ISげもの   作:マイク横須賀

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アレ、今回飯の話しかしてない。


4組の食事事情

「おかしい……こんなことは許されない」

 

放課後の整備場にて、独り黄昏れながら送られて来たメールを確認し絶望に暮れる眼鏡が居た。

 

更識簪、そのまま詠唱でもして未知の結末を迎えそうな顔をしていた。ぶっちゃけ某コズミック変質者みたいである。

 

『(セシリアの暗黒錬金を止める為)今日は其方行けない。御免』

 

美辞麗句を連ねた文章も、大体端的に纏めればこのようなものだ。まとめて意味があったのか、眼鏡っ子は自問自答したがもうどうでもよかった。

 

彼が来ない。それだけが事実であり、真実なのだ。眼鏡に虚空となりし眼を映して、簪が何を想うか。フリーズしたので、思考もナニモ無いが。

 

「殴る権利を主張しても……イイよね?」

 

「いや、多分駄目だと思うが。主人、頭は大丈夫か」

 

若干脳のネジが緩んだ眼鏡に、穏やかな答えとキツい配慮を掛けるは僚友。沢渡美月はそういってアルミ缶を投げ渡す。

 

簪が取ったのは爽やか炭酸、ライトなスパークリング缶は眼鏡っ子に程良い冷気を伝えてくる。

 

スプライトを一息に飲み透明の微炭酸がもたらす刺激が、眼鏡っ子を現界に呼び戻した。

 

『プハー』と景気の良い声を上げるのはご愛嬌、未成年の喉を潤すは麦でなく清涼感ある甘水だ。

 

「美味しくいただきました」

 

「それは重畳」

 

檸檬味の果糖分を脳に補充したからか、鬱屈していた心持ちの眼鏡に生気を呼び戻した。

 

接吻の味は檸檬でゴゼマスというが、ソースは何処なのか。益体ないことを閃きつつ、頭を正気に戻す。

 

「デュノア君、今日は無理だって」

 

「おやまあ、彼女さんとの付き合いでもあったかな」

 

「彼女って、オルコットさん?」

 

そうそう、とルームメイトは相槌を打ちながら話す。彼女も又聞きであるため細部まではわからなかったが、昨日話していた英国の御令嬢と何かあったらしく、調理場にいるとかどうとか。

 

鰻がどうたらこうたらと聞き今日日高くなったうな丼を想定するが、英国でうな丼など聞いたことが無い。

 

おそらくはゼリーかプディングにするのだろうが、煮こごり上等な見た目は一見さんお断りな料理を作ってどうするのだろうか。

 

「ジェリード・イール、食べたことあるが味はシンプルだったなあ。塩味のゼリーと茹でた鰻がまあまあいけた」

 

「味しないって聞いたことがあるのですがそれは」

 

「ああうん、殆ど薄味だからチリビネガーとか調味料持参したほうがいいかな」

 

「外食行くのに調味料とかもっていかないよ」

 

だよなあ、うんうんと互いに文化圏外の話で盛り上がる。まだ海外に赴いたことのない簪にとって、シャルや元メリケンの美月の話は貴重だった。

 

国毎によって文化は違い、色々と知らない作法や特徴が各々ある。聞けば聞くほどに行きたくなるのは若さ故か性分からか。

 

「一度でいいから、ロスアンゼルスに行って見たいと思うのです。で、本場のネズミの国で遊びたい」

 

「ウェスト・ハリウッド辺りも結構楽しめるがな、ライブハウスとかクラブもあるぞ」

 

「うーん、知り合いがいなかったら行ってもいいかも」

 

日本に帰化したものの、やはりそこはフロンティアスピリッツの持ち主。結構豪快な性格でグラマラスな身体、自分とは正反対の造詣を持つ彼女にはいろんな事を教えて貰った。

 

時折『インディアンの土地は俺の土地、俺の土地も俺の土地』などと過激なことを吐かすこともあるが、そこはジャイアニズムの精神をもつお国柄ということで。

 

ギブミーしたらチョコくれるし。

 

「主人は菓子だけではなくて、ちゃんとした食事も摂ろうよ。まぁたサプリと栄養食で済ませようとしてモー」

 

「なんでや、米国の通販番組で購入した栄養機能食品を馬鹿にするとは」

 

「わかってて言ってるだろう主人、飯で不足する栄養を摂取するのが普通なんだよ。何で全部それで賄おうとするのか」

 

そうぼやきつつも手に持っていたビニール袋から二つ、同じ容器とスプーンを出し広げ始めた僚友。容器にはバターとガーリックの香ばしい匂いを放つ、橙と赤緑が鮮やかな炒めしが入っていた。

 

「わあ、ジャンバラヤ」

 

「自分で作っても良かったが、面倒臭くてな。テイクアウトしてきた」

 

見た目は迫力あるチキンライス、食べると辛いそれは僚友が実家にいた時によく作ってくれた料理だ。某ハワードさんも大好きジャンバラヤ、ソーセージが不味いのは駄目らしいが。

 

初めて食べた時はパエリアかと誤解して食べ、その辛さに仰天したものだ。最近ではコンビニでもよく見かけるが、余り慣れ親しんだ料理でなく食べたことがなかった。

 

彼女は彼女で普通に食べていたので悪戯とかの類と疑う事はなかったが、最初にいって欲しかった。

 

「スパイシー過ぎて、西海岸の人は舌が可笑しいのかと感じたなぁ」

 

「いや、多分私が入ったレストランが激辛マニアの店だったからだと思う」

 

「何でそんなとこ入ったし」

 

「前の部隊の奴らと夜騒いで梯子していたらたまたま見つけた。米とはこんなに辛いモノかと吃驚したぞ」

 

向こうってタイ米使ってなかったかと突っ込みながら、持って帰ってきてもらった食事の封を切る。

 

ルイジアナの料理らしく、何処となくスパニッシュな趣があるジャンバラヤ。唐辛子や香辛料によって炊かれた米、野菜に肉、本場では蛙肉や鰐も入れるという具沢山なケイジャン料理だ。

 

『地元で取れた食材を用いたシンプル』さがウリのそれは米国の家庭で作るのは稀だとか、勿体無い話だと思うがそもそも米国人は日常的に米を食べることはないのだ。

 

日本でも『アメリカの洒落乙なご飯料理』という認識であり、ファミレスで見るのが普通だ。作り方は簡単と彼女はいうが、やはりマイナー感は否めなかった。

 

「あ、人参いらないよ」

 

「少尉か君は。セロリも玉葱もしっかり食え、あと肉も」

 

好き嫌いの多い子ではあるが、言われたらしっかりと食べる眼鏡っ子でもあった。昔から残そうとすれば、『ベトナムの子はこれを食べられない生活をしてるんやで』なんて窘められていたのだ。

 

ベトナムの人が聞けば怒りそうな躾であったが、効果は抜群だった。ただ食わず嫌いなのだ。

 

方やルームメイトの方はなんでも食べる。タコを除いて、であるが。まあ祖国で悪魔扱いされている奴を誰が好き好んで食べようとするだろうか。

 

IS以外に戦闘機にEOS、セキュリトロンと任務で様々な乗物を取扱っていた彼女、たまの休日には部下や同僚と一緒に使い道のあまり無いマネーで浮世の垢を落としていた。主に食事で。

 

「向こうでは何が一番美味しかった?」

 

「ベーコン・エクスプロージョン」

 

「えっ」

 

「ベーコンをベーコンで包んで焼くんだよ。5000カロリー越えの男の料理さ」

 

「冗談……でしょう?」

 

昔、何処かのブログで見たことはあった。『ベーコンは爆発だ!』と名付けられたクレイジーな料理だ。いや、料理のカテゴリに入れていいのかどうかわからない代物だった。マンモス肉も食いそうなメリケン達には、料理なのだろうが。

 

ソーセージとベーコンを刻んで具にし、それをベーコンで巻いて作る豚肉料理。なお、大きさはアメフトボール大、BBQの他オーブンや燻製しても良い。

 

合衆国の方々のバーベキュー好きは凄まじく、気持ちの良い天気の昼はバーベキューしようとする位大好きだとか。

 

改めて僚友はアメリカ人だなあと、眼鏡っ子は感じた。機会があればカンザスシティに行って、『アーサー・ブライアント』で目一杯食べたいと語っていたので相当だ。

 

何故そこまで肉を食おうとするのか、簪にはあまり理解出来なかった。鳥肉以外好まない眼鏡っ子が以前彼女にそれを話したところ、信じられないといった顔で説得された事もあった。

 

彼女曰く、『アメリカの主食は肉、野菜はサイドメニュー』というらしい。おい、穀物どこ行った。

 

ただ、本国の肥満指数はかなり不味いらしく体型維持するために相当苦労するとか。うん、言っては悪いが完全に自業自得ですね。

 

「その割にはみっちゃんデブってないね。何、胃下垂?」

 

「喧嘩売ってる?消費も激しいからだからね、向こうのファットフードは」

 

「貴女みたいにしっかり運動して燃焼させる子女がどれだけいるか……ああ、そういえば一部分だけはちゃんと実ってるね」

 

「イヤーセクハラー、弁護士呼んでー」

 

「逆セクの分、家裁にねじ込もうか?みっちゃん」

 

『ドテ南瓜』、着ぐるみ好きの幼なじみがそう評していた最上位の胸。

 

おっぱいスキーの姉もよく頭をうずめていたので、おそらく素晴らしいモノなのだろう。おいそこ代われと何度思ったことか。

 

「スピード出す時は邪魔になるだけよ、コレ」

 

「はやい おっきい やわらかい。そんな重しがあってたまるものですか」

 

「ちょ、それ会長の」

 

「聞いてないと思ってた?残念、しっかり録音してました」

 

テープ寄越せと、慌てはじめる僚友とわたわた暴れる眼鏡っ子。見る人がいれば『キマシタワー』の現場と見るだろうが、幸いにして入ってくる人はいなかった。

 

「か、簪ちゃん……」

 

「えっ、姉さん?」

 

「うわ、会長出てくんなし!」

 

どうやら入ってた人はいたようだ。しかも身内、IS学園生徒会長様だ。若干涙目になってるが脛でも打ったのだろうか、お気に入りの品を盗られた子供みたいに目が赤くなっていた。

 

「ち、違うのよ……」

 

「え、何が」

 

「わ、私レズじゃないから!ノーマルだから!」

 

最愛の姉は些か錯乱しているようだ。壁に耳あり障子に目あり簪に姉あり、不用意に秘密を言ったばかりに姉はおかしくなっている。

 

『いや、もとからおかしいダロ、あの人』などとルームメイトが呟いた気がしたが、気の所為と断じた。人の姉を何だと思っているのか、後できっちり締めなければならない。

 

「しっかり聞いてるじゃないか」

 

「五月蝿いみっちゃん、いいから手伝って。私一人だと朝まで掛かるから」

 

「ごゆっくり〜、というわけには」

 

「いくわけないでしょうが」

 

一刻程後、烏が夕陽に吼える頃合いになり、整備場から出てきたのは三人の影。一人はニコニコ、一人はやれやれ顔、最後の一人はひと仕事終えたプロの顔をしていたという。




公式アンソロ買いました。つつみ先生、やはり素晴らしいですハイ。
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