「アーアーアーアー」
「ドゥビドゥバッバダー」
二人して1025室に入るやいなや、シャルと揃ってはしゃいだ。喜び勇んで歌唄うくらいにご機嫌である。何処からともなく笑い声も聞こえた。
「ビバ念願の寮暮らし、サイコー!」
「ベッドもふかふか、ホテルのスイート並、我が家とは大違いだ!」
「でも帰ったら帰ったで絶対言う!」
「「我が家が一番!」」
打ち合わせをしたかの如く、スキップしながら手を叩き合う二人。でもってお互いにガシッと抱き合って笑う。まごうことなき、友情の証である。
「あぁ、疲れた。箒を介抱するのに時間喰っちまった」
「うん、こっちもセシリア宥めるのに色々と骨折ったさ」
互いに疲れた、大変だと言いつつ顔には笑みが付いたままだ。面倒臭さも愛嬌の内、尚且つ好意を向けられている相手だ。幸せの証明と考えれば何のその、という奴である。
「しかしまあ、お宅無茶するね。千冬姉に眼帯兎と来て、今度は貴族のお嬢様ですか」
「ちょっと待って。確かに僕は千冬さんラブだけど、他の二人に対してはそういうのじゃ」
「うるせー馬鹿!オルコットさんの挙動見てみろ。完璧お前に惚れとるわ!」
「一夏それ言うなよ!言ったら戦争だろうが!」
恋愛事に関しては、ある意味お互い様ではあるが、二人とも感受性豊かな男子高校生である。感情が理性を振り切る事もままある。
「だいたいキミも篠ノ之姉妹に鈴と三股掛けてるじゃないか!まさに『お前がいうな』だよ」
「その言葉、ブーメランになってるって気付いてるお宅?アバラ折るぞ?」
馬鹿な男同士の、馬鹿で阿呆な不毛窮まりない会話である。一夏とシャル、二人とも気は短い方なのでリアルファイトになるまで、そう時間はかからなかった。
「憎しみは憎しみを呼ぶだけだって解れ!」
「あんたが正しいっていうのなら、僕に勝ってみせろ!」
哀れスイートルームは今や戦いのリングに成り果てた。二人は二人で、怪我しない程度にドッグファイトに興じている。
膂力をフルに用いた大技を好む一夏。関節技など、手数の多い小技で相手を翻弄していくシャル。まさに力と技の伯仲であった。
「どうだこんちくしょう、スピニングトゥホールド!」
「させるか馬鹿!屁のつっぱりはいらんですよ!」
「ゲェーッ!?〇ン肉バスター!」
余談であるが、もしこの場に眼鏡っ子こと更識簪が居れば、目を輝かせながら一夏に対し適切なアドバイスをしてくれる名セコンドになったに違いない。たらればであるが。
後に、今回の話を聞き悔しがる眼鏡っ子の事はさておき、ある程度汗をかき落ち着いて来た二人。両者とも『何やってんだ、俺』と急に賢者になり、身体を放した。
冷静に考えれば、制服を脱いで半裸状態の男二人が、文字通りくんずほぐれつやっていた訳である。しかも汗びっしょりかいて、である。
一夏にしてもシャルにしても、程よく引き締まった体幹をしており、シャルに至っては桃色ポッチが透けている状態だ。某髭のバイの人がみれば『コレで発情しない奴は人間じゃない』とのたまうに違いない。
幸いなことに、両名ともノンケであり同性に劣情を催す変態ではない、変態ではないのだ。今現在も二人で吐き気を催している最中である。
「よかった部屋で。廊下でやってたら、絶対勘違いされてた」
「中学ん時、それで鈴にドラゴンラナ食らわされたしな俺」
中学時代の黒歴史満載の過去を思い出しつつ、馬鹿二人絶賛反省中。一応弾や一馬もいたのだが。
弾は弾で何時の日か助けた女性に恋患いをしており、その腑抜けっぷりにキレた妹君に修正され入院中。一馬は眠らない街に行ったかと思えば大阪に行くといって休学しており、事件時はいなかったのだ。
「というより、ここ防音性大丈夫かな。さっきの隣に聴こえてないよね?」
「レオ〇レスかよ。金懸けてそうだし大丈夫だろ、なあ!」
言った直後、壁からドンドンと優しく音が鳴った。良かった、五月蝿いっていわれなくて。隣が親切で安心した、後で菓子折りでも持って行こう。
「ちょ、聞こえてるじゃん!?そして何馬鹿みたいに見当違いの心配してるの一夏?」
「何をいうシャル、近所付き合いは大切なんだぞ?村八分になると回覧板が回って来なくなる」
そういうことじゃねぇ、と妙にプリプリしながら絶叫するシャルに、言ってる意味がわからないと首を傾げるボケの一夏。なんだかんだで良いコンビである。漫才的な意味で。
「ちくしょう、いいや何かもう凄く疲れた。部屋に来る前よりも遥かに」
「ハハッ」
「何が可笑しいの?」
「いや、シャルが初めてウチに来た時を思い出してた。確かあの時もこんな感じだったじゃん?」
「嗚呼、確かに」
もう大分と昔の話だ。両親がいなくなった時、俺はともかく千冬姉はかなり憔悴していた。大きな一軒家に子供二人、どう切り盛りすれば良いか苦悩したに違いなく、当時の姉はキレたナイフの様に怖かった。それはもう、子供心に焼き付く程に。
あのままの生活だったら、二人ともどうなっていたか解らない。何せまともに金を稼ぐ方法も知らないのだ。齢一桁にして、親が居ないという現実の辛さを知った。
そんなとき、一通の電話があった。なんとデュノアと名乗る、さるフランスの起業家から、学資援助と依頼を受けたのだ。
電話を取ったのは俺で、当時の家の暗い雰囲気に堪えられなかった俺は即座に『お願いします、助けてください』と、多少涙声混じりにお願いした。
千冬姉だったら断ったかもしれない、今思うと怪しさ満点の電話だったのだ。その日に帰宅した千冬姉に洗いざらい話し、怒られるのを待った。覚悟の上であった。
独りよがりの餓鬼の、何も考えていない我が儘だと。使えるモノなら何でも使ってやる、苦しんでいる姉を救えないで何が家族か、その一心のみもって自分の姉の眼を見た。
その時はじめて、千冬姉の素のままの顔を見ることが出来た。シャルも何時か見ることがあるかもしれない。俺と同じく、良い意味で馬鹿なシャルルなら、いつかきっと。
そこまで思い、シャルの顔を見る。基本的に男というより中性的、どちらかと言えば女面だ。
名前もどことなく女性らしかったので、つい初対面で『シャルル?なんだ女か』と某かませ犬リーゼントみたいな暴言を吐いてしまい乱闘になったことを思い出し、つい苦笑してしまう。
「どうしたの一夏?変な顔して」
「初対面の時さ、俺お前に酷いこと言っただろ?あの時大喧嘩しててさ、色々終わったと思ってたのよ、俺」
「別に気にしないでも……あ、やっぱり気にしといて。また言われたら殴り合い宇宙になるから」
実際のところ、『シャルルは男の名前だ、何が悪い!僕は男だよ!』と売り言葉に買い言葉、そのまま血の気が多い二人は日が暮れるまで庭で暴れた。
顔合わせの当日、千冬は学校行事の為帰りが遅れてしまい、彼女が帰って来た時には体中青痣で腫れ上がった男子二人が、芝生に大の字で寝ている有様であった。
そして、その後滅多に怒らない姉に叱られつつ、怪我の手当をして貰ったことはおそらく死ぬまで忘れられない思い出だと、二人は共に思い出し、笑う。
「あの時だっけ?シャルが姉さんに惚れたの」
「惚れたっていうより、母さんになって欲しかったんだよ。あの時は」
「マザコン」
「うっさいシスコン」
男はいつまでたってもマザコンとは誰が言ったのか。医学的には、時折小さな児童は異性の親に対し病的なまでに執着することがあるという。
幼い頃に母親と死に別れたシャルルにも、その傾向があったのだろう。まさか自分が『アッチョンブリケ』な18才と同類とは思わないだろう。
「ロリコン大佐の事、もう悪く言えないな、お前」
「歯ァ食い縛れ!そんな一夏、修正してやる!」
「ちょ、おま、理不尽だろうが!」
「うっせうっせバーカ!」
事実を指摘され、逆ギレするシャルル君15才。思春期の特権とはいえ、些かキレやすい若者です。加えて空手などの徒手格闘の使い手。どうみても狂犬です、ありがとうございました。
こうして、馬鹿男子生徒二人のIS学園生活一日目は騒がしくも終わりを告げたのでした。
短くてすみません。