ISげもの   作:マイク横須賀

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姉妹と一夏

保健室、軽く消毒用アルコールの香りがする部屋に三人。いわずもがな、夏男に天災兎、気絶中の掃除用具である。

 

「紹介が酷すぎる!?」

 

「間違ってはいないところがまた……」

 

「フゴ……モッピー知ってるよ、メインヒロインは私だって……」

 

紫の喪女がわななき、元唐変木が冷静にツッコミ。ヒロイン(笑)は寝ながらボケをかましていた。

 

「まあいいや、食堂で見れなかったからね」

 

「はぁ……」

 

ベッドに箒を寝かせ一段落したところで、直ぐに兎さんはこっちの身体をペタペタと触ってきた。ああイケませんよ束さん、真昼間からこのような。

 

こちらが軽く声を挙げそうになる瞬間、やや冷たいが綺麗で柔らかな彼女の手は止まった。惜しい、もう少しで桃源郷が見えたというのに。

 

「ナハハ、見たければR‐18G指定にしないと」

 

「G指定って時点で、予想外確定じゃないですかヤダー」

 

「やだなぁもう。ちょっと狂気に包まれるだけなのにね」

 

「おいバカやめろ」

 

さらりと怖い事を漏らす兎さん。あっぶねー、合体結合する前に往生するところだった。

 

どこぞの天膳様みたいに復活出来るならともかく、今は無理だ。残念無念と思いつつ、何やら端末をいじくっている束さんを見る。

 

先程までのおちゃらけた様子は何処へやら、まさに天災と呼ぶに相応しい自然災害の如くの傍若無人振りである。

 

あまりのアレっぷりに声を掛けようか迷う。以前、話そうとしたらゴミか何かを見るような目つきで睨まれた事を思いだした。

 

軽く怯えつつもエレクトした苦い思い出だ。あの頃は自分が被虐体質だなんて信じたくなかったが、散々葛藤した結果判明した事がある。

 

「束さん。ちょっとこっち向いて貰ってよかですか?」

 

「……何?」

 

Oh、絶対零度の氷柱もびっくりの視線に釘付けの俺。言外に邪魔するなと苛立ち全開の目力。

 

うん、やっぱ俺マゾだわ。もしくは資本主義の豚でも可。そうだよ、その目なんだよ。俺が求めたのは。

 

「……いっくんのバイタルチェックなんだから、大人しくして貰えると嬉しいなー」

 

「はい、お口チャックして黙ってます」

 

罵倒が来るかと思いきや、上手く窘められた。解ってはいたが、なんかこうもどかしい気持ちが心に募る。

 

アレだ。ボケたのにツッコミされずスルーされた、そんな感じ。

 

やはり姉妹とはいえ、こうも違うものかとグッスリ白昼夢を見ている箒を見遣る。撫子は撫子でも、某機動戦艦の様な奇怪な寝顔をしていた。

 

頼むから、これ以上俺の中の可愛かった幼なじみ像を破壊しないでくれ。無かったことにしたくなるから。

 

「むにゃむにゃ……モッピー知ってるよ。普段見せない顔にこそ、ドキッと来るって……」

 

ああ、ドキドキしてる。悟りでも開いてんじゃないかと思うぐらい、具体的なツッコミをかましてくるお前にな!

 

しかしまあよかった、ここで兎さんと二人っきりだったら終始無言の間だったに違いないと、改めて眠りこけている箒に感謝の念を送る。

 

(ありがとな、箒)

 

(良いってことよ、ワンサマー)

 

(こいつ、直接脳内に……って起きてんじゃねーか!)

 

 

そう念話で問答している内に束さんがちょいちょいと手招きしてきた。すまんモッピー、もう少し狸寝入りしといてくれ。

 

任せろ、とばかりに自信満々な寝顔に後ろ髪を引かれながら、ベッド横の椅子から兎さんが陣取る診察用の机前に行く。

 

「いっくん、束さんの邪魔をしないことは素晴らしい事です。花丸あげちゃいたい位です」

 

「恐悦至極」

 

「しかしながら、束さんの預かり知らぬところで箒ちゃんとイチャイチャする。ギルティ」

 

「な、何の事やら解りまへんで。てんごいわはんな」

 

バレテルー、おもいっきりばれてるよオイ。箒よ、念話は俺達の特権じゃ無かったのか。

 

(ゴメ~ンイッピー。実はこないだ電話してたらバレちった。テヘペロ)

 

煩い黙れ、そして念話時のウザい喋りすんな。

 

「ねえ、聞いてるいっくん?」

 

「はい、聞いてます。ですので、その手に持った触手っぽいナニカをこちらに向けないでください」

 

ふしゅるふしゅると、生理的に嫌な音を立て自分に迫ってくる曲がりくねった蚯蚓を追い払い、束さんと向き合う。

 

やはり、この人邪神とでも契約したのでは、と一考しすぐ荼毘に伏す。邪神そのものだった事を思い出したからだ。

 

「別に箒ちゃんとイチャイチャするのは構いません。束さんも暇さえあれば、ブログ炎上させつつ箒ちゃんとスキンシップしてるからね」

 

「おい犯罪者、ギルティする側が罪重ねてますがな」

 

「だまらっしゃい。不特定多数の匿名掲示板を炊きつけた事など、箒ちゃんペロペロに比ぶれば瑣末瑣末」

 

失礼にも程があるだろうダメ人間。

 

この兎が持つ心の棚は幾つだろうと、柔らか過ぎて軟になっている考えの今孔明の解答に、渇いた笑いしかでない。

 

何で今代の美髯公しかり臥龍しかり、どいつもこいつもアレなのだろうと問うが、誰も応えてくれない。そういえば、俺も箒も知力70代だった。泣きたい。

 

「ちなみに80辺りで秀才、90で天才、95超えたら一周廻って人知の及ばない頭脳の持ち主と。なので私は大天才!」

 

「そっすねー」

 

「理を解さぬ凡愚みたいに棒読み返答しないで。こっちも泣くよ?」

 

どう考えても、乱世にしか使えない頭脳です本当にありがとうございました。いったらいったで、人目を憚らずワンワン絶唱してしまうので口には出さないが。

 

束さんも本家ピンインさん同様、頭は良いハズなのに何故無職なのだろうか。無職だから賢者になるのか、否、ない。

 

「あのね、いっくん。私はISの産みの親。だから世界中から需要があり、結果として雇われ人にはなりえません」

 

「そのニーズを片っ端から蹴飛ばして、挙句の果てにトンズラこいたのはどなたでしたっけ?」

 

「ハハハ、何の事やら。問題をすり替えてはいけませんぞいっくん」

 

現在進行形で、貴女がしてますぞ束さん。おっと、つい口調が感染した。何で論者みたく無駄話しているのか。いや、逸らしたのは他ならぬ自分なのなが。

 

「そうだよ。箒ちゃんとのアレソレを聞いてたのにモー」

 

「かりあげ君みたいに言わんといて下さい。何度も言ってますが、不純異性交遊はしてません」

 

「リア充は信用出来ねぇ」

 

「さいですか」

 

ふむ、軽く妬み僻み入ってますね。流石は24歳独身処女、頭脳と見た目共に完璧なのに口を開けば全て台無しなお方よ。知人全員に『一生黙っといてくれないかな』と言われるだけはある。そこもまた愛嬌あって良いのだが。

 

それを友人に話したら趣味悪と蔑まれたが、生憎とそういった性質なのだ。あばたもえくぼに見えるのだから、もうどうしようもない。

 

なんて思考し、黙っていたらあたふたしてこっちを見る兎さんがいるではないか。姉妹共々こうしたちょっとした仕草はよく似ている。あ、泣きだした。

 

「ふぇ、ぐしゅ、ぶぇ」

 

「あーあーあー、束さん。別に無視とか、シカトしていたわけではなくてですねハイ。少しばかり考え事をしていたわけでして、ああもう!」

 

(イッピー、そういった時は有無を言わさず抱き締めてやるといいのさボーイ)

 

どこからともなく念話が来た。モッピー、お前それで良いのか?え?話が進まない?ごもっとも。

 

タルバと化したモッピーの助言を頼りに、取り敢えず両目を真っ赤に腫らした兎を一羽抱く。これはあくまでハグであり、やましい事はない。おそらく。

 

以前も似たような機会があったが、やはり束さんほんのりと暖かい。それこそ湯たんぽの様に。泣き続けると人体って妙に熱くなるよね、何でだろう。

 

しばらくそんな感じであやしていると、くぅと寝音が一つ。どうやら泣き疲れてお眠りになったようだ。制服は涙で濡れたが、勲章と思えば嫌でもない。

 

「ここまでくると赤子やね。子供のまま大人になった人だから、仕方が無いと云えばいいのか?」

 

「成る程赤子か。確かに、そう言われればしっくりとくるか」

 

「もう起きて大丈夫なのか箒?」

 

「ああ、少しはマシになった。というか、余りに羨ましくなって飛び起きた。こっちにも目覚めのハグplease」

 

「余韻も何もねえな!?」

 

やっぱり姉妹だわ、この二人。似てないのは見た目と表層心理だけで、根っこの部分は同んなじだ。

 

ひとまずハグを中断し、兎さんがチェックし終わった身体記録を確認する。机の上の、何処からか持ち出した端末には事細かにデータが記載されており、少々見るのが怖くなりつつも異常の有無を調べる。

 

「あ、箒のもある。いつ測ったんだろうか」

 

「何でこっちはスリーサイズまで記録されているのか……また大きくなってるし」

 

「そういうの異性の前で呟かないで、性で反応しちゃうから」

 

「ほう、なら直接見るか?お代は身体で払って貰うが」

 

ハニートラップ万歳。しかして、後でトイチ、もしくは倍返しされそうなのでスルーする。半ば強引に、データに付随されていた機体について話を変える。

 

「凄いな束さん。機体に合わせてのフィッティングとかきっちりされてるし、妙な処でマメよね」

 

「ふむ、此方の打鉄に関しては特に何も無しか。マニュアルとかまださっぱりだから、別段構わんが」

 

「慣れよ、慣れ」

 

「そうか、まあそうだな」

 

体育会系に理論や技術は二の次、先ず身体動かしてやってみて失敗して。実際に動かしてみないことには何も始まらないのだ。

 

昔、誘拐にあった際もそれはもう大変だった。ポン刀一本でどないせいと、あの頃は姉の偉大さを思い知ったものだ。

 

姉も近接に関しては他の追随を許さなかったが、データを流し読みしている隣の幼馴染も似たようなもので、前の稽古ではその腕前の向上に冷や汗をかいた。

 

ISは初心者というから、最初の内は戸惑うかもしれないが慣れれば化けると確証はあった。稽古をあのまま続けていれば、負けていたのは此方だったろうから。

 

「一夏、今日は稽古どうする?」

 

「しばらく私闘厳禁っていわれたやん。こないだあれだけやってまだ足りない?」

 

「当たり前だ。それに、まともに打ち合ってくれるのはお前だけだしな」

 

「入部早々、幽霊部員扱いかよ」

 

強いとは必ずしもプラスにはならないようだ。本人も笑ってはいるが、内心辛いだろう。なら、せめて。一拍間を置いて、幼馴染に顔を近付ける。いきなりだったからか、箒はキョどりつつもモジモジとしている。

 

「何というかな、箒」

 

「な、何だ?」

 

「お前はそのままで良いと思うぞ。俺がお前を好きになったのも、その真っ直ぐな心根だから惚れたんだ」

 

「」

 

絶句している、当たり前か。というか俺も恥ずかしいぞ今畜生。竹刀で叩くなり罵声浴びせるなりしてくれ箒。お前の返し如何によって、こっちの精神状態がおかしくなりそうだ。

 

「一夏」

 

「オウ」

 

「来週の試合、私が勝ったらお前の貞操を貰う。褥を糺しておいてくれ」

 

「」

 

一夏は目の前が真っ暗になった!

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