『君はISの為に死ねるか』
ISの基礎課程でこんな事書いてて良いのか、そう思案しながら教科書を捲る元朴念仁。ページには一世を風靡した『白騎士』がデカデカとクローズアップされていた。
見出しには『天からの使者、ホワイトナイト』と、一昨年映画にもなった奴が居た。配役が皆綺麗どころ過ぎて、色々と物議を醸した奴だ。
(というより、白騎士の性能が可笑し過ぎ。いくらなんでも、無限の剣製モドキはねえだろう)
ある程度真相を知る一夏にとって、世に知られている『白騎士』の姿は滑稽にしか映らない。元朴念仁が見た『白騎士』は予想を遥かに越えた機体ではあったが、世界が望む様な万能の機体では無かった。
あくまで兎が初めての機体として作り、姉が育てたIS。『白騎士』はそれ以上でもそれ以下でもなかった。『白騎士はワシが育てた』などと兎がほざいていた事を思い出す。嘘をつくな。
(それをポンと貰っちゃった私、どうしましょうかねホントにモー)
言葉に出せば最後、ありとあらゆる機関等から狙われる羽目になるだろう事実を、戦乙女の弟は唯なんとなしに考えていた。既に数年前からの付き合いであるが故に、もう誰にも渡す気は無いが。
まあ、それはさておき。
「先生、アラスカ条約についてなんですが」
「はい、何でしょうか?」
織斑一夏、ISについて二人の姉に教授を受けていようとも、まだ齢十五。ISによって締結された条約や、各特記事項について全てを網羅している訳ではない。
であるため、細部について山田先生に教えを乞うのに何の躊躇いもなかった。周囲は周囲で知らないこともあるんだなあと、少しばかり驚きの表情を見せていた。
(いや、製作者とかドヤ顔で『知らないわよーん、んな些事』とか言ってたし。あの人に社会の常識とかそんな事を求めてはならないな、やっぱ)
元朴念仁は、スペックが極端すぎる兎のありし日の黒歴史を振り返る。確かに、作ってあったISコアを出して金せしめたら後はドロンと、どっか行った兎に呆れやら憧憬やら抱いたが。
『アイツの行動だけは真似るなよ、いいか、絶対だからな』、そう姉に再三言われ成る程と思ったのは何年前か。
(流石に書き置きに『アバヨ涙』だけとか……ないわー)
何処の宇宙刑事だと笑いそうになったのは秘密。
「軍事利用の禁止について」
「ハハハ、織斑君。世の中にはね、聞いてはならない事もあるんですよ」
「えっ」
教室の空気が突如冷えた。軍部で頑張っている知り合いの独眼兎の立場とか、某A国が他所と共同で開発している機体のフリーダムさを聞きたかったのだが。
条約に曰く、ISの情報開示に共有、研究の為の委員会の設立にISの軍事利用の禁止という。しかしこの条約、本格的に運用する前に日本が兎に貰ったコアやらマニュアルやら、全部世界に放流したが為に強制的な履行が出来なくなってしまった。一応皆守っているといえば守っているが。
『白騎士事件』後、諸外国としては極東の島国から何かヤベェのが出たと戦闘機やらミサイルを引っ張り出したので、既に後に引こうにも引けない状況であったらしい。
そんな時に仮想敵である日本からの望みのブツの差し出し、土下座外交も真っ青である。
某A国も欧州も、北の国から遥々とやって来た社会的な国々もこの行為がどのような意図で行われたのか。結局、最後までわからず仕舞いのまま『白騎士事件』及び『アラスカ条約の一部履行』は終わった、終わってしまった。
(日本としても、世界とドンパッチしたくなかっただろうしなー。いきなり出された某青ダヌキの道具みたいなの、怖くて仕方がないという気持ちも解るわ)
一応、生みの親である兎は『納得いかねえ!』とコメントを残している。ただ、ファンタジーの世界ならともかく此処は現実。リアルに想像の産物を持ち込むのは、その、ちょっと、ねえ。
しかしながらISが現行兵器を圧倒したのも事実、取り敢えず世界はISの解明に乗り出した。結果として、『兵器として使っちゃダメ、というより無理!』という認識が広まった。何故か。
「ISはそもそもどうして作られたか、織斑君は知ってますよね?」
「はい、博士曰く『宇宙に行くため』と」
「ですよねー。最初から戦争のために作られたなら兎も角、開発者の篠ノ之博士はあくまで宇宙空間での活動の為のマルチフォーム・スーツとして設計されました。此処までは皆さんご存じの通り」
そうなのだ、兎博士は何も世界と戦う為にISを開発した訳ではなかった。別の意味で世界に喧嘩を売ったけど。高性能パワードスーツを朝飯前で作るなと、スタークさんじゃないんだから。
「『白騎士事件』によってISの現行兵器に対する優位性は実証されましたが、かといって軍事的に有用かと云われればそうでもないわけで。各部品はまあ置いときまして、コアに関しては博士しか製造方法を知らない訳ですし」
「467個もコアあって尚足りませんか?」
「全然足りませんねー。もしも『白騎士』の様な機体が量産されれば、いえ、結局無理ですね。兵器とするには余りに替えが効かない代物ですし」
そして一番の壁として、武器としての信頼と信用の問題、現行兵器とISにはそこに決定的な違いがあった。
さらに言うならば、そもそも戦争とは政治外交の一手段でしかなく、他の手段がなくなって漸く使用出来るカードである。何故ならば、金の廻りがハンパなくデカイ、他の手段と比較しても圧倒的に。
某米帝様がよくドンパチ仕掛けるのも、国内の不況や不満を解消するためという側面があるが、半ば博打みたいなモノであり、勝ったとしても旨味が無い事が殆どだ。超大国ですら制御出来ない交流方、それが戦争なのだ。
だったら戦争しなけりゃいいじゃん、と思うかも知れないが、各国にもイロイロあるんや。国民食わせる為に他の国に喧嘩売る、それが正義の国もあるのだ。同意は出来ないが。
そんな金食い虫の戦争や軍に全貌がよく解らないISを用いる、軍事関係者は挙って『ノーセンキュー』とお断りメールを送った。
第一、ISが出来て百年も経ってないのだ、ノウハウも技術も一個人頼み。そんなモノに国防を担わせる事は出来ないと、世界はISを褒めこそすれど戦争のシステムに組み込むことはなかった。
よくフェミニズムをこじらせ過ぎた方々が『ISは最強、よってそれを扱える女性はエラい』と仰る事があるが、実際の戦争に使用されない時点で机上の空論である事を彼らは知らない。
(束さんも言ってたっけ、『ISはねー、アレだよアレ。戦国時代におけるゲヒ殿の茶みたいなもんさ』って、徳川幕府になったらゴミに出された奴じゃん!)
何故に兎が自身の傑作にそのような狂い咲きな酷評をしたのか、一夏にはわからなかった。彼が瀬戸焼や茶文化の現代での隆盛を知っていたならば、もしかしたら違った意図を感じ取ったかも知れない。
出来始めの発明や発見は、すぐにその価値を評価されることはまず無い。百年どころか千年経ってやっとという物もある。ISはまだ黎明期も黎明期、始まったばかりだ。
「戦車や戦闘機だけでは戦いは出来ません。ISにしてもそう、燃料は使いますし弾薬も勿論要ります。それに二度の世界大戦以降、開発して改良の繰り返しを何十年もして来た兵器には、しっかりとした歴史の積み重ねもあります」
「ISはまだこれからだと?」
黙って聞いていた箒が山田先生に尋ねた。顔には少しばかり不機嫌です私、と書いてある。まあ、愛憎さだからぬ姉の逸品をダメ出しされれば思うところも在るだろう。
「ええ、篠ノ之さん。少なくとも、ISの真価は私達の世代では見られないかもしれませんね」
「既に国際スポーツの一角として、全世界が注目するようになったのに、ですか」
「ええと、過去モンド・グロッソに携わった一人としての言葉ですが、ISは単なる機械や道具では在りませんよ。だからこそ」
山田先生。戦乙女が副担任の言葉をそう名前で遮った。喋りすぎたか、と教壇に立つヤマ先生も押し黙った。周りから喧騒の音が徐々に鳴り出す。
「諸君、あくまで『IS』は篠ノ之博士の開発・設計した作品だ。製作者の描いた理想を忘れないで貰いたい。ISを世界に出した者として、そして彼女の親友として、それだけは言わせてもらう」
この人、スキルにカリスマ(偽)でも持っているのだろうか。姉の言葉を聞き、悶絶している女生徒達を尻目にゲーム脳な一夏はハハ、と苦笑せざるを得なかった。
(単なる機械ではない、ね。確かに、オイル寄越せなんて自分から言う能動的な奴等が機械であってたまるか)
日本が世界に誇る変態企業、『倉持技研』に預けた相棒はどうしているか。世界の誰よりも感覚的にISを知っている戦乙女の弟は、来週に届く機体との会話を内心心待ちにしていた。
なにも実践に出すだけが戦いではないと思いますがね。国威高揚の為に、スポーツにて威信を示す。IS見ていると、そういう事も出来るんじゃあないかなと。