BLEACH 〜Higher Than That Moon〜   作:虹捜索隊

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第20話 Vice it again

 

 

「東仙隊長、、、」

 

檜佐木は心苦しそうにその名を呼んだ。

 

檜佐木が尊敬し、慕い、憧れ、そして命を奪った男だ。

 

綱彌代(つなやしろ)時灘(ときなだ)の件で、檜佐木は東仙が道を違えた理由を知っていた。

 

綱彌代時灘。

その男は、人の不幸や絶望、そして他人を蹂躙することを至福とするような人間だった。

 

東仙の親友でもあった歌匡(かきょう)という女性は、夫である綱彌代時灘によって殺された。

 

元々時灘は、綱彌代家の命令で実験的に歌匡に近づき婚姻関係を結んだ。

 

それは時灘が綱彌代家の命令に従ったわけではなく、幸福の絶頂にいる歌匡に真実を告げたら、

 

“どんなに絶望的な顔をするだろう”

 

という捻じ曲がった興味本位からの婚姻だったのだ。

 

 

しかし婚姻を結んだ後、時灘が歌匡に真実を告げると、彼女の反応は時灘の予想していたものとは全くの別物だった。

 

――あなたはまだ星を見たことがないだけよ――

 

彼女は時灘の思惑を知ったうえで婚姻関係を結んだのだ。

 

 

その彼女の反応に時灘は《彼女が自分よりも高みにいる》と感じ苛立ちを覚えていた。

 

ある時、その婚姻関係を知った時灘の親友は、友として時灘を斬るため、時灘と刃を交えた。

 

あろうことか仲裁に入った歌匡ごと時灘は親友を切り捨てた。

 

こうして時灘の妻、歌匡は命を落としたのだ。

 

 

しかし時灘は処刑されなかった。

それどころか綱彌代家は権力を持った貴族であったため、圧力によって事件内容をねじ曲げた。

 

妻の不貞が原因であり、間男が妻を斬り捨てたため時灘が返り討ちにした、と。

 

 

このまま咎め無しになるだろうという雰囲気の中、これに異を唱える者がいた。

後の護廷十三隊隊長となる京楽春水だ。

 

彼が確たる証拠を突きつけたため、時灘は無罪放免とはならず減刑するに留まったのだ。

 

 

しかし処刑とならなかったのは事実。

 

 

それに納得ができないと声を上げた人物こそ、東仙要だった。

 

 

あろうことか時灘はその東仙に対し、自身が歌匡を殺害した張本人であることを隠し、復讐がいかに無意味であるかを説き、東仙の復讐をやめさせようとした。

 

その言葉を聞いた東仙は、歌匡も復讐は望んでいない、と気持ちの整理をつけたのだが、、、

 

その直後に時灘は自分が歌匡を殺したと打ち明け、東仙を絶望の底へと落としたのだ。

 

 

その東仙の心を救った男こそが、大罪として名を馳せることとなる藍染だった。

 

 

「東仙隊長、、、正直俺は、もうあなたが間違っているとは言えません。」

 

「間違っているだと?」

 

「歌匡さんと、綱彌代のことです。」

 

「!!」

 

「なぜお前がその事を?お前も貴族の者か?」

 

「そうではありません。ただ、綱彌代は必ず断罪されます。」

 

「される、だと?いつされる?今か?」

 

「今ではありませんが、必ず断罪されます。」

 

 

「そんな見え透いた気休めなど私には必要ない。」

 

「鈴虫弐式・紅飛蝗(べにひこう)。」

 

東仙がその場に高く飛び上がり解号を唱えたと同時に、檜佐木も破道を唱えた。

 

「破道の五十八、|闐嵐(てんらん)!」

 

檜佐木から放たれた突風は、東仙の放った幾つもの巨大な刀身を左右上下に吹き飛ばす。

 

「まるで私の斬魄刀の能力を知っているかのような戦い方だな。」

 

 

「卍解も知っています。」

 

「はったりを言うな。」

 

 

「はったりじゃありません、、、強力な卍解だ。」

 

「けど、あなたでは俺を倒せない。」

 

「戯言を。」

 

東仙は刀身に手をあてがうと、霊圧を急激に上げた。

 

「卍解、鈴虫終式・閻魔蟋蟀(えんまこうろぎ)。」

 

東仙の目の前に9つのリングのような輪が出現し、刀を振るうと同時に檜佐木を取り囲むように輪が配置された。

 

そしてその9つの輪を中心にそれぞれ黒い球体を作り出し、檜佐木を飲み込んだ。

 

 

静寂。

 

聞いていた通り、何も聞こえず、何も感じず、何も臭わず、何も視えない、無のみが広がる空間だった。

 

 

檜佐木が東仙の卍解を直に体験するのは初めてだった。

 

――これが東仙隊長の()()()()世界――

 

正しくは()()()()()()だが、檜佐木は無明の世界に恐怖していた。

 

しかし、檜佐木は恐怖を前に戦いをやめることはない。

 

 

――恐怖は戦士としてかけがえのないもの――

 

 

「卍解、風死絞縄(ふしのこうじょう)。」

 

「なんだと?学生如きが卍解を!?」

 

檜佐木の持つ斬魄刀、風死(かぜしに)から大量の黒い鎖が生まれ、鎖同士が絡み合いながら上空へと伸びていく。

 

そして閻魔蟋蟀の黒い半球の中に、さらに色濃く、鎖でできた黒い太陽が(うごめ)いている。

 

さらに黒い太陽から檜佐木と東仙へと鎖が伸び絡みついた。

 

「なんだこれは!?」

 

東仙は斬魄刀で黒い鎖を斬り離そうとするが、何度斬ってもすぐに切断面が絡みつき断ち切れない。

 

「俺の五感全てが覚知できないようになっているのは知っています。」

 

東仙は驚いていた。

 

これまで東仙の卍解を受けた者は皆、狼狽するか、恐怖するかのどちらか。

 

それを今目の前に立っている学生は、淡々と話し始めただけでなく、卍解の能力まで言い当てたのだ。

 

「実際に、今俺が話している声は聞こえていません。ですが、あなたに俺は倒せない。」

 

一体この学生は何者なのか?

どこで卍解の能力を知ったのか?

綱彌代と何の関係が?

 

東仙はそんなことを思案していた。

 

「そこまで自信があるのは、この卍解の能力のせいか?」

 

そして聞こえていないであろう檜佐木に問いかける。

 

「(様子を見てみるか。)」

 

「破道の七十三、双連蒼火墜(そうれんそうかつい)。」

 

東仙は直接攻撃はリスクがあると見て、まずは破道を撃ち込んだ。

 

結果は直撃だった。

黒い鎖が防御に入るわけでもなく、反撃に出るわけでもない。

 

檜佐木は大きく吹き飛ぶと、地に伏し激しく吐血した。

 

すると上空の黒い太陽が大きく蠢き、檜佐木に絡みついている鎖が脈打つように動き始めた。

 

「なんだ、、、?黒い鎖が、、、?」

 

檜佐木の負傷部位は回復していく。

 

「回復の能力か。そんなもので私がお前に勝てないだと?」

 

東仙は、瞬歩で檜佐木の目の前に寄ると、文字通り檜佐木を斬り刻んだ。

 

何度も何度も。

 

しかしそのたびに檜佐木の体の切断面から鎖が伸び、創傷を接着していく。

 

絶えず斬っているからか、東仙は体に力が入らなくなり始めていた。

 

 

「(おかしい、、、斬れば斬るほど霊圧が吸い取られているような感覚が、、、)」

 

不気味に思った東仙は、不意に自身に絡みついた鎖に意識を向けた。

 

「!!」

 

相手が鎖を使って回復をしているばかりだと思っていた東仙だったが、自身に絡みつく鎖の状態を感じ、檜佐木の能力に気付いたのだ。

 

「これは、、、!」

 

「気づきましたか、、、?」

 

檜佐木は東仙の斬魄刀をつかみ、片膝から立ち上がりながらそう問いかけた。

 

「あなたと俺の霊圧はこの鎖を通して循環している。」

 

「あなたが俺を斬れば斬るほど、あなた自身の霊力を削り取る。」

 

自分を犠牲にして相手を追い詰める、謂わば《捨て身の技》だと東仙は悟る。

 

「なぜ、、、お前はここまでできる、、、?」

 

「それは、、、あなたが俺に戦いの全てを、、いや、恐怖に苛まれていた弱い俺を肯定してくれたからです。」

 

「そのおかげで俺は、ここまで登ってくることができた。」

 

「一体何者なのだ、お前は?」

 

目の前の学生の霊圧は、まっすぐと東仙の方へ向いていた。

 

「その様子だと、この卍解から逃れたのも偶然ではなさそうだ。」

 

「東仙隊長!綱彌代は必ず討ちます!」

 

「どうか刀を引いてください!」

 

「奴なんかの思い通りに、、、絶望に身を染めないでください!!」

 

 

――なぜこの男はここまでして私に――

 

 

「狛村隊長だって、、、今は隊長じゃないですけど、、、」

 

「狛村のことも知っているのか。」

 

不思議な霊圧をした男、狛村。

そして、その男は東仙の一番近くにいながら、一番遠いところにいる男。

彼は東仙にとって眩しすぎた。

 

「彼は純粋で真っ直ぐすぎる。」

 

「私とは正反対だ。彼の無垢さでは私は、、、」

 

「彼がもう少し獣のように醜ければもっと気兼ねなく話せていたかもしれないな、、、」

 

その時、檜佐木の頭にあの言葉が過った。

 

――思っていたより醜いな――

 

 

東仙は卍解を解くと、穏やかな表情を浮かべた。

 

「お前の言葉で憎しみが少しだが和らいだ。」

 

「そこまで言うなら藍染様を倒し、綱彌代を討ってみせろ。」

 

「私は少し、休むとするよ。ゆっくりと、、。」

 

そう呟くと、東仙は振り返り、檜佐木から離れていく。

 

「東仙隊、、、」

 

 

ッ!!?

 

 

東仙は瞬歩で檜佐木へと斬りかかった。

 

檜佐木の左肩から左腰にかけ、鮮血が噴き出す。

 

が、檜佐木は少しよろけたものの、すぐに態勢を立て直し風死を構えた。

 

「踏み込みが浅かったか、、、私も甘いな。」

 

完全に仕留めたと思っていた東仙は自身の踏み込みの甘さを省みていた。

 

「俺が反射的に半歩躱したんです、、、東仙隊長、、、あなたの教えです、、、」

 

「やはり、、、こちら側には来ないようですね、、、。」

 

 

「私は復讐のために護廷隊に入った。」

 

東仙は、亡き友である歌匡の斬魄刀、《清虫》を見つめている。

 

「復讐を捨て、組織に迎合することは堕落だ。」

 

 

「復讐こそがあなたの正義なのですね、東仙隊長。」

 

「その通りだ。」

 

「ならやはり、俺がここで斬ります。」

 

 

そして檜佐木はまた斬魄刀に手をかける。

 

己が尊敬する死神の実力をとうに超えていることを知っている彼は、なんとか刃を交えない方法を模索した。

 

しかし、相容れないときは再度自分が斬る覚悟もしていた。

 

 

檜佐木修平。

己の弱さを知る強き男。

 

彼はまた、道を違えた尊敬する師に対し、理解を刃で表し、命の風を(ころ)す。

 

 

「お前は、、、強いな、、、自分の力に溺れず常に恐怖を抱いている、、、」

 

檜佐木は東仙を見下ろしこう告げた。

 

「後は俺に任せて下さい。東仙隊長。」

 

檜佐木は穏やかな表情でその(いのち)()めた。

 

 

 

To be continued.....

 

 

 

 

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