英雄電機ヒロイックロボ   作:スグリ@あれこれ書いたりする人

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第十一話 復活、そして決戦へ

 翌日、イージスベース小会議室。

 

「では水無瀬くん……奴らの本拠地はそこにあるという事でいいんだね?」

「うん……」

 

 御法川とソウタたち三人がテーブルを取り囲む中、クオンが黒曜旅団について説明をする。

 

「結構近いところにあるんだな」

「まあ言われてみれば黒曜旅団なんてバリバリ日本語だもんね」

「富士山の地下……。よくもそんな場所に気付かれずに建てられたものだよ」

 

 彼女の示した黒曜旅団の本拠地。その場所は、日本有数の名所である富士山の、その地下だった。

 

「旅団は魔法科学の力を手に入れてるから、魔法で気づかれないように隠してるはず……」

「かつての戦いで魔王が齎した力か。それなら敵は魔王軍の残党か、もしくはその残党から技術供与を受けた組織か……。どちらにしても一筋縄ではいかない相手だね」

「逃げ出した時は麓の森から出たけど、見つけ出すのは難しそう……」

「爆撃、というわけにもいかないが……」

 

 だが富士山の麓とは言っても、広大な緑の中の何処に基地の出入り口があるのかは一切分かっていない。

 とはいえ爆撃をしてしまえば場所が場所だけに大火災を引き起こしてしまう。

 

「ひとまずは富士山一帯の監視を強化しておくしかないか」

 

 結局場所自体はクオンのお陰で判明したものの、まだ手出しは出来ない状況が続く事となった。

 

「いよいよラスボスが近付いてきた感じだね」

「あれから早いもんだな」

「思い返せば色々あったね」

 

 戦い始めてから未だ一年も経っていない。にも拘わらず、数々の強敵たちと戦い様々な出会いを経験してきた。

 そして今、早くも最終決戦を迎えようとしている。新ヶ浜でのヒーローショーから始まった戦いが、ひとつの終わりを迎えようとしているのだ。

 

「幹部会議でも議題として取り上げておくから、君たちはゆっくり休んで準備をしておいてくれ。準備が整い次第、黒曜旅団討伐作戦を実行する」

 

 これからは攻撃作戦の調整が必要となるが、それはソウタたちの仕事ではない。ここから先は御法川に任せ、一同は一旦解散する事となった。

 

 

 

 

 

 その後、格納庫にて。

 

「まずはファルブラックの修理だ! 急げよ!」

「EXファルガン、調整終わりました!」

「ならブラックの班を手伝ってやれ!」

 

 EXファルガンとファルブラックの整備で整備士たちが慌ただしく駆け回る中、ソウタとクオンは壁際に立ちそれぞれの機体の様子を見に来ていた。

 

「ごめん、クオン。いきなりこんな大変な戦いをさせることになって」

「大丈夫。これまでは一人だったけど、今はソウタがいるから……」

 

 結果として共に戦う事を決めた直後に一大決戦に加わる事となったクオンを気の毒に思い謝るソウタ。

 だがクオンは気にしてはいなかった。激しい戦いはこれが初めてではないが、これまでは一人だった。しかし今回は、一人ではないのだから。

 

「絶対に生きて帰ろう」

「でも帰る場所は……」

「今は俺たちの家があるだろ?」

「うん、そうだったね」

 

 そして二人はそれぞれの機体を見上げながら手を繋ぎ、そう誓うのだった。

 

「お嬢ちゃん、ファルブラックの事なんだが……」

「なに?」

 

 二人で手を繋いでいると、ファルブラックを整備していた男の一人が駆け寄りクオンに訊ねてきた。

 

「コクピットに搭載されてる神経接続システムだったか。反応速度は確かに上がるだろうが、君への負担は大きいだろう。外しておくか?」

「付けたままにしておいて。使えるものは全部使っておきたいから……」

「わかった。だが無理はするんじゃないぞ」

「ありがと……」

 

 彼曰く、ファルブラックには機体操作の反応速度を上げるために機体の回路と操縦者の神経を接続するシステムが組み込まれていた。

 それはある程度の苦痛と共にクオンに無視出来ない負担を齎す物だが、次は最終決戦。その程度の負担など百も承知の上で彼女はシステムの搭載を決めた。

 

「黒曜旅団を正面から敵に回すなら、きっと彼らは魔法科学の超兵器を使ってくる。物理法則なんて通じないかもしれないけど……」

「それでもやるしかないんだ。みんなを守る為に……」

「一緒に頑張ろう……」

「ああ」

 

 黒曜旅団の本拠地に乗り込むとなると、超空間ゲートを超える高度な魔法兵器が使われるだろう。

 それを止められる可能性があるのは、世界最強の二機であるEXファルガンとファルブラックのみ。二人は責任の重さを改めて実感しながらも、戦う決意を固める。

 

「皆さんお疲れ様でーす!お茶とおにぎり持ってきましたよー!」

 

 そして時間は正午を過ぎ、沢山の食事を載せたカートを押しながらマドカが格納庫にやって来た。

 

「おお、ありがてぇ!」

「お前ら!一旦飯にするぞ!」

「っしゃあ!マドカちゃんの手料理だ!」

 

 直後、整備士たちは作業の手を一斉に止めて彼女の元へと押し寄せる。

 

「おかずも手づかみで食べられるスペアリブのケチャップ煮を用意してるので、みんなで食べてくださいね!」

 

 今回マドカが厨房スタッフにも協力を頼み用意したのは、色々な具のおにぎりと玉ねぎの甘みを効かせたスペアリブのケチャップ煮と野菜スティック。

 肉体労働に疲れた整備士たちはマドカから受け取ったおしぼりで手を拭ってから、我先にとそれらを手掴みで口に運んでいく。

 

「短い間で随分と気に入られてるなぁ、マドカ……」

「楽しそう……」

 

 短期間でここまで受け入れられて、人気者となったマドカ。クオンの目にはそんな彼女が、とても楽しそうに映っていた。

 

「それじゃ俺たちも昼、食べに行こうか」

「うん……」

 

 マドカの邪魔をしないよう、ソウタとクオンはそう言って格納庫を後にした。

 

 

 

 

 

 一方その頃、食堂ではフウカとカズマが二人で食事を共にしていた。

 

「うちら、なんでこんなとこまで来ちゃったんだろ……」

 

 復活した旧支部名物のソースカツ丼を食べながらフウカがそう呟く。

 

「どうしたんだよいきなり」

「もしあの時買い物に行ってなかったら……あの場所で転んでなかったらどうなってたのかなってさー」

「そういや俺も、ソウタと二人でヒーローショーなんかに行ってなかったらどうなってたんだか……」

 

 二人が思い浮かべていたのは、もしもの未来。

 もしもカズマがソウタをヒーローショーに誘わなければ。

 もしもフウカが道で転んで助けられるような事がなければ。

 いずれにせよ、現在《いま》の形が大きく変わっていた事は間違いないだろう。

 

「今度の作戦も参加するんだよね」

「後方支援だけどな」

 

 黒曜旅団との最終決戦には、二人もGキャリアーに乗って後方支援として参加する事になる。

 

「その後……どうなるのかな」

 

 フウカが考えていたのは、その戦いが終わった先の事だった。

 

「どうって?」

「そりゃソウタとかクオンほどじゃないだろうけどさ……もし世界を救えたとしても、世界を救った正義の味方なんてものになっちゃったらその後元通りの毎日に戻れるのかって不安で……」

「今考えたってどうこうなるわけじゃねぇし、大人になったら酒の肴の自慢話にしようくらいに適当に考えとこうぜ。それより生きて帰るのが第一だ」

「……ごめん。そだね」

 

 ソウタが人々の希望として祭り上げられたように、彼らもまた戦いが終わったところで元の日常に戻れる保証などない。ソウタもクオンも彼らもまた、遠い未来まで英雄の名を背負う事になるかもしれないのだ。

 だが今はそのような心配よりも、生きて帰る事。カズマの言うように、今はそれが第一である。

 

「ようソウタ。嫁も一緒か」

 

 そうした事を話している最中、ソウタとクオンもソースカツ丼が載ったトレイを持って相席にやって来る。

 

「よめ……?」

「こいつの冗談は気にしなくていいよ」

 

 嫁、というカズマの言葉の意味がわからずに首を傾げるクオンに、ソウタはそう諭す。

 

「ねえクオンちゃん。ソウタのこと、一生傍にいたいって思うくらい好き?」

「……うん」

「んじゃクオンちゃんはソウタの嫁だね。幸せにしてあげなよ?あ、嫁っていうのは結婚した奥さんのことね」

「ちょっと!?」

 

 だがそこでフウカも便乗してクオンに尋ね、頷いたところで彼女もまた、クオンがソウタの嫁だと認めるのだった。

 

「幸せにしてね……」

「も、勿論だよ」

 

 過ぎた冗談に抗議しようとしたソウタだが、照れながらも嬉しそうにして抱きつくクオンにたじたじになり何も言えなくなってしまった。

 

「コーヒー買ってくるけど、お前もいるか?」

「あ、うちブラックでお願い」

「お前もか」

 

 あまりの甘い惚気具合に耐え切れず、カズマがフウカと二人分のブラックコーヒーを買いに立ち上がる。

 

「それじゃ食べようか。いただきます」

「いた……だき、ます?」

 

 そしてソウタは一度手を合わせた後ソースカツ丼を食べ始め、クオンも意味がわからないながらも真似をして手を合わせてから食べ始めた。

 

「ほらよ」

「うっわ苦っ」

 

 その後、カズマから受け取ったブラックコーヒーを口に含んだフウカは、慣れない苦さに吹き出しそうになっていた。

 

「美味しい……」

 

 甘辛いソースが沢山かかった豚カツを満足げに頬張るクオン。そんな彼女を見て、カズマはある事に気付く。

 

「クオンはソースカツ丼、フォークとスプーンで食うんだな」

「箸が使えないんだよ」

「なるほどな」

 

 まだクオンは箸が使えない為豚カツをフォークで、ご飯をスプーンでそれぞれ食べていたのだ。

 幼少期に日本を離れ、最後に箸を使ったのが六歳の頃では無理もない話だろう。

 

「なんか小動物感あって可愛いよね、クオンちゃん。こんな子がファルブラックなんてチート臭いロボのパイロットだなんて世の中ほんとわかんないわ」

 

 そんな彼女を見て、フウカがそんな感想を口にする。

 彼女のイメージではファルブラックのパイロットは、もっとクールで二枚目のタイプを想像していた。

 だが実際に乗っていたのは庇護欲を掻き立てるような、どこか小動物的で可愛らしい少女だった。そんなクオンがファルブラックという最強クラスのヒロイックロボに乗っていたのだから、フウカとしてはとても意外だった。

 

「くっそソウタめ、こんな萌え属性マシマシの美少女侍らせやがって……」

 

 一方カズマは、クオンと付き合っているソウタを羨んでいた。

 ただでさえ可愛らしい上に、ある種の神秘性すら感じさせる美少女。その上かわいこぶるわけでもなく素で甘えに来るなど幼さも残し、さらには物静かだが感情豊かな所なども含めてクオンは見事にカズマの好みを突いていたのだ。

 

「へぇ。そんじゃうちじゃダメ?」

 

 そうしてソウタに嫉妬を向けるカズマに顔を近づけて、フウカはそう訊ねる。

 

「お、お前何言ってんだよ!」

「本気にした?」

「んだよ、冗談かよ……」

 

 突然の言葉に、顔を赤く染めながら困惑するカズマ。そしてからかった結果見事に狙い通りの反応を得られたフウカは笑い、カズマはがくりと肩を落とすのだった。

 

「でもマジであんたの事は好きだよ?」

「マジでか!?」

「友達としてね」

「そういう事だろうと思ったよ」

 

 だが友達として、フウカがカズマに好意を抱いているのは事実。ここから先、二人の関係が進展する時は来るのだろうか。

 

「そいえばマドカちゃんってさ、友達いるの?」

 

 その後、次にフウカが持ち出した話題は、ソウタの妹のマドカについての事だった。

 

「あー……」

 

 それを聞いて、ソウタは彼女の事を思い起こし唸り声を上げる。実際彼も、マドカに友達が出来なさそうだとは思っていたのだ。

 

「あんな家事が趣味みたいな小学生普通いないでしょ」

「言われてみれば心配だな」 

 

 何せ両親の海外出張以降家事に嵌り込んでしまい、放課後にはスーパーのタイムセールに走って向かうような小学生である。

 友達とちゃんと遊んでいるのか、などの心配は当然の事だろう。

 

「それがかなりの人気者らしいよ。なんでも家庭科の裁縫道具でぬいぐるみの作り方を広めてるとか……」

「マドカの奴、万能過ぎないか?」

 

 しかしその心配は無用だった。皆が持っている教材の裁縫道具を使った遊びを広めて、そこから友達は充分に出来ていたのだ。

 

「おまけに勉強も出来て運動神経抜群で、体育ではいつも一番の器用万能……。正直マドカの方がヒーローに向いてたんじゃないかって思うよ」

 

 その上彼女は、頭が良く成績もいい上に体育の成績も学年一位。まさに非の打ち所がないというべき人間で、ソウタも自分よりマドカの方がヒーローに相応しいとさえ感じる程だった。

 

「そんな事、ない。私のヒーローは、ソウタしかいないから」

「お熱いねぇ」

「とっとと結婚しろお前ら」

 

 だがソウタよりマドカの方が相応しいという事を、クオンは彼の手を握りながら否定する。彼女は他でもない、ソウタがヒーローだったからこそ救われたのだから。

 

 その様子を見て、フウカとカズマの二人はそう言って囃し立てた。

 

「あの……さ」

「どした?」

「なになに?」

 

 そして食事を終えるとソウタは、最後にここに集まった三人に告げる。

 

「今度の作戦……絶対に勝とう」

 

 決戦の時は、刻一刻と近付いている。

 

 

 

 

 

 三日後の夕方。

 

「君たちを呼んだ理由は他でもない。ファルブラックの修理も完了し、討伐作戦の目処が立った」

「ついにこの時が……」

 

 御法川によって再び小会議室に集められた一同は、ファルブラックの修理完了と敵の所在地判明の報告を受ける。

 ついに決戦が始まる。ソウタは小さく呟きながら、震える拳を握り締めた。

 

「奴らの基地の出入口が確認されたポイントはここだ。このポイントを、追加バッテリーを装着したラスタービームで破壊し突入する」

 

 出入口となるハッチが確認されたポイントは、富士山の丁度西の森の中。

 ゼットラゴン戦の時のように、今度はしっかりと調整した上で追加バッテリーをラスタービームに装着し、それを用いてそのハッチを破壊し基地内部に突入するという計画が立案されていた。

 

「目標は……?」

「最優先目標は黒曜旅団首領の確保。次点で幹部だ」

 

 そして御法川は、まずクオンの問いに答える。

 ターゲットは勿論、黒曜旅団の首領。その摘発である。

 

「接近はどうすんだ?」

「改良した長距離ブースターを使って、超音速で突入する。Gキャリアーは二機の交戦開始を確認してから向かって配置についてくれ」

 

 次にカズマ。

 通常の輸送機などでゆっくりと接近しては、迎撃してくれと言うようなものである。

 そこで使用するのが、北海道など遠い場所へとEXファルガンを輸送するのに使った長距離ブースターを改良したもの。これを使って、超高速で一気に接近して攻撃する作戦だ。

 

「結構ゴリ押しな作戦じゃん」

「相手の戦力が掴めない以上、これしかないのが実情だ」

 

 フウカの言うように、これはある意味作戦とは呼べないような強引な方法である。

 しかし敵の戦力が不明な為、下手に策を弄しても破られた場合のリスクが大きい。敵戦力が整う前に速攻で叩くのが、今のところの最善手だろうという判断である。

 

「作戦に投入する機体は、EXファルガン及びファルブラックの二機だ。危険な仕事になるけど、よろしく頼む」

「わかりました」

「わかった……」

 

 そして投入されるのは、やはり現行最高戦力のEXファルガンとファルブラック。

 ついに作戦開始だと、そう思われたその時だった。

 

『御法川さん、緊急事態です!』

「どうした!」

 

 突如アラートが鳴り響き、オペレーターの一人が叫ぶ。

 

『全国各地に多数の怪獣が出現、街を攻撃しています!』

「何だと!?」

「俺たちの街が……!」

 

 突然の奇襲攻撃。ここに来て旅団が本気になったのか、日本中のありとあらゆる街に一斉にロボット怪獣が解き放たれたのだ。

 その怪獣に襲われる街の映像の中には、ソウタたちの暮らす只野市も入っていた。

 

「EXファルガンで出ます!」

「私もブラックで出る……」

「くっ、仕方ないか……!」

 

 決定的に戦力不足だが、見過ごすわけには行かない。EXファルガンとファルブラックで、分担して迎え撃ちに出ようとしたその瞬間……。

 

『それには及ばない!』

「この声は……!」

 

 スピーカーから響く、迫力のある女の声。その声に、ソウタは確かに聞き覚えがあった。

 

 

 

 

 

 同時刻、只野市。

 

『KAMAGIRAAAAAAA!!』

『WYYYYYYYY!!』

 

 カマギラーやウィズンといった多数の復活した怪獣たちが暴れ回る中、人々は恐怖し逃げ惑う。

 

「そこまでだッ!」

 

 そんな中、突如空から舞い降りた何かが瓦礫を巻き上げながら着地する。

 

「レディファーストってか。いい所を持って行きなさる」

「あれは……!」

 

 そしてもう一つ、巨大な影が地面と激突し人々はふとそちらに目を向ける。

 

「ファルソード改!」

「ファルガノン改!」

「「テイク・オフ!!」」

 

 そこにあったのは、失われた筈のヒロイックロボ。ファルソードと、ファルガノンの姿だった。

 

「ようやく完成したか……!」

「八木さん! それに藤堂さん!」

 

 イージスベースの指令室からその姿を見て、御法川はにやりと笑みを浮かべてソウタは思わず声を上げる。

 

「久しぶりだね、結城くん。この短い間に随分と逞しくなったものだよ」

「他の地方にも今、改良型ヒロイックロボが送り込まれている。ここは俺たちに任せろ、少年」

 

 颯爽と現れた二機に乗っていたのは、ゼットラゴン戦で脱出して以降行方知れずだった藤堂アリサと八木コウイチロウだった。

 

 そしてイージスベースのモニターには、他にも多数のファルガンやファルソードといったヒロイックロボたちが全国各地に降り立つ姿が映し出されている。

 

「いくらおっさんたちでもそんな数、ソードとガノンの二機じゃ無理だって!」

 

 しかしいくらその二人とはいえ、ファルソードとファルガノンで多数の再生怪獣たちを相手に戦うなど無茶だ。フウカは二人の身を案じて止めようとするが……。

 

「見た目こそ変わっていないが、改良されたヒロイックロボだ。そう簡単に……」

 

 ファルソードがブロードソードを抜き、一歩踏み出す。正面には、毒茨怪獣ウィズン。

 振り下ろされた毒鞭をファルソードはいとも簡単にひらりと躱し、一閃。

 

『WYYYYYY!?』

「こんな奴らに後れをとることはないさ」

 

 斬撃を受け、胴体から上下に分かれたウィズンは絶叫を上げながら爆散し消滅した。

 

「俺も負けていられないな」

 

 続いて八木もファルガノンを動かし、敵の前に立ちはだかる。

 

「ターゲット、マルチロック!」

 

 そして精密射撃モードで操縦桿を素早く動かし、二体の怪獣を一気にロックオン。

 

「ツインラスター! ビィィィィィムゥッ!!」

『SYAAAAAAAA!?』

『BIRIBIRAAAAAAAA!?』

 

 引き金を引いた瞬間、放たれたツインラスタービームは以前とは違い街を巻き込まない細い光となって二体の怪獣、光線怪獣スプラッシャーと電撃怪獣ビリビラーを一撃で貫き爆散させた。

 

「背中は任せたぞ、ファルソード」

「ああ。ならば私の背中も預けよう、ファルガノン」

「年長者として、少年たちに道を示してやらんとな!」

「私はそこまで歳を取ったつもりはない!」

 

 互いに背中を預け、多くの怪獣を相手に互角以上に渡り合うファルソードとファルガノン。

 

「すげぇ……」

「無茶苦茶強いじゃん……」

 

 その光景に、カズマとフウカはただただ圧倒されていた。

 

「ファルソード改にファルガノン改、流石の性能だ」

「知っていたんですか?」

 

 何故ヒロイックロボがここまで強くなって帰ってきたのか。それは御法川の口から語られる。

 

「日本国内のヒロイックロボは八割が失われたが、海外のガーディアンから供与された機体と残存機体の改修を密かに進めていたんだ。EXファルガンのデータを使ってね。こんな早くに完成するとは思ってなかったけどね」

「それが、あの機体……」

 

 日本のガーディアンが壊滅後、海外のガーディアンから密かにヒロイックロボの輸入が進められていた。

 だが輸入品だけでは戦力的にも予算的にも限界があり、対応策として少数の機体で運用できるようにヒロイックロボの性能自体の大幅な強化が施される事となった。

 そうしてEXファルガンを元に生み出されたのが、このファルソード改にファルガノン改。新世代の、改良型ヒロイックロボである。

 

「それより敵はここで相当の戦力を送り込んでいる筈だ。怪獣を増産される前に、今のうちに叩くべきだと思うけどどうかな」

「俺は行けます」

「私も……」

 

 敵の戦力がここで一気に放出され、味方も揃った以上敵の基地戦力が手薄な今が好機。

 

「突然で申し訳ないが、作戦決行だ。二人は今すぐ格納庫に向かって機体に乗り込んでくれ」

「はい!」

 

 再び基地に戦力が戻る前に叩くべく、予定よりも早いがこのタイミングで作戦が決行される事となった。

 

 

 

 

 

「クオン、君はさ……この戦いが終わったら、どうしたいんだ?」

「どうしたい……か……」

 

 その後、カタパルトにセットされた機体のコクピットの中でソウタとクオンの二人は将来を語る。

 

「私は……ただソウタと一緒にいたい……。それ以上の幸せは、想像もつかないから……」

「やっぱりまだ難しいかな。それも生きる道と一緒に探していこうか」

「うん……」

 

 まだクオンには、知らない事が多過ぎる。失った時間は、余りにも長過ぎたのだ。

 とはいえ、これからもまだ時間はある。これから長い時間をかけて、クオンは自分なりの生き方と幸せを見つけていく事になるのだろう。

 

「長距離ブースター接続完了! 二人とも、いつでも行けるぞ!」

「それじゃまた」

「またね」

 

 整備士の男からブースターの接続完了が告げられたところで、二人は一旦通信回線を切り機体のシステムを立ち上げる。

 

『EXファルガン、通常モードから戦闘モードに移行します』

 

 そして機体の音声アナウンスが、最後の戦いの始まりを告げた。

 

『セーフティシャッター作動、モニター展開。エネルギーライン全回路接続。火器管制システムの安全装置を解除。データリンク開始』

 

 コクピットが閉じ、その裏の何重ものシャッターも閉じて上から目の前にメインモニターが降りてくる。

 同時にサブモニターも一斉に点灯し、機体の状況が映し出された。

 

『電圧正常。油圧正常。イジェクションシート、パラシュート共に正常。デュアルスーパーイオンバッテリー出力、190%で安定』

 

 そして力を込め一気に操縦桿を手元に引き下ろすと同時に、EXファルガンの赤い目が輝いた。

 

『ウェルカムスーパーヒーロー。EXファルガン、戦闘モードで起動しました』

「ハッチオープン! 長距離ブースターのコントロール権限をEXファルガン及びファルブラックに譲渡!」

 

 カタパルトのハッチが開き、視界に夕焼けの光が射し込んだ。

 同時に、長距離ブースターが機体側から操作出来るようになり各数値が表示される。

 

「アイハブコントロール!」

「アイハブ、コントロール……」

「進路クリア!」

 

 道を遮るものは何も無い。後はもはや、駆け抜けるのみ。

 

「EXファルガン、発進ッ!!」

「ファルブラック、出る……」

 

 二人が操縦桿を倒し、フットペダルを踏みしめた瞬間、長距離ブースターから青白い炎が吐き出されて二機は空高く飛び上がっていった。

 

「頼んだぞ、二人とも……」

 

 その二人を見送りながら、御法川は呟く。

 既に彼に出来る事は何も無い。この世界の運命は、二人の少年少女に託されたのだ。

 

 

 

 

 

「クオンも今のうちに水分補給した方がいいよ」

「わかった……」

 

 刻一刻と戦いが近づく中、二人はスポーツドリンクで手早く最後の水分補給を済ませる。

 

「終わってから冬が来たら、マドカも入れて三人で温かい鍋でもしようか」

「鍋……小さい頃に、食べた気がする……」

「これまで二人だったから、三人でも使える大きい鍋を買わないといけないな。食器も揃えないといけないし、一緒にまた買い物にでも行こうか」

「ありがとう……」

 

 彼らにとっては、戦いが終わってからが本当の始まりである。これから冬が来て、その後には春や夏、秋、そしてまた冬が来る。その繰り返しの中で、まだやりたい事は沢山ある。

 

「でもうちで暮らすからには家の事も手伝ってもらわないとね。マドカと一緒に色々教えるよ」

「うん。楽しみにしてる」

 

 これから先の、家族として過ごす毎日に思いを馳せながら、二人は空の旅を続ける。

 

「アラート!? 避けるんだクオン!」

「っ……!」

 

 その時だった。地上から放たれた光線がファルブラックを貫き、爆発させる。

 

「第四ブースター被弾……!? 第三、第四ブースターをパージ……!」

「クオンッ!!」

 

 幸い機体本体は直撃していないが、長距離ブースターが破壊されてしまった。

 高度が徐々に下がり、墜落しようとするファルブラックのコクピットの中でクオンは素早くコンソールを操作し被弾したブースターを切り離す。

 

「先に行って。ファルブラックの飛行能力なら追いつける」

「わかった!」

 

 攻撃を受けたのがEXファルガンでなかったのは幸いと言うべきか。空を飛べるファルブラックならば追いつけるとクオンはソウタを先行させ、後を追う。

 

「ゼットラゴン!?」

 

 そして雲を抜け、富士山が視界に映った時。ソウタが目にしたのは、最強の敵であるゼットラゴンの姿だった。

 

「空対地ミサイル、安全装置解除! いっけぇぇぇぇぇ!! 」

 

 ミサイルのロックを外し、長距離ブースターに搭載されたミサイルを放つソウタ。

 

「長距離ブースターパージ! EXファルガンテイクオフ!」

 

 爆発がゼットラゴンを覆い尽くした直後、ブースターを切り離してEXファルガンは森の中へと着地する。

 そして切り離されたブースターはゼットラゴンを直撃し、大爆発を引き起こした。

 

「どうだ……?」

 

 炎に包まれ、見えなくなったゼットラゴン。倒せていたなら幸運だが、こんなものでゼットラゴンを倒せるなどとはソウタも初めから思ってはいない。

 だが次に彼が目にしたのは、信じられない光景だった。

 

『ZOOOOO……』

「何だあれ、装甲が剥がれて……」

 

 唸り声を上げながら、ゼットラゴンが炎の中に佇む。

 その装甲は一枚、また一枚と剥がれ落ちてゆき徐々にその内部が露わとなっていく。

 

「一体、何が……」

 

 光の翼を広げ、追い付いたクオンはその光景を目の当たりにして思わず目を見開く。

 

「あれは、生き物……!?」

『ZEGYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 一部の装甲が剥がれ、姿を現したもの。

 

 それは生物。

 

 それはロボット怪獣ではない、本物の生きた怪獣だった。


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