BLEACH 〜Higher Than That Moon〜   作:虹捜索隊

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第15話 八代目剣八の誇り

 

 

 

その男は無駄を嫌い、そして虚に対して苛烈なまでの《滅ぼす》という意思を持っていた。

 

 

〜数百年前〜

 

 

目の前では八番隊隊長京楽春水と十一番隊隊長刳屋敷(くるやしき)剣八が隊士達と酒を酌み交わしていた。

 

 

ーー失礼。少しいいかなーー

 

ーー殺し合いに応じてもらいたいのだがーー

 

 

その男は酒宴の雰囲気を壊すかのようにそう言い、七代目剣八の刳屋敷(くるやしき)に勝負を申し込んだ。

 

そして痣城(あざしろ)双也(そうや)というその男は京楽や隊士達の前で七代目を討ち取り、八代目剣八となった。

 

当時の刳屋敷の部下であり、虚圏へと乗り込んでいた狩能(かのう)雅忘人(アシド)がそのことを知るのは数百年も経った後のことだった。

 

 

隊長となった痣城は四十六室にある計画を上申する。

それは罪人の魂魄を改造し対虚の戦闘人形を産み出すというもの。

四十六室は《できるものならやってみろ》と承認したものの、後日痣城が作った戦闘人形に恐れをなし、《非人道的である》と手のひらを返して痣城を大罪人と見なした。

 

大罪人として護廷十三隊に追われることとなった痣城だったが、そのことについては全く気にかけていなかった。

護廷十三隊の能力では捕らえることができないと知っていたからだ。

 

しかし、痣城捕縛に零番隊が動くと聞き、《零番隊相手では戦っても無駄》と思うに至ったのか、自ら無間に収監された。

 

 

それから数百年後、藍染惣右介が一護や浦原に敗れ、無間に入れられた後のこと。

時期で言えば、一護が死神の力を失い、取り戻すまでの間のことだ。

 

痣城は卍解の力を通して脱獄した。

いや、収監前からすでに脱獄していたと言った方が正しいのかもしれない。

 

痣城は虚を生み出さないようにする為に無間を脱した。

 

そのためにはある破面を取り込み自分の卍解の能力を高める必要があった。

 

そしてその高めた能力で、現世に住む人間たちの脳髄と魂魄を改良し、虚になり得る原因である怨嗟(えんさ)や本能などを排除する、という目的があった。

 

その時の騒動が、藍染投獄から一護が死神の力を取り戻すまでの間の出来事である。

 

その騒動の中で、痣城に強く印象を植え付けた人物が3人いた。

 

自分の全力を出しぶつかった十一代目の更木剣八。

痣城を変えるきっかけとなった人間、ドン・観音寺。

 

そして目の前にいる破面、シエン・グランツ。

 

 

そのシエンも物思いに耽っていた。

 

今回でシエンは五度目の人生を歩んでいた。

一度目は人間として、現世で好奇心に任せて人体実験をしていた。

二度目は虚となって最上級大虚(ヴァストローデ)まで進化し、藍染の配下として第0十刃(セロ・エスパーダ)を務めていた。

三度目は最上級大虚の絶大な力を捨て、中級大虚(アジューカス)に退化し、戦士としてではなく、科学者として完璧な生命を求めた。

しかし死神側の狂気の科学者(マッドサイエンティスト)によって葬られたのだ。

 

ここまで彼は自身をザエルアポロ・グランツと名乗っていた。

 

そのザエルアポロは狂気の科学者に敗れた時点で人生を終えたはずだった。

 

しかしある破面の能力で《二度目のザエルアポロ》として霊子のデータような形で再構築された。

 

それは真正なザエルアポロではなく、ただの記録の集合体(バックアップ)

しかもそれは、自分がかつて道具のように使っていた価値のない破面によって再構築されたのだった。

 

造り物の自分に一度は絶望したものの、すぐにその状況を受け入れた。

 

第0十刃の頃の記録のザエルアポロは十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)、つまり100番(シエン)として生きていくとこにしたのだ。

 

 

ーーもうザエルアポロに縛られる必要がないーー

 

 

《自分を再構築した破面》を消す。それがシエンの最優先事項だった。

なぜならその破面がいることで、第二、第三のシエンが生み出される可能性があったからだ。

 

その破面を追う最中に痣城、更木と刃を交えた。

 

最高の瞬間。

特に更木剣八との戦いは至福の一時だった。

 

しかし更木剣八との戦いの最中に、《自分を再構築した破面》を見つけ、泣く泣く更木剣八を置いて、その破面を追って行ったのだった。

 

必ず再戦すると更木剣八に約束をして。

 

 

その後《自分を再構築した破面》と対峙し敗れ、最後は子供の破面達(ピカロ)によって切り刻まれた。

 

今度こそ完全に人生が閉ざされる。

 

筈だった。

 

しかしまたもや《自分を再構築した破面》によって再構築された。

今度はザエルアポロやシエンの記憶はなく、ただ純粋に《更木剣八と再び戦う》ことを胸に、シエンという名だけを持って生まれたのだ。

 

新しく生まれたシエンは大虚(メノス)の森に移動し、狩能雅忘人(アシド)とくる日もくる日も命のやり取りに明け暮れた。

 

 

そんなある日、ある男が大虚の森へと現れた。

 

ーー剣八と戦いたくありませんか?ーー

 

剣八という言葉に熱い何かがこみ上げるのを感じ、ノヴァディオという男と共に尸魂界へと向かうことにしたのだ。

 

そしてシエンが大虚の森から姿を消したことによって、アシドも尸魂界に帰還することとなった。

 

 

 

 

〜シエン迎撃地〜

 

 

黒腔(ガルガンタ)を抜けた破面は、嬉々としていた。

一つは自分の分身とも言えるザエルアポロが浦原喜助と涅マユリに解析負けしたからだ。

 

そしてもう一つは、、、

 

「また君達と戦えるとはさらに傑作だよ。」

 

「痣城剣八、狩能雅忘人(アシド)。」

 

アシドとの戦闘は自身の体験として記憶にあったが、痣城との戦闘は記録でしか見たことがなかった。

 

痣城の能力で機関銃がシエンに撃ち込まれ、触手が千切れていた記録だ。

その痣城がシエンに答える。

 

「もう剣八ではない。剣八は一つの時代にただ一人。」

 

「更木剣八、、、」

シエンが戦いた()()()相手。

 

「まさか痣城剣八の方だったとはね。やられたよ。」

ノヴァディオは確かに更木とは言っていなかった。

 

 

更木と戦いたい。

 

 

そう思っていた。

しかしその思いもだんだんと失せていくこととなる。

 

更木が双極の丘で狩矢神(かりやじん)にあっさりと破れてしまい、更木との再戦を望んでいたシエンは肩透かしを喰らってしまった。

 

次第にこんな思いが強くなっていく。

 

ーー強ければーー

 

ーー満たされれば誰でもいいーー

 

 

 

()()()()()()を始めようか、痣城剣八、狩能雅忘人。」

 

 

(すす)れ、邪淫妃(マルチャステーコ)。」

 

シエンは解号を口にすると、刀を飲み込んでいく。

 

背中からは羽のように何本もの触手が伸び、触手と触手の間には不気味な目のようなものが浮かびあがった。

そして腰から下は軟体動物のような触手が何十本も(うごめ)いている。

 

 

白い隊長羽織の上に茶色の獣毛を羽織り、山羊を思わせるような虚の仮面を肩にかけた赤髪の男、三番隊隊長である狩能雅忘人は斬魄刀を引き抜いた。

 

「覚悟を決めろ、一刀両断(いっとうりょうだん)。」

 

そしてその隣に立つ、後ろで髪を結った貴族のような雰囲気を纏う優男で八代目剣八、痣城双也も霊圧を上げ刀を抜く。

 

「卍解、雨露石榴(うろざくろ)。」

 

アシドは始解で、痣城は卍解でシエンに迎え撃つ。

アシドの斬魄刀はまるで初期の斬月のような巨大な斬魄刀だった。

痣城は卍解すると斬魄刀が()()()()()()()()()()()()

 

「なんだい?見るからに愚鈍な斬魄刀と、丸腰の優男かい?」

 

その瞬間、シエンの触手が一本切り落とされる。

 

すると痣城はシエンに問いかけた。

「お前には私が丸腰に見えたか?」

 

ーーキヒヒッ、そんな無駄な質問するなんて丸くなったねーー

 

「無駄も悪くはない。」

 

「何を一人でぶつくさと、、、。」

どう攻撃されたか分からなかったシエンは独り言をいう痣城を観察していた。

 

「(確かこいつは、物を隷属させるような能力だったはず、、、)」

シエンはかつての自分が痣城と対峙した時の映像記録を思い出していた。

 

「なら今のは何を隷属させたんだ、、、!」

 

五度目の人生である今回のシエンは、ノヴァディオによる魂魄改造もあり、戦闘力では過去最高と言っても過言でなかった。

しかし、分析力という点ではザエルアポロに大きく劣っていた。

 

ザエルアポロだったならば、今の痣城の一撃でその能力がどういうものか、そしてその対策まで考えついてたことだろう。

 

 

そんなシエンが痣城の能力を自分なりに分析していた時だった。

 

「一刀両断!」

アシドが瞬歩でシエンの背後に移動し、大きな斬魄刀を両手で振り上げていた。

 

「!!」

シエンは咄嗟に反応し、アシドに正対する形で斬撃を触手で防いだ。

しかし防ぐために体の前に集めた触手は全て斬り落とされ、胸から腹にかけ、袈裟斬りの形で斬撃を浴びてしまった。

 

静血装(ブルート・ヴェーネ)で硬化した鋼皮(イエロ)をこうも容易く、、、!」

 

流れ出る大量の血。

 

 

一本ならまだ分かる。

だが、アシドは集まった数本もの触手を斬り落とした。

アシドの斬魄刀は途轍も無い力の塊であることが窺える。

 

シエンが驚いていたのも束の間、再度触手に傷がつけられる。

「痣城か!」

 

「虚閃!」

赤黒い霊子の塊が痣城に向け飛んでいく。

痣城は虚閃を避けるも、なぜか苦しそうな顔をしていた。

 

「なんの能力かは分からないが、虚閃が嫌なようだね!ならこれで、、、」

 

「王虚の閃、、」

 

王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を放とうとした瞬間、再度横には斬魄刀を振り上げたアシドが立っていた。

 

「一刀両断!」

 

避けきれない、そう思った時にはシエンは既に吹き飛んでいた。

 

()()()()()()()

 

シエンはアシドに斬魄刀で殴り飛ばされただけだった。

しかも、吹き飛ばされてはいるが、大してダメージも受けていなかった。

まるで()()()()()()()()()吹き飛ばされたような感覚。

 

 

「なるほど。」

 

ザエルアポロ程の分析力が無いとはいえ、シエンも並の破面に比べれば戦闘の感も分析力も優れている。

 

さっき袈裟斬りで斬られたときに当たったのは背中と左腕。

つまり今回は()()()()()()()()()()()()()()

 

「正対が鍵だな。」

 

「お前の能力は真正面から斬るかどうかで威力に差が出る。そうだろう?」

 

確信をつくシエンの指摘にアシドは沈黙する。

 

「つまり王虚の閃光を撃つときも気にすることはないと言うことだ。」

 

シエンは触手を自身の前に集め、赤黒い霊球を作り上げる。

 

「真正面から斬れば虚閃の餌食だからなぁ!」

 

そしてどんどんと霊圧を上げていく。

 

王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)!!」

 

痣城とアシドは王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を避けるが、痣城の方は苦悶の表情を浮かべ膝を着いていた。

 

ーーあいつの攻撃じゃあんたも焼き切られちゃうよ?ーー

ーー()()してる霊子だってあんたの一部ーー

ーー忘れちゃった?キヒヒッ。これは無駄口じゃないよーー

 

痣城に語りかける斬魄刀(雨露石榴)は軽口を叩きながらも自身の主を気にかけていた。

 

苦しそうな表情を浮かべる痣城を見たシエンは心底がっかりしている。

「元剣八もこの程度では、更木剣八も大したことはなさそうだ。」

 

 

「あの時のような最高の殺し合いはもうできない。」

そして体験したことのない、記録でしか見たことのない最高の瞬間はもう味わうことはできないと諦めた。

 

 

ーー更木剣八も大したことはないーー

 

その言葉を否定するために痣城は立ち上がる。

 

「、、、更木剣八より強い剣八はいない。」

 

七代目刳屋敷(くるやしき)を破った八代目痣城(自分)、十代目の鬼厳城(きがんじょう)、そして初代にして最強の剣八、卯ノ花を破った男。

 

それが更木剣八。

彼こそが剣八を継ぐにふさわしい男。

 

痣城は以前まで、《剣八》という名に特別な感情を抱いたことはなかった。

強さの称号だの、剣八の誇りだの無駄なことには興味がなかった。

しかし今は、自分も剣八の一人として名を刻めることに誇りを感じていた。

 

「剣八を語るのは私を斬ってからにしろ。」

 

ーー強い死神になってね、双ちゃんーー

 

かつて痣城の姉が死際に放った言葉が痣城の中でこだまする。

 

 

「雨露石榴、始解に戻すぞ。」

 

ーーキヒヒッ、あんたにとっちゃ始解が卍解だろ?ーー

ーー始解が卍解?卍解が始解?ひねくれてるねーー

 

痣城が刀を持つような形で中段に構えると、そこに向かって白い(もや)が集まり、浅打を形作る。

 

 

()み入れ、雨露(あめつゆ)。」

 

 

 

 

To be continued......

 

 

 

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