BLEACH 〜Higher Than That Moon〜   作:虹捜索隊

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第3話 霊王の右手と右脚

 

 

 

「卍解。」

 

三歩剣獣四重野晒(さんぽけんじゅうしじゅうのざらし)。」

 

解号を言い終えると剣八の肌は赤黒くなり、額には二本の角が生え始めた。

 

「ウォアアアアアアア!」

 

剣八が獣の様な唸り声を上げると、次の瞬間にはゴーレム達は真っ二つに斬られていた。

 

目にも留まらぬ速さで剣八が斬撃を浴びせていたのだ。

 

脊髄の神経は瓦礫を求め伸びていくがそれもまた斬られていく。

 

 

「コノママデハ、、、。」

 

脊髄はメダリオンの存在を思い出し、剣八の卍解を奪おうと考えた。

 

そしてコートの中に手を入れメダリオンを掴んだときだった。

 

 

「アレ?」

 

脊髄の視界はどんどん上へと向いていく。

何が起こったか理解できなかった。

 

 

脊髄は手で掴んだメダリオンごと体を真っ二つに斬られていたのだ。

 

「ナン、、、ダト、、、?」

 

しかしすぐさま上半身の切れ目から神経が下半身へと伸び再生していく。

 

 

命の危機を感じた脊髄はすべての神経を集め、巨大な山の様な体を作り上げた。

 

「コレナラオマエ潰セル!」

 

脊髄は剣八に向け隕石の様な拳を振り下ろす。

 

「グルァァァァァァ!!!」

 

剣八が斧を振るうと、まず前獣であるモフモフの斬撃が脊髄の体を縦に割り、その中心に光り輝く核の様な珠が露わになった。

 

そして二発目、剣八とやちるの斬撃が核を砕く。

 

さらに三発目、後獣であるホネホネの斬撃が再生しようとする核と肉体を完全に断ち斬った。

 

 

「ソンナ、、、、余は霊王であるぞ、、、コンナ事ガ、、、」

 

縦に真っ二つになった巨大な体は左右に倒れ、轟音と共に砂煙を上げた。

 

そして核の珠は灰のように静かに散っていった。

 

 

 

ーーお疲れ様、剣ちゃんーー

 

 

 

「あぁ、ありがとよ。」

 

 

剣八は一護に敗れた時と同じように仰向けで、刀を握ったままの右手で顔を隠した。

 

 

あの頃とは違うのは、斬魄刀と共に闘って勝った、ということだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜霊王の右脚迎撃地〜

 

 

「また動き出したで!勇音!」

 

「はい!」

 

勇音は卍解、凍雲射手蜘蛛(とううんいてぐも)の能力で、氷の槍を霊王の右脚へと何本も突き刺す。

 

そして動きが止まったところで平子が斬魄刀の能力を使った。

 

「逆撫!」

 

平子が何度も前後左右上下の感覚を変え、相手を混乱させることで足止めをしていた。

 

「そろそろきっついで、、、。早よせぇや総隊長、、、、!」

 

 

「また動き出した!勇音!奴が方向に慣れる前に!」

 

しかし後ろに立つ勇音から氷の槍が発せられない。

 

「勇音?」

 

平子は不思議に思い後ろを振り返った。

 

「すみません、、、霊圧が、、、、」

 

勇音は疲弊した様子で両膝をついている。

 

「(そらそうや!こんだけの氷生成すりゃ霊圧もないなるわ!)」

 

右脚はその隙を見逃さなかった。

 

 

「あ、あれは!?」

 

右脚が手にしたメダリオンが光を放ち、勇音から卍解の霊圧が抜けていく。

 

「なっ、、、、!」

 

 

「これはやばいな、、、。早せぇ、、、総隊長、、、!」

 

 

「ウァァァァァ!」

 

右脚が再度メダリオンをかざすと、背後にうっすらと蜘蛛の足の様なものが浮かび上がった。

 

そして氷の槍が平子と勇音に襲いかかる。

 

 

「クソがっ、、、縛道の三十九、円閘扇(えんこうせん)!」

 

平子は鬼道で盾を出現させたが、防ぎきれる大きさではなかった。

 

 

 

 

廻転不精独楽(かいてんぶしょうごま)。」

 

 

 

右脚の放った氷の槍は、巨大な竜巻によって砕かれた。

さらに竜巻は右脚に直撃し、砂煙を上げる。

 

 

 

「いやぁ、おまたせ!第二陣の到着だよ!」

 

二人の背後には京楽が立っていた。

 

 

「おっそいわ!!どんだけ時間稼がせんねん!勇音の卍解奪われてもうたやんけ!」

 

「ごめんよ、解放に時間がかかってさ、、、。それより霊圧を感じ取ったかい?」

 

「あぁ、更木やろ?あいつ訳分からんわ。バケモンすぎるやろ。」

 

「本当に更木隊長はすごいよ。一人で霊王の一部を倒したんだからね。文字通り化け物だ。」

 

 

「それはそうと、遅れてきてなんか策があるんやろなぁ?何も無しは流石にきついで。」

 

 

「もちろん。」

 

そう言うと京楽は少し左にずれ、後ろから出てくる人影を左手で指し示した。

 

 

「じゃーーん!」

 

 

 

白髪の長髪に柔らかな雰囲気。

 

それは失ったはずの暖かさだった。

 

 

「浮竹隊長!」

 

疲弊していた勇音も大声を上げる。

 

 

「浮竹さん!?なんでや!?」

 

平子も相手そっちのけで驚いていた。

 

 

「浮竹が神掛をした後、少し霊圧が残ったまま埋葬したんだ。」

 

 

霊王護神大戦の最中、滅却師の首領ユーハバッハが世界の楔である霊王を斬ったことで世界が崩壊へと傾いた。

 

浮竹はその崩壊を止めるため、自身に宿る霊王の右腕で《ミミハギ様》と呼ばれる流魂街の土着神の力を全身へと広げる儀式、《神掛(かみかけ)》を行った。

 

 

「涅隊長曰く、霊圧が残っているならそのデータを元に再現できるってね。だから霊骸を使って再現したんだ。」

 

 

「でも何でわざわざ浮竹さんを、、、いや、戦力になるんは間違いないけど、、、。」

 

 

京楽は左の人差し指を上に向け説明を始める。

 

「この霊王の右脚は一度零番隊の和尚達を叫び声で麻痺させただろう?喜助クンがそこに注目してね。」

 

「喜助が?」

 

「あぁ、なんでも霊王の一部は同じ霊圧の力に弱いらしい。だから浮竹を連れてきたんだ。」

 

 

「動けるのは1日だけだが。」

 

浮竹は悲しそうな顔をするでもなく、淡々と呟いた。

 

 

 

そうこうしているうちに右脚が態勢を立て直す。

 

「さぁ、(やっこ)さんが動きだすよ!浮竹!」

 

「あぁ!」

 

浮竹は斬魄刀を抜き解号を口にする。

 

(なみ)(ことごと)く我が盾となれ (いかずち)(ことごと)く我が刃となれ。」

 

双魚(そうぎょ)(ことわり)。」

 

二刀一対の斬魄刀でそれぞれを赤い紐が繋ぎ、さらに紐には五つの札

が吊り下げられていた。

 

 

解放と同時に右脚から高密度の霊子の塊が放出されるが、浮竹は右手に持つ斬魄刀でその攻撃を吸収する。

 

吸収された攻撃は赤い紐を通り左の斬魄刀へと移動しているのが分かる。

 

紐に付いている札の箇所を通るたびに、その札はまばゆい光を放っていた。

 

 

そして左の斬魄刀の切っ先から受けた攻撃を撃ち返す。

 

すると右脚の左肩に直撃し肉体を消しとばした。

 

「グァァ、、、。」

 

 

「よっしゃ!効いとる!」

 

「けど致命傷ではないみたいだねぇ、、、。もっといけるかい?浮竹。」

 

「これ以上は無理だ、容量を超える。」

 

「うーん、ならダメージはそんなに与えられないか、、、。」

 

「霊子が高密度すぎる。」

 

双魚の理は一度に吸い込める量に限度があった。

つまり最大限跳ね返して致命傷にならないと言うことは相手を斃せないということになる。

 

 

困った様子で頭を掻きむしりながら平子が続けた。

 

「超速再生もやっかいやし、何より奪われたんが勇音の卍解なのが痛すぎるわ!」

 

京楽は平子の言葉に同意するように頷き呟いた。

 

「うーん、、万事休すだね。」

 

 

京楽は笠を少しあげ浮竹を一瞥した。

 

「浮竹、万事の次の、、、」

 

 

「一手と行くか。」

 

浮竹は一歩前に出て京楽の横に立ち霊圧を上げていく。

 

 

 

「卍解、渾沌無契(こんとんむけい)双魚(そうぎょ)不条理(ふじょうり)

 

 

 

二振の斬魄刀は重なり一つの斬魄刀の様になる。

しかし二刀を繋ぐ紐と、そこに引っかかっている五枚の札は付いたままだった。

 

浮竹は両手でその斬魄刀を支えるように持っている。

 

「卍解したら一振りになるんかいな、、、!」

 

「いや、二刀一対は変わらない。ただ重なっているだけだ。」

 

 

右脚は不意をつくように勇音の卍解を使い氷の槍を繰り出す。

 

浮竹はその氷の槍を斬魄刀で吸い込むと始解と同じように右脚に撃ち返した。

 

はね返した氷の槍は右脚に近寄るに連れ透明になっていき、右脚にあたる頃には消えていた。

 

何も起きなかったため再度右脚は氷の槍を放つ。

 

「ウギャァァァ!」

 

しかしその速度、大きさはさっきとは全く違っていた。

 

「なんやあれ?ちっさ、おっそ!!」

 

威力も速度もなく氷柱のように小さな槍は途中で地面に落ちてしまった。

 

 

「ウ、ウ、ウギャァァァァァ!!」

 

勇音の卍解が使えないと判断した右脚は叫び声を上げ浮竹達を襲った。

 

その時またもや浮竹の斬魄刀が光を放つ。

そして紐についている札が順々に青白く光る。

 

 

「ウギャァ、、、ウ、、、ウ、、、、、」

 

右脚の叫び声はどんどん小さくなり、声が出なくなっていった。

 

 

「悪いな。俺の卍解は相手の攻撃の霊圧濃度、速度、威力、大きさ、消費霊力を自由に変えることができる。」

 

「そしてさらにその条件のまま相手に()()こともできる。」

 

「今さっきのは消費霊力以外すべてを最小にして返した。」

 

すると浮竹は平子の方を振りむく。

 

「平子君!上級破道を撃てるか!?」

 

「お、おう!けど八十九が精一杯や!」

 

「詠唱はいい!撃ってくれ!」

 

平子は慣れない上級破道を詠唱破棄し発動させた。

 

「破道の八十九、銀川一粒砂(ぎんせんいちりゅうさ)!」

 

浮竹は同じように吸い込み変化させ鉄の嵐を平子に撃ち返した。

 

 

「よっしゃいくで!破道の八十九、銀川一粒砂(ぎんせんいちりゅうさ)!」

 

平子はその威力に驚いた。

 

速く、強く、そして霊力消費がほとんどなかったからだ。

 

「まだまだいけるで!!」

 

高威力となった銀川一粒砂を連発する。

 

 

「ウギャァァァァァァ!」

 

流石の右脚もこれには悲鳴をあげた。

 

 

「あれは!!」

 

「あの球体に肉体が集まっている?」

 

鉄の砂が右脚の体を(えぐ)り、一瞬だけ胸の辺りに球体があることが確認できた。

 

「核か、、、、。つまりあれを壊さな終わらへんってか。」

 

その核を包むようにすぐさま右脚の肉体は再生する。

 

 

「再生されるんじゃぁ、困ったねぇ。」

 

京楽の暗く冷たい霊圧を感じ取った浮竹は声をかけた。

 

「京楽、、、」

 

「分かってるよ。みんながいるからここで卍解するな、だろ?」

 

 

すると京楽は突然低い声色から高い声色へと変える。

 

「そいえばルキアちゃん、十三番隊隊長になったんだ!」

 

「朽木が、、、?」

 

 

「はぁ?何言うとんねん、いきなり。」

 

こんな状況でいきなりなぜその話なのか平子は理解できなかった。

 

 

「彼女や阿散井クン、それに一護クンを見てるとさ、僕らがまだ駆け出しだった頃とか、隊長になった頃のことを思い出すんだ。」

 

「そうだな。あの頃は一生懸命だった。」

 

霊術院時代から共に走り続け、切磋琢磨した。

 

 

「あぁ。けどいつからか自分の能力に上限を設けていた。これ以上は伸びないってね。」

 

確かに浮竹も隊長になって百年も経った頃から、もっと強くなりたい、もっと成長したい、という気持ちは無くなっていた。

 

 

「浮竹、歌舞伎や人形浄瑠璃を現世でよく見たろう?」

 

「あぁ。」

 

「ほんまになんの話やねん。」

 

平子はイラつきを通り越し呆れに変わっている。

 

 

「僕らが見た心中ものって一本じゃなかったよね?」

 

浮竹はその言葉を聞きすぐ様理解した。

 

「皆を巻き込まないなら止めはしない。」

 

「流石は相棒。じゃあそうさせてもらうよ。」

 

 

再度京楽から冷たい霊圧が流れ出す。

 

 

「卍解、、、、。」

 

 

 

花天狂骨(かてんきょうこつ)愛剪心中(あいきりしんじゅう)。」

 

 

「さぁ、第二幕目と行こうかね。」

 

 

 

「一段目、潔死覚悟遠途(けっしかくごのえんと)。」

 

京楽は白い(もや)に包まれ猛スピードで右脚に体当たりし、そのまま百メートル程上空へ飛んでいった。

 

「不釣り合いな愛する二人は腹を括り死地を(もと)める。」

 

 

 

「二段目、(いとま)(うつつ)

 

「心身共に衰弱し歩く事すらままならない。二人は肩寄せ互いを(いた)わる。」

 

右脚は急激に霊圧と気力が失われたように感じその場から動けなくなる。

 

 

「正気になるも何処(いずこ)やら。戻るも逝くも地獄の果て。気付けば辺りは追っ手の波。」

 

 

「三段目、囲深手逃不(かこみてにがさず)。」

 

 

右脚が周りを見ると、周囲には槍が内向きで直径1メートル程の円状に並んでいる。

 

動くことができない右脚の隙をつくため、京楽が浮竹を呼ぶ。

 

 

「浮竹!今だ!!」

 

「なにが奴を止めているかはわからんが、、、!」

 

浮竹は瞬歩で右脚の目の前まで飛んだ。

 

 

腸剥(わたはぎ)御手(みて)。」

 

浮竹の右手は白く大きな手と変化した。

まるで阿散井恋次の卍解、双王蛇尾丸の腕のようだった。

 

そして浮竹は大きく右手を振りかぶると相手の胸へと突き刺し、核を掴み抉り取った。

 

「これが核だ!京楽!」

 

 

その間も京楽は心中劇を続けている。

 

「後悔するももはやこれまで。女が覚悟を決めたのに、男が足踏みするとは滑稽。」

 

「女は懐刀を取り出し、愛と共に男に押し寄る。」

 

京楽は右手で懐から何かを取り出す素振りをすると、その手には白く奇妙な霊圧を放つ(もや)のようなものが握られていた。

 

臍下(せいか)に抱えた諦観(ていかん)と、腹に巣食う女々しさを、せめてこの場で斬り落とそう。」

 

 

浮竹は掴んだ核を京楽へと思い切り投げつける。

 

 

(これ)にて大詰〆(おおづめしめ)の段、割腹死歿(かっぷくしぼつ)浄化禊(じょうかのみそぎ)。」

 

 

京楽が核に向かって(もや)を突き刺すと、だんだんと膨れ上がっていく。

 

 

「一体何が起こってるんや、、、?」

 

霊圧ではとてつもない何かが起こっていることは分かるが、視覚では何が起こっているかが分からず平子は困惑していた。

 

 

膨れ上がった右脚の核は数十倍の大きさとなり、まもなくして破裂した。

 

「ウ、、、ガァァァァァァァァ!!」

 

核は叫び声をあげながら、バラバラとなり舞い落ち、さらに塵となり消えていく。

 

そして抜け殻となった右脚の体はガクッとその場に倒れた。

 

 

「やったみたいやな、、、。ほんま更木はバケモンや、、。あいつも霊王の一部とちゃうんか?」

 

平子が決着がついたのを見届けホッとしていたところだった。

 

 

 

ドゴーーーン

 

 

「なんや!?」

 

 

突如辺りのビルが倒壊し始める。

 

一つ一つ順々に。まるでなにかが激突し貫通したかのような倒壊の仕方だった。

 

 

「何かが派手に飛んできたみたいだね。味方じゃなきゃいいけど、、、。」

 

京楽と浮竹が平子達の元へ戻る。

 

 

そして目を凝らすと土煙の中に片膝をつく頭の長細い人影があった。

 

 

「儂は、、、まだ死なぬ、、、死なぬぞ!!朽木ルキア!!」

 

 

「なんやあいつは?」

 

 

 

 

To be continued......

 

 

 

 

 


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