英雄電機ヒロイックロボ   作:スグリ@あれこれ書いたりする人

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第三話 黒のヒーロー

 ファルガンで戦う事を決めてから一週間が経ったこの日の朝。何気なくテレビをつけたソウタは何やら物騒なニュースを目にする。

 

『三日前、中東で活動していた非合法の武装組織が一夜にして壊滅したとの情報が……』

「なんだか物騒だなぁ」

 

 近頃よく流れる武装組織の壊滅を報せるニュース。ちょうど一週間前にも同じようなニュースが流れていたが、それ以前にも何度か報道されていた。

 その全てに共通するのは、壊滅したのが誘拐した子供を少年兵として使うなど非道な行いをしていた組織だという事。少年兵や被害者の大人以外の幹部や兵士らが一人残らず殺害されていた事。そして、攻撃には一切実弾が使われていない事である。

 ネットではヒロイックロボの必殺技であるラスター装備によるものであるという説が有力視されており、それに伴い様々な憶測が飛び交っているが詳細は未だ不明となっている。

 

「おはよっ! お兄ちゃん!」

「おはよう、マドカ。トースト焼けてるよ」

「ありがと!」

 

 ランドセルを背負って階段を駆け下りてくるマドカ。それに気付いたソウタはテレビの電源を切るとトースターから食パンのトーストを取り出して皿に乗せマドカに渡した。

 

「そういえば俺バイト始めるから、前よりは帰り遅くなるかもしれないけど大丈夫か?」

 

 朝の食卓。トーストにマーガリンを塗りながら、ソウタはガーディアンの事は伏せてアルバイトを始めたという事を伝える。

 

「私は大丈夫だけど……お兄ちゃん」

「どうしたんだ?」

「そのバイトってもしかして……ロボットに乗って戦うの?」

 だがマドカは気付いていた。ソウタのしようとしているアルバイトというものが何を意味するのかを。一週間前にウィズンと戦っていたファルガンのパイロットが兄だということにも気付いていたのだから、そうした考えに行き着くのは当然の事だろう。

 

「気付いてたんだ」

「なんでそんな……」

「最初は偶然だったんだけどさ。けどあの怪獣が出てきた時、マドカを守らなきゃって思って……」

 

 そしてソウタは明かした。この前の新ヶ浜での怪獣事件の際にファルガンに乗り込んで戦った高校生が自分の事だということ。その事が評価されてガーディアンの総司令官にスカウトされた事。また先週ウィズンと戦った機体の片方も自分で間違いないという事を。

 

「危ないことだってわかってるよね?」

「わかってる」

「頑張ってね、お兄ちゃん」

「ああ」

 

 全てを聞いても尚、マドカに兄を止めるつもりはなかった。遊びのヒーローごっことは違う危険な事だとわかっているのならだが。

 

 

 

 

 

 同日、朝の高校の教室。

 

「ほんっと最近怪獣多いよねー」

「それよりカラオケ行かない?」

「ごっめん! うち用事あるから!」

 

 一時間目が始まる前で雑談を交わす生徒たち。フウカはその中から抜け出してソウタとカズマの元へと足を運ぶ。

 

「ったく……あんたらが話請けたりしなかったらこんなことには……」

「ご、ごめん……」

「なんだかんだ良い奴だよなお前」

 

 参加しないと思われていた彼女だったが、結果はこの通り。意外とすんなり怪獣と戦う事に参加する事を決めてくれていた。

 

「一回乗りかかっちゃった船だししゃあないっしょ。借りもあるしね」

「そういうとこだよ」

「それより今日放課後迎え来るんだっけ」

「そのはずだけど……」

 

 そして三人で力を合わせて戦っていく事を決めてから、今日が初めてガーディアンの基地に行く日。放課後、授業が終わる頃に車で迎えが来る手筈になっていた。

 

「授業始めますよー。座ってくださーい」

 

 話しているうちに一時間目の担当の教師が到着。生徒たちは皆席に戻り、話は打ち止めとなった。

 

「起立! 礼!」

 

 その後授業を始めようとした時、突然教室の明かりがちらつき始め、やがて消えてしまった。

 

「また電気が……。まあいいわ、始めましょう」

 

 しかしすぐにまた明かりがついた為、結局何だったのか分からないまま授業が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 同日午後、ガーディアン関東支部会議室。

 

「本日はお集まりいただきありがとうございます」

 

 集まった幹部たちに感謝の意を述べる御法川。今日の会議は予定にあったものではなく、ある事情で急遽行われる緊急会議だ。

 

「今回の議題は、各地で出没しているこの機体についてです」

 

 御法川は早速モニターに一枚の写真を映し出す。そこに映っていたのは、先日中東に現れた黒いヒロイックロボだった。

 

「これはどう見てもヒロイックロボではないか!」

 

 今回の議題はその黒いヒロイックロボの対策である。既にこの機体は紛争介入以外にもいくつかのアクションを起こしており、ここ数日の活動の活発化により現場指揮官である御法川の判断で緊急会議が開かれたのだ。

 

「ヒロイックロボが不法な紛争介入を行ったとなればこれは責任問題になるぞ!」

「誰が、どう責任を取るというのだね」

「やはりここは現場の指揮を執っている総司令殿か……」

「そもそもが君の差し金ではないのかね?」

 

 だがヒロイックロボがガーディアンの戦争不参加という条約を違反して不法に紛争に介入しているという事態に、幹部たちから発せられる言葉は責任、責任、責任。

 

「責任のなすり付け合いをしに集めたのではない!!」

 

 問題を棚上げにして責任の押し付け合いに走る彼らの有様に見かねて激怒する御法川。その真剣な眼差しに、幹部たちは一瞬の狼狽えを見せる。

 

「今重要なのは、不法に各地で怪獣や武装組織、また稀にだがガーディアンにまで牙を向けるこの謎の機体にどう対応するかだ!」

 

 黒い機体の責任を誰に押し付けるか。そんな話で終わるのならば、わざわざ幹部たちをここに集めた意味が無い。御法川はその対策を決める為に、この緊急会議を開いたのだから。

 

「テロ組織にヒロイックロボの技術が漏洩したとなれば、これは君の責任だぞ!」

「そうだ! 現場監督は君だろう!」

「っ……!」

 

 だが引き気味になったのも束の間、今度は皆一斉に御法川に責任を押し付けようとする始末。

 

(少年たち……。やはり君たちがいなければこの組織は……!)

 

 まさに正義の味方の在り方とはかけ離れた伏魔殿。御法川は再びその光景を目の当たりにし、革命の意志を固めるのだった。

 

「な、なんだ!?」

「停電……?」

 

 直後、モニターがぷつりと消え会議室から光が消えた。

 

 

 

 

 

 一方、放課後の学校では……。

 

「ちょっとなになに!?」

「停電か!?」

 

 こちらも突然停電し、騒然とする生徒たち。

 

「おいおい、停電しちまったぞ」

「ダメだ、電話も繋がらない」

 

 ソウタは先に帰っているであろう妹のマドカに電話しようとするが電波は圏外。電話回線も止まっているようだった。

 

「どーせまた怪獣のせいでしょ」

 

 ここ最近の怪獣事件の連続の最中にこの騒ぎ。どうせまたとぶっきらぼうに、冗談交じりでそう口にするフウカ。

 

『BIRIBIRAAAAAAA!!』

 

 直後、視線の向こう。アスファルトの地面を砕き、巨大なロボット怪獣が勢いよく姿を現した。言った途端にこれである。

 

「ほーら」

「ほーら。じゃねーよ! どうすんだこれ!」

「とりあえず正門に出よう。迎えが来るかもしれない」

「ああ、そうだな。九条も行くぞ」

「はいはい」

 

 もう怪獣には慣れたと言わんばかりに冷めた様子のフウカを連れて、校舎から飛び出し正門へと向かう。

 

「にしてもこの前にも増してダッサイデザインだこと。両手マジックハンドで背中にドリルってマジダサすぎてウケるんだけど」

「言ってる場合かよ!」

 

 確かに今回は弱点を示唆しているわけでもなく、言っている場合ではないのだろうが今回現れた怪獣はとても奇抜な見た目をしていた。

 両手は子供の絵のロボットのようなマジックハンドで、背中には二本のドリル。頭には牛のような角が伸び、とても格好良いとは言えないような奇妙な外観だ。

 

「でも様子がおかしくないか?」

「言われてみれば動く気配がない……」

 

 その奇妙なロボット怪獣だが、これまでの怪獣のような破壊活動をすることはなく出現時に周囲を壊しただけでそれからは動く気配がない。

 

「あの怪獣が電気吸い取り尽くして、お腹いっぱいで満足ってことじゃない? さっきまで電気ブツ切れだったのもそれだったり」

「電気を食ってたって事か。納得」

 先程は意味の無いデザイン批評をしていたが、そこはやはりカマギラーの弱点を発見したフウカ。現れる前にも電気が消えかかっていたなどの状況証拠から、今現れたのが電気を吸収する怪獣である事を推察してみせた。

 

「あ、ガーディアンの車だ」

 

 そうこう話しているうちに、一台の車が正門の前に止まる。シンボルマークが描かれた、ガーディアンの専用車である。

 

「すまないみんな、見ての通り非常事態だ。話は後で構わないかな」

「はい。行こう二人とも」

 

 そして迎えに来た職員の男に連れられ、三人は車に乗り込みガーディアン基地へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「突然の事ですまないな」

 

 およそ一時間後、ガーディアン基地。職員に連れられてやってきた三人は、御法川によってブリーフィングルームへと集められていた。

 

「文句はあの怪獣にでも言ってやりたいけど、マジ何なのあいつ。電話も繋がんないしさ」

「気づいているかもしれないが、奴は街の電気を吸い取り自らのエネルギーに変換する怪獣だ。恐らくは以前より地下に潜伏していたんだろう」

「あ、合ってた」

 

 どうやらフウカの推察は正解だったようだ。今回の怪獣は、電気を吸収する怪獣で間違いないらしい。

 

「で、チャージできたから喧嘩売りに出てきたってわけか」

 

 地下から出てきたということは、カズマの言う通り電気を充分に蓄えてエネルギーが満たされたということだろう。

 

「でもそれじゃなんで動かないの?」

「推測だが、チャージした全エネルギーをヒロイックロボとの戦闘につぎ込む為だと思われる。破壊活動で無駄なエネルギーを使いたくないんだろう」

「エコ志向なことで」

 

 そして今怪獣は、活動を停止してヒロイックロボが現れるのを静かに待ち続けている。

 

「奴はこちらが動くのを待っていると思われるが、奴がいることには電力復旧は出来ないだろう。そこで討伐作戦をこちらで考案した」

 

 暴れ回ってこそいないこの怪獣だが、放っておいてはいつまで経っても電力復旧ができず、時間が経てば経つほど被害は甚大な物となっていくだろう。

 この状況を打開する作戦案を説明する為、御法川は紙と鉛筆を取り出しテーブルの中心に置いた。

 

「目的地に機体を送り込むには上空から投下することになるが、街明かりがない状態での投下は危険を伴う」

「確かに真っ暗闇に飛び降りてビルと激突する危険もあるか……」

 

 鉛筆を走らせながら、現状を説明する御法川。

 既に時間は夕方6時を過ぎて日は沈み始めている。街の電灯が消えた状態での暗闇での投下は着地地点も見えず、大変危険を伴う。

 

「そこで予備電力の準備が出来る20時を作戦決行の時間とし、一時的に電力が復旧した瞬間に機体を投下。予備電力を食い尽くされる前に迅速に決着をつける」

「つまり電気ついたらパパーッと飛び降りてサクッとぶっ倒すってことでOK?」

「そういうことだ」

 

 その状況を打破する為の作戦は、予備電力の作動に合わせて機体を投下し、吸い尽くされる前に速攻で撃破するという力づく。

 だが使える物も少ない今、方法はこれしかないだろう。

 

「そこで今回の作戦では、初めからファルガンにラスタービームを携行させた状態で投下する。一応ライフルカノンも装備させるが、保険と思ってくれ」

「わかりました」

 

 そして速攻で撃破するという作戦の為に、今回は始めからラスタービームを装備して出撃する事になる。基本的には相手の動きを鈍らせてから使う物なのだが、それほど時間の猶予がないという事である。

 

「結城くん以外の二人は、同時に投下するドローンの映像から彼をナビゲートしてくれ。初戦のように気付いた事があれば伝えるだけで構わない」

「りょーかーい」

「はい!」

「終わったら僕の奢りで寿司でも食べに行こうか。もっとも、復旧作業もあるだろうから明日以降だけどね」

 

 作戦決行は夜の八時。こうして、薄暗い部屋での作戦会議は終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 時刻、午後8時0分。只野市上空高度3000m。

 

「システムオールグリーン……よし」

 

 作戦決行の時間、暗闇と化した街を見下ろしながら輸送機の中でソウタはファルガンの最終確認をする。

 

『緊張してんのか?』

「勿論だよ。だけど……やるしかないんだ」

『ま、こっちでもサポートするから気楽に行こうぜ』

「ありがとう。頼りにしてるよ」

 

 ラスタービーム、ライフルカノンも装備しシステムも各部動力、駆動系も正常。心の準備も整えて用意は万全。

 

『投下まで10、9、8、7』

『絶対負けちゃダメだかんね!』

「ありがとう」

 

 足元の街に一斉に明かりが灯った。同時に、投下前の最終カウントダウンに入る。

 あとは、降下して一気に敵怪獣を倒して帰ってくるのみだ。

 

『3、2、1! 投下します!』

「ぐっ……!」

 

 時は来た。

 機体を固定するロックが一斉に外され、ファルガンが夜の街へと投下されて強い浮遊感がソウタへと一気に押し寄せる。

 直後、突然怪獣の背中のドリルのようなコイルが輝き出した。

 

「あの光……やばい!」

「っ!?」

 

 放たれた稲妻がファルガンの機体を掠める。敵の対空攻撃だ。

 当たるまいと機体を減速させずに自由落下で機体を降下させるソウタ。そしてファルガンは、瓦礫と粉塵を巻き上げながら勢いよく道路の真ん中に着地した。

 

『BIRIBIRAAAA!』

 

 電撃ロボット怪獣ビリビラー。

 全高26m、重量760t。

 地下に潜んで街の電気を吸い取り蓄え、電撃として放出するロボット怪獣である。

 

「一気にケリをつける! ラスタァァァ!!」

 

 照準を合わせ、ラスタービームを構えるファルガン。作戦通り、一気に決めようとするが……。

 

『BIRIBIRAAAAAA!!』

「フラッシュ!? 照準が……があっ!」

 

 不意に放たれた閃光で照準が乱れる。目くらましだ。

 すかさずビリビラーは雷撃を放ち、ラスタービームの砲身を直撃、大破させた。

 

「ラスタービーム破損! 発射できません!」

「ちぃっ……!」

 

 要のラスタービームが大破した。作戦は失敗だ。

 ファルガンは保険にマウントされていたライフルカノンを手にして構え、二本目のラスタービーム投下までの時間を稼ぐ事になる。

 

「電撃来るよ! 避けて!」

「しまった……うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ソウタっ!?」

 

 だが敵の戦力は予想以上だった。絶え間なく放たれる電撃の雨あられに、為す術もなく押されていく。しかし……

 

「これは……!」

「どうした!」

 

 そんな中、オペレーターの女性の一人がレーダーで何かを捉えた。

 

「西、8時方向から急速に接近する物体を確認! これは……まさか!?」

 

 その直後、突如空から光線が降り注ぎビリビラーの背中のコイルを撃ち抜いた。

 

『BIBI!?』

「あれは……翼……?」

 

 突然の出来事に、空を見上げるソウタ。

 その目に映ったのは、右手に銃剣状の円筒のハンドガンを携えて光の翼を大きく広げる、黒い謎のヒロイックロボの姿だった。

 

「優先ターゲットは、敵怪獣……」

 

 黒いヒロイックロボのコクピットの中で、少女は呟く。そして、まるで流星のように降下し粉塵を巻き上げ着地。目にも留まらぬ速さでビリビラーへと襲いかかった。

 

「ライブラリ照合! あれは……ファルブラックです!」

「ファルブラックが、何故……!?」

 

 ファルブラック。その姿を見た御法川は目を見開き驚愕する。

 そう、それこそが近頃出没し、紛争地域を蹂躙し回っている謎の黒いヒロイックロボなのだから。

 

『BIRIBIRIIIII!!』

 

 突如現れた二人目の敵へと、電撃を浴びせんと放つビリビラー。

 ファルブラックはすかさず飛翔し、空を舞い上から背後へと回り込む。

 

「無駄」

 

一撃。叩き込まれた回し蹴りはビリビラーの装甲にめり込み、そしてその760tもの巨体を軽々と勢いよく吹き飛ばした。

 

「ラスターブラッドガン」

 

 両手をつき、立ち上がろうとするビリビラー。

 だがファルブラックはそれを許さない。

 右腕を、左腕を。起き上がらせまいと一歩ずつ踏み寄りながらハンドガンの光線で撃ち抜いていくファルブラック。

 

「これで終わらせる」

 

 そして両足も撃ち抜き地を這う事すら出来なくなったビリビラーに止めを刺すべく、ラスターソードのようなナイフを取り出し展開。光の剣を出現させた。

 

「ラスターブラッドセイバー」

 

 四肢も自慢の電撃コイルも失われた怪獣に、もはや抗う術などない。その光の剣、ラスターブラッドセイバーで一閃。ファルブラックはビリビラーの胴を切り裂いた。

 

『BIRIBIRAAAAAA!?!?』

「この程度……」

 

 圧倒的な力の前に、為す術もなく爆散したビリビラー。

 

「なんだよ、あのデタラメな強さ……」

「流石に反則っしょ……」

 

 その光景を目の当たりにしたカズマやフウカは、そしてガーディアンのオペレーターたちや御法川もまた見せつけられたファルブラックの桁違いの強さの前に戦慄するのだった。

 

「君は……一体……」

 

 そしてソウタは問いかける。ファルブラックに乗る、顔も名前も知らない少女へと。

 

「あなたは、私を殺せる人?」

「え……」

 

 応じるかのように、ファルブラックはその目をファルガンへと向ける。だが……。

 

「まずい! 逃げるんだ結城くん!」

 

 次に彼女が向けてきたのは、ラスターブラッドガンの銃口だった。

 

「あなたは、私を殺してくれる人?」

「攻撃してきた!?」

 

 足元を掠める光線。咄嗟にファルガンはナイフを引き抜きライフルを向け、臨戦態勢に入る。

 

「撤退するんだ! ファルブラックは君が戦って敵う相手じゃあない!」

 

 だが御法川は言う。戦ってはいけないと。当然だろう、あれだけの次元の違う力を見せつけられたのだから。

 

「だけど放っておいたら街が……!」

 

 それでもソウタは退くわけにはいかなかった。自分や大切な人たちが生きるこの街を守る為に。

 

「大丈夫だ! それは街は攻撃しない! だから今は下がるんだ!」

「下がれって言われても……!」

 

 光の翼を広げ、迫るファルブラック。対するファルガンはナイフを構え、振り下ろされた銃剣とぶつかり合い火花を散らした。

 パワーの差は歴然。旧式のファルガンで叶うはずもなく、徐々に押されていく。

 

「まだ、違う……」

「うわぁぁぁっ!」

 

 そしてファルブラックはファルガンを弾き飛ばし、引き金を引いて光線を放ち両腕を撃ち抜いた。

 

「まだ、足りない……」

 

 戦う力を失ったファルガンを前に、少女は呟く。その後、ファルブラックは翼を広げて飛び立ち夜空の彼方へと消えていった。

 

「ファルブラック、撤退しました」

「なんだったわけ、今の……」

 

 ファルガンは全ての武器が使えなくなり、戦闘不能に。一方でファルブラックは、無傷で消えていった。見逃してはくれたものの、結果は完全敗北だった。

 

「無事かソウタ!」

「大丈夫、軽く打っただけで大した怪我もないよ。ファルガンは壊れたけど……」

 

 だが幸いファルガンが中破したのみで、パイロットのソウタはほぼ無傷。偶然ならば運が良かったという他ないだろう。

 

「今から回収班を回そう。君はそこで待機していてくれ」

「わかりました。ファルガンを壊してしまってすみません」

「こちらこそ、ブラックが出てくるとは想定外だった。すまない」

 

 ガーディアンの擁するファルガンを破壊された事を気に病むソウタ。だが御法川としてもファルブラックの出現は想定外で、逆にこの程度で済んで良かったというべきところだった。

 

「何だったんだろう、あれは……」

 

 強力な怪獣を物ともせずに打ち倒し、自分でも手も足も出なかった謎の機体、ファルブラック。

 回収を待つコクピットの中でソウタは、強烈な存在感を放つその存在の事を思い浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

「大丈夫です。身体に異常は何もありませんよ」

「ありがとうございます」

 

 その日の深夜、復旧作業が進む中検査を終えたソウタは医務室を後にしてカズマとフウカの二人と合流する。

 

「よう。検査どうだった?」

「なんともないよ」

「まったく、心配かけて……。同級生に死なれたら色々アレじゃん」

 

 結局検査結果では何も異常がなく、少し体を打っただけで怪我もなし。勝てなかったことを置いておけば、とりあえずは一件落着だ。

 

「何事も無かったようでよかったよ。そして本当に済まなかった」

「御法川さん……」

 

 その三人のところにやってきて、頭を下げる御法川。だがソウタたちが望んでいるのは謝罪ではない。

 

「ファルブラックって何か、聞かせてくれるんだよね?怪獣を瞬殺したと思ったらこっちに襲ってくるしわけわかんないんだけど」

 

 あの機体が何者なのか。それを知る限り教えてもらうのが彼らの望みだった。

 

「その話は僕の部屋でしよう」

 

 それを了承した御法川は三人を自室へと迎え入れ、資料を広げる。

 

「早速ファルブラックについてだけど、こちらでもその実態は掴めていないのが実情だ」

 

 まずガーディアンは黒いヒロイックロボを便宜上ファルブラックという名前をつけて呼称しているが、本当にその名前なのかどうかも現状では謎のままである。

 

「行動は怪獣だけでなく紛争地域の武装組織も攻撃対象にしていて、あの機体が壊滅させた武装組織は必ず少年兵を多く使っている組織だった。女子供には傷をつけず、幹部や兵士だけを一人残らず全滅させる。それがあの機体のやり方だ」

「ニュースと同じだ……」

 

 そして御法川の語るファルブラックの行動は、ソウタが今朝に見た紛争地域のニュースと重なっていた。近頃話題になっている武装組織の連続壊滅は、ファルブラックによる出来事だったのだ。

 

「じゃあなんでソウタに攻撃を仕掛けてきたんだよ」

「不明だ。以前よりヒロイックロボに攻撃を仕掛けてくることも稀にあったが、毎度機体を破壊されてもパイロットは無傷か軽傷だった。よってガーディアンに対しては敵対行動を取っても、殺意はないと踏んでいる」

 

 またファルブラックはこれまでもヒロイックロボにまで攻撃を仕掛けてきていた。しかしその時は敵を皆殺しにしていた武装組織の時とは異なり、機体は破壊されてもパイロットに犠牲者や重傷者が出ることは決してなかった。

 目的は不明だが、恐らくは手心を加えられていたのだろう。

 

「マジで何がしたいんだろ」

「テロリストは皆殺しにするような奴だ。恐らく怪獣や武装組織と戦う目的と、ガーディアンと戦う目的はまた別にあるんだろうけど……」

 

 まだ判明していないところも多いが、ひとまずはファルブラックの行動指針は分かった。だがもう一つ大きな不可解な点がある。

 

「あの強さ、手も足も出なかった……」

「当然だ。現行のヒロイックロボと、あのファルブラックでは機体のポテンシャルが違い過ぎる」

 

 それは怪獣もヒロイックロボもまるで寄せ付けない、別次元とも言える圧倒的な強さだ。

 

「絶大な基本性能もさることながら、光の翼による飛行能力と運動性や、連射可能な複数のラスター装備。見た目こそヒロイックロボに似てはいるが、テクノロジーの次元が余りにも違い過ぎる」

 

 飛行能力。必殺技であるラスター装備の連射。圧倒的な基本スペック。

 それらは御法川の言う通りヒロイックロボのテクノロジーを大きく逸脱したものであり、外観こそ近いものの性能面ではヒロイックロボというカテゴリに収まるかどうかすら怪しいレベルに至っていた。

 

「それこそ過去のヒーローと魔王との戦い。その時代のヒーローや怪獣に匹敵する可能性も捨てきれない程にね」

「あの頃の戦いは、まだ現代科学じゃ解明できない次元だって……」

 

 数十年前の戦い以降、当時の戦いで使われたテクノロジーを解明しようと人類は努力してきた。その結果膨大なエネルギーを消費するビーム兵器の一種、ラスター装備などの成果は生まれたものの、完全に解明するには至っていない。

 怪獣の強さでさえ、現代のものでは過去のものの半分にも至っていないと言われているのだ。もしも何らかの形でファルブラックにその時代のテクノロジーが組み込まれているとするのなら、別次元の高性能も説明がつくだろう。

 

「もしその時代の魔法すら内包した超技術を手に入れてファルブラックに組み込んだ人間が悪意のある人間だったとしたら……もしもその技術がロボット怪獣に組み込まれてしまえば、今の戦力ではとても対応できなくなるだろう」

「ちょっとそれヤバくない……?」

 

 基本的には無辜の民には危害を加えないファルブラックで済めばいい。

 だがもしもファルブラックを建造したのが悪意のある集団であれば。もしくはその彼らが解明した過去の技術が悪意のある者たちにより転用されたのなら。

 そのテクノロジーがロボット怪獣に組み込まれた時、スーパーヒーローがいないこの世界は間違いなく地獄と化すだろう。

 

「その事態に備える為にも、僕はガーディアンの改革を進めなければならない。これからも協力を頼む」

 

 ファルブラックの出現でその最悪の事態が現実的となった今、それに対抗し技術革新を進めガーディアンを増強する為にも御法川は組織改革が必要だと考えているのだ。

 

「ちょっと……考えさせてください」

 これまでは敵は怪獣だからと戦ってきた。だが今のソウタには一つ思うところがあり、すぐに答えを出すことはできなかった。

 

 

 

 

 

 その日の深夜、只野市を一望できる高台の公園にて。

 

「ヒーロー……身近な世界を守る、か……」

 

 一度家に帰ったソウタは、夜風を浴びようとここまで散歩に来ていた。

 考えているのは、やはりこれからの事。今までは、マドカやカズマ、フウカや学校の友達といった身近な人々を守る為に、相手は人ではなく怪獣だからと戦ってきた。

 

「でもファルブラックは……相手は人間なんじゃないのか……?」

 

 しかし今度の相手はヒロイックロボ。自分と同じ人間である。しかも聞こえてきた声は、年端もいかない少女のそれだった。

 

「人間同士で戦うんじゃ、俺はどうすれば……」

 

 想像もしていなかった事態に、思い悩むソウタ。

 そんな彼の視界に、深夜二時にも拘わらず小さな人影が写った。

 

「女の子……?」

 

 その視線の先にいたのは、小さな女の子。白いワンピースを身にまとった、銀色の髪と赤目の可愛らしい少女だった。

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