BLEACH 〜Higher Than That Moon〜   作:虹捜索隊

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第9話 慟哭のバウント

 

 

 

吸血鬼。

西洋ではそう呼ばれる種族は、尸魂界での人造魂魄の研究によって偶然にも生まれた。

 

バウントとも呼ばれる種族だ。

 

バウントは魂魄を吸収して生き長らえ、自身の分身とも言えるそれぞれの性格を持った意思をもつ武器、《ドール》を使うことができた。

 

バウントの掟として生きた人間の魂魄の吸収は禁止されていたが、それは強大な力を得ることができる方法でもあった。

 

次第に吸血鬼として人間から迫害を受けたバウントは強者を集め、自分達を生み出した死神に反旗を翻した。

 

その首謀者が狩矢神という男だった。

 

 

そして今、その狩矢の目の前にはかつて共に死神に対し反旗を翻した仲間が立っていた。

 

 

 

 

 

狩矢神(かりやじん)迎撃地~

 

 

 

「古賀、久しぶりだな。バウントがまだ生き残っているとは。」

 

オレンジ色のソフトモヒカンというヘアスタイル、筋骨隆々の体をした巨漢、古賀は険しい表情で狩矢を見つめている。

 

 

「それに一ノ瀬までいるとはな。」

 

狩矢はかつて配下だった男達の顔を懐かしんでいた。

 

 

古賀は悲しそうに、憐れむように狩矢に問いかける。

 

「狩矢、お前は何をしたいんだ。」

 

「さぁ、、、何なんだろうな。」

 

 

 

狩矢は右手に風を纏い始めた。

風は右腕に巻き付くように渦巻いている。

 

己を示せ(サイゲディッヒ)小風刀(トランシーロ)。」

 

右腕は光に包まれると、灰色の刀剣へと変化した。

 

 

「そういえば前回ノヴァディオと共に尸魂界を攻めたとき更木剣八と十一番隊副隊長がいたな。」

 

 

狩矢は最初の侵攻の際、剣八、一角と刃を交えていた。

 

さすがに更木剣八は強かった。お互い解放無しの素の力比べならば負けていたかもしれない。

しかし彼の解放はどこか穴あきのような感じがして、本物の力の前には無力も同然だった。

 

 

そしてもう一人。

スキンヘッドで激高していた男。

 

「名前はなんと言ったか、、、『殺す相手の名前が』なんだと叫んだ後名乗っていたのだが。」

 

顔は知っていた。

ノヴァディオから『卍解が使える死神』として簡単ながらも説明があったため、その特徴的なスキンヘッドには見覚えがあった。

 

「班目一角ですね。」

 

一ノ瀬が答える。

 

 

「更木剣八もその班目一角とやらも大したことはない。今の十一番隊は落ちぶれたものだよ。」

 

 

護廷十三隊で最強とも言われる十一番隊。

そのトップ2人があの有様ではたかが知れる。

 

そう思い嘲笑っていた。

 

 

その言葉に対し、それまで丁寧な口調だった一ノ瀬は強い語気で断言した。

 

()()()()()()()()。」

 

 

普段丁寧なだけに、一ノ瀬の反応に狩矢は少し驚いていた。

 

「一ノ瀬、お前は死神を、現十一番隊を恨んでいるのではないのか?」

 

 

一ノ瀬真樹(まき)はかつて十一番隊に所属しており、敬愛する隊長とともに尸魂界を護ることを誇りとしていた。

 

 

 

更木剣八が隊長に一騎打ちを申し込むまでは。

 

 

 

――あんな獣が隊長になるなど、、、――

 

――護廷隊にも中央四十六室にも正義はない――

 

決闘が行われている中、一ノ瀬は心穏やかではなかった。

 

 

決闘の場の片隅でその思いに賛同してくれる者がいた。

 

 

――私とて同じ気持ちだ――

 

 

かつての自分の心情を理解してくれたのが、後に大罪人として名を馳せた東仙要だったとは。

 

 

 

 

 

「私は、、、憎んでいました。」

 

一ノ瀬はうつむき自身の心のうちを狩矢に吐露する。

 

 

「ではなぜそちら側に、、、」

 

 

そして一ノ瀬は顔を上げ力強く答えた。

 

「弱く、人に依存せねば生きていけぬ自分自身を。」

 

 

「更木剣八を恨んでいたわけではなかった。そのことに更木剣八との斬り合いを経て気づきました。」

 

 

「それに私が投獄されている間に滅却師が攻めてきましたが、更木剣八は相手内で一番の手練れを打ち負かし尸魂界を護ったのです。」

 

「剣八として“護る”という気持ちは鬼巌城(きがんじょう)隊長と同じだった。」

 

 

ひとしきり言い終えると、一ノ瀬は斬魄刀を抜き、刀を下から反時計回りにゆっくりと振り上げた。

 

 

光華(こうか)(ひらめ)け、虹霞(にじがすみ)。」

 

彼の斬魄刀、虹霞はまばゆい光を放っている。

 

 

「君の始解を正面から見るのは初めてだ。」

 

光で視界が覆われた狩矢に一ノ瀬は刀を振るった。

 

が、手応えは全くと言っていいほど感じられなかった。

 

一ノ瀬は斬撃を浴びせ狩矢の背後まで間合いを取る。

そして狩矢の方へと振り返り状況を確認した。

 

 

「無傷だと、、、?」

 

 

「破面や滅却師は死神に比べ防御に長けているのかもしれないな。」

 

狩矢の体には青い線状の模様が浮かび上がっている。

 

 

その状況を見て古賀が懐から手のひらサイズで紫色の鉄球を取り出自身のドールに命令した。

 

 

Zeige dich(サイゲディッヒ)、ダルク。」

 

 

鉄球は泡のようにぶくぶくと膨れ上がり、やがて女性のような姿を形作る。

 

そしてその()()は妖艶な声を発した。

 

「あ~ら、懐かしい男がいるじゃない?」

 

 

狩矢も懐かしむように古賀のドール、ダルクを見つめていた。

 

「ダルクか。まさかお前の鉄を打つ日がくるとはな。」

 

「そういう減らず口叩くところは変わってないわね。」

 

「そういうところ昔から、、、、、」

 

ダルクは右腕を大砲のような形に変えると、左手で支え、さらに左手から鉄を地面へ突き刺し大砲を固定した。

 

そしてダルクの大砲の発射口は赤く不気味な光を放ち始めた。

 

「嫌いだったのよ!!」

 

 

バレーボールほどの鉄球が目にも止まらぬ速さで狩矢を襲う。

 

 

狩矢は高速で迫りくる鉄球に灰色の刀を力強く突き出すと、鉄球はまるでピーラーで皮が向かれたように回転しながら消滅していった。

 

 

「ずっと気になっていた。私と古賀、どちらが強いのか。」

 

そう言い終わると狩矢は姿を消す。

 

 

「今わかった、どうやら私のようだ!」

 

狩矢はダルクを通り越して古賀の背後をとり、風を纏った刀を振り上げた。

 

 

「古賀さん!」

 

一ノ瀬も瞬歩で駆け寄ろうとするが到底間に合う距離ではなかった。

 

 

 

その時狩矢の振り上げた刀を雷の矢が打ち抜く。

 

 

皆が一斉に矢の出所に目を向けた。

 

「お前は、、、!」

 

そこに現れたのは女性滅却師だった。

 

ロングの金髪をなびかせ胸元の開いた団服を着た女性、キャンディスは手元に電撃をまとい始める。

 

 

「滅却師か。」

 

狩矢は興味深そうな目で観察していた。

 

「石田雨竜しか見たことがなくてね。興味深いよ。」

 

「うるせえ!!あいつと比べんじゃねえ!」

 

キャンディスは雨竜を星十字騎士団として認めていないためか激高し雷撃を放った。

 

 

しかし狩矢は風の渦で相殺させる。

 

「生きがいいな。まるでケインみたいだ。」

 

 

キャンディスは聞いたことのない人物に例えられ眉をひそめる。

 

「ケイン?」

 

その名を聞き古賀は目を伏せている。

 

 

「そこの古賀が殺した同族の若者だ。」

 

冷酷に言い放つ狩矢に対して古賀が言葉を返した。

 

「その通りだ。俺がやつを殺した。」

 

 

それを聞いたキャンディスは言葉を失ってしまう。

初めて会った時、古賀がそんな人物に見えなかったからだ。

 

「おっさん、、、なんで同じ仲間を、、、」

 

 

一ノ瀬はキャンディスが誤解していると思い、古賀の名誉のために説明を始めた。

 

「それは違う。ケインという若者は古賀さんの指示に従わず、力を求めた結果自身の力に飲まれ自壊したのだ。」

 

 

しかし古賀はそれを強く否定する。

 

「俺が殺したのと何ら変わらん。」

 

 

狩矢は古賀を追い詰めるように言葉を続けた。

 

「ケイン、黒崎一護、そしてそこの小娘。お前は若い命を摘み取る運命にあるのだ。」

 

「確かに、俺はケインという若い命を摘み取ってしまった。」

 

 

判断ミスだった。まだ早すぎたのにバウントの力(ドール)を与える算段を立ててしまった。

 

 

――そろそろお前もドールを持ってもいいのかもしれんな――

 

――俺とうとうドールを手に入れたんだ――

 

 

ケインのドールは小さく、神秘的で、緑光を放ち、、、

 

そして残虐だった。

 

 

――いかん!ケイン!そいつから、、、――

 

――おっさん、、死にたくねえ、、まだ死にたく、、、――

 

 

 

生きるべき命はいつもこの手をすり抜ける。

 

 

 

 

古賀はかつて現世の廃ビルで一護と戦った時、ケインと姿を重ねていた。

 

そっくりだった。過ぎたる力(虚化)を自分のものにしようとしているところが。

 

 

この若者(黒崎一護)は自滅する。ケインのように。

 

 

 

「だが、黒崎一護は俺やお前を退け自身の運命を切り開いた。」

 

「俺がもう一度生きてみようと思えたのは、若者を見守っていきたいと思うことができたからだ。」

 

 

「黒崎一護のおかげでな。」

 

 

狩矢は古賀の後ろに立つ若い滅却師、キャンディスを一瞥する。

 

「それで今度はその小娘をやつらと重ねているのか。」

 

狩矢は嘲笑するわけでなく、古賀を認めているかのような笑みを浮かべた。

 

 

 

その時、狩矢と古賀は周囲の霊圧の変化に違和感を感じる。

 

「これは、、、?」

 

 

アパートの屋上から女性の声が響く。

 

「対バウント霊子変換装置さ。こっちに来てからずっと展開作業をしてたんだが、、、あんたが世間話好きで助かったよ。」

 

 

逆光で影のように黒くなった女性のシルエットが確認できる。

 

 

蘭島(ランタオ)、、、!」

 

死覇装の上に技術開発局員のもつ白衣様なものを羽織り眼鏡をかけた女性。

その蘭島とよばれる死神は地上に飛び降りると、彼らの抱く違和感の理由を狩矢に説明をし始めた。

 

 

「これはバウントの力のみを弱体化させる結界の能力。つまりあんたの主となる力が抑えられてるってことさ。」

 

「本当はあんたと黒崎一護が戦うときに合わせて完成させたかったんだがね。」

 

死神たちの時間で言えば120年、現世の時間で言えば20年ほど前、双極の丘で一護と狩矢が激突する前に完成させる予定だった。

 

「浦原の協力無しにはなかなか難しくて間に合わず、結局だらだらと完成させて放置しておいた代物さ。」

 

バウントの第一人者として、そしてバウントを生み出した親として研究を続けていた結果だった。

 

「バウントの研究がまさかこんなところで役に立つなんてね。」

 

 

「ふっ、懲りずにまだバウントの研究をしていたのか。」

 

 

「あんたこそ黒崎一護に倒されてもまだ懲りずに尸魂界に攻めてくるとはね。」

 

蘭島は皮肉を込めて笑みを浮かべた。

 

 

「すまない、私は死ぬ直前までの記憶しかなくてな。そうか。あのあと私は黒崎一護に負けたのか。」

 

 

「狩矢、あんたは何が目的でこんなことしてるんだ?」

 

蘭島はさっきとは正反対で穏やかに、そして悲しそうに尋ねる。

 

 

そして狩矢は目を閉じ一呼吸置くと静かな声で話し始めた。

 

「死神、滅却師、虚、破面、完現術者、バウント。なぜバウントはそこまで認知されていないのか。」

 

 

死神たちの間では、一連のバウントの騒動は

 

“藍染の手下あたりが攻めてきた”、“追放された死神が復讐しに来た”

 

とくらいにしか思っておらず、それがかつて死神が研究の末に生み出した産物と知るものはごく少数だった。

 

 

「人に知られぬまま迫害され滅ぼされる。そんな悲しいことがあるか?」

 

 

そして狩矢は強い口調で古賀に問いかける。

 

「古賀、現にお前の、、、いやバウントの存在を何人が知っている?あれほどの期間戦いがあったのに、隊長格ですらあの戦いがあったことすら忘れている。」

 

 

「今回、バウントである俺がこの戦いに参加しているのは護廷隊の総隊長を通じて知らされている。」

 

かつて敵として戦った自分を京樂春水という男は丁重にもてなしてくれた。

 

「これを機に過去の資料を通して俺たちの存在は広く知られていくだろう。」

 

 

その古賀の言葉に蘭島が続いた。

 

「そうさ。この戦いが終われば、私が外世部隊直轄のバウント専門部隊を持てることになっている。」

 

 

「専門だと?バウント対策だろ?敵として見なされているではないか。」

 

 

「それは違う。外世部隊は実質、各種族を保護下に置き協力体制を作るための役割なんだ。」

 

これは外世部隊副部隊長の滅却師、石田雨竜が総隊長に直接進言したことによって実現したのだ。

 

 

「奴らはいいように利用し、使えなくなれば切り捨てる。死神とはそういう種族だろ?蘭島?」

 

 

 

「話が通じないね。通じようが通じまいがここであんたを止めるのには関係のない話だけどね。」

 

 

「バウントの力を抑制するということは、古賀もこの結界内では力が出せないということだ。」

 

 

「なめんなよ!おっさんが無理でもあたしがいる!それにこの死神もな!」

 

キャンディスと一ノ瀬は古賀の前へと出ると、狩矢に向かって構えた。

 

 

狩矢は中段に構える一ノ瀬に呼び掛ける。

 

「誰かに寄りかかって生きてきたお前に私が止められるか?」

 

 

一ノ瀬は霊圧と刀を握る手を緩めた。

 

「確かに私は(つた)のようなものだ。」

 

 

かつて更木剣八から受けた言葉。

 

先代剣八であり、彼の敬愛する上司でもあった鬼巌城(きがんじょう)

鬼巌城が更木に討たれ剣八が交代した。

 

そのことに納得できず、許可なく尸魂界を去り、その後バウントである狩矢に従い尸魂界に侵攻した。

 

 

今思えば誰かを支え技として生きていた。

 

 

――てめえは蔦よ――

 

――自分で立つ根の張り方を覚えるんだな――

 

 

尸魂界を去る前、決闘を申し込んだ更木剣八にそう指摘された。

その意味に気付くのは更木剣八との勝負のあとのことだった。

 

 

「今はもう自生する蔦だ。私が鬼巌城隊長の夢を果たす!」

 

 

 

「卍解、彩玉(さいぎょく)虹霞(にじがすみ)。」

 

 

狩矢の周りに光の玉が浮かび上がり、その光がだんだんと膨張していき狩矢を包み込んだ。

 

かつて自分の意見に賛同してくれた東仙要の卍解と似たような形状をしており、東仙の卍解を闇とするなら、一ノ瀬の卍解は光だった。

 

光の球体はひとしきり膨張すると、ある大きさを境に収縮していく。

 

 

 

狩矢は光以外に何も見えず、音も聞こえない卍解のなかにいた。

 

「(そろそろ収縮するころか。)」

 

狩矢は抑えられたバウントの力、死神の力、滅却師の力、虚・破面の力を最大限に放出し、虹霞の収縮に対抗した。

 

「(一ノ瀬の力が強くなっていく、、、!?)」

 

 

「ひびが、、、!」

 

一ノ瀬の卍解に飲み込まれないよう距離をとっていたキャンディスは、その卍解が崩れていっていることに気付く。

そして隣に一ノ瀬が瞬歩で現れる。

 

「このままでは私の卍解は破られる。出てきたときにお前の最大出力を浴びせられるか?」

 

「ああ!」

 

 

ほどなくして一ノ瀬の卍解は崩れ落ちた。

 

 

電滅(エレクトロキュー)、、、、」

 

キャンディスが電撃を放つよりも先に、虚の霊圧を纏った風の矢が彼女の右腕を吹き飛ばした。

 

 

そして間髪置かず虚閃の霊圧を含んだ嵐が一ノ瀬を包み込む。

 

 

 

狩矢が涼しい顔で二人に歩み寄ってきた。

 

キャンディスは吹き飛んだ方の腕を押さえ片膝をつき、一ノ瀬は地に()し斬魄刀の柄を地面に当て立ち上がろうとしていた。

 

 

「隊長の夢は、、、、!十一番隊の矜持は、、、!」

 

ボロボロになった一ノ瀬が気力だけで立ち上がろうとしていたときだった。

 

 

 

「よく言った。」

 

「流石は元十一番隊隊士なだけあるじゃねえか。」

 

 

その突然現れた男は、腕に“十一”と印された副官章を巻いた威勢のいい男だった。

 

 

 

「十一番隊副隊長、斑目一角!!」

 

 

 

 

「てめえを殺す男の名だ!」

 

 

 

 

 

 

To be continued.....

 

 

 

 

 

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