ISげもの   作:マイク横須賀

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上手く崩せない(;_;)


義姉と義弟

『お前の恋は何処にある?』

 

普段声にしている自分の音が何処からか聴こえた。口に出したはずの無い声音がどこからともなく。

 

瞼を開ければ、職員寮の天井。ベットの傍にはアナログの時計が、カチコチと定期的に針を動かしている。長い針は真上を、短い針は真下より少し右を指していた。

 

(もう五時か、些か早かったか)

 

早起きにもかかわらず、戦乙女の思考はとても明瞭であった。普段から大体このくらいの時間帯に起きていれば、身体も順応するというもの。

 

三文の得も年々継続すれば大きな物になるのだ、彼女が勤め人になってからの慣習が、それを表していた。

 

(さて、授業の準備は終わったし、かと言って米も炊けている。どうするか)

 

織斑千冬は考える。万事何事も事前に用意して、遺漏の無いよう努める御仁には時間を無為に過ごすという選択肢はなかった。二度寝など以ての外である。

 

学園から貸与されている寮の間取りは六畳一間、一人なら十分な広さの部屋にはベットとクローゼット、机が据え置きで取り付けてある。

 

キッチンと浴室等は完備、家賃もタダみたいなもの。

 

実家に帰るのが中々困難な職員の為に、数年前に建てられた寮であるが何故か満室にはならない。

 

理由として、目出度く寿な退社したり他所の企業にお誘い受けたりしていなくなるのがある。

 

(ISが出来てもこういった処は変わらんのだなあ)

 

既に自分と同じく教師として、IS学園に来る同期は殆どいない。名字が変わり、同窓の飲み会で語らう位だ。

 

教師一年目から激務に次ぐ激務、残業で朝日を見て一日を迎えることがザラだった。自分も何度か辞めてやろうかと、辞表を提出しようとしたこともある。

 

結局、扶養家族を顧みてやめたが。

 

何もやる事が無い、なら散歩にでも行くかと考えつつ着替えようとしたところ、玄関からノックする音が聞こえた。

 

誰だと思いつつ、よく考えたらこの時間に来る奴など一人しかいなかった。

 

「どうした、シャル」

 

ドアの前には、アイロンがしっかり掛かった制服に身を包んだ弟分その二がいた。普段周囲に見せてる雰囲気は雲散霧消しており、居るのは大人しく少々おませな子供だ。

 

手には包みが一つ、昼の弁当だろうとアタリをつけつつ尋ねる。作り過ぎたからというが、それにしては少し量が多くないかと言おうとしたが、黙っておいた。

 

「丁度いい、今から朝飯作るから少し待ってろ」

 

「ホント?」

 

ラッキー、とばかりに喜んでいる弟分を見て、ほんわかした気分になった。

 

最近仕事ばっかりで家に帰ってなかったし、寂しい思いをさせていたのだ。このくらいしてやってもバチは当たらん、と思う。

 

静かにな、と注意しつつ弟分を中に招き入れる。殺風景だね、と溢す弟分に余計なお世話と返しながら、厨房の冷蔵庫を開け食材を確認する。

 

確かにレオパの様な部屋だが、そこまで酷いかと少し不安になった。

 

居間には備え付けの家具と寝具、後は仕事に使う資料に茶道具、木刀。あれ?

 

「確かにないな、コレは」

 

「幾ら寝に帰るだけの部屋とはいえ、これはねえ……」

 

おそらく弟分が寮の部屋に来なかったら、もう暫く部屋様相に気が付かなかっただろう。やれやれだと、自分の無精を嗤う。

 

「テレビもないとか、ホントに仕事漬けだったのね」

 

「いや、置いてあったんだがな。新人の部屋に無かったんで、じゃあ持って行けと」

 

「その新人さん、今は?」

 

「半年して他所に持って行かれた。あ」

 

今度、テレビ移して貰おう。少し間の抜けた戦乙女はそう誓ったという。

 

 

 

 

待つことしばし、金髪の貴公子は感激に打ち震えていた。まあ、好きな人のご飯が食べられるからなんですけどね。

 

本日の朝食、ご飯に味噌汁、具材は大根と人参だ。後は冷奴に生姜と長葱を添え、沢庵と梅干。

 

最後の一品は、今キッチンで千冬さんが焼いていた。香りからして鯖の塩焼きと考察する次第。

 

「一夏にメール送っとこ、『朝ご飯千冬さんとなう』……っと」

 

結構早くに起きた為か、テンションが可笑しいシャルル。昨日の晩、お嬢とマンツーマンで作った弁当を渡す為に無理して早起きしたようで、その口からは欠伸が出っ放しである。

 

相方はまだ学生寮で寝ているというのに、そのことに気付かずにポポポポーンとメールを送信する辺り、かなりハイになっていた。ぶっちゃけプッツンと切れて二度寝しそうなくらいには。

 

「本当に大丈夫かお前。無理せず横になっとけ」

 

「ああ大丈夫です織斑先生僕は寝ていませんええねていませんとも……ぐう」

 

「やれやれだ」

 

呆れる戦乙女の声を子守歌にして意識が遠くに行く。このままヴァルハラに行ってしまおう、んな馬鹿げた事を思いつつ沈んで行った。

 

「ほい、起きろ」

 

「ぶらあ」

 

「お前フランスだろうが」

 

若干まだ眠い頭を起こしつつ、目を開ける。千冬さんが朝食を用意して待っていた。何だ、まだ夢か。

 

「夢ちゃうちゃう、現実やで工藤」

 

「僕とじゃ……イヤ……?」

 

「寝ぼけて言う台詞ではないな。第一、籍はまだ無理だろうが馬鹿」

 

満更でもない返しに頭が急に冷えた。アババ、何という事だ。

 

ドタマにヒゲが来た。朝からジャーンジャーンとかやめて欲しい。

 

小学中学を経て、なお変わらないウィスパーボイスでとんでもない事をいった気がする。いや、千冬さんその後何言ったのリピートアフターミー!

 

「兎に角飯食って落ち着け、それからだ」

 

有無を言わせぬ言葉に渋々従い、朝餉を摂り始める。

 

梅干酸っぱ、ご飯熱っ、しかし美味しい。

 

流石戦乙女、IS以外も万能ですねと茶化しながら味噌汁を啜る。

 

ふん、と苦笑した面持ちで母みたいな姉は、鯖の骨を綺麗に取っていた。相変わらず上手いなあと、その馴れた手付きに感心する。

 

「お前もお前で大概無器用だな、色々出来るのにこういった事は苦手とか」

 

骨取りに悪戦苦闘している此方を見かねてか、千冬さんが渡せとばりに、鯖というにはあまりにも烏滸がましい姿になった塩焼きを取って行った。

 

そして残骸から小骨を一つ一つ丁寧に取って行き、此方に渡して来た。なんだか凄く恥ずかしくなった。

 

「小さい頃はこうしてばかりだったな。懐かしくなった」

 

「言わないで千冬さん。子供の頃の話ですー」

 

「なあに、問題ない。今もさして変わらん」

 

「ぬぬぬ」

 

子供扱いしないでと思ったが、魚の骨も碌に取れない奴に言葉は出せないと感じ、引っ込めた。

 

目の前の母みたいな姉にはやはり敵わない。骨を除去した鯖だった焼物を一口入れながらそう感じた。ああしょっぱい。

 

いつからだろうか、戦乙女を、母代わりだった姉を異性として見るようになったのは。

 

出会った頃は違った。亡き母の面影を見て懐いただけだった。

 

ISが世界に出てきて、箒と一夏が仲良くなって嫉妬して、千冬さんに慰められて、またそれの繰り返し。

 

小さい頃の思い出、まだ十年も過ぎていない筈なのに酷く昔の事のように感じた。

 

(よく泣いてばっかりで千冬さん困らせたっけ、今はそうそう泣けなくなったけど)

 

泣いてばかりいるお嬢に対して割と辛辣なのも、もしかしたら過去の自分と重ねているからかも知れない。

 

母みたいな姉にはよく『泣いてもええんやで』的な慰めをされた。徐々にそのまま泣くのが嫌になって、泣き虫癖は改善された、と思う。

 

(泣く前に強くなろう、そう思って色々頑張ったんだよなあ僕。お母さんに褒めてもらいたいから)

 

我ながら度し難いマザコンだ、いやシスコンかと嘯きながら百面相を作るシャルル。見ていた戦乙女は笑っていた、奇行に奔る我が子を見つめる様に。

 

久方ぶりの二人きりの朝食というのに何処と無く締まらない母と子であった。




9歳の歳の差って、実際どうなんでしょうね?
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