一日の課業が終わり、各々部活や食堂に向かい始めている。金髪男女の専用機持ち二人も例に漏れず、帰り支度の最中であった。
ただいつもと違うとすれば、貴公子の顔が真っ青なのに対し、縦ロールが特徴のお嬢は熟れた林檎の頬を形成していた。
傍から見れば、一夜の過ちでヒットした恋人達の様な雰囲気である。
「一夏のアホー。昼過ぎても顔が見えないから心配していたのに、モッピーと保健室プレイですってよ」
「あら、良いではありませんか。日が落ちる前に睦事とはどうかと考えますが」
「ツッコミ処、そこじゃないよーお嬢。で、何でこっちに擦り寄って来るんですかねぇ……」
「あててますのよ」
お前の息子、ゲフンゲフンと言いたくなる気持ちを辛抱し、唇を無理矢理閉じる。
その仕草が悦に入ったのか、ニッコリと妙にゲスい笑みを浮かべているお嬢の姿に、あの日ではないかと見当を付ける。
昔日にあった、忘れたくとも忘れられない地獄の釜に類する記憶。素養があったのか単なる耳年増か、セシリアは多分に妄想家である。
そんな彼女が、何処からか漏洩した知己の痴情の顛末を曲解すればどうなるか。
結果として、セシリアが一日中こちらをチラ見している。下手を打てば、筆舌に尽くしがたい恥辱を味わうは自明の理。
理性あるHENTAI民族(帰化)として、紳士というガワを被っただけのバーバリアン淑女に屈するは国辱モノ、カナディとスペシャル並だ。
「甘ったるい息、耳元に吹き掛けないでってば。夕方とはいえ、盛んに過ぎますよ」
「あらあら嫌ですわ、前はそちらから」
「シャラップ!誤解を招く発言を撤回して頂きたい!」
野次の名を持つ周りは、既に百合の香しさに酔いしれている。男だと何度も言っているのに何故リリーに持っていこうとするのか。
そう思いつつ、自分の容姿を確認する。確かに、長くなったブロンドを一つに束ねただけの長髪に始まり、男だが女だが分別不能の小柄に若干コンプレックス気味の女面。ああ、役満でしたね。
「毎朝走って、食事でもしっかりと摂生しているハズなのに、どうしてこうも大きくならないのか」
「そ、そうですわね」
「セシリア、目を見て話そう。なっ?」
分かりやすい程、強引に目を逸らしたお嬢を軽くイビる。やれば出来る娘なのに、何故こう普段はポンコツなのか。
餅みたいに柔らかいほっぺを弄び、やや涙目になりかけの彼女に某神父の如く愉悦を得た。俗に謂う小並感だろうか。
「うう、ご無体ですわ。よもや騎士王婦人も、このように良いようにされたのでしょうか……」
「コラコラ、勝手に人を湖の騎士にしないで」
騎士王じゃなくて敢えて寝盗りの方にしやがったよ、この淑女。
言った本人は自分で言って恥ずかしくなったのか、先程よりも紅潮した顔をしている。ナニを想像したのか、不倫が好みか新教者。
エウロパの方々はどうしてこうもアグレッシブな女性が多いのか。猪と事故って亡くなったフィオナの黒子しかり、ロクデもない目に逢うのは言い寄られた男の方なのだが。
「ああ、駄目です。いけません、こんなこと」
「はいストップ。妄想垂れ流しは寮に帰って一人でしてね」
彼女には極力、官能小説の類いは見せない様にしよう。フランス書院とか見せて襲われたらたまったものではない。ただでさえ、チェリー以外の初花は手折られているのに。
いっそのこと、このまま自分の世界に入り浸っているセシリアを放置して、眼鏡サンのいる整備室に向かおうと一考したが、それをすれば後々のフォローが面倒になると鑑み、思考が錯綜する。
どうしようかと悩んでいれば、自分のポケットの端末が振動を添えて便りの通知を知らせてくるではないか。急いでメールを見、テンションが下がる。
因果は廻るというが、今回はこちらに回ってきたようだ。件のメールには、同士簪もお休みすると示されていた。
一夏はともかく、ほっといたらそのまま趣味に没頭しそうな眼鏡の子がお休み。何かあったんではと心配したが、あったらあったらでのほほんさんが居なくなっているだろうと不安を消す。
そうしてメールに少々の返信をし、橙の端末を閉じる。直後、逃げ道が無くなったことに気付く。
ああもう。こうなりゃ仕方ないと半ばヤケになりながら、トリップ中のセシリアの手をとって教室から出る。途中で黄色い歓声が耳に入ったが、やはり慣れない。宝塚のトップスタァとかじゃないんだから。
「……男装の麗人。うっ、頭が」
「正気に戻って」
正真正銘男だってば、と反論し再度自分を見る。別段、特に意識していないのに女性らしく見えてしまうのは生来の性か。以前、満員電車で痴漢されかけた事もあった。しかも女性、目の前の淑女にヤラレたというね。
チンドン電車に乗って窓側に押し込められ、最終痴漢電車よろしく『ご覧の有様』、トラウマが一つ増えました。
他の乗客からは特殊な遊びと間違われ、それとなく距離を置かれる始末。何で皆さんそこまで理解あるんですか……
中身がクマの英国縦ロールを駅員さんに突き出そうとしたが、拳王もびっくりなくらい満ち足りた表情のセシリアを見て、その気も失せた。後でしっかりと報復したけどね!
「やはり顔か、蘭丸とか犬千代扱いされる女面があかんのか」
「お止めになって!壁に頭をぶつけても、どうにもなりませんわ!」
「黙りゃ!僕は男色でも両刀でもない、普通に年上のお姉さんが好きな男子だ!」
「同年代はお嫌いですか?」
「ところ構わずセクハラする女性はちょっと……」
自分が知っているスキンシップとセクシュアルハラスメントは違う、違うのだ。レーゲン愛用者と談話している後方で臀部を触ってきたり、更衣室に突貫してくる事の何がスキンシップだというのか。
一夏や弾、一馬ニキ達の方がそこら辺り弁えていたのを思い出し、何だか悲しくなってきた。
もう少し、嫌味を言ってやろうかとセクハラ魔を見る。縦ロールの萎れ具合から、どうやら落ち込んでいるようだ。言い過ぎたかと感じたが、ある程度諫言しておかないと後々えらい目に遭うので沈黙を続けた。
若干此方に依存の気がある彼女だ。もたれ掛かられすぎて支えきれない事もあるのだから。
何をやっているんですかねえ。