英雄電機ヒロイックロボ   作:スグリ@あれこれ書いたりする人

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感想くれると作者が喜びます。


第四話 燃える中東

 深夜にも拘わらず、一人で高台から街を見下ろす少女。

 ソウタは一瞬その神秘的でもある光景に呆然としたものの、流石にこの時間は危険だと恐る恐る声をかけようとする。

 

「あなたも、居場所がわからないの……?」

「っ……!?」

 

 しかし見られていないのに向こうから話しかけられ、ソウタは思わず驚き一歩引き下がった。

 

「それとも……他のことで迷ってるの?」

 

 そしてこちらへと振り向く少女。そのルビーのような赤い瞳は、まるで何もかもを見通しているかのようだった。

 

「君は? こんな時間にここにいると危ないよ」

 

 ソウタは彼女が何者なのか、尋ねると同時に家に帰るように促そうとする。

 

「帰る場所はない……。迷子、なのかな……」

 

 しかしそれはできなかった。彼女には、帰るべき家がなかったのだ。

 

「家があって、迎えてくれる人がいて……それって、とても幸せな事なの。そして私は、幸せに選ばれなかった」

 

 何やら重々しい彼女の言い草から察するに、ただの家出少女というわけではなさそうである。それよりも、遥かに重い背景がある様子だった。

 

「私、6歳の頃から中東にいたの。何のために生きてるかも分からないまま、言われるがままに戦いながら……」

「そんな事って……」

「けどやっと帰ってこれた。私の居場所は残ってなかったけど、それでも……」

 

 彼女は日本人ではあるものの、訳あって幼い頃から中東の紛争の只中で生きてきた。時には人を殺し、殺されそうにもなったのだろう。

 そんな境遇で生きてきた彼女だったが、巡り巡ってようやく帰国する事ができた。その頃には、家も何もなくなっていたのだが。

 

「帰ってきてよかった……」

 

 しかしそれでも少女は幸せを感じていた。消耗品のように使い潰されてきて、いつ死んでしまうかもわからなかった彼女にとって、再び故郷であるこの国に戻る事が出来たのはまさに奇跡としか言いようがなかったのだ。

 

「ごめんなさい、こんな話を聞かせてしまって……」

「俺たちにとっては当たり前の事が、とても幸せな事……か……」

 

 自分たちには想像もつかないような壮絶な世界。その真っ只中で、目の前にいる少女が生きてきたという事を知ったソウタの心が揺らぐ。

 

(正義って、何なんだろう……)

 

 御法川の言うように紛争には関わらない。ヒーローとして、本当にそれだけでいいのか。そもそもヒーローとは何なのかという迷いが彼の心に芽生え始めていた。

 

 

「ありがとう、聞かせてくれて」

 

 その答えを見つけるには、長い時間がかかるだろう。だが、自分がヒーローとして戦う事の意味を考えるという点では少女との出会いは決して無意味ではなかっただろう。

 

「それじゃまた……」

 

 話を終えると、そう言って立ち去ろうとする少女。そんな彼女を咄嗟にソウタは呼び止めて尋ねた。

 

「俺は結城ソウタ。君は?」

「水無瀬クオン」

 

 水無瀬クオン。それが、その薄幸の少女の名前。

 

「また会ったら、良かったら話をしよう」

「うん。またね」

 

 そして再び出会ったらその時もまた、今日のように話そうという約束を交わしてソウタとクオンはこの場で別れるのだった。

 

 

 

 

 

 それから一ヶ月……。

 

「中東……あの子がいた場所か……」

「どったの?そんな物思いに耽ったような感じで」

 

 飛行中のガーディアンの輸送機の中で、物思いに耽るソウタにカズマは声をかける。

 

「なんでもないよ」

「ならいいけど、本番でヘマしないでねー」

 

 そしてフウカは何を悩んでいるのかには興味がなかったものの、これだけはとそう釘を刺すのだった。

 

「にしてもまっさか海外とはなぁ」

 

 この輸送機は今、自動操縦で中東のサウジアラビアに向かっている。こうなった理由を説明するには、一週間前まで遡ることになる。

 

 

 

 

 

 今から一週間前のガーディアン支部にて……。

 

「すまないが、君たちには中東のレバスタン共和国まで行ってもらいたい」

「はい?」

 

 御法川の突然の発言に、思わず声を上げるフウカ。突然中東まで行けと言われたらこうもなるのは当然だろう。

 

「中東地域では石油や宗教を巡って何度も紛争が繰り返されてる事は知っていると思う。ガーディアンとしては紛争介入はできないんだけど、今回は紛争とは訳が違う」

「怪獣がでてきたー!とか?」

「その通りだ」

 

 そして御法川の前置きを遮るように適当に当てずっぽうで発言するフウカだが、それは大正解だった。

 

「近頃石油産出国を狙って、大型のロボット怪獣が出没している。行動目的は恐らく油田に対する破壊工作。どこのテロ組織の仕業なのかはわからないけど、こいつを放置しておけば大規模な中東戦争とオイルショックの再来を引き起こしかねない」

 

 ここ最近、潤沢な石油資源を有する中東諸国を狙ってロボット怪獣が出現しているのだという。もしもその怪獣により油田が壊滅した場合、被害は人類の文明全体にまで及びかねない。

 当然あちらで対応できればいいのだが、中東諸国は政治的・軍事的問題でガーディアンの展開とヒロイックロボの導入が進んでいない。そして今、救援要請が送られてきたというわけである。

 

「うっわ、責任重大……」

「なんで俺たちなんですか?もっと強い人たちを送ればいいのに」

 

 だが妙なのは人選だ。想定される被害は人類全体にとって甚大だというのに、どうして各国ガーディアンのトップエースたちではなく素人同然の自分たちが送られるのか。それがソウタにはどうにも想像がつかなかった。

 

「残念だが、ガーディアンには各国の政府も絡んでいてね。どの国も他国の為に主力を割きたくないんだろう」

「随分と悠長だなおい」

「情けないけど、それ程までにガーディアンは劣化しているという事だよ」

「要するに俺たちは余り物ってわけね」

 

 しかしその理由というものが、いかにも現実の難しさを表したようなものだった。所詮相手の怪獣は一体で、しかも情勢が複雑な地域の支援という事でどこの国も戦力を出し渋っていて日本もその例外ではないのだという。

 ヒーローとしても問題だが、世界の危機にしては随分と悠長なものである。

 

「君たちには本当に済まないと思うけど、これに勝てば人々は君たちの力を認めるしかないだろう。よろしく頼む」

 

 そして御法川は、ここでソウタたちの実力を人々に証明するつもりでもある。もしも認めさせることができれば、軍人的な考えに染まった幹部たちも彼らの存在を無視できなくなるだろうという考えだった。

 こうしてソウタたち三人は、石油産出国を襲う怪獣を倒す為に中東へと飛ぶことになった。

 

 

 

 

 

 輸送機にて。

 

「そういえば考えさせてくれとか言ってたけど、答えは見つかったのか?」

 

 窓から空を眺めるソウタに、未だはっきりしていない一か月前の御法川の頼みに対する答えをどうするつもりなのかをふと尋ねるカズマ。

 

「まだ答えはわからないけど……それを見つける為に戦い続けてみるよ」

 

 対するソウタの答えは、まだはっきりはしていない。だがそれをはっきりさせる為にも、ヒーローとして戦い続ける事は心に決めていた。

 

「着陸に入るのでシートベルトをお願いします!」

「はーい」

 

 そうして話しているうちに輸送機は高度を下げ、着陸準備に入ったようだ。

 

「そういえば二人はなんで戦うの?」

 

 着陸までの間、ソウタが振った話題は戦う理由。これからの自分の事を考える為にも、二人の理由を聞いておきたかったのだ。

 

「うちのは映えるからかな? 友達とみんなで怪獣やっつけたーって!」

「お前らしいな、九条」

 

 まずフウカは話題作りの為。実際に彼女は怪獣撃破に貢献した話を雑談のネタにしていて、流石に同級生が怪獣を倒したともなると充分友達の興味を引くことができていた。

 

「どうせあんたは男のロマンーとかそんなんっしょ?」

「女のくせによくわかってんじゃねぇか」

 

 そしてカズマはフウカの言う通り、男のロマン。要するにヒロイックロボが好きだからである。

 

「はいそれ男女差別でーす」

「なっ、てめぇ!」

「てめぇじゃありませんお姫様とお呼び!」

「お姫様でもねぇだろ!」

 

 当然理由はそれだけではない。街や日常を守りたいという思いも当然あるが、それらの軽い理由が彼らのモチベーションの一つになっているのは確かだろう。

 

「あの……さ……」

「どーしたの?」

 

 そんな彼らの話を聞いたソウタは、自分の中の煮え切らない思いを二人に打ち明けることを決めた。

 

「正義の味方って、やっぱり平和を守る為に戦わないといけないのかなって思って……」

「そりゃまたどうして」

 

 一見すれば、彼の言う事は至極当然の事にも聞こえるだろう。

 だがクオンと出会った今、平和な街を守る為に戦い人間同士の戦争には介入しない。そんなヒーローだけで本当に救われるべき人を救えるのかという疑念がソウタの中にあった。

 

「別にどうだっていいと思うぞ? 好きな女の為に戦うヒーローもいれば復讐の為に戦うダークヒーローだっているし、理由どうこうは気にしなくていいんじゃないか」

「ありがとう、カズマ」

 

 とはいえカズマの言う通り、ヒーローの形は決してひとつではない。それを聞いたソウタは思った。色々な形の正義があるのなら、きっとクオンのような人を救える正義もあるはずだと。

 本当に正しい正義というものはどこにあるのか。その答えを見つけるのは、かなり遠い先の話になりそうだ。

 

「はいそこまで! 気晴らしに帰国したらみんなでお茶しない?」

「お、いいな! ソウタも行こうぜ!」

「そうしようかな」

 

 ここで重い話は聞き飽きたと言わんばかりにフウカはその話題を強引に打ち切りお茶会に誘う。

 

「お、着いたか」

 

 そうして帰国後の予定ができたところで、輸送機はレバスタン共和国軍基地に到着。タラップが付けられ、ガーディアンの職員たちに続いて三人は輸送機を降りた。

 

「本日は御足労いただきありがとうございます」

 

 出迎えにやってきたのは、いかにもエリート然とした軍の士官たち。

 

「いえ、こちらこそお出迎えありがとうございます」

「早速部屋に案内しますのでこちらへどうぞ」

 

 丁重に案内をする彼らに連れられてソウタたちは基地内を歩いてゆき、物々しい雰囲気の一室の前へと辿り着いた。

 

「こちらでお待ちいただけますか?」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 扉を開けて中へと進む三人。明かりがつけられると、そこはガーディアンとは色々と異なる形のブリーフィングルームだった。

 

「はぁ……何なのあいつら!」

「歓迎ムード……ではなかったね」

 

 早速椅子に座り込み、憤りを露わにする。別に案内をしてくれた士官たちに不満があったわけではない。むしろ彼らは予想以上に丁寧な対応で驚く程だった。

 だが問題は周りにいた兵士たち。到着早々彼らを睨みつける者や嘲笑う者、中には唾を吐きかけようとする者までいたのだ。

 

「多分救援求めたらこんなガキ三人が送り込まれてきたからだろうさ。頼りにされてないぜ絶対」

 

 恐らくそれは、救援としてやってきたのが年端もいかない少年少女だったからだろう。要するに舐められているということだ。

 

「うちらも手伝うからあんなアホ共の鼻、軽くこじ開けちゃってよ!」

「わかってる。頑張るよ」

 

 その事は逆に一同の心に火をつけた。必ず怪獣を倒し、自分たちを嘲笑した兵士たちの鼻を明かしてやろうとそう誓うのだった。

 

「失礼します」

 

 そんな時、ドアを開けて入ってきたのは筋骨隆々とした色黒の大男。なかなかに威圧的な風貌だがその物腰は低く、見た目ほどの威圧感は感じさせない。

 

「あなたは……」

「レバスタン軍大佐、モハメド・イブラヒムです。まずは部下たちの非礼をお詫びしたい」

 

 彼の名はモハメド。この国の軍の大佐という高い階級を持つ人物であり、彼こそがガーディアンへの救援要請を政府に提言した張本人でもある。

 

「いえ、特に何かされたわけでもないので」

「こちらとしてはあなたたちに縋るしかないというのに……」

 

 敵の怪獣は強大で、レバスタン軍の現行勢力ではとても対抗できない。それがわかっていながらせっかく来てくれた救援を嘲笑う自分たちの部下に呆れた様子で、モハメドはそう言って頭を下げる。

 だがソウタたちも自分たちの力不足は自覚している手前、そこまで言われたとあってはそれ以上何も言うことはできなかった。

 

「本題ですが、こちらが確認されている怪獣の写真になります」

 

 そして話は本題へと移り、モハメドは一枚の写真をモニターに映し出す。それは、他国で撮影されたターゲットの怪獣の姿だった。

 

「へぇ、今回はそこそこかっこいいじゃん。顔は雑だけど」

 

 白っぽいグレーの身体に、流れる血かマグマのような淡く光る赤いライン。全身には多数のキャノン砲を装備し、顔こそやや不細工なものの今回の怪獣はフウカから見ても珍しく格好良いと思えるものだった。

 

「既に三カ国の油田がこの怪獣によって破壊されています。そして怪獣の進行ルートを分析した結果、次に現れるのはこのレバスタンです」

 

 次に映し出されたのは、地図で示された怪獣の予測侵攻ルート。これまでの行動指針や地形から計算されたこのラインが示すのは、次に狙われるのはこのレバスタン共和国ということである。

 

「お願いします。どうかこの国の……この国に住む人々の未来を、守ってください!」

「頭を上げてください。頼りないかもしれませんが……その時は全力で戦います」

「ありがとう、少年たち……」

 

 そしてその予測が示す、怪獣の現れる時間。それは夜明けとほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 翌朝、レバスタン油田付近の街。

 

「ファルガン、起動します!」

 

 敵は砂漠を越えて、日の出と共にやってくる。緊張が漂う中、ソウタはファルガンを起動させる。

 

「前口上どーする?」

「こんなのはどうだ?」

 

 気晴らしの為、基地の中に設けられた仮設司令室でフウカとカズマは前口上について相談する。ファルソードに乗るアリサは、それを持っていた。それならソウタにも必要なのではないかと考えた次第であった。

 早速カズマは、考えた口上をメールでソウタに送り付けた。

 

「そうだね。これで行こうか」

「よしっ!」

 

 ソウタも気に入ったようで、結果採用となった。

 戦いには無意味な会話ではあるが、気晴らしとしては上手く作用しソウタの気持ちも幾分か楽になっていた。

 

「敵怪獣、第一警戒ラインを突破!」

 

 ガーディアンから派遣されたオペレーターが叫ぶ。昇る太陽と共に、敵怪獣が現れた瞬間であった。一歩歩く度に地面が揺れるような感覚が伝い、今回の怪獣が只者ではないと知らしめてくる。

 

「希望の光で、闇を照らす!」

 

 そしてソウタは口上を叫ぶと、グリップを握り締めファルガンは銃を構えて歩き出した。

 

「警備隊など足止めにもならん。無駄な犠牲を出さない為にも彼らに任せるしかないか……」

 

 その様子を仮設司令室から見守るモハメド大佐。やはり、少年たちに任せる事には彼も不安が無いわけではなく、勝利と共にソウタの無事を心の中で祈っていた。

 

「敵怪獣、東から接近。ファルガン、北上します」

 

 しかしファルガンの動きにはおかしなところがあった。怪獣はアラビア砂漠を通過して東から向かってきている。だがファルガンはそこに向かっていくことなく、何故か怪獣から逃げるように北上し始めたのだ。

 

「敵はノロマだから、仕掛けるなら奇襲攻撃だ。そこから東に移動して、俺が指示したら南下して敵の背後から一気に仕留めろ!」

「わかってる。指示は任せた!」

 

 これこそが、カズマと考えた作戦。今回の怪獣は今までと比べても非常に鈍足である。その為旋回能力も低いと考え、敵怪獣の後ろへと回り込んで後方から攻めるというプランだった。

 

「あーあ、うちは蚊帳の外かぁ」

 

 自分抜きで作戦が進んでいる事に若干の寂しさを覚えるフウカ。

 そうしていると、今までは日の出の逆光でよく見えなかった怪獣の姿が、今はっきりと見えるようになってきていた。

 

『GYAAAAA!』

 

 重炎ロボット怪獣メラドガン。

 全高30m、重量1400t。

 圧倒的な重装甲とパワー、そして大量の火炎砲による大火力を誇るまさに歩く要塞とでも言うべき強力な怪獣である。

 

「敵怪獣、第二ラインを通過」

 

 怪獣がさらに迫る。そしてファルガンは、怪獣の侵攻ルートを外れて東へと走る。

 

(クオン、君みたいな子はもう二度と……)

 

 そのコクピットの中で、ソウタは一週間前の事を思い浮かべた。この中東で紛争に巻き込まれ、全てを失った少女の姿を。

 もしも怪獣メラドガンに石油を奪われたら、残された石油を巡ってまた新たな紛争が始まるだろう。そうなれば、クオンのような子供たちがまた増える事になる。それだけは、絶対に許すわけにはいかない。

 

「第三ライン、通過!」

「行け、ソウタ!」

 

 合図が告げられた。瞬間、ファルガンは方向転換しメラドガンの進路上に南下しながらライフルを構える。

 

「ライフルカノン!」

『GYAAAAA!』

 

 そして引き金を引き、死角から砲弾を浴びせていく。だが、何発撃っても装甲には傷一つつかず金属音を立てながら弾き返されるだけだった。

 

「やっぱりだめだ!」

「時計方向に回り込みながら距離を詰めろ!」

 

 しかしライフルが弾かれるのは想定内。方向転換して火炎弾の弾幕を張りつつ砲口を向けようとするメラドガンの後ろに回り込むように、動きながら次の攻撃方法を講じる。

 

「これ……甲羅に隙間あるじゃん。そこ狙えない?」

 

 戦いの最中、怪獣を観察していたフウカは気付く。全身を流れる赤いライン。それが装甲の隙間となっている事に。

 

「炸裂ナイフ!」

 

 それを聞いたソウタはすぐさま爆薬を仕込まれた炸裂ナイフを抜き、背後から突撃。赤いライン目がけてその刃を突き立てた。

 

『GYAAA!』

「通らない!? うわあぁぁぁっ!!」

 

 だがそこにすら攻撃は通らず、逆に尻尾で殴りつけられ返り討ちにされてしまう。

 

「ソウタ!」

「うっそ、左腕損傷率40%!? 一発殴られただけで!?」

「なんて硬さにパワーだ……。これじゃ……」

「こんなもんどうすんだよ……」

 

 咄嗟に左腕でガードしたものの、その一撃だけで左腕はほぼ半壊。その凄まじいパワーの上に無敵にも思える防御力。

 まるで弱点が見当たらず八方塞がりかと思われたその時、フウカはふとある事に気付く。

 

「えーっと……何あれ。足跡?」

 

 彼女が目を向けた先。そこにあるのは、メラドガンの足跡だった。

 

「なんだよ九条。今それどころじゃ……」

「あの足跡、なんかおかしくない?」

「言われてみれば、妙に黒いというか……」

 

 その足跡は、普通に出来たにしては妙に黒々としており、フウカはそこに違和感を感じていたのだ。

 

「軍人さん、あそこにドローン飛ばして写真撮れる?」

「わ、わかった。やってみよう」

「焦げてんじゃねぇのか?どうせ」

 

 試しに中継車からドローンを飛ばし、メラドガンの足元へと近付ける。

 

「ドローン、到着しました」

「もっと近付けて!」

 

 そしてさらに接近し、至近距離から足跡の映像を捉えたところでフウカの予想は確信となった。

 

「ねえソウタ!」

「九条さん!?」

「あいつじゃなくてさ、あいつの足跡を撃ってみて!」

「足跡!?」

 

 足跡を撃てという突然の意味の無さそうな指示に、ソウタは戸惑いを見せる。

 

「いいから早く!」

「わかった!」

 

 だが策がないのも事実。これが勝利に繋がるのならと、彼は半ば自棄になってメラドガンの通り過ぎた足跡へ向けてライフルを撃ち込んだ。

 

「足跡が……燃えた……?」

 

 するとどうか。ライフルを受けた足跡は、何故かその後メラメラと燃え始めたのだ。

 

「そもそもあんなデカくてパワーもある上に火炎弾も撃ちまくれるような怪獣が、国境超えて油田壊して回れるのがおかしかったの!」

「それって……」

「多分、そいつは地面を踏み抜いてスポンジみたいに染み出した原油を吸い上げてエネルギーにしてるからガス欠しないんだよ!」

 

 フウカの言う通り、メラドガンほどのパワーと重量を持つ巨大ロボット怪獣が無補給で暴れ回りながら中東を横断するなど有り得ない。ならば考えられるのは、稼働しながらのエネルギー補給。

 このメラドガンは一歩歩く度に足の裏から地面深くまで衝撃波を放ち、水の染み込んだスポンジを押し込むように地下の埋蔵されたものや石油管の中の石油を染み出させて、それを吸い取る事で動力源としていたのだ。

 

「つまり何とかして足の裏に火をつけたら……!」

「足の裏から引火して、内部から破壊できる!」

「そゆこと!うちってば天才?」

 

 つまり弱点は、石油吸入口がある足の裏。なんとかしてそこに火力を叩き込む事ができれば、内側からダメージを与えられるかもしれないのだ。

 

「でもどうすんだ? 地雷は条約で禁止されて全処分されてるはずだから……」

「とりあえず方法はうちとこいつが考えるからあんたは戦いに集中して!」

「わかった!」

 

 とはいえ、その為の策はまだ考えられていない。それを二人が考えている間、ソウタは時間稼ぎに集中するしかない。

 

「頼むぞ、少年たち……」

 

 異常なパワーと防御力で無敵とも思われた怪獣メラドガンに対し、とうとう弱点を突き止めるまでに至った彼ら。そんな三人の活躍に、モハメドの思いは疑念から期待へと変わっていくのだった。

 

「ライフルもナイフも効かない……。ならここは死角に回りながら時間を稼ぐ!」

 

 倒す事はひとまず置いておいて、火炎弾の雨あられを射程範囲から外れる事で避けつつ注意を引き時間稼ぎに専念するファルガン。

 幸い動きが遅いせいで、迂闊に攻めずに避けるだけであればそこまで難しくはないようだった。

 

「思いついた?」

「全っ然だ。何せ怪獣の重量がどう見ても桁違い過ぎる」

 

 一方でカズマたちはというと、足の裏に攻撃する方法に悩んでいた。

 

「うちは一つ思いついたけど……ソウタ、多分めっちゃ難しいよ?」

「それしかないならやるしかない!」

 

 そんな中フウカがある案を考えついた。しかしそれは、彼女の言うようにとても難しいものだった。

 

「まずは正面で距離を取って。それで敵が動き出したら、その瞬間に足と地面の間にグレネードをぶち込んで爆発させる。できる?」

 

 敵の攻撃を避けながら、メラドガンが足を上げたタイミングを狙って足元にグレネードを撃ち込み足の裏で爆発させる。しかも横からではグレネード弾が足の下を通り抜けてしまう可能性が高い為、正面から。

 正確な狙いは勿論のこと、正面から敵の攻撃を確実に避ける反射神経と、踏み下ろす足の裏に直撃させるタイミングも重要になる。

 

「わかった。それでいこう」

 

 かなりの難しさだが、それでも策はこれしかない。ソウタは覚悟を決め、グレネードをライフルに装着させて攻撃を仕掛けた。

 

「あとは距離を取って引き付けたら……」

 

 そして一定の距離を保ちながら、ライフルを一発、また一発と浴びせ注意を引いていく。

狙い通りメラドガンはこちらへ向かってくるが、直後には視界を覆い尽くさんばかりの火炎弾が迫ってきた。

 

「弾幕が濃すぎて……!」

 

 距離を取っている為避けることはなんとかできるものの、火炎弾に視界を阻まれ思うように照準が定まらない。

 だがいつまでもこうして撃たれ続けているのも危険だ。次足を上げた瞬間。そこを狙って……。

 

「当たれぇぇぇぇっ!!」

 

 引き金を引き、ファルガンがグレネード弾を放った。

 

「外した!?」

 

 だがその弾丸は足の下を微妙に逸れ、尻尾の付け根へと命中した。当然、そんなところに撃ってもダメージはない。

 

「もう一回やるしか……!」

 

 すぐさま射程内から退避するファルガン。そしてもう一度、リベンジに飛び込もうとしたその時だった。

 

「攻撃!? 怪獣に……」

 

 後ろから砲弾が浴びせられ、メラドガンの注意がそちらへと引き付けられる。

 

「こちらはレバスタン陸軍だ! 作戦は聞いた。敵はこちらで引き付ける!」

 

 そこにいたのは、レバスタン軍の戦車隊。思いもよらぬタイミングでの援軍だった。

 

「税金の使い所だぞ! ありったけ撃ち尽くせ!」

「日本人にばかりかっこつけさせるか! 軍の意地の見せ所だ!」

「敵怪獣、出動した陸軍部隊にターゲットを変更!」

 

 いくら撃ったところで、メラドガンには傷一つ付けることはできない。それが分かっていながら、注意を引くためだけに兵士たちは大砲を撃ち続けた。

 自分たちの祖国を守る為に、最初は馬鹿にしていた遠い島国から訪れた少年たちが戦ってくれている。その姿にいても立ってもいられなくなった彼らは、少しでもその助けになるのならと駆けつけたのだ。

 

「後は頼んだぞ、ヒロイックロボ!」

「はい!」

 

 これならいける。当初の作戦とはかけ離れてしまうが、ソウタにはその確信があった。

 

(失敗したら、あの人たちの覚悟が……)

 

 それに兵士たちの覚悟を無駄にしない為にも、失敗するわけにはいかない。

 

「いっけぇぇぇぇっ!!」

 

 叫びを上げ、背後から突撃するファルガン。そしてメラドガンの足元にスライディングを決めると、ライフルの砲身をすかさず浮いた足の下にねじ込み、引き金を引いた。

 

『GYAAA!?』

 

 直後、片足が内側から爆散し絶叫を上げながら倒れるメラドガン。至近距離から放ったグレネード弾は見事足の裏へと直撃したのだった。

 

「目標、脚部破損!」

「よっしゃ成功だ!」

「やったぁ!」

 

 考えた方法とは違ったものの、作戦に成功して歓喜するカズマとフウカ。

 

「全軍撤退だ! 急げ!」

「ラスタービーム投下します!」

 

 そしてレバスタン軍も脚部破壊を確認すると同時にすぐさま撤退。直後、上空の輸送機から投下されたラスタービームを受け取ったファルガンはその銃口を、起き上がろうともがくメラドガンへと向ける。

 

「照準セット!」

 

 狙いは、足が爆散した跡の傷口。

 

「ラスタァァァァ!! ビィィィィィィィムッ!!!!」

『GYAOOOOOOOOOO!?!?』

 

 叫びと共に放たれた光線は、メラドガンを包み込んだ。そしてその光は傷口から怪獣の全身へと入り込み、内部から跡形もなく爆散させた。

 

「これが俺たちの力だ!」

「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」

「よっしゃあ!」

「いえーい!」

 

 結果的に皆の力を合わせて戦ったこの戦い。その結果は見事大勝利に終わった。

 そして関わった者は皆、ガーディアンも軍も問わず一斉に歓喜の声を上げるのだった。

 

 

 

 

 

「負傷者の救助を急げ! 重傷者が優先だ!」

「救護班、こっちも頼む!」

 

 メラドガン撃破後、レバスタン軍基地。

 先程は歓喜ムードだったがいつまでもそうしているわけにはいかず、今は怪我人の救助など事後処理に追われて慌ただしくなっていた。

 

『戦闘モードを解除。通常モードに移行します』

 

 そんな中、機体の戦闘モードを解除してファルガンから降りるソウタ。そんな彼を出迎えるように、カズマとフウカの二人はそこで待ち構えていた。

 

「ヒーローのお出ましだぜ!」

「それは恥ずかしいからやめてくれるかな」

「やるじゃんあんた!」

 

 皆で勝ち取った勝利とはいえ、一番大変な役割を果たしたソウタに賞賛の声を浴びせる二人。それに対してソウタは少しくすぐったい気持ちになっていた。

 

「九条さんのおかげだよ。ありがとう」

「名前でいいよ。フウカで」

「わかった。ありがとう、フウカ」

「どもどもー」

「俺もいいか?」

「いいよー」

 

 こうして海外での戦いも経て、彼らの結び付きは強くなっていく。

 

「君たちのお陰でこの国の人々の未来が救われた。ありがとう」

「こちらこそ軍の協力がなければ勝てませんでした」

「それでも君たちの力がなければなし得なかった勝利だ。誇ってくれ」

 

 そして共に国を救った戦友として、握手を求めるモハメド。そんな彼に応じて、三人はそれぞれ彼とも握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 一方その頃、日本では……。

 

「こちらです、御法川さん」

「ついに量産体制が整ったか」

 

 ガーディアン関東支部格納庫。ここで技術者に案内された御法川は、そこである物を見上げていた。

 

「最新型ヒロイックロボ、HR-07ファルガノン……」

 

 そこにはまるで赤鬼のような、かつてないヒロイックロボの姿があった。

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