今思いおこせば我ながら令嬢に対しての接し方ではなかった気がする。子供の頃の話しだとしても、そこまで昔ではない。ほんの3、4年前の話だ。
イギリス、グレートブリテンの紳士の国。但し枕詞に『変態』がつく国だ。ダデイのお願いで欧州の島国まで来たが、日本で長らく過ごしてきたからか帰りたくなってきた。フィッシュアンドチップスってなんだよ油の塊じゃないか、ローストビーフ目茶苦茶堅いよ。
入国3日目にしてシャルルの精神は大きく摩耗していた。第一に付き合い、第二に目的地まで鈍行列車の旅、そして第三の理由として。
「すいませんボーイさん、うなぎゼリーもういいので下げてくださいイヤマジで」
ご飯が少々、いや口に合わないのだ。百味ビーンズを興味本位で食べてハズレが出た時の気持ち、それを続けざまに出された。そんな感じである。
「オエッ、まだ口に残ってる……紅茶とスコーンが唯一の癒しだなコレは」
ボーイにチップを渡しティータイムと洒落込むフランス人の少年はそのまま紅茶を飲みながら今後について考えていた。
彼の父親いわく、『英国の知り合いに娘がいるという。帰ってきたついでに顔見せに行ってこい』と幾許かのユーロを渡されイギリスに飛ばされたのだ。しかもイギリスではユーロは使えないので、実質ポケットマネーで単身行くことになった。シャルルは誓った、実家に帰ったら親父を殴ろうと。
「でも久しぶりに顔みたけど多分返り討ちに遭うだろうなあ、ほぼ間違いなく」
第二の故郷日本にて、ある程度護身を身につけた自負はあったもののやはり勝てるビジョンが見えない。肝練りを欠かさず行ってその次第である。どうしようもなかった。
(まあ親父殿については一先ず置いといて、問題はこれから行く知り合いの家だ。ご飯美味しかったらいいのだけれど)
こんなことならば日本を出る前にトンカツと卵御飯をしっかり食べておくべきだったと後悔する。後悔先に立たずというが、今回ばかりは運が悪かったと悔やむ他なかった。
そんなこんなでいつもより彼の精神面はガタガタであり、相手方の御令嬢もいつまでたっても来なかった来客に対し激おこぷんぷん丸状態。どちらとは云わず気がつけばお互いに暴言を吐き罵詈雑言の嵐である。
「この妾腹のチビが」「煩い縦ロール中にチョコ詰めるぞ」「なんですって無礼な」「そっちこそ誰が豆粒ドチビだ戦争だコルァ」「そこまでいってません」etc…………
はっきりいえば第一印象はお互い最悪であったが、向こうの父親はそうは思わなかったみたいで。
有り体にいえば気に入られた。おじさんによると若い頃の親父殿にそっくりとのこと、やだ死にたい、恥ずかしい。
奥さんは奥さんで綺麗な人だった。気が強そうだったがどことなく無理してそうな印象があった。それとなくおじさんに聞いてみると、苦労話と惚気を聞かされた。すみません僕マゾじゃないです。
婿殿とお付きのメイドに呼ばれて、早数ヶ月。気がつけば執事の真似事をさせられていた。しかもお嬢様専属の。
「段々と筋が良くなってきましたわね。主人として誇らしいですわ」
どうしてこうなった。あと最近妙にあちこちから視線を感じるようになった。なに、何かあったのだろうか。
縦ロールお嬢に聞いても、かぶりを振るばかりで要領えない。何だろうか。あ、そういえば最近あんまり口喧嘩しなくなったなあ。皮肉の応酬はあるけど。
思えばお嬢を丁重に扱い始めたのも、この時期辺りである。風貌はともかく、中身は日本人であるためか形に嵌められれば染まりやすい。執事としてお嬢の身の回りのお世話は十全に。躾に関してはかの戦乙女監修である。遺漏はなかった。たまに泣かせるけども。
「ホラホラお嬢様、泣いていても判りませんよ。さあはやく」
「な、泣いてなどおりませんわッ!小間使いにいわれなくったって」
「ああそうおっしゃられますか。では仕方ない今回はこれまでに」
「…………」
うん、大変だった。あの後、拗ねたお嬢を宥めすかすのにどれだけ気障な台詞を喋ったことか。今暴露されれば悶死するレベルで彼は黒歴史扱いしている。
(まるで無茶苦茶手間のかかる家猫だ。しかもこっちが休んでる時に限って擦り寄ってくるし)
犬猫と人を同レベルで扱うのは失礼ではあるが、割と的を得ていた。ちなみに日本の家には軍用犬と馬鹿犬しかいなかった。千冬と一夏である。そういった意味では子猫を扱うのは今回がはじめてなのだ。
(ぶっちゃけ犬派なんだけどなぁ僕。いや猫も嫌いじゃないけども)
「どうかなさいまして?」
「いえ別に」
咄嗟に取り繕ったがバレた。暫く宥めに時間を費やした。相手は疲れたこちらを横目ににへらと笑っていた。ライミーって言ったらガチ喧嘩になった、解せぬ。
しばらくしてお嬢から食事の誘いがあった。冷戦下であっても腹が減ってはなんとやら、仕方なしに食堂に顔を出したがお嬢の姿は見えない。
「意図返しにしては幼稚な……」
ご飯に関しては一言文句をいってやろうかと思案した直後、厨房から爆発音が響いた。
「ま、まさかテロかっ!?」
慌てて厨房に入ったが、いたのはテロリストではなく臓物らしきナニカに塗れた金色の縦ロールであった。なんだよコレB級ホラーの撮影現場か沙揶の唄のワンシーンだよ。
「……御免セシリア、僕ふーみんみたいにグロ耐性ある訳じゃあないから」
千年の恋も醒める。いやそんな感情持ち合わせてないけど、この姿はないだろうと。一部のニッチにしか需要はないだろう。金髪幼女の臓物塗れとか誰得だ。
とりあえず譫言でハギスハギスと呟くレバーロールをひんむいて風呂に入れる。英国淑女としてあのままにはしておけないという配慮の下で。厨房の後片付け?しますよ、執事ですから。
後日、ハギスについて調べたら『完成度高けーな、オイ』な見た目に一度は後悔しつつも一応作ってみた。
ちなみにハギスについて 『羊の胃に羊の内臓や香草、タマネギ、スパイスなどを詰め込んだソーセージのようなもの』
実際に食べてみたら悪くなかった。ガーリックライスと一緒に食べると、どことなくドライカレーみたいでうまい。おじさん達にも良く出来てると褒められた。喜んでいいのかわからない。
気絶していたお嬢にはベッドで食べさせようとしたが、体が動かないなどとふざけたことを宣ったので無理矢理喰わせた。何か言ってたが気にしない。
「ありがとう」
……ほんの少し罪悪感を感じながら、部屋から出た。
『英国幼女にハギスを喰わせるフランス人』……絵ズラにすると危ないですね(^o^)