BLEACH 〜Higher Than That Moon〜   作:虹捜索隊

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第13話 Fade to Revange

 

 

時は遡り、霊王護神大戦直後。

 

 

〜流魂街某所の村〜

 

 

ぴょこぴょこと耳を動かし、辺りを見回す子供の人狼族がいた。

 

「バイケイは?」

 

もう一人の子供の人狼族が答える。

 

「見つからないよ!」

 

 

ショウマ、うるいという名の人狼族の少年達は、バイケイという人物を探していたのだった。

 

 

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ショウマとうるいが現七番隊隊長の射場鉄左衛門と出会う前の話だ。

 

 

 

 

〜村の外れ〜

 

 

崖際に腰をかけた人狼族の子供が、遠くに見える尸魂界に対し憎しみの目を向けていた。

 

 

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「なんで死神はのうのうと生きてる。」

 

目を細め、牙を剥き出しにしている。

 

「僕たち人狼族を虐げてたくせに、左陣様に助けてもらって。」

 

前七番隊隊長の狗村左陣も人狼族であり、護廷十三隊に入ってからは顔を隠して人狼族と悟られないよう行動していた。

 

「左陣様は禁術を使って命を捨ててまで守ったというのに。」

 

霊王護神大戦中、狗村左陣は星十字騎士団(シュテルンリッター)の一人、The EXPLOSION(爆発)のバンビエッタ・バスターバインという女性滅却師を退けた。

 

しかしそれは自身の心臓を捧げて発動させる《人化(じんか)の術》による捨て身の勝利。

人化の術が解ければ人狼としての狼ではなく、畜生としての狼となる。

 

尸魂界に(おく)られる前、つまり生前に理性を失って獣が如く命を奪った者が、人狼族として尸魂界で霊子構築される。

 

この罪を背負った者が《人》になることは禁忌とされていた。

 

 

「いつか僕が人狼族を、、、!」

 

その時、その人狼の少年、バイケイは林の中から歪な霊圧を感じ取る。

林の方へ振り返ると、その歪な霊圧はバイケイの数十倍もの大きさのある虚のものだった。

 

「なんでこんなに大きな虚が!?」

 

 

虚は凄まじいスピードで木々をなぎ倒して近づいてきている。

そしてバイケイの目の前まで来た虚は、鋭い鎌をバイケイに向け振り下ろす。

 

バイケイは驚きのあまり腰を抜かしたため、偶然にも虚の鎌は頭上で空を切った。

 

 

「うわぁぁ!」

 

恐怖でパニックとなり立ち上がることのできないバイケイは瞬時に己の最後を覚悟した。

 

 

ーーここまでかーー

 

 

突然目の前に二人の人影が現れ、そのうちの一人が身の丈以上もある大きな鎌で虚を斬り倒した。

 

「大丈夫?」

 

鎌を持っていない方の人影、十代後半程でつんつんとした金色の短髪に赤色の前髪をした少女が手を差し伸べる。

 

「私はホムラ。」

 

ホムラの後ろから、同じく十代後半程で黒髪の、大人しそうな少年も顔を覗かせた。

 

「僕はシズク。」

 

バイケイはホムラが差し伸べた手を払い除けた。

 

ホムラは払い除けられた右手を見つめると、気を取り直して名を尋ねる。

 

「名前は?」

 

「言いたくない。」

 

バイケイは即答した。

 

「なんで?」

 

「名前の意味を知ったら、自分の名前なんて好きになれるはずがない。」

 

「僕の名前の《バイケイ》は有毒の植物の名前だ。皆から忌み嫌われる植物だよ。」

 

それでもホムラは引き下がらなかった。

 

「けど、きっと何か意味があるはずよ!」

 

 

そしてシズクも頷き続く。

 

「誰がつけてくれたの?」

 

「一族の上の人達。」

 

「じゃあきっと理由があるよ!大事にしなきゃ。僕らは昔名前が無くてね、、、」

 

それからホムラとシズクは自分たちのことをバイケイに語った。

 

かつてある死神と離れ離れになったこと。

その死神に会いたい一心で、他の死神たちと対峙したこと。

死神達に討たれ、今はここで暮らしていること。

 

そしてホムラ、シズクという名はその死神がつけてくれたこと。

 

死神と対峙したと語っている時のホムラとシズクの顔は穏やかだった。

 

 

しかし死神に対し憎しみを抱いているバイケイは《死神に討たれた》

という言葉に、ますます憎しみを募らせていく。

 

バイケイはホムラ達も死神に敵意を向けている、と一方的な勘違いをしていた。

 

そういった勘違いもあり、バイケイはホムラ達と打ち解け、それから一週間ほど彼女達の住む(ほこら)で過ごした。

 

 

が、ある朝、鳴り響く金属音により目覚め辺りを見回すと、すでにホムラ達がいないことに気づく。

 

 

バイケイが急いで祠の外へ出るとホムラ達が死神と戦っていた。

 

死神は10人程で、ホムラがシズクを連れ瞬間移動で攻撃を避けている。

 

その様子を見てバイケイは一心不乱に叫んだ。

 

「ホムラ、シズク!逃げよう!」

 

 

「ダメだ!理由はわからないけど、ここでこいつらの記憶を奪っておかないと、また襲撃される。」

 

シズクが鎌を振るい、一人また一人と記憶を奪っていく。

 

「クソっ、、、餓鬼どもが、、、!」

 

最後の一人が刀を振るうと、その軌跡が斬撃となって宙に浮かぶ。

 

「破道の七十八、斬華輪(ざんげりん)!」

 

宙に浮かぶ斬撃はシズクに向かって放たれ、シズクの鎌に直撃する。

 

「シズク!!」

 

ホムラは白煙に巻かれたシズクを案じ、その名を叫んだ。

 

その死神は隙をつき、瞬歩でホムラの背後に回ると背中を斬りつける。

 

「がっ、、、」

 

ホムラはその場に倒れ、死神が縛道を放とうとした時だった。

 

「ホムラっ!!」

 

シズクが勢いよく飛んできて鎌を振るった。

 

息絶え絶えの死神は地面に伏し、何かに対し謝っている。

 

「申し訳、、ません、、、なや、ろ様、、、」

 

まもなくして死神は息絶えた。

 

 

 

シズクの話では、どこかの貴族の手下だったそうだ。

なんでも、ホムラの瞬間移動の能力と、シズクの持つ記憶を刈り取る鎌を欲したらしい。

 

 

死神はやはり滅ぼすべきなんだ。

 

 

そしてバイケイはホムラたちの前から姿を消した。

 

 

 

「バイケイどこに行ってたの?」

 

何日かぶりに見た友の姿にうるいはぴょこぴょこと耳を振るわせながらバイケイに近寄った。

 

「もうバイケイと呼ぶな。今日から僕はホムラだ。」

 

「せっかく左陣様がつけてくれた名前なのに?」

 

「な、、、」

 

なんとも形容しがたい衝撃がバイケイを襲った。

一族の英雄的存在だった狗村左陣がこの名前を付けたのだ。

 

この皆から忌み嫌われる梅恵草(バイケイソウ)の名を。

 

驚きと共に憎しみも湧き上がってくる。

 

バイケイは拳を握りしめると、村の外の方へと歩き始めた。

 

その姿を見てショウマはバイケイに尋ねる。

 

「どこに行くの?」

 

「復讐。」

 

バイケイはそう言い放った。

 

「それにもう、左陣様なんかじゃない。無様にも死神に利用された狗村左陣だ。」

 

 

ホムラ、絶対僕が仇を、死神を討つからね。

 

 

 

 

〜ホムラ迎撃地〜

 

 

()()()がかつてバイケイだったころを思い出しながら、黒腔を抜けるとそこは尸魂界ではない、見たことのない風景だった。

 

「なんだここは、、、?この建物は、、、?」

 

「これは現世の建物じゃ。現世くらい聞いたことがあるじゃろ?」

 

建物の陰から現れたのは、厳ついリーゼントにサングラスを掛けた七番隊隊長、射場鉄左衛門だった。

 

「お前は、、、!狛村左陣の部下だった、、、!」

 

「儂だけじゃないわい。こいつらもおる。」

 

さらに射場の後ろから人影が現れる。

 

「お前らは、、、!」

 

それはホムラにとって関係の深い人物だった。

 

「うるい、ショウマ、、、!」

 

かつて人狼の村で共に育った同じ人狼族うるいとショウマ。

 

彼らは死神になると豪語していたため、いつかは敵同士で出会うと思っていたが、こんなにも早く敵として対峙するとは予想だにしていなかった。

 

「お前ら、僕は狗村左陣の斬魄刀を持ってるんだぞ?」

 

ホムラは狗村の斬魄刀、天譴(てんけん)を鞘から引き抜いた。

 

「敵うと思っているのか?命知らずだな。」

 

その言葉を聞いてもうるいとショウマは無言のまま真っ直ぐな眼差しを向けている。

 

「そうだ!そこの死神に連れてこられたんだろ。だからお前達は間違ってたんだ。死神になるなんて、、」

 

「違う、こいつらが自分から行きたいと言うたんじゃ。」

 

「友達のお前を止めたい言うて聞かんくてのう。」

 

「友達だと、、、?死神なんぞに友達などいない!」

 

その言葉と共にホムラは斬魄刀を解放させる。

 

「轟け、天譴(コレロ・デ・ディオ)!」

 

 

「押し切れ、枝分(しぶん)、、、」

 

「待って!鉄さん!僕らにやらせて!」

 

ショウマはそう言うと、抜刀し解号を唱えた。

 

「輪廻せよ、不可聞経(ふかもんきょう)。」

 

刀には特に変化は見られないが、その後ろに半透明で銅色の大きな耳が浮かび上がる。

 

「なんだ、その斬魄刀は?耳でもよくするってのか?」

 

「その通りだよ。」

 

耳の横から同じような色の手が現れ、まるで耳に手を当てているかのように耳にあてがう。

 

すると、途端にホムラはあらゆる雑多な音が大音量聞こえるようになった。

 

「なんだ、、、!この雑音は!!」

 

「音に気を取られすぎだよ!」

 

大音量の雑音に苦しんでいるホムラの背後からうるいが斬りかかる。

 

しかし、人狼族だからかホムラは咄嗟のうるいの声に反応し、体勢を変え斬撃を間一髪で躱した。

 

「うるい!声出しちゃダメだって!せっかく全部の音を大音量にしてるんだから!」

 

叫ぶ声は鼓膜を突き破るほどの音量となってホムラを襲う。

 

しかし感覚が研ぎ澄まされて音量が大きく感じるだけで、実際に破れることはない。

 

「じゃぁ次は()()でいこう!」

 

そうショウマに呼びかけると、うるいは再度瞬歩でホムラの視界から姿を消す。

 

「またか、、、!だが背後にさえ気を配っていれば、、、」

 

「(いつだ?いつくる?)」

 

ホムラが雑音の中からうるいの瞬歩の音を聞き分けていた時だった。

 

 

突然の静寂。

 

一瞬何が起こったのか理解できなかった。

その瞬間、ホムラの背中に激痛が走る。

 

ホムラは前のめりに倒れそうになるが、斬魄刀を地面に刺して体を支えた。

 

しかし刀を地面に刺した音が聞こえない。

そしてショウマの方を向くと、宙に浮く手が耳を塞いでいたのだ。

 

「なるほど、、、こざかしい能力だな、、、。」

 

 

「聞こえてない今のうちに僕も解放しとくか。」

 

ホムラの背中を斬りつけた後、間合いをとったうるいは斬魄刀を解放させるべく霊圧を上げていく。

 

「恐怖せよ、繊繊慄慄(せんせんりつりつ)。」

 

静寂の中、背中の痛みに耐えながらホムラが立ち上がると、次は左から気配を感じ刀を構えた。

 

「、、、?誰もいない?」

 

その瞬間、右から気配を感じ再度刀で防御するが、またもや誰もいなかった。

 

「なんだ、、、?」

 

するとあらゆる方向から気配を感じ、ホムラは対応しきれなくなりパニック状態になった。

 

そしてまた背中に激痛が走る。

 

すぐ様間合いを取ると、背後にはうるいが立っていた。

 

「なるほど、、、あいつの能力か、、、。こざかしい!!」

 

「天譴!!」

 

ホムラがうるいに向け天譴を振り下ろすと、同時に巨大な刀を持った手も振り下ろされる。

 

「わわっ、、、」

 

範囲の広い攻撃に、うるいは直撃はしなかったもののコンクリートの破片を体に受け、その場にうずくまってしまった。

 

「とどめだ!」

 

ホムラは再度天譴を振り下ろす。

 

「うるい!!」

 

ショウマは咄嗟に割って入り、斬魄刀で天譴を受け止める。

 

「うるい!鬼道だ!」

 

「君臨者よ、血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ、真理と節制、罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ!」

 

うるいは片膝を立てたまま詠唱を始めた。

 

「破道の三十三、蒼火墜(そうかつい)!」

 

ホムラはうるいの放った蒼火墜をなぎ払うため、ショウマから刀を引いた。

 

 

その隙にショウマ達はまた瞬歩で姿を眩ませる。

 

 

「どこへ行った?」

 

ホムラが辺りを見回すが、姿どころか気配すら察知できない。

 

そしてまた音が消えていることに気づく。

 

「またうるいの能力か、、、!」

 

 

「くそ、、、!こうなったら逃れられない攻撃範囲で叩き潰すのみ!」

 

 

ホムラは歪んだ霊圧に包まれると、手で顔を引っ掻くように上から下へとあてがった。

 

黒鎖天譴大明王(カデナ・デル・カスティゴ)!」

 

 

「ありゃぁ、、、」

 

射場はその行為が何なのかすぐに勘づく。

 

ホムラの顔には虚化の印でもある仮面が発現し、その背後には黒い鎖を持った破面の白い外殻を纏った甲冑姿の巨大な明王が姿を現した。

 

 

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「虚化どころか、帰刃(レスレクシオン )までとは、、、左陣殿の卍解を、、、!」

 

「安心しろ!一心同体という欠点のあった狗村左陣の卍解とは違う!これは完全に僕から独立した、言わば最強の傀儡だ!」

 

「完全に独立した、、、か。」

 

その言葉を聞いて射場は斬魄刀を解放させた。

 

「押し切れ、枝分刀(しぶんがたな)。」

 

 

「さて、ほんなら儂の出番かのう。」

 

 

 

To be continued.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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