつまでも必要とされ続ける」

 

「……そうっすね。確か切嗣サンの理想は…」

 

「ああ、昔から何も変わらないさ。『正義の味方』。死神間の掟に縛られず、ただ人々が笑って過ごせる世界を守るために悪を討つ。一度凋落した衛宮家の身でありながら、それを叶えるために此処を目指したんだがね」

 

少し虚ろな目で煙草の煙を追った切嗣だが、彼の心には嘗て失った大切な人々の姿が映っていた。

 

「それでだ、浦原君。侵入にその半端な穿界門は使えそうかい?現世は尸魂界よりも警戒が薄くなるだろう。見張らせているのも死神ではなく人間の可能性が高い。屋敷から強行するより穿界門を強行する方がリスクが少ないはずだ。連中もまだ、穿界門を暴かれた事に気付いていないだろう」

 

「ええ、ボクもそれを提案しようと考えていたところです。ウチの穿界門から現世へ出てば、正規の穿界門に記録は残りません。穿界門の向こう側が解析出来てないのが不安要素ですが、そこは戦力でカバーするのが一番かと。少数精鋭っすね」

 

ここでチラリと浦原が切嗣を見ると、切嗣は応用と頷いて、

 

「では僕と久宇だけで」

「なーに言ってるんですか!ここまで大罪を犯している連中っすよ!?切嗣サンと久宇サンじゃ足りませんって!ここはボクと夜一サンも連れていってくださいよ!」

 

浦原はズバーン!と机を叩きつつ捲し立てた。身を乗り出す浦原。翻る隊長羽織。その襟を、白い閃光が貫いた。

 

「……浦原喜助、騒がしいぞ」

 

穴の空いた障子の向こう側では、完全詠唱破棄の鬼道「白雷」を放った姿勢で浦原を睨みつける久宇の姿があった。口の周りにチーズケーキの欠片を付けたままだった。

 

「す、すみませんでしたー……」

 

浦原が冷や汗をかきながら席に座り直し、またもやチラリと切嗣を見る。久宇の白雷にも動揺せず目を瞑って何事か考えている様子の切嗣だったが、今までの戦いを振り返り、大切な人を無くした全ての記憶を辿り、最後に自分を慕ってくれた後輩の二人組との今までを回想した。

 

「ふむ、いいだろう。四楓院君と浦原君にも手伝ってもらおうかな」

 

その言葉を聞いた浦原は、少しだけ驚いた顔をして、そして少しだけ口元を緩ませたのだった。

 

 

「で、どうじゃった喜助。切嗣さんの了承は得られたかの?」

「何とかなったっすよ。隊長羽織に穴が空いちゃいましたけどね。で、どうしてそんな事させたんすか?」

 

四楓院家の地下にある空間で、お互いの拳を交わす。浦原は夜一に対して白打の技術は劣っているが、二人は昔からよく鬼ごっこから剣術、白打の訓練をしていた。ちなみに瞬歩や白打は夜一の方が上なのだが、浦原は剣術で夜一を上回り(そもそも夜一は斬魄刀が好きではなかった)、その上自分の発明品で囮や罠を平然と仕掛けてくるので全体的な勝率は五分五分だった。

 

夜一の肩を狙った右手突きを避け、地面に手を付きつつしゃがんだ浦原が地面スレスレの回し蹴りを放つ。余裕で避けた夜一が次の瞬間、空中で身を捻ると背後から現れた浦原の手掌が空を切る。

 

そんな戯れのような組手を三十分以上続けながらも、話は続いている。

 

「切嗣さんの過去は知っておったからの、今まではいくら心配でも手が出せなかったのは悔しかったんじゃよ」

「今までにも散々手を回してきたってことは、ボクも切嗣サンも知っていると思いますがねぇ……ッ!」

 

嫌な気配を察知した浦原が全力で身を捻ると、夜一の踵落としが浦原の眉を掠った。そのまま地面に突き刺さった踵で地面がひび割れ、亀裂が半径3m程の範囲に刻まれる。

 

「ちょ、怖……そんなに嬉しいもんですかね?」

「当たり前じゃろう喜助!儂らを色々と助けてくれた上に、護廷十三隊所属の死神としては先輩の立場にあたる人じゃぞ?儂らが頼っても、あの人が儂らを頼ることは全然無かったからのお!」

 

ニコニコと笑う夜一に、浦原はため息をつきつつも安堵の笑みを浮かべた。

切嗣の過去は既に調べあげている。彼は過去に関わった全ての親しい人を失ったトラウマを持ち、自分が一から育てた戦闘機械に近い久宇しか信用していないし、自分の案件には他の誰も関わらせようとしない。

 

それが、二人には嫌だったのだ。

充分に強くなって、いつかあの人の理想を共に追いかけられる様になろうと言い合った。修行を積み、研究を重ね、遂には切嗣に認めて貰えたのだ。浦原にとっても、本人の自覚よりずっと嬉しいと感じている出来事だった。




次も回想回です。

一年ぶりの更新となります。お久しぶりです。また気が向いたら更新しますね
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