ISげもの   作:マイク横須賀

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今回眼鏡要員初出


貴公子と眼鏡

「整備大変でした」

 

「お疲れ様でした……」

 

放課後、セシリアと別れ興味本位から整備場に向かったところ、水色のツナギを着た眼鏡っ子と遭遇したシャルルさん。最初はお互いにスルーの形を取っておりましたが、眼鏡サンの携帯から聞き覚えのある着信音を聞いてしまい、紆余曲折の末仲良くなりました。新しい友達さっそく出来ました。

 

「『Dickies』は良いものだけど、やっぱり汚れちゃうねぇ。ツナギだから仕方ないけど」

 

「そう……?私的には制服より楽だし、汚れもそれだけ頑張ったって思えるから好きなんだけど……」

 

「うーん、整備士の鏡やね、素晴らしい。『何だ、男か』って言われた時は殴りそうになったけど」

 

「ごめんなさい……」

 

 

 

人には言ってはならないことがある。言ってしまえば最期、戦争になることもあるのだ。六文銭の人や、ピンチにならないと活躍出来ない人も言っていたので間違いないだろう。

 

金髪ブロンドにとって、コンプレックスともいうべき『女らしさ』、中性的だからこそ余計に思われてしまうそれは、彼の内面に大きく影響を及ぼした。まあ、精神崩壊する程重症でもないのであるが、少しは気にしている。

 

「それにしても、『打鉄』の改良型をフルスクラッチしようなんて、なかなか浪漫に溢れた事するね」

 

「パーツ……部品はある程度揃っているから、中途半端に組立られた機体よりランナ……じゃなくて、一から組み立てた方が早いから……」

 

まるでプラモデルを組み立てているように軽く言う眼鏡に、シャルルは軽く驚いた。親の会社が会社なので、時折開発現場を見学することがあったのだ。幾人のメカニックが入れ替わり立ち代わりで作業していたその光景は、子供に『マジキチ』としか教えなかったからだ。

 

時々、その敏腕メカニックを尻目に開発室のマッド共が、やれ「縮退砲」だの、やれ「SEシステム」だの議論していたのでシャルルにとってISの研究開発とは、『正気にては大業成らず』の道を突っ走るようなものと位置づけていた。

 

「……組立自体は先輩と知り合いにヘルプ頼んでるから……デュノア君にも色々教えて貰ったし……」

 

「一応一組なんだけどなー僕、今更だけども」

 

「ISの発展には犠牲が付き物デース……似てる?」

 

「ハハハ、大丈夫大丈夫。似てる似てる」

 

放課後、食堂にストレートに行かず整備場に来て良かったとシャルルは今更ながらに思う。IS学園で、趣味が合う人を探すのは難しいと感じていたから尚更である。

 

(一夏辺り喜びそうだ、主に精神衛生的な面で)

 

今現在進行形で戦場に立っている友人を思いつつ、目の前でひたすらうどんとサンドイッチを喰らう小動物な眼鏡を見つめる。サンドイッチはうどんだけではと、こっちから献上した。少食なのかと思いきや普通に平らげる辺り、趣味に没頭してその他の事を顧みない性質のようだ。

 

(聞いてみたら、作業中は携帯糧食とサプリメント、『美味過ぎる!』しか摂ってないという、偏り過ぎってレベルじゃないし)

 

同室予定の友人ならば、『なんだその貧相な食事は、肉を食え肉を』と叱咤しつつ、焼肉屋に連れていくだろうと予想する。前にお腹がぽっこり出た時にダイエット食を実施したところ、同様に肉を食わされた経緯があったのだ。トレーニング量を増やしてなんとか元に戻ったものの、『はんぺん系』などと言われた時は泣きそうになった。

 

「大丈夫、私胃下垂だから食べてもお肉つかないから」

 

「それ、他の娘の前で言わないでね?絶対に怒られるから」

 

「やっぱりそうだったんだ……アレ」

 

「言うたんか、言ってしまったのか」

 

話しの中で天然か態とか判らない節がところどころあるが、悪い子ではないのだろう。若い士官補生がいたら修正されそうではあるが、半ば八つ当たり気味に。

 

「今度からは整備場行く前に一声かけてよ。流石に一回見ただけでほっぽり出すのは嫌だし」

 

何よりも問題は、組立てる機体と水色の子の腕だ。身内の機体の為に後回しにされたと云う可哀相な『打鉄弐式』。自分の機体の源流も多少入っており、尚且つ量産型の傑作と名高い『打鉄』ベースの全距離形という。

 

カタログスペックを見れば、他の三世代や専用機のような一点突破的な性能は無いものの、汎用性は打鉄やラファールと遜色なく優れており、兵装も荷電粒子砲にナギナタ、極めつけは何それ何処のコーディネーターですかと言いたくなるマルチロックオンシステム。

 

流石に最後のは眼鏡サンが使う機体にしか載せないみたいだ。当たり前といえば当たり前か。普通の人が使えば、頭がパーンとなりそうな演算やら何やら誰がするのか。ISコア?センサーと重力制御諸々一手に引き受けている子にこれ以上無茶は止してください。

 

水色の眼鏡っ子は自らを凡才と思っているようだが、そんなわけはない。プログラムの書き換えを、何台も記憶媒体用いて手早く終わらせる凡才が何処にいるというのか。今はともかく、大学卒業後にはスカウトしたいなと思わせる位滑らかな所作であった。

 

「私より姉さんの方が凄いし……学生の身分で国会代表なんて、そうそういないと思う……」

 

 

「姉さん、か」

 

学園最強の生徒の証、生徒会長。ほぼ女子校だったはずのIS学園で、何故そんなガン〇ムファイトよろしく的な選出になったのだろうか。『学園がリングだ!』とか明らかに狙っている。

 

現生徒会長である更識会長も、戦って闘って最後の一人になるまで残ったのだろうか。そう考えるとIS学園は蠱毒か何かか、リアルファイトする前にもう少し民主的な選出方法を決めろよ。最高の専制政治より最低の民主政治が良いと、偉い人も言ってたでしょうが。

 

「力こそパワー、みたいな?」

 

「日本語がおかしい。力と書いて暴力と呼ぶんだよそれ」

 

暴力は良くない。普段馬鹿やってる悪友にアームロック掛けたり、バスター技喰らわせている自分から目を背けつつ、眼鏡っ子の話しを聞く。

 

「姉さんはね、ホントに凄いの。国会代表も凄いけど、それ以外にも手刀でレアメタル二つにしたり、パスタとタコ食べたいからって砂漠横断やっちゃったり。虚さんとは昔よく喧嘩してたけど、今では同じ生徒会で仲良くやってるし、すっごく人好きな性格で、こっちが羨ましくなるくらいの人なんだ」

 

色々と長く、それ凄いのか?と思うところはあれども、この子なりの姉に対する愛情表現なのだろう。吃ることもなくスラスラと言える辺り、小さい頃からお姉ちゃんの後を追っ掛けている姉フリークを罹っているようだ。処方箋?そんなものないよ。

 

「お姉さんのこと好きなの?」

 

「うん」

 

即答、真性だ。疑う余地ないくらいシスコンだ。一夏も似たようなものだけど、あれは親愛の情だ。こっちのはライクでなくラブではあるまいか。そう思案してしまう程、眼鏡っ子の言は熱かった。

 

二人して、熱く姉に対する物議を醸している内に食堂の閉店時間が来た。ジャ〇コが閉まる時に流れる曲で気がついた。夕暮れがえらく身に染みる。

 

眼鏡っ子と一緒に寮に向かおうとしたが、なにやら学校に忘れ物をしたとのこと。仕方なしと思いつつ、食堂出口で一旦別れた。今度また整備する約束を取り付けて。

 

「いやぁ、学生だから運用をメインに考える娘ばかりかと思いきや、なかなかどうして居るものだね。確か、名前が……」

 

最後、約束とともに教えて貰った眼鏡っ子の名前を再度確認しようと考えにふけようとして、その場に止まる。後ろに同じ道を歩いていたお嬢に気付かずに。

 

「きゃん!?」

 

「うお、びっくりした!……どうしたのセシリア?」

 

どうやらこちらの後頭部に鼻を打ち付けた様だ。顔を抑えつつプルプルと震えており、両目には既に水滴が蓄えられつつある。おそらく反骨に当たったのだろう。

 

「どうしたもこうしたもありませんわ。折角一緒に食事しようと思いましたのに……」

 

そういって、赤くなった鼻ですんすんと愚図るお嬢。待ってくれてたのか、ちょっと悪いことしてもうた。

 

高慢ちきで高飛車なお嬢だが、割と人見知りが激しいのだ。初対面の相手に対して『ヤーバン』とか言ってしまう程激しく、修正しても治らないので匙を投げたのは数年前。

 

そんなプチコミュ症のお嬢が、知らない人と話している知己の場所に乗り込んでいけるだろうか、いやない。あなたと私は友人じゃないけど、私の友人とあなたは友人。そんな感じの空気は読めてしまったのだろう。寂しやがりの癖に。

 

「はいはい。遅くなってゴメンね、一人で食事させてしまったねゴメンゴメン。だから泣き止んで、ね?」

 

「な、泣いてないもんね!目にゴミが入っただけだもんね!」

 

軽く素が出ているのをあやしつつ、週末辺り買い物に行こうかと思いつく。傍の泣き虫にそれを提案したところ、すぐに泣き止んだ。

 

「チョロすぎやろお嬢……」

 

「何か言いまして?」

 

「いや何も」

 

とっぷりと暮れた夕陽を背中に、隣の泣き虫お嬢様と一緒に帰路につく。途中途中で、周囲からお嬢に向けて呪詛めいた視線を感じつつ、涙目の妹分の手を離さず寮に向かうシャルルであった。

 

 

 

更識簪、IS学園最強の呼び声をもつ更識楯無の下の兄弟である。姉と似た水色にセミロングの、やや内側に癖がついている髪型、小動物を想わせる顔立ちと体格。おまけに伊達眼鏡と、それなんてエロゲ?のキャラである。趣味は菓子作りにアニメ観賞、たまにダンス。

 

そんな眼鏡っ子、今はシャルルと食堂で別れ教室にて机を物色していた。目当ての品を見つけたのか、その表情は大層御満悦である。なぜか眼鏡が光る程。

 

「良かった……鞄に入ってなかったから、ここしか思いつかなかったけど……見つかってよかった」

 

そう一人呟き、安堵する。そして、自分の小さな手に収まる大きさの球体を触りながら、無事を確認する。大事な品であるが故に、教室に戻るまで気が落ち着かなかった程だ。

 

「さて、と。日も沈みそうだし、寮に戻らないと……」

 

そこまで言って、言葉を止める。放課後であり部活動もそろそろ終わる時間。そんな時に教室に残っている生徒など、自分みたいに忘れ物を取りに来たか、教室で自習や復習をしている者くらいしかいないはず。

 

かといって、今週は入学初週。ある程度の授業はあれど、入校前に抑えるべき初歩的なところを復習している状況だ。予習はともかく、復習はないだろう。

 

(誰か、居る?でも何でこっちを見ているの?)

 

既に教職員も、何人かは部活の監督に行ったり週直の為、申し継ぎをしている時間だ。教職員なら、こちらを見れば早く寮に戻るよう指示する。しかしそれもなく、こちらをただ見るだけ。

 

(怪しいけど、特に向こうから何をするわけでも無いみたい。なんとなく、くすぐったい)

 

好奇心猫を殺すともいう。あまり危ない事には首を突っ込まないよう、自慢の姉にも釘を刺されている。なら早く帰って仕舞おう。そう決断し、少し足早に寮を目指す。視線はそれ以上追っては来なかった。

 

 

 

早足で帰って来たからか、思いの外早くに寮に着いた。やや足に乳酸が溜まって痛いが、一日寝たら回復するだろうし、問題はない。筋肉が中々つかないのは否めないが。

 

「荷物、届いてるかな?初めての寮生活だから、私物も多めに持って来ちゃったけど……」

 

手入れの行き届いた寮の外観と内装を見つつ、管理人から部屋の鍵を受領する。もう既に相部屋の相手は部屋に居るようだ。怖い人ではありません様にと祈りつつ、部屋までの階段を昇っていく。エレベーターもあるが、運動不足を自覚しているので使わない。

 

足を、生まれたばかりの小鹿みたいにプルプルさせつつ、漸く自分の部屋に着いた。噂では扉はベニヤ板製でよく壊れる等といわれていたが、プライベートルームの入口がそんなに軟な筈がない。

 

 

 

しかして目の前の扉は、某洋館にでもありそうな多少年季の入った、木製のしっかりした重厚な作りだ。その見た目に、思わず後ずさってしまう。何故か、ゾンビやら窓カラスが出て来そうな雰囲気がプンプンしたのだ。

 

(でも、いつまでもドアの前に立ってたら変な目で見られるよね……よし入ろう)

 

寮友がまともであることを願いつつ、ドアを開ける。部屋には、かつて名も知らなかった知り合いがいた。

 

「お帰り、御主人。教室ではあまり話せなかったけど、とりあえず今日からルームメイトよろしく」

 

そういって、何処か不自然な笑顔を見せてクラスメイトの沢渡美月は笑う。何が嬉しいのか、少し目を細めながらこちらを見ている。

 

「うん、こちらこそ改めてよろしく、みっちゃん」

 

「……ちゃん付けは止してくれないか御主人、これでも君より年上なんだ。その、なんだ、気恥ずかしい」

 

「ダメ。じゃあ御主人って呼ぶのやめて」

 

「だが断る。私にとって御主人は御主人なのだ」

 

なんだその謎理論は、と首を傾げつつ互いにどちらからともなく笑った。USA生まれの級友は、既に荷物を出してくれていたみたいだ。インドア派の自分にとって、体育会系の美月の存在は非常に有り難い。

 

「そういえばほんちゃんは?あの子だったら、そろそろ来てる頃だと思ったけど」

 

「ん?着ぐるみならさっき来たぞ。部屋を代われとか寝言を吐かしたから、追い返したが」

 

「嗚呼……なるほど」

 

マナーモードにしていた携帯を見れば、何十件か新着メールと着信が届いていた。主に姉さんと生まれた頃からの幼なじみからだ。

 

メールの表題をチラリと見れば、『お姉ちゃん心配』や『かんちゃん不安じゃない?』とか、酷いモノだと『(相部屋を)ころしてでも うばいとる』といった、相部屋の相手に対しての不満というか、不服申し立てが陳述されていた。

 

 

件のルームメイトはルームメイトで、ドヤッと何が誇らしいのかニヤリと笑っている。ただ単にクラスメイトだからだと思うのだが、そんなことを口に出せば色々とまた煩い事になりそうなので黙っておく。

 

ラブコメを起こしそうな、話題の男子二人は今頃仲良く同部屋で談笑しているのだろうか。折角なら挨拶がてら色々話したいのだが、家からは過度の接触は慎む様に厳命されている。

 

(いいなあ、私も何の気がねも無く趣味を語りたい。何か男と女って違うよねコレって)

 

実際にブロンド貴公子と話してみて、かなり楽しかった。今まで、多少理解はされども共感まではいかなかった趣味であるが故に、話しがワカル人と認識した瞬間に『こやつできる』と類友認定してしまったのだ。

 

(また整備場に来るって約束したし、織斑君も連れてきてくれないかな。そしたら機体の事とか恨んでないよって言えるのに)

 

本当は少しばかりイラッとしたが、『お前を殴らねばアカンのや』というには絶対的に筋肉がなかった。話では貴公子の相棒は筋肉マンらしく、下手をすれば殴ったこっちが怪我すると念を捺された。

 

泣きたくなった。

 

「聞いてるか、御主人?随分と上の空の様だが」

 

「あ、御免。聞いてなかった」

 

「シャワーの時間を決めようと言ったのだが……何なら一緒に入るか?私は気にしないが」

 

「うんそれ無理」

 

年頃の娘が、そんなこと言ってはいけませんと嗜めたら顔を赤くされた。恥ずかしくなるなら、やらなければ良いのに。そう苦笑しつつ、未開封の段ボールを開けパソコンやタブレットを出していく。

 

今日一日は整理で終わるな、と感じつつ更識簪は新居の荷物を出していくのであった。




きれいなリチャードホークこと簪ちゃん。原作では結構華奢なイメージがありますね。肉嫌いとか勿体ない。
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