ISげもの   作:マイク横須賀

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今回ネタしかないです。


宴の終わり、後片付け

刹那の間、意識が途絶えていた。どうやら、薩人マシーンの吶貫をまともに受け、その為か身体に鈍痛が走っていた。ギシと悲鳴を挙げつつ、その威力を脳髄に刻んでいく。

 

「良い一撃だ、一夏。成程、但馬守が清水寺を燃やした理由が理解できた」

 

「寓話だよ、それ」

 

問いに対し、応ずるは乱撃。源流同一とは思えない打撃をいなしつつ、なお言葉を交わす。真剣勝負に無粋と謂われようとも、何処までも交わりたいのだ、今この時は。

 

「親父さんの知り合いに鹿島出身でも居たのか?当てても当てても、柳相手じゃなあ」

 

「さあな、聞きたいなら一本取ってみてはどうか?取れるかどうかは知らんが」

 

「抜かせ」

 

互いに車(斜め)に構え、攻防を繰り返す。時折弾き、重ねて打つが、隙間が見えない。未だ未熟とはいえ、こうも悉く防がれて面白くない筈がない。それはまた相手も同様で、眼に朱が走っている。

 

「どうした一夏、当ててこい。女だからと、手加減している訳でもないだろう」

 

「此処まで渡る奴に、手加減も糞もあるかよ。一挙動から凡て全力だ」

 

「そうか、嬉しいなあ」

 

本心である、只の一つも偽り無く。「武」を己の根幹に据えた人間にとって、全身全霊を以て迎える好敵手。そんな存在に、一生涯にどれだけ出逢えるか。敢なく挫する者が大多数の道の果て、巡り出会う事が出来た私は幸せ者なのだろう。

 

織斑一夏。幼き頃にその姿に心奪われ、拙くとも誓った祈りの言葉。齢十五に於いても、未だ忘れる事等出来ない祝詞を、胸中に封じる事無く吐き出し、紡ぐは呪いのように。

 

「振り向く迄、何度でも挑もう。貴方が姉さんを恋慕う様に、私も貴方に恋焦がれているのだ。狂惜しい程に」

 

「重いなあ。純朴過ぎて純粋過ぎて純愛過ぎて、泣きそうだよ」

 

余人から見れば狂人の言魂は、果して想い人に届いているのだろうか。相対し、研き上げた妙技を交えてなおも、不安の幕が垂れ掛かるは男女の相違か。不意に躯が崩れた時、大喝が響いた。

 

 

 

「不器用が、俺等が話すは口じゃないだろうが」

 

「左様、か」

 

嗚呼、そうだ。確かにそうだ。私は、私達は。

 

口火を切った瞬間、眼前に飛び掛かりて飛び廻り、袈裟に竹刀を薙ぐ相手に対し、正眼に構え牽制しつつ喉を狙う。

 

狙うだけで、当ても突きもしない技、行摺(行きずり)とは言い得て妙だ。

 

「うわ、見せてないのに模倣されたよ。なんか腹立つ」

 

「何をいうか、さっきから魅せて貰ってばかりだ。五法一体の流派は伊達では無いさ」

 

「チート乙」

 

「お前が言うな」

 

やはり期待した通りだ。試合を始めた時の、どことなく飄々とした貌は既に無い。今はただ、こちらと同類の貌を晒け出している。

 

どちらも織斑一夏としての顔なのだろうが、私としては今の面構えに情念を抑え切れない。変態なのだろうか。自らの性癖を、決闘に於いて自覚するとは。

 

だがそれも、そろそろ終わりそうだ。何かが来る、相手の剣気がそう伝えてくる。己を守る技では無く、敵を刈り取る裏の太刀。殺しの技だ。

 

「嬉しいよ、一夏。そこまでしてくれて」

 

為れば、こちらも隠しは無しにしよう。上手く使えるか解らないが、嵌まれば決まる。

 

「では」

 

「参られよ」

 

跳躍、いや、飛んだ。そう見えた次の瞬間には、理合の間に放たれた幼なじみの技に対し、返しを取ろうとした刹那、ナニカが割り込んだ。

 

 

 

私、布仏本音から見た更識楯無を一言で表現するならば、『掴み所が無い子猫』が適当だ。剣道場までの道のりを、散歩気分で歩いている生徒会長を見ながら、そう一人考える。

 

『更識』の当主にして、ロシアの国家代表という無茶苦茶な立場に対しても、臆する処か愉しんでいる節がある傑物の心情は何なのか。『布仏』に於いて、探知に長けた自分ですら解らなくなることがある。

 

「あら、虚が聞いたら呆れそうね。リリーフエースがそんなこと言っては駄目よ、本音ちゃん」

 

「なんのことやらさっぱりですお嬢様~」

 

おじ様好きでショタが入りつつある会長に、にっこりと笑顔を向ける。天然でされるから困るのだと、思いつつ相槌を打ちながら歩幅を進める。

 

「ねえ本音ちゃん。事態を収集したら、何かご褒美あるのかしら?おねーさん、慈善事業で会長してる訳では無いのだけれど?」

 

「うに」

 

聞いていたのか、いやそれはないと必死に自分に言い聞かせる。しかして相手は会長、『耳』を何処に置いているか皆目つかない人だ。凄くお人よしの善人ではあるが。

 

「という訳で、これ終わったらガーターベルトお願いね。絶対似合うから、あとおっぱい」

 

「変態!変態!この変態!」

 

忘れていた、おっぱいソムリエの変態でもあった。失念していた自分を悔やみつつ、やや会長から後ずさる。『191969』なんてセクハラなアドレスを保持している先輩だ。ホントに嬉々としながら、エロ可愛い下着を履かせてくるに違いない。

 

「かいちょーエッチなのはいけないと思います~」

 

「大丈夫大丈夫、私が法だから(学園では)。あとメイド服もあるからね」

 

神は死んだ。最近、やけに心臓えぐられたり溺れたりする夢を見ていたが、夢より現実は厳しい。何故か、会長から後光が差している。ISを準起動状態にしているのだろうか。

 

「うふふ、知りたい?でも教えてあげない。知りたかったら、そのダボシャツに隠したオパーイを今すぐ私に差し出しなさい!」

 

「辞めてください会長、お姉ちゃん(狂戦士)喚びますよ?」

 

「あら残念」

 

 

 

振られちゃったわ、と扇子をはためかせながら、シニカルな笑みを以てこちらから視線を外す。『残念無念』と、扇子に表記していた事には気付かない振りをした。言ったら言ったで、また来週辺り酷い目に遭いそうな気がしたからだ。

 

「でも、弟君と妹ちゃんが乱闘騒ぎとはね―。なんでそんなことになったのかしら?痴情の縺れ?」

 

「たーる♪きがついたら、ころしあい(愛)がおきてましたのでにんともかんとも~」

 

そう、放課後の教室で二人が一緒に剣道場に行ったのを見て興味が湧き、知己二人とともについて行ったのだ。

 

最初は普通に剣道していた両名であったが、熱中し過ぎたか闘争心に火が点いたモッピーが暴走し始め、その結果が『ご覧の有様』である。哀れワンサマ、と同情しつつ救援軍を呼びに行った自分は、まだマシな方だろう。

 

どちらかと言えば、当人達よりも剣道場と友人達二人に被害が及ぶのを善しとしなかったからではあるが。そう考え、行動した事は誰にも言わない様にしていた。誰かが言った訳でも無いが、そうしてほしいという行動は得意だった。物心ついた頃から。

 

「友達思いな天使にラブソングを歌ってあげても良いわよ?何ならデュエットでも可」

 

「ピアノ無いから無理で~す。あとやたら読心術多様しないでほしいです~」

 

「うんそれ無理。本音ちゃんが天使だからいけないのよん」

 

「あうあうあ~」

 

のらりくらりと、空気の波を揺さ振られつつも言質を取られない様に、バレバレの猫を被る。幸いにして、歩いている人たらしはノリは良い。わかっていてなお乗ってくれる人は、十代のティーンエイジャーにはなかなか得難い存在だ。

 

「あら、まるで人がサバ読んでるみたいで嫌だわ。傷つくわー」

 

「釣りバカの社長とか、眉無し兄貴がタイプって公言している人が十代とか、冗談にしか思えませ~ん」

 

「ハッハッハ。何処へ行こうというのかな本音ちゃん?」

 

「ええ、とりあえず手に携えられた槍が届かない所まで。具体的には剣道場とか」

 

後ろで『刺し穿つ』とか聞こえたが、一切気にせず走った。人間その気になれば、音速の壁を越えられる事を実感しつつ、目の前の道場の扉を開けたのであった。

 

 

「後輩に好かれてて良いわね。こっちなんか鬼婆扱いよ」

 

「すいません」

 

手持ちの量子化した得物を確認しつつ、遺伝子が不器用ではあれど優秀な後輩に対し、やや皮肉混じりに呟く。ああこんちくしょう、そうも素直になられても困るのよ。

 

「これが若さ故の余裕なのかしら。ちょっと泣きたくなってきたわ」

 

「ここで泣かれても困ります。せめて、下宿に戻ってから泣いてください」

 

「セメント過ぎない!?」

 

いや生徒を窘めに行くのに、直前でアンニュイになった私が悪いのだけれども。などと自省しつつ、現場の剣道場に着いた。外からは何も聞こえないが、ISのセンサー越しに三人分の何かが聴こえる。多分、当事者二人と生徒会の誰彼と推測を立てつつ、隣の戦乙女を見る。

 

「私たちが出張るまでもないかしら?どうする織斑先生」

 

「いや、身内の問題です。きっちりと責任は取りますよ」

 

「生真面目ねえ」

 

「性分ですから」

 

 

 

そう言いつつISを展開しない辺り、甘いと見るかしっかりしていると見るべきか。隣の人外は特に何も持ってはいない。いや、要らないといった方が正しいか。

 

「とりあえず、初犯ではあるから大目に見ましょうか。IS使ってない、只の喧嘩みたいなものだし」

 

「そういって貰えると助かります」

 

「ただし、あんまりやり過ぎないでね?流石に道場爆破とか洒落にならないから」

 

「善処します」

 

「おいこら」

 

考えておきます、とか言わず『いいえ』とはっきり言いなさいと思いながら、扉を開ける。こら、そこの娘たち『三十路』とか言わない。三十路前よ、まだ。火星に代わって折檻してやろうか。

 

「榊原先生、そこの三人頼みます」

 

「あ、ちょっと」

 

 

 

なんで剣道場なのに、銃声みたいな破裂音が鳴るのよ。そう呆れつつ、後輩の無双振りを評価する。身長170にギリギリ届かない体躯の何処に、あんな膂力があるのか訝しみながら、三人娘を呼ぶ。良かったね貴女達、戦乙女だけだったら貴女達も範囲内に入ってたわよ。

 

「会長が死んだ!」

 

「この人でなし!」

 

「というより、後二人も サックリやられた!」

 

 

 

そりゃそうでしょうよ、と呆れ混じりに呟く。ベレッタ片手に構えつつ、更にもう片方でバレットM82をぶっ放す人間が世界にどれだけ居るのか。

 

昔、『猟犬』時代の自分に喧嘩吹っ掛けて来て、最後の最後まで倒れなかった奴だ。少しばかり、武に心得がある生徒をあしらう等、朝飯前だろうに。

 

「いやそれはおかしい」

 

「今度から三十路じゃなくて、ターミ〇ーターって呼んで良いですか?」

 

「おい、手前らの不義に鉄槌喰らわすぞ。誰だよ、『チョイ悪のレディースならモテますよ』とか言った奴……」

 

後悔したところで、もう戻らない時間。過ぎ去った日々を懐かしみ、嘆き、教師榊原は事態の把握と収拾をこなしつつ、来週の婚活バスツアーの成功を祈るのであった。




バレットM82、重量にして約『13キロや』とは知人談。実際、片手どころか両手で扱うのもしんどいとか。
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