青春してるなぁと、こいつらを見ているとつくづく思う。自分が学生の頃は、オリンピック選手もかくやといわんばかりに諸々に追われていた。
(あの頃に戻りたいかといわれれば、『ノー』ではあるが、それでも、な)
織斑千冬は英雄である。相方に振り回され続けた結果とはいえ、世間は彼女を称えた。
『戦乙女』、世界が注視した『モンド・グロッソ』の初代覇者。
ISと謂う甲冑を身に纏い、携える得物は刀のみ。その出で立ちは『今巴御前』と呼ばれた。
そして世界に挑み、その凡てに勝利を収めた。自らに向かってくる銃弾跳弾を払いのけ、幻の如く相手の意識の埒外に得物を振るう。
その時相手が感じるのは『空』、不意に軽くなる自身に戸惑いつつも、えもいわれぬ高揚感が全体を包み込み、一泊の夢を見る。
彼女と相対した者は須らく、星の蒼さを知る。だからこそ、彼女にはとある異名がついた。
当の本人は全く知らないが。
(まさか引退しても仕事が減らないとは。いやむしろ増えた)
ある意味ISの創設者でもある彼女である、現役を引退してからが本番ともいえた。
ドイツを始めとする欧州連合へのインストラクター活動、国際IS委員会 の設立に扶助、そして現在はIS学園の講師である。
既に委員会や学園からは実質後継者扱いであるが、彼女自身はあまり乗り気ではない。
(自分の行動には責任を負う、負いたいがなぁ)
ISが世界に飛び出て数年、世界は思っていたより早くそれを受け入れた。
現状女性しか扱えないと触れられていても、現段階で二人の男子がISを動かせた。
(アイツが狙ってやったのか、それとも別の要因か。少なくても、何かが動いたのだろう)
女性だけに背負わせる訳にはいかない。自分達にも格好つけさせてくれ。
一夏やシャルルを見ていると、そう言われたかのような錯覚に陥る。
よく『最近女は男より強くなった』といわれるが、元々女は強く、それでいてしたたかな生き物だ。男女問わず、自身がこの世に生を受ける時、それを魂に刻まれる。
だからこそ、女性は子である男を護り、男性は母である女を守るのだろう。
(一夏だったら『つまり男はマザコン、女はファザコンということですね』とか言いそうだ。いや、絶対言うな)
普段はおちゃらけている癖に、いざという時は驚く程真摯に受け止める。
昔は昔で突発性難聴とか言われていたが、今ではそれは演技だったのではないかと感じる。見ていないようでしっかりと見ているし、またそれを忘れない。
(我が弟ながら、女子泣かせに育ったものだ)
誰に似たのだろうか、ふと考える。
私?、いやまずない。私みたいな仕事人間ではないし、かつ相手に対し威圧するような面構えでもない。ご飯も美味しいし、掃除洗濯家事もこだわっている。
(嗚呼、久しぶりに一夏が作った鰤大根が食べたい、それで熱燗一杯)
無論自分でも家事は一通りこなせるし、自炊もしている。呆け兎、養子の面倒を看まくったのだ。不得手な訳がない。
(ただ、やはり自分で作っても何故か味気ない。一夏やシャルのとは何かが違うのだろうか)
織斑千冬は英雄であり天才である。
だからこそ、おおよその余人が知ることがわからない。実際、彼女が作る食事は美味しいし、毎日食べても飽きがこない。食べたことのある幾人かは必ずそう答える。
当代の大天災に至っては、『ちーちゃんがいなかったらIS作る前に餓死してたさっハハッ!』と謎の公式記録を残している。
しかしいくら周りが評価しても、自分で納得出来なければ未熟と断じてしまう。
それが織斑千冬の数少ない弱点であり、愛嬌であった。
(今度また調理法を教えて貰うか。報酬は貰い物の蟹で良いかな)
数人で食べるとすぐ無くなる代物であるが、かといって一人で食べるのも嫌なものだ。とっとと渡して腹に容れて仕舞おう。
そう思案して彼女は家族の下へ向かう。弟が誰に似たのか忘れて。
もし、淫蕩兎が今の千冬の問いを聴いていたら、こう即答するだろう。ゲヒヒと笑いながら。
『そりゃ間違いなくちーちゃんだってばよ。こどもは親の背中を見て育つものじゃないか。という訳で私にも甘えさせてくれたまえ母上様よぅ!』
ここでは千冬さんのイメージは剣豪上泉さんです。よって、
「一夏、敵を撹拌するぞ」
「え?撹拌?撹乱じゃなくて?」
みたいなこと平気でやっちまいます。まぁ『転』出来る時点でお察しですが。