英雄電機ヒロイックロボ   作:スグリ@あれこれ書いたりする人

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第六話 久遠の夢

 ファルガノンの一件から数日後。

 

「よう、ソウタ」

「ああ。なんだ、カズマか」

「なんだってなんだよ!?」

 

 放課後の教室で、いつも通り話し掛けてきたカズマをソウタは適当にあしらう。日直の仕事を早く済ませてガーディアン支部まで行きたい彼に、今ここで雑談をするつもりはなかった。

 

「それよりさ、今日の用が済んだら飯食いに行かね?フウカの奴も誘ってさ」

「ごめん、マドカともう約束をしてるんだ」

「回転寿司だっけか。そりゃ仕方ないな」

 

 そしてカズマは今日のガーディアンでの用事が終わった後にいつもの三人での食事に誘うが、生憎今晩はマドカと行き損ねた回転寿司に行く約束があった。

 

「ま、日直頑張れや。先行っとくから」

「わかったよ」

 

 用が済むと、先に荷物を纏めて教室を後にするカズマ。

 

「あ、おつかれちゃーん」

「おつかれー」

 

 直後、教室の前を通り過ぎたフウカとも挨拶を交わした。

 中東での一件以降は、互いの仲も進展し学校でもフウカとは友達として話す機会が増えているのだ。

 

「俺もさっさと済ませて帰るか……」

 

 後は日直の仕事が残るのみ。手早く掃除も済ませ、戸締りも確認して鍵を職員室に返したところで仕事は終わる。

 

「失礼しましたー」

 

 そして職員室で一礼し立ち去ると、そのまま玄関で靴を履き替え校舎の外に出た。

 

「さてと、そろそろ行かないと……」

 

 学校での用は済み、次はガーディアン。そう思って支部に向かおうとしたその時だった。

 

「…………」

「あの子は……」

 

 ふと遠くに見えた人影。それにはどこか見覚えがあった。

 白いワンピースに包まれた華奢な身体に、輝くような銀色の髪の少女。間違いなくそれは、ソウタの知る人間だった。

 

「ま、待って!」

 

 慌ててソウタは、その姿を追いかける。心配してか、はたまた別の感情か。とにかく彼は、少女の事が放っておけなかったのだ。

 

「はぁ……はぁ……」

「ソウタ君……だったかな……。久しぶり……」

「クオン……」

 

 追い付いて足を止めたその場所にいたのは、やはり彼の知る人物。中東でのテロや紛争で全てを失いこの国に戻ってきた少女、水無瀬クオンだった。

 

「せっかくだから街、一緒にどうかな」

 

 なんの巡り合わせか、また会うことができた。この機会にと、ソウタは御法川にメールで今日はガーディアン支部には行けない旨を伝えてクオンを連れ、街の方へ向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 それから街に着いた二人は、クオンの空腹を癒やす為にとまずはハンバーガーチェーンに立ち寄った。箸もまともに使えないであろうクオンでも食べやすいようにと気を遣っての選択だ。

 

「ありがとう、買ってくれて……」

「お金はそこそこあるからいいよ、これくらい」

 

 ベンチに座ってクオンが頬張るのは、ボリューム満点なビッグサイズのハンバーガー。お淑やかな印象のある彼女だが、意外と食欲は旺盛なようだ。

 ソウタはそんな様子を、安いハンバーガーを齧りながら微笑ましく見守っていた。

 

「平和……だね……」

 

 そしてクオンは、戦地では食べられなかった美味しい物を食べて、笑顔で街を行き交う人々の姿を見てそう呟く。

 大人も子供も関係ない、人間同士が殺し合う日常を何年も過ごしてきた彼女にとって、この光景はあまりにも新鮮に映っていた。

 

「怪獣は出るけどね」

「それでも、私のいた場所に比べたら……」

 

 勿論この街も、怪獣が現れるなど平和とは言い切れない。だが、それでもクオンが見てきた世界に比べたらずっと穏やかで安心できる場所に違いないだろう。

 

「こうしてるとなんだか、デートみたいだね」

「でー……と……?」

 

 男女二人で街に出掛けて、一緒に軽い食事をして何気ない話を交わす。まるでちょっとしたデートのようだとソウタは言うが、クオンはその意味を理解していないようだ。

 

「ご、ごめん。分からなかった?」

「分からないけど……どういうこと……?」

「こうしてたら恋人同士みたいだねって思ってさ」

「不思議だね。まだ出会って二回目なのに」

 

 そしてその意味を知ったクオンは、笑いながらそう口にする。

 

「ははっ、そうだね」

 

 確かにソウタとクオンは偶然二回会ったというだけで、特別な関係でも何でもない。その二人がこうして今デート紛いの事をしているというのは不思議なものである。

 

「ねぇ、ソウタ君……」

「何?」

 

 ハンバーガーを食べ終えたクオンは包み紙を丸めて袋に捨てると、新たに話題を切り出す。

 

「あなたはなんの為に……戦っているの……?」

「っ……!」

 

 そして、空気が変わった。

 

「ヒロイックロボに乗って危ない戦いをしに行く理由を、教えて……」

 

 何故かクオンは、ソウタがヒーローとして戦っている事を知っていたのだ。彼女が何を考えているのかは解らないが、その質問にソウタは自分の思いそのままで答える。

 

「妹や友達、他にも目に見える範囲の……守れる世界の人たちをこの手で守りたいから、かな」

「やっぱり、あなたなら……」

 

 その答えを聞いたクオンは、笑みを浮かべて告げる。

 

「自由、平等、世界平和……。そんなからっぽの言葉よりずっと強くて、本気の思いなんだね……」

「君は、一体……」

 

 まるで自由や平等、平和というような言葉を信じていないかのような言葉に、ソウタはそう尋ねる。

 

「だから、幸せに選ばれなかった。それだけ……」

 

 一体これまでクオンがどれほど凄惨な世界を見てきたのか。平和な世界で生きてきたソウタには、その言葉からそれを推し量る事はとても出来なかった。

 

 

 

 

 

 その後少しだけ街を回り、最後に来たのは二人が初めて出会った高台の公園だった。

 

「付き合ってくれてありがとう。楽しかった……」

「それはいいんだ。けど……」

 

 ここまで案内してくれた礼を言うクオン。だがソウタの中には何か引っかかるものがあった。

 

「なんで君は、そんなに悲しそうな顔を……」

 

 楽しかったと言う割には、クオンの表情は心から笑ってはいなかった。まるで何かの感情を押し殺して、無理に笑っているようだったのだ。

 何故と問うソウタに、クオンは答える。

 

「死ぬしか、ないから。私が生きてたらみんなが不幸になる。みんなだけじゃない、私自身も……」

「死ぬしかないって、どういう……」

「私、呪われてるから。世界中のみんなを不幸にする呪い……」

 

 だがソウタにはクオンの言う意味が理解できなかった。彼女が死ぬ事を強いられる程の、世界中の皆を不幸にする呪いというものの存在が。

 

「だから、そうなる前に私は死ななきゃいけないの」

「呪いって、そんなのって……!」

「私ね、天国に行きたいの。肉体を脱ぎ捨てた人が行き着く、永遠の楽園に……」

 

 そしてクオンは願っていた。いつかその呪いから解放され、楽園に至る事を。

 

「生きてたってどうしようもないけど……天国になら、私の幸せもきっとあるはずだから……。お父さんとお母さんも、きっとそこに……」

「天国だなんて、そんな……」

「天国なんてない。それは、幸せな人の理屈……」

 

 天国なんて幻想だと、そんなソウタの考えをクオンはそう切り捨てる。

 

「紛争、貧困、飢餓……。どう生きたって、幸せになんてなれっこない人たちもいるんだよ。天国っていうのはね、そういう人たちにとっての最後の希望なの」

 

 戦争に巻き込まれて家族も自分の人生も、全てを幼くして失った彼女は信じるしかなかったのだ。天国という名の救いの存在を。

 

「だから私は正義の味方になろうとした。そうすれば、天国に行けるって信じて……」

「正義の味方って……」

「こんな自分勝手なヒーロー、天国に行けないかもしれないけど……それでもせめて、苦しまないで消えてなくなれたらいいなって……」

「そんな考え……そんな生き方、悲し過ぎる!」

 

 正義の味方。ヒーロー。また彼女が何を言っているのか分からなかったが、そんなソウタでもこれだけは理解できていた。クオンのような年端もいかない少女が選んでいい生き方ではない事は。

 

「君がどんな生き方をしてきたのかも、君の言う呪いが何なのかもわからない! けど、死ぬ事を希望に……死ぬ為に生きるなんて、君みたいな優しい女の子がそんな……!」

 

 暗い闇の中で生きる彼女を光の世界に引き込もうとソウタはなんとか説得しようとする。

 

『GRAAAAAAA!』

 

 その時、高台の下の街にそれは現れた。

 

「あれは……怪獣……?」

 

 凍結ロボット怪獣フリグラース。

 全高29m、重量750t。

 絶対零度の冷気を操り、この世のありとあらゆるものを凍らせてしまうロボット怪獣である。

 

「ありがとう、ソウタ君」

 

 怪獣フリグラースが現れた瞬間、クオンの目つきが変わった。

 

「クオン! 君は!」

「待ってる。あなたが私を殺してくれる日を」

 

 そしてクオンはソウタにそう言い残すと、彼に背を向けて高台の崖から飛び降りる。

 その瞬間辺りに突風が吹き荒れ、咄嗟にソウタは近くの街灯にしがみついた。

 

「これは……ファルブラック……!?」

 

 直後、崖の下から現れたのは黒いヒロイックロボ、ファルブラック。開いたそのコクピットに見えたのは、クオンの姿だった。

 

「またね。次顔を合わせる時は、私はきっと……」

「クオン、行っちゃダメだ! クオンッ!!」

 

 ソウタは叫び、止めようとするもクオンはコクピットのハッチを閉ざし、ファルブラックは敵怪獣へと一直線に向かって行った。

 

 ついにソウタは知ってしまった。ファルブラックのパイロットの正体を。そしてようやく悟った。自分がクオンに抱いていた感情が何なのかを。

 

「御法川さん!」

 

 そこから先は迷いはなかった。すぐに彼は携帯電話を取り出し御法川へと電話をかける。

 

『分かっている。合流ポイントを送信した。急いでそこに向かってくれ』

「わかりました!」

 

 そしてメールで送られてきた地図を頼りに、全速力で走って合流地点の交差点へと向かう。

 

「クオン、君は絶対に俺が助ける……!」

 

 ついに見つけたのだ。たった一つの、一番守りたいものを。

 故に走る。街の平和などの為ではない。たった一人の少女を守る為に。

 

「おっまたせー!」

 

 合流地点に着くと、そこには既にカズマとフウカの乗るGキャリアーが到着していた。

 

「ファルガンは荷台の上だ! さっさと行ってこい!」

「わかってる!」

 

 カズマに急かされながら、ソウタは荷台に積まれたファルガンのコクピットに乗り込み起動させる。

 

「お前さ、なんか吹っ切れたか?」

「守りたい人ができたんだ」

「どったの? 初恋?」

「……そうかもしれない」

 

 戦う理由を見つけた彼にはもはや迷いはない。怪獣を倒しクオンを助ける為、ファルガンが今立ち上がった。

 

「今からその子を助けに行く。付き合ってくれるよね」

「当然だろ!」

「で、その相手って誰? 可愛い?」

 

 友達の色恋沙汰となると年頃の少女らしく興味津々になるフウカに、ソウタは指差し告げる。

 

「今、あれに乗って戦ってる」

「おいおい、まさか……」

「そのまさかだよ」

「ファルブラックかよ!?」

 

 そしてその少女が、かつてソウタの乗るファルガンを一方的に倒したあのファルブラックのパイロットだと知るや否や、カズマは驚愕の声を上げるのだった。

 

「驚いてる場合じゃないっしょ! ドローン飛ばすよ!」

「お、おぅ」

 

 ひとまずその話は後にして、Gキャリアーは偵察用無人ドローンを射手し、同時にファルガンも凍てつくような寒さと化した街に突入した。

 

「なんで、来たの……?」

「街を守るガーディアンだからさ。それに……」

 

 一人で戦うつもりだったクオンはソウタに問う。対するソウタは、銃を怪獣に向け構えながら答えた。

 

「本当に救いたい人を見つけたから」

「そう」

『GRAAAAAAA!!』

 

 咆哮を上げ、臨戦態勢に入るフリグラース。もう時間はない。

 

「私も殺させはしない」

 

 ファルブラックもまた腰を落として拳を構える。そして一歩足を踏み込んだ瞬間……。

 

「私を殺してくれる、あなたという人を」

 

 今、戦いは始まった。

 

 

 

 

 

「ファルブラック及びファルガン、敵怪獣と交戦開始!」

 

 一方その頃、ガーディアン支部の指令室も戦闘態勢に入りオペレーターがフリグラースとファルブラック、ファルガンの交戦開始を伝える。

 

「世界が、大きく動こうとしている……」

 

 怪獣の急激な増加に近頃のファルブラックの活発化。ついにはそのファルブラックとの共闘。目まぐるしく変化する状況に、御法川は大きな変化の予兆を感じ取っていた。

 

「どうすんの、この意味不な状況!」

「ソウタがああ言うならファルブラックは味方だ! 少なくとも今はな!」

 

 またこの異常な状況の中、カズマとフウカはソウタを信じてファルブラックを味方と判断し行動を始める。

 

「ミサイルとキャノン装填! いつでも撃てるようにしておけ!」

「おっけー!」

 

 これまでソウタの戦いを遠くでサポートしてきただけの二人だったが、今回はGキャリアーでの初の実戦になる。

 一層気を引き締めて、カズマは操縦桿を握りフウカは火器管制の操作に入った。

 

「まずはライフルで牽制を!」

 

 そしてファルガンが牽制にライフルで先手を打つ。

 

『GRAAAAAA!』

「効いてるのか……?」

 

 吸い込まれるように命中する砲弾。絶叫を上げるフリグラースには効いているようにも見えるが、目立った傷は見えない。

 

「だめ、避けて」

「来る!?」

 

 フリグラースの口の中が青白く輝き出す。咄嗟にファルガンとファルブラックが避けようとした直後、その口から勢いよく光線が放たれた。

 

「このッ!」

 

 すんでのところで避け切ったファルガンはすぐさま銃を構え、反撃に出ようとする。

 

「弾が出ない!?どうして!」

 

 だが、銃の故障なのか引き金を引いても引いても弾が出なくなってしまったのだ。

 

「やらせない」

 

 ソウタを殺させまいと、ファルブラックが格闘戦を仕掛けようとする。

 

「くっ、これじゃ……」

 

 だが怪獣の纏う冷気はファルブラックの稼動限界の温度を遥かに下回っていて、後退を余儀なくされた。

 

「さっきのは多分冷凍ビームあたりじゃない? 直撃食らったビルは凍りついてるし、直撃受けてない銃も近かったから凍っちゃったんじゃ……」

 

 フウカの言う通り、今の攻撃は絶対零度の冷凍光線。その一撃はビルすらも一撃で凍らせ、かすりすらしなかったライフルカノンすらも凍結させ故障させてしまったのだ。

 

「とりあえずドローン送って確認するぞ。操作出来るか?」

「訓練通りっしょ? 余裕余裕!」

 

 絶対零度の冷気を操る常識外れの怪獣フリグラース。相手が未知の領域の存在である以上、その影響を探るしかない。

 カズマの指示で、フウカは飛ばした偵察ドローンを敵の近くに送り込んだ。

 

「ラスターブラッドガン」

 

 そしてファルブラックもラスターブラッドガンで光線を放ち攻撃を仕掛ける。

 だが熱の塊である光線も、絶対零度の冷気の障壁に阻まれ殆どが掻き消され、命中したところでかすり傷にもならなかった。

 

「ビームも温度を下げて弱体化……。厄介な相手……」

 

 当たらなくとも近づくだけでライフル程度なら破壊されるほどの冷凍光線に、近づくこともできずラスタービームすら殆ど効かない冷気のバリア。

 機械としての限界があるヒロイックロボにとっては、まるで無敵にも思える相手である。

 

「うっそ!」

「どうした!」

「あの怪獣の周りの温度、マイナス160℃もあるよ! あ、ドローン壊れた」

 

 近づいた瞬間故障してしまったものの、測定できた敵の周辺温度はなんとマイナス160℃。

 

「ファルガンの耐えられる温度はせいぜいマイナス80℃……。あれじゃ近づけねぇぞ……!」

 

 その温度は、ファルガンの防寒限界を二倍も下回っていた。この時点で、ファルガンのカタログスペックではフリグラースには近付く事すら叶わないという事になる。

 

「私が接近戦を仕掛ける。ラスターブラッドセイバー」

 

 ならばとファルブラックは熱の剣であるラスターブラッドセイバーを手に、接近を試みる。

 

『GRAAAAAAA!!』

「そんなの、当たらない」

 

 光の翼を広げ空を舞い、冷凍光線を躱しながらフリグラースに肉薄し、剣を振り上げるファルブラック。

 だがその瞬間、目に見えて出力が下がり機体の表面が凍りつき始める。咄嗟にクオンは操縦桿を引いてフリグラースから距離を取った。

 

「やっぱり、この温度じゃ近づけない……」

 

 マイナス160℃ともなると流石にファルブラックでも活動できないようだ。近づくことができず、射撃も弱体化させられる圧倒的な強さを誇る怪獣を前に八方塞がりだと思われたその時だった。

 

「寒過ぎて近付けない……。あっ」

「どうしたフウカ!」

「作戦、思いついちゃった。あんた、ミサイルを時限爆弾にして撃てる?」

「時限信管だな。そりゃできるが……」

 

 ふとフウカがその攻略方法を思い立つ。それに必要なものは、時限信管のミサイルだという。

 

「よし! ソウタ、今からラスタービーム飛ばすから受け取って!」

「ラスタービーム!? 効かないって言ってんだろ!」

「これでいいの!」

「わかった!」

 

 効かないというのにラスタービームなどと正気を疑うカズマの声を押しのけ、Gキャリアーに積まれたバズーカを射出させるフウカ。

 ソウタはそれを受け取ると、即座に展開させて肩に担いだ。

 

「ファルガン、ラスタービーム装着!」

「信じるしかない。彼らを……」

 

 ファルブラックならばともかく、ファルガンがラスター装備を使うとなるとエネルギーの問題でそれが最後の一撃となる。

 一見すると無謀な賭けにも見えるが、これまでも機転を利かせて様々な脅威を乗り越えてきた三人ならば勝算があるのだろう。そう信じて、御法川は指令室から彼らの戦いを見守る。

 

「ファルブラック、聞こえる? そっちにも作戦伝えるからちゃーんと聞いてて!」

「……うん」

「これからトレーラーに積んでるミサイルをありったけあいつに、取り囲むみたいに叩き込む!」

 

 まずフウカの作戦の第一段階は、ミサイルでの飽和攻撃。時限信管は、近接信管では接近した時点で故障の危険がある為だろう。

 だが時限信管で距離を取って起爆させたところで大したダメージは与えられない。

 

「もしかして……温度を上げる気か?」

 

 そこまで読み取ったカズマは、ようやくフウカの狙いに気付いた。

 

「そそ。ミサイルの熱で温度を上げて、下がりきる前の一瞬に全力のビームをぶち込む! できそ?」

 

 ミサイルは一瞬の間冷気を中和する為のもの。そうして温度が上がった一瞬に最大出力のビームを浴びせるという作戦だった。

 

「それしかないならやるしかない!」

「私も、付き合う……」

 

 他に策がない以上、ソウタもクオンもフウカの作戦に乗る事を決める。しかし口で言うのなら簡単だが、この作戦には問題もある。

 

「多分爆発の熱も一秒もたないから、タイミングが大事になるけど……」

 

 周囲の温度を上げた瞬間に最大出力の必殺光線を叩き込むという作戦だが、爆発の一瞬に頼る為タイミングが非常にシビアになるのだ。

 

「信じるよ。ラスタービーム、起動!」

「ラスターブラッドガン、フルバーストモード」

 

 それでも二人は、成功を信じてビームのチャージを始める。

 

「チャンスは一回だよ! ミサイル、一斉発射!」

 

そしてGキャリアーが全てのミサイルハッチを展開し、内蔵されたミサイル全てを一斉に放った。

 

「5、4、3……」

 

 それと同時に、タイマーを見ながらカズマがカウントダウンを始めた。

 一秒、また一秒と時間が迫る中ビームのチャージも終わり、ソウタは呼吸を整え心を落ち着かせる。

 

「2、1……」

 

 時は来た。一斉に爆発し、ミサイルの炎がフリグラースを包み込む。

 

「これで決める……!」

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

 

 その瞬間、二人は引き金を引きラスタービームが、ラスターブラッドガンが放たれた。

 もしこれで倒せなかったらと、息を呑む一同。

 

『GRARARARARA!?!?』

 

 直後、絶叫を上げるフリグラース。そしてそれは全身から光を放ち、次の瞬間大爆発を起こして砕け散った。

 

「勝った……勝ったんだ……!」

「やったぁ!」

「マジかよ……」

 

 無敵とも思われた怪獣の撃破に歓喜の声を上げるソウタとフウカ。一方カズマは、まだ勝ったことが信じられない様子だった。

 

「ありがとう、ソウタ」

「一緒に行こうクオン! そうすれば……!」

 

 その後、一言言い残し翼を広げて去ろうとするファルブラックをソウタは止めようとする。

 

「次会う時はきっと、殺してくれるよね」

「ダメだ! くそっ、動けよファルガン!」

 

 だがペダルを踏んでも操縦桿を倒しても、ファルガンはぴくりとも動こうとしない。そしてコクピットに大量に出てくる警告表示。

 実は離れて戦っていたとはいえ周囲の気温はマイナス80℃を下回り、ファルガンの限界を超えていたのだ。故に、ここに来て無理が祟り故障してしまったのだろう。

 

「信じてる。あなたなら、私に……棺の中で夢を見せてくれることを」

 

 この戦いでクオンはソウタたちを認めた。彼らこそが、自分を呪いから解放してくれる存在だと。

 

「それがきっと……幸せな夢だって」

「ダメなんだよそんな風に考えちゃ! きっとそれ以外の道だって……!」

 

 そんな生き方をしてはいけないと、ソウタは必死に説得する。

 しかし今のファルガンでは止めることもできずファルブラックは空高くへと消えていった。

 

「なんで……なんでなんだよッ!!」

 

 モニターを殴りつけ、悔しさを顕にするソウタ。本当に一番守りたいものをようやく見つけたというのに、結局何も出来なかった。

 

「こんなのじゃ……ダメだ……!」

 

 そして彼は誓うのだった。今のままではだめだと、今よりずっと強くなる事を。

 

 

 

 

 

 その後、ガーディアン支部の格納庫にて。

 

「あーあ、ダメだなこりゃ。フルメンテ確定だ」

「げぇ、徹夜確定じゃん……」

 

 回収されたファルガンを目の当たりにして嘆く整備士たち。完全に動かなくなるまで壊れてしまったのだから無理もないだろう。

 

「おい、大丈夫かソウタ!」

「変な作戦やらせちゃってごめん! 大丈夫!?」

「問題ないよ」

 

 ファルガンはそのような状態とはいえ、パイロットであるソウタは幸い無傷。

 無事を確認し合う彼らの元に、御法川が現れた。

 

「御法川さん……」

「今日もよくやってくれたね、三人とも」

 

 今回の怪獣だが、あまりの強さに既にソウタたちとファルガンでは勝てない事も想定されてファルソードやファルガノンを含めた複数機での対処も準備されていた。

 だがファルブラックの加勢もあったとはいえ、見事彼らは怪獣フリグラースを打ち倒した。その働きは既に、当初の御法川の期待を遥かに超えたものだった。

 

「俺……見つけました」

「見つけた?」

 

 そんなソウタが見つけたというもの。それが何なのかを御法川は問う。

 

「これまでは身近な世界を守りたいと思って戦ってきたけど、その境界が曖昧で、そのせいで踏み切れないところもあって……」

 

 身近な世界を守る。そう思ってこれまで戦ってきた彼だったが、それでもまだ曖昧なものがあり理由としてははっきりしていなかった。

 

「けど、やっとわかったんです。俺が一番、この手で救いたいものが」

 

 だがようやくはっきりとした守るべきものをソウタは見つけた。それが何なのか、気づいたように御法川は言う。

 

「初恋、かな?」

「……はい。小さな頃から不幸という不幸を一身で背負って、満足に幸せも与えられずに生きてきた一人の女の子を……俺は助けたいって思えたんです。心の底から」

「君がそこまで言う相手は……」

 

 ソウタにとって戦う理由として足るほどの守るべき相手。それに興味を隠せない御法川はもう一度尋ねた。

 

「水無瀬クオン。ファルブラックのパイロットです」

 

 その答えは、彼を驚かせるには充分なものだった。

 

 

 

 

 

「なるほどね」

 

 そして事情を聞いた御法川は、納得したようにそう頷く。

 

「個人的な理由ですみません」

「いや、いいんだ。むしろ君を選んで正解だったよ」

 

 自分が想う少女の為に戦うという個人的な理由の為にファルガンを使う事に引け目を感じるソウタだったが、御法川の考えは逆だった。

 

「想い人の為。それ以上に人間が強くなれる動機はないだろう」

「ありがとう……ございます」

「決してその子をこれ以上不幸にするんじゃないぞ。生かすにしても、殺すにしてもだ」

「……はい」

 

 クオンを救う為に戦う事を選んだソウタだが、それがこの先彼女にどのような結末を齎すのかはわからない。

 だがそれが、決して彼女を不幸にする事はないようにと御法川はそう釘を刺すのだった。

 

「とまあ話しておいて早速ですまないが……」

 

 クオンとファルブラックについては一通り話したところで、御法川は話を変える。

 そこで告げられた言葉は、ソウタにとってはとても衝撃的なものだった。

 

「結城くん。君には、ファルガンを降りてもらう」

 

 突然の宣告。その言葉に、彼はただ立ち尽くすことしか出来なかった。

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