英雄電機ヒロイックロボ   作:スグリ@あれこれ書いたりする人

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第五話 紅の砲鬼

 レバスタン共和国の一件からさらに一ヶ月。いつも通りガーディアン支部へとやってきたソウタたちだが、今日は何やらいつもよりも騒々しい様子だった。

 

「やあ。君たちか」

 

 戸惑う彼らの前に現れた御法川。そんな彼は何故か、どこか楽しげだった。

 

「御法川さん、一体どうしたんですか?」

「君たちも見に来るといい。面白いものを見せてあげよう」

「面白いもの?」

 

 そして三人は、御法川に連れられて基地の中を進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 それから数分ほど。辿り着いた先は、ヒロイックロボの格納庫だった。

 

「うわ、なんだよこれ! まさか……!」

 

 扉を開けて中に入った先。そこに佇んでいたのは、見たことのない赤色のヒロイックロボだった。

 

「一か月前……ちょうど君たちが中東まで行っていた間に量産体制が整った新型機、ファルガノンだ。今日ロールアウトされたばかりで大忙しさ」

 

 短い二本角の頭部に、力強さを感じさせる太い手足。さらに目を引くのは、背中に二門装備された大口径のキャノン砲。ファルガンやファルソードと比べて重量感に溢れたこの機体が新たなるヒロイックロボ、ファルガノンである。

 

「すっげぇ! 見ろよソウタ、まだ未発表の新型ヒロイックロボだぜ!」

「強そうだなぁ……」

 

 公式発表よりも先に新型ヒロイックロボを見られた興奮で今にも飛び上がりそうなカズマ。一方ソウタは、茫然と見上げながら思わずそんな感想を漏らしていた。

 

「なんていうか……赤鬼?」

「その通りだ九条くん。あの機体は赤鬼をモチーフにデザインされている。悪くないだろう?」

 

 フウカの予想した通り、この機体のモチーフはおとぎ話にも出てくる赤鬼だ。確かに強そうに見えて、御法川も気に入っているようだがやはり一つ気になる点があるだろう。

 

「正義の味方っぽさとしてはどうかと思うけどね」

 

 そう、鬼といえば基本的には物語における悪役。ヒーローのデザインとしては若干ひっかかるものがあった。

 

「ファルブラックに触発された開発陣がダークヒーロー路線で押し切った結果だそうだ」

「自由かよ」

 

 だが、やや悪役感が否めないのもどうやら開発陣の狙い通りらしい。ファルブラックに対抗したダークヒーロー的デザインを目指したらしいが、張り合う所がおかしいとも言える。

 

「背中のキャノン……もしかして支援砲撃型か?」

「惜しいね」

 

 その武装配置を見たカズマは、このファルガノンが支援砲撃型の機体だと予想するが、それは間違いだという。

 

「確かに元々は支援砲撃型として開発がスタートしたが、そこで我々は致命的な欠点に気付いた」

「致命的な欠点?」

 

 開発開始時点の構想では、カズマの言う通り支援砲撃型として設計されていた。だかそのコンセプトには、ある重大な欠陥があったのだ。

 

「ヒロイックロボの戦闘は基本的に1対1。つまり単なる支援砲撃型では出る幕がないという事だ」

「いやそれ最初に気付こうよ」

 

 それは、ヒロイックロボの戦闘にそもそも支援砲撃型というカテゴリが必要ない事だったのだ。なんともいえないミスに、フウカはそうツッコミを入れる。

 

「そこで設計を見直し、格闘能力も付加して遠近両用の高性能機として完成したのがこのファルガノンだ。性能面では、運動性以外の全てにおいてファルガンを上回る機体に仕上がっている」

 

 ならば殴れるようにして近接戦にも対応させようと再設計した結果生まれたのが、このファルガノンである。その性能は凄まじく、現行機の中では間違いなく最強の機体だと言えるだろう。

 

「そーんな虫のいい話ある?」

「お、おい!」

 

 しかしそんな都合のいい話に怪しさを感じ取ったフウカはそう尋ねる。カズマは失礼だと止めようとするが、御法川はその質問に答えてみせた。

 

「まったく、九条くん。君は本当に鋭い子だ。二度も見ただけで怪獣の弱点を読み解き勝利に貢献しただけのことはある」

 

 どうやら、本当にその都合が良すぎるまでの話を覆すような欠点があるらしい。

 

「最大の欠点はコストだ。当初の想定を遥かに上回る性能と引き換えに費用も増大して、製造費用だけでなく一度の出撃にかかる費用もファルガンの1.7倍かかってしまう。正直、配備できたとしても全体の5%が限度だ」

 

 確かに性能は非常に高いが、とてつもなく高価。それがファルガノンのほぼ唯一にして最大の弱点だった。

 

「世知辛いですね」

「現実はそんなものさ」

 

 ヒーローという夢のある世界で、最大の弱点として出てくるものが金という世知辛い現実。ロボットを使っているからには避けては通れない問題ではあるが、目を背けたくなる話ではある。

 そんな話をしていると、ファルガノンのコクピットからパイロットが降りてソウタたちの元を訪れ、声をかけてきた。

 

「君が噂の高校生ヒーローか」

「俺を知ってるんですか? あなたは……」

「まだ公表はされていないがガーディアン内では噂になっているぞ。俺は八木コウイチロウ。このファルガノンのパイロットだ」

 

 八木コウイチロウ。髭をたくわえた40代程の男で、身体は筋肉質。如何にも歴戦のパイロットといった雰囲気を醸し出していた。

 

「ファルガンのパイロットの結城ソウタです。まだアルバイトという形ですが、よろしくお願いします」

「ああ。よろしく頼む」

 

 互いに自己紹介を済ませたソウタと八木。そんな中、カズマは格納庫を見渡しあるものを見つけた。

 

「おい、何だあれ」

 

 それはまるでトレーラーのようにも見えるがサイズは遥かに大きく、ヒロイックロボ一機を乗せてもまだスペースがある程の巨大な車両だった。

 

「気付いたか。あれはヒロイックロボ支援用トレーラー、Gキャリアーだ」

「Gキャリアー……?」

「操縦に必要な人数は二人。連結するユニットによってヒロイックロボ輸送や戦闘支援、避難民の救助・輸送や仮設病院など様々な機能を付与できる新型スーパーマシンだ」

 

 その車両の名はG(ガーディアン)キャリアー。目的に応じて様々なユニットを連結する事ができ、それによって戦闘支援から災害派遣までありとあらゆる役割を担える、まさにスーパーマシンと呼ぶに相応しい代物である。

 

「すっげぇ、なんでもありじゃねーか!」

「その通り。そしてこの第一号に乗るのは、君たち二人だ」

 

 しかもなんとこの一号機に乗るのは、カズマとフウカの二人だという。それは、これまで色々な形でソウタの助けになってきた二人がよりスムーズにサポートを行えるようにという計らいだった。

 

「うっそマジで!?」

「っしゃあ! ガーディアンの最新型一番乗りかよ!」

 

 予想外の展開に驚くフウカと、ガーディアンの新型機の初運用をできるという夢のような出来事に歓喜するカズマ。

 だがこうして新しい機体を託すという事は……。

 

「その為にもまずは運用訓練が必要だね」

「待って、訓練ってことは……」

「これから君たちも忙しくなるぞ?」

 

 当然、それには訓練が必要となる。その事を聞いてもカズマのテンションは最高潮のままだが、フウカは面倒だと一人項垂れるのだった。

 

 

 

 

 

 街を模したバーチャル空間。ここで今ソウタは、自分が初めて戦った怪獣であるカマギラーと戦っていた。

 

「照準セット! ラスタービーム!」

『KAMAGIRAAAA!!』

 

 ファルガンの放つラスタービームで爆散するカマギラー。同時に、被害総額や撃破タイムなどを示すリザルト画面がモニターに現れた。

 

『目標を撃破しました。 訓練を終了します』

「はぁ……」

 

 訓練を終え、汗を拭いながらシミュレーション用コクピットから降りるソウタ。そんな彼を出迎えたのは、訓練を見ていた八木だった。

 

「まだ一月半だというのになかなかやるじゃないか」

「ありがとうございます」

 

 実際に訓練を見ていた彼のソウタに対する評価は、ひとまず上々だった。

 

「技術面ではまだまだ改善点があるが、それを補うだけの判断力が見て取れる」

「やっぱりまだまだですよね……」

「まだ伸び代がある、と考えるんだ。その判断力に技術が伴えば、きっと君はガーディアンでも指折りのエースになれる筈だ」

「ど、どうも……」

 

 八木から見たソウタの評価は、経験が少ない故に技術力は低いが、それを補う程の判断力の高さは一人前以上のレベルというものだった。

 もしも操縦技術も身につけることができれば、八木の言うようにいつかエースになる日も遠くないかもしれない。

 

「それにだ、戦闘データを見たが凄いじゃないか。特に中東の怪獣、コードネーム《メラドガン》はエースでも苦戦するレベルの強さだ。確かに経験は少ないが、その少ない経験の質は新人の域を超えている」

 

 さらに称賛したのは、中東の一件での怪獣メラドガンの撃破。この怪獣は熟練のパイロットである八木でも戦えば苦戦するレベルで、とても並の新人に倒せるものではないのだそうだ。

 

「つまりだ。自信を持て、少年」

「はいっ!」

「おう。頑張れよ」

 

 八木の言葉に励まされ、ソウタはある程度の自信を得た。そして指摘された操縦技術も努力して伸ばそうと決意するのだった。

 本人には自覚はないが、八木は教える者としては褒めて伸ばすタイプでもあるのだろう。

 

「じゃあな。応援してるぞ」

「あ、あの!」

 

 そして去ろうとする八木を呼び止め、ソウタは彼に一つ尋ねる。

 

「八木さんにとっての戦う意味……正義ってなんですか?」

 

 それは今ソウタが最も思い悩んでいる課題。正義についてだった。

 

「意味……か。そうだな、正義とは違うかもしれないが、金の為かな」

「お金……ですか?」

 

 対する八木の答えは、金の為。自他問わずこれまで出てきた中では最も正義からかけ離れたようにも聞こえるだろう。

 

「好意的な言い方をすれば家族の為だ。妻や子供を養う為に金を稼いで、その過程で敵を倒して街や人を守る。そんなもんさ」

 

 だがそれこそが彼にとっての正義だった。怪獣を倒し、家族の為に金を稼ぐ。その家族にとっては、間違いなく彼はヒーローなのだろう。

 

「ヒーローは神様でもなんでもない。そんな大層なもんじゃないんだよ。特にヒロイックロボなんてもんがある今の時代はな」

 

 昔は正義のヒーローといえば今より高尚な存在だった。中には神秘的とすら言われた事さえあった。

 だが今はどうか。人間がヒロイックロボという巨大な機械人形を作り、人間がそれを操縦してヒーローと名乗っている。それのどこに高尚さや神秘性があるというのだろうか。

 

「ま、何があったかは知らないがせいぜい悩みな。少年」

「あ、ありがとうございます!」

 

 こうしてまたソウタは、新たな正義のひとつのあり方を知った。いつか彼が、自分にとっての本当の正義を見つける時は来るのだろうか……。

 

 

 

 

 

 その日の夕暮れ時。暗くなってきた帰路を行く中、ソウタは八木の言葉をふと思い出す。

 

「そういえば給料入ってたなぁ。マドカにたまには贅沢でもさせようか」

 

 そして浮かんだのは、いつも家の事を頑張ってくれている妹のマドカの顔だった。ガーディアンから貰った給料で、彼女にもたまには美味しい物でも食べさせようかと考えたのだ。

 

「おかえりお兄ちゃん!」

 

 家に着くと、いつも通りマドカが出迎えてくる。音が出ているテレビにふと目をやると、今話題になっている女児向けのバトルアニメが流れていた。

 

「ただいま。夕飯は用意してる?」

「まだだけど……」

「じゃあ給料が入ってたからさ、一緒に回転寿司でも行こう」

「え、ほんと!? やったぁ!」

 

 そしてマドカが夕食をまだ用意していないことを確認すると、ソウタは彼女を回転寿司に誘って無事この後行く事が決まった。

 

「着替えて準備したら行こうか」

「うんっ!」

 

 

 

 

 

 午後七時頃。日が暮れた夜道をソウタとマドカは二人で歩いていた。

 

「久しぶりだね、こうして二人で出かけるのも」

 

 ソウタがヒロイックロボに乗り始めてからおよそ三ヶ月程。それからというもの、二人で過ごす時間は少なくなってしまっていた。

 

「仕方ないよ。忙しいんでしょ? 最近」

「心配かけてごめん」

「生きて帰って来るなら文句ないよ? 私は」

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 マドカとしては心配していないといえば嘘になる。だが彼女は信じていた。ヒーローが負ける筈はないと。そして、ウィズン襲撃の時に自分と学校の友達を守ってくれた兄は間違いなくヒーローであると。

 

「お父さんもお母さんも外国だし、私に家族はお兄ちゃんしかいないんだからね?」

「わかってる。死なないよ、絶対」

 

 二人の両親は海外出張で遥か遠く。仕送りこそあるものの、ソウタが高校に入ってからはマドカとの二人で暮らしてきた。

 親戚もまた九州という海を隔てた遠い場所に住んでいて顔も覚えておらず、マドカにとって今家族と言えるのは兄ただ一人なのだ。

 

「マドカを悲しませたくはないからね」

 

 マドカを一人にしない為にも、負けるわけにはいかない。ソウタがそう決意する中、事は起きた。

 

『SYAAAAAA!!』

 

 けたたましい咆哮を上げながら、再び怪獣が現れたのだ。

 

「怪獣!?」

 

 光線ロボット怪獣スプラッシャー。

 全高24m、重量620t。

 全身に埋め込まれた水晶からシャワーのように無数のレーザー光線を放つロボット怪獣である。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」

「怪獣だー! 逃げろー!」

 

 無差別に光線を放つ怪獣スプラッシャーから逃げ惑う人々。その流れに逆らい、ソウタは立ち向かう決意を固めた。

 

「お兄ちゃん……」

「大丈夫だよ」

 

 そして心配するマドカを安心させるために手を握りながらソウタはスマートフォンを手にしてガーディアンと連絡を取り始めた。

 

「御法川さん! 今現場近くにいるのでファルガンを送ってください!」

『すまないが今回はファルガンはオーバーホール中だ。それに……』

 

 しかしソウタのファルガンは今オーバーホールの最中で、戦う事はできないらしい。このままでは街は守れない。焦るソウタに、御法川は諭すようにこう告げた。

 

『今日は大人に任せてくれ』

 

 直後、空から怪獣の目の前に何かが現れ、瓦礫を巻き上げながら地面に着地する。それは背中に二門の大砲を背負った正義の赤鬼……ファルガノンだった。

 

「ファルガノン!? ということは……」

「ファルガノンの初陣だ! この戦い、勝利で飾るぞ!」

 

 その機体に乗っていたのは、あのベテランパイロットの八木だった。

 

「行こう、マドカ。一緒に避難しよう」

「うん……!」

 

 彼ならきっと大丈夫だろうと信じ、ソウタはマドカの手を引いて避難所へと向かう。

 そして今、ファルガノンの初陣の幕が上がった。

 

「ライフルカノン!」

 

 ファルガノンの先制攻撃。牽制にファルガンと同型のライフルカノンを放ち、スプラッシャーの動きを抑え込もうとする。

 

「バリアか!? ならば!」

 

 だが突如その前に現れた光の壁が砲弾を阻み、防いでくる。所謂バリアだ。

 ならばとファルガノンは取り出した大きな刃と鋼鉄の棒を連結させ、巨大な大斧として構える。

 

「ガノンアックス!」

 

 対怪獣用重戦斧、ガノンアックス。ファルガンでは装備できないほどの重量を持つこの斧を軽々と振るい、ファルガノンはブースターを吹かして敵の懐へと突撃した。

 

「喰らえッ!」

『SYAAAAAAA!!』

 

 一撃。重い一撃がスプラッシャーに叩き込まれ、衝撃が突き抜ける。

 そしてスプラッシャーは吹き飛び空中で一回転しながらビルに叩きつけられ、崩れ落ちた。

 だが直後、すぐさま起き上がりその瞬間全身の結晶体から無数の光線がファルガノンへと放たれた。

 

「光線か!? くっ……!」

 

 咄嗟に構え、身を守るファルガノン。そこに光線が突き刺さり、視界を光が覆い尽くした。しかし……。

 

「ダメージ軽微……それにこのパワー!」

 

 光が消える。視界が戻った時、八木がモニターを見渡すと表示されたダメージはごく軽微だった。外から見ても、装甲が熱で少し歪んだ程度の損傷。殆ど無傷と言ってもいいほどにダメージは見受けられなかった。

 

「とんでもない機体だ、このファルガノンは!」

 

 コクピットの中で、自身の機体のその圧倒的な性能の前に八木は思わず驚嘆の声を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 一方その頃、ソウタはファルガノンが戦っている轟音を背に、マドカの手を引いてシェルターを目指し走っていた。

 

「もうすぐでシェルターに着くよ。まだ走れる?」

 

 逃げ惑う人混みの中、息を切らしたマドカに気付いたソウタは道の脇に止まって彼女に声をかける。

 

「今日は……甘えていい?」

「いいよ。背負ってあげるからほら、乗って」

 

 そしてそう言って彼はマドカを背中に負ぶって、再びシェルターへと向かい始めた。

 

「ありがと……」

「回転寿司はまた明日にしようか。倒壊しなかったらだけど」

 

 この状況ではもう約束通り二人で回転寿司を食べに行くことはできない。もしこの戦いで倒壊してしまえば、明日というのも叶わなくなる。マドカを喜ばせる為にも、ソウタは目的の店が倒壊しない事を祈っていた。

 

「あのね、お兄ちゃん……」

「どうしたんだ?」

「この頃怪獣が多くて……ひとりぼっちで、ずっと怖かったの」

 

 一方マドカは、怪獣が出ているにも拘わらず兄は戦わずに自分の傍にいてくれているこの滅多にない状況で、自分の気持ちを暴露する。

 

「けど、お兄ちゃんが戦ってくれるから大丈夫って、そう思ってきたんだよ……」

 

 毒茨怪獣ウィズンの襲撃で、助けてくれたファルガンに乗っていたのが自分の兄だと知った時はとても嬉しかった。この思いに間違いはない。

 

「それでも……お兄ちゃんがあそこで戦ってるより、こうしてお兄ちゃんがそばに居てくれる方が、ずっと安心できるなぁって……」

 

 だが戦ってくれているのが自分の兄だと知っても尚、それよりもこうして傍にいてくれる方がずっと彼女の心は満たされていたのだ。

 

「ごめん。そばにいられなくて」

「ううん、いいの。お兄ちゃんはやりたいことを見つけたんでしょ?それなら応援するよ」

 

 しかしそれは兄を縛り付けたくはないという思いか、それとも正義のヒーローを独占してしまうことへの後ろめたさか。いずれにせよ、彼女に兄を止めるつもりはなかった。むしろ、戦うのならその背中を押すつもりでいた。

 

「でも……その分、二人の時は甘えさせて欲しいなぁ……」

「わかった」

 

 そして彼女は、二人でいる時間は今まで以上に兄に甘えようと誓う。

 

「それじゃまずは、シェルターに急ごう」

「うん……!」

 

 一緒に食事をしに行くという計画は台無しになったものの、マドカが思いを打ち明けることで兄妹二人の絆を深める事はできた。

 だがまだ安心はできない。彼らの運命は、今も怪獣と戦う赤き鬼へと託されることになる。

 

 

 

 

 

『SYAAAAAA!』

「クソッ!一撃一撃は防げるが、この弾幕じゃ近づけない!」

 

 一方、無敵の強さを誇ると思われたファルガノンは意外にもスプラッシャーに苦戦していた。

 確かにダメージは軽微だが、視界を潰す無数の光線はファルガノンの進撃を阻み続けていた。

 

「こうなったら……!」

 

 このままではジリジリと追い詰められてしまう。状況を打開するべく、ファルガノンは一旦攻撃を中断しスプラッシャーの前から退いた。

 

「こっちだ! ついて来い!」

 

 八木の狙い通り、その後をついてくるスプラッシャー。追ってくることを確認しながら、ファルガノンが斜面を降りた先。

 

「いつまでも少年たちにばかり任せている訳にもいかないのでな!」

 

 そこは、人気も建物もない広々とした治水緑地だった。

 

「一気に決めさせてもらう!」

『SYAA!?』

 

 誘い込まれた事に気付いたスプラッシャーは慌てて斜面の上に上がろうとする。だがそれも八木の狙い通り。

 

「そらそらそらァ!」

 

 ライフルカノンを無造作に放ち、敵を斜面の上へとさらに追い立てていく。

 そしてファルガノンの背中のキャノン砲が前に倒れて肩に固定され、スプラッシャーの背中を捉えた。

 

「これでトドメだ!」

 

 コクピット内にスコープとトリガーが現れ、八木が照準を定める。

 

「ツインラスター! ビィィィィィムゥッ!!」

『SYAAAAAAAAAA!?!?』

 

 直後、キャノン砲から凄まじい光が放たれ斜面を登りスプラッシャーを爆散させる。そしてその光線はそのまま天へと突き抜け、やがて消えていった。

 これがファルガノンの必殺技、ツインラスタービーム。ファルガンのラスタービームを連装式にしたもので、その威力はラスタービームの二倍。あまりの破壊力に街中での使用が制限された、最強の名に相応しい必殺技である。

 

「状況、終了!」

 

 こうして新たなるヒロイックロボ、ファルガノンの活躍により街の平和はまた無事に守られたのだった。

 

 

 

 

 

 それからしばらく後、怪獣による火災の消化も終わり避難勧告が解除されてシェルターから解放された人々がこぞって出てくる。

 その中に紛れてソウタとマドカもはぐれないよう手を繋いで外に出て夜空を見上げた。

 

「折角久しぶりに二人でのお出かけだったのに、散々だね」

「まあ、次があるさ」

「次……そうだね」

 

 マドカの言うように、せっかくの二人での外食が怪獣のせいで台無しになるという散々な夜だった。だが決してこれっきりではない。生きている限り、時間はまだあるのだから。

 

「あ、そうだ! お金いっぱいあるなら買って欲しいものがあるんだけど……」

「何?」

「コートにワンピースに肌着でしょ? あとポーチに手鏡に……」

 

 だが代わりにと言わんばかりにあれもこれもと欲しいものをねだるマドカ。

 

「分割で頼むよ」

「仕方ないなぁ」

 

 流石にそんな数を一気に買うことは出来ず、戸惑いながらもソウタは分割して買ってやる事を約束した。

 

「ちゃんと全部買ってもらうんだから、絶対死んじゃダメだからね!」

「わかってるよ、マドカ」

「それならよろしいっ!」

 

 つまり欲しいものを全て買うまでは少なくとも、ソウタは死ねなくなったというわけである。

 これもまた、マドカなりのソウタに対する励ましである。だがソウタは、妹の容赦のないおねだりの費用に頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 同日、某所。

 

「やはりこの程度の怪獣では対応できなくなっているか」

 

 モニターに囲まれた薄暗い一室で、今回のファルガノンとスプラッシャーの戦いを見ている者がいた。

 それだけではない。他のモニターにはカマギラーやウィズンやビリビラー、メラドガンなど様々なロボット怪獣の戦闘データが映し出されていた。

 

「こちらが脱走した例の機体から送信されたデータになります」

 

 そんな彼の元に一人の女が現れ、一本のUSBを手渡す。

 

「よい、下がれ」

「はい」

 

 それを受け取ると男は女を退がらせ、USBをコンピューターにはめ込みその中のファイルを開いた。

 

「彼女とファルブラックの同調率が予定通り上昇しているか……」

 

 そこに映し出されたのは、ファルブラックと裸の少女のCGモデル。そして、その双方の同調率を示すパーセンテージのグラフだった。

 

「いくら我々の手から逃れようとしても、決してあの娘は逃れられない……」

 

 男は、そのデータに満足するとワインをくゆらせながらフレームに収まった少女の写真を、敵意と慈愛が入り交じったような目で眺める。

 

「魔王復活の日は近い。その日が訪れた時、人類は再び恐怖の渦に呑まれることになるだろう!」

 

 そして彼は、自身の野望の成就を確信しながら不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 夜の暗闇の中、少女は佇む。どこか遠い街か星か、はたまたそれよりも遠い場所を眺めながら。

 

「っ……!」

 

 突然少女は頭痛に襲われ、その場にうずくまった。

 

「急がないと……」

 

 悟る。自身に残された時間が、限りなく少ないという事を。

 

「早く会わなきゃ……。私を……殺してくれる人に……」

 

 そして少女は自らの意思で歩き出した。自らが望んだ、処刑台への階段を。

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