ISげもの   作:マイク横須賀

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今回やまや回なのに、なんでこんなん書いたんやろ。


社畜か獄卒か

『それでは行くぞ、形状しがたきもの!』

 

『うわーん!そのクトゥルーっぽい名称だけはやめてくださいー!』

 

IS学園学生寮、そこの宿直室では本日の当番に当たるジャージ、ヤマ先生が居た。

 

普段着はジャージではないが、生徒を管理するのに華美な服装はどうかといわれるので宿直になる日は皆ジャージだ。

 

かの『戦乙女』も例外ではなく、白を基調としたジャージを昨夜着ていた。美人は何着ても絵になるもので、宿直交替の時見惚れてボゥとしていた山田先生は悪くないだろう、おそらく。

 

「通い妻ですかー、良いですねー。相手が気付くかどうか分かりませんが」

 

何故か妙な親近感が湧くテレビの中の住人を見つつ、二十代の女性が言う科白ではない言葉を吐く。

 

学生時代にこんなお隣さんがいたら、ほぼ間違いなく突撃して凸をかまし凹にされていただろう。事実、キリストの生誕祭に嫉妬の炎を燃やしリリーフ千冬に消火された阿呆だった。

 

「でも先輩の格好良い姿見れたので、良かったと言えば良かったですねー」

 

若干歪曲されたおもひでを脳髄に呼び起こしながら、いやんいやんと身をくねらせて乙に浸る回文先生。

 

前から読んでも後から読んでも『やまだまや』、早口で言うと『まだまだや』とか言われそうだ。

 

IS学園一年一組副担任、山田真耶先生。いずれ専用機もちが雲霞の様に新規参入する地雷クラスで、年下に見られることを強いられる御方である。

 

既に『やまぴー』、『まーやん』、『(婚期)絶望先生2号』等好き放題いわれていた。最後のには教育的指導を徹底したが。

 

「だれが榊原先生の再来ですか!まったく失礼しちゃいます」

 

プンスコと行き遅れと詰った生徒に対しての怒り冷めやらぬヤマ先生。聞かれていなかったから良いものの、自分も人に対して割と酷い事を言っているのに頭が回らない状態の様子。

 

言霊は必ず自らに廻り回って還るという、呪詛を知らない世代だ。

 

よく酒場にて『そうですねぇ、先輩より男前な人が現れたらいいかなー、なーんて』とマスターに絡むやまや。

 

マスターは柔かな笑顔で煽てて酔わせてお帰り願うプロで、そこら辺りは心得ていた。失言にも否定せず、ただ首肯し褒めそやす。人間心理の怖いところである。

 

「あ、メール……お母さん、お見合いはまだ嫌だってあれほど……」

 

新着メールには母からの見合いの催促が記述されていた。

 

親心として、我が子に落ち着いて貰いたいという親切心からのものだが、子にとっては煩わしいものでもある。ヤマ先生はすぐ返信のメールを打つ。

 

『お断りします。でも身体には気をつけて、お盆にはそっちに帰ります。お土産は何が良い?』

 

返事は定型文に本心を添えて送った。

 

『悪い奴ではないさ。人のために夜遅くまで、資料やら文献調べて困っている奴に懇切丁寧に教える。特筆すべき能はないが、いなくなったら困る。そんなんだよ、真耶は』

 

某戦乙女先生が嘗て、弟に後輩の人となりを聞かれた時の総評だ。嫉妬マスクになったり、百合を拗らせて先輩にアタックして玉砕したり、先輩そっくりのゴスっ子と遊んで通報されたりする山田先生だが、心まではゲスではなかった。

 

色々拗らせただけの善人、『良い人』なのだ。

 

「でも、良い人止まりなんですよねー。知り合いが学生時代に付き合った人とゴールインしたとか聞くと死にたくなりますし」

 

そういって据え置きの机に向かい、机上に置かれている葉書やらプリント、写真を見る。友人達の『ゴールイン』の招待状に学園主導で行われている社交パーティの案内、そして最近モールにて撮影した一枚。

 

被写体は春うららな表情のやまやともう一人、何処か背格好より幼く感じる雰囲気を醸すゴスロリっ子が多少むくれつつも、満更でもないという顔をして映っていた。

 

「まあ、良い人だったからこそ思いがけない出会いもあった訳でして」

 

撮影した日のことを思い出し、にへらと頬肉を崩す。

 

危うく通報され教職人生が終わりそうになりかけたが、それを差し引いても良い逢瀬であったと感じる。ウンメイノーといっても差し支えなかった。

 

『まどか』、幼子はそう名乗った。親とはぐれたのか双眸に涙を溜め、溢れつつもしっかりと応えた。

 

その時やまやに雷鳴が落ちた、はっきりいってどストライクだった。憧れの先輩を小さくして、子供らしさを前面に押し出した幼子に恋をしたのだ。おまわりさんこっちです。

 

この変態が学生時代、戦乙女の相方として日本の本気を世界に見せつけ、震撼させた『緑の閻魔』と同一人物とは誰が思うだろうか。

 

大人になるのは悲しいことというが、成る程真理だ。『ご覧の有様』な彼女の姿は哀れを越して、むしろ悲壮である。

 

白黒はっきりつけてきた往来の彼女の面影は既になく、居るのは唯一人。

 

幼き眼で自身を見上げ、小さく柔かき右手でもって離れないように手を握る黒髪の年端のいかない子を愛した淑女だ。

 

「ふう……思わずハッスルしてしまいました。いや、まどかちゃんが可愛いのがいけないんですよ」

 

誰に言い訳しているのか、自身の劣情を隠す様にしてキリッと顔を元に戻す。手遅れなどとはいわない、誰も見ていないし見たとしても見なかったことにするだけだ。

 

しかして、世の中往々にして見なかったことにすることが出来ない事象は幾らでもある。

机の横に佇む鞄に入った書類の山々山、持ち帰るのにも苦労した残業の残滓が鞄から『オッスオッス』と挨拶していた。憎たらしい程に分厚いそれらは、やや過剰に自己主張していた。

 

粒子変換やネットワークの性能が爆発的に発達した現在においても、紙媒体は未だ健在であった。

 

授業においても、タブレット端末や投影型ディスプレイは使用されつつも、試験時や重要資料を作成する際は必ずパピルスである。

 

不正や漏洩防止の為とされているが、実際は発達し過ぎた技術に二の足を踏む方々が多かった、ただそれだけである。

 

その傾向はIS学園においても同様で、教育機関であるだけに余計にコンプライアンスの徹底を図られた。

 

別段会社でも何でもないのだが、準公務員という立場に抵触する可能性がある以上、ある程度止む無しといえた。

 

で、長く説明を重ねて何が言いたいか。

 

『やったね先生!パソコンと睨めっこしたり、清書しないといけない仕事が増えたよ!』

 

IS学園といえば、IS全盛期の昨今において銀行、財閥、石油系と同じく就活生が鎬を削る人気の職場である。学園内部は流石に女性限定であるが、各IS関連の事業活動において男女の別はなかった。

 

但し、その他の職種と違いおニューもおニューなので超激務でもあった。その為、離職率も高く関係各所は頭を悩ませた。

 

技術は時として薬にもなるが毒にもなる。運命ですら毒扱いされる世界だ。

 

オーパーツに片足突っ込んだISがよくも悪くも世界を廻したことは確かであるが、それとこれとは又別と言えよう。

 

世界規模でISは運用されているが、それに精通した人間が十数年で激増するわけもなく、IS学園を卒業した者は一定期間、IS関連の事業に従事しなければならないという拘束期間が設けられている位だ。

 

テクノロジーはあっても圧倒的にマンパワーが足りない、それが現状であった。

 

「だからって、この量は多すぎやしませんかねぇ」

 

神は死んだと、何処かで聞いたフレーズを叫び、そして項垂れる。苦労してIS事業に就職して、『なんでIS関連なのに事務仕事ばかりしているのだろうか』とは大半の従事者が考える事だ。

 

ISに乗れない男性諸君はそれでも良かった。乗れる事は無くとも、こういった技術を崇め奉るは浪漫を求める男共だからだ。

 

如才ない一部の男性に至っては、開発や整備士、学会にて論文を発表している程だ。身体的に無茶に耐え得る男達だからこそ出来うる芸当といえよう。

 

では方や女性諸氏に関しては如何だろうか。

 

ほんのちょっとだけフェミニズムが向上した世界といえども、変わったのはISの技術によるもので、女性の方々にはサイボーグも居なければイノベイドもいやしない。

 

女性は子であり娘であり良き隣人であり、そして母である。それは何も変わってはいない。

 

なので、婚活に命をかける学年主任もいれば、盆栽作りが趣味のカナダの独身もいるし、『鬼ババア』と生徒畏怖される教頭先生もいる。

 

『学園の良心』はそれを気遣ってか、よく嫁さんに学園職員と関連企業の交流を深めていこうと話し合っている。

 

ある意味究極の裏方たる御仁の赤心が実るのはいつの日か、答えを知るものはいない。

 

掻い摘んで言うと、IS学園には男手がほぼ無い。いるのは初老の用務員と今年入った男性のIS乗りの二人、合計三人。対戦ゲームで四人プレイが出来ない程しかいないのだ。

 

普通の女子校ならば男性の教職員並びに事務員及び用務員もいるだろう。しかし此処はIS学園、女性しか扱えなかったオーパーツを学ぶ学校だ。

 

思春期の乙女達への配慮が第一と、取り敢えず数年は教職員を同性のみにしておこうと世界のエラい人達は合意、その後なんやかんやあって現在に至る。

 

利権とか丸投げの所為で、色々と有耶無耶になってしまったが。

 

「上の人達はそれでも良いんですよ。だって、自分達が現場で働くことないんですから」

 

その所為で、今もIS学園は文字通り女の園である。教職員は悲鳴を挙げながら激務をこなす。

 

流石に全て自分達で行うのは物理的に無理と悟り、ある程度は『生徒の自主性を重んじる』を建前にして、学生達に委任している。

 

出来る事ならば、モンペ共に付け込まれる隙を出すのは願い下げだが、止む負えず決行したところ上手いこといった。

 

「それでも無くなりはしないんですよねー、雑務というものは」

 

それが勤め人の定めと言ったらそれまでであるが、やれやれと肩を竦めヤマ先生は鞄から書類を取り出す。

 

日にちが替わるまでに終わるかな、と少し諦めた面持ちで本日の残業に乗り出すのであった。




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